分科会6
トランスヘイトへの対応
~考え方と実践~
高井ゆと里
2月3日(土)16:30~18:00
現地会場とオンラインのハイブリッド
手話通訳/日本語字幕/アーカイブあり
手話通訳/日本語字幕/アーカイブあり
内容
昨今苛烈さを増しているトランスジェンダーへのヘイトは当事者や支援者に深刻な影響を与えている。ニュースへの何気ないコメント、当事者へ向けられる「素朴な質問」、あらゆる社会制度を支える区別として突然持ち出される(俗流)”生物学的”性の二元論。どこから対話を始めればいいのか、どうやって自分の精神衛生を守ればいいのか、困っている人が多いのではないだろうか。
この分科会では『トランスジェンダー入門』(集英社新書)などの著者、高井ゆと里さんをお招きし、トランスヘイトという現象をどのように考え、捉え、扱って行けばよいのかをお話し頂く。ヘイトが形成される仕組みなどを構造的に学んだ後は、実際の場面を想定した参加型ワークも実施予定。当事者はもちろん、トランスヘイトが横行する時代に生きる全ての人が心に備えておきたいことに触れられる分科会。
登壇者情報
高井ゆと里(たかい ゆとり)
職業は研究者。専門は倫理学。存在はノンバイナリー。
訳書にショーンフェイ『トランスジェンダー問題』(明石書店2022年)。周司あきらさんとの共著として『トランスジェンダー入門』(集英社2023年)
実行委員の押し!のひとこと
「女装した男が女子トイレとか女風呂に入ってきて女性の安全を脅かす」トランスジェンダーのことを話題にした時にそんな反応が返ってきたらあなたなら、どう返しますか?どこまでどう説明しますか?そもそも、そのような発言が出ないようにする工夫とは?「なぜトランス女性は女子トイレを使いたいの?」一見素朴な質問も、実は素朴ではありません。それが発せられる条件が、今整っているから発せられているのです。ではその条件とは?「こんな恐ろしい未来が待っている!」と煽ってくるヘイトにひっかかるのではなく、冷静に「現在、当事者はこのような具体的困難に置かれている」という観点で「未来」から「現在」に視点を移しましょう。
大学のジェンダー論の講師やLGBTQのゲストスピーカーで、学生や聴衆からのヘイトに晒される人が増えています。そうした人向けに高井さんが行ったワークショップに参加した実行委員塩安は、100人を超える参加数に問題の深刻さを実感しました。SNSだけにとどまらず、本当にトランスへのヘイトがリアルな日常生活に出現してきている今、これは全ての人に聞いてもらいたい、伝播すべき情報だと確信しました。今回は教育者以外の人たちの参加も想定した構成で、高井さんに講義とワークショップをお願いしています。必修科目。全力おすすめ!
報告文
はじめに、トランスヘイト的なコメント・質問等に応対するときに役立つ知識や姿勢などを学び、使えるリソースを知るという、この分科会での目標が示され、安全な場にするための約束事、注意事項も提示されました。まずは、この場の安全です。その後、ヘイト言説の応対時に意識すべきこととして、当事者の存在や、ギャラリーからの視線などヘイターに対してのみ対応するのではなく、客観的にその「場」をどうするか、という視点で対処することが大事であることが説明されました。そして、悪気なく発せられるかのような素朴な疑問(トランス女性はなぜ女子トイレが使いたいの?など)が、差別的偏見や、トランスジェンダーが合理的な思考を持っていないかのような決めつけ、誤解・無理解、知りもしないことに首を突っ込んでもいいという雰囲気などによって、構造的に発せられていることも指摘されました。そうしたからくりを理解することで、ヘイト的な質問等の背景・前提を析出することが可能となります。
更に、ヘイト的言説はいつも「こんな未来が来るのでは?!」という風に煽ってくることについては、冷静に「現在」に時間軸を合わせる対応が適切とのことでした。例えば「現在、トイレはどうなっているのか、トイレでトランスの人たちはどのように困っているのか、困りごとを解決するには社会がどう変わるべきか、その変化は他の人にどんな影響があるか?」このようにヘイトが煽ってくる事柄について順を追って考えるのが有効とのことでした。
また、2つの具体的なケースについて、参加者に自分だったらどう返答するかを問いかけ、リアルタイムで掲示板に投稿してもらうワークを行いました。様々なアイデアがどんどん掲示板にあがってくる様子は、普段ヤフコメなどでヘイトコメントが多くてうんざりする経験の真逆であり、爽快でエンパワーメントされる瞬間でした。
Q&Aも多くの質問があげられ、回答時間が足りないほどでしたが、参加者には学びが多く、希望を感じられる分科会となりました。
また、大会はじめてのハイブリッド分科会のひとつめということで機材トラブルなどもありましたが、大きな中断などなく終えることができました。会場に足を運んでくださった高井さんと参加者の皆さんが対面で交流できたことが主催者として嬉しかったです。
【参加者の感想】
大変貴重な場でした。トランスジェンダーにかんするヘイトや誤解に対応しなくてはいけない場面が普段あるので、役立つヒントがたくさんありました。もっといくつか実践例を聞きたかったです。
実際に自分が遭遇したケースについて考えることができ、なぜ私はあのとき、同意してしまったのかという後悔と共に、次にヘイトに出会ったら、こう答えればいいんだという練習ができました。
とても学びが多く、心が少し軽くなりました。ありがとうございました。
トランスへのヘイト言説が急増した背景についての理解が進むとともに、ステップに分けて考えられるよう説明があったことで、実際にヘイト的な発言があった際にどのように咄嗟に応答・対峙できるかについて考えることができました。大変良い企画をありがとうございました。
私はシスジェンダーの女性です。まだヘイト的な質問を誰かから直接ぶつけられたことはないのですが、「お風呂が~」「トイレが~」と言われたときに具体的にどのように答えればいいのか悩んでいたので、今回の分科会の内容はすごく参考になりました。この分科会に参加していなかったら、私の場合は正面からバトルして人間関係を壊したり、周りの人を傷つけたりしてしまっていたかもしれません。
高井先生、ご講演ありがとうございました。学校法人で事務職員としてアライ研修をしています。研修後、ヘイト的な「素朴な」コメントを耳にすることがあります。多くは「でもトランス女性を偽って女装した男性がトイレに入ってくるのは心配ですよね〜(同意を求めるトーン)」という声で、「ニュースで見た」と言います。トランス女性の存在と性犯罪を混同するような言説ですが、どのように反応すべきか自分の中で言語化したいと思い本日参加させていただきました。講演で学んだ「素朴な」疑問やコメントには差別や誤解、合理性の否定、無理解などの背景があると知り、そこをもう少し勉強していこうと思いました。差別的な言動をする人を私が変えることは難しいことも再認識できました。ヘイトな言動を見聞きした場合、関係性やシチュエーションにも鑑みながら、発言者に気づかせる・リソースを与える、私はヘイトを肯定しないスタンスを必ず示す、などを反射的に実践できるようになりたい思いました。高井先生の書籍も読ませていただきます。
当事者です。高井さんのお話に、大変エンパワーされました。ワークも楽しかったですし、他の方の回答を知ることができて、ためになりました。
こういうシミュレーションをすることで、日常のなかで知人(時に大切な人)から「ぽろっと」出てくる(かもしれない)ヘイト発言、に対するおびえのようなものや不安を、少し解消できたように思います。ありがとうございました。
このようなワークというか、困った発言事例集、のようなものがあれば、アクセスしたいです。
ちょうど1年前くらい、オンラインの講演会で、女性タレントさんがトランス女性がトイレに入ってきたら怖いというような投稿をされて、その後、誤った認識であったと謝罪訂正をされた件について、当事者に言論を封殺されたとファンらしい方から質問の場で言われて真面目に取り合ってしまったことがありました。ゆと里さんのお話とみなさんとのワークで、そういう受け流し方もあるのかと学びになりました。
日頃、実際に困っていたことであり、よく練られた実践的な内容でとてもよかったです。なのでワークショップ、質疑応答の時間が短かったのが少し残念でした。
私の住んでいる環境では、リアルの実生活で会う人たちのほうが、無自覚に悪気なく傷つくようなことを言い、アライなんておらず、まだネット空間のほうがちょっとましだと思うくらいです(ヘイトにも遭うが他の当事者やアライもいるので)。
きょう参加することにもすごく勇気がいりました。勇気を振り絞って参加して本当によかったです。安全が担保されるよう配慮された場所だとすごく感じました。それを実感する経験をできたことだけでも、価値があったと思います。本当にありがとうございました。
非常に有意義で勉強になる時間でした。インターネットでの差別言説に疲れてたら、現実で取引先の人に突然ヘイト的な質問をもらって「こんなんどう対応すればいいんだ…」と途方に暮れていたので、指針というか、どう考えていけばいいのかの光明が見つかって今とてもうれしいです。うれしいというか、少しほっとしたというか。特にワークショップは、「難しすぎる、どうしよう」と考え込んでしまいましたが、勉強になりましたし、自分では思いつかないいろんな答えが出てくることにも少し元気が出ました。とても面白かったです。ありがとうございました。
わかりやすいお話しでとてもよかったです。また、具体的な例をあげてそれに対する答えを考えると言うのがとてもよかったです。当事者やアライとの中で模擬練習をする事で咄嗟の時に言葉が出せるようになるのではないかと思いました。
とても実践的な内容で「私はそうは思いません」とかすぐに実践できると思いました。私はその場で考えてアドリブで対応するのが苦手です。ですからオンラインのイベントを行う際にはグランドルールを設定したり、質問を他の人には見えないようにして取り上げるべきでない意見は取り上げないなどの対応をしがちです。アドリブは難しくても事前にこう対応しようと考えたり、問題のある発言をされると(物理的な意味で)その相手のことしか見えなりがちなので周りを意識して場をもう少しメタで見るように意識したいと思いました。大会に関わっておられるあらゆる方々、素敵なお時間をありがとうございました。
ウッと思うような発言に直面した時どうするかのアイデアを得ることができました。現場にあれだけの人が集まったことを生で感じることができ、1人ではないという実感も得られました。