第14回:内容

■クマの数を数える

山内 貴義(岩手県環境保健研究センター)

日本には北海道にエゾヒグマUrsus arctos yesoensisが、本州以南にニホンツキノワグマUrsus thibetanus japonicusが生息している。岩手県では森林が存在する場所の多くがクマの生息地となっていることから、森の中で彼らを目にしたことがある方も多いのではないだろうか。クマに関するニュースとして良く聞かれるのが、人への危害や農作物の食害である。被害の発生に伴って有害捕獲が広く実施されており、西日本ではこの捕獲に起因する地域的な個体群の分断化が危惧されている。一方でクマはシカと同様に狩猟の対象獣であり、絶滅させないための保護と、被害を最小限に抑えるための管理が法律のもと実施されている。そのため国や地方自治体では様々なモニタリング調査を継続して行って彼らの生息状況の把握に努めており、その根幹となるのが個体数の推定である。本講演では、まずクマという生き物の独特な生理・生態を紹介する。そして彼らを保護管理するために何故クマの数を数える必要があるのか?を考えてみたい。過去から現在にわたって開発されてきたクマの個体数推定法を俯瞰し、生息動態を把握することの困難さと、それに伴う行政判断の模索を見ていきたい。

■北上するイノシシ、盛岡まで

宇野 壮春 (東北野生動物保護管理センター)

「岩手県でイノシシなんて見たことない」、「野生動物の分布域が拡大している」、なんて話をよく耳にします。確かにイノシシは夜行性に近い行動をしているので、実際に野生個体を見る機会は少ないかもしれません。また、分布域が拡大しているかと言われれば、短い時間軸で考えれば、拡大していると言えるでしょう。普段、皆さんが感じていることは「今」をみれば間違いありません。しかし、たった百数十年前にはイノシシは東北地方の多くの場所に生息していました。もちろん、オオカミやシカもいました。したがって動物側の視点からみれば、時間軸を長くすれば、「イノシシは分布を回復させている」というのが、正しい表現でしょう。では、過去になぜイノシシは東北地方で絶滅したのでしょうか?今、イノシシが分布を回復させる事は悪い事でしょうか?人に及ぼす(与える)影響はどのようなものがあるのでしょうか?実は私たちが普段食べているブタも、元々はイノシシを家畜化した動物なのです。このような事を考えていくと、そこには人と動物の、時代ごとの関わり方があるような気がします。今の時代はどのようにイノシシに関わっていけば良いのか、私たちはその答えを探していかなければなりません。