未知の苦しみとウェルビーイングの確立
大前敦巳
今年も依然としてCovid-19の世界的感染拡大が収束の兆しをみせず、教育現場も未曾有の困難を経験しているところであるが、地方の小規模な本学では実習等も無事進めることができ、多くの方々のご協力をたまわりながら年度末を迎えることができたのは何よりのことだったと思う。新年度から教壇に立つ修了生の皆さんも、本学で学んだ経験をぜひ自信につなげていただけると幸いである。
国際連合では2030年までに持続可能な世界を築く17の目標を設定したSDGsが行動を加速させているところであるが、それに呼応して知識基盤経済を推進する国際機関のOECDでも、同年に世界的なウェルビーイングを確立するための「学びの羅針盤(learning compass 2030)」を提示している。ウェルビーイングは、PISA2015報告書(国立教育政策研究所, 2017)で「生徒が幸福で充実した人生を送るために必要な、心理的、認知的、社会的、身体的な働き(functioning)と潜在能力(capabilities)」と定義される。そのために必要な知識・スキル・態度・価値を学び、「新たな価値を創造する力」「責任ある行動をとる力」「対立やジレンマに対処する力」となるコンピテンシー(資質・能力)を習得し、学習者が見通し・行動・振り返りのサイクルを通じて反復的な学習を企てることで、個人と社会の双方におけるウェルビーイングが確立されていくと想定される。わが国の新学習指導要領の内容にも、まさに対応する内容となっている。
これらの世界共通の目標を達成する2030年まで、あと8年しか残されていない。スローガンやファッションではなく、具体的な行動計画を国境を超えて議論・策定・実践していくことが肝心である。そのような大きな視野をもちながら、身近な課題解決に取り組んでいくことが求められ、そこに大学での学びが貢献していくことが期待される。今年の院生協議会も、地味ではあったがどこまでも学生の自主的な活動をもとに、研修会を開催したり、「鞦韆」のオンライン化を企てたり、予算のあり方を工夫したりしてきた。スポーツ大会は残念ながら中止になったが、感染状況を考えれば賢明な判断だったと思う。新しい企画を考案・提案し、学生や関係者の間で議論・調整し、合意を得て実行に移すまで、大変でつらい思いもたくさんあったに違いない。そうした未知の苦しみに向き合うことで、ウェルビーイングの基礎が作られる(字義に反し安らかな状態からは生まれない)のであり、これからも豊富な経験を積み上げていくことを期待したい。