第13回:内容

■北米からきた雑草たち

浅井 元朗 (農研機構・東北農業研究センター)

日本には毎年海外から多くの外来植物が入りこみ続けています。畑や牧草地にも帰化アサガオ類、アレチウリ、オオオナモミ、イチビといった外来の雑草が繁茂し、農作物の生育や収穫に害を及ぼす例が増えています。関東地方や東海地方の畑で報告された外来雑草が、数年後には東北地方でも見つかっています。その多くは、北アメリカなどから輸入してきた穀物に種子が紛れ込んで日本に持ち込まれたものです。港に運び込まれた外来雑草が、なぜ、畑や草地に広がって、被害を引き起こしているのでしょうか。そこには私たちの社会のしくみや、農業、農村の変化と大きな関わりがあります。雑草のありさまを見つめることは、人間と自然の関係、くらしを見つめることでもあります。今回は農地にはびこる外来雑草とその背後にある問題、そしてこれからの課題について紹介します。

■ブラックバス、その深刻な影響と、駆除によって回復してきた生態系

藤本 泰文(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)

ブラックバス(オオクチバス)は、日本の淡水生態系にもっとも大きな被害をもたらしている外来種の一つです。宮城県北部に位置する伊豆沼・内沼では、1990年代半ばにオオクチバスが増加したために、多くの魚類が食害によって姿を消し、それを食物としていた魚食性の水鳥も減少しました。そのような中、2004年から市民ボランティアのバス・バスターズによる、オオクチバス駆除活動が始まりました。繁殖力の強いオオクチバスに対し、「人工産卵床」や「稚魚すくい」といったオリジナルの繁殖抑制手法を開発して駆除活動を行ったところ、年々オオクチバスが減少しました。2009年には、オオクチバスによって減少していた魚類も回復し始め、沼に元の生態系が戻りつつあります。最近、電気ショッカーボートという効率的な駆除道具も導入し、オオクチバスの更なる抑制を図っています。

その結果、2014年の時点で、沼のオオクチバスはピーク時のおよそ10分の1まで減少しました。また、回復してきたのは一部の魚介類で、ゼニタナゴなどの希少種はまだ回復していません。私たちは周辺地域のため池を使って希少種などの増殖を図り、沼へ移植する形でこれらの種の回復も目指しているところです。モニタリングを続けながら、このような形でオオクチバスの抑制とさまざまな生物種の復元を通じ、伊豆沼・内沼の自然再生を図っています。

■サキグロタマツメタ、東日本大震災の被災地の干潟でふえる非意図的外来種

木下 今日子(岩手大学三陸復興推進機構)

三陸の沿岸は、東日本大震災にともなう地震、津波、地盤沈下などにより大きな被害を受けました。三陸の干潟に生息していた貝やカニなどの海産無脊椎動物も被害を受け、その種類や個体数は大震災の直後はかなり少なくなりましたが、数年が経った現在では徐々に回復しつつあります。一方、アサリなどの貝を食べる外来種の巻貝・サキグロタマツメタについては、大震災によって絶滅したかと思われたものの、やはりその数も回復してきており、在来種の貝が食害を受けています。

サキグロタマツメタは、アサリの放流とともに東北地方へ持ち込まれた「非意図的(ひいとてき)外来種」です。サキグロタマツメタによるアサリの食害は、大震災の前から知られていましたが、大震災の後も被災地の干潟でアサリなどを食べていることが明らかになってきました。今回の講演では、岩手ではあまり知られていないサキグロタマツメタの生態について紹介します。

「外来種」とは、元々は生息していなかった場所に、人の活動を介して新たに定着した生物のことを指します。外来種は人や在来の生物、そしてこれらをとりまく生態系に悪影響を及ぼすことがあります。いちど増えてしまった外来種を駆除することは、きわめて困難です。しかしそのままにしておくと、人と生物の間にあるネットワークが失われてしまうかもしれません。

今回の市民講座では、東北のさまざまな場所でみられる外来種を紹介します。みなさんの身近にいる外来種について、一緒に考えてみませんか?