分科会14
医療従事者を対象とした調査報告
~LGBTQ+である患者の受診を想定して~

日高庸晴(宝塚大学看護学部教授)

2月10日(土) 13:30~15:00

現地会場とオンラインのハイブリッド

手話通訳/日本語字幕/アーカイブあり

内容

パートナーシップ登録制度が普及し、LGBTQ+の存在は顕在化してきたが、いまだ医療機関を受診しにくいと感じている当事者は多い。この分科会は、宝塚大学看護学部教授の日高庸晴さんに、セクシュアリティの多様性についての医療従事者の意識調査について報告をいただき、調査協力機関である宝塚市立病院の取り組みもご紹介いただく。

宝塚市立病院の全職員に対して行ったLGBTQやセクシュアリティに関する意識調査では、当事者が使うであろう単語を知っているかどうかや、「LGBTQ+患者の受け入れに際して不安に思うこと」や「診察場面で困ると思うこと」などについても職種別に尋ねた。これらの結果から、医療従事者の不安や困難感を軽減するために、私たちはどのような研修や情報を提供したら良いのか、具体的なヒントを得ることができる。また、LGBTQ当事者を対象にした全国調査(2022年実施)の結果も盛り込みながら、ご講演いただく予定である。医療現場に求められるシステム改善や環境整備を現場で進めていきたい人に絶賛おすすめの分科会。

登壇者情報

日高 庸晴(ひだか やすはる)

宝塚大学看護学部 教授、日本思春期学会 理事、厚生労働省エイズ動向委員会 委員

京都大学大学院医学研究科で博士号(社会健康医学)取得。カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部エイズ予防研究センター研究員、公益財団法人エイズ予防財団リサーチレジデントなどを経て現職。

法務省企画の人権啓発ビデオの監修や、文部科学省が2016年4月に発表した性的指向と性自認に関する教職員向け資料の作成協力、性的指向や性自認の多様性に関する文部科学省幹部職員研修、法務省国家公務員人権研修、人事院ハラスメント研修などの講師を務める。監修したDVD教材「LGBTsの子どもの命を守る学校の取組 当事者に寄り添うために~教育現場での落とし穴」は文科省特選を受賞、 NHK「ハートネット」「視点・論点」など新聞やテレビなどマスコミ出演多数。

実行委員の推したいポイント!

教育現場に比べるとSOGIESCに関する取り組みの遅れが目立つ、医療関係機関。しかし、近年やっと、LGBTQ当事者による医療機関での研修なども行われていると見聞きしておりまして、私塩安も京都の病院でのLGBTQ対応研修に関わりました。LGBTQのゲストスピーカーの友人らも、医療機関での研修を経験しているということで、徐々に医療者の取り組みがはじまっていて、やっと!という嬉しい気持ちが込み上げます。

私が日高先生にこの分科会をお願いしたのは、「病院 82巻3号」(2023年3月発行)に載っていた特別記事 病院に求められる性的指向と性自認の多様性への取り組み—LGBTQ+である患者の受診を想定してという日高先生の報告を知ったからでした。

宝塚市立病院と連携した調査結果では、「用語を知っている割合」「LGBTQ患者の受け入れの時に不安に思うこと」「これまでの対応経験」「診療現場で困りそうなこと」など、医療従事者の現在の認識を知ることで、どのような働きかけが有効かがわかってきます。

また、長年定期的に実施されている大規模当事者調査(2022)の結果で、あまり報道には出ていない内容についても、実践現場のプレーヤーが多いセクマイ大会参加層向けにご報告いただけます。

医療従事者のみならず、LGBTQ支援に関わる全ての人に取り組みを進めるためのエビデンスを与えてくれる分科会です。是非とも皆さん奮ってご参加ください!

報告文

最初に、性的指向と性自認に関する国の動きということで、2002年から近年までざっと法務省、文科省、内閣府、厚労省などの動向を振り返りました。中でもやはり2015年に文科省が出した「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」の通知は現場が動くきっかけとなり、大きな転機になりました。このような、通知が医療業界にも出されることが必要です。

近年では、日本看護協会の「看護職の倫理網領」(2021)にも、健康を享受する権利は、性別、性的指向、性自認などによって制約を受けることはない、という趣旨が明記されていることも紹介されました。そして、東京都府中青年の家宿泊拒否裁判の有名な、1997年の判決文に立ち戻り、公的機関としてLGBTQについて無関心だったり、知識がないでは済まされないという判決内容から、社会の重要なインフラである医療機関も公的なものであり、LGBTQ当事者への対応は当然取り組むべきものと確認されました。

LGBTQ当事者を対象とした大規模調査の結果も大変興味深い結果をご紹介くださいました。LGBTQと一括りで言っても、それぞれの状況が異なることがわかります。気になるのは、SNSで差別的発言を見聞きしたという割合がここ1年の間で急増している点です。若年層でより顕著で、メンタルヘルスの悪化が懸念されます。また、トランス当事者の病院の受診控えは顕著であり、健康問題として深刻です。

宝塚市立病院の取り組みについて印象的だったのは、職員が、診察券のM/Fの凹凸部分をカッターで綺麗に削って性別表記を消している患者がいることに気づいたことがあったというエピソードです。そこから性別欄なしの新しい診察券のデザインに変えられる仕組みにしたそうです。

同病院の職員を対象にした調査では、例えば、当事者が使う用語(ジェンダーアイデンティティなど)についての認知度が低いため、患者が自分のことを説明しても理解されない可能性があり、最低限の知識を得る研修はやはり全ての医療機関でなされるべきと思いました。

また、厚労省が出しているガイドラインでは、血縁家族以外でも患者のキーパーソンとなれることが示されています。そのことを当事者が知ることが大事です。ただ、個々の病院で対応が異なることが現実です。だからこそ、政府からの通知やガイドラインなどで対応を示すことが求められます。医療業界は組織がピラミッドのような構造であることが多く、なかなか変わらないという見方もあるが、逆にその構造を利用して、トップが意識を変えればスムーズに体制が変わることもあるとのことでした。取り組むという時に、しっかりとこちらから提示できるものが用意できているように、準備が必要だと思いました。

Q&Aでも興味深い質問が多く出ました。現地交流会では日高さんを交えて参加者が意見交換をすることができ、充実した分科会となりました。


【参照サイト】

文科省:性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について(2015)


日本看護協会の看護職の倫理網領(2021)


府中青年家裁判の判決文(1994)

一部抜粋

「都教育委員会を含む行政当局としては、その職務を行うについて、少数者である同性愛者をも視野に入れた、肌理の細かな配慮が必要であり、同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されているものというべきであって、無関心であったり知識がないということは公権力の行使に当たる者として許されないことである。」


厚労省:医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(2017)

一部抜粋P24

「本人から申出がある場合には、治療の実施等に支障を生じない範囲において、現実に患者(利用者)の世話をしている親族及びこれに準ずる者を説明を行う対象に加えたり、説明を行う対象を家族の特定の人に限定するなどの取扱いとすることができる。」


厚労省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン解説編(2018)

一部抜粋P5

「家族等とは、今後、単身世帯が増えることも想定し、本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含みますし、複数人存在することも考えられます」


参加者の感想