The Hayata Lab, Tokyo University of Science

In search of basic principles of cells and genes to contribute to development of novel therapeutic drugs

骨で活躍する細胞たち

カルシウムは,生物にとってとても大切なミネラルです。生物の進化の過程で,生物が海から陸へ進出するときに,骨はカルシウムなどのミネラルをためておく器官として大変役に立ちました。魚は,周りに塩分が豊富にあるので,問題ないですが,陸上の生物は,いつでも自由にカルシウムを摂取することはできません。ですので,骨は,体を支える器官という役割を超えて,足りないときはカルシウムを放出し,たくさんあるときには貯めておくという機能を備えるようになりました。哺乳類に限ったことですが,わかりやすい例としては,お母さんが赤ちゃんに授乳している期間があります。お母さんは,どんどん成長していく赤ちゃんに十分な量のカルシウムを供給するために、骨では破骨細胞による骨吸収が促進されて、自分の骨を犠牲にして,カルシウムをミルクに動員することが知られています。マウスは,授乳2週間で30%もの骨を失ってしまうそうです。

  骨は,破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成のバランスによって,保たれています。このバランスが崩れてしまうと,骨が減ってしまい,骨粗しょう症などの病気が発症し,骨折しやすくなってしまいます。2005年の研究で,日本では,骨粗しょう症の患者数は1280万人いると推定されており,高齢者の生活の質を著しく損なう病気の一つになっています。骨粗しょう症の治療薬は,骨代謝の分子メカニズムを活用することで開発され,患者さんの元に届けられてきました。骨代謝の分子メカニズムを明らかにしていくことは,学術の発展への貢献にとどまらず,実用的な意義があるといえるでしょう。

高齢者がかかる骨粗しょう症以外にも,骨の病気には,驚くほど多くの種類があります。例えば,遺伝的要因で発症する骨の病気は771種類に分類され, 552遺伝子の変異が同定されています(Am J Med Genet A. 2023)。これらの病気のほとんどは,根本的な治療法がりません。また,骨関節関連の我が国の指定難病には,骨・関節系疾患が12種類,代謝系疾患が1種類(大理石骨病)あります。

病気というのは,正常状態の裏返しです。私たちは,正常な生理機能に必須となる遺伝子や細胞の機能を解明することが,病気の根本的な治療法につながると考えています。遺伝子改変動物などを用いることで,未知の病態を解析し,そして,分子メカニズムを解明することで,病気の中でも希少・難治性疾患の治療の方向性を示すことができればと,日々研究に取り組んでいます。

マウス膝関節のX線写真

上の骨が大腿骨,下の骨が脛骨。細い腓骨が脛骨と重なって見えています。骨の内部のスポンジ状の筋(海綿骨)が見えます。早田撮影。

マウス(新生仔)の橈骨のTRAP染色組織標本

赤く染色された細胞が破骨細胞。骨の表面にくっついて,骨を溶かしています。早田撮影)。

 骨芽細胞と破骨細胞

骨を作る骨芽細胞様細胞株MC3T3-E1。

細胞内に、蜘蛛の巣のように細胞骨格が張り巡らされています。

細胞骨格F-アクチンをAlexa 488-Phalloidin(緑)染色した。核はDAPI(青)で染色しました。Leica TCS Sp8 Confocal Microscopeで画像取得しました。早田撮影。

骨を溶かす破骨細胞。

マウスマクロファージ細胞株RAW264.7細胞を破骨細胞分化誘導因子RANKLで処理し、多核の破骨細胞を誘導しました。一つの細胞の中に、複数の核(青)が存在しているのがわかります。破骨細胞の縁に沿って、アクチンリングが形成されています。早田撮影。

TRAP染色(赤)を施した破骨細胞。

TRAP(酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ)は、破骨細胞由来の酵素で、血清マーカーとして骨粗鬆症の検査にも用いられます。破骨細胞は、左図と同様の条件で分化誘導しました。早田撮影。

骨と臓器の相関図

骨は,体を支えるという物理的な役割だけではなく,様々な臓器と密接に連携しています。

補足:マウスのオステオカルシンの機能については,様々な研究者から異論が報告されています。

腎臓で活躍する細胞たち

血液から原尿を作り出す腎小体とその周囲に存在する尿細管

ネフロンとは,腎小体とそれに続く尿細管によって構成される機能的単位のことをいい,人間では,1個の腎臓に約100万個存在しています。腎小体の内部にある毬(まり)状の糸球体内部には毛細血管が入り込み,血液から老廃物を含む原尿が生成されます。原尿は尿細管へ輸送され,必要な栄養素やミネラル,水分などが再吸収されて,最終的には膀胱へ輸送され,尿として排泄されます。原尿は一日に150リットル生成されますが,実際の尿の量は1.5リットルなので,99%は体に再吸収されます。腎臓の尿生成は,様々なホルモンにより高度に制御されています。腎臓の機能が一度失われると,なかなか回復することは難しく,人工透析治療や腎臓移植が必要になってきます。ヒト腎臓の組織標本(ヘマトキシリン・エオシン染色)(早田 撮影)

腎臓オルガノイド

末期腎不全の患者さんの治療法として,腎臓を移植する治療があります。腎臓を提供する人あっての腎移植ですし,適合の問題も有り,誰でもすぐに腎移植を受けられるわけではありません。それでは,人工的に腎臓をつくって移植することはできるでしょうか?そのためには,まず,どのように腎臓ができあがるか?その成り立ちを深く知る必要があります。そこで,多くの研究者たちが,腎臓発生学を研究し,その知見を駆使して,胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って,試験管内でミニ腎臓(腎臓オルガノイド)を創ることに挑戦しています。下の図は,理化学研究所iPS細胞高次特性解析開発チームに留学中の大学院生の荒井優が,ヒトiPS細胞から,既存の方法から独自に改良を加えた方法で作製した腎臓オルガノイドです。腎臓オルガノイドを末期腎不全の患者さんに移植することが将来可能になるかもしれませんが,それにはまだまだ気が遠くなるようなステップが必要です。しかし,私たちは,その実現化のための基盤づくりに取り組んでいます。現実的な話としては,この腎臓オルガノイドを用いて,腎臓病の新しい治療薬を見つけたり,薬物の腎毒性を調べたりするのに用いることができると期待されています。

ヒトiPS細胞から分化誘導して作製した腎臓オルガノイドの蛍光免疫染色写真

糸球体を赤色(ネフリン)で,近位尿細管をシアン色(メガリン)で,遠位尿細管から集合管を緑色(E-カドヘリン)で蛍光免疫染色しました。スケールバーは 500 µm. (荒井優 作製・撮影)

左図の拡大写真

腎臓の管腔構造が観察できます。スケールバーは 200 µm.(荒井優 作製・撮影)

Collaborators


過去に共著論文を発表したことがある、または、現在共同研究中の主な研究室を記載しています。50音順です。
Cover Photo: PexelsPolina Tankilevitchによる写真