ルネスタとアモバンの徹底比較
ルネスタはアモバンの改良薬です
ルネスタとアモバンは、非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬です。
非ベンゾジアゼピン系自体が、先に開発されたベンゾジアゼピン系を改良した薬剤で、依存性や耐性の問題が軽減されていますが、特に効果が似ているのが、
ルネスタとアモバンです。
理由は簡単です。
ルネスタは、アモバンの『いいとこ取り』をした、後継者=後継薬だからです。
アモバンの睡眠成分だけを取り出した薬がルネスタです
- アモバン=ゾピクロン
- ルネスタ=エスゾピクロン(Sゾピクロン)
アモバンは苦味の成分である「R体」と睡眠作用がある「S体」の、2つの左右対称な成分『エナンチオマー=鏡像異性体(きょうぞういせいたい)』で作られています。
鏡像異性体は光学異性体とも呼ばれますが、互いに鏡写しになっているような構造の物質で、右手と左手の関係にある物質の組のことを言います。
化学組成や化学構造は同じですが、右手と左手のようにお互いに重ね合わせることが出来ない、鏡に映した関係ですね。
ゾピクロンの場合は、R体とS体と呼ばれます。
鏡像異性体は、左右対称になる成分で構成された物質です。
- アモバンのR体=Rゾピクロン⇒苦み成分が強く、睡眠導入を促進する効果が低い
- アモバンのS体=Sゾピクロン⇒睡眠導入を促進する効果が強い
ルネスタは、アモバンの「R体」を除去して、「S体」だけを抽出した薬です。
ゾピクロン(アモバン)の、S体だけで出来ているので、『Sゾピクロン』なんですね。
ルネスタは『睡眠に特化したアモバン』とも言えます。
「エナンチオマー:Enantiomers」と「ラセミ体」
ラセミ体というのは、エナンチオマー同士が1対1で混ざり合った物質のことをいいます。
上の図で、右の構造式と左の構造式が1対1で混ざり合った物質を想像してください。
アモバンは、ゾピクロンという物質のエナンチオマー同士のラセミ体ということです。
簡単に言うと、
アモバンは、『Sゾピクロン』と『Rゾピクロン』が1対1で混じっている物質です。
ルネスタは、Sゾピクロンだけで出来ていますが、アモバンと構造が同じなのは当然ですよね。
アモバンのS体だけを取り出したのがルネスタです。
ルネスタとアモバンの各種比較
ルネスタとアモバンの大きな違いは、味覚障害の強さと作用時間です。
ルネスタとアモバンの比較①~苦み・味覚障害
アモバンの一番の副作用の”苦み”を改善したのがルネスタです。
アモバンからR体(苦み作用)を取り除いたものがルネスタですから、当然ですね。
アモバンの服用後には、強い苦味(味覚障害)を訴える人が多く、その改善策でルネスタに代えてもらうケースが多くあります。
ルネスタとアモバンの比較②~作用時間の違い
ルネスタとアモバンは、どちらも超短時間型の睡眠薬に分類され、入眠障害に用いられることが多い睡眠薬です。
入眠障害とは、簡単に言えば、『なかなか寝付けない』という、睡眠障害の一種です。
アモバンの作用時間
アモバンは、服用してから10~15分で効果が現れはじめ、約1時間ほどで血中濃度が最高値になり(最高血中濃度到達時間)、最も薬の効果が表れます。
効果が薄まる血中濃度半減期は約3~4時間後です。
ルネスタの作用時間
ルネスタは、服用後、30分程で、眠くなってきます。
最高血中濃度になるのは、約1~1.5時間です。
薬の濃度が半分になる時間(血中濃度半減期)は約5時間後です。
半減期は、薬が効果を発揮している時間の目安になりますが、実際にはそれよりやや短く感じることが多いです。
ルネスタに関しては、実際には、服薬後3~4時間程度が、効果を実感できる時間です。
アモバンとルネスタは、薬の作用には、ほとんど違いが無いのですが、ルネスタの消失半減期(血中濃度半減期)は、アモバンよりも若干長くなっているので、ルネスタの方が、効果が長く続くことになります。
ルネスタが、眠りに入りにくい入眠障害にも、途中で何度も目が覚める中途覚醒にも向いているのは、作用時間がアモバンよりも長いことが理由です。
また、ルネスタは依存性や、翌朝まで薬の持越しも少ないので、旅行先で時差を解消したい場合のような睡眠リズムの調整とか、軽い不眠の解消など、単発的に使われることもあります。
ルネスタとアモバンの比較③~容量と薬価
日本で販売されている、錠剤の容量と薬価は
アモバン
- 7.5mg=21.6円/錠
- 10mg=26円/錠
ルネスタ
- 1mg=51円/錠
- 2mg=80.9円/錠
- 3mg=102.7円/錠
ルネスタとアモバンの比較④~使用量
- アモバンとルネスタは、同じ作用の薬で、強さもほぼ同一である
- アモバンから、睡眠に必要なゾピクロンのS体だけを取り出しているのがルネスタである
- ゾピクロンのS体とR体は1対1の比率で、アモバンに存在している
以上のことを考えると、
アモバンの半分の量のルネスタが、同等の効果になるような気がしますが、
ルネスタ1mgはアモバン5mg、ルネスタ2mgはアモバン7.5mgに相当するとの意見が多いようです。
どちらも基本的には、1日1回1錠の服用として処方されます。
ベンゾジアゼピン剤の等価換算表での比較
ベンゾジアゼピン剤の等価換算表では、ジアゼパム5mgに相当する各薬剤用量を算出していますが、その換算によると、
- エスゾピクロン(ルネスタ)=5mg
- ゾピクロン(アモバン)=7.5mg
ですから
ルネスタ5mgとアモバン7.5mgは、同等の力があるということになります。
ただし、
ルネスタがあるのにアモバンを使う理由は、『苦い薬が好きな人』以外には、見当たりません。
規制区分と薬効分類名の比較
ルネスタとアモバンは、どちらも処方箋医薬品なので、医師の処方箋が無いと購入できません。
つまり、町の薬屋さんでは売っていません。
アモバンは、「第三種向精神薬・習慣性医薬品」に指定されていますが、ルネスタは「習慣性医薬品」のみの指定です。
第三種向精神薬に指定されていると、投与期間の制限(処方日数制限)や個人輸入の禁止、海外持ち出し制限など規制が厳しくなります。
アモバンの、1回あたりの処方日数制限は30日です。
ルネスタとアモバンの作用の違い
睡眠作用に関わる成分が同じですから、違いはありません。
アモバン、ルネスタなどの非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、脳内のGABA受容体と結合し、「GABA:ギャバ(γ-アミノ酪酸)」の働きを強めます。
GABAは脳の興奮を抑え、リラックスさせる働きをする神経伝達物質です。
GABA受容体には、
- ω1受容体(オメガ1じゅようたい)⇒睡眠作用・鎮静作用に関与
- ω2受容体(オメガ2じゅようたい)⇒抗不安作用・筋弛緩作用に関与
がありますが、
非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、ω1受容体にだけ選択的に働きかけるので、抗不安作用や筋弛緩作用は弱くなります。
また、眠りを深くする効果もあり、睡眠の質の改善効果もあります。
ルネスタとアモバンの比較⑤~副作用
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、依存性や筋肉を弛緩させる作用による、ふらつきなどの副作用が問題となります。
ルネスタやアモバンのような、非ベンゾジアゼピン系の場合は、ベンゾジアゼピン系に比べ、依存性を起こしにくく、ふらつきの原因となる筋肉を弛緩させる作用が弱いのが特徴で、転倒の危険がある高齢者にも使用しやすい睡眠薬とされています。
耐性・依存性
アモバンやルネスタなどの非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、耐性・依存性が付きにくいのですが、注意は必要です。
長期間使い続けると、やめる際に依存性や離脱症状といったリスクは高くなります。
ルネスタは、外国での臨床試験において、長期投与でも依存性や耐性の形成は認められなかったとの報告もあり、依存性や耐性が起こるリスクはより少なくなっています。
健忘・持越し
ルネスタ、アモバンのどちらも、超短時間型の睡眠薬のため、翌日への持ち越しはほとんどみられません。
ただし、切れが良い分、健忘などの副作用がたまにみられることがあります。
苦み
ルネスタの場合、アモバンの悪い特徴であった苦味が完全に消失したわけではなく、軽減はされたものの引き続き苦味が残っています。