それでは今日のアクションの趣旨説明をします。
先週の木曜日、読売新聞から「博士課程の学生支援、生活費支給は『日本人限定』に見直しへ」という見出しで記事がでました。これは文科省が博士課程の大学院生向けに行なっている「次世代研究者挑戦的研究プログラム」通称SPRINGの対象者を「日本人」だけにしようというものです。
これは、明確な差別です。この差別に、私たちは抗議します。
博士課程の大学院生は、表向きは学生なので、のんびり自由に好き勝手に過ごしているというイメージの人もいると思います。しかし実態は、ものすごい競争社会で、ものすごく忙しいです。生活費なんてアルバイトすればと思うかもしれませんが、自活できる額のバイトをしていたら研究時間が少なくなり、本末転倒になってしまうのです。
博士課程が競争社会というのは、学術の理念とは反するのですが、常に誰かと競争し勝ち取っていく、そういう世界です。SPRINGもそうです。SPRINGは自動的にもらえるものではなく、申請して、プレゼンをして、他の院生と競って勝ち残って、初めてもらえるものです。留学生をはじめ日本国籍を持たない人たちも、なんの例外もなく、この競争の中にいます。そもそもSPRINGの規定では、国費留学生や自国から奨学金をもらっている留学生は対象外です。支援が十分に受けられず苦しいのは日本人だとか何人だとか、関係ありません。それなのに、その人たちを排除しようというのです。おかしくないですか?
そもそもSPRINGのベースになっている法律、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」の基本理念を定めた第3条では「多様な人材が主体的かつ積極的にこれらに取り組むことができる環境の整備」を行うこととされています。文科省が多様な人材のための環境整備どころか、その環境を率先して壊してどうするんですか?第13条の「卓越した研究者等の確保」では「海外の地域からの卓越した研究者等の円滑な招へいを不当に阻害する要因の解消」すると書いてあります。文科省自らが阻害要因になってどうするんですか?おかしくないですか?
今日は、こんな差別はおかしいと、一緒に立ち上がってくれた3人の仲間がスピーチしてくれます。
では最初の唐井さん、よろしくお願いします!
みなさんこんばんは。お茶の水女子大学博士課程1年の唐井梓です。
現在のSPRINGにはそもそも課題があるとわたしは思っています。自然科学に力を入れたいわたしの大学では、募集要項で「科学技術・イノベーション」など、望ましい研究領域が暗に示されており、ここには「稼げる研究」のような忖度が働いているようにみえます。そして今回、さらに、今度は国籍要件を設けるという、到底受け入れることのできない排外的な、研究という営みそのものを萎縮させる方針が出てしまったわけです。
研究は、競い合うのではなく、1人では到達することのできない場所に共に向かってゆく、ひたむきな実践です。先人からわたしたちへと連綿と続いてきたバトンです。わたしは、研究というものを、文理や言語を問わずに、他者への想像力、共に生きるためのまばゆい力を持つ営みだと捉えています。研究によりわたしたちの社会にもたらされる何かとは、単なる知識や研究者たちだけが持つ特権のような誤った知のイメージにとどまるものでは決してないはずです。
次のスピーチでも触れられますが、フィードバックをもらう事なしに研究の核が深まることはなく、わたしはいつも先輩方、同期、後輩たちに助けられています。先生方はもちろんわたしたちに教えを授けてくれますが、その先生方こそが大学院という場で一番大事なのは仲間であるとわたしに教えてくれました。
わたしは、学費値上げにくわえ、学術会議法案、教員の雇い止め、SPRINGの改悪と、高等教育の場で必死に抵抗するひとびとを踏み躙り、分断を生じさせようと振り回す、政府と行政の姿勢に、強く、強く、怒りを覚えています。
学生たちはもう限界です。今これを聞いてくださってるひとたちのなかにも、外国籍じゃなくたって、院生じゃなくたって限界だというひとが多くいると思います。それは博士課程の外国籍の学生たちの状況と同じものです。研究は他の職業と同様に専門性が必要で大変なものであり、だからこそ、わたしはそれぞれの境遇の違いを踏まえながら、さまざまなひとを抑圧する根本的な政治に対して連帯していきたいです。
月曜日に、バイトがあってここには来れなかった先輩が「立ち上がってくれてありがとう」と言ってくれた後、帰り道でひとり、わたしたちが振り回され、疲弊させられていることが悔しくて涙が止まりませんでした。わたしはいつも、この場所に来られないひとたちのことを想ってここに立っています。今ここに集まっている皆さん、そして通りすがりの皆さんと、共に生きる他者への想像力と、他者を脅かす国家的な暴力はいつもわたしたちにも向いていることを、共に考えていければと思います。
財務省、文科省、総務省、そして国会議員のひとたち、聞いていますか。研究は仲間がいなくては始まりません。そして、こういった行政、政府のあり方は、日本における植民地主義暴力を忘却させようとする意識と地続きです。パレスチナへの連帯を表明し、今日この場をお貸しいただいたことに感謝します。沖縄やアイヌ、部落問題について、今なお続く暴力が目の前にもあります。日本で、植民地主義の暴力は終わっていません。怒りをパワーに変えましょう。
7月20日には参院選があります。国政において、レイシズムを蔓延らせることを看過し、大学院生の深刻な実態を知ろうともしない候補が当選することをあたし達の手で食い止めましょう。
東京大学に在学しております。佐野と申します。SPRINGの国籍条項について、強く懸念すると同時に、やるせない気持ちになりました。なぜか? それは、私は大学院で常に留学生と共存していたからです。前にいた大学では、ゼミで日本国籍の受講者が私一人だけだったこともありますし、まさにSPRING受給者の他の院生と、研究費で共同利用図書を買ったこともあります。今の東京大学でも、授業に出ると、留学生がいます。皆日本語が母語話者並みに堪能です(私には英仏語を含め、あれほど話せる外国語はありません。)そして私が、向こうの言語文化も弁えず、日本語でアイデンティティや歴史に関する失礼なことを言っても、嫌な顔一つせず、いつも通り日本語で建設的な議論を振って下さいます。そんな顔が幾つも思い浮かびます。非日本国籍者は私の周りにいる、かけがえのない同業者にして同学です。この度、あの方々に国家規模で生活費支給の国籍差別政策を実施すると聞いて、私は同学達の顔が思い浮かび、胸を締め付けられる心地です。このような大事な同業者にして同志を、このように差別する政策が出たことにつき、日本国主権者として慙愧の念に沈みながら、政府の今回の施策に異議を唱えたいと思います。
一橋大学大学院社会学研究科博士課程の梶原と申します。今日は、この行動に参加できない私の後輩からスピーチを預かってきたので代読させていただきます。
一橋大学大学院のものです。人種主義や、植民地主義などに興味を持って歴史を研究しています。私はSPRINGの来年度からの受給に予約採用として決定しております。
受給者の1人として、自分の利用する制度が排外主義やレイシズムに侵食されていくのを見るのは憤りを感じざるをえません。
一橋大学のSPRINGの募集要項にある選考基準には「文理・多分野融合的研究により SDGs・ELSI をはじめとする新たな社会イノベーショ ン課題に挑戦して、博士学位取得後に我が国の科学技術・イノベーションを担い、国際社会を牽引する活躍が見込めること。」とあります。
まず、SDGsには、「質の高い教育をみんなに」や「人や国の不平等」をなくそうという目標が掲げられています。この理念に対し、国籍条項は矛盾しているといえます。
さらに、科学技術やイノベーションのためには多様な視点や感性が必要なはずです。
また、国際社会を牽引するためには、多様な人と共に研究する経験が重要です。
この募集要項の一文だけをみても、国籍を理由にした不平等な奨学金制度をつくることには問題があるといえます。
研究のための資金を限定することは、多様な人々が博士課程に進むことを妨げ、活発な議論やアカデミックな刺激を大学院から奪い去ることになります。
外国籍の学生のみならず、日本国籍の学生にも不利益を生じさせることになるでしょう。
日本の博士課程の入学者は1.5万人しかいません。多くはアルバイトをしながら生活を紡いでいる状況です。
日本の競争力が落ちていく中で、博士課程に進む人の数を増やすのは喫緊の課題ではないのでしょうか?
日本の博士課程に来たい人々の存在自体が貴重な中で、選別をしている余裕があるのでしょうか?
そもそも学問は、国籍、人種、性別、セクシャリティを問わず、人類全体の発展に寄与すべきもののはずです。世界のために、学問はあるはずです。
日本の画期的なイノベーションのため、世界の学問の発展のために、国籍条項の撤廃を強く求めます。
みんなの・SPRING×2
SPRING for everyone×2
文科省・差別するな×2
国籍要件・撤回!×2
支援を・みんなに×2
理由は・いらない×2
院生・つぶすな×2
研究生活・守れ×2
国籍・関係ない×2
すでにともに・生きている×2
みんなの・SPRING×2
SPRING for everyone×2
みなさん、今日は本当にありがとうございました。30分間のアクションということで、ちょっと物足りなさを感じている人も多いのではないでしょうか。
そんなみなさんのために、次回、7月25日に文科省前でのアクション、SPRING for Everyone Protest 2を企画しています!!時間は今のところ夕方か夜ということしか決まってないので、公式SNSをフォローして続報をお待ちください。
この文科省前でのアクションでは、みなさんのご意見を募集しています!配布したプリントにQRコードがあるので、ぜひそこからどんどんご意見をお願いします。当日、私たちが代読させていただきます。
また、カンパも募集しています。いただいたカンパは学費値上げ運動全般に使わせていただきます。よろしくお願いします。
そしてこの後は19時から、毎週水曜日に行われているパレスチナアクションがあります。今回の「日本人」限定方針をめぐっては、中国人留学生が名指しで問題にされました。また、排除される外国籍の人の中には、日本国籍を持たない在日朝鮮人の人たちも含まれています。したがって、今回の動きは現在も続く植民地主義の一環と見ることもできます。植民地主義批判の重要なイシューの一つであるパレスチナアクションと、私たちは連帯したいと思います。お時間が許す方はぜひご参加ください。
最後にひとこと。本当は……差別をするな、排除をするなというときに、こうして説明が必要なことが一番おかしいと思います。差別をするな、に理由なんて必要ない!必要ないよね?排除をするな、に理由なんて必要ない。必要ないよね?ここに集まってくれたみなさん、インスタライブを見てくれてるみなさん、来れなかったけど心を寄せてくれているみなさんで、そんな社会を、差別反対に理由が必要ない社会を、一緒に作っていきましょう!
ありがとうございます。