第7回:内容

■はじめに

東北地方太平洋沖地震により被災されたみなさまに、心よりお見舞いを申し上げます。

この地震はわれわれの生活にはもちろん大きな影響を与えていますが、それだけではなく、生態系にも大きな変化をもたらしています。特に津波が襲った沿岸域の生態系においてそれは顕著です。

EINETとしては、今回の地震を生態学の観点から考えることも必要だと考えました。そこで、今回の市民講座では、いま岩手の沿岸の生態系にどのような変化が起きていて、それが我々にどんなふうに影響するのかをお伝えしたいと思います。

まず、北海道大学の仲岡さんに、アマモ場とよばれる海草類が豊富な場所が、どのような役割をしていて、それが震災によってどのように変化したのか、という講演をしていただきます。

次に、生態系に変化があれば、それを利用している我々にも影響がでるわけですので、岩手の水産がどのように影響をうけたのかという話題を、岩手県水産技術センターの煙山さんにしていただきます。

■アマモ場の生物多様性と生態系への役割

仲岡雅裕(なかおか まさひろ) 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター

アマモなど海に生える種子植物を「海草(うみくさ)」と言います。海草は、コンブやワカメなどの海藻(かいそう)よりも、陸上植物に近い仲間です。沿岸海域で海草類がまとまって生えている場所をアマモ場と言います。アマモ場は、生産性が高く、かつ多様な動植物の生息場所となっていることから、沿岸生態系において非常に重要な役割を持っていると考えられています。

三陸沿岸のリアス式海岸湾奥部の砂泥底には、世界最長のタチアマモをはじめとして、スゲアマモ、オオアマモ、アマモなどからなる多様で豊かなアマモ場が広がっていましたが、昨年3月の津波でその多くが消失してしまいました。しかし、昨年10月に大槌湾と船越湾で行った調査では、アマモやタチアマモの実生(種子から発芽した小さな個体)が見られ、アマモ場の回復への期待も広がっています。

■震災と岩手の水産

煙山 彰(けむやま あきら)岩手県水産技術センター

平成23年3月11日の巨大な津波により、岩手県沿岸は甚大な被害を受けました。津波による水産・漁港(水産加工業を除く)の被害額は5,600億円にのぼりました。施設、漁船等については徐々に復興が進んでいますが、資材不足等の影響により遅れている様です。

震災後、漁業の再開には津波による生物への影響を調査する必要がありました。岩手県水産技術センターも1階部分を被災しましたが、2隻の調査船は無事であり、沖合の調査を開始しました。

沖合の調査では、瓦礫が未だにあるものの、魚類、タコ資源に大きな変化は見られませんでした。また、潜水によって調査した極沿岸域のアワビ・ウニに関しては、アワビ稚貝の減少、ウニの減少が確認されました。