3月で修了される皆さん,ご修了おめでとうございます。
楽しい学生生活でしたでしょうか。この2年間は,新型コロナウイルスに振り回された2年間でしたので,さまざまな事情でつらい思いで過ごされた方もいらっしゃると思います。免許取得プログラムを利用して3年間在籍していた方々は,その前の平穏な1年間の大学院生活を体験しているだけに,とくにつらい2年間と感じたのではないでしょうか。
授業がオンラインになったり,大学に入構できない期間があったり,県外に移動した際には2週間もの健康観察期間が設定されたり,学校現場に出かける教育実習や学校実習も制限されたりと,皆さんの学修や研究に影響しかねないさまざまな困難がありました。
しかし,そうした中で,学修と研究を続け,晴れて教育関係に職を得て,巣立っていく皆さんにエールを送りたいと思います。
今,日本社会は大きな変化の只中にあると私は思っています。日本は,経済的には,低成長の成熟社会に突入したかのように見えます。高度成長期のような経済発展はもはや望むべくもなく,低成長の中で社会を安定させなければなりません。
少子化の問題もあります。人口増につながるような政策が望まれますが,しかし,国全体,世界全体が豊かになっていくというような夢を抱きにくい現状においては,それもなかなか難しいことでしょう。
脱炭素社会という言葉もあります。今までのように,石油や石炭を消費しつくすようなエネルギー利用はできなくなってきています。石油・石炭の消費を減らすために,安全性の高い小型原子炉の開発を行っている国もあります。
今後も大きく変化していくと思われるのは,デジタル・トランスフォーメーション(DX)でしょう。国の組織も民間企業も,デジタルの実装化という方向への変革が求められているのです。
こうしたことを受けて,教育界も大きな変革のときを迎えています。小中学校・高校でも,教育の目的が知識伝達から能力開発へと変化し始めていますし,ICT教育やプログラミング教育の導入など,来るべきスマート社会に向けてのDX化が進んでいます。また,指導法自体もすでにアクティブ・ラーニングになっています。
大学も,そうした流れの中にあって,組織改革が求められています。本学大学院も,次年度からは,心理臨床を除いて,すべてのコース分野領域が教職大学院に移行することになりました。より現場実践に近い形で教育・研究に取り組むということになったのです。ここにも社会実装ということが求められているという言い方もできるかもしれません。
小中学校でも,高校でも,大学でも,もはや,知識の切り売りのような教育ではだめで,社会で活用可能な形で能力として学習者が身に付けなければならないと考えられているのです。OECDが出している「学びのコンパス2030」では,そうした学習者の主体性を表現する用語としてエージェンシーという語が使われています。教師は,子どもに主体性を発揮させて,子ども自身が能力開発のできるような,そうした教育を行わなければならないのです。
こうした教師の役割は,おそらく,一方的な講義型授業をするよりもかなり難しい作業だと私は思います。
教師としての学びは,本来,ここで完了ということにはならない作業だと思います。人生100年時代です。皆さんの人生はまだまだ続きます。今後も,ときには大学を訪ねて,研修を受けるということがあってもよいのではないでしょうか。本学は,そうした修了生の皆さんを支援する体制を作っていきたいと思います。