第11回:内容

■はじめに

我々にとって身近な動物であるツキノワグマ。彼らはいつ・どこから東北地方にやってきたのでしょうか?東北各地の遺跡からは今の東北では見ることができない動物たちの化石が発掘されています。もっと時間をさかのぼると、今我々が住んでいるこの土地にも恐竜が住んでいたことでしょう。

今回の市民講座では、我々人類がまだいなかった東北地方にどんな動物たちが住んでいたのかを覗いてみましょう。

■大型哺乳類の歴史をさぐる-東北に現存する動物たち-

大西 尚樹(森林総合研究所 東北支所)

現在日本に生息している大型哺乳類の多くは、50~30万年前にアジア大陸から日本に渡ってきたと考えられています。この時代は気温が低下する氷期と気温が上昇する間氷期が繰り返し起きていました。近年、地球温暖化により海面が上昇する可能性が指摘されていますが、その逆で気温が下がっていた氷期には海面が低下し、瀬戸内海は陸続きになり、九州も朝鮮半島とつながっていました。動物たちはこの陸橋を通って日本に渡ってきたと考えられています。

広葉樹林に生息域を依存しているツキノワグマは、氷期には広葉樹林が関東周辺まで南下していたと考えられていることから、クマも同様に南下していたと考えられていました。しかし、遺伝子の研究から東北地方でも限られた地域にひっそりと生き残っていて、今東北に生息しているクマはそれらの子孫だと考えられています。

こうした我々と一緒に東北にくらす動物たちの歴史を、最近の遺伝子を使った研究に基づいて紹介します。

■化石で探る氷河時代の動物たち-第四紀哺乳類化石の研究-

河村 善也(愛知教育大学 教育学部

第四紀というのは、地球史の中で最も新しい時代のことで、現在から約260万年前までの時代を指します。私たちが生きている現在も、第四紀に含まれています。ですから、地球史の「現代史」とも言われるこの時代の歴史は、私たちが生きている現在を考える上で、きわめて重要な意味をもっています。

この時代は、地球史の他の時代と比べて、次のような3つの著しい特徴をもっています。それは(1)全体として非常に寒冷な時代、(2)環境激変の時代、(3)われわれ人類が進化・発展した時代という特徴です。(1)の特徴から、この時代は「氷河時代」とも呼ばれます。「氷河時代」の哺乳類の化石は日本各地で見つかっていますが、この時代が現在につながる時代であることから、それらの化石を調べることによって、現在の日本の動物相の成り立ちを明らかにすることができます。

ここでは東北地方をはじめ、日本各地での第四紀哺乳類化石、特に現在に近い第四紀後期の化石研究の最前線を紹介し、そのような研究からわかってきたことをお話したいと思います。また、第四紀の哺乳類で最もよく知られたものにマンモスゾウがありますが、「岩手にマンモスゾウがいたのか?」ということについても考えてみたいと思います。

■久慈で見つかった恐竜たち

平山 廉(早稲田大学 国際教養学部)

岩手県久慈市は、昨年NHKで放映された「あまちゃん」で一躍全国に名を知られるようになりましたが、琥珀(こはく)を多産することで古来より有名でした。琥珀が見つかるのは、久慈層群玉川層(たまがわそう)と呼ばれる今から約8千5百万年前の地層です。この時代は中生代白亜紀という恐竜が生きていた時代の最後に相当します。久慈市の久慈琥珀博物館近くの玉川層からは、2008年に初めて恐竜の化石が見つかりました。鳥盤類と呼ばれる小型(体長2メートルと推定)の植物食恐竜の腰の骨の一部(坐骨)です。2012年からは、早稲田大学のスタッフが中心となって玉川層の集中調査を始めましたが、これまでに500点を超える脊椎動物の骨や歯を採集しています。大半の化石は、当時の川や湖で生活していたカメやワニのものです。変温動物である爬虫類の化石が多いことから、当時の東北地方は現在の赤道付近のように温暖で湿潤な気候であったと考えられます。

玉川層からは、恐竜の化石が20点ほど採集されています。竜脚類(りゅうきゃくるい)という大型恐竜の歯が特に多く、17点が確認されています。最大4センチほどの長さで指のような形をしていますが、全長20メートル前後と推定される巨大な恐竜であったと考えられます。昨年は、肉食恐竜(獣脚類)の足指の骨を記者発表しましたが、体長2メートルほどと推定される小型の動物です。この化石の発見者が青森県の中学生だったことが話題になったのをご記憶の方も多いことと思います。なお今年3月25日から4月1日にかけて久慈市玉川層の第5次集中調査を実施する予定ですので、皆様に最新の成果をご報告できることを楽しみにしております。