The Hayata Lab, Tokyo University of Science
The Hayata Lab, Tokyo University of Science
骨代謝学領域を中心として、幅広くライフサイエンス領域から論文を選んで紹介しています。研究室員以外で参加ご希望の方はご一報ください。
第267回 2025/10/23
Nat Commun. 2024 May 4;15(1):3769.
Genome-wide CRISPR screen in human T cells reveals regulators of FOXP3
「ヒトT細胞におけるゲノムワイドCRISPRスクリーニングによるFOXP3の制御因子の解明」
紹介者:早田 匡芳
本論文は、2025年度ノーベル生理学・医学賞を受賞した坂口志文教授の研究チームによるもので、体の免疫システムを調整する「制御性T細胞(Treg細胞)」という特別な細胞に関する研究です。Treg細胞は、自己免疫疾患(自分の免疫が自分自身を攻撃してしまう病気)の治療に役立つ可能性があるため、Treg細胞をより効果的に活用する方法が求められています。
本研究では、ヒト初代T細胞を用いたゲノムワイドCRISPRスクリーニングとPerturb-icCITE-seqにより、FOXP3発現の新規制御因子としてRBPJ遺伝子を同定しました。RBPJノックアウトはNotchシグナル非依存的にiTreg細胞の分化・機能を増強し、FOXP3エンハンサーCNS2の脱メチル化を促進することでFOXP3発現の安定性を高めました。RBPJはHDAC3を介してFOXP3のヒストンアセチル化を直接制御し、移植片対宿主病モデルにおいてRBPJノックアウトiTreg細胞は高い抑制効果を示しました。これらの結果から、RBPJ-NCOR複合体はFOXP3発現を制御する新たな分子機構であり、RBPJを標的としたiTreg細胞の機能制御は自己免疫疾患に対する養子細胞免疫療法の効率向上に繋がる可能性が示唆されました。
ゲノムワイドCRISPRスクリーニングは従来から知られた方法ですが、今回、核内タンパク質であるFOXP3陽性細胞を集めて行う、新たなトランスクリプトミクスとゲノミクスが何種類も開発されていることに感服しました。ゲノムワイドCRISPRスクリーニングとPerturb-icCITE-seqを組み合わせることで、FOXP3発現の制御機構を網羅的に解析している点が素晴らしいと感じました。single-cell resolutionでの解析により、従来のバルク解析では見過ごされがちな細胞集団の多様性や、遺伝子ノックアウトによる微細な変化を捉えることが可能になったと考えられます。RBPJノックアウトiTreg細胞がGvHDモデルにおいて高い抑制効果を示したことは、自己免疫疾患に対する養子細胞免疫療法への応用可能性を示唆するものであり、今後の臨床研究の進展が楽しみです。
第266回 2025/10/21
Nat Commun. 2024 May 4;15(1):3769.
Targeting adipocyte ESRRA promotes osteogenesis and vascular formation in adipocyte-rich bone marrow
「脂肪細胞標的ESRRAは脂肪細胞豊富な骨髄の骨形成および血管形成を促進する」
紹介者:茂曽路 峻也
肥満、閉経、加齢など、骨の劣化を伴う多様な病態生理学的条件下では、BMAdsの過剰な蓄積が頻繁に観察され、骨微小環境に有害な影響を及ぼす可能性があります。研究グループは、脂肪細胞特異的に転写因子ESRRA(Estrogen-related receptor α)を欠損させたマウスを用い、肥満やエストロゲン欠乏による骨量減少モデルで解析を行いました。その結果、ESRRA欠損マウスでは骨髄内の脂肪蓄積が抑制され、骨形成および骨内の血管(特にType H血管)の形成が促進されました。機構的には、ESRRAがE2/ESR1シグナルを阻害し、骨形成を促す分泌因子SPP1(osteopontin)の転写を抑制する一方、脂肪細胞ホルモンであるレプチンの発現を促進することが判明しました。したがって、ESRRA欠損によりSPP1が増加し、レプチンが減少することで、骨髄間葉系幹細胞の分化バランスが脂肪系から骨芽系へとシフトすると言えます。この変化は血管新生を伴いながら骨形成を回復させることが示されました。さらに、ESRRA阻害剤C29の投与によっても骨量の減少が防がれることが確認され、ESRRAを標的とする治療が肥満や閉経後骨粗鬆症など、脂肪細胞の蓄積を伴う骨疾患に対して有効な戦略となる可能性が示唆されました。
感想
骨髄脂肪と骨代謝の連関に着目する自らの研究において、どのような実験を行うべきか行き詰っていましたが、培養上清を用いる方法などが非常に参考になりました。また、血管新生が骨形成に影響を与えることを知らなかったので、その点でも興味深い内容でした。
第265回 2025/10/16
Nat Commun. 2025 Apr 24;16(1):3859.
「TGF-β1誘導性m6A修飾はPCP経路を調節することで強度近視における核白内障の発症を促進する」
紹介者:野呂瀬 旭史
強度近視は複雑な眼疾患であり、さまざまな眼併存疾患と関連して失明につながる可能性があります。特に、強度近視における最も一般的な合併症である白内障は、早期発症や典型的な核硬化症を示し、急速な進行や予後不良を伴うことが多く、重大な懸念事項です。本研究では、筆者らが強度近視患者の水晶体線維配列がARCや健常な水晶体と比べて高度に偏極し、圧縮された特性を示すことを発見しています。また、筆者らはTGF-β1により水晶体におけるm6Aレベルが大幅に上昇し、これがHMC(高度混濁水晶体)の重症度と正に相関することを見出しています。これは、DVL2 mRNAのm6A修飾が促進され、m6AリーダーであるIGF2BP3を介してそのmRNAが安定化されるMETTL3の上昇を伴って生じます。m6A修飾型DVL2はその後PCP/p-JNK経路を促進し、細胞増殖、遊走、極性形成の亢進とHMC様の水晶体線維の形成へとつながります。まとめると、筆者らの研究は強度近視患者のPCP経路を介した核白内障形成の促進における、TGF-β1誘導性m6A修飾のこれまで十分に理解されていなかった役割を明らかにしています。
私の研究テーマにおける重要なタンパク質であるCTDNEP1は、機能を失うとTGF-βシグナルが増強されることが知られています。そのため、TGF-βシグナルの亢進が核白内障につながるという本論文の内容は、私が研究を進めるうえで非常に参考になりました。また、眼疾患の研究においてどのような実験計画を組むべきかについて私はかなり苦慮していたため、本論文は今後の私の研究に大いに役立つと感じました。
第264回 2025/10/07
Nat Commun. 2025 Aug 30;16(1):8127.
「パイロトーシス応答性ミクロスフェアは、炎症性微小環境を調節し、雌マウスにおける骨粗鬆症の進行を抑制する」
紹介者:ユン クォンウ
骨粗鬆症およびそれに関連する骨欠損の治療は、いろんな副作用や投与間隔など医療従事者にとって大きな課題となってきました。その問題を克服するために本研究ではまず、骨粗鬆症と診断された被験者から得られた検体を用いて包括的な解析を実施した結果、パイロトーシスに関連する炎症性微小環境(IME)が骨の恒常性を破城させる中心的な役割を果たしていることを明らかにしました。これらの結果に基づき、パイロトーシスの阻害と水素による炎症抑制を利用したMg・ゼラチン複合マイクロスフェア(GelMa/Mg/DMF MSs)を開発し、このMSを移植することで、 水素ガス(H₂)、Mg²⁺、およびDMF(ジメチルフマル酸)の持続的放出を実現しました。DMFは、NLRP3/CASP1/GSDMDシグナル経路を阻害し、骨芽細胞のパイロトーシスを防止する作用を有し、さらに、水素の抗酸化作用と相まって、炎症整備症環境を再構築し、骨の恒常性を回復するために有利な条件を整えます。本研究の結果、 GelMa/Mg/DMF MSsはin vivoおよびin vitroの両方で炎症性微小環境を効果的に改善し、顕著な組織修復をもたらすことが示されました。
初期の結果として、このマイクロスフェアは多孔質構造を通じてpHや炎症性微小環境(IME)の変化に応答し、内部のマグネシウム粒子は水素ガスを発生させて強力な抗炎症効果を示し、これがDMFと相乗的に作用してマクロファージを抗炎症性のM2型へと誘導することが確認できました。また、GelMa/Mg/DMF MSsはGSDMDを標的としてそのN末端断片(N-GSDMD)の細胞膜穿孔活性を阻害し、骨芽細胞のパイロトーシスを抑制し、さらにパイロトーシスを起こした骨芽細胞によって活性化される破骨細胞のp-ERK/AP1経路も抑制することがわかりました。これらの結果により、GelMa/Mg/DMF MSsはパイロトーシスに起因する炎症性微小環境(IME)の悪循環を断ち切ることによって局所的な骨欠損を修復し、骨粗鬆症の病態進行を抑制することを踏まえ、有望な治療対策として活躍できると考えられます。
感想
今回の論文を勉強しながら、まず生体内での炎症反応のメカニズムについてより理解を深めることができました。そしてBMSCのパイロトーシスによるBMDMへの影響とそこに関わっているいろんな経路の流れも新たにわかることができ、ROS調整によるマクロファージ環境のリモデリングのメカニズムについても深く勉強ができたと思います。また今回紹介されたGelMa/Mg/DMFの骨粗鬆症においての製剤的なメリットがわかり、そしてまだ見つけられてない副作用や投与間隔の工夫などの限界点についても考察することができたと思います。
第263回 2025/10/02
Nat Commun. 2022 Feb 24;13(1):1066.
Osteoblast-derived vesicles induce a switch from bone-formation to bone-resorption in vivo
「骨芽細胞由来の小胞は、生体内で骨形成から骨吸収への切り替えを誘導する」
紹介者:佐藤 樹里
骨リモデリングは、骨吸収と骨形成が協調して起こり、骨芽細胞(OB)と破骨細胞(OC)の相互作用によって維持されます。しかし、骨形成期がどのように終息し、骨吸収期へ転換するのかといった仕組みは不明でした。本研究では、OB間コミュニケーションを担う新たな因子として、骨芽細胞由来小胞を同定しました。生体内イメージング観察により、成熟骨芽細胞が直径約0.25-1㎛の小胞を放出し、隣接するOBに取り込ませる様子を可視化しました。OB培養液から分離した小胞(SOV: small osteoblast vesicles)を他のOBに加えると、骨形成関連遺伝子(Runx2, Alp, Col1a1など)の発現が抑制され、RANKL/OPG比が上昇してOC分化が促進されました。さらに、SOV内にはmiR-143が高濃度で含まれ、これがCbfbを標的としてRunx2活性を阻害することで骨形成を負に制御することが明らかになりました。SOVをマウス骨内に投与すると、局所的な骨吸収促進と骨形成抑制が誘導され、in vivoでも同様のスイッチ効果を確認しました。以上から、成熟骨芽細胞は自身が放出する小胞を介して、他の骨芽細胞の分化状態とRANKL発現を制御し、骨形成から骨吸収への転換を誘導することが示されました。本研究では、骨芽細胞が単なる骨形成細胞ではなく、リモデリング全体を調整することを明らかにしました。さらに、骨量異常疾患における新たな治療標的として、SOVおよびmiR-143経路の可能性を提示しました。
感想
骨形成と骨吸収の間にある過程を見ている点についてとても興味深いと感じました.本研究で用いられている手技である生体内イメージングは生体内そのものを撮影しているため実際の働きを観察できる点が理解しやすく,リアルであるなと思いました.また、miRNAの細胞間伝達も面白いなと感じました。
骨芽細胞や生体内イメージングに関する同じ著者の論文が複数あったので他のも読んでみようと思います.
第262回 2025/09/25
Nature. 2024 Feb;626(8001):1102-1107.
Bone marrow plasma cells require P2RX4 to sense extracellular ATP
「骨髄形質細胞は、細胞外ATPを感知するためにP2RX4を必要とする」
紹介者:森田 茉奈美
長寿命形質細胞は骨髄の特殊な微小環境に生存しています。しかし、形質細胞の生存を維持するための微小環境やシグナルの全容は未解明です。本研究では骨髄形質細胞がリガンド依存性プリン作動性イオンチャネルP2RX4を用い、骨芽細胞からパンネキシン3(PANX3)を介して放出される細胞外ATPを感知することで小胞体依存性アポトーシスを回避していることを示しました。Panx3欠損とB細胞系でのP2RX4欠損は血清抗体価の減少と骨髄形質細胞の枯渇を引き起こしました。また、PANX3欠損骨芽細胞は細胞外ATPの分泌量が少なく、in vitroで形質細胞の維持に失敗しました。P2RX4欠損形質細胞はATPを処理しても生存を維持することができませんでした。また、P2RX4特異的阻害剤5-BDBDはin vitroで細胞外ATPによる骨髄形質細胞の生存維持効果を抑制し、in vivoで骨髄形質細細胞を枯渇させました。また、5-BDBDは全身性エリテマトーデスモデルマウスの抗dsDNA抗体価と腎疾患を改善しました。P2RX4はカルシウムを通す陽イオンチャネルであり、カルシウムは小胞体機能に重要であることから、細胞外ATP/P2RX4シグナルが小胞体の恒常性維持に重要である可能性を考え、検討しました。その結果、P2RX4阻害は小胞体ストレス関連因子の1つであるATF4の蓄積を引き起こしました。また、ATF4の標的であるアポトーシス促進因子CHOPの欠損は、5-BDBDによる形質細胞枯渇を防止しました。よって、P2RX4阻害は小胞体ストレス応答を引き起こし、骨髄形質細胞のCHOP依存性アポトーシスを開始することがわかりました。まとめると、本研究で、形質細胞がP2RX4を介して骨芽細胞によるPANX3依存性ATP放出を感知することで、小胞体依存性アポトーシスを回避していることが明らかにされました。
感想
骨芽細胞に形質細胞の生存を維持する役割があるという点が興味深いと思いました。また、初めて骨髄独自の形質細胞生存ニッチの特徴を明らかにした研究であり、「短命の形質細胞がいる一方で、なぜ骨髄の形質細胞は長期間生存できるのか」という疑問に答える画期的な論文だと感じました。
第261回 2025/09/23
Nature. 2022 Dec;612(7940):546-554.
A plant-derived natural photosynthetic system for improving cell anabolism.
「細胞の同化作用を改善するための植物由来の天然光合成システム」
紹介者:立花 日向子
細胞内エネルギー(ATP)と還元当量(NADPH, NADH等)の不足は、体内の多くの病理学的プロセスに関与する重要な要因です。ATPは細胞内の生物学的プロセスにおける「エネルギー通貨」として機能し、NADPHの還元型は同化作用に還元力を提供する重要な電子供与体です。病的条件下では、同化作用の障害を是正し、不足しているATPおよびNADPHを最適濃度まで増加させることは困難です。本研究では、ナノチラコイドユニット(NTU)をベースとした、制御可能なナノサイズの植物由来光合成システムを開発しました。具体的には、ホウレンソウの葉からチラコイド(葉緑体膜)を単離し、超音波処理や押し出し処理により、細かく分散させサイズを揃えナノ粒子に加工し、NTUを得ました。また、プロテオミクス解析によってNTUにおけるタンパク質を網羅的に調査すると、NTUは光合成に必要なすべてのタンパク質成分を保持していることも示されました。
さらに、軟骨細胞への導入を可能にするため、特定の成熟細胞膜(軟骨細胞膜(CM))をNTUに包み、CM-NTUを作製しました。軟骨細胞への効率的な導入を確認するために、CM-NTUと他の膜でコーティングされたNTUを軟骨細胞と共に培養したところ、CM-NTUが最も高い割合で取り込むことが示されました。
また、これらのCM-NTUが膜融合を介して軟骨細胞に侵入し、リソソームによる分解を回避し、迅速な浸透を達成することを実証しました。
さらに、CM-NTUは光照射後に細胞内ATPおよびNADPH濃度を上昇させ、in vitroにおいて炎症刺激を受けた軟骨細胞におけるエネルギー代謝の不均衡を改善することも明らかになりました。またin vivoにおいてマウスの変形性関節症に対する CM-NTU 治療効果も調査したところ、CM-NTUと光の照射により軟骨恒常性を促進し、変形性関節症の進行を予防できることを実証しました。したがって、この変性疾患に対する治療戦略は、主要なエネルギーおよび代謝キャリアを独立して軟骨細胞に供給することで細胞同化作用を制御的に促進できる天然の光合成システムに基づいています。さらに様々な成熟哺乳類細胞由来のコーティングを用いることで、様々な変性疾患に対して用途に応じた効果を提供できます。
感想
エネルギー代謝の制御因子を操作するのではなく、光合成のシステムそのものを導入するという新しく大胆なアプローチが非常に興味深かったです。人間もいつか光合成をする未来が来るかもしれないと思い、ワクワクしました。
第260回 2025/09/18
Nature. 2024 Dec;636(8041):172-181.
Adult skull bone marrow is an expanding and resilient haematopoietic reservoir
「成人の頭蓋骨骨髄は、拡大性と回復力のある造血リザーバーである」
紹介者:柴田 和楽
従来、骨髄は長骨などで主に研究されてきましたが、本研究は頭蓋骨に存在する骨髄が独自の役割を果たすことを示しました。まず、頭蓋骨骨髄は若齢期から老齢期にかけて持続的に拡大し、血管網や造血幹・前駆細胞、間質細胞を増加させることが確認されました。これは、加齢に伴い造血幹細胞の機能低下や脂肪化が進む長骨骨髄とは対照的でした。また、妊娠、tMCAOモデル、CMLモデル、PTH投与といった生理的・病理的刺激に対して、頭蓋骨骨髄は著しい血管拡張と造血細胞の増加を示し、高い動的可塑性を有することが明らかになりました。さらに、頭蓋骨骨髄の造血幹・前駆細胞は、加齢に伴い、血管新生の主要な調節因子であるVEGFA発現が増加し、このVEGFA–VEGFR2シグナル経路が血管拡張と骨髄増殖を駆動していることが示されました。加齢に伴い炎症や脂肪細胞蓄積が進む長骨骨髄とは異なり、頭蓋骨骨髄はこれらの老化関連変化に対して耐性を持ち、末梢血への造血細胞供給を持続的に拡大する能力を保持していました。さらに、マウスの頭蓋骨骨髄を保護すると、若齢および老齢期において、放射線照射後の生存が可能であることから、老齢期においても機能的な造血リザーバーとして重要な役割を果たすことが示唆されました。ヒトにおいてもCT解析により、加齢に伴う頭蓋骨骨髄の拡大が確認されており、マウスで得られた知見が臨床的にも関連する可能性があります。以上から、頭蓋骨骨髄は拡大性・可塑性・老化耐性を備えた特異的な造血の場であり、造血障害や加齢関連疾患に対する新たな治療標的となり得ることが示唆されました。
本論文では、頭蓋骨骨髄と長管骨骨髄間の造血機能におけるギャップについて学ぶことができ、非常に興味深かったです。特に、頭蓋骨骨髄では、長管骨で見られる加齢による脂肪化やHSCの分化偏向に強い耐性を持つ点が非常に興味深かったです。
第259回 2025/09/16
Nature. 2025 Jul;643(8072):776-784.
Unravelling cysteine-deficiency-associated rapid weight loss
「システイン欠乏に関連する急速な体重減少の解明」
紹介者:折原 美咲
米国の人口の約40%、世界では6人に1人が肥満であり、その発生率は世界的に急増しています。炭水化物、脂質、さらに最近ではアミノ酸の制限を含む、さまざまな食事介入が、この流行に対抗するために探究されてきました。筆者らは個々のアミノ酸を除去することがマウスの体重プロファイルに与える影響を調査しました。筆者らは、条件付きシステイン制限は必須アミノ酸制限と比較して最も大幅な体重減少をもたらし、それが1週間で30%に達し、標準食に戻すことで体重が容易に回復したことを示しました。 これは、システイン欠乏誘導体重減少が、明らかに有害な影響を与えることなく、高い可逆性を示すことを強調しています。筆者らは、システイン欠乏が統合ストレス応答および酸化ストレス応答を活性化し、それらが互いに増幅し合って GDF15 と FGF21 の誘導を引き起こし、そのことが部分的に表現型を説明することを見出しました。注目すべきことに、筆者らは極めて安定であると考えられてきた組織中の補酵素A (CoA)のレベルの低下を観察し、その結果ミトコンドリアの機能低下と代謝のリプログラミングが生じました。これにより、エネルギー効率の悪い嫌気的解糖と不完全なトリカルボン酸回路が生じ、ピルビン酸、オロト酸、クエン酸、α-ケトグルタル酸、窒素に富む化合物、およびアミノ酸の持続的な尿中排泄が起こります。また、ミトコンドリア活性の低下により、熱産生のために細胞質における無駄なクレアチンサイクルを必要とさせていることを示しました。要約すると、本研究は、システイン制限がGSHとCoAを枯渇させることで、他のアミノ酸制限と比較して体重減少、代謝、およびストレスシグナル経路に最も強い影響を及ぼすことを明らかにしました。これらの知見は、さまざまな代謝性疾患や増大する肥満危機に対処するための戦略を提案しています。
どのようなメカニズムで体重減少が引き起こされるのか、その仕組みを知ることができて勉強になりました。システイン欠乏がCoA枯渇につながり、それ自体が代謝に大きな変化をもたらすというのがとても面白いと感じました。また、これまで読んだ論文は遺伝子に着目したものが多く、アミノ酸に着目している点も新鮮で面白かったです。
第258回 2025/08/05
Theranostics. 2025; 15(5):1741-1759.
「運動は腸内微生物媒介性胆汁酸代謝経路を介してマウスの骨減少症を改善する」
紹介者:佐藤 蓮
運動は骨の健康に不可欠であり、腸内細菌叢は骨代謝を調節する重要因子ですが、その関与メカニズムは未だ明確ではありませんでした。本研究では、卵巣摘出(OVX)および高齢マウスモデルにおいて抗生物質投与で腸内細菌を枯渇させたうえで、運動群由来の糞便微生物移植(FMT)を施し、腸内環境が運動による骨保護に不可欠であることを明示しました。具体的には、16S rRNA遺伝子シーケンシングとLC‑MSによるアンターゲットメタボローム解析を用いて、運動型FMTが受容体マウスにおいて腸内微生物叢と代謝プロファイルを再構築し、タウリンとウルソデオキシコール酸(UDCA)のような胆汁酸代謝物の濃縮が骨量の保持に寄与することが明らかになりました。さらに、トランスクリプトーム解析とRNA干渉実験により、FMTがアペリンシグナル経路を活性化し、MSC(間葉系幹細胞)において骨芽分化を促進し脂肪分化を抑制することで、骨‐脂肪バランスを回復させる分子メカニズムが示されました。本研究は、「運動→腸内微生物変化→代謝物産生→アペリン経路活性化→MSCの運命制御→骨量増加」という腸内–代謝–シグナル経路の連関が、運動由来の骨保護効果を支えていることを示唆しており、FMTや胆汁酸代謝物を活用した新規な骨粗鬆症治療・予防戦略の開発につながる重要な知見であると言えます。
運動によって腸内細菌の組成が変化し、その腸内細菌を経口投与することで、運動をしていないマウスにも運動したマウスと同様の生理的変化が見られるという点が非常に興味深いと感じました。もしこの効果がヒトにも応用可能であれば、運動をしていない人でも、運動によって得られる腸内環境の恩恵を受けられる可能性があります。つまり、運動によって形成された腸内細菌を活用することで、努力の成果を“共有”するような新しい製剤の開発につながるかもしれないという発想がとても面白いと思いました。
第258回 2025/07/31
Nat Commun. 2022 Nov 23;13(1):7194.
Osteoblast/osteocyte-derived interleukin-11 regulates osteogenesis and systemic adipogenesis
「骨芽細胞及び骨細胞由来のIL-11は骨形成と全身の脂肪形成を制御する」
紹介者:茂曽路 峻也
骨芽細胞におけるIL-11は機械的負荷によって転写が促進され、骨形成に影響を与えることが知られていましたが、IL-11 が骨芽細胞分化と骨形成を生体内でどのように制御しているのかについては不明でした。
そこで筆者らはIL-11 遺伝子を全身的に欠損させたマウスを作製しました。
全身性IL-11 KOマウスでは、予想通り、Wnt シグナルと骨量の減少、骨形成の抑制が認められましたが、驚くべきことに、全身性の白色脂肪組織(WAT)の増加と耐糖能異常も引き起こしました。
続いて、骨芽細胞および骨細胞由来のIL-11を欠損させたマウスおよび脂肪細胞由来のIL-11を欠損させたマウスを作製し、前述の表現型が、骨芽細胞及び骨細胞由来のIL-11欠損によって引き起こされることをつきとめました。
これによって、骨芽細胞および骨細胞由来の IL-11 が骨格だけでなく脂肪組織の量にも関与するという、生理学的に重要な役割を明らかにしました。
運動への応答として、骨を介して脂肪組織の分解が進む可能性が示されたことが非常に面白いと感じました。また、IL-11 KOでの表現型も興味深い内容だった上、この論文紹介を通して脂肪組織およびその染色手法等についての勉強にもなりました。
第257回 2025/07/22
Science. 2024 Aug 30;385(6712):eadp7114.
PERK-ATAD3A interaction provides a subcellular safe haven for protein synthesis during ER stress
「PERK-ATAD3A相互作用は小胞体ストレス時のタンパク質合成に細胞内の安全な場所を提供する」
紹介者:中村 光希
小胞体(ER)ストレスは、プロテインキナーゼRNA様小胞体キナーゼ(PERK)の活性化に起因したシグナルを介して細胞全体におけるタンパク質合成の抑制を誘引することが広く知られています。
しかしながら、ERにおける部分的なストレスが如何にして広範囲の翻訳抑制を引き起こすのか理解する試みは、小器官レベルでの翻訳量を定量することの難しさから研究が限定されてきました。
本研究で筆者らは、mRNA翻訳レポーターを用いるSunTagPP7システムを利用して、オルガネラごとの翻訳頻度の違いについて調査を行いました。結果として、ERストレス下でミトコンドリアにおける翻訳活性が顕著に保護されていることを予想だにせず発見しました。
更に、この機構の分子メカニズムについて調査し、ERストレスにおける翻訳阻害を担うPERKと相互作用し得るタンパク質としてミトコンドリアタンパク質ATPアーゼファミリーAAAドメイン含有タンパク質3A(ATAD3A)を同定しました。また、ATAD3AはPERKの標的であるeukaryotic initiation factor 2(eIF2)との結合を競合阻害することで、ミトコンドリアでの位置特異的な翻訳制御を仲介すると示しました。
PERK-ATAD3A間の相互作用はERストレスによって上昇し、ミトコンドリア-ER接着サイトを形成しました。さらに、ATAD3Aの結合によってPERKの本来のシグナルは減衰しました。
最後に、筆者らはプロテオミクス解析を行い、ATAD3AをsiRNAによってノックダウンすることで、ERストレス時にも発現が維持されていた複数のミトコンドリアタンパク質の発現が低下することを示しました。これによって、レポーターに限らず、ATAD3Aはいくつかのミトコンドリアタンパク質について、ERストレス時にその翻訳制御に寄与していることが示唆されました。
これらのことから、 PERK-ATAD3A間の相互作用は細胞小器官レベルで翻訳抑制を制御し、細胞におけるERストレスの影響を回避できるとわかりました。
ERストレスによる影響がミトコンドリアで選択的に阻害されるという点は、面白いと感じました。また、SunTagPP7という手法は全く知りませんでしたが、オルガネラ特異的なタンパク質の翻訳頻度を調べることができるという点と、それを可能とするように考えられた機構が非常に興味深かったです。それ以外の部分でも、様々な手法を使って研究を進めていたので、研究メソッドについてとても勉強になりましたし、ERストレスに関連することで、自分の研究にも応用できそうな点が多かったです。
第256回 2025/07/17
Bone Res. 2023 Oct 26;11(1):56.
Trim21 depletion alleviates bone loss in osteoporosis via activation of YAP1/β-catenin signaling
「Trim21欠損はYAP1/β-カテニンシグナル経路の活性化を介して骨粗鬆症による骨量減少を緩和する。」
紹介者:野呂瀬 旭史
Trim21はオートファジー制御、先天的な免疫反応、そして細胞分化において多様な役割を果たしているにも関わらず、骨格疾患におけるこれらの役割は大部分がわかっていません。筆者らは以前骨肉腫の骨芽細胞分化制御においてTrim21が重要な役割を果たすことを示しましたが、骨粗鬆症を含む骨格変性疾患にどのように寄与しているかはいまだわかっていないままでした。本研究では、Trim21欠損がBMSCsの骨発生分化の促進と骨芽細胞活性の向上により骨形成を促進し、BMSCsとBMMsのカップリングによって破骨細胞の形成が抑制することが示されました。ここから、Trim21が骨形成の促進と骨吸収の抑制をおこなう点で骨粗鬆症治療の新しい二重標的型アプローチとして使用できる可能性を示しました。
骨粗鬆症の治療は不完全なものが多く、ロモソズマブのような二重標的型治療の数は少ないです。そのような現状の中で、Trim21は骨形成の促進と骨吸収の抑制の両方の働きをもつ珍しいタンパク質であり、とても興味深く感じました。
第255回 2025/07/15
Nature. 2024 Oct;634(8036):1168-1177.
Gasdermin D-mediated metabolic crosstalk promotes tissue repair
「Gasdermin Dを介した代謝クロストークは組織修復を促進する」
紹介者:大塚 果音
GSDMDが炎症性細胞死パイロトーシスに働くことが知られていますが、近年、細胞恒常性維持にも関わる機能も報告されています。本研究では、筋肉の組織再生にガスダーミン(GSDMD)が重要な機能を持つことを明らかにしました。筋損傷後の修復過程において、GSDMDは活性化マクロファージ中でオリゴマーとなり、脂肪酸代謝物である11, 12-EETの分泌経路を形成します。11,12-EETは線維芽細胞成長因子(FGF)の液液相分離を調節することで、FGF経路を増幅させ、これによりMuSC細胞の活性化と増幅を促進させました。また、11,12-EETは筋肉の老化関連修復障害の改善、角膜・皮膚損傷後の組織再生促進効果を持つことを特定しました。本研究は、マクロファージと筋幹細胞のクロストークがGSDMD依存性分泌代謝物を介して組織修復を支配することを示唆し、組織再生に対する治療効果を提示します。
本論文は損傷後のGSDMD機能について、炎症応答ではなく組織修復に関与するという新たな機能を提示した興味深い内容でした。GSDMD遺伝子変異とゴーハム病発症に関して、外的炎症や慢性炎症後の組織修復にGSDMD機能が関与する可能性を考えると、GSDMD機能不全により修復障害が起こる可能性などが考えられ、発症機序解明に近づくヒントとなります。
第254回 2025/07/08
Signal Transduct Target Ther. 2024 Apr 24;9(1):96.
SRY-Box transcription factor 9 triggers YAP nuclear entry via direct interaction in tumors
「SRY-Box転写因子9は、腫瘍においてYAPの核内移行を直接的な相互作用を通じて誘導する」
紹介者:金野 琢人
YAPの細胞内局在はYAP活性および腫瘍形成において重要です。いくつかの腫瘍においてYAPは、がん幹細胞マーカーとしても知られているSOX9と共発現していることが知られており、SOX9とYAPはお互いの活性を増加させるように働くことが報告されてきましたが、SOX9がYAPの細胞内局在を制御するかは知られていませんでした。本研究では、肝臓がんでSOX9がYAPの核内移行を制御する詳細な分子基盤を示し、YAPにおいて翻訳後修飾のアルギニン非対称ジメチル化が、SOX9-YAP間相互作用を増強させることを示しました。さらに、YAPアルギニン非対称ジメチル化は、様々ながん患者において予後不良を示しており、新規のバイオマーカー及び治療標的となることを示されました。最後に、明らかにされたSOX9-YAP間相互作用を競合的に阻害できるペプチドを作成し、それの肝臓がん治療効果が示されました。
まず、肝臓がん細胞のSOX9を欠損させ、RNA-seq解析を実施すると、SOX9欠損において、YAP標的遺伝子の上昇を確認しました。Hippoシグナルに着目し、LATSやYAPのリン酸化を確認すると、リン酸化への影響はほとんどなく、Hippo経路とは非依存的な制御がなされていることが示唆されました。そこで、免疫沈降を行うとSOX9とYAPの相互作用が確認されました。SOX9の欠損または過剰発現によって、YAPの核内移行を制御していることが示されました。相互作用についてさらに詳しく解析するため、SOX9の変異を導入し、免疫沈降によってSOX9のHMGドメイン、その中でも特にN末端側核局在シグナル(nNLS)が含まれているSOX9 がYAPとの相互作用に重要であることを明らかにしました。さらに、YAPとSOX9の相互作用に重要と同定されたドメインを利用したドッキングシミュレーションによって、YAP-SOX9間の重要な水素結合が示されました。特に、SOX9 (Asp-125)とYAP (Arg-124)が相互作用に必要でした。
さらに筆者らは、YAPの質量分析を実施し、Arg-124における非対称ジメチル化(R124me2a)を同定しました。このR124me2aは、肝臓がんで増加することが知られていたメチルトランスフェラーゼPRMT1のノックダウンで減少することを明らかにしました。SOX9との相互作用の観点では、R124me2aの増加は、SOX9とYAP相互作用を強固にすることが示されました。興味深いことに、YAPのR124me2aは、様々ながん患者の予後不良と関連しており、YAP R124me2aが新規のバイオマーカーおよび治療標的となることが示唆されました。
最後に、同定されたSOX9-YAP間相互作用を模倣する合成ペプチドを利用して、競合的にSOX9-YAP相互作用を阻害することで、がん治療への応用を検討されました。細胞内透過ペプチドとSOX9のnNLSを持つペプチド(Pep-S-A1)、nNLSに含まれたAsp-125を変異させたペプチド(Pep-D125A)を用いて、マウスがんXenograftモデルにおける治療効果を評価すると、Pep-D125A処理では治療効果は見られない一方で、Pep-S-A1処理では、対照と比較して腫瘍形成を抑制していました。以上のことをまとめると、本研究では、がんの進行に重要なYAP-SOX9相互作用を同定し、新規のがんバイオマーカーのYAP R124me2aを示しました。さらに、YAP-SOX9相互作用を阻害する合成ペプチドが有望な治療戦略となることが示唆されました。
自分が興味を持っている転写因子のSOX9とYAPの相互作用を示された論文でした。SOX9の転写因子としての働きではなく、タンパク質の核移行を担っていることは興味深いと思いました。新規のバイオマーカーおよび新規のがん治療戦略となり得るペプチド医薬を示されており、CNSではないもののインパクトのある論文だと思いました。
第253回 2025/07/03
Nat Commun. 2023 Jun 20;14:3668.
「UBAP2は骨芽細胞形成と破骨細胞形成の制御を通じて骨の恒常性維持に関与する」
紹介者:佐藤 樹里
骨粗鬆症は骨密度低下により骨折リスクが高まる疾患です。本研究では韓国人女性を対象に解析を行い、UBAP2遺伝子のSNPが骨粗鬆症と関連する可能性が示されました。ゼブラフィッシュでもUBAP2を抑制すると骨形成異常が確認され、骨代謝マーカーとも相関が見られました。UBAP2は骨リモデリングに関与する新たなリスク遺伝子候補と考えられます。
今回Ubap2に関する論文を読み,骨代謝に関する知見を深めることができました.また,Ubap2の制御メカニズムについても理解することができました.
第252回 2025/07/01
Nat Commun. 2025 Apr 11;16(1):3474.
Suppression of TGF-β/SMAD signaling by an inner nuclear membrane phosphatase complex
「核内膜ホスファターゼ複合体によるTGF-β/SMADシグナル伝達の抑制」
紹介者:新居 真由香
TGF-βスーパーファミリーのサイトカインは、R-SMAD転写因子を介して細胞運命を制御し、胚発生から成体の恒常性維持まで多岐にわたる生物学的プロセスに関与します。これらのリガンド刺激によりR-SMADは細胞質でリン酸化され、SMAD4と複合体を形成して核内に移行し、標的遺伝子の発現を制御します。
本研究では、TGF-βスーパーファミリーのシグナルを負に制御する新たなメカニズムとして、R-SMADの脱リン酸化による不活化に注目しました。特に、内核膜に局在する足場タンパク質MAN1と脱リン酸化酵素複合体CTDNEP1-NEP1R1が、R-SMADの脱リン酸化に関与することを明らかにしました。MAN1はR-SMADおよびNEP1R1に独立して結合し、NEP1R1を介してCTDNEP1をR-SMADに近接させることで、核内でのR-SMADの脱リン酸化と不活化を促進します。
この複合体の破綻(CTDNEP1やNEP1R1の欠損)は、TGF-βリガンドが存在しない条件でもR-SMADのリン酸化状態が維持され、異常な転写活性が持続する原因となります。
またCTDNEP1やMAN1の欠損は、多臓器におけるSMADシグナルの異常活性化や特定疾患(骨疾患、髄芽腫)と関連していることが明らかとなり、CTDNEP1-NEP1R1複合体が細胞内で広範な調節機能を有することが示唆されました。
CTDNEP1-NEP1R1複合体がMAN1を介して核内でR-SMADの脱リン酸化を担うという知見は、CTDNEP1の新たな機能を示すものであり、非常に興味深く感じました。本研究は、私自身のCTDNEP1に関する研究においても今後シグナル制御との関係性を深めていく上で大変参考になりました。
第251回 2025/06/26
Bone Res. 2024 Aug 27;12(1):48.
「SREBP2は、IRF7の制御によって、破骨細胞の分化と活性を制限し、炎症性骨侵食を抑制する」
紹介者:佐藤 陽菜
まとめ
この研究では、転写因子SREBP2が破骨細胞の分化と骨吸収を負に制御することが示されました。SREBP2はIRF7を促進し、IRF7はISGs(IFN誘導性遺伝子群)やLy6a(リンパ球活性化タンパク質)などを通じて破骨細胞の過剰形成を抑制します。SREBP2を欠損したマウスでは破骨細胞活性が亢進し、炎症性骨破壊が増強されました。この経路はコレステロール代謝とは独立しており、新たな骨疾患治療の標的となる可能性があります。
感想
破骨細胞の分化の負の調節機構について、あまり知識がなかったので、勉強になりました。また、SREBP2の働きを阻害する実験において、阻害する時期が異なると、破骨細胞形成の促進・抑制が変わるのが、興味深く感じました。
第250回 2025/06/24
Science. 2025 Apr 4;388(6742):eadt0548.
Osteoarthritis treatment via the GLP-1-mediated gut-joint axis targets intestinal FXR signaling
「GLP-1を介した腸-関節軸を通じた変形性関節症の治療は腸管FXRシグナル伝達を標的とする」
紹介者:三瓶 千怜
変形性関節症(OA)は、世界中で5億9500万人以上が罹患している局所性関節疾患ですが、未だ疾患修飾薬は存在しません。最近の研究では、腸内細菌叢の乱れや微生物代謝物がOAに関連することが報告されていますが、その詳細は不明でした。
本研究では、ターゲットメタボローム解析により、OA患者ではglycoursodeoxycholic acid (GUDCA) の減少を伴って胆汁酸代謝が変化していることが明らかになりました。GUDCAは、farnesoid X receptor (FXR) のアンタゴニストとして腸管幹細胞の増殖を促進し、L細胞からのGLP-1分泌を促すことで、OAの症状を緩和させることが示唆されました。また、FDA承認薬のGLP-1R作動薬の関節内注射はOAの症状を改善しました。さらに、メタゲノム解析から、OA患者ではClostridium bolteae (C. bolteae) の相対存在量が低下しており、マウスへのC. bolteae投与はGUDCAの前駆体であるursodeoxycholic acid (UDCA) の濃度上昇を伴って、OAの進行を抑制しました。最後に、FDA承認薬のUDCA投与は変形性関節症の進行を緩和しました。また、コホート研究から、UDCAの服用によりOA関連関節置換のリスクが低下することが示唆されました。
OAは、機械的な過負荷だけでなく、慢性の代謝性炎症や脂質代謝の変化が寄与することが報告されてきています。本研究では、OAにおけるGLP-1を介した腸管関節軸が明らかになり、この経路がOAの治療標的となる可能性が示唆されました。また、本研究では、FDA承認薬のGLP-1作動薬やUDCAなどがOAの症状を緩和させたことから、これらのOAに対する臨床応用の可能性も期待されます。一方、関節に到達したGLP-1がOAの進行を緩和するメカニズムについては、さらなる研究が必要です。また、今回、OAにおける腸管関節軸が明らかになったことから、関節リウマチなど他の関節疾患における腸管関節軸についても興味深いと感じました。
第249回 2025/06/19
Nat Commun. 2025 Mar 20;16(1):2768.
「関節リウマチ治療においての、単原子ナノザイムを介したポリフェノールを用いた注射可能な接着性・潤滑性ハイドロゲル」
紹介者:Yun Kuonu
本研究では、関節リウマチ(RA)に対する新しい注射治療法が提案されています。酵素活性を持つナノザイムであるDAGQD@Cu@KGNに、潤滑性を付与するSO3–HAと、軟骨への接着性を高めるDA-HAを組み合わせたハイドロゲルを使用しています。このハイドロゲルは、初期および後期のRAモデル動物の関節腔に注射することで自己ゲル化し、関節内にとどまって治療効果を発揮します。
具体的には、SO3–HAによる関節内での潤滑性、DA-HAによる軟骨表面への接着性、そしてKGN(カルトゲニン)による間葉系幹細胞(BMSCs)の動員と軟骨細胞への分化誘導が示されました。これにより、メトトレキサートによる骨髄抑制や肺障害のリスクを低減し、ヒアルロン酸の注射回数も大幅に減らすことができると考えられます。
ただし、DAGQD@Cu@KGNにおけるCuやDAGQDの生体内での分解や代謝に関しては、今後さらなる研究が必要です。
感想
これまでのRA治療では薬物療法が中心でしたが、本研究を通じて注射製剤による治療メカニズムについても理解を深めることができ、大変興味深く感じました。今回のハイドロゲル注射は、変形性関節症など他の関節疾患にも応用可能だと考えられ、今後のin vivoでの投与結果にも大きな期待が持てます。
第248回 2025/06/17
Nature. 2024 Nov;635(8039):657-667.
A multi-omic atlas of human embryonic skeletal development
「ヒト骨格発生のマルチオミクスアトラス」
紹介者:早田 匡芳
ヒト胚の骨・関節形成における細胞分化のメカニズムを解明するため、受胎後5~11週のヒト胚の関節と頭蓋を対象に、33万個以上の細胞核のマルチオミクス解析(遺伝子発現とエピジェネティクス)と空間トランスクリプトミクスを実施しました。
この研究で以下のことが明らかになりました。
骨と軟骨の前駆細胞の発生軌跡と、膜内骨化と軟骨内骨化を制御する遺伝子ネットワーク
骨・関節形成中の前駆細胞の空間的な配置(ゾーニング)のメカニズム
Schwann細胞からの軟骨細胞への新たな発生経路の可能性
変形性関節症に関連する細胞種特異的な遺伝子ネットワーク
頭蓋縫合早期癒合症の原因遺伝子の影響と潜在的な疾患メカニズム
これらの知見は、ヒト骨格発生における細胞運命決定の理解を深め、骨・関節疾患の治療法開発に貢献する可能性があります。
感想
今回の中絶胎児を用いた解析は、複数の最新解析技術を駆使し、献体を最大限に活用したという印象を受けました。特に、遺伝子発現情報と空間情報を組み合わせ、高解像度で空間情報を推測する新しいバイオインフォマティクスの手法が考案された点は画期的です。また、Multiplex in situ sequencingなどの最新の解析技術や数学的なデータの解析手法を勉強することができました。生物学で、これほど数学や統計が使われるようになるとは想像もしていませんでした。さらに、ヒト疾患に関連する一塩基多型とヒト発生を結びつけることで、疾患メカニズムへの新たな光を当てています。例えば、膝の変形性関節症では軟骨関連遺伝子、股関節の変形性関節症では骨形成関連遺伝子との関連が見出されたことは、今後の治療戦略に繋がる可能性を示唆しています。データサイエンスの進歩によって、医学生物学の解析手法は驚くほど精密(かつ高価)になり、ヒト発生現象の解明を通じて、ヒト特有の生命現象の発見や疾患治療への新たな道が開かれるかもしれません。当日、朝7時に来て、準備してましたが、これまで読んだ論文の中で最も難解でした😂
第247回 2025/06/12
Nat Commun. 2025 Jan 2;16(1):9.
Fam102a translocates Runx2 and Rbpjl to facilitate Osterix expression and bone formation
「Fam102aはRunx2とRbpjlを核内移行させ、Osterixの発現と骨形成を促進させる」
紹介者:倉持 沙菜
骨リモデリングは破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成によりバランスを取ることで骨組織の頑強性を保つとされています。破骨細胞と骨芽細胞はともに骨リモデリングにおいて重要な役割を担っていますが、共通の因子がこれら2つの細胞の分化に関与しているという報告は少なかったため、この論文ではFam102aという骨リモデリング因子が破骨細胞と骨芽細胞の分化を制御すること可能性を示しました。また、膵臓の腺細胞で高発現しNotchシグナルを介した自己増殖を行うことで知られているRbpjlとFam102aの複合体であるFam102a-Rbpjl軸が転写因子の核内移行を促進し、骨芽細胞分化において必要不可欠な転写因子であること、Fam102a欠損、Rbpjlの機能的な変異は骨芽細胞の骨形成減少に伴った骨減少を導くことなどからRbpjlが骨芽細胞分化の制御により骨恒常性に寄与しているかどうか、骨芽細胞において自己増殖能を持っているかどうかなどを論証することによって、Fam102a-Rbpjl軸が骨芽細胞において重要な役割を担っていることについても解明しました。
感想
今回の論文の中で行われていた実験において用いられた実験手法などをしっかりと理解し、今後の研究に活かしていきたいと感じました。
第246回 2025/06/10
Bone Res. 2024 Jul 4;12(1):38.
PCLAF induces bone marrow adipocyte senescence and contributes to skeletal aging
「PCLAFは骨髄脂肪細胞の老化を誘導し、骨格の老化に寄与する」
紹介者:柴田 和楽
運動がマウスの骨の健康に良い影響を及ぼすメカニズムを解明するため、老齢マウスにランニング生活をさせた結果、ランニングによって骨芽細胞および破骨細胞の減少が改善し、加齢による骨量減少が回復しました。加齢によりBMATが増加することが知られていますが、ランニング生活をしたマウスでは老化脂肪細胞が減少しました。すなわち、運動がBMAdsの老化を緩和し、骨の老化を遅らせることが示唆されました。
骨の老化に関与する重要な制御因子を解明するため、筆者らは最近行った若齢および老齢雄ラットの骨髄上清のLC-MS/MSデータを分析した結果、細胞増殖、アポトーシス、細胞周期の制御に必須の役割を果たし、骨組織と骨髄に高発現のPCLAFに着目しました。PCLAFはBMAdsの老化の変化傾向と一致して、加齢とともに増加し、運動によって減少しました。
またscRNA-seqの結果より、PCLAFは特に老齢ラットの骨髄マクロファージ (BMM) で高発現でした。RAW264.7細胞の濃縮培養液にPCLAFタンパク質発現が確認されたことから、PCLAFはBMMに由来する分泌因子であることが示唆されました。PCLAFを骨髄内投与したマウスでは、コントロールと比較してBMAdsの老化が促進し、骨量が減少しました。またPCLAFを処理したBMAdsを皮下投与したマウスでは、老化骨芽細胞および老化破骨細胞が多く観察されました。すなわちPCLAFを介したBMAdsの老化が骨量を減少させることが示唆されました。
in vivoにおけるPCLAFの役割をさらに検証するために、骨髄球特異的PCLAF CKOマウスを作製し、3,9,15ヶ月齢マウスの骨のµCTをおこなった結果、3ヶ月齢マウスの骨量は同程度でしたが、9ヶ月齢と15ヶ月齢マウスにおいて、コントロールマウスと比較して、CKOマウスは加齢に伴う骨量減少の遅延を示しました。また15ヶ月齢のCKOマウスでは老化BMAdsが減少したことから、BMMにおけるPclaf欠損がBMAdsの老化を阻害し、骨の老化を遅らせることが示唆されました。
PCLAFと運動によって緩和される骨の老化との関連をさらに調べるため、老化に伴うBMMにおけるPCLAFの蓄積を模倣したPclaf過剰発現モデルをin vivoで樹立し、ランニング生活をさせた結果、ランニングによってPCLAF過剰発現による骨量減少およびBMAdsの老化が緩和しました。したがって運動がPCLAFの分泌を阻害し、それによってBMAdsの老化と骨の老化を遅らせることが示唆されました。
BMAdsにおけるPCLAFの潜在的受容体を同定するために質量分析を行った結果、接着クラスGタンパク質共役型受容体(ADGRL2)が同定されました。ADGRL2ノックダウンしたBMAdsではPCLAFを処理しても老化BMAds数が増加しなかったことから、ADGRL2がPCLAFの受容体として機能し、脂肪細胞の老化を促進するPCLAFの作用を仲介していることが示唆されました。PCLAFが骨代謝に影響を及ぼすメカニズムをさらに解明するため、rPCLAFまたはPBSで処理したBMAdsのRNA-seq解析を行った結果、PCLAFはADGRL2と結合し、AKT-mTORシグナル伝達を阻害して骨の老化を誘導していることが示唆されました。
骨髄におけるBMAds老化およびBMAds老化を介した二次老化に対するPCLAFの直接的効果をさらに検証するために、Adgrl2欠損マウス由来のBMAdsにrPCLAFを処理し、レシピエントマウスに移植した結果、rPCLAF-Scramble-BMAdsマウスは、PBS-Scramble-BMAdsマウスと比較して骨量減少および老化骨芽細胞・破骨細胞の増加が認められましたが、rPCLAF-ShAdgrl2-BMAdsでは認められなかったことから、ADGRL2がPCLAFの骨ホメオスタシスに対する効果を媒介することが示唆されました。
PCLAFの中和抗体 (PCLAF-NAb) 投与は18ヶ月齢マウスの骨量を増加させましたが、3ヶ月齢のマウスでは増加しなかったことから、PCLAF-NAbの治療効果はPCLAFの加齢依存的な蓄積のためであることが示唆されました。またPCLAF-Nab投与は老齢マウスの骨リモデリングを改善し、老齢マウスBMAdsを減少させたことから、PCLAF-Nabは加齢に伴う骨粗鬆症の治療法の可能性があることが明らかになりました。
本論文では、骨髄マクロファージ由来の分泌因子が低回転型骨粗鬆症を引き起こすことが書かれていました。3ヶ月齢マウスではコントロールマウスとPclaf CKOマウス間に変化が見られなかったことから、私が用いているLysM-Creマウスも3ヶ月齢ではなくもう少し後に解析をすることも視野に入れようと考えました。
第245回 2025/06/05
Nat Commun. 2024 Mar 25;15(1):2345.
「IKK2はマウスの機能獲得モデルにおいて組織常在性の制御性T細胞の炎症可能性を制御する」
紹介者:折原 美咲
機能喪失型変異は、Foxp3+制御性T細胞(Treg)の免疫調節作用に関する重大な知見を与えてきました。対照的に、Tregの機能や分化の側面を増幅させる欠陥の結果については、ほとんどわかっていません。機能獲得型(GoF)変異の作用機序を調べるため、オルソログ遺伝子変異を持つマウスを作製しました。本研究では、IkbkbのGoF変異をヘテロ接合体で有するマウスが乾癬の組織学的特徴をもつ皮膚病を発症することを示しました。遺伝子量を2倍にすると( IkbkbGoF/ GoF )、乾癬性関節炎の特徴である指炎、脊椎炎、特徴的な爪の変化が生じました。IkbkbGoFマウスは、Foxp3+CD25+Tregの選択的増殖を示し、そのうちのサブセットはIL-17を発現します。これらの改変されたTregは、炎症を起こした組織、血液、脾臓の両方に濃縮されており、その移動は従来のT細胞を使わずに疾患を誘導するのに十分です。これらの所見は逆説的に見えますが、さらなる解析の結果、これらのTregを移植すると炎症が誘導されることが明らかになりました。単離されたTregの単一細胞転写解析および表現型解析により、Th17関連遺伝子、Helios、CD103やCD69を含む組織常在マーカーを発現し、 NF-κBの顕著な転写プロファイルを示す非リンパ組織 (組織常在)Tregの増殖が明らかになりました。したがって、IKK2は組織常在性Tregの分化を調節し、過剰な活性は用量依存性の皮膚および全身性炎症を引き起こします。今回の発見は、NLTのサブセットが、過剰なNF-κB活性によってエフェクター様機能へと誘導され、その恒常性維持作用を狂わせて病態を引き起こす可能性があることを明らかにしました。
感想
炎症や免疫に関わる実験方法について学ぶことができました。現在調べているマウスでも、尾や手先の腫れなど同様の表現型が見られないか観察したいと考えています。また、組織常在性のTregサブセットについて、組織ごとに性質が異なる点が非常に興味深かったです。さらに、Tregが対応するエフェクター細胞の転写プログラムの一部を利用しているという点も面白いと思いました。
第244回 2025/06/03
Signal Transduct Target Ther. 2023 Apr 7;8(1):142.
OTUB1 promotes osteoblastic bone formation through stabilizing FGFR2
「OTUB1はFGFR2の安定化を通じて骨芽細胞の骨形成を促進する」
紹介者:森田 茉奈美
OTU domain-containing ubiquitin aldehyde-binding proteins Otubain1 (OTUB1)は脱ユビキチン化酵素のOUTドメインファミリーのメンバーです。これまでの研究で、がんやDNA損傷応答、神経変性疾患、腎臓疾患、肺線維症におけるOTUB1の役割が指摘されてきましたが、骨の恒常性におけるOTUB1の生理的役割や分子メカニズムは依然として不明でした。本研究では、OTUB1がFGFR2タンパク質の安定化を介して骨芽細胞分化と石灰化を促進することで、骨の恒常性維持に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。OTUB1の全身KOマウスでは骨芽細胞分化と石灰化が低下しており、E18.5で体長の減少と著しい骨形成遅延を示しました。骨芽細胞特異的Otub1欠損マウスは骨形成の減少による骨量減少を示しました。OTUB1が骨形成を制御するメカニズムとして、骨芽細胞においてOTUB1はE3リガーゼのSmurf1とE2のUbcH5cの相互作用を阻害することでSmurf1によるFGFR2のユビキチン化を阻害し、それによってFGFR2のリソソーム分解を阻害していることが示唆されました。骨芽細胞特異的Otub1欠損マウス骨量減少はAAV9-FGFR2投与によって回復しました。また、AAV9-OTUB1の投与は、卵巣摘出術による閉経後骨粗鬆症マウスモデルの骨量減少を緩和しました。まとめると、本研究は、OTUB1が骨形成の正の制御因子であることを明らかにし、骨芽細胞特異的なOTUB1の標的化が骨粗鬆症の治療戦略となり得ることを示唆しています。
感想
骨芽細胞における基質が分かっていない酵素について、相互作用するタンパク質や骨形成を制御する分子メカニズムまで詳しく解明しており、自身の研究にも非常に参考になる論文でした。この論文を参考に、骨での骨芽細胞マーカーの免疫染色や、骨芽細胞におけるCtdnep1相互作用タンパク質の同定も行っていきたいと思います。
第243回 2025/05/29
Adv Sci (Weinh). 2025 Jan;12(2):e2404107.
「WACはPINK1をユビキチン化依存性分解から保護することにより、マイトファジーを介したMSCの骨形成と新しい骨の形成を促進する」
紹介者:立花 日向子
間葉系幹細胞(MSC)の骨芽細胞分化は、骨粗鬆症や骨再生などの骨関連疾患の病態や治療に極めて重要な役割を果たしています。WWドメイン含有コイルドコイルアダプター(WAC)タンパク質は、主に転写制御やオートファジーと関連しているが、間葉系幹細胞の骨形成への関与は不明なままです。今回、骨粗鬆症患者と骨粗鬆症モデルマウスの両方において、WACのレベルが低下していることが明らかになりました。WACは、in vitroおよびin vivoの両方において、MSCの骨形成を促進し、新生骨形成を促進する上で極めて重要な役割を果たしています。
具体的には、in vivoにおいてPrx1-Cre; WACfl/flマウスでは骨量減少と骨欠損修復障害が見られました。特に、骨を標的としたrAAV9を介したWACおよびPINK1の過剰発現は、SAMP6早期老化マウスにおける骨量減少を改善しました。
対してin vitroでは、また骨粗鬆症患者におけるWAC発現の低下と、それがin vitroにおけるMSCの骨芽細胞分化に及ぼす重要な影響を明らかにしました。WACのタンパク質レベルは骨芽細胞分化マーカー(RUNX2, Osterix, OCN)と正の相関関係にありました。またMSCにおいてWACをノックダウンしALP染色とARS染色で骨芽細胞分化能を検討するとALP、ARS陽性面積が低下しました。またMSCにおいてWACを過剰発現し同様な実験を行ったところ、ALP、ARS陽性面積が増加しました。
メカニズム解析の結果、WACは下流標的タンパク質PINK1と複合体を形成し、ユビキチン化を介した分解に対する保護因子として作用することが明らかになりました。この複雑な相互作用により、MSCにおけるマイトファジーレベルが維持され、ミトコンドリア機能が安定化し、骨芽細胞分化が促進されます。本研究の結果は、WACをMSCにおける重要な因子として位置づけ、その欠乏が骨粗鬆症の発症機序に関連し、骨芽細胞分化を促進する上でのWACの重要な役割を強調しています。本研究は、骨粗鬆症管理における革新的な診断・治療戦略への有望な道を示唆しています。
今回の論文ではMSCについて着目していましたが、マウス骨芽細胞株MC3T3-E1でもWACが同様の機序で骨芽細胞分化を制御するのか知りたいです。MSCのミトコンドリア機能について理解が深まりました。
第242回 2025/05/22
Bone Res. 2025 Mar 19;13(1):39.
Bone marrow adipogenic lineage precursors are the major regulator of bone resorption in adult mice
「骨髄脂肪形成前駆体は成体マウスの骨吸収を制御する主要な因子である」
紹介者:佐藤 蓮
本研究では、骨髄脂肪前駆細胞(MALPs)由来のRANKLが、成体マウスの海綿骨吸収においても重要な役割を果たすことを示しました。筆者らは、以前骨髄間葉系前駆細胞(MALPs)を同定し、Adipoq-Creを用いて、そのRANKL産生が若齢マウスの骨吸収を刺激することを示した。しかし、Adipoq-Creマウスでは産まれた直後からMALP細胞を標識してしまうため、発生過程での異常が影響を与える可能性があります。そこで、発育期の影響を排除し、成体骨におけるMALPs由来RANKLの役割を調べるため、誘導性レポーターマウス(Adipoq-CreER Tomato)とRANKL欠損マウス(Adipoq-CreER RANKLflox/flox, iCKO)を作製した。sc-RNAシーケンスデータ解析と系統追跡から、Adipoq+細胞にはMALPだけでなく、骨形成分化能を持つ一部の間葉系前駆細胞も含まれていることが明らかになった。しかし、In situハイブリダイゼーションにより、RANKL mRNAはMALPでのみ検出され、骨形成細胞では検出されないことが示された。生後3ヵ月で誘導したMALPのRANKL欠損は、骨吸収の減少により長骨および脊椎骨の海綿骨量を急速に増加させたが、皮質骨には影響を及ぼさなかった。また、卵巣摘出術(OVX)は、両方の部位で海綿骨量の減少を誘導した。OVX前またはOVX後6週間のRANKL枯渇は海綿骨量を保護し回復させた。さらに、iCKOマウスでは、ドリル穴損傷後の骨治癒が遅延した。以上の結果から、MALPは海綿骨吸収の制御において主要な役割を果たし、MALP由来のRANKLは、成体骨の恒常性維持、閉経後の骨量減少、そして損傷後の骨修復に不可欠であることが示されました。これまで、RANKLの発現は骨細胞とされてきましたが、本研究の結果、RANKLとCsf1は主にMALPsに発現し、骨芽細胞や骨細胞ではほとんど発現していないことが明らかとなりました。本研究は、現在臨床で使用されているRANKL阻害薬デノスマブに加え、MALPsを標的とする新しい治療法の可能性を示唆しており、より選択的かつ効果的な骨代謝制御への応用が期待されます。
この論文での知見は過去の認識を覆す面白い内容でしたが、不確実な部分はまだあるように感じました。また、研究室内でも、白色脂肪や褐色脂肪の組織の解析を行ってくれているので、さらにAdipo-Creを用いて脂肪に着目する研究があってもおもしろいかもしれないと感じました。
第241回 2025/05/20
Cell Death Dis. 2024 Aug 27;15(8):624.
「TRPA1はSRXN1を介した小胞体ストレス活性化によって破骨細胞分化及び骨粗鬆症を悪化させる」
紹介者:中村 光希
主要なtransient receptor potential cationチャネルの一種として知られるtransient receptor potential ankyrin 1 (TRPA1)はERストレスの誘導に関わることが報告されています。また、TRPA1は変形関節症による関節痛と軟骨変性を緩和することが分かっています。
この研究では、破骨細胞分化過程でのTRPA1の作用とその治療標的としてのポテンシャルを調べることに焦点を当てられました。
まず筆者らは、破骨細胞分化過程におけるTRPA1の発現量について遺伝子発現及びタンパク質発現をRAW264.7細胞を用いて調べ、TRPA1の発現が破骨細胞分化に伴って上昇していくことを示しました。
次に筆者らは、siRNAを用いてTRPA1をノックダウン(KD)した際の破骨細胞数や破骨細胞マーカーについて調査しました。結果として、TRPA1 KDは破骨細胞分化を顕著に抑制されることが確認されました。
また、TRPA1阻害はERストレスに関連する経路であることから、ERストレス応答によって更新されるPancreatic ER Kinase (PERK)経路について調べたところ、破骨細胞分化におけるTRPA1 KDはPERK経路の活性化を抑制することが明らかになりました。さらに、TRPA1 KDと同時にERストレス誘発剤を処理すると、TRPA1 siRNA単独処理の際に見られた破骨細胞分化抑制はレスキューされました。
次に筆者らは、TRPA1と破骨細胞分化の関連についてメカニズム解析を行うため、トランスクリプトーム解析によって、TRPA1が活性酸素種ROSの働きを負に制御し、抗酸化遺伝子であるSRXN1の発現を著しく上昇させることを示しました。
この結果より、TRPA1とSRXN1の関係を調べるため、TRPA1とSRXN1を同時にKDする実験を行うと、破骨細胞分化及びERストレスレベルはTRPA1を単独でKDした時と比べて上昇しました。
最後に、in vivoでのTRPA1の作用を調べるため、卵巣摘出マウスにおいてマクロファージ標的型アデノ随伴ウイルスを用いたTRPA1ノックアウト(KO)マウスを用いて、その表現型を調べました。結果として、TRPA1 KOにより破骨細胞分化と骨減少は、Ctrlと比較して軽減されることが示されました。
まとめると、TRPA1の抑制はROSのダウンレギュレーションを介したPERK経路の阻害によって破骨細胞分化を制止することを明らかにしました。この研究はTRPA1が骨粗鬆症に対する有望な治療標的になり得ることを示しています。
ERストレスが発生しないと破骨細胞分化が正常に進行しないということ自体をあまり良く理解できていなかったので、ERストレスと破骨細胞分化について理解を深める良い機会となりました。シャペロンと破骨細胞の関係などについてももう少し深く勉強しなければならないと感じました。
第240回 2025/05/15
Nature. 2025 Apr;640(8058):534-542.
Micronuclear collapse from oxidative damage
「協調的な栄養素捕捉が、がんの進化上の利点となる」
紹介者:新居 真由香
癌細胞の生存は、栄養素をはじめとする資源をめぐる厳しい競争に依存すると長らく考えられてきましたが、本研究では癌細胞間における協調的な相互作用が集団としての生存や増殖において重要な役割を果たすことを明らかにしました。特に、アミノ酸が不足する環境下において、癌細胞が相互に協調し集団として生存能力を高める仕組みが働いていることが示されました。その具体的なメカニズムとして、癌細胞がアミノペプチダーゼCNDP2を細胞外に分泌し、細胞外オリゴペプチドを加水分解することで、自他の細胞に遊離アミノ酸を供給し、増殖を促進することが明らかとなりました。さらに、CNDP2の機能を阻害することで、in vitroおよびin vivoの腫瘍増殖が有意に抑制されることが確認されました。以上の結果から、CNDP2は癌における栄養協調メカニズムの中核を担う酵素であり、癌治療の新たな標的となる可能性が示されました。
本研究では、低密度環境でがん細胞の増殖が起こりにくいという現象に対し、その背後にある「細胞間協調」のメカニズムを探ることで、CNDP2という新たな因子を同定した点が非常に興味深いと感じました。CNDP2の癌種での役割が異なるという報告もあり、更なる機能の解明が期待されます。
第239回 2025/05/13
Science. 2024 Aug 30;385(6712):eadj8691.
Micronuclear collapse from oxidative damage
「酸化傷害による微小核崩壊」
紹介者:金野 琢人
細胞には核膜の完全性を保持する機序が備わっており、損傷を受けた核膜はいくつかの核膜修復タンパク質によって修復されます。核膜修復を担うESCRT-Ⅲ複合体は、LEMD2やCHMP7によって核膜破裂部位にリクルートされ、核膜修復に寄与します。これまでに、一次核の膜修復機構は良く研究される一方で、染色体を含む微小核の完全性を制御する機序については良く分かっていませんでした。微小核は、染色体異常の一つで、破裂することで染色体粉砕(Chromothripsis)を引き起こすことが知られています。Chromothripsisは遺伝子の変異が一斉に起こることで、がんの進行に寄与します。本研究では、微小核の破裂が、ミトコンドリア近傍で発生しやすいことを見出し、ミトコンドリア由来の活性酸素種(ROS)が微小核崩壊を引き起こす分子レベルのメカニズムを解明しました。
まず筆者らは、微小核を3D観察し、ミトコンドリア近傍に存在する微小核が破裂しやすいことを示しました。微小核と一次核のプロテオーム解析とKEGG pathway解析では、微小核にてミトコンドリアに関連するタンパク質がエンリッチしていることが明らかとなりました。そこで、筆者らは、ミトコンドリア由来のROSが微小核崩壊に寄与していることを検討するため、過酸化水素を用いてROSを増加させ、微小核の変化を観察しました。数種類の組織由来のがん細胞でROSを増加させると、すべてのがん細胞において、非処理群と比較して微小核崩壊が有意に増加していることを明らかにしました。
次に、ROSが膜修復タンパク質に与える影響を検討するため、膜修復タンパク質をコードするCHMP遺伝子を欠損させ、ROSによる微小核への影響を観察しました。するとCHMP7の欠損が、ROS増加による微小核崩壊を抑制させました。また、微小核におけるCHMP7を観察すると、CHMP7が蓄積していることを見出しました。このことから筆者らは、CHMP7の核外輸送について検討されました。先行研究から、ROSは核タンパク質の糖化であるO-GlucNACylationを促進することが知られています。そこでROS増加時のO-GlucNACylationを観察すると、核膜部でのシグナルが増加していること、XPO-1と核膜孔複合体が共陽性であったことから、輸送機能に干渉する異常な結合がROSによって増加している可能性が示唆されました。次に、CHMP7が核内に蓄積することが微小核崩壊に寄与するか検討するために、CHMP7の核外輸送シグナル(NLS)に変異を与えました。これによってROSが無くてもCHMP7が微小核に蓄積します。CHMP7のNLS変異は、ROSの増加無しで、微小核崩壊を増加させました。
筆者らは、膜修復タンパク質のCHMP7の蓄積がどのように微小核崩壊を誘導しているのか検討するため、微小核由来のCHMP7と相互作用するタンパク質をプロテオーム解析によって探索しました。すると、ROSを誘導させた微小核において、LEMD2がエンリッチしていることを発見しました。そこで、仮説として、CHMP7-LEMD2の過剰な相互作用が、微小核膜を歪ませることで、微小核崩壊を起こしていると考え、LEMD2欠損を行いました。LEMD2欠損は、ROSによる微小核崩壊を軽減させ、さらにCHMP7(NLS)変異を導入したCHMP7蓄積微小核でもLEMD2の欠損は微小核崩壊を抑制しました。また、ROSによるCHMP7のジスルフィド結合の増加も微小核崩壊に寄与することが考えられたため、CHMP7のシステイン残基をセリンに置換しました。これによってCHMP7の高次複合体の形成が抑制され、実際にROS増加時の微小核崩壊が減少していました。これらのことは、CHMP7-LEMD2の過剰な相互作用を抑制することで、微小核崩壊を防ぐことが示唆されます。
次に、実際のがん患者における微小核崩壊に着目しました。がん中心部では低酸素状態であり、ROSが産生されやすい状態でもあります。がん中心部では、cGAS陽性の微小核崩壊が見られていました。以上のことから、低酸素によるがんの進行に、微小核崩壊が関与していることが示唆されています。
本研究は、ミトコンドリア由来のROSが微小核の崩壊を促進する分子レベルのメカニズムを明らかにしました。破裂した微小核によって引き起こされる病理学的プロセスを標的とすることは、広範な低酸素状態を特徴とする腫瘍における治療目標となる可能性があります。
当研究室が着目している遺伝子も、核膜タンパク質をコードしており、核膜タンパク質について広く理解することは、今後の研究に役立つと思いました。がんに関連する微小核について、その周辺知識を勉強することは、基礎から応用まで知識を深めるいい機会でした。
第238回 2025/05/07
Bone Res. 2025 Apr 1;13(1):42.
「大腿骨頭壊死の治療に対するM2マクロファージ由来エクソソーム、好中球細胞外トラップ形成と内皮細胞表現型遷移の調節」
紹介者:大塚 果音
大腿骨頭壊死(ONFH)は血流障害による壊死を特徴とする難治性疾患であり、その詳細な分子メカニズムは解明されていません。本研究は、ONFHの発症に好中球が重要な役割を果たしていることをscRNA-seqにより明らかにしました。
好中球は骨免疫で働き、DAMPs刺激などにより好中球細胞外トラップ(NETs)を形成しネトーシスを起こします(NETosis)。また、NETs形成により内皮間葉転換(EndMT)を促進し内皮細胞による血管新生を負に制御することが報告されています。 大腿骨頭壊死モデルラットでは軟骨下骨の骨組織が崩壊し、ネトーシスが発生していることが確認されました。
また、M2マクロファージから放出されるエクソソーム(M2-Exos)は好中球の活性化とNETosisを制御することが報告されています。本研究では、M2-ExosがNETosisを抑制し、内皮間葉転換を負に制御することで、内皮細胞の血管新生能を維持することが示唆されました。さらに、この機能はM2-Exosが含むmiR-93-5pに寄与するものであることが示唆されました。in vivo実験では、ONFHモデルラットの壊死領域にmiR-93-5pを処理すると骨量低下と骨構造の崩壊が改善されました。
本研究は、大腿骨壊死に好中球のNETosisが関与することを特定し、NETosisの抑制にM2-ExosのmiR-93-5pが役立つことを示唆しました。これら分子メカニズムは新たなONFH治療標的として役立つ可能性があります。
本研究は骨疾患における免疫細胞同士の作用とその機能について明らかにし、骨代謝制御をエクソソームやmiRNAの観点から解析する内容でした。自身の研究対象であるゴーハム病は骨溶解部位に血管新生が起こりますが、本研究のようにマクロファージやエクソソーム放出が関わっている可能性があり参考になるものでした。
第237回 2025/05/01
Bone Res. 2025 Feb 25;13(1):28.
「Bifidobacterium animalis subsp. lactis A6は、腸内細菌叢の構成を調節し、酪酸の産生を高めることで骨と筋肉の損失を改善する」
紹介者:三瓶 千怜
筋と骨の全身的な損失は複雑な代謝性疾患であり、腸の機能不全に関連することが知られていますが、その詳しいメカニズムや治療法は不明です。そこで著者らは、腸の機能不全が筋と骨に及ぼす影響について調べ、さらにプロバイオティクスとして、Bifidobacterium animalis subsp. lactis A6 (B. lactis A6) による治療効果を明らかにしました。
著者らはまず、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)によりマウスに大腸炎を誘導したところ、マイクロバイオームの調節を伴って筋機能や筋量、骨量、骨密度などが減少していることがわかりました。次に、DSS投与マウスで減少していたBifidobacterium animalis subspeciesの中で、プロバイオティクス候補として期待されているlactis A6に着目したところ、B. lactis A6 がDSSによる筋骨格系への障害を軽減することがわかりました。また、混合抗菌薬ABXにより腸内細菌を除去したマウスにおいても、減少していたこれらの障害が、B. lactis A6 の投与によって改善されました。B. lactis A6 の作用としては、腸管における粘膜バリアの損傷や炎症を軽減させ、マイクロバイオームを調節することで筋骨格系への障害から保護していることが示唆されました。また、B. lactis A6 は、短鎖脂肪酸(SCFA)である酪酸の産生を増強しており、実際に酪酸の投与によっても筋骨格系への障害が改善されました。最後に、酪酸はNF-κB経路を抑制し、DSSによる炎症状態の緩和を通じて筋と骨の損失を軽減させることが示唆されました。
本研究から、腸機能不全によって引き起こされる筋骨格系の障害において、マイクロバイオームが重要な役割を果たすことが示唆されました。また、腸機能不全状態における、B. lactis A6のプロバイオティクスとしてのポテンシャルが明らかとなりました。本論文では、腸機能不全を介した筋骨格系の障害に対する効果が明らかとなりましたが、B. lactis A6が他のサルコペニアまたは骨粗鬆症モデルにおいてどのような効果をもたらすのかなど、B. lactis A6についてのさらなる機能の解明が期待されます。
第236回 2025/04/24
Nat Commun. 2023 Apr 10;14(1):2016.
「KIAA1199欠損は骨格幹細胞の骨芽細胞への分化を増強し骨再生を促進する」
紹介者:森田 茉奈美
骨髄間質細胞(BMSC) は、移植された際、分泌因子の産生によって骨再生を制御することができます。筆者らは、in vitroおよびin vivoにおいて、BMSCの分泌因子としてKIAA1199を同定しました。患者のKIAA1199の血漿レベルは骨粗鬆症骨折リスクと正の相関があり、患者のBMSCにおけるKIAA1199の発現レベルは骨形成分化能と負の相関がありました。KIAA1199 KD BMSCは、in vitroにおいて骨芽細胞分化能の上昇を、in vivoにおいて異所性の骨形成を示しました。また、KIAA1199 KOマウスでは骨量、骨強度、骨形成速度が増加しており、骨損傷後の治癒促進と、卵巣摘出術によるエストロゲン欠乏後の骨量減少の抑制を示しました。DNAマイクロアレイによってKIAA1199 KD hBMSCとコントロールhBMSCのトランスクリプトーム解析を行った結果、KIAA1199 KDによって最も発現が上昇した遺伝子として、OPNが同定されました。骨芽細胞やBMSCから分泌されたKIAA1199は、骨芽細胞に作用して何らかの経路でオステオポンチン産生を阻害することで、インテグリンを介したAKTおよびERKシグナル伝達経路を抑制し、骨芽細胞分化と骨形成を負に制御します。
以上より、KIAA1199は骨芽細胞分化と骨形成の制御因子であり、低骨量状態の治療標的となり得ることが示唆されました。
感想: BMSCの分泌因子による骨芽細胞分化制御についてとても勉強になりました。KIAA1199は以前からよく知られていたヒアルロン酸分解以外に、アクチン細胞骨格変化によるhBMSCの運動性制御や、本研究で示されたOPN産生抑制による骨芽細胞分化抑制など様々な機能が示唆されており、興味深いと思いました。
第235回 2025/04/22
Cell Metab. 2023 Feb 7;35(2):345-360.e7.
「ミトコンドリアの断片化とドーナツ型形成はミトコンドリアの分泌を高め、骨形成作用を促進する」
紹介者:立花 日向子
ミトコンドリアはエネルギー生成の役割に加えて、常に融合と分裂を繰り返し、細胞機能に影響を与える非常に動的な細胞小器官です。また骨芽細胞分化時に必要とされるリン酸カルシウムがミトコンドリアに含まれるという報告がありました。本研究では、骨形成中の成熟骨芽細胞において観察される独特の形態学的特徴であるミトコンドリアの断片化とドーナツ型形成がミトコンドリア由来小胞 (MDV) の生成を引き起こし、骨芽細胞前駆細胞や前骨芽細胞の分化と成熟を促進することを実証しました。尚、骨芽細胞特異的Col1a1-Creとミトコンドリアの標的配列を持つGFPを使用して、骨芽細胞のみがミトコンドリアマトリックスでGFPを発現する遺伝子操作マウスを開発し、頭蓋冠から抽出した骨芽細胞を使用しています。
骨芽細胞に分化誘導を掛け共焦点顕微鏡や走査透過電子顕微鏡等で観察したところ、分化誘導7日目にミトコンドリアの断片化とドーナツ型ミトコンドリアを確認されました。超高圧電子顕微鏡での観察においてドーナツ型ミトコンドリアからMDVが放出される様子も確認できました。
また骨芽細胞から分泌されたミトコンドリアとMDVを骨芽細胞に処理し、ALP染色と骨芽細胞分化マーカー遺伝子解析を行ったところ、in vitroで骨形成作用が促進することが分かりました。更にマウスの頭蓋冠に欠損手術を施しミトコンドリアとMDVを骨芽細胞に処理したところ骨再生が促進しました。
最近、CD38/cADPRカルシウムシグナルがアストロサイトからのミトコンドリアの細胞外放出を誘発することを報告されました(Hayakawa et al., Nature , 2016)。そこで、CD38/cADPRシグナルがミトコンドリア分泌の調節を通じて、骨芽細胞の成熟に重要な働きを果たすか調査したところ、Cd38ノックダウン骨芽細胞やcADPRを処理した骨芽細胞のALP染色や分化マーカーの解析から、骨形成誘導はCD38/cADPRシグナルを介してミトコンドリアの断片化とドーナツ型形成、およびミトコンドリアの分泌を促進することを示しました。
そしてミトコンドリア融合遺伝子Opa1ノックダウンとミトコンドリア分裂遺伝子Fis1過剰発現を介してミトコンドリア分裂とドーナツ型形成を促進すると、ミトコンドリアの分泌が増加し、骨形成が促進することも確認されました。更に筆者らは、Opa1発現を誘導するミトコンドリア融合プロモーターM1は骨形成を阻害するが、一方骨芽細胞特異的Opa1欠損は骨量を減少することも示しました。
以上より、成熟骨芽細胞のミトコンドリアが断片化またはドーナツ型形成をし、そこから出芽したミトコンドリア由来小胞(MDV)がCD38/ADPRシグナルによって細胞内に放出され、骨芽細胞前駆細胞と前骨芽細胞に取りこまれることでそれらの分化と成熟を促進することが示唆されました。
本論文は参考できる点が多く、特にエネルギー代謝だけでなくミトコンドリアの動的行動にも着目しようと思いました。
第234回 2025/04/17
Nat Commun. 2024 Mar 16;15(1):2384.
Long noncoding RNA Malat1 protects against osteoporosis and bone metastasis
「長鎖非コードRNA Malat1 は骨粗鬆症と骨転移を防ぐ」
紹介者:柴田 和楽
MALAT1は、高度に保存された数少ない核内ロングノンコーディングRNA (lncRNA) の一つであり、正常組織で豊富に発現しています。先行研究において、MALAT1が乳がんの肺転移を抑制することが同定されていました。一方、MALAT1ノックアウトマウスは生存可能で、発育も正常です。
生理学的および病理学的プロセスにおけるMALAT1の基本的な役割を明らかにするために、筆者らはハイスループットRNA-Seq解析をおこない、このlncRNAがヒトおよびマウスにおいて破骨細胞形成時に発現低下することを発見しました。
破骨細胞形成と骨粗鬆症におけるMalat1の役割をin vivoで検討した結果、驚くべきことに、マウスにおける Malat1 の欠損は、メラノーマや乳腺腫瘍細胞の骨転移や骨粗鬆症を促進しますが、これはMalat1 の遺伝的追加によって回復しました。また、骨粗鬆症と骨転移におけるMALAT1の臨床的関連性を検討した結果、破骨細胞系統におけるMALAT1発現の低下が、骨粗鬆症や、乳癌骨転移や骨肉腫を含む骨病変と関連していることが示唆されました。
Malat1欠損による破骨細胞形成促進のメカニズムを検討したところ、Malat1 KD細胞では破骨細胞形成が亢進しましたが、さらにNfatc1をKDすると破骨細胞分化がControlレベルまで抑制されたことから、Malat1欠損はNfatc1を介して破骨細胞形成を促進することが示唆されました。Nfatc1と結合するタンパク質として、Malat1との相互作用が報告されているTeadファミリータンパク質のうち、マクロファージ・破骨細胞特異的に結合するTead3タンパク質が同定されました。
したがって、Malat1はマクロファージ・破骨細胞特異的なTead3に結合することで、破骨細胞形成のマスターレギュレーターであるNfatc1へのTead3の結合と活性化を阻害し、その結果Nfatc1を介した遺伝子転写と破骨細胞分化が阻害されるというメカニズムが明らかになりました。
以上の結果から、MALAT1は骨粗鬆症と骨転移を予防するlncRNAであることが明らかになりました。
今回の論文では、今後の自分の研究にも生かせそうな内容が多く、非常に勉強になりました。特に、様々な実験法を用いて遺伝子・タンパク質間の相互作用を調べていて、Nfatc1とCtdnep1についても適切な方法で検討したいと思いました。
第233回 2025/04/15
Nat Commun. 2022 Jul 19;13(1):4174.
「ストマチンはERK経路を介して脂肪形成を調節し、脂肪酸の取り込みと脂肪滴の成長を制御する」
紹介者:折原 美咲
脂肪酸の取り込み、脂質の産生と貯蔵、脂肪滴(LDs)の代謝制御は、脂質の恒常性、脂肪細胞の肥大化、肥満と密接に関係しています。本研究では、脂質ラフトの主要構成成分であるストマチンが、関連するシグナル伝達経路を調節することにより、脂肪形成と脂肪細胞の成熟に関与していることを報告します。脂肪細胞様細胞において、2つのLDが接触すると、ストマチンとペリリピンが接触部位に動員され、これらによる分子複合体の凝集がLD-LD融合を促進することにより、LDの成長や肥大を誘導します。さらに、FAT/CD36トランスロカーゼなどのエフェクター分子を脂質ラフトにリクルートすることによって、細胞外環境からの脂肪酸取り込みを促進します。
ストマチン遺伝子導入マウスに高脂肪食を与えた場合、肥満、インスリン抵抗性、肝障害が認められますが、通常食ではこれらの表現型は観察されません。これらの結果は、肥満の発症メカニズム解明に新たな手がかりを与えるものです。普通食では、STOM Tgマウスにおいても、過剰なエネルギー供給がないため、体重は維持されますが、高脂肪食を与えると、過剰なストマチンが余剰栄養素とエネルギーを利用して脂肪組織の増加を促進します。ストマチンの上方制御は、脂肪酸取り込みとLDの成長を促進することにより、過剰な遊離脂肪酸を脂肪組織に蓄積させ、生体保護に寄与すると考えられます。遺伝子ノックダウンやOB-1によるストマチンの阻害は、PPARγ経路の抑制を介して脂肪分化とLD成長を阻害します。ストマチンによるPPARγへの作用にはERKシグナルが関与していますが、PPARγとは独立した別の経路が存在する可能性も示唆されます。
感想
脂肪細胞の成熟と機能について、とても勉強になりました。私が研究しているマウスでも脂肪形成関連遺伝子について調べてみたいと思いました。また細胞面積の分布を表すグラフについて参考にしたいと思いました。
第232回 2025/02/04
Nature. 2025 Jan;637(8045):496-503.
Mis-splicing of a neuronal microexon promotes CPEB4 aggregation in ASD
「自閉症スペクトラムにおいて、ニューロンのマイクロエクソンのミススプライシングは、CPEB4の凝集を促進する」
紹介者:早田 匡芳
私達は、破骨細胞分化におけるCpeb4という遺伝子の機能に着目して研究をしており、これまでに、Cpeb4が破骨細胞分化に必要とされる遺伝子であることや、核内で凝集体を作って、選択的スプライシングに関与しているのではないか、ということを報告してきました。
今回の論文では、Cpeb4タンパク質の神経細胞の細胞質での凝集のメカニズムと自閉症スペクトラム(ASD)との関連が明らかにされました。著者らの以前の論文では、ASD患者さんでは、Cpeb4 mRNAのマイクロエクソンという非常に短いエクソンが脱落している傾向があることが報告されていましたが、マイクロエクソンの有無がCpeb4タンパク質の性質にどのような影響を及ぼすかどうかは不明でした。
今回、神経細胞の脱分極後に、凝集体を作っていたCpeb4(機能的に不活性状態)が、細胞質に溶解することがわかりました(機能的に活性化状態)。また、凝集体形成には、Cpeb4のヒスチジンクラスターが関与していて、マイクロエクソン4があると、ヒスチジンクラスターと相互作用して、Cpeb4を溶解させることができますが、マイクロエクソン4がないと、Cpeb4は不可逆的な凝集体を作ってしまいました。そして、このマイクロエクソン4がないタンパク質の比率が上がってくると、正常なタンパク質も一緒に不可逆的な凝集体を形成してしまいました。このことは、マイクロエクソン4がないCpeb4の比率がある一定程度を超えると、自閉症を発症する患者が多いということと一致しています。
神経刺激に応答したCPEB4媒介遺伝子発現の可逆的制御を維持するために、神経細胞のCPEB4にマイクロエクソンが必要であると結論づけられました。
なお、神経細胞以外では、マイクロエクソン4を持たないCpeb4転写産物が一般的で、少なくとも、破骨細胞の細胞質では、凝集体を作っておりません。神経細胞以外の細胞では、凝集体の形成は、リン酸化などで制御されているようです。今回の論文の内容を、今後の我々のCpeb4の研究に活かせればと思います。
第231回 2025/01/17
Proc Natl Acad Sci U S A. 2023 May 30;120(22):e2220159120.
「オステオレクチンは成長板軟骨細胞の増殖を促進することで骨の伸長と体長を増加させる」
紹介者:佐藤 蓮
オステオレクチンは最近同定された骨形成成長因子であり、インテグリンα11に結合し、骨髄間質細胞によるWnt経路の活性化と骨形成分化を促進します。オステオレクチンは、胎児期の骨格形成には必要ではなく、成人の骨量の維持には必要であることが分かっていましたが、今回成長期のマウスにおいて成長板軟骨の増殖を増加させることで骨の伸長を促進していることを明らかになりました。
ヒトにおけるゲノムワイド関連研究では、オステオレクチンの16kb下流に、身長および血漿オステオレクチン濃度の低下と関連する一塩基変異体(rs182722517)があることが報告されています。本研究では、rs182722517の変異体を含むように編集されたヒト骨髄間質細胞は、対照細胞に比べてオステオレクチンの産生が少なく、骨形成分化も少ないことが示されました。これらの研究により、オステオレクチン/インテグリンα11は、マウスおよびヒトの骨伸長と体長を制御する因子であることが明らかになりました。
SNPに関する変化について着目した論文は自分で読んだことがなかったのでクロマチンのアクセシビリティに注目するような方法を知れて面白かったです。
第230回 2025/01/14
Nat Commun. 2023 Jul 17;14(1):4271.
The checkpoint inhibitor PD-1H/VISTA controls osteoclast-mediated multiple myeloma bone disease
「チェックポイント阻害薬PD-1H/VISTAは破骨細胞を介する多発性骨髄腫の骨疾患を制御する」
紹介者:中村 光希
多発性骨髄腫(MM)細胞は、破骨細胞(OCL)形成を促進する因子を放出して骨疾患を引き起こします。このような骨疾患に対する既存の薬剤は、破骨細胞の機能を標的としたものが多く、MM-OCL間の情報伝達に直接作用するような新規の薬剤の開発が求められています。
本研究では、MMP-13という分子がMM細胞由来の破骨細胞分化に重要であるという報告に基づき、その情報伝達について調査を行いました。
結果として、免疫チェックポイント分子であるPD-1HがMMP-13の結合パートナーとなり得ること。
MMP-13処理により、WTでは細胞骨格の再構成を経て細胞融合と骨吸収が誘導されるが、Pd-1h をノックアウトした細胞では骨吸収が誘導されないこと。
MMP-13/PD1Hのシグナルにより、c-Src/Rac1が活性化されてOCL分化やポドソーム成熟が制御されること。
MMモデルマウスにおいて、Pd-1h を欠損させるとMM由来骨溶解が軽減されることを明らかにしました。
以上のことから、MMP-13が単核細胞のPD-1Hに作用すると、c-Srcシグナルの活性化を介して、破骨細胞分化と骨吸収の亢進が誘導されると考えられます。また、今回報告されたMMP-13/PD-1H軸をターゲットとして多発性骨髄腫における骨疾患と免疫抑制の両方に対しての治療戦略の開発をもたらす可能性も考えられます。
免疫抑制に関連した分子とプロテーゼ活性を持つ分子が、それぞれの本来の活性と関係なく破骨細胞分化にかかわるという知見がとても興味深く感じました。
第229回 2025/01/07
Bone Res. 2024 May 15;12(1):29.
RUFY4 deletion prevents pathological bone loss by blocking endo-lysosomal trafficking of osteoclasts
「RUFY4の欠失は、破骨細胞のエンドリソソーム輸送を阻害することで病的骨減少を防ぐ」
紹介者:大塚 果音
破骨細胞は骨吸収中にカテプシンK(CTSK)などを含むリソソームを吸収間隙へ分泌しますが、リソソームをRuffled borderへ輸送するメカニズムは深く理解されていません。本研究は、破骨細胞のエクソサイトーシス経路を制御する新規因子としてRUFY4を同定しました。Rufy4 KOマウスは生理学的条件下でコントロールと比べ海綿骨量が増加しました。また、炎症性および閉経後骨粗鬆症モデルにおける病理学的骨量減少を改善しました。メカニズムとしては、RUFY4は後期エンドソーム上のRab7とリソソーム上のLAMP2との間のアダプタータンパク質として働き、それによってエンドリソソーム輸送、リソソーム成熟、CTSK分泌を制御し、骨吸収を促進します。したがって、RUFY4は骨量を制御する重要な因子であり、骨関連疾患の新たな治療標的となりうる可能性があります。
GSDMDも同じく破骨細胞のエクソサイトーシスを制御する因子として報告されています。RUFY4が後期エンドソームと一次リソソームの融合を促進するのに対し、GSDMDはその前の段階である初期エンドソームから後期エンドソームへの変換を抑制していました。既存の骨粗鬆症治療薬は破骨細胞と骨芽細胞のカップリングを阻害することが問題になっていますが、エクソサイトーシス経路の制御はこの課題を解決する方法として着目されていることが分かりました。
第228回 2024/12/24
Mol Cancer. 2023 Mar 31;22(1):66.
TGF-β signaling promotes cervical cancer metastasis via CDR1as
「TGF-βシグナル伝達は、CDR1asを介して子宮頸がんの転移を促進する」
紹介者:内田 侑那
世界中の女性に最も一般的ながんの1つである子宮頸がんは、原発腫瘍の早期転移を伴う場合、予後不良や治療転帰不良に関連します。転移にはEMTが関連すると考えられていますが、子宮頸がんにおけるEMTの根本的な分子メカニズムは完全には理解されていません。
本研究では、著者らはまず、TGF-βによって子宮頸がん細胞のEMTを誘導し、環状RNAの発現を解析しました。その結果、EMTの誘導によってCDR1asの発現が有意に上昇することが示されました。また、RIPアッセイにより、CDR1asはIGF2BP1(Insulin-like growth factor 2 mRNA-binding protein 1)と結合すること、IGF2BP1はm6A修飾を受けたSlugのmRNAに優先的に結合し、Slugの発現を安定化させることが分かりました。
以上のことから、著者らの研究は、CDR1asとm6AがTGF-βシグナル伝達を活性化し、子宮頸がんの転移を促進することを示し、これらが子宮頸がんの治療標的となる可能性を示唆しています。
環状RNAが、miRNAではなくタンパク質と相互作用することで、がんの転移を促進するという点が興味深かったです。Transwell assayや創傷治癒アッセイの方法について勉強になりました。今後、自分の研究でもEMTを検討してみたいと思いました。
第227回 2024/12/20
Nature. 2024 May;629(8012):652-659.
Paternal microbiome perturbations impact offspring fitness
「父親のマイクロバイオームの乱れは子孫の適応度に影響を与える」
紹介者:三瓶 千怜
生体における腸内細菌叢の重要性は近年さらに注目されており、腸内細菌叢が乱れた状態であるディスバイオーシスは、身体全体の生理学的応答を引き起こすことが報告されてきています。また、抗生物質の使用による影響など、母親のマイクロバイオームが子孫に影響を与えることも報告されています。しかしながら、父親が子孫の健康に与える影響は、母親による影響よりも間接的であると考えられ、父親のマイクロバイオームが子孫の健康に与える影響はほとんど不明でした。
本研究では、抗生物質などによりディスバイオーシスを引き起こしているオスマウスの子孫は、低出生体重や重度の成長制限、早期の死亡となりやすいことが明らかになりました。ディスバイオーシスさせたオスでは、レプチンシグナルの障害や精巣代謝プロファイルの変化、精子中のsmall RNAペイロードの再マッピングなどが引き起こされました。また、ディスバイオーシスさせたオスマウスの精子は、母親となるメスマウスの胎盤重量を減少させ、胎盤の機能不全を引き起こすことが示唆されました。さらに、一度ディスバイオーシスを引き起こしても、マイクロバイオームを回復させると、子孫への悪影響がレスキューされることが分かりました。
今回の結果から、父親のマイクロバイオームが母親の胎盤機能に影響し、さらに子孫の適応性をプログラムすることが示唆されました。今回紹介した論文の約1ヶ月後に、父親の食生活が精子RNAを介して子孫の健康に影響を与える、という論文がNatureに報告されており、その注目度が窺えました。したがって、父親のマイクロバイオームが子孫に影響を与える、詳細なメカニズムについて解明されることが期待されます。また、妊娠中では、マウス及びヒトにおいて、抗生物質の曝露が子孫の身体に様々な影響を与えることが報告されており、今回のオスマウスの結果が、ヒトにどれほど当てはまるのかといった点も興味深いと思いました。
第226回 2024/12/13
Proc Natl Acad Sci U S A. 2023 Jan 10;120(2):e2216814120.
「成長ホルモン放出ホルモンのアゴニストが脊髄性筋萎縮症マウスの病態を改善する」
紹介者:木村 勇太
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、SMN1の突然変異によって引き起こされる、子供や若年成人に影響を与える重度の常染色体劣性神経筋疾患です。SMAは、脊髄α運動ニューロン(αMN)の変性をはじめとして、筋麻痺や萎縮、その他の末梢の変化を引き起こします。成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)とそのアゴニストMR-409は、筋萎縮を抑制し、神経保護や抗炎症機能を発揮します。今回の論文では、MR-409による治療が体重増加の誘発、運動行動の改善、筋線維の萎縮の抑制、神経筋接合部の成熟を促進したことが報告されました。さらに、MR-409はαMNの喪失を防ぎ、脊髄の神経炎症を減少させました。これらの結果は、MR-409がSMAの重症度を軽減し、この疾患の新しい治療法を表す可能性があることを示しています。
GHRHがSMAモデルマウスの骨格筋や運動神経の形態をレスキューすることが興味深かったです。また、SMAモデルマウスはCtdnep1 cKOマウスと表現型が近く、参考になることが多かったです。既存の治療薬との併用で、新規の治療法につながることが期待されます。
第225回 2024/12/10
Proc Natl Acad Sci U S A. 2023 Nov 14;120(46):e2312677120.
Sfrp4 is required to maintain Ctsk-lineage periosteal stem cell niche function
「Sfrp4はCtsk系譜骨膜幹細胞のニッチ機能の維持に必要である」
紹介者:金野 琢人
Pyle病は皮質骨の菲薄化を伴った骨系統疾患で、Sfrp4が原因遺伝子です。以前筆者らは、Sfrp4全身KOマウスを作成し、海綿骨では古典的Wntシグナルの上昇が、皮質骨では古典的・非古典的Wntシグナルの両者が上昇していることを発見しましたが、Sfrp4 KOで皮質骨・骨膜が減少するメカニズムは良く分かっていませんでした。骨膜には、皮質骨の恒常性や修復、骨同化薬への応答に重要な骨膜幹細胞が存在しています。しかし、その骨膜ニッチの幹細胞を支配する局所またはパラクリン因子については未だに明らかではありません。そこで筆者らは、Sfrp4が局所因子として、骨膜幹細胞を介して皮質骨を制御すると考え、骨膜におけるSfrp4の機能を解析しました。
まず、Sfrp4が骨膜で発現していることをRNA-scopeで示しました。Sfrp4全身欠損マウスの骨膜の細胞はコロニー形成能が低下していること、骨芽細胞分化能が低下していることを明らかにしました。次に、骨膜の幹細胞に着目するため、先行研究で行われたCtsk陽性の骨膜の幹細胞(PSC)についてのRNA-seqを再解析しました。すると、分化ヒエラルキーが最も高いPSC、分化能が低下したPP1, PP2細胞において非古典的Wntシグナルに重要な遺伝子(Wnt5b, Ryk, c-Junなど)の発現が高いことが明らかとなりました。一方で、Wnt1やAxinといった古典的Wntシグナルに重要な遺伝子の発現はほとんどありませんでした。次に、Sfrp4 KOによる骨膜幹細胞への影響を検討するために、骨膜の細胞をフローサイトメトリーによって、幹細胞の割合を解析しました。Ctsk系譜の細胞数に変化はなかったものの、Sfrp4 KOではPSCの割合が減少していました。さらに、骨-軟骨前駆細胞のマーカーであるTHY1.2陽性の細胞が減少していることも明らかにしました。これらの結果をin vitroでも解析するため、PSC, PP1, PP2をソートしてコロニーを形成させた後、シングルクローンを再度培養することで、分化ヒエラルキーについて解析しました。ソートしたPSCは、分化ヒエラルキーの低い細胞に変化していることを明らかにし、特にPP2の割合が高いことを明らかにしました。さらに、これら幹細胞の自己複製能と多分化能について検討するため、それぞれのコロニー形成アッセイ(CFU)を行うと、通常のCFU-Fでは変化がなかった一方で、骨芽細胞・軟骨細胞に関するCFU-OB・Chondroでは、KOでコロニーが低下していること、脂肪細胞に関するCFU-Adipoでは、KOでコロニーが増加していることを明らかにしました。以上のことは、Sfrp4が、Ctsk系譜骨膜幹細胞において正しく骨芽細胞系列に分化する能力を維持する役割を示唆しています。
より詳細なSfrp4 KOによる骨膜細胞への影響を明らかにするために、バルクRNA-seq解析とGO解析およびReactome解析を行いました。KOでは、細胞外基質、Wnt、PTH関連遺伝子の減少が見られ、特に、組織修復や骨石灰化などの経路の低下が見られました。以上を踏まえて、骨折とPTHによる骨膜の応答を解析することにしました。Sfrp4 KOでは骨膜幹細胞の応答の低下を伴った骨折治癒が不全となることが観察されました。PTH応答に関しては、PTHで通常増加するPSCが、KOでは増加しないことと、PTHによる皮質骨の骨同化作用がKOで起こらないことを明らかにしました。以上のことから、可溶性WntアンタゴニストであるSfrp4が、Ctsk系譜の骨膜幹細胞/前駆細胞の機能を調節することを明らかにしました。本研究は、骨膜の幹細胞と前駆細胞を制御するシグナル分子と経路を解析し、これらは骨恒常性の維持、骨再生、骨同化薬物への応答などに関与するメカニズムの理解を深め、骨の脆弱性や骨再生の障害に関連する疾患に対する治療法を提供する可能性があります。
骨膜幹細胞のオートクリン/パラクリン因子に関する議論・展望が挙げられ、Pyle病を含む皮質骨脆弱性・骨再生不全に対する新たな治療薬への応用が期待される論文だと思いました。本研究は、今年のBone Biology Forumで講演を行ったRoland Baron先生の研究で、講演内でも少し取り上げられていました。骨膜研究を行っている自分にとって興味深い内容でした。
第223回 2024/12/06
Cancer Lett. 2024 Apr 1:586:216611.
Loss of Claudin-1 incurred by DNMT aberration promotes pancreatic cancer progression
「DNAメチルトランスフェラーゼの異常により引き起こされるClaudin--1の喪失は、膵臓がんの進行を促進する」
紹介者:新居 真由香
タイトジャンクションの主要な構成要素であるClaudin-1は様々な腫瘍において二重機能を有すると報告されており、膵臓癌におけるその重要な役割は不明です。本研究では、Claudin-1が膵臓癌組織で抑制されており、不良な予後と関連していることを見出しました。さらに、KPCマウスで膵臓特異的にClaudin-1をノックアウトすると、膵臓病変の発生が早まり、悪性度が高くなり、全生存期間が短縮することを示しました。同様に、Claudin-1ノックダウンもin vitroで膵臓癌細胞の増殖、遊走、幹細胞化を促進しました。したがって、Claudin-1が膵臓における極めて重要な癌抑制因子であることを報告しました。またClaudin-1の抑制が、異常なDNMT1およびDNMT3AのアップレギュレーションとClaudin-1プロモーターの過剰メチル化を誘導することを見出しました。さらに、DNMT阻害剤SGI-1027が、膵臓癌細胞の増殖、EMTおよび幹細胞性を阻害し、抗膵臓癌作用を有することを示しました。
以上より、本研究は、Claudin-1が膵臓癌における新規腫瘍抑制因子であり、DNMT1/3A異常によるエピジェネティックな抑制が膵臓癌の発症と進行を促進する重要な因子であることを示しています。また、DNMT阻害によるClaudin-1の抑制を標的とすることが、より効果的な膵臓癌治療のための戦略である可能性も示唆されました。
Claudin-1やDNMTの発現量に合わせて様々な膵臓癌細胞を用いていた点が興味深かったです。抗クローディン18.2抗体であるゾルベツキシマブが胃癌に対して化学療法との併用で有効性を示しており、Claudinが効果的な癌治療に繋がることが期待されます。
第222回 2024/11/22
Nat Aging. 2024 Jul;4(7):926-938.
SGLT2 inhibition eliminates senescent cells and alleviates pathological aging
「SGLT2阻害は老化細胞を除去し、病理学的老化を軽減する」
紹介者:折原 美咲
加齢やストレスによって組織に老化細胞が蓄積し、それによって引き起こされる慢性炎症が、加齢関連疾患の発症・進展に関わっていることが明らかになってきましたが、病的な老化細胞を除去する薬剤で、大きな副作用の懸念がなく、臨床応用可能なものはありませんでした。以前より、カロリー制限によって寿命が延長することが知られていますが、カロリー制限によって寿命が延長した個体では、加齢に伴う老化細胞の蓄積が抑制されていることも知られていました。本研究では、糖尿病の治療薬として開発されたSGLT2阻害薬が老化細胞の除去を誘導するかどうかを検証し、老化細胞除去の基礎的メカニズムを解明することを目的としました。
高脂肪食によって肥満させたマウスにおいて、短期間のSGLT2阻害薬の投与を行ったところ、内臓脂肪に蓄積した老化細胞が除去されるとともに内臓脂肪の炎症が改善し、糖代謝異常やインスリン抵抗性の改善がみられました。これとは対照的に、短期間のインスリン投与によって肥満マウスの高血糖を改善しても、内臓脂肪に蓄積した老化細胞は除去されず、内臓脂肪の炎症も改善しないため、SGLT2阻害薬による老化細胞除去効果は、血糖の改善とは関連なく、特有の効果であることがわかりました。その作用機序を明らかにするためにメタボローム解析を行ったところ、SGLT2阻害薬の投与によって、AICARというAMPKを活性化する代謝産物が増加していることがわかりました。さらにAMPKの活性化は、特に悪性度の高い老化細胞でその発現レベルが上昇している免疫チェックポイント分子PD-L1を抑制することで、老化細胞除去機構を担う免疫系を活性化し、老化細胞除去を促進することが明らかとなりました。以上から、SGLT2阻害が老化細胞の内因性免疫監視を増強することにより、間接的な老化細胞除去効果を有することを示唆しています。
SGLT2阻害薬の投与は、高コレステロール血症によって形成が促進された動脈硬化巣から老化細胞を除去することで、動脈硬化プラークの縮小を促進しました。SGLT2阻害薬の投与によって、加齢に伴うフレイルの改善や早老症マウスの寿命の延長などを確認しました。本成果は、アルツハイマー病を含めた様々な加齢関連疾患の治療への応用の可能性を示唆するものです。
感想
細胞老化や、老化細胞の蓄積が発症に関与する加齢関連疾患についてとても勉強になりました。ブドウ糖負荷試験(GTT)、インスリン負荷試験(ITT)やカロリー制限など、自分の研究に活かしていきたいです。免疫についての勉強もするべきだと感じました。
第221回 2024/11/19
Nat Commun. 2024 Oct 4;15(1):8588.
Targeting osteoblastic 11β-HSD1 to combat high-fat diet-induced bone loss and obesity
「高脂肪食誘導性の骨量減少および肥満に抵抗するための骨芽細胞11β-HSD1標的化」
紹介者:森田 茉奈美
高脂肪食 (HFD) は肥満やそれに関連する代謝常症を引き起こすだけでなく、骨量の大幅な減少を誘発し、肥満者の骨折リスクを高めます。そのため、HFD誘導性の肥満と骨量減少を同時に抑制できる新たな治療戦略の開発が望まれています。グルココルチコイド (GC) 過剰は様々な代謝異常と関連しています。本研究では、HFD 誘導性骨量減少と代謝異常における骨格の 11β-HSD1 (GC活性化酵素)の役割を解明することを目的とし、さらに、11β-HSD1 が骨量減少とグルコース処理障害の両方に対処するための治療標的となり得るか検討しました。
HFD または 通常食を与えた WT マウスの骨において、GC シグナルの過剰な活性化を伴う 11β-HSD1 の異常な発現上昇が起こることと、この現象は、グルコース処理障害 → GC シグナルの過剰な活性化を伴う 11β-HSD1 の異常な発現上昇 → 骨量減少 の順に起きることを明らかにしました。また、骨芽細胞特的 Hsd11b1 cKOマウスでは、HFDによる骨量減少とグルコース処理障害が改善したことから、骨芽細胞 11β-HSD1 が HFD 誘導性骨量減少と全身性代謝異常に関わっていることが示唆されました。続いて、11β-HSD1 を過剰発現させたMC3T3-E1 細胞 (MC3T3-HSD1) とコントロールの細胞 (MC3T3-GFP) のRNA-Seq とATAC-Seq を行い、差があった遺伝子のうち「インスリンへの応答」「骨芽細胞分化の制御」「骨化の制御」の全てに関わる遺伝子である Egr2 に着目しました。MC3T3-HSD1 で低下した石灰化と Bglap mRNA 発現が、Egr2 過剰発現によって回復しました。また、MC3T3-HSD1では Glut4 と Pik3Cb 発現が減少し、グルコース取り込みが低下しましたが、Egr2 過剰発現によって回復しました。これらのことから、過剰な 11β-HSD1 による GC シグナルの過剰活性化は、 Egr2 の発現を抑制し、骨芽細胞の骨形成活性とグルコース取り込みを阻害することが示唆されました。最後に、骨芽細胞 11β-HSD1 の薬理学的阻害が HFD 誘導性骨量減少と代謝異常を改善できるかを検討するために、WT マウスに骨標的 11β-HSD1 阻害剤 (DSS)6-AZD8329を投与する実験を行いました。その結果、骨標的 11β-HSD1 阻害剤投与によってHFD誘導性の骨量減少とグルコース処理障害が改善しました。
以上より、骨芽細胞の11β-HSD1 発現上昇による GC 過剰活性化は、骨芽細胞のグルコース取り込みと骨形成活性を抑制し、HFD 誘導性の骨量減少、肥満、グルコース処理障害に寄与することが明らかになりました。また、骨芽細胞の 11β-HSD1 の標的化が肥満者の体重を減少させ、グルコース代謝を改善し、骨を強化するための有望な戦略になる可能性が示唆されました。
感想
骨芽細胞と全身の代謝との関係についてとても勉強になりました。In vivo と In vitro でのグルコース取り込みアッセイやエネルギー摂取量・消費量の測定方法など、今後の研究に活かしていきたいと考えております。
第220回 2024/11/15
Cell Mol Life Sci. 2024 May 3;81(1):204.
SIRT1 maintains bone homeostasis by regulating osteoblast glycolysis through GOT1
「SIRT1は、GOT1を介して骨芽細胞の解糖系を調節することにより骨の恒常性を維持する。」
紹介者:立花 日向子
NAD+依存性脱アセチル化酵素であるSIRT1は、オートファジーや代謝など、様々な生理学的・病理学的な細胞プロセスを制御することから、癌、神経変性疾患、心血管疾患などの老化関連疾患の予防および治療に役立つと報告されています。
実際に、SIRT1標的薬は、骨粗鬆症などの骨関連疾患に対する治療薬として注目されており、Prx1-Cre、Osx-Cre、またはCol1a1-Cre Sirt1ノックアウトマウスでは骨量の減少が報告されています。更に、骨リモデリングにおいて、骨芽細胞は大量の細胞外マトリックスを生成・分泌するために十分なエネルギーを必要なこと、更に解糖系は骨芽細胞の分化と機能にとって主要なエネルギー源の1つであることから、Sirt1と解糖系の関連があることも報告されています。しかし、Sirt1が骨芽細胞における解糖系をどのように制御し骨の恒常性に影響を与えるのか、その基本的なメカニズムについてあまり研究されていません。そこで筆者らは、タモキシフェン誘導性Col1a-cre/ERT2 Sirt1 cKOマウスを用いて出生後にSirt1を欠損することで、Sirt1が骨芽細胞における骨の恒常性の維持をするメカニズムの解明を試みました。
Col1a-cre/ERT2 Sirt1 cKOマウスは大腿骨遠位部において海綿骨と皮質骨は減少していました。また、Col1a-cre/ERT2 Sirt1 cKOマウスでは骨芽細胞の骨形成能と破骨細胞の骨吸収能が低下しており、前者が後者を上回った結果、骨量が減少することが明らかになりました。そして、メタボローム解析により、cKOマウスにおける解糖系の代謝産物が顕著に減少し、SIRT1が解糖系に影響を与えることが分かりました。更に、アセチローム分析によって、cKOマウスの大腿骨と頭蓋冠の両方でアセチル化レベルが上昇する11種類のタンパク質を発見し、その内、共通のリジンのアセチル部位を持つ4つのタンパク質(GOT1, MDH2, ATP5O, ATP5b)を選出しました。4つのタンパク質の内、SIRT1と共局在するグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ1(GOT1)に着目し、骨芽細胞におけるSIRT1ノックアウト、SIRT1過剰発現、SRT2104(SIRT1活性促進薬)やEX-527(SIRT1活性阻害薬)の処理、など様々な条件下で免疫沈降を行いGOT1のアセチル化レベルを検出しました。その結果、SIRT1がGOT1のアセチル化レベルに影響を与えることが明らかになりました。更に、Col1a-cre/ERT2 Sirt1 cKOマウスにGOT1阻害剤であるAOAを処理し、骨芽細胞の骨形成能を検討したところ、骨芽細胞の分化や石灰化は改善しました。
以上のことから、SIRT1がGOT1を脱アセチル化することにより、骨の恒常性を維持する為に骨芽細胞の代謝を調節する重要な役割を担うことを示します。
GOT1はクエン酸回路や電子伝達系と関連があることは報告されていますが、本論文では解糖系への影響を検討しており非常に興味深いと思いました。GOT1を研究する上で代謝経路全体に着目すべきであり、自分の研究に活かすべきだと感じました。
第219回 2024/11/05
Bone Res. 2023 Dec 14;11(1):64. doi: 10.1038/s41413-023-00300-w.
「感覚神経はペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼD (Cyp40)を分泌することにより破骨細胞形成を直接促進する」
紹介者:柴田 和楽
感覚神経は求心的な機能を持ちますが、近年、遠心的な作用を及ぼすことも報告されています。破骨細胞の生理的機能の制御において、間接的な感覚神経の役割が注目されています。しかしながら、破骨細胞に対する感覚神経の直接的な影響に関する証拠は不足しています。そこで本研究では、感覚神経の機能性神経ペプチドとその骨への影響に焦点を当てました。まず、iTRAQという質量分析法を用いてAxoplasm(神経軸索の細胞質)のタンパク質を同定しました。次に、感覚神経が骨恒常性に及ぼす潜在的な影響を調べるため、マウスに、イオンチャネルであるTRPV1に対する強力なアゴニスト作用をもつRTX (resiniferatoxin) を投与して感覚過敏を誘導しました。感覚過敏マウスは、骨形成能の低下と骨吸収能の上昇による骨質の低下が見られました。さらに、感覚ニューロンと骨髄単球を共培養させたところ、破骨細胞形成が有意に増加したことから、感覚神経が破骨細胞形成を直接促進することが示唆されました。iTRAQで同定されたAxoplasmタンパク質のうち、破骨細胞の増殖と分化に関連する17のタンパク質から、感覚神経の遠心性機能、特に破骨細胞形成の制御において重要な役割を担うCyp40を同定しました。さらに、感覚ニューロンから放出されたCyp40が破骨細胞に取り込まれる経路について検討した結果、Cyp40は非エクソソーム機構を介して移動することが示されました。次に、破骨細胞分化に重要な役割を果たすRas/c-Raf/p-Erk シグナルの関与を調べたところ、Cyp40がRas/c-Raf/p-Erkを負に制御することがわかり、またその上流の芳香族炭化水素受容体(AhR)と相互作用することにより、AhRタンパク質活性を負に制御し、その下流のRas/c-Raf/p-Erk シグナル伝達を抑制してNFATc1が活性化することで、破骨細胞形成が亢進することが示唆されました。これらの知見は、感覚神経が破骨細胞に作用する新規メカニズムについて新たな知見を与えるものであり、Cyp40阻害が骨粗鬆症における骨質の改善や骨損傷後の骨修復を促進する戦略としての可能性を示唆します。
本論文では、感覚神経による破骨細胞形成への影響がTRAP染色等で目に見えてわかり、興味深かったです。また、骨吸収活性評価の実験は、蛍光強度を測定するだけで評価でき、非常に簡単で便利だと思いました。
第218回 2024/10/29
Adv Sci (Weinh). 2023 Nov;10(32):e2303134.
「マウスにおけるTAT-融合CreリコンビナーゼおよびCRISPR/Cas9編集システムのin vivo子宮内送達は、Pten/p53欠損子宮内膜癌の組織病理を明らかにする」
紹介者:内田 侑那
Ptenおよびp53は、子宮内膜がんで最も頻繁に変異する腫瘍抑制遺伝子の2つです。しかし、他の組織に影響を与えることなく子宮内膜上皮細胞の条件付きおよび誘導性欠失ができるCre発現マウスモデルは存在しません。そこで、著者らは子宮内膜特異的かつ誘導性に遺伝子をKOする方法として、細胞透過性TAT-CREリコンビナーゼタンパク質の子宮内送達、子宮内膜異種移植、およびCRISPR/cas9技術を使用しました。TAT-CreやCRISPER/cas9を介したPten/p53の欠失から4か月後、ほとんどのマウスが高悪性度のEECおよびUCSを発症しました。UCSが上皮起源であることを検証するために、Pten/p53二重欠失上皮細胞を野生型の間質細胞および子宮筋腫細胞と混合し、免疫不全マウスに皮下移植したところ、高い核多形性と転移性を示すUCSが発症しました。また、qRT-PCR解析により、Pten/p53の二重欠失がEMTを引き起こすことが示されました。
本研究では、Tat-CreおよびCRISPR/Cas9技術を使用して、EC組織病理学におけるPtenおよびp53欠損の役割を明らかにしました。しかし、これら2つの技術は補完的であり、著者らは将来的に、更に強力なツールを構成する必要があると考えています。
第217回 2024/10/25
Nature. 2024 Jun;630(8016):437-446.
ROS-dependent S-palmitoylation activates cleaved and intact gasdermin D
「ROS依存性S-パルミトイル化は切断型/無切断型ガスダーミンDを活性化する」
紹介者:大塚 果音
GSDMDは炎症性細胞であるパイロトーシスやサイトカイン放出に関わるタンパク質です。炎症性カスパーゼによって切断されるとGSDMD-NTとなり、大きな膜貫通孔を形成することが知られています。しかし、本論文ではGSDMDの細孔形成にはCys191のパルミトイル化が重要であり、非切断のGSDMDでもパルミトイル化によって細孔を形成できることが報告されました。
GSDMDのパルミトイル化はインフラマソーム刺激やROSによって増強され、パイロトーシスを誘導します。パルミトイル化部位C191を変異させると細胞死の誘導が阻害されました。また、切断に障害を与えるD275を変異させると、切断型と比べ効率は下がるものの、パルミトイル化後に細胞死を誘導しました。これらパルミトイル化反応はパルミトイルトランスフェラーゼであるADHHC5/9によって媒介されることが示唆されました。
本論文の内容はこれまでの定説を覆すものでした。非定型ゴーハム病はGSDMD D275H変異による切断障害が原因であると考えられていますが、孔形成以外の理由にも新たに着目すべき点が生まれました。マクロファージ内でパルミトイル化が起こるメカニズム、非切断型が切断型と比べて効率が下がる理由について今後注目していきたいと思います。
第216回 2024/10/22
Cell Stem Cell. 2022 Apr 7;29(4):528-544.e9.
A cholinergic neuroskeletal interface promotes bone formation during postnatal growth and exercise
「コリン作動性の骨格神経は生後の成長と運動において骨形成を促進させる」
紹介者:金野 琢人
骨膜と汗腺は生後早期にアドレナリン作動性からコリン作動性へと神経が変換するCholinergic switchが行われます。IL-6ファミリータンパク質とその受容体gp130がこの変換に寄与することが知られていましたが、議論がなされていました。また、これまで交感神経は、骨異化作用を持つことが報告されていますが、骨膜のコリン作動性神経への変換による骨への影響や骨におけるコリン作動性神経の影響についても良く分かっていませんでした。本研究では、骨のコリン作動性神経の役割について着目しています。成体マウスには、コリン作動性神経マーカーであるVAChTが観察されており、これらは生後早期における交感神経除去剤の6-OHDAを投与することで骨幹部に見られなくなったことから、骨内コリン作動性神経は、交感神経由来であることが明らかとなりました。交感神経をコリン作動性神経へと変換する因子を探索するために、いくつかのIL-6ファミリータンパク質に着目しました。頸部交感神経から神経を採取し、IL-6を加えると、コリン作動性神経遺伝子の上昇、アドレナリン作動性神経遺伝子の減少が見られました。さらに、近接ライゲーションアッセイにより、IL-6の供給源を解析すると、骨膜近傍の骨格筋由来であることが明らかとなりました。次に、コリン作動性神経の維持に重要な全身Gfra2欠損マウスでの表現型を解析すると、メスマウスにおいて有意なコリン作動性神経の減少を伴った、骨量の減少が見られました。これは、破骨細胞に影響がなかったものの、骨細胞の形態異常とSost遺伝子の上昇が観察されました。この効果について、GFRα2-Nrtnシグナルを検討すると、骨細胞へのNrtn作用によって、骨細胞の生存が改善されました。また、Nrtn供給源について免疫染色で解析すると、コリン作動性神経由来であることが分かりました。最後に、IL-6は運動によって発せられるため、運動の効果を検討すると、運動によってコリン作動性神経の増加と骨量の増加を確認しました。一方で、IL-6を阻害して運動を行うと、これらの効果は見られなくなりました。以上のことから、運動によって上昇するIL-6が、コリン作動性神経の変換を上昇させ、これによるNrtn因子の供給が骨細胞の生存に関わっていることを明らかにしました。
骨膜の神経が特殊であることを学びました。運動による筋骨-神経連関は、インパクトが大きいと思います。また、今年のBone Biology Forumでは、佐藤信吾先生も骨膜の神経について発表されており、骨膜神経の興味が深まっています。
第215回 2024/10/18
Nature. 2023 Apr;616(7958):806-813.
STING inhibits the reactivation of dormant metastasis in lung adenocarcinoma
「STINGは、肺腺がんにおける休眠転移の再活性化を抑制する」
紹介者:新居 真由香
転移はがんによる死亡の主な原因であり、腫瘍の種類によって数か月から数十年続く休眠期を経て発症することが多いです。休眠中のがん細胞は、NK細胞活性化リガンドやMHCクラスI分子を低下させ、免疫を介した標的化を回避しています。一方、休眠から覚醒した細胞は再度、免疫監視を受けやすくなります。そこで、本論文では肺腺がん転移モデルを用いて、休眠中の転移進行抑制の免疫機構を明らかにしました。腫瘍固有の免疫調節因子の遺伝的スクリーニングによって、インターフェロン遺伝子刺激因子STINGががん細胞の休眠からの覚醒を抑制している因子として見つかりました。STINGの活性化は、細胞周期に再進入した転移前駆細胞で増加しており、転移した腫瘍細胞におけるSTINGのプロモーターやエンハンサーの過剰なメチル化や、TGFβに応答して休眠状態に再進入する細胞でのクロマチン抑制によって低下します。肺腺がんのマウスモデルにおいて、STINGアゴニストを投与すると、T細胞やNK細胞依存的に休眠細胞の転移再出現が抑制されました。したがって、STINGは休眠状態の転移の進行に対するチェックポイントとなり、腫瘍再発予防に対する治療的標的になり得る戦略を示しています。
発見したがん転移に関する因子STINGががん治療に繋がるという点が興味深かったです。この論文をはじめ、休眠転移やSTINGアゴニストに関する論文が増えてきているため、これらのトピックに注目していきたいです。
第214回 2024/10/11
Cell. 2023 May 11;186(10):2062-2077.e17.
「哺乳類の筋原性細胞融合因子で偽型化されたエンベロープウイルスは、遺伝子送達のために骨格筋を標的とする」
紹介者:木村 勇太
筋ジストロフィーの治療法の一つとして、筋肉に遺伝子を導入する方法があります。しかし、体内に広がるすべての筋肉に対し、筋肉特異的に遺伝子を導入することは非常に難解です。
今回の論文では、エンべロープウイルスであるVSVに注目し、筋肉の発生過程で細胞が融合する過程を調節するMyomakerとMyomergerの2種類の分子を融合因子として利用したレンチウイルスを開発しました。
この新しいレンチウイルスを用いて、生後2週間の筋ジストロフィーモデルマウスに、2週間ごとにマイクロジストロフィン遺伝子(小型化ジストロフィン)を導入した結果、全身の筋肉の20%から40%にジストロフィンが発現し、筋ジストロフィーの症状を緩和することが示されました。この送達方法は、筋肉への効果的な遺伝子送達の手段となることが期待されます。
今回の論文の内容は、様々な遺伝性筋疾患に応用可能な画期的な新規治療法となる潜在性をもつため、非常に興味深い内容でした。また、筋肉の病態評価を様々な観点から行っている点も、自分の研究に役立てたいと考えています。
第213回 2024/10/08
Nature. 2024 Aug;632(8023):157-165.
Inhibition of IL-11 signalling extends mammalian healthspan and lifespan
「IL-11シグナル伝達の阻害は哺乳類の健康寿命と寿命を延ばす」
紹介者:三瓶 千怜
非感染性の慢性炎症は、老化の重要な特徴です。今回の論文では、加齢にしたがってIL-11レベルが上昇すること、IL-11を遺伝学的及び薬理学的に阻害することで老化のスピードが遅くなり、寿命が延長することが示されました。
著者らはまず、肝臓、内臓脂肪、及び腓腹筋において、加齢とともにIL-11の発現が上昇し、IL-11の下流シグナルで、老化に関わることが知られているERK-AMPK-mTORC1軸が制御されることを示しました。Il11ra1またはIl11の欠損マウスでは、雌雄ともに加齢による肥満、代謝低下、老化マーカーの上昇、及びフレイルから保護され、テロメア長とmtDNAコピー数の改善が見られました。また、75週齢からのIL-11中和抗体の投与により、100週齢での代謝や筋機能が改善し、フレイルが減少しました。このメカニズムの一つとして、IL-11中和抗体により、内臓脂肪では白色脂肪のベージュ化に重要であるUcp1の発現が顕著に上昇していることを見出しました。実際に、内臓脂肪ではIL-11中和抗体の投与がベージュ化マーカーの発現を上昇させ、白色脂肪細胞のサイズを減少させました。最後に、IL-11中和抗体投与により、オスでは22.5%、メスでは25%平均寿命が延長することが分かりました。また、肉眼で観察された腫瘍はIl11ノックアウト又はIL-11中和抗体投与により減少することが分かりました。
今回の論文では、さまざまな手法による老化の評価方法を学ぶことができました。特に、qPCRによるテロメア長とmtDNAコピー数の定量方法が勉強になりました。また、2年齢のIl11ノックアウトマウスの毛並の良さと、IL-11中和抗体により寿命が20%以上延長した結果が印象的でした。一方で、今回の結果から、加齢によってIL-11レベルが上昇するメカニズムや、IL-11が全身的に影響を与え、寿命を延ばしたメカニズム、IL-11の生理学的な意義など、新たな疑問が多く提起され、さらなる研究が期待されます。
第212回 2024/10/04
Nat Chem Biol. 2023 Oct;19(10):1205-1214.
Chemoproteomics reveals microbiota-derived aromatic monoamine agonists for GPRC5A
「ケモプロテオミクスは、GPRC5Aに対する微生物由来の芳香族モノアミンアゴニストを明らかにする」
紹介者:三瓶 千怜
微生物叢は、多様な代謝産物の産生を介して宿主の生理機能や疾患を調節しますが、そのタンパク質標的や作用機序には不明な部分が多く残っています。
今回、光親和性レポーターを用いてケモプロテオミクスを行ったところ、腸内細菌叢の代謝物であるインドール-3-酢酸(IAA)が、代謝酵素やトランスポーターなどの他に、オーファンGPCRであるGPRC5Aと相互作用することが示唆されました。また、PRESTO-Tangoを用いることで、インドール代謝物の中ではトリプタミン(TA)のみがGPRC5A-βアレスチンのリクルートを活性化させることが分かりました。GPRC5Aシグナルを活性化する微生物種について調べたところ、Ruminococcus gnavus, Morganella morganii, Enterococcus faeciumなどの脱炭酸酵素による、TAやフェネチルアミンといった芳香族モノアミンの産生が重要であることが示唆されました。また、GPRC5Aのより強力なアゴニストを探索したところ、合成芳香族モノアミンである7-フルオロトリプタミン(7FTA)が、GPRC5AのシグナルをTAの約5倍強力に誘導することが分かりました。最後に、GPRC5Aをノックアウトした大腸がん細胞HT-29を作製し、RNA-seq解析を行ったところ、GPRC5Aの発現が、がんシグナル経路や細胞代謝の調節に関与することが示唆されました。
今回行われたケモプロテオミクスの手法は勉強になりました。また、TAはAhR(芳香族炭化水素受容体)のリガンドとして働くことが知られていますが、今回の論文では、ADRA2AやDRD2, HTR4といった複数の受容体にβアレスチンをリクルートすることが示されました。Discussionでは、TAがGPRC5Aのアゴニストとしてそれほど強力ではない可能性が言及されていましたが、GPRC5A以外にも複数の受容体シグナルを活性化させるTAが、骨代謝において担う機能を調べることは興味深いと思いました。
第211回 2024/09/24
Nat Commun. 2024 Aug 6;15(1):6697.
「骨は白色脂肪組織の褐色化を制御し、Schnurri-3が制御するSLIT2分泌を介して食事誘発性肥満から保護する」
紹介者:森田 茉奈美
Schnurri-3-/- マウスは、白色脂肪組織 (WAT) の褐色化の増加によってグルコース恒常性とインスリン感受性が改善し、高脂肪食誘導性肥満 (DIO) に抵抗性を示します。骨芽細胞特異的Shn3 KOマウス (Shn3Osx) と脂肪細胞特異的Shn3 KOマウス (Shn3Adipoq)を作製した結果、 Shn3Adipoq マウスではなくShn3Osx マウスがShn3-/- マウスで見られたDIO抵抗性の表現型を示しました。このことからShn3-/- マウスのDIO抵抗性は骨格に起因する表現型であることが示唆されました。
In vitro でShn3f/f の脂肪細胞をShn3Osx またはShn3f/f の骨芽細胞と共培養した結果、Shn3Osx の骨芽細胞と共培養した脂肪細胞はcontrolと比較してベージュ脂肪細胞マーカー遺伝子の発現が高くなっていました。また、In vivo で、WTのWATをShn3Osx またはShn3f/f に移植して4週間後に取り出した結果、Shn3Osx に移植されたWATの方がControlと比較して褐色化が進んでいました。以上より、in vitroとin vivoの両方の系でSHN3を欠損した骨芽細胞が脂肪細胞の褐色化を促進することが示されました。
筆者らは骨芽細胞によって分泌されShn3 制御下でWATの褐色化を調節する因子としてSLIT2のC末端フラグメント (SLIT2-C)を同定し、骨芽細胞が高脂肪食に曝されている期間に全身を循環するSLIT2-Cの主要な供給源であることを見つけました。最後に、筆者らはrAAV9-amiR-Shn3 を用いてShn3発現を抑制したマウスが、インスリン感受性の減少やDIO抵抗性を示すことを見つけました。
まとめると、筆者らは本研究で骨芽細胞におけるSHN3のSLIT2-C産生制御を介した新しい骨-脂肪シグナル伝達軸を確立し、骨粗鬆症とメタボリックシンドロームの両方に対処できる可能性のある治療標的を示しました。
脂肪細胞特異的にKOしても脂肪細胞が小さくならなかったのに、骨芽細胞特異的にKOすると脂肪細胞が小さくなっていたのが興味深いと思いました。Col1a1-CreでDullardを欠損させたマウスで脂肪に変化があるか気になりました。
第210回 2024/09/17
Genes Dev. 2023 Sep 1;37(17-18):818-828.
Stromal-derived NRG1 enables oncogenic KRAS bypass in pancreas cancer
「間質由来のNRG1が膵臓がんにおける癌遺伝子KRASのバイパスを可能にする」
紹介者:内田 郁那
KRAS変異は約90%のPDACで見られるドライバー変異です。KRAS変異阻害剤は初期では抗腫瘍活性を示しますが、その後腫瘍は再発します。著者らは、がん関連線維芽細胞CAFを調べ、CAFがシグナル伝達物質AktおよびErkを活性化することを見出しました。AktおよびErkはERBB2/3の主要な下流標的であり、ERBB2/3のリガンドであるNRG1がCAFで発現していることから、KRAS変異非依存的な細胞増殖が引き起こされるメカニズムとして、CAF由来NRG1がERBB2およびERBB3受容体型チロシンキナーゼを活性化することを明らかにしました。ERBB2/3またはNRG1の欠損によって、KRAS変異非依存的な増殖は阻害され、KRAS変異阻害剤との併用でこの効果は増強します。本研究結果は、PDAC患者におけるKRAS変異阻害剤の有効性を向上させることが期待されます。
【感想】
KRASG12DやKRASG12Cを標的とした分子標的薬の有効的な使用法が明らかにされることは、個人の遺伝子異常に対応したテーラーメイド医療の質を非常に向上させると思いました。ERBB2/3の発現が過剰だったことから、NRG1やERBB2/3を標的とした分子標的薬の膵臓癌に対する治療有効性に関心を持ちました。
第209回 2024/09/13
Nature. 2022 Jul;607(7917):163-168.
GREM1 is required to maintain cellular heterogeneity in pancreatic cancer
「GREM1は膵臓癌の細胞不均一性の維持に必要である」
紹介者:新居 真由香
膵管腺がん(PDAC)では、上皮系と間葉系のがん細胞集団が見られます。PDACの細胞不均一性は、疾患サブタイプの特定において重要な特徴ですが、異なるPDAC亜集団が相互作用する仕組みや分子機構については、完全には理解されていません。本研究では、BMP阻害因子であるGrem1がヒトとマウスで膵臓がんの細胞不均一性の重要な調節因子であることを明らかにしました。
マウスで樹立されたPDACでGrem1を不活性化すると、数日以内に上皮系から間葉系のPDAC細胞への転換(EMT)が引き起こされ、上皮系PDAC亜集団の維持には持続的なGrem1活性が必要であることが示唆されました。対照的に、Grem1を過剰発現すると、間葉化したPDACがほぼ完全に上皮化しました。
機構としては、Grem1は間葉系PDAC細胞で高発現しており、隣接する上皮系PDAC細胞のBMPシグナル伝達経路を抑制することによって、上皮間葉転換転写因子のSnail とSlugの発現を抑制し、EMTを阻害します。さらに、Grem1とBMPは上皮系と間葉系の細胞間で負のフィードバックループを形成し、持続的なパラクリンシグナル伝達パターンでPDACの浸潤を制御することが示唆されました。
研究に用いる膵臓がんモデルマウスの作製方法やメカニズム解明の手法について大変勉強になりました。膵臓がんにおいて、私が着目している遺伝子がBMPシグナルに関与している可能性があるため、この論文を参考に研究の遂行に努めたいと思いました。
第208回 2024/08/02
Nat Commun. 2022 Oct 30;13(1):6491.
Sexually dimorphic estrogen sensing in skeletal stem cells controls skeletal regeneration
「骨格幹細胞における性的二型性のエストロゲン感知が骨格再生を制御する」
紹介者:柴田 和楽
性的二型性組織は、性ホルモンによって制御される細胞によって形成されます。本研究では、エストロゲンなどの性ホルモンがどのように骨再生を制御しているのかを探るため、若年成体の雄、雌、卵巣摘出(OVX)マウスの骨折修復を解析しました。
まず、性ホルモンがマウスの骨折治癒に影響を与えるかどうかを調べるために、それぞれのマウスにピン固定された大腿骨を骨折させたところ、偽手術(Sham)マウスと雄マウスでは、OVXマウスに比べて大きいカルス(仮骨ともいう)が形成され、雄マウスとShamマウスを比較すると、Shamのカルスでは骨量と機械的強度が有意に減少していたことから、骨癒合は性的二型性を示す可能性があり、骨格再生は雌マウスの卵巣機能に依存していることが示唆されました。
筆者らの先行研究では、マウスの骨格幹細胞(mSSC)系譜と、骨折修復におけるその直接的な機能が明らかにされており、mSSCを枯渇させると、カルス形成が有意に減少し、骨折治癒が抑制されることを示されています。
そこで筆者らは、OVXマウスにおける骨治癒障害が、mSSCおよびその下流の骨・軟骨・間質前駆細胞(mBCSP)の数の減少によるものかどうかを調べました。その結果、骨折後のShamマウスに比較してOVXマウスのmSSCおよびmBCSPは有意に減少したことから、mSSC活性が雄マウスと雌マウスで異なる制御を受けており、特に、OVX環境に対する雌mSSCの細胞外応答は、増殖能と骨形成分化能を低下させ、OVX骨治癒障害の機序を提示する可能性があります。
筆者らは、卵巣摘出後のmSSCを介した骨格再生における変化は、エストロゲン依存的であると仮定し、OVX 骨折マウスにエストラジオール(E2)を持続投与した結果、完全にレスキューされました。しかし、精巣摘出(ORX)マウスに同様の処理をしても有意な変化は得られませんでした。
エストロゲン受容体依存性のSSC活性が、ヒトにおいても保持されているかどうかを調べた結果、Esr2(エストロゲン受容体2)の発現は閉経前女性に比べて閉経後女性および男性で減少していることがわかり、閉経後女性もE2濃度の増加に伴ってコロニー形成能(CFU)レベルと骨形成能の増加が見られました。
また、ESR2 KO mSSCにE2を投与しても反応しなかったことから、E2がSSCの活性を直接刺激する可能性があります。そこで、高度に局在化し、時間的に制御されたE2の送達が、OVX環境における骨折修復を改善しうるかどうかを検討した結果、局所的E2投与によって骨形成が増強され、SSCの増殖・骨形成能が増大することが示唆されました。
従って、エストロゲンを充填したPLGAナノ粒子によるSSCsの局所刺激は、骨折治癒から歯科インプラントに至るまで、様々な臨床場面において、女性の局所骨治癒を促進するための容易に適用可能な戦略であると考えられます。
感想
今回は、マウスへのE2の全身性の持続的投与と、局所的かつ一時的な投与をおこなっており、ホルモン療法の副作用に対する対策を取っていたり、OVXだけでなく老齢マウスを用いた自然閉経での治療効果も確認していて、穴のない実験をしていると思い、勉強になりました。また、それぞれの実験から何を調べたいのか、まだ勉強不足な点も多かったため、これから様々な実験の意義についても調べようと思います。
第207回 2024/08/01
Proc Natl Acad Sci U S A. 2023 Nov 21;120(47):e2304492120.
「骨芽細胞系統のカルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼ2デルタおよびガンマは骨量と骨質を制御する」
紹介者:立花 日向子
【概要】
筆者らの先行研究では、骨細胞におけるカルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼ2(CaMKII)の役割とスクレロスチンの翻訳後制御の役割を確立しました。
本研究では、骨芽細胞と骨細胞における最も豊富なタンパク質であるデルタとガンマの条件付き共欠損( Ocn-cre:Camk2d/Camk2g ダブルノックアウト(dCKO))マウスを作製し、表現型について評価しました。
結果として、Ocn-cre:Camk2d/Camk2g ダブルノックアウトマウスは、重度の骨減少症および機械的特性が著しく低下した骨格の脆弱性を示しました。
また、dCKOマウスの骨芽細胞と破骨細胞の活性を解析したところ、controlと比べて、骨芽細胞の活性は低下、破骨細胞の活性は増加、破骨細胞分化を促進させるRANKLとその囮受容体であるOPGの比率は減少しました。
更に、リン酸の血中濃度が低下、FGF23レベルが増加したことから、表現型がFGF23関連低リン血症骨軟化症に類似していることが明らかになりました。
CaMKIIはニューロンや膵臓β細胞におけるタンパク質の輸送と分泌に重要な役割を担っていることは既知ですが、骨芽細胞における役割が未知な部分が多く、さらに解析する価値がありそうです。将来的には、Camk2d/2g dCKOマウスを用いて機械的負荷の役割を調べる予定のようです。
【感想】
CaMKⅡの基本的な役割を知ることが出来たこと、また新しい解析方法に触れることができ、勉強になりました。CaMKⅡの骨芽細胞と骨細胞での役割が解明されることを心より願っています。
第206回 2024/07/26
Bone Res. 2024 Jul 11;12(1):40.
「カスパーゼ-8はスクランブラーゼを介したホスファチジルセリンの露出と破骨細胞前駆体の融合を促進する」
紹介者:大塚 果音
完全な機能を持つ多核の骨吸収破骨細胞の形成には、単核破骨細胞前駆体の細胞融合が必須です。しかし、破骨細胞の融合を制御する正確な分子メカニズムは完全には理解されていません。本研究では、破骨細胞融合過程の初期段階において、RANKLを介したCaspase-8の活性化が起こることを特定しました。
scRNA-seqに基づく解析により、破骨細胞前駆体から成熟多核破骨細胞への分化過程において、アポトーシス機構の一部が活性化することが示唆されました。その後の破骨細胞前駆体の特性評価により、RANKLを介してCaspase-8が活性化されると、下流のCaspase-3が活性化されて原形質膜に移行し、スクランブラーゼXkr8を活性化することが確認されました。活性化Xkr8は、原形質膜の内葉に局在するホスファチジルセリンを外葉に転移させ、これを介して破骨細胞前駆体の細胞融合を促進します。in vitroでは、カスパーゼ-8の薬理学的阻害や遺伝的欠失により、破骨細胞の融合と骨吸収が妨げられることが確認されました。in vivoでは、単核破骨細胞前駆体特異的Caspase-8 cKOマウスにおいて骨量増加が確認されました。本研究は、破骨細胞機能を制御する新規経路の特定と、病的骨吸収を特徴とする疾患に対する新たな治療戦略の確立に繋がることが期待されます。
本論文から、カスパーゼ経路が破骨細胞機能の制御に関わることが示唆されました。研究対象であるGsdmdはカスパーゼ経路に関与しており、ここから派生して、Gsdmdが破骨細胞の細胞死、破骨細胞機能の制御に関与する可能性が考えられました。実際に、炎症時、マクロファージでGsdmdをKOすると、パイロトーシスではなくアポトーシスが起こる報告を発見しました。今後はこれを参考に、Gsdmdが破骨細胞分化に関与するか調べていこうと思います。
第205回 2024/07/23
Cell Rep. 2022 Sep 20;40(12):111393.
SMN controls neuromuscular junction integrity through U7 snRNP
「SMNはU7 snRNPを介して神経筋接合部の完全性を制御する」
紹介者:折原 美咲
SMN1遺伝子のホモ接合性欠失や変異により発症する神経変性疾患脊髄性筋萎縮症 (SMA)の重要な特徴として神経筋接合部(NMJ)の障害が挙げられます。複製依存性ヒストンmRNAの3’末端プロセシングにおいて機能するU7低分子リボ核タンパク質 (snRNP) の集合におけるSMNタンパク質の活性が、NMJの完全性に必要であることを示しました。U7特異的Lsm10及びLsm11タンパク質を共発現させたところ、U7 snRNP集合が選択的に増強され、ヒストンmRNAプロセシングの欠陥が補正されました。またNMJ脱神経、シナプス伝達の低下、骨格筋萎縮などの構造的及び機能的異常をレスキューしました。さらに、U7 snRNP機能障害は、SMAマウスの脆弱な筋肉を神経支配するNMJにおいてシナプス構成タンパク質Agrinの選択的喪失を引き起こします。これらの結果は運動ニューロンと筋肉間の機能的なシナプス結合の維持におけるヒストン遺伝子調節の役割を示唆します。
SMAでもニューロン間で影響の出方に差が出るのが興味深かったです。NMJの写真がかなりきれいだったのが印象的でした。胚の実験でもアグリンやSMNについて調べてみたいなと思いました。
第204回 2024/07/16
English Seminar
ASBMR 2023 Oral Presentations: Skeletal Development and Disease
「骨格の発生と疾患」
Carol Wise-Variants associated with adolescent idiopathic scoliosis perturb an estrogen-sensitive Pax1-Col11a1-Mmp3 signaling axis.
「思春期特発性側弯症に関連する変異体は、エストロゲン感受性Pax1-Col11a1-Mmp3シグナル伝達軸を障害する」
Ronald V. Swanson-TYRA-300 Demonstrates Significant Increases in Growth and Bone Length in a Mouse Model of FGFR3-Related Skeletal Dysplasia.
「FGFR3関連骨格異形成モデルマウスにおいて、TYRA-300は成長と骨長の有意な増加を示す」
SHAWN HALLETT-Conditional Deletion of Runx2 in Cranial Base Chondrocytes Causes Midfacial Hypoplasia.
「頭蓋底軟骨細胞におけるRunx2の欠損は中顔面低形成を引き起こす。」
Nicha Tokavanich-The Role of Salt Inducible Kinases in Alveolar Bone Development.
「歯槽骨発生における塩誘導性キナーゼの役割」
Omar Al Rifai-Nfil3, A Novel PTH Target Involved in Bone Development.
「骨発生に関与する新しいPTH標的」
紹介者:金野 琢人
Carol Wise-Variants associated with adolescent idiopathic scoliosis perturb an estrogen-sensitive Pax1-Col11a1-Mmp3 signaling axis
思春期特発性側弯症(Adolescent idiopathic scoliosis;AIS)は女性に多く発症し、世界人口の1.5~3%の有病率となっています。AIS患者のマトリソームについてゲノムワイド関連解析を行うと、MMP14とCOL11A1の1塩基多型がAISと関連することを見出し、さらに女性においてはCOL11A1が顕著でした。COL11A1は基質分解酵素のMMP3を制御することが知られていましたので、Col11a1を欠損させた軟骨細胞においてMMP3の発現を検討すると、MMP3の発現増加が見られました。AIS関連のCol11a1変異を軟骨細胞に導入すると、欠損と同様にMMP3の発現増加が見られました。また、以前に発表者らはPax1不全もAISの原因であることを報告しており、Pax1欠損マウスでのCol11a1の発現を確認しました。Pax1欠損マウスでは、Col11a1の発現が低くなっており、一貫する結果が得られました。次に、AISにおいて性差が確認されていることから、エストロゲンシグナルについて検討するため、Esr1, 2を軟骨細胞においてRT-qPCRを行うと、Esr2の発現が高いことが見られました(Yu H et al,. eLife. 2024)。そこで、Esr2をノックダウン(KD)し、Col11a1の発現を確認すると、KDで上昇することが見られ、MMP3の発現低下も確認しました。Col11a1とEsr2を同時にKDすると、Col11a1単独のKDで上昇するMMP3が見られなくなりました。以上のことから、Esr2を介したエストロゲンシグナルは、Col11a1の発現を抑制し、Col11a1低下によってMMP3が上昇することで、AISの発症とその性差に関わっていることを明らかにしました。
GWASデータを用いた遺伝性疾患であるAISの性差の原因などを明らかにしており、難病の病態生理を理解する研究となっています。
Ronald V. Swanson-TYRA-300 Demonstrates Significant Increases in Growth and Bone Length in a Mouse Model of FGFR3-Related Skeletal Dysplasia
線維芽細胞増殖因子受容体であるFGFRは4種類あり、それらFGFR阻害剤は、抗腫瘍薬で用いられています。しかし、FGFR1阻害による高リン血症やFGFR2阻害による皮膚・爪の毒性、FGFR4阻害による下痢といったような副作用が見られています。FGFR3の機能獲得型変異では、低身長を呈する軟骨無形成症を発症するため、FGFR3を選択的に阻害する医薬品が求められます。本研究では、FGFR3を選択的に阻害する新規医薬品としてTYRA-300を開発しました。この阻害剤のIC50を検討すると、FGFR3のみ活性を持つことが分かりました。軟骨無形成症モデルのFGFR3変異マウスに対して、TYRA-300を投与すると、頭蓋骨の正常な発達や二次骨化中心の形成、Col10a1で標識される肥大軟骨細胞の正常な発達など、成長障害の改善が見られました。
現在、臨床試験第2相に移っており、FGFR3による成長障害や腫瘍への新規治療薬として期待されます。
SHAWN HALLETT-Conditional Deletion of Runx2 in Cranial Base Chondrocytes Causes Midfacial Hypoplasia
頭蓋骨は、軟骨結合といくつかの骨が形作っていますが、それらを制御する重要な分子経路は良く分かっていません。RUNX2の不全は頭蓋骨縫合早期癒合症を引き起こし、マウスにおいても頭蓋骨の異常が見られています。本研究では、Fgfr3-CreERT2を用いたRunx2の欠損を起こし、頭蓋骨の軟骨結合の表現型を解析しました。cKOマウスでは頭蓋骨のサイズが小さくなっており、軟骨結合部の骨化、軟骨の乱れを観察しました。細胞増殖の低下とアポトーシスの上昇も確認されました。肥大軟骨を観察するCol10a1に対する免疫染色を行うと、肥大軟骨細胞の増加が見られました。肥大軟骨細胞はRANKLを分泌することが知られているため、破骨細胞について観察すると、破骨細胞数の顕著な増加と骨芽細胞とのカップリングによる軟骨結合の異常が見られました。Runx2はFgfr3の発現を調整することが知られているため、FGFR3の発現を確認すると、cKOでFGFR3の発現上昇が見られました。これに伴って、FGFR下流のシグナルの増加が予想され、実際にErkシグナルの上昇が観察されました。以上のことから、軟骨結合におけるFgfr3陽性細胞は、Runx2によってFGFR3を調整することで、そのシグナル伝達を抑制し、軟骨結合の肥大軟骨細胞化とそれに伴った骨化を抑制することによって、正常な頭蓋骨形成に寄与していることが明らかとなりました。
頭蓋骨の発達にも重要なFGFR3とそれを制御するRunx2の働きが示されました。
過剰なFGFR3のシグナル伝達による頭蓋骨の異常について明らかにすることは、RUNX2変異やFGFR3変異における頭蓋骨形成不全への新規治療法の一旦を担うと思われます。また、頭蓋骨の発生について勉強する良い機会になりました。
Nicha Tokavanich-The Role of Salt Inducible Kinases in Alveolar Bone Development
骨形成促進薬であるPTHの下流では、cAMP-PKA経路が活性化されます。これによって、SIKと呼ばれるキナーゼが抑制されることが知られています。発表者らは以前、Sik2,3のKOがRANKL発現の抑制とSost発現の促進を伴った、骨量の増加を示したことから、SIK阻害剤が骨粗鬆症治療薬に応用できることを示唆しています。これまで、長管骨の表現型を観察してきていましたが、臼歯を支えるために重要な歯槽骨については不明でした。本研究では、Ubiquitin-CreERT2; Sik2, 3のKOが歯槽骨形成の遅延を示すという、長管骨の表現型とは反対であることが分かりました。歯の直下と歯の間における歯槽骨の骨化遅延、破骨細胞数の減少など、同様のマウスで見られた長管骨の表現型とは正反対でした。
部位によって作用が異なる点は興味深いと思いました。現在開発がなされているSIK阻害剤の歯における安全性について、さらに検討する必要があることが示唆されると思います。
Omar Al Rifai-Nfil3, A Novel PTH Target Involved in Bone development
PTHは間欠投与で、骨形成を促進することが知られています。そこで発表者らは、RNA-seq解析によって、骨芽細胞と骨細胞におけるPTH作用後の遺伝子発現を確認すると、Nfil3が両者でPTHによって上昇していることを見出しました。Nfil3はIL3によって活性化される転写因子で、特定の遺伝子の発現を抑制または活性化させることが知られています。Nfil3のChIPアッセイを行うと骨芽細胞において、Sp7、Runx2、Alplなどの骨形成関連遺伝子のプロモーターと結合していることが分かりました。骨芽細胞のNfil3を欠損させると、分化および石灰化の低下を観察しました。次にOsteocalcin-Cre; Nfil3 fl/flのcKOマウスを用いて、生体内における機能を検討すると、海綿骨の骨量に変化は見られませんでしたが、皮質骨において骨量の減少や断面積の低下、機械刺激への抵抗性が減弱していることが見られました。骨芽細胞、骨細胞マーカーの減少と血清の骨形成マーカーであるP1NPの低下も確認され、Nfil3が骨形成に重要な役割を持つことが明らかにされました。
PTHの標的遺伝子を同定し、骨形成促進薬の標的として開発を進めることは、当研究室でも行われています。本研究では、骨細胞でも上昇した遺伝子であるNfil3をピックアップし、その骨形成促進の機能を示しました。これらの研究は、新しい骨形成医薬に繋がり、骨粗鬆症治療薬などに応用されることが期待されます。
第203回 2024/07/09
Cell Rep. 2024 Apr 23;43(4):113999.
Depletion of Mettl3 in cholinergic neurons causes adult-onset neuromuscular degeneration
「コリン作動性ニューロンにおけるMettl3の欠損は成体発症の神経筋変性を引き起こす」
紹介者:木村 勇太
N6-メチルアデノシン(m6A)は、RNA代謝の多様な側面を制御する転写後RNA修飾です。運動神経におけるm6Aの機能を検討するために、細胞とマウスでm6Aメチル基転移酵素様3(METTL3)を欠損させました。
胚性幹細胞由来の運動神経細胞におけるMETTL3の欠損により、細胞の生存と神経突起伸長が減少しました。また、コリン作動性ニューロン特異的METTL3欠損マウスでは、神経細胞の消失と筋肉の脱神経を伴い、運動行動の進行性低下を示しました。m6Aの標的の中で、筆者らはTDP-43を同定し、その発現がエピトランスクリプトームの制御下にあることを発見しました。
したがって、m6Aシグナル伝達の障害は運動神経のホメオスタシスを破壊し、TDP43の調節不全を介して神経変性を引き起こすと考えられます。
RNA修飾の異常で、マウスの運動機能に大きな影響が出るという点が興味深かったです。行動実験や組織の解析、神経細胞へ分化させる実験など、自分の研究に活かせることが多く、勉強になりました。
第202回 2024/07/05
Bone Res. 2024 Mar 21;12(1):18.
β-Receptor blocker enhances the anabolic effect of PTH after osteoporotic fracture
「β受容体遮断薬は骨粗鬆症性骨折後のPTHの同化作用を増強する」
紹介者:立花 日向子
[実験の概要]
自律神経系は骨代謝の調節に重要な役割を担っており、交感神経の活性化は骨吸収を促進し、骨形成を阻害します。筆者らは卵巣摘出(OVX)マウスにおいて、骨折が交感神経の活動状態の促進、破骨細胞による吸収を促進、骨芽細胞形成を低下、結果として全身性の骨量減少を促進することを発見しました。また、ノルエピネフリン(ノルアドレナリンと同じ)はアドレナリンβ受容体(βAR)シグナル伝達を介して骨芽細胞において、副甲状腺ホルモン(PTH)が誘導する概日時計遺伝子Bmal1とRunx2の発現の阻害し、破骨細胞分化誘導因子RANKLの発現を促進することによってPTHによる骨同化効果を阻害することが分かりました。また、その効果はβ遮断薬であるプロプラノロールによって回復することを実証しました。この修復効果はPTHまたはプロプラノロール単独投与より優れています。この結果により、PTHとプロプラノロールの併用が骨粗鬆症患者の全身の骨量減少と再骨折リスクの低減に有効である可能性が示唆されました。
[感想]
骨粗鬆症性骨折後、骨量が減少することが興味深かったです。また、骨髄マクロファージにおける細胞培養実験も実験で取り入れてみたいと思いました。
第201回 2024/06/18
Adv Sci. 2023 Dec;10(36):e2303946.
Impaired Efferocytosis Enables Apoptotic Osteoblasts to Escape Osteoimmune Surveillance During Aging
「エフェロサイトーシスの障害 はアポトーシス骨芽細胞が加齢による骨免疫監視から逃れることを可能にする」
紹介者:森田 茉奈美
概要
アポトーシス中の骨芽細胞(apoOBs)のマクロファージによるエフェロサイトーシスは、骨の恒常性維持のために重要です。apoOBsは、しばしば老化した骨髄で蓄積し、炎症反応と進行性の骨量減少を引き起こします。本研究では、老化したマウスのapoOBsはCD47を高発現しており、CD47-SIRPαチェックポイントを介してエフェロサイトーシスによる除去を回避していることが同定されました。CD47とSIRPαの発現は、SIRT6が制御するPol Ⅱ pausing (RNA ポリメラーゼがプロモーター近傍で停止すること)によって調節されており、老化したマウスでは、SIRT6を発現しているapoOBsが減少しました。SIRT6を欠損したapoOBsは、miRNAを搭載したアポトーシス小胞(apoVs)を放出し、マクロファージの動員を遅延させました。
Cre依存性のrAAVベクターによるSIRT6の送達と、EC-ExosによるSIRT6活性化剤の骨組織への送達は、apoOBs除去を促進し、老化関連骨量減少を改善しました。
まとめると、今回の発見は、今まで知られていなかった骨免疫と骨の恒常性の関係を明らかにし、また、SIRT6が制御するメカニズムの標的化は、老化関連骨疾患に対する有望な治療戦略になり得ることが示唆されました。
感想
rAAVベクターを用いてCre依存的に目的遺伝子を過剰発現させる仕組みがおもしろいと感じました。免疫にもともと興味があったので、骨に関わる免疫チェックポイントの話を知ることが出来てよかったです。
第200回 2024/06/11
Nat Metab. 2024 Jan;6(1):141-152.
「セリン合成経路は、NFATc1の発現をエピジェネティックに制御することによって破骨細胞の分化を促進する」
紹介者:柴田 和楽
破骨細胞を含む、骨格系の細胞の適切な機能は、系統特異的な転写因子の活性化だけでなく、細胞の代謝にも依存します。遺伝子発現と代謝は相互に調節し合っており、外部刺激に応答して代謝酵素の発現が変化すると、細胞の同化と機能を支えるために必要な、特異的な代謝プロファイルがもたらされます。
破骨細胞前駆細胞がその分化を駆動する特異的代謝プロファイルを有するかどうかを検討したところ、破骨細胞の分化初期に、RANKLシグナルが、c-MYCを介したセリン合成経路関連酵素PHGDHとPSAT1の転写を介して、一過性にセリン合成経路を刺激することが示されました。
次に破骨細胞でPHGDHをノックアウトしたところ、ノックアウトマウスの破骨細胞形成と活性が低下したことから、破骨細胞形成初期におけるセリン合成経路の活性化が、生後の骨の恒常性を制御することが示されました。
セリン合成経路由来のアミノ酸であるセリンとグリシン、そしてPHGDHによって生成されるNADHやPSAT1によって生成されるαKGのようなセリン合成経路由来の代謝副産物に注目し、セリン合成経路がどのように代謝的に破骨細胞の分化を制御しているかをさらに調べたところ、SSP由来のアミノ酸や一炭素単位、およびNADH代謝ではなく、αケトグルタル酸(αKG)の添加によって、PHGDノックアウトマウスの破骨細胞分化が正常化しました。
さらに、破骨細胞形成初期にGluからαKGを生成するPSAT1の重要性を調べたところ、PSAT1をノックダウンした破骨細胞においても、αKG処理によって破骨細胞分化が正常化しました。したがって、破骨細胞形成の初期段階は、その分化に必要なαKGを産生するセリン合成経路の誘導に依存していることが示唆されました。αKGは、TCAサイクルの基質として機能するだけでなく、酵素反応の一部としてαKGをコハク酸に変換するジオキシゲナーゼの大きなファミリーの共基質でもあります。
PHGDノックアウトマウスの骨において、TCAサイクルにおけるαKGの下流代謝産物であるコハク酸で処理しても破骨細胞形成障害は改善されず、また 2-オキソグルタル酸依存性ジオキシゲナーゼ(2OGD)活性が損なわれ、セリン合成経路由来のαKGは抑制性シグナルのH3K9Me3, H3K27Me3の脱メチル化を促進しました。
また、セリン合成経路由来αKGは、JMJD3が介在するNfatc1遺伝子座のH3K27脱メチル化をサポートするのに必要であり、それによってNfatc1の転写が促進され、その結果破骨細胞の分化が促進されることが示唆されました。
最後に、PHGDH阻害剤のNCT-503によってPHGDH活性を薬理学的に低下させたところ、骨芽細胞の数や活性に影響を与えることなく、破骨細胞を介した骨吸収の増加を完全に抑制しました。
したがって、本研究では、破骨細胞分化におけるRANKL誘導性の代謝-エピジェネティック関連機構を明らかにし、セリン合成経路が骨粗鬆症治療の新たな治療標的であることが示唆されました。
破骨細胞分化にセリン合成経路やヒストン修飾が関連しているとは考えたことがなかったため、セリン合成経路関連酵素やヒストン修飾の機能などを調べるきっかけとなり、非常に勉強になりました。また、破骨細胞分化の過程で、早期分化と後期分化に分けてαKGやセリン合成経路関連酵素阻害薬の機能を調べる実験では、早期分化と後期分化で大きく違いが出ていたことから、自分が実験を行う際にも、気になる化合物があればぜひ取り入れたいと思いました。
第199回 2024/06/07
Nature. 2023 Sep;621(7979):602-609.
A vertebral skeletal stem cell lineage driving metastasis.
「転移を促進する椎骨骨格幹細胞の系譜」
紹介者:早田 匡芳
脊椎骨と大腿骨などの長管骨は、発生学的に由来が異なります。しかしながら、これまでに、脊椎骨と長管骨の骨格系幹細胞は、同じ特性を持っているのかどうかは不明でした。今回の論文では、従来の骨格系幹細胞集団からをさらに厳密に「未分化な」幹細胞を定義することができるエンビギンというマーカータンパク質が同定されました。骨格系幹細胞として分取されていた細胞群には、エンビギンという遺伝子が高く発現する細胞と低く発現する細胞が存在していて、エンビギンを低く発現している細胞が、より未分化性の高い骨格系幹細胞でした。さらに、脊椎骨由来の骨格系幹細胞を特徴づける遺伝子として、Pax1とZic1が同定されました。
骨は、がん細胞が転移する臓器で、患者さんの生活の質を著しく低下させます。前立腺がん、乳がん、肺がんどの様々ながんは、長管骨よりも脊椎骨に転移しやすい傾向にありますが、その理由は不明でした。今回、脊椎骨の骨格系幹細胞には、Mfge8という細胞外タンパク質が多く発現していて、そのMfge8が、がん細胞を引き寄せているということがわかりました。
最後に、ヒトでもマウスと同じように、脊椎骨に特有の骨格系幹細胞が存在していて、それらがやはりMFGE8を発現していて、がん細胞を引き寄せているということがわかりました。
今回の論文も、様々な角度から研究がなされており、骨格系幹細胞の研究を進めるうえで、非常に重要な論文になると思われます。Mfge8のノックアウトマウスは、骨代謝に影響が出なかったので、脊椎骨の骨格系幹細胞になぜMfge8が発現していて、がん細胞を引き寄せてしまうのかは、今後の研究課題です。また、骨格系幹細胞がどのように未分化状態を保ち、またどのように分化を開始するのか、その制御機構も今後の課題であると思われます。
非常に重要な論文なので、Extended Figuresを含み、すべての内容を説明しましたので、二回に分けて論文抄読会を行いました。。。
長時間の抄読会、失礼しました。
第198回 2024/05/31
Cell Rep. 2022 Jun 28;39(13):111001.
Loss of Stathmin-2, a hallmark of TDP-43-associated ALS, causes motor neuropathy
「TDP-43関連ALSの特徴であるStathmin-2の欠損が運動神経障害を引き起こす」
紹介者:折原 美咲
ALSは進行性の運動機能低下、呼吸不全、発症から3~4年での死に特徴づけられる神経変性疾患です。ALSのほとんどすべての症例で、運動ニューロンやその他の細胞において、RNA結合タンパク質であるTDP-43の核内消失や細胞質内封入が見られます。TDP43をノックダウンもしくは機能障害させたとき、ヒト運動神経において最も下方制御されている転写産物としてSTMN2が同定されました。STMN2の欠損がALSの病態形成に寄与しているという仮説を検証するために、恒常的STMN2 KOマウスと条件付きSTMN2 KOマウスを作製しました。STMN2の恒常的な欠損は、早発性の感覚・運動神経障害を引き起こし、運動が障害され、ALSで選択的に脆弱となる速筋疲労性運動単位の遠位神経筋接合部が劇的に変性します。しかし軸索や運動ニューロンは変性しない。またこれらの重症度はSTMN2用量依存的であり、STMN2 KOヘテロ接合体マウスは機能障害とNMJ脱神経を伴う緩徐進行性の運動選択性神経障害を示します。運動ニューロンにおけるSTMN2の選択的欠損は、同様のNMJ病態を引き起こします。
このように、今回の研究結果は、TDP-43病態によるSTMN2の減少がALS病態形成に寄与しているという仮説を強く支持します。
カイモグラフを用いて伸長速度を算出するのが興味深かったです。以前発表されていた方ではウェスタンブロットを用いて重合について調べていたので、目的は同じでも解析方法は一つではないことを学ぶことができました。また、NMJが形がわかるくらい、はっきり染色されていてきれいでした。軸索を数える実験や生存率を調べる実験などはすぐにできそうだと思いました。
第197回 2024/05/28
English Seminar
ECE Rare Bone Disease Symposium 2022
「希少骨疾患の診断で遭遇する共通課題の克服」
Challenges in Fibrodysplasia Ossificans Progressiva (FOP).
進行性骨化性線維異形成症における課題。
FGF23-related hypophosphataemic Ricekts/Osteomalacia.
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症。
Hypophsphatasia.
低ホスファターゼ症。
紹介者:大塚 果音
本日のEnglish seminarは、European Congress of Pathology 2022より、「希少骨疾患の診断で遭遇する共通課題の克服」の演題を取り上げました。当研究室で扱う疾患について、実際の症例や、診断における課題など、臨床的な視点から説明されていました。
進行性骨化性線維異形成症(FOP)は、骨格筋や筋膜などの線維性組織が進行性に骨化する希少疾患です。その原因として、ACVR1/ALK2遺伝子変異が報告されています。X線写真では異所性骨化が観察されます。異所性骨化は免疫反応によって誘発されるため、侵襲的な医療処置は避けられます。しかし、がんと誤診され生検が行われるなどの事例があり、FOPの認知度の低さが課題になっています。
FGF23はリン代謝に関わる重要なホルモンです。FGF23が関わる疾患には遺伝性のX染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)や、腫瘍性低リン血症性くる病・骨軟化症(TIO)があります。特にTIOは、他の骨疾患と誤診されやすく、長期にわたって症状が悪化した事例があります。臨床基準に従うだけでなく、病歴や遺伝的背景も考慮した診断が求められます。
低ホスファターゼ症は組織非特異的アルカリホスファターゼ酵素(ALP)の遺伝子変異を原因とする遺伝病です。ALPの機能喪失により、ピロリン酸からリン酸が生成されなくなります。ピロリン酸が蓄積し、血中や組織中のリン濃度が低下することで、骨の石灰化が阻害されます。骨以外にも、筋力低下や腎障害など全身に多様な症状が現れるため、患者に合わせた適切な治療法が必要とされます。
第196回 2024/05/24
Nat Commun. 2021 Aug 11;12(1):4860. doi: 10.1038/s41467-021-24859-2.
GOT1 inhibition promotes pancreatic cancer cell death by ferroptosis
「GOT1阻害はフェロトーシスによる膵臓がん細胞死を促進する」
紹介者:内田 郁那
膵臓がん細胞は、GOT1駆動型の特徴的な代謝経路を再配線します。GOT1は非悪性細胞では不要ですが、膵臓がん細胞の酸化還元バランスと増殖に不可欠です。GOT1とそれに関連する代謝ネットワークは、魅力的な治療の標的となる可能性があります。そこで、膵臓がんのこの特徴を利用し、GOT1ノックダウン細胞における標的代謝阻害剤の検査により、外因性シスチン、グルタチオン、および脂質抗酸化機構がGOT1阻害後の生存に不可欠であることが発見されました。
GOT1阻害は、シスチンの取り込み阻害剤または脂質抗酸化機構との組み合わせにより、酸化的、非アポトーシス的、鉄依存性の細胞死であるフェロトーシスを引き起こしました。そして、GOT1の阻害がミトコンドリアの酸化的リン酸化を阻害し、異化状態を促進することを突き止めました。その結果、細胞は遊離鉄を増やし、フェロトーシスに対する感受性を高めました。
フェロトーシスにおけるGOT1の役割は、他のいくつかの腫瘍においても以前からの研究の対象となっています。フェロトーシス感受性に影響を与える因子を明らかにすることは、がん治療への応用のために重要です。
第195回 2024/05/21
Nature. 2024 Jan;625(7995):557-565.
Nav1.7 as a chondrocyte regulator and therapeutic target for osteoarthritis
「関節炎に対する治療標的と軟骨制御因子としてのNav1.7」
紹介者:金野 琢人
変形性関節症(OA)は、軟骨の摩耗や骨棘の形成などにより疼痛を伴う疾患であり、80歳以上ではほとんどの人が経験するとされています。これまでの治療薬としては、対症療法のみであり、局所へのヒアルロン酸注入を行うこともありますが、根本的な治療は出来ず、疼痛・軟骨どちらに対しても効果的な治療薬が求められます。疼痛は、末梢の温感に関与するTRPチャネルや電位依存性Naチャネル(VGSC)が関わっていますが、軟骨におけるVGSCの研究はほとんどされていませんでした。
本研究では、OA患者でRNA-seqを行い、上昇してきたVGSCであるNav1.7に着目しました。軟骨細胞の電気生理学についても解析すると、Nav1.7は軟骨細胞におけるVGSCで最も活性が強いことが明らかとなりました。バイオロジカルな機能を検討するため、Nav1.7を軟骨または後根神経節特異的にKOするためのAgc1-Cre、Nav1.8-Creを使用してKOマウスを作成し、さらにOAを誘発させる半月板損傷(DMM)またはヨード酢酸投与(MIA)モデルを利用して解析しました。Agc1-Cre、Nav1.8-Creを用いたKOマウスは、OAの軟骨の改善、疼痛の改善が見られました。単独でCreを用いた場合、Agc1-Creでは、軟骨・疼痛のどちらも改善することが出来ましたが、Nav1.8-Creでは、軟骨の改善は見られないものの、疼痛の改善は見られました。さらに、Nav1.7の選択的阻害剤および臨床で用いられるNaチャネル阻害剤のカルバマゼピンを投与すると、OAの軟骨・疼痛を改善することを確認しました。次に、Nav1.7阻害によるOA改善の機序を調べるために、Nav1.7阻害後の軟骨細胞培養上清で分泌されたタンパク質(セクレトーム)を分子量100kDa以上、100kDa-30kDa、30kDa-10kDa、10kDa以下の4つに分けてそれぞれを培養軟骨細胞に与え、機能を調べると、100kDa-30kDaにおいて軟骨関連遺伝子の上昇、30kDa-10kDaでは破軟骨関連遺伝子の減少を確認しました。これらに寄与するタンパク質を同定するために、LC/MSを行うと、HSP70とMidkineがそれぞれで上昇しました。HSP70とMidkineを阻害すると、Nav1.7阻害剤投与で見られたOAの改善が見られなくなりました。Nav1.7阻害で上昇するHSP70とMidkineの産生機序を検討するため、Caイオン濃度に着目すると、Nav1.7阻害でCaイオンの濃度が細胞内で低下していることと、HSP70、Midkineの産生がされなくなることを見出しました。さらに、Caイオンを制御するNCXファミリータンパク質に着目し、siRNAを用いたNCX1を枯渇させると、Nav1.7阻害を行ってもHSP70とMidkineが生成されなくなりました。
以上のことから、Nav1.7阻害は細胞内のCa濃度を高くすることで、HSP70とMidkineを産生させ、OAの病態を改善させていることが明らかとなり、Nav1.7阻害剤がOA治療薬になることを示唆しています。
セクレトーム解析は非常に興味深かったです。軟骨細胞の分泌タンパク質でOA改善機能を持つものを同定し、それらのOA軟骨における機能と分泌されるメカニズムを示しており、きれいな結果であったと思います。カルバマゼピンを用いるなどの臨床応用を視野に入れた研究は、高いインパクトを持つと思いました。
第194回 2024/05/17
English Seminar
Structural insights into TDP-43 pathology in ALS and FTD
「ALSとFTDにおけるTDP-43病態の構造的洞察」
紹介者:木村 勇太
ALS-FTDの神経病理学的特徴として、TDP43の核から細胞質への 局在変化と細胞質内異常凝集があります。TDP43は通常、核内でRNAのプロセシングに関わっています。今回のセミナーでは、ALS-FTDにおけるTDP43病態とオートファジーによる異常凝集の除去について述べられています。
動画の前半では、TDP43の局在の異常とRNAのプロセシング異常の相互作用について示されています。TDP43標的RNAの大部分にメチル化(m6A修飾)を 見出し、孤発性ALS剖検脊髄で広範なRNAの過剰メチル化を発見されています。
動画の後半では、オートファジー抑制因子であるMTMR5の神経細胞における役割について説明されています。神経変性疾患で蓄積する毒性のあるタンパク質を除去する治療法としてオートファジーの活性化が期待されていますが、神経細胞ではオートファジー誘導されにくいことが知られています。発表者らは、神経細胞でオートファジーを抑制しているMTMR5という脱リン酸化酵素を見出しました。MTMR5の欠損はTDP43のオートファジーによる分解を促進することが示され、神経変性疾患の治療につながることが期待されます。
今回の動画で、TDP43の役割に関する知識が深まりました。TDP43の局在の変化について、オートファジーに着目することも面白いと感じました。
第193回 2024/05/14
Cell Commun Signal. 2022 Nov 24;20(1):188.
RRP9 promotes gemcitabine resistance in pancreatic cancer via activating AKT signaling pathway
「RRP9はAKTシグナル伝達経路の活性化を介して膵癌のゲムシタビン耐性を促進する」
紹介者:新居 真由香
膵臓癌は致死率の高い消化管癌であり、生存率は7%未満です。ゲムシタビンベースの化学療法は膵臓癌の治療選択肢の中心ですが、ゲムシタビン耐性という課題があります。そのため、膵臓癌とゲムシタビン耐性の根底にある分子メカニズムの理解を深める必要があります。
snoRNA(核小体低分子RNA)は、リボソームRNAやその他の細胞内RNAの転写後修飾と成熟に関与しており、最近の研究では、膵管腺癌(PDAC)、乳癌、大腸癌などの様々な癌において、snoRNAが発癌性の役割がある可能性が提唱されています。RRP9/U3-55Kタンパク質はU3snoRNA関連タンパク質ですが、膵臓癌の薬剤耐性におけるRRP9の役割は不明です。
また、IGF2BP1(インスリン様成長因子2mRNA結合タンパク質)は、胚発生や発癌において重要な役割を担っており、AKTシグナル伝達経路を介してPDAC細胞の増殖を促進することが示唆されています。しかしながら、膵臓癌におけるゲムシタビン耐性の促進におけるIGF2BP1の役割については報告されていません。
そこで著者らは、RRP9の発現が膵臓癌で増加し、RRP9がIGF2BP1のin vitroおよびin vivoでゲムシタビン耐性を促進することを発見しました。その機序として、RRP9がIGF2BP1のDNA結合領域と相互作用することによりAKTシグナル伝達経路を活性化することを示しました。本研究はRRP9を標的とすることにより、膵臓癌の潜在的な治療戦略を提供する可能性が期待されます。
第192回 2024/05/10
Nature. 2024 Apr 24.
Periportal macrophages protect against commensal-driven liver inflammation
「大動脈周囲マクロファージは、常在菌による肝臓の炎症から守っている」
紹介者:三瓶 千怜
健常な肝臓では、門脈を介して腸管から侵入してきた腸内細菌や関連物質による炎症を防ぐことができますが、そのメカニズムについてはほとんど不明でした。本研究では、門脈付近のクッパー細胞が、腸内細菌などによって引き起こされる炎症から肝臓を保護することが明らかになりました。
著者らは、肝臓の生体イメージング技術を用いることで、門脈域では中心静脈域よりも炎症反応が抑制されていることを見出しました。このことから、それぞれの領域の細胞を蛍光標識により回収する技術を確立し、シングルセルRNA-seqを行ったところ、門脈域には抗炎症性サイトカインであるIL-10とスカベンジャー受容体であるMarcoを高発現するクッパー細胞の亜集団が局在することが分かりました。この高発現していたMarcoは、細菌を捕食するとともに、IL-10の発現を増強させました。また、Marco陽性のクッパー細胞は、二次胆汁酸のイソアロリトコール酸によって増えることが明らかになりました。最後に、Marco欠損マウスでは、原発性硬化性胆管炎様の炎症表現型がもたらされることが示されました。
以上の結果から、常在細菌が門脈近傍の免疫抑制性クッパ―細胞を誘導し、その結果、肝臓の入り口で過剰な炎症を防ぐことが示唆されました。本研究において、門脈近傍の免疫抑制性マクロファージによる生体防御機構が明らかになったことで、肝臓の炎症性疾患に対する予防や治療法の開発への応用が期待されます。
第191回 2024/04/26
English Seminar
ASBMR 2023
Oral Presentations: Metabolism and Signaling in Osteoclasts
「破骨細胞における代謝とシグナル伝達 」
The serine synthesis pathway drives osteoclast differentiation through epigenetic regulation of NFATc1 expression.
セリン合成経路はNFATc1発現のエピジェネティック制御を通じて破骨細胞の分化を促進する。
Bap1 Promotes Osteoclast Function By Metabolic Reprogramming.
Bap1は代謝リプログラミングにより破骨細胞機能を促進する
Osteoclast Diversity Highlighted by Transcriptomic and Metabolic Analyses in vitro and in vivo
in vitroおよびin vivoにおけるトランスクリプトームおよび代謝解析によって明らかになった破骨細胞の多様性
Attenuation of NAD+ Metabolism in Osteoclasts Contributes to the Bone Protective Effects of Estrogens
破骨細胞におけるNAD+代謝の抑制がエストロゲンの骨保護効果に寄与する
Vitamin K-Dependent Carboxylation in Osteoblasts Regulates Osteoclastogenesis through Gas6
骨芽細胞におけるビタミンK依存的カルボキシル化はGas6を介して破骨細胞形成を制御する
紹介者:早田 匡芳
本日のEnligsh seminarでは、「破骨細胞における代謝とシグナル伝達」という2023年のアメリカ骨代謝学会の口頭発表の録画を視聴しました。これまでは、破骨細胞の分化に関し、転写因子やシグナル伝達に着目されてきていましたが、最近では、代謝に着目した研究が盛んに報告されるようになってきました。1番と2番の演題は、それぞれNature Metabolism、Nature Communicationsに論文が発表されています。
1
本研究により、破骨細胞におけるRANKL誘導性の代謝-エピジェネティック連関メカニズムが明らかになり、セリン合成経路依存的なα-ケトグルタル酸の合成がヒストンの脱メチル化とNfatc1転写に関連していることがわかりました。さらに、律速酵素であるホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(PHGDH)の阻害はエストロゲン欠乏による骨量減少を抑制することから、セリン合成経路の調節が骨粗鬆症の治療戦略として有望であることが示唆されました。
2
骨髄細胞における脱ユビキチン化酵素BRCA1関連タンパク質1(Bap1)の欠失(Bap1∆LysM)が、破骨細胞の機能を停止させるが、形成は停止させないことを発見しました。Bap1欠損破骨細胞は、シスチントランスポーターであるSlc7a11のプロモーターのユビキチン化ヒストンH2Aの占有を増強することにより、その機能をアップレギュレートしました。Slc7a11は、細胞の活性酸素種レベルを制御し、ミトコンドリアの代謝産物をクエン酸回路から方向転換させます。このように、破骨細胞においてBAP1はエピジェネティックな代謝軸を制御しているようであり、骨粗鬆症患者において骨形成を維持しながら骨吸収を抑える潜在的な標的であると考えられます。
3
破骨細胞のシングルセルRNA-seq解析を実施し、代謝、吸収、免疫特性において明らかに異なる2つの破骨細胞の亜集団の存在を明らかにしました。その割合は卵巣摘出マウスとコントロールマウスで異なりました。これらの知見は、病的な骨喪失に対する治療アプローチを改善するために、病的な破骨細胞のサブセットを標的とする可能性を支持します。
4
NADHのNAD+への酸化は、複合体Iの活性と電子伝達連鎖によるATPの生成に不可欠です。本研究では、エストロゲンの抗破骨細胞形成作用に対するNAD+代謝の寄与を検討しました。マクロファージ系で、NAD+のレベルを低下させたマウスでは(LysM-Cre; Nampt)、卵巣摘出による骨減少が抑制されました。これらの結果は、破骨細胞におけるNAD+レベルの増加が、エストロゲン欠乏症における骨吸収の増加に寄与していることを示唆しています。
5
ビタミンKは、骨粗鬆症の治療薬としても知られています。作用機序は、オステオカルシンのγ―カルボキシ化を促進することによるものとされていますが、今回の研究では、オステオカルシンではない別のタンパク質Gas6が骨代謝改善作用に重要そうだということが明らかにされました。γ-カルボキシラーゼ(GGCX)遺伝子を骨芽細胞特異的に欠損したマウスの骨は、骨量増加を示しましたが、これは、破骨細胞の減少によるものでした。一方、この表現型は、オステオカルシン欠損骨芽細胞とは異なる表現型であることから、別のγ―カルボキシ化を受けるタンパク質であるGas6に着目しました。その結果、骨芽細胞において、Gas6というタンパク質がγ-カルボキシ化を受けて、破骨細胞の前駆細胞に働きかけて、前駆細胞の融合に必須であることが示されました。本研究により、Gas6が破骨細胞の成熟を制御する新規の骨芽細胞由来γ-カルボキシ化タンパク質であり、ビタミンKの骨代謝改善作用を仲介する可能性が明らかになりました。
第190回 2024/04/23
Bone Res. 2024 Jan 25;12(1):6.
「加齢に伴うマクロファージによるグランカルシンの分泌は、骨折治癒過程において骨格幹細胞/前駆細胞の老化を誘導する」
紹介者:三瓶 千怜
骨格幹細胞/前駆細胞(SSPC)の老化は、加齢に伴う骨再生能力の低下の主な原因ですが、SSPCの老化の原因は依然として不明です。著者らのグループは以前、炎症促進性サブタイプや老化サブタイプによって産生されるGCAが、PLXNB2を介して骨の代謝回転を抑制することを報告しました。本研究では、カルスのマクロファージが加齢に伴いグランカルシン(GCA)を分泌することでSSPCの老化を引き起こし、骨折治癒を阻害することを明らかにしました。
若齢マウスにヒトrGCAを局所注射すると、SSPCの老化が誘導され、骨折修復が遅れました。また、単球/マクロファージにおけるGcaの遺伝子欠失は、SSPCの老化を軽減させ、高齢マウスの骨折修復を若返らせました。メカニズムとしては、GCAがプレキシンB2受容体に結合し、Arg2を媒介してミトコンドリアの機能不全を誘導することで、細胞老化や骨軟骨形成能の欠陥を引き起こすことが示唆されました。 一方で、GCAの中和抗体投与により、高齢マウスの骨折治癒は改善されました。
以上の結果から、カルス内の老化マクロファージがGCAを分泌し、PLXNB2を介してSSPCの老化を誘導することで、骨折治癒を阻害することが示唆されました。本論文において、GCAの中和抗体がSSPCの老化や骨折治癒を改善したことから、高齢者の癒合不全または癒合遅延に対する有望な治療法として期待されます。また、GCAが他の組織の老化に与える影響や、GCAの中和抗体が他の骨系統疾患に与える影響について、さらなる研究が期待されます。
第189回 2024/04/16
Nature. 2023 Sep;621(7980):804-812.
A multi-stem cell basis for craniosynostosis and calvarial mineralization
「頭蓋骨早期癒合症と頭蓋骨の石灰化における多系統の幹細胞の基礎」
紹介者:佐藤 蓮
頭蓋骨縫合早期癒合症は頭頂部の縫合部が早期に癒合する疾患群です。頭蓋骨縫合早期癒合症において、癒合を促進する骨芽細胞を産生する頭蓋側頭骨幹細胞の正体はまだ十分に解明されていません。本研究では頭蓋骨縫合早期癒合症における生理的な頭蓋骨の石灰化と病的な頭蓋骨の癒合の両方が、2つの異なる幹細胞系の相互作用を反映していることを示しました。それは以前に同定されたカテプシンK系統の幹細胞と本研究で同定したディスコイジンドメイン含有受容体2(DDR2)系統の幹細胞です。ヒトの頭蓋骨縫合早期癒合症に関連する遺伝子であるTwist1をCTSK+のCSCsのみで欠失させることはマウスで頭蓋骨縫合早期癒合症を起こすには十分ですが、癒合する運命にある部位においてはCtsk+CSCsの予期しない枯渇とそれに対応するDDR2+CSCsの拡大が見られ、DDR2+CSCsの拡大はCtsk+CSCsの枯渇に対し、直接的に適応していない反応です。DDR2+CSCsは完全な幹細胞性を示し、私たちの結果は縫合には2つの異なる系統の幹細胞系が存在し、両方の集団が生理的な頭蓋骨の石灰化に寄与していることを立証しました。DDR2+CSCsは典型的な造血骨髄形成を伴わない別の軟骨内骨化を媒介します。縫合部へのDDR2+CSCsの移植は癒合を誘導するのに十分であり、この表現形はCTSK+CSCsの共移植によって阻止されました。最後にヒトのDDR2+CSCsとCTSK+CSCsは異種移植アッセイにおいて保存された機能的特性を示しました。これら2つの幹細胞集団の相互作用は頭蓋骨の石灰化と縫合の開存性を調節するための新しい生物学的インターフェースを提供します。
第188回 2024/04/12
Nature. 2024 Feb;626(8001):1042-1048.
On the genetic basis of tail-loss evolution in humans and apes
「ヒトと類人猿における尾喪失の進化の遺伝的基礎について」
紹介者:大塚 果音
ヒト上科動物は進化に伴い尾を喪失しましたが、その遺伝的メカニズムは未解明です。本研究は、ヒト上科動物とそれ以外の霊長類を比較したゲノミクス解析により、ヒト上科動物特異的に、TBXT遺伝子の特定の部位にAluY配列が挿入された配列が存在することを同定しました。この挿入により、TBXTのExon6が欠損する選択的スプライシングが誘発されます。この変異が尾の表現型に影響するかを調べるために、TBXTの完全長型、エキソン欠損型の両方を発現するマウスモデルを作製しました。この結果、表現型として尾を持たない、もしくは喪失したマウスが確認されました。したがって、エキソン欠損型Tbxt遺伝子の転写産物が尾の喪失に関わる可能性が示唆されました。ただし、安定して尾が欠損する表現型を示すようになるには、他の変異が関与していると推測されます。
第187回 2024/02/02
Nat Commum. 2022 Jan 28;13(1):571.
「間葉系間質細胞由来のセプトクラストが発生骨化と骨折治癒中に軟骨を吸収する」
紹介者:金野 琢人
骨の発生では、間葉系細胞の凝集後に軟骨細胞へと分化し、肥大化軟骨細胞になるとVEGFを発現することで、血管をリクルートしますが、これには軟骨部位へと浸潤する必要があります。しかし、これまで軟骨の分解に寄与する細胞は議論がなされており、血管内皮細胞や破軟骨細胞、セプトクラストが挙げられてきていました。特にセプトクラストについては、in vivoまたはin situの評価がなされず、良く分かっていませんでした。
本研究では、発生・再生における軟骨基質の分解に寄与する細胞として、脂肪酸結合タンパク質Fabp5陽性のセプトクラストの由来と分化について解明しました。
セプトクラストは成長板付近の骨・軟骨境界部に存在しており、内皮細胞に隣接していました。また、セプトクラストは血管壁の幹細胞マーカーであるPdgfra, Fabp5陽性でした。電子顕微鏡での観察によると、小胞体が肥厚しており、アクチンフィラメントが豊富でした。3週齢マウスの大腿骨における希少細胞のセプトクラストについて調べるため、scRNA-seqを利用した細胞系譜を検討すると、セプトクラストは造血幹細胞系ではなく、骨端幹細胞由来であることが分かりました。
遺伝子発現に関して、基質分解に関するマトリックスメタロプロテアーゼ、Notch関連遺伝子が高いことが分かりました。そこで、Notchシグナルによってセプトクラストが分化するかを検討するため、血管内皮細胞由来のNotchリガンドであるDll4を骨端幹細胞に投与すると、Notch関連遺伝子だけでなく、セプトクラストで上昇していたFabp5, Mmp9の上昇を確認しました。In vivoの系についても検討するため、血管特異的なDll4の欠損を行うと、セプトクラストが見られなくなりました。以上のことから、セプトクラストの分化には、血管内皮細胞由来Dll4によるNotchシグナルが必要であることが明らかとなりました。
以上は、発生・成長段階でのセプトクラストについて見られており、成体マウスについては、セプトクラストが消失することを示していました。しかし、骨折を起こすと血管の形成に伴って、セプトクラストが再出現することが見られました。本研究は、骨発生・再生における疾患の病態解明に加え、骨折治癒の改善に関する治療戦略に役立つことが期待されます。
セプトクラストの系譜が、造血幹細胞系ではないことが印象的です。セプトクラストの働きとしては、軟骨分解のみが挙げられていましたが、その他にも軟骨細胞の脱分化といった別の役割があると、よりセプトクラストの重要性が示されると思います。まだ知名度が低い細胞ですが、研究対象としては興味深いと思います。
第186回 2024/01/19
English Seminar
ASBMR 2023 Annual Meeting
Symposium: Changing Paradigms: Exploring How Muscle and Bone Repair and Regenerate
「シンポジウム:パラダイムを変える: 筋肉と骨の修復と再生の仕組みを探る」
1, Lindsay Dawson, PhD-Inducing joint regeneration at digit amputation wounds in mice
2, Yuuki Imai, MD, PhD-Maintenance DNA methylation in skeletal muscle regeneration
紹介者:金野 琢人
Lindsay Dawson, PhD-Inducing joint regeneration at digit amputation wounds in mice
「マウスの指切断創における関節再生の誘導」
事故後の四肢切断は米国で190に1人起こっているとされており、十分な再生は出来ません。しかし、幼児の指先の切断後にはほぼ再生する事例も報告されています。マウスの研究においては、マウスの指先端であるP3での再生はされますが、第一関節より内側に位置するP2での切断では、十分な再生が起こらないことが見られています。
発表者は、マウスの第二指骨を切断し、成長因子ごとの再生への寄与について研究しました。
BMP2は軟骨細胞の増殖を促進し、内軟骨性骨化中心を形成することが明らかにされています。しかし、関節形成は出来ないため、発生段階で関節形成に関与するとされるBMP9による再生を検討すると、BMP9の投与は指先の関節腔の形成が成されました。さらに、FGF8の投与も、内軟骨性骨化中心の形成と関節の形成が成されました。FGF8の投与によって、関節に関するGDF5や関節腔に関するHes2、軟骨関連のPrg4とSox9の遺伝子発現が上昇していることを示しました。以上のことから、組織再生に関わる成長因子とその再生に関わるメカニズムについて示されました。
BMPは局所投与で異所性に骨化を起こすことが出来ますが、軟骨を形成させることについてはほとんど知らなかったです。BMPは14種類あり、BMP2, 4, 6, 7, 9には骨・脂肪分化を起こせますが、BMP3, 8についてはそういった機能はないといったように、それぞれ特徴があります Stem Cells and Development (liebertpub.com)また、BMP9はSox9などの軟骨関連遺伝子をノンカノニカルなシグナル(特にp38)で上昇させることが報告されているようでした。 Wiley Online Library、ScienceDirect今回の発表では、BMP9がPrg4発現を促進することで、関節腔を形成させることを示していました。BMPによる関節・軟骨形成について良く学ぶ機会となりました。さらにFGF8の投与も関節形成などの指骨再生に寄与することが示されており、四肢再生に関する重要な知見が得られました。
Yuuki Imai, MD, PhD-Maintenance DNA methylation in skeletal muscle regeneration
「骨格筋再生におけるDNAメチル化の維持」
筋肉の再生にはPax7陽性のサテライト細胞が必要です。サテライト細胞に関する研究は筋再生に重要で、一般的にサテライト細胞特異的なKOを行うことで、筋再生について検討しますが、サテライト細胞特異的Pax7-Cre(Fan)はCre-controlでも筋再生能が低下していることが報告されているため、コントロールマウスについてよく検討するべきことが示されました。現在は、Pax7-Cre(Gaka)を用いることで、Cre-controlの表現型が出ないようにもされています。
本研究は、DNAメチル化に重要なDnmt1をリクルートするUhrf1の筋再生における機能を示しました。Uhrf1は、DNA片側のみメチル化されているヘミメチル化状態の複製DNAにおいて、Dnmt1のリクルートによるメチル化を起こすような働きを持ちます。これにより、標的遺伝子は転写されなくなり、細胞機能へと影響を与えます。Uhrf1は筋再生時に上昇してくる遺伝子で、これのPax7-Creを用いた欠損は、筋再生が出来ていないことが明らかとなりました。さらに、Uhrf1欠損の筋肉を用いたMBD2-seq解析を行い、標的遺伝子に関してGO解析を行うと、骨化に関する遺伝子が上昇していることが分かりました。さらに、Uhrf1欠損細胞では、Sox9などの発現が上昇していることが見られ、筋分化の低下と増殖抑制が見られました。以上のことから、Uhrf1の欠損は筋再生がうまくいかないことと、DNAのメチル化が筋再生に重要であることが示されました。
Creを入れただけでも表現型が出るということは、これによって実験結果の解釈が大きく変わることもあるので、注意するべき点であった。表現型が出る理由としては、Cre遺伝子の挿入のされ方であり、遺伝子組み換えマウスのノックインのされ方や標的遺伝子の性質によって、表現型が出てしまうようです。Pax7-Creに関しては、ハプロ不全になるためPax7のエクソン部位に挿入されると生体に影響が出てしまいます。遺伝子組み換えについて考えさせられる内容でした。
Sox9の発現が上昇していることは、自分の研究と共通している点であるため、エピジェネティックについても興味を持ちました。
第185回 2024/01/17
Nature. 2023 Dec;624(7992):611-620.
CHIT1-positive microglia drive motor neuron ageing in the primate spinal cord.
「CHIT1陽性ミクログリアは霊長類脊髄の運動ニューロンの老化を駆動する」
紹介者:木村 勇太
加齢は脊髄関連疾患において重要な因子ですが、この関係のメカニズムはまだ理解されていません。これを解決するために、本論文ではヒト以外の霊長類(NHP)である、カニクイザルを用いて、シングル核RNAシーケンス解析と行動・神経生理学的解析を行っています。
その結果、運動ニューロンの老化とミクログリアの過活性化を伴う神経炎症が、脊髄老化の特徴であることが明らかになりました。メカニズムとして、老化した脊髄ではCHIT1(分泌型哺乳類キチナーゼ)の発現が上昇した神経毒性ミクログリアが存在していました。CHIT1陽性のミクログリアが運動ニューロンの周囲に局在し、pSmad2の亢進を介してSMADシグナルを活性化して、老化を誘発していることが明らかになりました。
さらに、ヒト運動ニューロンに対しても分泌型CHIT1が運動ニューロンの老化を促進する役割を果たすことを検証しました。
また、老化防止化合物であるアスコルビン酸が、CHIT1の老化促進作用を打ち消し、老化したサルの運動ニューロンの老化を緩和することを明らかにしました。
今回の研究結果は、老化した霊長類の脊髄の運動神経老化のメカニズムの一端を明らかにし、脊髄変性の新たなバイオマーカーと標的を同定するものとなります。
CHIT1によるpSmad2の亢進が運動神経細胞の老化につながるという点で勉強になりました。
第184回 2023/12/20
Nat Commun. 2023 Sep 22;14(1):5923.
Osteocyte CIITA aggravates osteolytic bone lesions in myeloma
「骨細胞のCⅡTAは、骨髄腫の骨溶解性骨病変を悪化させる」
紹介者:大塚 果音
多発性骨髄腫の特徴の一つに骨溶解があります。これは骨細胞を介した、破骨細胞による骨吸収の活性化、骨芽細胞による骨形成の減少によって起こることが知られています。しかし、骨髄腫の微小環境において、骨細胞がそれらを制御する詳しいメカニズムは完全に理解されていません。
本研究は、骨髄腫から分泌された2DDRが骨細胞CⅡTA発現を上昇させることで、骨溶解を悪化させることを示唆しました。詳しいメカニズムを調べた結果、2DDRはSTAT1/ IRF1シグナルを介してCⅡTA発現を上昇させ、CⅡTAはAP2αと共役してTnfsf11, Sostプロモーター領域に結合することが分かりました。プロモーターにおいては、H3K14アセチル化レベルを上昇させることで、それらの転写を活性化し、これによって破骨細胞の骨吸収促進、骨芽細胞の骨形成抑制が引き起こされることが示唆されました。また、骨髄腫患者の骨破壊と骨細胞発現CⅡTAの臨床的関連性について調べると、二つの間に正の相関関係がありました。
以上から、骨髄腫に誘発される骨細胞のCⅡTA発現は、骨溶解を悪化させることが示唆されました。この研究は、インテグリンαv/STAT1/CIITAシグナル伝達経路を標的とした、新たな骨髄腫誘発性骨疾患の治療戦略を提示します。
多発性骨髄について知ることで、骨溶解が起きるプロセス、ゴーハム病による骨溶解との違いについて理解を深めることが出来ました。先行研究にてゴーハム病患者さんが後に多発性骨髄腫を発症したと報告されていたので、共通点がないか探ろうと思います。
第183回 2023/12/01
English Seminar
骨細胞とホルモン作用: インとアウト(ASBMR2023、骨細胞プレミーティングプログラム、2023年10月12日)
Paola Divieti Pajevic, MD, PhD - Osteocytes in PTH action: More than just calcium(PTH作用における骨細胞: カルシウムだけではない)
Eugene Rhee, MD -Phosphate sensing and FGF23: The kidney/bone axis(リン酸感知とFGF23:腎臓/骨軸)
Hiroshi Takayanagi, MD, PhD -Estrogen and Semaphorin crosstalk in osteocytes and again(骨細胞におけるエストロゲンとセマフォリンのクロストークと再び)
紹介者:三瓶 千怜
本日は、ASBMR 2023 Annual Meetingの前日に開催されたASBMR 2023 Symposium: Osteocytes in Bone Health and Disease and as Therapeutic Target CellsのSession 2: Osteocytes and Hormonal Actions: In and Outを視聴しました。
PTHやPTH受容体についてのイントロから始まり、骨の恒常性やリモデリングにおけるPTHの役割について、8KbDmp1-caPTH1Rマウスや10KbDmp1-PPRKOマウスの表現型を交えながら紹介されました。また、lacuno-canalicularのリモデリングや機械的負荷による骨同化作用にもPTHが重要であることなど、これまで明らかになってきた骨細胞におけるPTHの作用が詳しく紹介され、勉強になりました。
FGF23は、腎臓のリン酸塩(Pi)の再吸収と1, 25 (OH)2 Dの産生を減少させることで、血中リン酸塩レベルを制御する骨由来のホルモンです。しかしながら、FGF23の産生を調節する因子については不明な部分が多く残っていました。FGF23が腎臓で作用することから、演者らは、腎臓がFGFを合成する調節因子を放出していると仮説を立てました。そこで、被験者の大動脈及び腎静脈サンプルを用いて、プロテオミクス及びメタボロミクスのスクリーニングを行ったところ、腎臓由来のグリセロール-3-リン酸(G-3-P)がFGF23レベルと強く相関することが分かりました。また、外因性のG-3-Pは、局所的なG-3-Pアシルトランスフェラーゼ媒介リゾホスファチジン酸(LPA)の合成を介して、骨及び骨髄のFGF23産生を促進することが示唆されました(Simic et al, 2020)。次の研究では、リン酸塩が腎臓の解糖系を亢進させてG-3-Pの合成を増加させることで、FGF23の産生を刺激することが明らかになりました(Zhou et al., 2023)。
腎臓における解糖系の亢進が、間接的に骨のホルモン分泌を促進し、さらに腎臓に作用するという臓器連関が非常に興味深い研究発表でした。
本口演では、骨細胞や骨芽細胞などで発現する骨保護因子Semaphorin 3A (Sema3A)について、globalノックアウトマウスの他にCAG-CreER+やDmp1-Creなどのノックアウトマウスによって明らかにされてきた役割が概説されました。また、骨芽細胞におけるSema3Aの発現制御や機能についても紹介されました(Hayashi et al., 2019)。最後に、骨細胞におけるRANKLのイントロンエンハンサーを同定し、そのイントロンエンハンサーをノックアウトさせた12週齢のマウスでは、破骨細胞形成の減少により骨量が増加することを示した論文についても紹介されました(Yan et al., 2023)。これまで明らかになってきたSema3Aの機能について広く理解することができ、大変勉強になりました。
今回選んだシンポジウムでは、骨細胞の多彩な機能について紹介され、どの発表も大変勉強になりました。これまでの研究から、骨細胞は、骨代謝制御だけでなく他の臓器にも影響を与える重要な存在であることが明らかになってきました。骨細胞特異的な欠損マウスには、8 kb Dmp1-CreやSost-CreなどのCreが用いられていますが、いずれも骨細胞以外の細胞での発現することが報告されていることから、やはり特異的なCreが必要とされていると感じました。近年広まりつつあるシングルセルRNA-seqなどの解析により、骨細胞でのみ発現するCreの樹立が期待されます。
第182回 2023/11/22
Cell Rep. 2023 May 30;42(5):112534.
「早期老化における核内膜タンパク質SUN2を介した小胞体ストレスの活性化」
紹介者:木村 勇太
小胞体ストレス応答は、小胞体内腔における誤って折りたたまれたタンパク質の蓄積によって引き起こされます。一方、ハッチンソンギルフォード症候群(HGPS)は早老症であり、LMNA遺伝子内の点突然変異によりプロジェリンと呼ばれる異常物質が産生されます。本研究では、HGPSにおける小胞体ストレス応答の活性化のメカニズムを検討しています。
核周縁部のプロジェリンによって、小胞体シャペロンであるGRP78を核周縁部で蓄積させ、小胞体ストレス応答関連遺伝子の発現が上昇することが分かりました。その際の誘導に、核膜タンパク質であるSUN2のクラスター化が必要であることが示唆されました。これらの結果から、核と小胞体の間のコミュニケーションの新たなメカニズムを明らかにし、HGPSの分子疾患メカニズムの一部を解明しました。
Ctdnep1がSUN2の分解を制御していることから、本論文を紹介しました。Ctdnep1の核膜の制御についてさらに検討したいと思います。また、SUN2の局在やタンパク質レベルについても着目していきたいと思いました。分子シャペロンや小胞体ストレス応答の詳細なメカニズムについても勉強になりました。
第181回 2023/11/17
Science. 2021 Oct 15;374(6565):355-359.
Muscle repair after physiological damage relies on nuclear migration for cellular reconstruction
「生理学的損傷後の筋再生は細胞修復のための核遊走に依存している」
紹介者:金野 琢人
筋再生は広く研究されており、サテライト細胞が重要であることが知られていますが、筋線維の自己修復については全く知られていません。本研究では、筋線維による筋細胞核が損傷に応答して、カルシウムシグナルを介して筋細胞核を集合させ、損傷部への修復mRNAを送達させることで、筋線維修復を促進させることを明らかにしました。この筋細胞核の集合はサテライト細胞とは関係なく起こっており、カルシウムシグナルによって核遊走が行われ、特にその下流Cdc42, PKCシグナルの阻害は核遊走を抑制しました。微小管の動きをEB3-Cometで観察すると、損傷後には核から損傷部位への方向に動く微小管が減少していました。筋細胞核の損傷部位への遊走をPKC, FAK阻害剤で抑制すると、筋修復が遅れていることに加え、転写抑制剤を投与することで全く修復が進まないことを見出しました。さらに、核遊走阻害剤を投与した状態で、核近傍に損傷を与えると、阻害剤の非投与と同等であったため、損傷部位に核が存在することが、修復を早めるために重要であることが示唆されました。以上のことから核がmRNAを送達することによって修復を促進していることが予想されたので、翻訳が促進されているかをPuromycilationassay、mRNAの集積があるかをin situ hybridizationによって検討すると、核の有無に関わらず、損傷部位は翻訳ホットスポットでした。しかし、mRNAについては、核非存在下では、損傷部での修復関連RNAの集積が減少し、核の遊走が行われることで、mRNAの集積が良く見られました。以上のことから、筋線維損傷では、自身の核が損傷部位へ移動し、修復関連RNAを送達することで、筋線維自己修復が行われていることが明らかとなりました。
筋肉についてよく勉強できました。核位置が筋修復に関連していることは興味深く、現在着目している核膜脱リン酸化酵素のCtdnep1も核位置を制御するLINC複合体形成に重要であることが報告されているため、核位置関連はよく勉強しておくべきと思われました。核位置は、発生段階から細胞増殖、遊走、組織再生においてダイナミックに変化するため、核位置の研究は面白いと思われました。mRNA送達についてもほとんど考えたことがなかったのですが、別の研究ではmRNAの細胞内局在がZipcodeタンパク質などによって制御されていることや、mRNA誤局在は疾患(Cellの報告ではアルツハイマー病)にも関与することから、非常にミクロな細胞内局在の研究も興味深いと思えました。
かなり難しかったですが、筋肉や核位置、mRNA局在などの分子生物学だけでなく翻訳活性やOptogeneticsといった実験手法も非常に勉強になりました。核構造の違いについても非常に興味が湧き、例えば、腱細胞核は軟骨細胞核より細長いので、核構造の違いと生理学的な意味について研究したいと思えました。
第180回 2023/11/08
Nature. 2023 Sep;621(7977):196-205.
Increased hyaluronan by naked mole-rat Has2 improves healthspan in mice.
「ハダカデバネズミのHas2によるヒアルロン酸の増加はマウスの健康寿命を向上させる」
紹介者:三瓶 千怜
ハダカデバネズミは、非常に長命なげっ歯類で、無視できる程度の老化を示すとともに、加齢に伴ういくつかの疾患から保護されることが知られています。著者らはこれまで、ヒトやマウスよりも分子量の大きい高分子ヒアルロン酸(HMM-HA)がハダカデバネズミの組織で豊富に蓄積していることや、ハダカデバネズミでは早期接触阻害と呼ばれる抗がん機構があること、この機構にHMM-HAが必要であることなどを報告してきました。また、HMM-HAには抗炎症・抗酸化作用があることから、HMM-HAが老化防止機能を持つ可能性が考えられました。以上のことから、HMM-HAの利点が他の動物種でも再現できるかどうかを調べました。
著者らはまず、ハダカデバネズミのヒアルロン酸合成酵素2(Has2)を過剰発現させたトランスジェニックマウス(nmrHas2マウス)を作製しました。nmrHas2マウスは、いくつかの組織でヒアルロン酸レベルの上昇を示し、自然発生および誘発性がんの発生率が低く、健康寿命が向上しました。nmrHas2マウスで観察された最も顕著な変化は、複数の組織にわたる炎症の抑制であり、HMM-HAは、免疫細胞に対する直接的な免疫調節作用、酸化ストレスからの保護、加齢に伴う腸管バリア機能の改善など、いくつかの経路を通じて炎症を抑制していました。これらの知見は、ハダカデバネズミで進化した長寿メカニズムが他の種でも応用可能であることを示唆しました。
豊富なHMM-HAが全身性の抗炎症作用をもたらすことを示した今回の結果は、健康寿命の向上や加齢に関連した炎症性疾患の治療のためのHMM-HAの可能性を示唆しました。
第179回 2023/11/01
Proc Natl Acad Sci U S A. 2022 Dec 13;119(50):e2214396119.
「マウスの骨形成を刺激する経口投与可能な塩誘導性キナーゼ阻害剤の選択的構造ベース設計」
紹介者:佐藤 蓮
骨粗鬆症は大きな公衆衛生問題です。現在、骨形成を増加させる経口で利用可能な治療法はありません。間欠的な副甲状腺ホルモン(PTH)の投与は、塩誘導性キナーゼアイソフォーム2および3(SIK2およびSIK3)の阻害を含むシグナル伝達経路を介して骨形成を刺激します。本研究では、SIK2/SIK3が成体マウスで全身性に欠失すると、骨格外の毒性を伴わずに骨形成が促進されることを実証し、骨粗鬆症の創薬標的としてさらに検証しました。骨形成を刺激するためにこれらのキナーゼを標的とする以前の努力は、薬理学的に許容され、特異的で経口的に利用可能なSIK2 / SIK3阻害剤の欠如によって制限されてきました。ここでは、構造ベースの創薬設計とそれに続く反復的な創薬化学を用いて、SK-124をSIK2およびSIK3を強力に阻害するリード化合物として同定しました。SK-124は、インビトロおよび細胞ベースのターゲットエンゲージメントアッセイで1桁のナノモル効力でSIK2およびSIK3を阻害し、許容可能なキノーム選択性と経口バイオアベイラビリティを示しました。SK-124は、ヒトおよびマウス培養骨細胞におけるSIK2/SIK3基質リン酸化レベルを低下させ、PTH様様式で遺伝子発現パターンを調節しました。マウスの3週間の1日1回の経口SK-124治療は、カルシウムと1,25-ビタミンDの血中濃度の上昇と内因性PTHレベルの抑制を含むミネラル代謝に対するPTHのような効果をもたらしました。さらに、SK-124治療は、短期間の毒性の証拠なしに、骨芽細胞による骨形成を増加させ、海綿骨を増加させました。まとめると、これらの知見は、経口投与可能なSIK2/SIK3阻害剤SK-124によるin vivo治療による骨およびミネラル代謝におけるPTH様効果を示しています。
今回の論文で作っていたような経口投与で骨粗鬆症を治療できるような治療薬を作れれば多くの高齢者のQOLを向上させることができると思うので開発を進めるのはおもしろいと思いました。
第178回 2023/10/25
Nat Genet. 2022 Dec;54(12):1946-1958.
Prrx1 marks stem cells for bone, white adipose tissue and dermis in adult mice
「Prrx1は成体マウスの骨、白色脂肪組織、真皮の幹細胞を標識する」
紹介者:早田 匡芳
近年、骨格系幹細胞の研究がホットトピックになっています。Prrx1-Cre, Prrx1-CRE-ERT2というトランスジェニックマウスを用いた研究から、Prrx1という転写因子は、胚発生の非常に早い時期に側板中胚葉に発現します。Prrx1を発現した細胞は、その後、軟骨細胞、骨芽細胞、鼠径部脂肪細胞、腹皮の線維芽細胞、骨膜/軟骨膜の形成層に分化しますが、それ以外の結合組織には分化しないと考えられてきました。しかし、実際のPrrx1の発現をin situ hybridization法で検出すると、生体のマウスでは、骨組織以外にも、脂肪組織、真皮組織にもPrrx1の発現が認められました。そこで、著者らは、新たに、生体のPrrx1の発現を模倣した、Prrx1-Cre, Prrx1-Cre-ERT2ノックインマウスを作製して、Prx1陽性細胞の特性解析を実施しました。その結果、Prrx1を発現する細胞は、骨、脂肪、真皮において、長寿命の幹細胞として存在し、Wntというシグナル分子を分泌することで、組織恒常性の維持、組織損傷時の修復において機能していることが明らかになりました。また、これまでに報告されてきた、グレムリン1、レプチン受容体、ネスチン陽性骨格系幹細胞とは異なる、新規の幹細胞集団であることもわかりました。
今回の知見により、難治性の組織損傷に対して、Prrx1陽性細胞を患者さんから取り出して、移植するという、新たな細胞治療が可能になるのではないか、と思いました。骨格系幹細胞の分野は非常に活発に研究がされており、今後も新たな研究結果が出てくるのではないかと思います。
第177回 2023/10/20
Nat Commun. 2022 Jul 7;13(1):3920.
「TGFβはマクロファージにTNF刺激が加わった時、炎症性破骨細胞形成に関わる非古典的経路をリプログラミングする」
紹介者:大塚 果音
破骨細胞による炎症性骨量減少は、関節リウマチ(RA)など多くの炎症性疾患で見られます。しかし、TNFなどの炎症刺激による破骨細胞形成メカニズムは知られていません。本研究では、TGFβ存在下でTNF がRANKL経路非依存的に破骨細胞形成を誘導することを明らかにしました。また、ミエロイド系統特異的にTGFβⅡ型受容体を欠損させたマウスでは、炎症性破骨細胞形成と骨吸収が抑制されることが示されました。さらに、ATAC-seqとCUT&RUN-seq解析の結果から、TGFβは、ヒストン修飾をリモデリングしクロマチン構造を変化させることでTNFに対するマクロファージ応答を変化させ、細胞運命を破骨細胞形成にシフトさせることを発見しました。このメカニズムを標的とすることで、RANKLによる骨リモデリングに大きな影響を与えることなく、炎症性骨減少を抑制する治療が可能になると予想されます。
ゴーハム病発症前に怪我を負ったという患者の報告がありました。因果関係は特定されていませんが、今回の内容は怪我による骨溶解発症を説明する手がかりになると考えます。
第176回 2023/10/04
JCI Insight. 2021 Mar 8;6(5):e137045.
JAK2-IGF1 axis in osteoclasts regulates postnatal growth in mice.
「破骨細胞におけるJAK2-IGF1シグナルはマウスの出生後成長を抑制する」
紹介者:佐藤 蓮
JAK2はサイトカインと成長因子のシグナルの重要な調節因子です。しかし生体内の破骨細胞でのJAK2の役割は解明されていません。そこでJAK2の役割を解明するためCre-LoxPシステムを使い破骨細胞JAK2 KOマウスを作りました。JAK2 KOマウスは顕著な出生後成長抑制を示しました。しかし、それは骨の密度、微小構造、生体力学的強度とは関連しませんでした。JAK2 KOマウスでは破骨細胞特異的IGF1の発現が減少しており、このことは、破骨細胞由来のIGF1が体のサイズ決定に役割を持っていることを示唆しました。破骨細胞由来のIGF1の役割を直接的に評価するため、破骨細胞特異的IGF1KOマウスを作りました。それはJAK2 KOと類似した成長抑制を示しました。最後に、ヒト導入遺伝子で循環IGF1を過剰発現させた結果、成長障害からレスキューされました。まとめると、本研究でのデータは破骨細胞JAK2とIGF1の体のサイズ決定における破骨細胞の吸収機能とは無関係の新しい役割を示しました。
第175回 2023/09/27
J Clin Invest. 2022 Apr 15;132(8):e148073.
Age-associated callus senescent cells produce TGF-β1 that inhibits fracture healing in aged mice
「加齢に伴うカルス老化細胞はTGF-β1を産生し、老齢マウスにおける骨折治癒を阻害する」
紹介者:金野 琢人
骨折は高齢になるにつれて頻度が高くなり、しかも骨折治癒が遅れることは経験的にもマウスの実験においても分かっておりますが、高齢者への骨折治癒促進を起こす治療薬はありません。また、高齢での骨折治癒遅延の分子メカニズムも良く分かっていません。先行研究では骨髄の老化細胞が細胞老化随伴分泌現象(SASP)と呼ばれる炎症性サイトカインを放出することで、その近傍の骨髄幹細胞の老化を促進し、骨折治癒に重要な幹細胞の数を減少させることが報告されましたが、直接的なカルスにおける老化細胞が骨折治癒遅延を起こすかは不明でありました。
本研究では、4か月齢の若年マウスと20か月齢の老齢マウスを用いた骨折治癒の実験を行い、カルスにおける老化細胞が産生するSASPのうち、TGF-βが骨折修復に関与するカルス間葉系前駆細胞の増殖を抑制することで、骨折治癒の遅延が起こっていることを明らかにしました。
まず、使用した老齢マウスの骨折部位で細胞老化が上昇していることを確認し、その老化細胞を除くことで骨折治癒が促進されるか観察しました。最も一般的なSenolytic Drugであるダサチニブとクエルセチン(D+Q)を用いた老化細胞の除去は、老齢マウスにおける骨折治癒を促進したため、老化細胞は骨折治癒を遅らせることが示唆されました。
次に、カルスにおける前駆細胞が老化細胞からのSASPの影響を受けるか検討するため、カルス前駆細胞の培養を行いました。得られたカルス由来の前駆細胞は他の骨髄や脂肪組織由来の幹細胞と比較して、骨再生能が高いことが幹細胞の移植実験で明らかとなり、これをCaMPCと名付けました。これに、若年または老齢マウス由来のカルス組織を直接培養した培養液(CM)を投与し、そこに含まれているSASPがCaMPCに影響与えるか検討したところ、CaMPCの増殖能が老齢カルス由来のCM投与で有意に減少していることが分かりました。次に、SASPの中でも最も重要な分泌因子を同定するため、老化カルス組織のRNAを用いてRT-qPCRを行うと、IL1αやケモカインと比べても、TGF-β1の発現が非常に高いことが確認されたため、TGF-β1が骨折治癒遅延に寄与するSASP因子であることが示唆されました。そこでTGFβの中和抗体1D11を用いたレスキュー実験をin vitro/vivo両方で行うと、1D11投与がCaMPCの増殖を伴って骨折治癒を促進することが分かりました。
以上のことから、本研究では、高齢者における骨折治癒遅延の分子メカニズムが老化細胞由来TGFβによるものであることに加え、Senolyticsが高齢者に対して骨折治癒を促進する新規治療薬になり得ることが示されました。
今年のBone Biology Forumでも中西先生のご発表で老化細胞が扱われ、老化細胞に興味を持ちました。また、老化細胞を除くことは有望な治療薬であり、Senolyticsはジェフ・ベゾス含む投資家の出資を受けているようで、老化細胞の研究は今後重要になっていくと思われました。本研究もSenolyticsが高齢者の骨折治癒を促進する初の医薬品となり得るものでありました。今後は運動器の老化細胞にも注目していきたいです。
第174回 2023/09/20
Science. 2022 Oct 14;378(6616):eabq0132.
A bacterial phospholipid phosphatase inhibits host pyroptosis by hijacking ubiquitin
「細菌のリン脂質ホスファターゼは、ユビキチンをハイジャックすることによって宿主のパイロトーシスを阻害する」
紹介者:大塚 果音
結核は主要な死亡原因の一つですが、その病因については十分に理解されていません。本研究では、結核菌の全ゲノム解析を行うことで、宿主因子に作用する可能性があるタンパク質を予測しました。この結果、PtpBが、宿主のインフラマソームを介したIL-1β放出を抑制することを特定しました。その後の実験で、PtpBは宿主マクロファージの細胞膜成分であるPI4PとPI(4,5)P2を脱リン酸化することで、GSDMD-N末端の細胞膜局在を阻害し、サイトカインの放出とパイロトーシスを抑制することを明らかにしました。また、哺乳類はタンパク質のユビキチン系を制御することで多様な免疫反応を調節していますが、PtpBは宿主のユビキチンと結合することで脱リン酸化機能を高めることを示しました。これらの発見は、結核の病因についての理解を深めるとともに、薬剤耐性のある結核菌も標的とした、新しい抗結核療法の開発に繋がると予想されます。
第173回 2023/9/15
English Seminar
Microglia regulation of selective neuronal vulnerability associated with ALS
「ALSに関連する選択的神経細胞脆弱性のミクログリアによる制御」
紹介者:木村 勇太
本日のセミナーの発表者であるB. Ajamiは免疫学および行動・システム神経科学について研究をしています。彼女の研究は、さまざまな神経変性疾患において免疫細胞がどのように病態を引き起こすかに焦点を当てています。
初めに、ミクログリアの由来について、ALSのような神経変性疾患でも、血液から来るのではなく、脳と脊髄に存在して組織の中で自己複製することを明らかにしました。また、三つの異なる特性を持つ集団が存在することが分かりました。
次にALSモデルマウスを用いてシングルセルプロテオミクス解析を行ったところ、α5インテグリンが上昇していることが分かりました。α5インテグリン陽性のミクログリアや坐骨神経のマクロファージは炎症性サイトカインの発現が上昇していました。そこでα5インテグリンに対する抗体をALSモデルマウスに投与したところ、生存日数が伸び、運動能力が回復しました。また脊髄のミクログリアの数が減少していることが分かりました。ALSのミエロイド細胞でのα5インテグリンの発現が、治療ターゲットになることが示唆されました。
最後に、組織によってミクログリアが保護的に働く場合と毒になるときがある場合について述べられました。脊髄においてミクログリアは神経に炎症を誘発するのに対し、動眼神経ではミクログリアは神経に対して保護的に働きます。
本セミナーで神経変性疾患におけるミクログリアの働きについて学ぶことができました。自分の研究でも、ミクログリアや炎症性サイトカインの解析を行おうと考えました。
第172回 2023/09/13
Cell Metab. 2022 Aug 2;34(8):1168-1182.e6.
A mechanosensitive lipolytic factor in the bone marrow promotes osteogenesis and lymphopoiesis
「骨髄における力学的刺激感受性脂肪分解因子は、骨形成とリンパ球産生を促進する」
紹介者:三瓶 千怜
運動は、骨粗鬆症を予防し免疫機能を向上させますが、そのメカニズムは未だ不明です。本論文では、力学的刺激によって、骨髄マクロファージからreticulocalbin-2 (RCN2)が分泌され、骨髄の脂肪分解とそれに続く骨形成及びリンパ球産生を促進することが示唆されました。
筆者らは、運動負荷マウスで発現上昇し、老齢マウスで発現減少するタンパク質としてRCN2を同定しました。recombinant RCN2投与によって、脂肪分解酵素の発現が上昇し、BMSC由来脂肪細胞上清中のグリセロール及び遊離脂肪酸が増加することが示されました。RCN2の発現については、骨髄では特にマクロファージにおいて、力学的刺激や運動負荷により誘導されました。マクロファージ特異的Rcn2欠損マウスの解析から、運動時に、Rcn2が骨髄脂肪の分解を介して骨形成やCLPの頻度を上方制御することが示唆されました。メカニズムについては、RCN2がNRP2とITGB1から成るコレセプターに結合し、cAMP-PKA経路を活性化させることで、脂肪分解が促進されると推測されました。最後に、尾部懸垂モデル及び老齢マウスではRCN2発現が低下しており、rRCN2を投与することで、骨髄脂肪増加や骨量減少、CLP減少といった表現型が改善されることが示されました。
以上のことから、RCN2が新規の力学的刺激感受性脂肪分解因子であり、骨形成とリンパ球産生を促進することが示唆されました。
尾部懸垂モデルや老齢マウスへのrRCN2投与は体重や血清トリグリセリドに影響しないという結果でしたが、RCN2がユビキタスに発現することから、他臓器や老化におけるRCN2の発現制御や機能のメカニズム解明が期待されます。
第171回 2023/07/13
English Seminar
'Pr Stefano PICCOLO / Webinar Cellular plasticity of normal & tumor cells February 4, 22'
「正常細胞と腫瘍細胞の細胞可塑性」
紹介者:早田 匡芳
本日は,イタリアのパドヴァ大学のStefano Piccolo教授によるセミナーを視聴しました。Piccolo教授は,YAP/TAZという機械刺激を感知する転写因子に着目して,これまでに数多くの興味深い論文を発表されています。先日のJCでも,Piccolo教授の最近のNatureの論文[YAP/TAZ activity in stromal cells prevents ageing by controlling cGAS-STING]を取り上げましたが,この分野の先駆者であります。今回は,これまでに発表した論文のレビュー的なセミナーでした。幹細胞,がん,間質細胞の老化との関連が取り上げられました。例えば, Cell Stem Cell. 2016の論文からは,YAP/TAZを発現させると,分化した乳腺細胞を乳腺幹細胞に変えるという紹介がありました。Cell. 2014の論文からは,腸の上皮細胞で,APCという遺伝子を欠損させると,がん化するのですが,YAP/TAZをノックアウトすると,がん化がおきないことが紹介されました。Nature Cell Biology (2015)の論文からは,発がん物質で皮膚がんを誘発する条件で,YAP/TAZをノックアウトすると,発がんが抑制されることが示されました。他にも,肝臓がん,膵臓がんでも同様の現象が見られました。
YAP/TAZを阻害するような薬物は,がんを抑制する効果があると期待されますが,YAP/TAZは,転写因子なので,創薬標的分子になりにくいという弱点があります。しかしながら,細胞の形態を変化させるような経路を阻害するようなSrc阻害薬,ROCK阻害薬などが,YAP/TAZを抑制するのと同じような効果をもつかもしれません。
YAP/TAZは,加齢とともに,細胞の核から除外されるようになってしまいますが,YAP/TAZを再活性化することで,幹細胞性を取り戻し,細胞は若返ることができるようになることも皮膚の真皮の細胞や動脈壁で示されました。
Take-home-messageとしては,BACK TO THE STEMNESS -A YAP time machine^「幹細胞性へ戻す」でした。
第170回 2023/07/06
Elife. 2022 Mar 4;11:e75753.
Fracture healing is delayed in the absence of gasdermin-interleukin-1 signaling
「ガスダーミン-インターロイキン-1シグナル伝達がないと骨折治癒が遅れる」
紹介者:大塚 果音
GSDMDはパイロトーシスやサイトカイン分泌に関わると考えられていますが、骨折治癒における役割はほとんどわかっていませんでした。この論文では、GSDMDの欠損によって骨折治癒が障害され、骨再生の機能が低下することを見出しました。また、骨折によるIL-1β, IL-18の分泌が低下することを示唆しました。このことから、GSDMD-IL-1シグナル経路によって誘発される炎症反応が骨折後の治癒を促進することが明らかになりました。この結果は、筋骨格系におけるGSDMD機能のための有望なアプローチとなり、骨癒合不全やGSDM関連疾患の治療法の発見に繋がる可能性があります。
第169回 2023/06/22
English Seminar
ASBMR 2021 Concurrent Orals: Metastatic Bone Disease
Efferocytic Bone Marrow Macrophages Drive Inflammation in Skeletal Metastasis
骨髄マクロファージが骨転移における炎症を引き起こす
A spliced variant of axon guidance receptor ROBO4 drives breast cancer cell colonization in bone.
軸索誘導受容体ROBO4のスプライスバリアントは、乳癌細胞の骨へのコロニー形成を促進する
Hypoxia-inducible factor signaling in breast tumors controls site-specific dissemination to bone and lung
乳がんにおける低酸素誘導因子シグナルは骨と肺への部位特異的播種を制御する
Runx2 Regulates Cytoskeletal Dynamics in Bone Metastatic Breast Cancer Cells
Runx2は骨転移乳がん細胞の細胞骨格ダイナミクスを制御する
Parathyroid hormone acts on the PTH1R receptor in both osteoblasts and breast cancer cells to reduce bone metastasesPhlpp2 Limits Osteoclast Lipid Responsiveness and Cortical Bone Mass
副甲状腺ホルモンは骨芽細胞と乳がん細胞の両方でPTH1R受容体に作用し、骨転移を抑制する
紹介者:金野 琢人
1. Veronica Mendoza Reinozo- Efferocytic Bone Marrow Macrophage Drive Inflammation in Skeletal Metastasis
骨はがん細胞にとって“肥沃な土地”と表現されます。前立腺がんの骨転移の治療については不明なことが多い現状です。骨に存在する細胞がアポトーシスを起こすとき、M2マクロファージのエフェロサイトーシスによってホメオスタシスを保ちますが、骨転移したがん細胞に対するエフェロサイトーシスではCxcl5などを放出することが知られています。しかし、それによる炎症のメカニズムなどは不明でした。
マウス由来マクロファージと前立腺がん細胞の共培養系によるscRNA-seq解析では、免疫系のシグナルに加えて、エフェロサイトーシスのマクロファージにおいてHypoxia(低酸素)シグナルの上昇を確認しました。特に転写因子Hypoxia Inducible Factor 1a(Hif1a)の安定性が上昇しており、それはリン酸化STAT3とHif1aの相互作用によるものでした。エフェロサイトーシスによる骨転移がんは、Hif1aを介したMifの上昇と、Mifのパラクリン作用で病変部におけるCD74陽性マクロファージでのERK, NFkBシグナルの上昇で炎症の上昇や腫瘍の増加に寄与することが分かりました。
マクロファージががん細胞を取り込んで、パラクリン的に腫瘍形成を促進する機序は興味深く、今後の研究でもマクロファージのエフェロサイトーシスによって生じるサイトカインに着目することは重要と思えました。
2. Loic Gaweda- A spliced variant of axon guidance receptor ROBO4 drives breast cancer cell colonization in bone
ROBOはいくつか種類があり、神経発達に寄与することが知られていますが、ROBO4はその役割を持ちません。これまで、ROBO4には内皮細胞の遊走や造血幹細胞の接着に関与していることが知られています。発表者は、ROBO4の新たなアイソフォームを発見し、それががんに寄与していることが分かりました。
新たに発見されたROBO4のアイソフォームは、がん細胞で特に見られており、がん患者でもROBO4が高いと予後不良の乳がんや骨転移を引き起こすことを発見しました。これのKOは乳がんだけでなく骨転移がんを抑制しました。In vitroでのスフェロイドアッセイでは、ROBO4 KO細胞において細胞同士のスフェロイド形成が低下しており、腫瘍の増大に関連していることが示唆されました。さらにROBO4の下流シグナルを介したICAM1の上昇に関連していることが見られ、ICAM1がTNFαの炎症を誘導していることも示唆されました。
スフェロイド形成アッセイなどを行うことで、細胞間相互作用に着目しており、膜タンパク質を着目する際には参考になる発表でした。
3. Vera M. Todd- Hypoxia-inducible factor signaling in breast tumors controls site-specific dissemination to bone and lung
高いレベルのHif1aは乳がん患者の予後が不良になることが知られています。またHif1aの欠損は、肺への転移を抑制することが知られていますが、Hif1a活性化によってがん転移が促進するかは不明でした。Hif関連タンパク質を欠損することで、がんの形成・転移にどう影響するかを研究したところ、Hif1a欠損では乳がんサイズが小さくなりましたが重量の増加を確認しました。骨転移に関しては、Hif1a, 2aの欠損では抑制し、Vhl欠損で上昇しましたが、Hif1aに関しては骨量減少が見られました。さらに、先行研究とは異なりますが、Hif1a欠損で肺への転移が上昇していることが見られました。
ある部位の腫瘍にとっては抑制因子であったものが、別の部位では腫瘍形成を促すといったがん治療の複雑さを実感したとともに、Discussionでの肺と骨のクロストークに少し触れていたことは興味深く、骨と肺の関連性の研究は重要になってくるかもしれないと思いました。
4. Ahmad Othman- Runx2 Regulates Cytoskeletal Dynamics in Bone Metastatic Breast Cancer Cells
Runx2は骨芽細胞分化の転写因子としての役割が一般的ですが、今回の発表では微小管のアセチル化を制御し、オートファジーを促進することで乳がん細胞を生存させる機序を持つことが分かりました。しかも、これはRunx2の転写因子としての働きではなく、タンパク質相互作用によるものでした。
Runx2のKDは微小管のサブユニットであるαチューブリンのアセチル化を抑制し、オートファジーマーカーLC3B2が蓄積していることを観察しました。オートファジーフラックスを確認すると、Runx2のKDでは減少しており、Runx2がオートファジーを正に制御することが示唆されました。微小管形成阻害のビンブラスチンと変異Runx2(転写活性に寄与するDNA結合ドメイン“DBD”または、タンパク質相互作用に重要とされるC末端の変異)を用いて観察すると、C末端変異Runx2のみビンブラスチン投与に関わらず、αチューブリンの安定性が低下していることが分かりました。よって、Runx2の転写活性ではなく、タンパク質相互作用のC末端が重要であることが分かりました。さらに、微小管形成に重要な因子として、チューブリンのポリマー化に寄与するαTAT1と微小管の分解に寄与するHDAC6に着目すると、Runx2のC末端と結合することが見いだされました。HDAC6によるチューブリンのアセチル化が微小管によるオートファゴソームの流動性に寄与していることが示唆されました。さらに、MSによって熱ショックタンパク質HSP90とRunx2が相互作用することを示しており、HSP90がMAPをリクルートすることでαチューブリンの安定性を上昇させていることが示されました。以上のメカニズムによってRunx2は、特に転移がん細胞におけるオートファジーを促進させ、がん細胞の生存戦略に寄与することが示されました。
転写因子であるRunx2が転写活性でなく、タンパク質のリクルートの働きをすることで細胞内の動態を変化させていることは意外でした。微小管に注目するのは、マニアックな印象があり、複雑に感じました。
5. Joy Y Wu- PTH acts on PTH1R in both osteoblasts and breast cancer cells to reduce bone metastases
乳がん患者は、抗がん剤などの影響によって治療過程において骨粗鬆症になることが知られています。ビスホスホネート製剤を用いることは顎骨壊死などを起こす可能性があり、骨形成を促進させないと根本治療にならないことも問題です。本研究では、PTHが乳がん患者へ適用できるか、その安全性などに着目しました。
骨芽細胞におけるPTHRの下流Gsα KOは乳がん細胞の遊走を上昇させ、骨転移の上昇を示唆しました。同様に乳がん細胞におけるPTHRの下流Gsα KOはその遊走を上昇させ転移を促進しました。次に、乳がん細胞においてPTHの応答でPthrpの遺伝子レベルが減少していることを確認し、Pthrpが乳がんの抑制に寄与するか検討したところ、PthrpのKDが乳がんの遊走能を減少させることが分かりました。臨床関連では、乳がん患者においては、PTH1Rの発現が減少しており、PTHは骨芽細胞に作用することで、がん細胞の転移を抑制していました。さらに乳がん細胞自体にもPTHがPthrpの抑制を介して、乳がんの転移を抑制することが分かりました。
基礎研究的な側面を持ち、明確な臨床のための研究であり、理想的なストーリーであると感じました。今後の臨床現場において、乳がん患者にとってPTHがより重宝されるのではないでしょうか。
がんと骨転移について学ぶいい機会になりました。がんの転移は奥が深く、複雑でした。骨のNicheは、他の臓器での疾患(がん)に影響を受けやすいことが感じられました。がんになったから骨に影響が出たのか、骨に影響が出たからがんになったのか、特に3番目の発表ではそんなことを考えさせられました。また、10月でのASBMRの発表の参考にもなりました。
第168回 2023/06/15
English Seminar
ASBMR 2022 Oral Presentations: Energy Metabolism in Bone, Muscle and Fat
Phlpp2 Limits Osteoclast Lipid Responsiveness and Cortical Bone Mass
Phlpp2は破骨細胞の脂質応答性と皮質骨量を制限する
Lipid droplets serve as a fatty acid reservoir to support osteoblast function
脂肪滴は脂肪酸リザーバーとして骨芽細胞の機能を支える
Cell Energy Metabolism Controlled By The Permeability Transition Pore/Cyclophilin D Regulates Bone Growth and Development, and Fracture Healing
透過性遷移孔/シクロフィリンDが制御する細胞エネルギー代謝が骨の成長・発生と骨折治癒を制御する
紹介者:三瓶 千怜
type C protein phosphataseであるPhlpp1/Phlpp2はそれぞれ海綿骨と皮質骨で発現してリモデリングをコントロールすることが示唆されました。また、Phlpp2の欠損は破骨細胞のコレステロール反応性を増強させることが明らかになりました。
細胞質における脂肪分解は、骨芽細胞形成において、脂肪酸をエネルギー通貨として供給するために重要な役割を担うことが示唆されました。また、細胞質での脂肪分解の抑制は、骨芽細胞形成や生体内での骨形成に悪影響を及ぼし、逆に脂肪分解を促進することで、高脂肪食による海綿骨量の減少が抑制されました。
CypDの機能獲得マウスは、in vitroおよびin vivoにおいて、骨芽細胞活性の低下と有機マトリックスの欠乏を示しました。また、CypD/MPTP活性によって制御されたミトコンドリアの代謝は、発生、維持、骨折修復のいずれにおいても、骨の表現型を制御する重要な因子であることが示唆されました。発生と修復におけるエネルギー代謝と骨形成シグナルの分子動態や制御の影響を明らかにするためには、さらなる研究が期待されます。
骨芽細胞での研究の中でも、今まであまり触れてこなかった脂肪やミトコンドリアとの関係を勉強することができました。特に、二つ目の発表では、骨芽細胞における脂質分解の役割とその重要性が示されており、新たな着眼点を得るとともに、勉強になりました。
第167回 2023/05/25
Nature. 2021 Jul;595(7867):404-408. doi: 10.1038/s41586-021-03672-3. Epub 2021 Jun 23.
Mechanism of disease and therapeutic rescue of Dok7 congenital myasthenia.
「Dok7先天性筋無力症の発症機序と治療的救済」
紹介者:木村 勇太
神経と筋肉のつなぎ目には多様なタンパク質が集積していて、神経筋接合部位の形成と維持に寄与しています。これらのタンパク質をコードする遺伝子に変異があると、先天性筋無力症という深刻な神経筋疾患が引き起こされます。先天性筋無力症の中で、DOK7タンパク質のC末端側に4塩基が重複する変異があるというタイプがあり、先天性筋無力症患者の10~20%にDOK7変異があることが知られている。しかし、DOK7変異が筋無力症を発症させる機序はよく分かっておらず、DOK7がMUSKと結合することでリン酸化シグナルをさらに下流の分子に伝える機構に異常を来すのではないか、と考えられていました。
今回、その仮説も検証するため、DOK7のC末端の4塩基を重複させたマウスと、C末端領域のリン酸化部位を点変異させたマウスを作製したところ、予想外にC末端領域のリン酸化部位を点変異させたマウスでは筋無力症の症状を示しませんでした。そこで原因として、MUSKに結合するDOK7の量が足りないのではないかと考えました。結果は予想通りで、4塩基重複変異体のDOK7の量は、野生型の約3分の1でした。量が足りないためにMUSKを安定化させることができず、MUSKのリン酸化が阻害されていたと考えられました。
次に、変異したDOK7の代わりにMUSKを安定化させることができる抗体をファージディスプレイ法を用いて抗体ライブラリを構築し、特異性の高い抗体を選択しました。この抗体を腹腔内に投与したDOK7変異マウスは、寿命が大きく伸び、運動能力も野生型マウスに近くなりました。
この論文を通してアセチルコリン受容体の維持機構のメカニズムについて深く学ぶことができて、自身の研究につなげたいと思いました。今回の治療は、2週間ほどしか生きられないマウスが繰り返し抗体を投与することによって通常通り成長するというインパクトがあるものでした。臨床への応用が期待されます。
第166回 2023/05/11
Nature. 2022 Jul;607(7920):790-798.
YAP/TAZ activity in stromal cells prevents ageing by controlling cGAS-STING
「間質細胞におけるYAP/TAZ活性がcGAS-STINGを制御して老化を防ぐ」
紹介者:早田 匡芳
本論文は、イタリア パドヴァ大学のステファノ ピッコロ教授のグループによるものです。昔、ピッコロ教授は、UCLAのEddy De Robertis labで カエルの発生の研究をして、イタリアに戻ってからは、癌や機械シグナルに関する研究を精力的に行っておられます。自分がまだカエルの発生の研究をしていたときに、ピッコロ教授が国際学会で自分のポスターのところに来てくださり、ディスカッションしたことがあります。先方は覚えていないと思いますが。。。
加齢は、細胞の老化と密接な関係がありますが、今回、機械刺激を感知して核内に移行して機能するYAPとTAZという転写因子が、細胞老化の抑制に関与しているということが明らかになりました。
老化マウスでは、若いマウスに比べると、特に、間質細胞や、血管平滑筋細胞、心筋細胞、骨格系幹細胞で、YAP/TAZの活性が低下していることがわかりました。
YAP/TAZを線維芽細胞や血管平滑筋でノックアウトすると、若いマウスでも、細胞の老化現象が確認されましたが、逆に、老化したマウスの細胞に、YAPの発現をもどしてやると、細胞が若返りました。
さらに、YAP/TAZの細胞老化抑制機構には、自然免疫に関与するcGAS-STINGという経路が関わっていることが示されました。
YAP/TAZによる機械刺激シグナル伝達が低下すると、自然免疫の柱であるcGAS-STINGシグナルが放出され、老化が進むことがわかりました。
YAP/TAZによる機械刺激シグナル伝達を維持したり、STINGを阻害することは、老化に関連する炎症を抑制し、老化を改善するための有望なアプローチとなる可能性があります。
第165回 2023/04/27
Dev Cell. 2022 Oct 24;57(20):2365-2380.e8.
「ガスダーミンDは破骨細胞による骨吸収のエンド・リソソーム経路をつなげ直すことで骨量を維持する」
紹介者:大塚 果音
この論文では、ガスダーミンD (GSDMD)が骨のエンド-リソソーム成熟を制御することで、破骨細胞の骨吸収能を制限していることが報告されました。GSDMDはこれまで炎症性の細胞死であるパイロトーシスに関与するタンパク質として着目されてきましたが、今回、破骨細胞の恒常性にも関与していることが分かりました。
マクロファージでは、活性化したカスパーゼ-1/11によるGSDMDの切断が、N末端(p30 NT)と自己抑制性のC末端(CT)の接合部位で起こり、それによってp30 NT産物が放出され、これが細胞膜上の酸性リン脂質に結合してオリゴマー化し孔を作ってパイロトーシスを引き起こすことが知られています。しかしながら、破骨細胞の分化過程で、さらに短いp20産物が生成されていることがわかりました。破骨細胞では、GSDMDはRIPK1依存的にカスパーゼ8, 同時に活性化するカスパーゼ3によって切断され、p20 フラグメントが産生されることが分かりました。また、GSDMD p20の骨吸収への影響を調べたところ、GSDMD p20は破骨細胞分化に影響せずに、骨吸収活性を抑制していることが示唆されました。
定量的プロテオーム解析を用いてGSDMD欠損で発現が変動するタンパク質について調べたところ、GSDMDが欠損した破骨細胞で、「リソソーム」「グリコサミノグリカン分解」の経路が濃縮されていることがわかりました。さらにGSDMDとリソソーム生合成との関連を調べると、GSDMD p20 は脂質膜PI(3)Pとの結合を介して初期エンドソームに局在し、エンド・リソソームへの輸送と成熟を制限し、破骨細胞の骨吸収活性を抑制していることが示唆されました。
本論文はGSDMDの破骨細胞内における動きを新たに示した大変興味深い内容でした。また、セミナーでもお話がありましたが、破骨細胞分化ではなく骨吸収活性を制御する機能を持つという点で、骨粗鬆症治療などの新たな戦略となりえます。
第164回 2023/04/07
Cell. 2023 Jan 19;186(2):382-397.e24.
Lymphatic vessels in bone support regeneration after injury
「骨におけるリンパ管は傷害後の修復を支持する」
紹介者:金野 琢人
この論文では、これまでリンパ管がほとんどないと思われていた組織の一つである骨に、リンパ管が存在していることが透明化技術によって3Dで示されました。さらに、Gorham-Stout症候群にも見られるように、骨のリンパ管は有害であるという考えがありましたが、これを覆すように、放射線による骨髄損傷と骨量減少において、放射線によって上昇・拡大したリンパ管が、それらの修復に重要であることが分かりました。
そのリンパ管を形成しているリンパ管内皮細胞(LEC)は、IL6, Vegfr3によって制御されることが知られていますが、放射線によってIL-6が上昇することで、LECの増殖を伴ったリンパ管形成が促進されました。その放射線によって増加したLECが、Cxcl12を産生することで、造血幹細胞(HSC)の修復や骨量減少の改善に寄与していることが分かりました。さらに、細胞系譜解析によってMyh11, Cxcr4陽性の周皮細胞が、Cxcl12と相互作用することで、骨髄抑制の改善と骨系細胞への分化を伴った骨修復に寄与していることが分かりました。
また、加齢と遺伝毒性の関連も示しており、老化したLECでは休止マーカーの上昇と細胞増殖マーカーの減少が示され、さらにCxcl12の産生も低下することが分かりました。この老化したLECではCxcl12の産生が低下するために、放射線による障害が強く現れますが、若年のマウス由来のLECを移植することで、この表現型の改善が見られたことから、若年期におけるLECの重要性を示しました。
今回の研究では、骨のリンパ管の遺伝毒性に対する修復の役割を見出しており、これまで骨のリンパ管は有害とされてきた考えを覆す結果となっており、非常に面白い論文でした。石灰化組織を透明化し、3Dで観察することは技術的に困難とされてきていましたが、今回の論文の手法やCUBIC-Bなど、近年の技術的進歩を感じました。そこで、石灰化組織の内部の観察について研究することは、インパクトが高い論文を書くことが出来そうなので、検討しようと思いました。
最後に、今回のJournal Clubでは、留学生を交えましたので、初めて英語で説明しました。拙い英語だったかもしれませんが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。いつも以上の達成感でした。
第163回 2023/03/15
Nat Commun. 2022 Dec 17;13(1):7792.
Muscle 4EBP1 activation modifies the structure and function of the neuromuscular junction in mice.
「筋肉での4EBP1の活性化は、マウスの神経筋接合部の構造や機能を改変する」
紹介者:木村 勇太
加齢によるmTOR複合体1調節不全は、神経筋接合部(NMJ)の構造不安定化を引き起こします。しかし、この現象を仲介している下流のターゲットは解明されていません。本論文では、mRNAの翻訳のためのmTORC1のリン酸化ターゲットである、リボソームタンパク質S6キナーゼ1(S6K1)と真核生物翻訳開始因子4E結合タンパク質1(4EBP1)の役割を調査しています。
まず、mTOR経路上流のTSC1をKOしたマウスでは、mTORC1が活性化され、除神経が引き起こされました。そのマウスから筋線維特異的にS6K1を欠損させると、NMJの構造やリモデリングに影響を与えませんでした。しかし、筋線維で4EBP1が常に活性しているTSC1 KOマウスを作製したところ、NMJのリモデリングを誘導してアセチルコリン受容体(AChR)のターンオーバーが促進され、除神経している筋線維が減少しました。
また、筋線維で4EBP1が常に活性しているマウスのNMJのリモデリングの要因はサテライト細胞活性の増加によるものであることが示唆されました。
これらの結果と、AChRの筋核の減少やNMJのターンオーバーの低下が加齢の特徴であるということから、4EBP1活性化をターゲットとすることが、サルコペニアを緩和するための新たな戦略となると示されました。
本論文では、NMJのリモデリングや除神経を評価する実験を数多く行っていて、自分の研究に活かせるものもあり、勉強になりました。NMJの安定化にはmTORC1活性の厳密な制御が必要であり、そのメカニズムは完全には解明されていません。今後、サルコペニア治療に応用されることが期待されます。
第162回 2023/03/08
Nature. 2021 Dec;600(7889):494-499.
Exercise plasma boosts memory and dampens brain inflammation via clusterin
「エクササイズ血漿はクラスタリンを介して記憶を増強し、脳の炎症を抑制する」
紹介者:三瓶 千怜
身体運動は、一般的にヒトを含む動物の健康に有益であり、認知的な老化と神経変性を遅らせることが知られています。この認知機能への効果は、海馬の可塑性向上や炎症抑制に関連することが報告されていますが、詳細なメカニズムについては不明な部分が多くあります。
まず著者らは、エクササイズ血漿を同腹仔に移植すると、エクササイズ血漿が海馬における神経可塑性及び認知機能を向上させ、さらに炎症性遺伝子の発現を減少させることを示しました。また、エクササイズ血漿の移植は、急性誘発性の炎症を引き起こしたマウスの神経炎症に対して拮抗的に作用しました。エクササイズ血漿のプロテオーム解析から、エクササイズ血漿ではクラスタリン を含む補体カスケード阻害因子の発現が協調的に上昇していることが分かりました。エクササイズ血漿からクラスタリン を除くと、海馬における炎症性遺伝子レベルは高いままでしたが、急性脳炎症モデルマウスやアルツハイマー病モデルマウスに組換えクラスタリンを処理すると、インターフェロンシグナル伝達に関与する遺伝子等の異常な発現上昇が抑えられました。さらに、半年間運動を継続したヒトでも、クラスタリンの増加が見られました。以上のことから、自発的に走るマウスのエクササイズ血漿が神経炎症遺伝子発現のベースライン及び脳炎症を抑制し、このプロセスにクラスタリンが深く関与する可能性が示唆されました。
本論文では、Single-cell RNA-seqやプロテオーム解析といったシーケンスが多く用いられており、データの見せ方という点でも勉強になりました。本論文で示された結果から、組換えクラスタリンを認知障害のある個体に処理すると、実際に認知機能の回復や脳の若返りのような現象が見られるのかという点が気になりました。また、エクササイズ血漿には、大部分が肝細胞で産生される補体及び凝固タンパク質が多く含まれているという点が興味深かったです。運動が認知機能の維持に効果的であるということは広く知られており、そのメカニズムに迫る研究も進んでいますが、未だ不明な部分も多く、さらなるメカニズムの解明が期待されます。
第161回 2023/03/01
Nat Commun. 2023 Feb 10;14(1):762. doi: 10.1038/s41467-023-36400-8.
「脱リン酸化酵素CTDNEP1の欠損は、MYC増幅とゲノム不安定性を誘発することにより、悪性の髄芽腫を増強させる」
紹介者:早田 匡芳
本日の論文は、当研究室が長年着目してきたCtdnep1遺伝子が、小児の悪性腫瘍である髄芽腫を引き起こすメカニズムを解明したものです。膨大な実験量と、私が長年取り組んでいたけど、うまく行かなかったことが、この論文では、全てうまく行っていて、脱帽的な論文です。
そもそものきっかけは、CTDNEP1遺伝子が、悪性度の高いグループ3の髄芽腫で遺伝子欠損しているということが、2012年と2017年にNatureに報告されたことに始まります。今回の論文の著者は、その時の論文の著者ではないので、このNatureの論文を見てから、研究に着手したと考えられています。Ctdnep1 floxマウスは、私達の長年の共同研究者の熊本大学の西中村教授から供与されています。
今回の論文では、グループ3の髄芽腫の全エクソーム解析のデータを解析して、Ctdnep1遺伝子欠損を再確認しています。興味深いことに、CTDNEP1欠損で、MYCという発がんに関わる遺伝子の染色体領域が増幅していることがわかりました。G3の髄芽腫の細胞を用いた実験により、CTDNEP1 mRNAを減少させると、細胞増殖が亢進し、反対に、過剰発現で細胞増殖が抑制されました。
次に、Nestin-CreとCtdnep1 floxマウスを用いて、神経前駆細胞でCtdnep1をノックアウトしたマウスでは、脳の形成が低下し、マウスが早い時期に死亡することがわかりました。癌と反対の表現型です。しかし、彼らは驚くべきことを見つけました。マウスの脳から取り出した細胞は、培養初期では、細胞増殖が低下するのですが、培養後期で、細胞増殖が増加したのです。
さらに、トランスクリプトーム解析、相互作用するタンパク質の同定、脱リン酸化する標的タンパク質の同定などを行い、CTDNEP1が、MYCのS62を脱リン酸化をするということがわかりました。CTDNEP1がないと、Mycが安定化して、染色体不安定性を引き起こし、さらに、p53遺伝子欠損を引き起こして、mycの増幅が起こるというのです。
また、CTDNEP1の標的として、染色体分離に関わるタンパク質を同定しました。そして、彼らは、Mycの発現を低下させるJQ1というブロモドメインの阻害剤と、細胞分裂のチェックポイントに関わるCHEK1阻害剤(prexasertib 現在臨床試験進行中)を併用することで、がん細胞の増殖を効率的に抑制することに成功しました。
以上の結果から、CTDNEP1がMYC活性と有糸分裂の忠実性を制御することにより、非常に悪性度の高いMYC駆動型の髄芽腫における腫瘍抑制因子であること、さらに、CTDNEP1欠損の髄芽腫に対しては、動物モデルと細胞モデルで、JQ1とprexasertibの併用療法が効果的であることが示されました。
最後に、グループ3の髄芽腫では、TGF-βシグナル伝達経路も上昇しているということが今回の論文でも再確認されていましたが、TGF-β受容体の阻害剤で処理しても、野生型とCtdnep1 cKOマウス由来の腫瘍細胞の細胞増殖には変化がなかったことが示されており、髄芽腫の細胞増殖の促進には、TGF-βシグナルは関係ないということも示しています。私たちは、発生初期の間葉系細胞でCtdnep1を欠損させたマウスでは、TGF-βシグナルが亢進して、軟骨の過形成と骨化遅延が起きることを過去に報告しましたので、Ctdnep1は、細胞の種類によって、制御するシグナル伝達が異なることが示唆され、大変興味深いです。
本当に脱帽です。当研究室にとって、バイブル的論文になりそうです。
第160回 2023/02/08
English Seminar
ASBMR 2022 Oral Presentations: Molecular Regulation of Bone
紹介者:荒崎 恭弘
Non-catalytic function of Dot1L histone methyltransferase regulate endochondral bone growth and development.
Phosphate-mediated activation of VEGFR2 induces Caspase-9 mediated apoptosis of hypertrophic chondrocytes during endochondral bone formation.
Reducing Smad2/3 Signaling by Deleting Alk4 in Skeletal Progenitors Increases Bone in Adult Mice.
第159回 2023/01/25
Neuron. 2022 May 18;110(10):1671-1688.e6.
Loss of mouse Stmn2 function causes motor neuropathy.
「マウスStmn2の機能欠損は運動神経障害を引き起こす」
紹介者:木村 勇太
TDP43はRNA結合タンパク質であり、RNAの代謝に関わっています。孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルの運動神経では、本来核に局在するTDP43が細胞質で封入体として蓄積しているということが知られています。ヒトSTMN2はTDP43によって発現調節されている遺伝子で、軸索再生関連分子であるstathmin2を発現しています。また、ヒト幹細胞由来の運動ニューロンでTDP43をノックダウンするとSTMN2の発現量が減少します。しかし、in vivoでのStmn2オルソログの役割については知られていません。本研究ではStmn2機能欠損マウスを作成し、in vivoでのStmn2の役割を解明することを目的としています。Stmn2欠損マウスを作成したところ、運動障害が見られました。神経筋接合部ではシナプスの接続に異常が見られ、除神経に特徴的なアセチルコリン受容体の断片化、筋修復に特徴的な核の中心への移動が見られました。また、Stmn2欠損マウスの腰髄では重合しているβ-Ⅲチューブリンが減少していて軸索の伸長に異常があることが示唆されました。一方、運動ニューロン、アストロサイト、ミクログリア、TDP43の量や局在には変化が見られませんでした。これらから、Stmn2が欠損することで神経での微小管伸長が障害され除神経が起きるというメカニズムによって、運動障害が見られたということが示唆されました。また、Stmn2欠損マウスにヒトSTMN2遺伝子を導入すると、運動障害、神経筋接合部の表現型ともにレスキューされました。この結果はTDP43 の異常があるALS患者における STMN2 発現の回復が、運動軸索機能を改善するという治療戦略ができる可能性を見出し、Stmn2欠損マウスが前臨床評価のためのモデルとなることを示しています。神経筋接合部の実験については自身の研究に活かせることが多く参考になりました。TDP43が制御している遺伝子は他にも知られており、それぞれがこのような複雑なメカニズムで神経障害を起こしていると考えるとALSの病態の解明は難しいなと感じました。
第158回 2023/01/18
J Clin Invest. 2020 Oct 1;130(10):5444-5460.
Immobilization after injury alters extracellular matrix and stem cell fate.
「外傷後の不動状態は細胞外基質と幹細胞運命を変化させる」
紹介者:金野 琢人
傷害後に安静にすることは、傷害部位の保護と痛みの減少、回復の促進といった効果があることは知られていますが、そのメカニズムは不明でした。安静にしている場合、生体内への機械刺激が減少しますが、この機械刺激の研究は3D培養といった様に人工的な条件で研究されていることが多く、生体内の細胞外基質の状態などは模倣しきれていませんでした。
本研究では、重症誘発性の異所性骨化(HO)を用いてscRNA-seqの結果より上昇した機械刺激に関して着目し、その機械刺激シグナルに関するFAKやYAP/TAZの阻害、外科的な関節固定によってHO形成を抑制しました。このことから機械刺激の抑制がHOの治療に貢献することが示唆されます。
さらに、関節不動状態における生体内の細胞外基質の状態について観察すると、運動したマウスと比べて、細胞外基質が乱雑かつ高密度な状態となっており、細胞形態に関しても遊走能や広がりの減少などが観察されました。この細胞についてみると、TAZのシグナルが減少しており、タンパク質レベルでは軟骨形成のTGF-βシグナルの減少と脂肪転写因子のPPARγの上昇が確認され、骨ではなく脂肪形成に寄与していることが分かりました。また、scRNA-seqやscATAC-seqで解析すると骨よりも脂肪形成に関する遺伝子の上昇が見られ、関節不動が細胞外基質の様子を変化させ、その環境における細胞の脂肪形成の遺伝子レベルを上昇させることで異所性骨化を抑制するといったメカニズムを解明することができました。
この研究結果から、FAK阻害剤を含む機械刺激の変化が医療へ応用されることが期待されます。
機械刺激に関する実験は検討中で考察の仕方や実験の進め方は参考になりました。機械刺激シグナル伝達について理解を深める良い機会となりました。細胞外基質の様子が幹細胞へ影響すること、組織切片の空間を脂肪と予想して実験を進める点も興味深かったです。
第157回 2022/12/07
J Clin Invest. 2022 Feb 15;132(4):e153752. doi: 10.1172/JCI153752.
「胎生期のオステオカルシンシグナル伝達はマウスの生涯にわたる副腎ステロイド産生と恒常性を決定する」
紹介者:三瓶 千怜
グルココルチコイド(GC)は様々な臓器で遺伝子発現を制御することから、多くの生理学的プロセスに影響を与える生体恒常性の重要な調節因子とされています。骨において、GCがオステオカルシンの発現を阻害することは知られていますが、骨が副腎機能を調節することについてはあまり知られていません。本論文では、マウスとサルにおいて、オステオカルシンがGCと古典的な内分泌フィードバックループを形成し、副腎ステロイド産生を促進することが示されました。
成体マウスやアカゲザルにオステオカルシンを投与すると、副腎ステロイドの血中濃度及び副腎ステロイド生成酵素などの遺伝子の発現が顕著に上昇しました。胎生期におけるオステオカルシンの曝露は副腎の成長を促し、出生後の副腎皮質ホルモン産生を促進しましたが、逆に胎生期にオステオカルシンが阻害されると、成体で副腎ステロイドによって制御される生理機能が阻害されたことから、胎生期のオステオカルシンが生体恒常性にまで影響を与えることが示されました。加えて、この内分泌フィードバックループにおけるオステオカルシンが視床下部-下垂体-副腎系とは無関係に制御されていることが示唆されました。
以上から、胎生期のオステオカルシンが副腎の成長を介して成体の生理機能に影響を与える、というオステオカルシンの新たな機能が示されました。出生後の副腎の大きさや血中K+濃度などが、胎生期のオステオカルシンに依存するという点が興味深かったです。出生後にオステオカルシンを投与することで副腎ステロイド産生が顕著に上昇したことから、副腎機能不全の治療開発につながる可能性があるのかが気になるところでした。また、サルを用いた実験やホルモンの測定方法などといった実験手法を学ぶことができ、勉強になりました。
第156回 2022/11/15
Nat Commun. 2022 May 24;13(1):2899.
「Anoctamin 1はCl-チャネル活性化とRANKL-RANKシグナル伝達をカップリングすることで骨吸収を制御する」
紹介者:荒崎 恭弘
Ca2+依存性Cl-チャネルAnoctamin 1が、破骨細胞の酸分泌に必要なCl-の細胞外排出を促進するだけではなく、RANKL刺激依存的にRANK受容体と結合することで、下流のCa2+シグナル経路の活性化を促進したり、RANKとTraf6との結合性を強めることで、Nf-kB経路、AKT経路、MAPK経路の活性化を促進した結果、破骨細胞分化を促進することを明らかにした内容でした。これまでのCl-チャネルの研究と異なる点として、酸分泌のみならず破骨細胞の分化そのものにも寄与している点が興味深かったです。また、破骨細胞特異的Ano1マウスの骨表現型を解析し、Ano1 KOで破骨細胞数の減少、それに伴う骨量の増加を示しただけではなく、破骨細胞特異的Ano1過剰発現Tgマウスも作製することで、一貫した表現型のデータを示していました。さらに、骨粗鬆症との関連として、骨粗鬆症患者ではAno 1が高発現していることを示しており、イオンチャネルはGPCRに続いて、治療標的となりえる膜タンパク質であるため、Ano1は骨粗鬆症の有望な治療標的であると考えられます。
第155回 2022/11/02
Nat Chem Biol. 2022 Mar;18(3):272-280.
Precise druggability of the PTH type 1 receptor.
「PTH1型受容体の精密なドラッガビリティ」
紹介者:早田 匡芳
今回の論文は,かつての共同研究者のピッツバーグ大学のJean-Pierre Vilardaga教授の論文です。副甲状腺ホルモン(PTH)は,骨吸収を促進することで,血中カルシウム濃度の調整に重要な役割を持つホルモンです。不思議なことに,副甲状腺ホルモン製剤は,一日一回または週に一回皮下投与されると,骨量が増加することから,骨粗鬆症の治療に用いられています。副甲状腺に関わる病気としては,副甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症が知られています。
副甲状腺ホルモンは,アミノ酸からなるペプチドで,胃や腸で消化されてしまうので,経口投与できません。そこで,経口投与可能な副甲状腺ホルモン受容体に作用する低分子化合物の開発が大いに求められています。
今回の論文では,複雑な分子動力学シミュレーションを用いて,低分子化合物が結合しやすいアロステリック部位(受容体の基質が結合する本来の場所とは違う場所)の同定とそこに結合する低分子化合物の同定に成功しました。その結果,Pitt8とPitt12という低分子化合物が,PTHのシグナル伝達を抑制する効果を持つことが示されました。実際に,Pitt12を動物に投与すると,PTH投与による血清カルシウム濃度の上昇を抑えられました。このことから,今回発見した低分子化合物は,副甲状腺機能亢進症の治療薬の候補として期待されます。
今回,非常に複雑なシミュレーションや受容体の立体構造に関する内容で,理解するのが非常に困難でした。ハイスループットスクリーニングという,ある意味ランダムな手法に比べて,非常に効率的に,創薬標的分子に結合する化合物を見出すというエレガントな手法に感銘を受けました。特に,ペプチドホルモンが結合するようなクラスBのG-タンパク質共役型受容体(GPCR)に対しては,経口投与可能な薬物が求められており,今回の手法を他のクラスBのGPCRにも応用できるのではないかと思いました。
第154回 2022/10/18
Nature. 2020 Jun;582(7811):259-264.
Notch signalling drives synovial fibroblast identity and arthritis pathology
「Notchシグナルは滑膜線維芽細胞の存在と関節疾患を制御する」
紹介者:金野 琢人
関節リウマチ(RA)はいまだに原因がよくわかっていない自己免疫疾患で、ヒュミラ(アダリムマブ)といった抗体医薬などが利用されますが、高価であることなどの難点がまだあります。RAは滑膜の線維芽細胞が一つの原因とされており、本研究ではこの滑膜線維芽細胞に着目しました。
これまで、解剖学的には、滑膜直下の線維芽細胞をPRG4陽性のライニング(表層)線維芽細胞、さらにその内側に存在するTHY1陽性のサブライニング(深層)線維芽細胞の存在が知られていました。そのうちのTHY1陽性線維芽細胞の方が悪玉であることが報告されましたが、その実際の病態への寄与や分化メカニズム、シグナル伝達などは不明でした。
その線維芽細胞は内皮細胞に近づくほどにTHY1の遺伝子発現が高く、解剖学的な位置と遺伝子発現の勾配が相関することが分かりました。さらに、血管内皮細胞由来のリガンド(DLL4, JAG1)が、線維芽細胞上に存在する受容体(NOTCH3)に作用し、THY1遺伝子発現を上昇させ、サブライニング線維芽細胞のプールをつくることで、RAの症状を発症させることを解明しました。マウスへのNotch阻害でRAのレスキューが出来たことから、RAへの新たな治療標的として、Notch阻害剤が示唆されました。
動脈が存在すると、そこからNotchリガンドがでることで、線維芽細胞へ影響を与えることが分かったことは、今後血管浸潤といった表現型に対する考察の幅が広がりました。また、原因細胞の同定ができたとしても、悪玉サブセットの存在を考慮すべきと思えました。
原因細胞とそのシグナルを同定する手順や示し方は、とても綺麗なものでした。対して、scRNA-seqの強さとハーバード大学の研究の大胆さに圧倒されました。
第153回 2022/10/12
Cell. 2021 Sep 2;184(18):4680-4696.e22.
TDP-43 condensation properties specify its RNA-binding and regulatory repertoire
「TDP-43の凝集特性は、そのRNA結合および調節レパートリーを特定する」
紹介者:木村 勇太
RNA結合タンパク質(RBPs)の凝集は、RNA-タンパク質複合体の濃度や局在を調節しています。筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態の中心はRBPであるTDP43というタンパク質の変異です。TDP43の多くの変異はC末端ドメイン(CTD)で起きていることが知られています。この研究ではCTDのうちいくつかの領域を欠損させた変異体を作成したところ、conserved region(CR)という領域欠損の変異体で、TDP43の核内での凝集が起きにくくなることが分かりました。
次に、タンパク質のRNA上の結合部位を決めるiCLIP法を用いて、WTとCR欠損変異体を比較しました。すると、CR欠損により結合しづらくなる部位とCR欠損しても結合できる部位があることが判明しました。同様にRNAの長さによる結合のしやすさについてWTとCR欠損変異体で比較すると、100nt以上の長いRNAではCR欠損により結合しづらくなり、それ以下の短いRNAではCR欠損しても結合することが判明しました。これらの結果から、長いRNAの特定の配列ではCR依存的にTDP43がRNAに結合することが分かりました。
このようなCR依存的な配列はTDP43をコードするTARDBPにも含まれており、通常はTDP43がTARDBPに結合してRNAプロセシングを制御しているものの、CR欠損変異体ではRNAプロセシングが亢進しTDP43タンパク質が増加することが分かりました。この研究の成果はTDP43のRNA制御のメカニズムの一部を解明していて、ALSなどの病態治療に応用されることが期待されます。また、TDP43については多くの論文が書かれているものの機能の全貌が明らかになっておらず、興味深いタンパク質だと感じました。
第152回 2022/10/05
Nat Commun. 2021 Apr 9;12(1):2136.
SLPI is a critical mediator that controls PTH-induced bone formation
紹介者:三瓶 千怜
「SLPIは、PTH誘導性の骨形成を制御する重要なメディエーターである」
PTHは、骨吸収から骨形成への移行を促進して骨形成を促進することから、骨粗鬆症の治療薬として用いられています。PTHの同化作用には破骨細胞による骨吸収が必要であるとされていますが、PTHが骨芽細胞及び破骨細胞を協調的に制御するメカニズムは不明です。
今回の論文では、網羅的遺伝子発現解析から、セリンプロテアーゼ阻害作用を持つSLPI(secretory leukocyte protease inhibitor)の発現がPTHによって上昇することを見出しました。SLPIは、骨芽細胞自体の中で作用して遺伝子発現を制御することで、骨形成を促進しました。また、生体多光子顕微鏡を用いて、骨芽細胞と破骨細胞による骨リモデリングを可視化したところ、SLPIが骨芽細胞の破骨細胞に対する接着能を増強し、骨芽細胞と破骨細胞の細胞間コミュニケーションを促進することを示しました。この研究グループは以前、骨芽細胞と破骨細胞の直接的な接触が、破骨細胞の骨吸収活性を阻害することを報告しました。
これらのことから、SLPIは、骨芽細胞による骨形成を促進すると同時に、骨芽細胞の周りに破骨細胞を引き寄せることで、骨吸収を抑制することが示唆されました。PTHがSLPIを標的とし、骨芽細胞と破骨細胞の細胞間コミュニケーションを促進するという結果でしたが、SLPIがこれらの細胞を制御する、より詳細なメカニズムの解明が期待されます。
今回の論文を発表した研究グループは、生体の骨内部の観察を世界に先駆けて行っており、今回の論文でも生体の骨芽細胞及び破骨細胞を観察することで、SLPIの役割を明らかにしました。骨は石灰質に囲まれた硬い組織であるために、これまで生体での観察は困難でしたが、生体の多光子励起イメージングの活用により、今までは見えなかった生体における骨や骨髄のさらなる機能が明らかになることと期待されます。
第151回 2022/9/28
Cell. 2021 Jan 7;184(1):243-256.e18.
Cranial Suture Regeneration Mitigates Skull and Neurocognitive Defects in Craniosynostosis
紹介者:荒崎 恭弘
「頭蓋縫合再生により、頭蓋縫合早期癒合症における頭蓋骨および神経認知障害が緩和する。」
本研究では、冠状縫合の早期癒合を呈するTwist1+/-マウスにおいて、頭蓋内圧亢進による認知機能低下を明らかにし、頭蓋縫合早期癒合症のモデルマウスとして有用であることを明らかにしました。また、このマウスに対して、Gli1+間葉系幹細胞とゼラチンベースのGel-MAを組み合わせた縫合再生手術を行うことで、6か月以上維持される縫合が再生され、その結果、頭蓋骨形成異常・頭蓋内圧亢進や脳体積低下が改善され、認知機能が向上するという内容でした。特に、縫合再生には硬膜組織の内在性Gli1+細胞が移植組織中に動員されることが必須であり、外因性Gli1+を含む移植組織が内在性Gli1+細胞を誘導するニッチを形成していることが興味深かったです。縫合再生のさらなる分子メカニズムが明らかになれば、より簡便で侵襲性の低い治療法確立が期待されるため、今後の研究が興味深いです。
第150回 2022/9/14
Cell. 2021 Mar 4;184(5):1330-1347.e13.
Osteoclasts recycle via osteomorphs during RANKL-stimulated bone resorption
紹介者:早田 匡芳
「RANKL刺激による骨吸収の際に破骨細胞はオステオモルフを介してリサイクルする」
一年ほど前にCellに掲載されたオステオモルフ発見の論文です。破骨細胞は,骨を吸収する細胞ですが,破骨細胞分化誘導因子RANKLの刺激によって,単球・マクロファージ系の細胞が融合して,巨大で多数の核をもつ破骨細胞へ分化します。破骨細胞は,骨粗鬆症,関節リウマチ,骨パジェット病,癌の骨転移等の病理学的なプロセスにおいて,重要な役割を持っており,生体内での破骨細胞の活動を理解することは臨床的にも重要です。今回の論文では,二光子励起顕微鏡という特殊な顕微鏡を用いて,破骨細胞の生体内ライブイメージングが行われました。その結果,破骨細胞がRANKLで刺激されると,一部が,分裂と融合を繰り返すということが発見されました。著者らは,破骨細胞から分裂した小さな細胞をオステオモルフと名付けました。興味深いことに,RANKLのシグナル伝達を阻害した後,しばらくすると,破骨細胞が非常に活性化されるということも見いだされました。このことは,デノスマブなど抗RANKL抗体休薬後に,骨折や著しい骨減少が起こるという臨床報告と関連している可能性が示唆されました。オステオモルフを単離する方法を開発して,シングルセルRNA-seqを行った結果,オステオモルフは,破骨細胞とも単球・マクロファージとも異なる遺伝子発現パターンを示していました。さらに,著者らは,オステオモルフで発現が上昇している遺伝子に着目し,ノックアウトマウスのデータベースを検索すると,それらの遺伝子の内17遺伝子が,骨量および骨強度に関与することが判明しました。さらに,著者らは,ヒトのバイオバンクのデータベースを検索することにより,オステオモルフで発現上昇する遺伝子の内,22個が,単一遺伝子による骨系統疾患と関連し,71個の遺伝子がヒトの骨密度の変化と相関がありました。今回,これまで骨代謝と関連するとは知られていなかった遺伝子を複数発見されましたが,オステオモルフ遺伝子が,単一の遺伝子変異で起こる骨系統疾患と骨粗鬆症など多因子でおこる骨格疾患のどちらにも関与していることが示されたのは興味深いと思います。オステオモルフが骨の恒常性と疾患において重要な役割を果たすことが示され,将来の創薬のための貴重な資源となることが期待されます。
破骨細胞の研究は,非常に盛んに行われていますが,このようにまだまだ新しい現象が見つかるとは驚きです。破骨細胞研究は奥が深いですね。
第149回 2022/8/25
ASBMR 2021: Concurrent oral session: Skeletal Development
紹介者:早田 匡芳
本日は、2021年のアメリカ骨代謝学会のMusculoskeletal Development(筋骨格系の発生)の口頭発表のセッションを視聴しました。内容は以下の4つの演題でした。今年は、当研究室から1名が参加しますが、その予行練習にもなりました。
細胞張力に関係するYAP/TAZの骨芽細胞前駆細胞における機能を解析したところ、YAPとTAZは、出生前の骨形成において、骨芽細胞による自律的な骨形成と骨・血管形成の結合の重要なメディエーターであることが明らかとなりました。
Matrix Gla タンパク質(MGP)は、細胞外マトリックス(ECM)の石灰化を強力に抑制するタンパク質ですが、最近、MGPの細胞外への分泌に必要なシグナルペプチドの切断部位に突然変異を持つ骨系統疾患の患者が報告されました。今回の発表では、同じ変異をもつマウスを作製し、この変異体では、シグナルペプチドが保持され、タンパク質の分泌障害、細胞内タンパク質の蓄積、小胞体ストレス、細胞死が引き起こされることが明らかにされました。
400人以上の患者から採取した骨格系幹細胞を用いて、シングルセルトランスクリプトーム解析を行った結果、加齢に伴う骨格の脆弱化や非組織化、線維性異形成症や腫瘍性骨格疾患の発症には、骨格系幹細胞の多様性の変化が重要であることが示唆されました。
キャッチアップ成長とは、一時的に成長が阻害された後に、生物の成長が加速されるという現象です。この現象には、成長板軟骨の静止領域の細胞が関与している可能性が示唆されていましたが、その背景にある細胞・分子機構は不明でした。成長版の静止領域の幹細胞を標識する事ができるマウスを用いて、実験を行ったところ、カロリー制限すると、幹細胞の増殖が加速され、増殖軟骨細胞への分化が抑制されていることがわかりました。カロリー制限を解除すると、幹細胞が速やかに増殖軟骨細胞への分化を再開し、対照群のマウスに成長が追いつきました。どのようなメカニズムでカロリー制限が、静止領域の幹細胞の増殖と分化を制御するのか、解明が期待されます。
1. Collins, Joseph, et al. "YAP and TAZ mediate osteogenic-angiogenic coupling during prenatal development." JOURNAL OF BONE AND MINERAL RESEARCH. Vol. 37. 111 RIVER ST, HOBOKEN 07030-5774, NJ USA: WILEY, 2022.
2. Gourgas, Ophelie, et al. "Understanding how a novel heterozygous variant in matrix Gla protein gene causes skeletal anomalies." JOURNAL OF BONE AND MINERAL RESEARCH. Vol. 37. 111 RIVER ST, HOBOKEN 07030-5774, NJ USA: WILEY, 2022.
3. Ambrosi, Thomas, et al. "Tractable Human Skeletal Stem Cell Diversity Shapes Bone Development and Regeneration." JOURNAL OF BONE AND MINERAL RESEARCH. Vol. 37. 111 RIVER ST, HOBOKEN 07030-5774, NJ USA: WILEY, 2022.
4. Oichi, Takeshi, et al. "Lineage tracing of Axin2+ cells revealed dynamic behavior of chondroprogenitor cells in the growth plate during temporal growth inhibition and catch-up growth." JOURNAL OF BONE AND MINERAL RESEARCH. Vol. 37. 111 RIVER ST, HOBOKEN 07030-5774, NJ USA: WILEY, 2022.
第148回 2022/7/14
Nat Commun. 2021 Jul 19;12(1):4391.
Targeting local lymphatics to ameliorate heterotopic ossification via FGFR3-BMPR1a pathway
紹介者:金野 琢人
「局所のリンパ管を標的としてFGFR3-BMPR1a経路を介した異所性骨化の改善」
異所性骨化(HO)はFOPなどの先天性疾患に加えて、外傷などによって後天的に発症することがあります。そのうち、アキレス腱損傷では異所性骨化が誘導されることが知られています。また、リンパ管が形成されることも報告されています。
これまでのHOに関する研究では、様々な間葉系細胞と分子シグナルについて報告されてきましたが、Col2陽性の間葉系細胞では調べられていませんでした。このCol2陽性細胞では、軟骨無形成症やタナトフォリック症の原因遺伝子であるFGFR3を発現しており、このCol2陽性細胞におけるFGFR3とHOの関係性も全く知られていませんでした。
本論文では、アキレス腱断裂マウスを用いて、この異所性骨とリンパ管の関係性を示しました。リンパ管を形成するリンパ管上皮細胞(LEC)に予想外にも運命変化したCol2陽性細胞がアキレス腱修復過程において、リンパ管を形成することによって異所性骨の病変部における炎症を減少し、症状を和らげることを示しました。特に、LECでのFGFR3のシグナルは、LECを増殖させてリンパ管形成を促進するが、反対にFGFR3の欠損はBMPR1aシグナルの上昇によってLECへの分化を抑制することでHO形成を悪化させることを示しました。このことからFGFR3を活性化させることで、リンパ管形成を促し、局所の炎症レベルを下げさせることによって、HO形成にかかわる炎症性のマクロファージなどを減少させ、異所性骨化だけでなくリンパ管機能不全に関連したリンパ管浮腫などの治療戦略になりうることを示しました。
リンパ管の知識に加えて、HOとリンパ管の関係性など勉強になりました。一般的に軟骨と関連するCol2陽性細胞がリンパ管形成に寄与することは興味深かったです。異所性骨化での細胞系譜解析の手法と考察の流れは参考になりました。
第147回 2022/6/30
Nat Metab. 2021 Feb;3(2):211-227.
Diet-dependent regulation of TGFβ impairs reparative innate immune responses after demyelination
紹介者:木村 勇太
「食事依存的なTGFβの制御は、脱髄後の自然免疫応答を障害する」
ミクログリアのミエリンクリアランス機能は、多発性硬化症(MS)のような脱髄疾患における神経系の機能の修復に必要です。今回の論文では、糖分や脂質が高い食事であるWestern Diet(WD)摂食マウスを用いて、ミクログリアの機能の評価を行っています。実験の結果、WD摂食マウスではミクログリアのミエリンクリアランス機能が低下しているため、脱髄修復が滞っていることが分かりました。また、この原因がWDによるLiver X receptor(LXR)の活性化制御であるということが示唆されました。
一方、肥満状態の時、TGFβは血漿、脳、脂肪組織で上昇するということが知られています。そこから着想を得てWD摂食マウスのTGFβ発現を評価すると、有意に上昇していることが分かりました。また、TGFβ上昇の結果、LXRシグナルの下流の遺伝子が減少していることが分かりました。
最後に、TGFβと相反する作用をもつトリガー受容体2(TREM2)を活性化させる抗体である4D9をWD摂食マウスに投与したところ、脱髄修復が促進されました。同様の作用が加齢マウスにおいても見られたことから、4D9が脱髄修復を促進する薬剤として使用できることが示唆されました。
現在自分の研究としてDullard KOマウスの解析を行っていますが、Dullard KOによりTGF-βが上昇することが知られているため、ミクログリアやLXRシグナルに影響が出ているのではないかと気になり、今後実験したいと考えました。また、脱髄修復機構について学ぶことができて、大変勉強になりました。
第146回 2022/6/23
Nature. 2021 Jan;589(7842):442-447.
RANK links thymic regulatory T cells to fetal loss and gestational diabetes in pregnancy
紹介者:三瓶 千怜
「RANKは、胸腺制御性T細胞を妊娠中の胎児死亡及び妊娠糖尿病と結びつける」
妊娠が成功するかどうかは、母体にとって異物である胎児を免疫学的に許容すること(免疫寛容)ができるかどうかで決定されます。制御性T(Treg)細胞は、妊娠の維持に重要であり、Treg欠損マウスでは流産が起こること、妊娠糖尿病ではTreg細胞が減少することが報告されています。一方、Treg細胞を放出する胸腺は、思春期をピークにその後萎縮していきますが、妊娠中には顕著に変化することが知られています。この胸腺において、RANKシグナル伝達が、胸腺Treg細胞の発生に関与する髄質胸腺上皮細胞(mTEC)の成熟を制御することが報告されています。
本論文では、胸腺特異的Rank欠損マウスの胸腺や妊娠中の胎盤、内臓白色脂肪組織でTreg細胞が減少することが分かりました。さらにこの欠損マウスでは胎児死亡や耐糖能障害が見られ、その仔マウスは巨大児として生まれるとともに、耐糖能障害が引き起こされました。これらの障害は、欠損マウスに、妊娠しているマウスの胸腺Treg細胞を移植することによってレスキューされました。以上のことから、妊娠時、RANKが胸腺Treg細胞の増加を促進し、母体の免疫寛容、及び世代間にわたる糖代謝に重要であることが示されました。
破骨細胞分化において重要な役割を担っているイメージの強いRANKですが、胸腺ではTreg細胞を調節することで、妊娠中や出産後の糖代謝にまで深く関与している点が興味深かったです。また、高齢出産では流産になる可能性が高まりますが、これが年齢と共に萎縮していく胸腺と関係があるのか(週齢数を増やしたマウスでは胎盤のTreg細胞が減少するのか)が気になりました。
第145回 2022/6/16
J Clin Invest. 2022 Jun 1;132(11):e151827.
Soluble CD13 induces inflammatory arthritis by activating the bradykinin receptor B1
紹介者:荒崎 恭弘
「可溶性CD13はブラジキニン受容体B1の活性化により炎症性関節炎を誘発する」
CD13は骨髄細胞や間質細胞に発現する細胞表面糖タンパク質です。CD13はaminopeptidase Nとも呼ばれ、細胞膜上で、様々なサイトカイン・ホルモンのN末端を切断したり、酵素活性非依存的に様々な細胞内シグナル伝達にも寄与しています。また、CD13はMMP-14によって切断され、可溶型CD13(sCD13)として、細胞外へ放出されます。近年の研究で、健常人や変形性関節症の患者と比べて、関節リウマチ患者(RA)の関節液においてsCD13の発現が高いことが報告されました。また、sCD13は非常に強い細胞遊走作用を有しており、滑膜組織へのマクロファージの浸潤および、関節炎の発症において重要な機能を有していることが示唆されました。しかしながら、sCD13がどの細胞集団に発現するどの受容体に結合することで、関節炎の発症に関与しているかは不明です。筆者らの先行研究において、sCD13がGタンパク質共役型受容体 (GPCR)に作用する可能性が示唆されました。
そこで、本論文では、オーファンGPCRに対するハイスループットスクリーニングを行うことで、sCD13に対する新たな受容体である、Bradykinin B1受容体 (B1R)を同定しました。さらに、公共データベース上の、RA患者の滑膜組織におけるsingle-cell RNA-sequencingの結果から、単球・マクロファージの細胞集団がCD13およびMMP-14を高発現しており、線維芽細胞集団がB1Rを発現していることを同定しました。関節炎発症におけるsCD13-B1R軸の機能を明らかにするために、様々な関節炎発症モデルマウスを用いました。B1R阻害剤やB1RのノックアウトによりsCD13-B1Rシグナルを阻害すると、下流のErk1/2のリン酸化が阻害され、細胞遊走や炎症性サイトカインの発現が減少することで、関節の炎症が回復しました。
以上のことから、関節炎発症において、sCD13-B1R軸が重要であり、ゆえに関節炎の治療に対する有望な治療標的となりうるという内容でした。
関節炎発症における新たなメカニズムを解明する興味深い論文でした。
第144回 2022/6/09
Cell Metab. 2021 Oct 5;33(10):1957-1973.e6.
Senescent immune cells release grancalcin to promote skeletal aging
紹介者:早田 匡芳
「老化した免疫細胞はグランカルシンを放出し、骨格の老化を促進する」
近年,老化した細胞が,体内に蓄積して,種々のサイトカインを萌出することで,炎症を引き起こすと言う概念が提唱されています。今回の論文では,グランカルシンというタンパク質が,老化したマウスの骨髄内の免疫細胞から分泌されて,骨形成を抑制して,脂肪細胞分化を促進しているということが報告されました。
本論文では,質量分析を用いたグランカルシンの発見にはじまり,そして生体マウスでの機能の証明をし,さらに,グランカルシンは,骨髄間質細胞を標的として,しかもその受容体がPlexinB2であることまで突き止めました。さらに,グランカルシンの中和抗体を作製して,老化したマウスの骨量を改善させることまで報告しています。
膨大な量の実験に裏付けられた研究で,脱帽しました。今後,グランカルシンを標的とした,老化の進行を遅らせるような老化治療薬の開発につながることが期待されます。
第143回 2022/06/02
ASBMR
Dec 09, 2021 | Webinar
Plenary Symposium: Limb Regeneration
Cato Laurencin, MD, PhD; Jessica Lehocky, PhD; Elly Tanaka, PhD
紹介者:三瓶 千怜
Mammalian digit tip regeneration: from phenomenon to molecular mechanism
(哺乳類の指先の再生:現象から分子メカニズムへ)
Jessica Lehoczky, Ph.D.
脊椎動物の中には、切断された手足やヒレなどを再生(エピモルフィック再生)することができる動物がいます。エピモルフィック再生ができる代表的な動物としてはゼブラフィッシュやサンショウウオなどが挙げられます。哺乳類においてこの能力は制限されていますが、幼いマウスやヒトでは切断された指先が再生されることが分かっています。
指先が切断されると、初期の炎症と創傷治癒のプロセスに続き、再生芽細胞の形成が起こります。この再生芽細胞は、高い再生能力を持つゼブラフィッシュやサンショウウオ、また、マウスなどにも共通する構造です。しかしながら、再生芽細胞の詳細な役割は明らかではなく、再生芽細胞がどのように再生組織を生じさせるかについては、二つの仮説が存在しています。始めに提唱された仮説は、再生芽細胞が多能性を有し、再生組織に分化することができる、という仮説です。しかし、その後の研究から、そもそも芽細胞が不均一な細胞集団であり、再生時にはその起源となる組織にのみ寄与する、という仮説が支持されるようになってきました。
これまで、後者の仮説を支持する報告が多くされてきましたが、再生芽細胞に存在する細胞型の正確な説明と関連性の高い細胞型間での系統制限(組織特異的な系統に分化すること)についての十分な評価はされていません。また、サンショウウオにおけるシングルセル (sc) RNA-seq解析では、再生芽細胞の不均一性が示された一方で、多能性線維芽細胞様前駆体が存在することが分かり、再生芽細胞が分化転換を支持している可能性が示唆されました。
今回発表されたテーマでは、マウスの指先における再生芽細胞のscRNA-seq解析により、シュワン細胞やマクロファージなどの他に、再生芽細胞内にはT細胞や単球、破骨前駆細胞などが存在することが明らかになりました。これらの切断後の芽細胞に存在していた不均一な細胞は、切断のない指先で同定された細胞型のほとんどを占めていることが分かりました。また、線維芽細胞は再生芽細胞の大部分を占め、再生に重要だとされていますが、今回の解析から、Mestの他に、Ccl2やMmp13などが再生中の線維芽細胞のマーカーとなり得る可能性が示唆されました。
今回の内容は、再生芽細胞が不均一で系統制限される細胞集団である、という仮説を支持する結果となりました。一方で、再生芽細胞が本当に分化転換しないのかどうか、という点については明らかにはなっていません。再生芽細胞についての理解が深まることで、将来的にはエピモルフィック再生ができる動物とできない動物の違いや、エピモルフィック再生の詳細なメカニズム解明が期待されます。
この発表に関連する論文
・Johnson GL et al. Cellular Heterogeneity and Lineage Restriction during Mouse Digit Tip Regeneration at Single-Cell Resolution. (Dev Cell. 2020 Feb 24;52(4):525-540.e5.)
Learning for the Axolotl’s Natural Ability to Regenerate Limbs
(アホロートルがナチュラルアビリティとして有する四肢再生能力についての学び)
Elly Tanaka, Ph.D.
アホロートル(メキシコサンショウウオ)は、優れた再生能力を有しており、四肢を切断すると再生芽細胞が蓄積します。骨、軟骨、腱や間質性線維芽細胞を含む結合組織(CT)系統は、この再生芽細胞の多くを占めており、四肢の再生に重要とされています。しかしながら、これまではこの細胞集団を分離することができなかったため、成熟したCT細胞が再生芽細胞をどのように形成しているかは明らかではありませんでした。発表者は、Cre: loxPレポーターライン及びscRNA-seqを用いることで、CT細胞の再生芽細胞に対する機能解明を試みました。今回の結果から、成熟したCT細胞が再生芽細胞を形成する際に、多能性の骨格系前駆細胞のプールに脱分化することが明らかになりました。また、皮膚線維芽細胞が四肢の再生に寄与することが示唆されました。
さらに、変態中に再生能力を失うアフリカツメガエルとサンショウウオの組織を互いに移植することで、このCT細胞の脱分化が、再生能力のない動物で起こるのかどうかを調べていました。結果として、変態後のカエルの線維芽細胞は、多能性四肢骨格前駆体に脱分化できない可能性が示唆されました。また、軟骨分化のプログラムが、カエルの変態前後で異なることが明らかになりました。
二つ目のテーマについての論文では、アホロートルの再生芽細胞で見られる脱分化は、アホロートルの肢環境には存在しない「再生誘導物質」によって引き起こされている可能性が言及されています。この仮説を検証するためには、カエルの線維芽細胞をアホロートルの肢芽細胞に移植することが必要ですが、拒絶反応により実行が困難であったため、この非互換性の克服が今後の研究に重要だということでした。
この発表に関連する論文
・Gerber T et al. Single-cell analysis uncovers convergence of cell identities during axolotl limb regeneration. (Science. 2018;362(6413):eaaq0681. )
・Lin TY, et al. Fibroblast dedifferentiation as a determinant of successful regeneration. (Dev Cell. 2021;56(10):1541-1551.e6. )
第142回 2022/5/19
Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Jun 22;118(25):e2100690118.
紹介者:金野 琢人
「限局性軟骨骨化は、骨形成不全症のFkbp10マウスモデルにおける関節機能障害と運動障害の根底にある」
骨形成不全症(OI)は、Col1a1やWnt1, Osxなどの様々な原因遺伝子が同定されており、易骨折性や胸郭不全による呼吸困難などが見られる骨系統疾患です。本論文の著者らは、以前、 FK506 Binding Protein 10 (FKBP10)遺伝子が、関節拘縮を伴う骨形不全症の原因遺伝子であることを示しましたが、その病態メカニズムはあまり理解されていませんでした。本論文では、腱特異的なFkbp10欠損による結合組織での異所性軟骨化を段階的に示しました。まずFkbp10の欠損によって、リシンの水酸化がうまくいかずにコラーゲンの架橋が減少することで、結合組織に必要なⅠ型プロコラーゲンが成熟不全となりました。さらに、異所性骨化に関連するヘッジホッグシグナル(Hh)や炎症マーカーの増加なども見られ、線維化や炎症が異所性軟骨病変部の局所で起こり、異所性軟骨形成や進行性の関節変形、歩行・運動障害が発症しました。このマウスに、Hhの受容体であるSmoothenedの欠損を導入し、遺伝学的にHhシグナルを抑制することで、Fkbp10変異マウスの異所性軟骨形成や病変部局所的な炎症、運動障害をレスキューすることが出来ました。本研究により、骨形成不全症の関節障害におけるFKBP10の病理学的意義が解明されました。
本論文の実験手法と表現型の示し方は、現在、自身の研究でも検討しているものが多く、特に組織学的解析は参考にしたいと思いました。また、インパクトの高い論文にするには、レスキュー実験がポイントと思えたので、阻害剤投与や遺伝学的手法についても参考にしたいと思います。
第141回 2022/5/12
Proc Natl Acad Sci U S A. 2020 Nov 17;117(46):29101-29112.
紹介者:木村 勇太
「アストロサイトにおけるTDP-43の欠損は、A1様反応性表現型とトリグリア機能障害を誘発することにより、運動障害を引き起こす」
異常なTDP-43凝集は、成人発症神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭型認知症(FTD)の病理学的特徴の一つです。TDP-43凝集体はアストロサイト(中枢神経系に存在するグリア細胞の1つ)にも見られるものの、神経機能と疾患の病因にどのように影響するかは分かっていません。本論文では、アストロサイトにおけるTDP-43の正常な役割を解明するため、アストロサイト特異的TDP-43 KOマウスの解析を行いました。アストロサイトでのTDP-43欠損がオリゴデンドロサイト(中枢神経系内のグリア細胞の一つで、ミエリン(髄鞘)形成を担う)前駆細胞に影響を与えることなく成熟オリゴデンドロサイトに影響を及ぼすこと、ミクログリアがA1反応性アストロサイトを誘発することを引き起こして、運動障害を起こすということが示されました。その際、運動ニューロンの欠損や神経筋接合部の異常が見られなかったことから、TDP-43欠損が運動障害の発症に関連するアストロサイトの保護機能を維持するのに必要であると示唆されました。この研究は、TDP-43を介した機能障害のメカニズムの一部を明らかにしていて、このメカニズムを完全に解明することが、ALSやFTDなどのTDP-43関連疾患の治療法への新たな戦略となると期待されます。
本論文を通して、グリア細胞をはじめとした神経に関連する細胞についての知見が広がりました。また、脊髄の凍結切片を使用した免疫染色やqRT-PCRなど自身の研究に活かせる内容も多く、参考になりました。
第140回 2022/4/28
Nat Commun. 2020 Nov 30;11(1):6127.
Lkb1 suppresses amino acid-driven gluconeogenesis in the liver.
紹介者:三瓶 千怜
「Lkb1は肝臓でのアミノ酸駆動型糖新生を抑制する」
肝臓での過剰な糖新生は、2型糖尿病で特徴的な高血糖を引き起こす重要な因子です。過去の研究から、肝キナーゼB1(Lkb1)を欠損させると、絶食時に糖新生が亢進して高血糖となることが報告されていました。本論文では、絶食時だけでなく摂食時においても、肝細胞特異的Lkb1欠損マウスで高いアミノ酸異化作用により糖新生が促進されることを示しました。この肝臓特異的Lkb1欠損マウスは、筋を犠牲にしてアミノ酸代謝を肝代謝に利用することで、長期的にはサルコペニアや悪液質を引き起こしました。また、アミノトランスフェラーゼ、特にAgxtがLkb1の抑制機能を持つエフェクターであることが示唆されました。
興味深かった点は、肝臓特異的Lkb1マウスの表現型の中でも、短期的には脂肪量が増加するものの、長期的には脂肪が顕著に減少するという点です。また、このマウスではサルコペニアが引き起こされましたが、サプリメントデータでは筋線維の面積も顕著に減少していたにも関わらず、骨格筋のシグナル伝達には変化がなかったこと、肝臓が機能的にも構造的にもほとんど変化がなかったことが印象に残りました。筋肉の表現型については、自身の研究にも関わる内容だったため、勉強になりました。
第139回 2022/4/21
Nat Commun. 2022 Feb 17;13(1):947.
CPEB1 directs muscle stem cell activation by reprogramming the translational landscape
紹介者:荒崎 恭弘
「CPEB1は、翻訳ランドスケープの再プログラミングにより、筋幹細胞の活性化を誘導する」
骨格筋幹細胞である衛星細胞は、厳密に静止状態が維持されていますが、筋損傷などの外部刺激に応答して、即座に活性化することができます。しかしながら、衛星細胞が、静止状態から活性化状態へと移行するメカニズムは明らかではありません。本論文では、静止状態および活性化状態の衛星細胞を単離し、トランスクリプトームおよびプロテオーム解析の結果を照合することで、活性化状態への移行には翻訳制御が重要であることを見出しました。さらにmRNAの3’UTRに結合することで、poly (A) tailの伸長を促進し、翻訳を制御するCPEB1というRNA結合タンパク質が、その標的である翻訳装置関連遺伝子の翻訳を促進することで、活性化状態への移行に必要な翻訳ランドスケープを変化させることを明らかにしました。衛星細胞において遺伝子発現量が高いのにも関わらず、タンパク質の発現量が低いことに焦点を当て、活性化状態への迅速な移行は翻訳促進により開始されることやCPEB1がその過程における機能因子であることを同定した内容で、非常に勉強になりました。また、CPEB1が、筋原性の転写因子であるMyod1 mRNAの3‘UTRに存在するCPE配列に結合することで、Myod1の翻訳を促進し、衛星細胞の筋分化を促進することを示しました。活性化状態の移行にはCPEB1のリン酸化が必要であり、インスリンによるCPEB1のリン酸化により筋損傷が改善され、CPEB1をリン酸化するオーロラキナーゼの阻害剤を処理すると筋損傷が治癒しないことが分かり、筋組織の修復にCPEB1が重要である可能性が示唆されました。本研究を通じて、mRNAの翻訳・安定性を検討するためのLuciferase assayや、RNA免疫沈降実験など、自身の研究内容に大きく関わる内容が多く、参考になる論文でした。
第138回 2022/04/14
J Clin Invest. 2021;131(2):e140214.
紹介者:早田 匡芳
「骨髄脂肪形成前駆細胞は、骨リモデリングおよび病的骨量減少において破骨細胞形成を促進する」
骨は、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収によるバランスによって維持されています。このバランスが崩れることによって、骨粗鬆症などの病気が発症することが知られています。破骨細胞の分化を支持する細胞として、これまでに、骨芽細胞や骨細胞が重要であるということが報告されてきました。本論文では、骨髄中に存在する脂肪細胞の前駆細胞が、破骨細胞分化を支持するのに、最も重要な細胞であるということが明らかにされました。これまでの常識を覆すような内容でした。
著者らは、Col2-Cre陽性の骨髄細胞の単一細胞RNAシークエンシング解析を行いました。その結果、脂肪細胞前駆細胞(MALP)は、マクロファージなどと最も相互作用する可能性が高いということが統計学的な解析で明らかになりました。さらに、Adipoq-Creを用いて、脂肪細胞特異的に破骨細胞分化誘導因子RANKL遺伝子を欠損させたマウスを作製しました。その結果、そのマウスでは、特に、海綿骨の顕著な増加が見られましたが、破骨細胞数の減少と骨形成の低下を伴っていました。細菌由来のリポ多糖誘導性の骨減少モデルでは、このマウスは、骨吸収に抵抗性を示しました。さらに、卵巣摘出の閉経後骨粗鬆症モデルマウスでは、部分的に、骨減少に抵抗性を示しました。
以上の結果より、MALPが、RANKLを介して、通常の骨リモデリングと病的な骨減少症において、重要な役割を果たす細胞であるということが明らかになりました。
今回の研究によって、RANKLを発現する細胞の種類によって骨リモデリングが区別されて制御されているのではないかという可能性が考えられます。私が骨代謝研究の世界に入ったときは、RANKLを出すのは骨芽細胞というのが常識でしたが、2011年に骨細胞がよりRANKLを多く発現するという報告があり、驚いた記憶があります。今回は、脂肪細胞前駆細胞が破骨細胞分化を制御する重要な細胞であるということがわかりました。今回の発見は単一細胞RNAシークエンシング解析によって明らかになったことだと思いますので、科学技術の進歩が、これまでの世界観を書き換えていくということを感じました。
ちなみに、Col2-Creは、軟骨細胞や骨芽細胞でCre遺伝子を発現するマウス系統なのですが、今回、彼らは造血系の細胞でも、Col2-Creが発現しているということを見出しています。間葉系細胞の挙動を調べたかったので、血球系の細胞の混入を嫌いますが、今回、一緒に解析することによって、間葉系細胞と造血系の細胞の相互作用が明らかにされたとも言えるようです。
第137回 2022/03/18
ASBMR Symposium Biology of the Aging Skeleton – Implications for Fracture Prevention (Thursday, September 30, 2021 in Toronto, Ontario, Canada)
Translating the Biology of Aging to the Skeleton Part I
Proteostasis, Autophagy and the Skeleton
Senescence and the Skeleton
紹介者:荒崎 恭弘
Translating the Biology of Aging to the Skeleton Part I
Proteostasis, Autophagy and the Skeleton
Melda Onal, Ph.D.
タンパク質恒常性を維持する機能は年齢とともに低下します。本研究ではタンパク質分解プロセスの一つである、Autophagyに着目し、その中でもmacroautophagyとchaperon-mediated autophagy (CMA)が加齢においてどのように骨代謝に関与しているかを検討しました。発表者らは、骨芽細胞系譜細胞において、加齢に伴ってmacroautophagyの低下がみられることを見出し、骨芽細胞系譜および骨細胞特異的にmacroautophagyの機能を低下させたマウスの骨代謝を検討しました。骨芽細胞系譜特異的Atg7 KOマウスでは、顕著な骨量減少が見られましたが、骨細胞特異的Atg7 KOマウスでは、わずかな骨量減少や、老化関連遺伝子p66の蓄積などが見られ、加齢における骨を模倣した表現型が認められました。また、LAMP2 KOによってCMAを低下させたマウスでは、骨量が減少し、酸化ストレスに対する感受性が増加しました。以上から、加齢によるautophagyの低下が骨量減少に寄与することが明らかとなりましたが、autophagyを亢進させることで、骨の老化進行を遅らせることが可能かどうかは、今後の課題となっているといった内容でした。
Senescence and the Skeleton
Maria Almeida, Ph.D.
加齢によって細胞が障害を受けると、一過性に細胞周期が亢進し、分化やアポトーシス、細胞老化などが起こります。発表者らは、加齢による細胞傷害と加齢に伴う骨量減少との関係を明らかするために、アポトーシス機能を阻害したBak Baxダブルノックアウトマウスを作製しました。若齢 (8か月)では骨量が増加したのに対し、老齢 (22か月)骨量が増加したものの、皮質骨において骨粗鬆症様の骨量減少が認められ、アポトーシスが加齢性の骨量減少に寄与しないことが分かりました。そこで、細胞老化に着目し、2つのシステムにより、p16発現老化細胞を特異的に排除するマウスを作製し、薬物による老化細胞死誘導を行ったところ、加齢による骨量減少がレスキューされました。また、老化細胞はSASPを産生することが分かっておりますが、骨組織中においてどの系譜の老化細胞がSASPを産生しているかを検討したところ、造血系譜細胞ではなく、骨芽細胞系譜細胞が主に産生していることが分かりました。また、骨芽細胞系譜細胞特異的に酸化ストレスを低下させたマウスでは骨量加齢に伴う骨量減少がレスキューされ、NAD合成酵素をノックアウトすると骨量が増加しました。以上のことから、加齢に伴って、ミトコンドリアの機能不全がおこることで、酸化ストレスの増加やNADレベルの低下がおこり、骨芽細胞系譜細胞の老化が引き起こされ、その結果、老化細胞によるSASP産生が促進され、骨量が減少するという内容でした。
第136回 2022/3/11
J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2022 Feb; 13(1): 495–514.
紹介者:三瓶 千怜
「AKTは、mTORC1とFOXO1の複合シグナルを介してタンパク質合成と酸化的代謝を制御し、筋生理を支配している」
AKTは骨格筋量の重要な調節因子であり、AKTシグナル伝達の欠陥はサルコペニアやカヘキシア、廃用性の筋疾患に関与しています。しかしながら、骨格筋線維型や代謝機能、及び筋機能の調節におけるAKTとその遠位シグナルの役割についてはほとんど分かっていません。
本論文では、DKO、TKO、さらにはQKOといった多くの欠損マウスを用いることで、AKTがインスリン/IGF-1シグナル伝達経路の必須中間体であり、FOXO1及びmTORC1の同時制御を介して遅筋とタンパク質合成の維持に関与することが明らかになりました。さらに、AKTシグナル伝達の遺伝的模倣(FOXO1阻害及びmTORC1活性化)が、廃用性萎縮を防ぐ可能性が示唆されました。
運動機能の測定やタンパク質の合成/分解の評価といった実験方法だけでなく、筋量や筋線維型、及び生理機能の調節に関与する分子基盤について理解を深めることができました。また、本論文では廃用性筋委縮におけるFOXO1とmTORC1両方の関与が示唆されていましたが、廃用性筋委縮のさらなるメカニズム解明により、サルコペニアやカヘキシアといった他の要因から発症する筋委縮に対する理解も期待されます。
第135回 2022/03/04
Nature. 2021 Jan;589(7843):591-596.
Nociceptive nerves regulate haematopoietic stem cell mobilization
紹介者:李 政道
「侵害受容神経は、造血幹細胞の動員を制御する」
痛みを起こす刺激の受容器である侵害受容器から放出されたカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が、造血幹細胞上に発現している受容体活性調節タンパク質1(RAMP1)およびカルシトニン受容体様受容体(CALCRL)からなるヘテロ二量体受容体を介して、造血幹細胞に直接作用し、Gαs/アデニル酸シクラーゼ/cAMP経路を活性化することで、骨髄から血流への造血幹細胞の動員を促進することが報告されました。それに加え、侵害受容器を活性化することが報告されている、トウガラシの辛味成分であるカプサイシンを含む食事を摂取することでも上述の動員が促進されることが明らかになりました。本研究から得られた知見により、造血幹細胞移植手術後の患者のドナーHSCの血流動員の改善をもたらすことが期待されます。しかしながら、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF) による造血幹細胞の動員が、侵害受容器に直接作用するのか、あるいは骨髄の他の細胞種を介して間接的に影響を与えるのかどうかは不明なままなので、更なる研究が期待されます。
第134回 2022/2/25
Science. 2021 Jul 30;373(6554):eabc8479.
Counteracting age-related VEGF signaling insufficiency promotes healthy aging and extends life span
紹介者:加藤 宏典
「加齢に伴うVEGFシグナル伝達不全に対処することで、健康的な加齢と寿命の延長が促進される」
加齢により血管内皮増殖因子(VEGF)のおとり受容体の発現が上昇し、VEGFシグナル伝達が阻害され、十分な微小血管密度(MVD)が維持できなくなります。また、このVEGFシグナル伝達不全の改善により、老化における様々な症状が緩和されることを示した論文でした。
血管は全ての臓器が共有する細胞ネットワークであり、全ての細胞は酸素や血液中の物質の供給、老廃物の除去等において、血管に依存しています。そのため、加齢による血管機能の低下が臓器に影響を及ぼし、それにVEGFシグナルが関与しているという仮説のもと、加齢による臓器の諸症状を網羅的に検討していました。本論文の特筆すべき点は加齢に対するVEGFシグナルの万能性であると考えます。加齢による症状は様々で、サルコペニア、骨粗鬆症、後湾症、脂肪肝、肝障害、上皮細胞の老化、酸素消費率の低下、呼吸商の低下、脂肪蓄積、熱産生の低下、炎症、腫瘍形成など非常に多岐にわたります。それら全てがVEGFシグナル伝達不全の改善により軽減されることを、そして寿命が延伸されることを示していました。これらの結果から、VEGFが老化の包括的なゲロプロテクターとなる可能性が示唆されていました。
自身の研究としては骨・関節などの単一臓器のみに着目して実験を行っていますが、本論文のような臓器連関の検討も興味深く感じました。
第133回 2022/2/4
Nature. 2021 Dec;600(7890):720-726.
A hormone complex of FABP4 and nucleoside kinases regulates islet function.
紹介者:荒崎 恭弘
「FABP4とヌクレオシドキナーゼのホルモン複合体が膵島機能を制御する」
脂肪細胞からエネルギー貯蔵の放出は、エネルギー欠乏時においては生存を支持するために不可欠です。しかしながら、インスリン抵抗性またはインスリン不足に伴う脂肪分解の制御不能や慢性化は代謝ホメオスタシスを破壊します。本研究では、脂肪分解に伴って分泌される循環性のFABP4がアデノシンキナーゼADKとヌクレオシド脱リン酸化酵素NDPKと三者複合体Fabkinを形成することで、膵臓β細胞を制御するという内容でした。I型およびII型糖尿病モデルマウスおいて抗FABP4抗体を投与すると、インスリン分泌が促進され、また、β細胞の細胞死が抑制されました。Fabkinが細胞外のATP合成を促進することで、P2Y1受容体を抑制し、下流で小胞体のCa2+濃度減少が起きた結果、小胞体ストレスが亢進し、アポトーシスが誘導されるというメカニズムを明らかにし、決まった受容体に対し単独で働くというホルモンの役割に関して新たな考えをもたらす、非常に興味深い研究でした。
第132回 2022/1/28
Nature. 2021 Mar;591(7850):438-444.
A mechanosensitive peri-arteriolar niche for osteogenesis and lymphopoiesis.
紹介者:早田 匡芳
「骨形成とリンパ球形成のための機械感受性細動脈周囲ニッチ」
骨髄にはたくさんの細胞がつまっています。本日の論文では,骨髄の中で,骨形成とリンパ球形成に重要な役割を果たす新たな細胞種が発見されました。レプチン受容体を発現する細胞は,間葉系幹細胞として,脂肪細胞や骨芽細胞の供給源となっています。今回,著者らは,レプチン受容体を発現する細胞種の中に,オステオレクチンというタンパク質を発現する細胞群が,洞様毛細血管ではなく,細動脈の周囲に存在していることを見つけました。そして,オステオレクチンを発現する細胞は,増殖が盛んで短命でありますが,骨芽細胞の供給源となっていました。さらに,この細胞は,幹細胞因子(SCF)を分泌することで,リンパ球形成にも関与していることも見出しました。この細胞でSCFをノックアウトしたマウスは,リンパ球形成が低下し,細菌感染に弱くなりました。
今回の論文の目玉は,運動すると,その細胞に発現している機械刺激受容体Piezo1という分子を介して,骨形成とリンパ球形成が促進されるということを発見したことだと思います(この論文が出た後に,Piezo1を発見したアーデム・パタプティアン博士は2021年のノーベル生理学医学賞を受賞しています)。運動により,骨が強くなるということは以前から知られていました。特に,骨の中に埋め込まれている骨細胞が機械的刺激を感知するということが知られていましたが,今回,骨髄の中の細動脈周囲のオステオレクチン陽性細胞も,機械的刺激を感知して,骨量増加と免疫系強化に重要な役割を果たしているという事がわかりました。運動の刺激がどうやって,骨髄の中の細動脈に伝わるのかは興味深いところです。
今回の研究は,マウスを用いた研究ですが,「運動すると,骨と免疫が強くなる」という分子メカニズムの一端が解明されたのだと思います。
第131回 2022/1/21
ASBMR Bone & Muscle Interactions with Aging Working Group presentation
Unexpected role of prostaglandin degrading enzyme (15-PGDH) in muscle aging and rejuvenation - Implications for Bone?
紹介者:早田 匡芳
さらに,ASBMR 加齢に伴う骨・筋の相互作用ワーキンググループ発表会
「筋肉の老化と若返りにおけるプロスタグランジン分解酵素(15-PGDH)の意外な役割 - 骨への示唆」
本日は,ASBMRのリソースにある,スタンフォード大学のBlau教授によるセミナーを視聴しました。サルコペニアの現状をイントロダクションで示していただきまして,教授の一連の研究を紹介してくださいました。
筋肉の幹細胞が周囲の硬さを認識して,幹細胞性を維持しているという発見も興味深かったです。特に,これは,間葉系幹細胞が足場の硬さによって,骨芽細胞や,軟骨細胞,脂肪細胞への分化性を変えるという報告がありますが,筋肉幹細胞でも足場の適度な硬さ(12kPa)が必要らしいです。とくに,プラスチックは硬すぎて,幹細胞性を維持できないようです。
最近のScienceの論文の内容を紹介してくださり,老化マウスでプロスタグランジンE2(PGE2)が失われると筋肉が減少するようです。これは,PGE2を分解する酵素である15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)の活性が上昇した結果であるようです。興味深いことに,15-PGDHの阻害剤であるSW033291を投与して,PGE2の濃度を回復させると,筋肉の機能が改善しました。筋肉細胞では,TGF-βシグナル伝達が減少し,ミトコンドリア機能とオートファジーの増加が見られました。
SW033291の副作用に関しては,詳細に調べられていないようですが,現在,サルコペニアの薬物療法はないので,今回の知見が,サルコペニアの新たな治療戦略の開発に貢献することが期待されると思います。
セミナー視聴終了後,研究室員で発表内容について議論しました(日本語で)。
本日のセミナー紹介されたで論文を挙げておきます。
Inhibition of prostaglandin-degrading enzyme 15-PGDH rejuvenates aged muscle mass and strength.
Science. 2021 Jan 29;371(6528):eabc8059.
Biomaterials. 2021 Aug;275:120973.
Rejuvenation of the muscle stem cell population restores strength to injured aged muscles.
Nat Med. 2014 Mar;20(3):255-64.
第130回 2022/1/14
Science. 2020 Sep 4;369(6508):eaaz3090.
Changes in regeneration-responsive enhancers shape regenerative capacities in vertebrates
紹介者:三瓶 千怜
「脊椎動物において再生応答エンハンサーの変化は再生能力を決める」
脊椎動物における損傷した組織の再生能力は、広範ですが一様ではありません。この再生能力の根底にあるメカニズムは未だ解明されていません。
アフリカメダカとゼブラフィッシュは互いに近縁種であり再生能力を持ちながらも、2億3千万年もの進化距離があり、また生息している環境も大きく異なります。本論文ではこのアフリカメダカとゼブラフィッシュの関係性を利用し、ChIP-seqやscRNA-seq等を用いることで、種特異的な再生応答性エンハンサー(RRE)と保存されたRREを区別し、硬骨魚再生応答プログラム(RRP)を報告しました。本論文で提案されたRREベースモデルは、AP-1リッチなRREの機能は損傷と再生を含む再生反応を活性化することでしたが、進化と種分化により再生と損傷の応答が解離してしまった、というものです。したがって、AP-1リッチなRREの変化により再生応答が喪失した可能性が示唆されました。
今回は自身の研究する筋肉から離れ、再生や進化遺伝学に関わる論文を選びましたが、再生能力をもつ生物や再生応答、進化遺伝学の考え方など、新鮮に感じることが多くありました。また、普段自分で行うことのない実験手技について学ぶいい機会になりました。
第129回 2021/12/24
Nat Commun. 2021 Jan 19;12(1):448.
紹介者:荒崎 恭弘
「表皮前駆細胞は、CPSF-HNRNPA3の連携により促進されるイントロン・ポリアデニル化により、GRHL3を介した分化を抑制している」
表皮のような再生する体細胞組織では、自己複製能を維持するために、前駆体細胞において最終分化遺伝子は抑制されていなければならない。本研究では、角化細胞の分化過程において、最終分化遺伝子であるGRHL3のイントロンに存在するポリアデニル化配列 (IpA site)から3’UTRに存在するポリアデニル化配列 (pA site)における切断・ポリアデニル化が促進していることを、次世代シーケンシング技術により見出した。さらに、未分化な状態において発現が維持されているポリアデニル化因子CPSFが、RNA結合タンパク質HNRNP3Aによるスプライシング反応抑制と協調し、イントロンのポリアデニル化を促進することで、イントロンで切断された未熟なGRHL3の産生を促進し、結果として完全長のGRHL3 mRNAの産生を抑制する。本研究は最終分化遺伝子GRHL3をイントロンのポリアデニル化という現象を介して抑制することで、自己複製能を維持するというメカニズムを解明した内容で、非常に興味深かったです。自身の研究対象であるCpeb4と同じファミリーであるCPEB1は、3‘UTRにおける選択的ポリアデニル化に関与しているという報告があり、破骨細胞分化に関わる転写因子において、似たようなメカニズムが存在する可能性が考えられます。
第128回 2021/12/17
Nat Metab. 2020 Dec;2(12):1382-1390.
Stepwise cell fate decision pathways during osteoclastogenesis at single-cell resolution
紹介者:早田 匡芳
「単一細胞解像度での破骨細胞形成過程における段階的な細胞運命決定経路」
本日の論文は,東京大学高柳研究室からの論文です。
破骨細胞は骨を吸収する細胞で,骨の新陳代謝に重要な役割を担っていますが,破骨細胞の過剰な活動は,骨粗鬆症,関節リウマチによる骨破壊,歯周病,がんの骨転移等の病理学的なプロセスに関与しています。したがって,破骨細胞の分化経路を研究することには基礎研究としても臨床研究にも重要です。破骨細胞は,骨髄の単球・マクロファージから破骨細胞分化誘導因子であるRANKLの刺激によって分化します。試験管内での破骨細胞分化誘導システムが確立されており,このシステムは,破骨細胞研究を大きく前進させてきました。それでも,破骨細胞分化メカニズムには不明な点が多く残されています。
本論文では,この破骨細胞分化システムを用いて,単一細胞トランスクリプトーム解析を行うことによって,破骨細胞の分化経路を同定しました。破骨細胞は,単球前駆細胞→樹状細胞用前駆細胞→細胞膜ラフト会合→細胞増殖とRNA代謝→エネルギー代謝と最終分化→骨吸収という遺伝子発現の変化を経ることが明らかにされました。
興味深いのは,一度,樹状細胞様の遺伝子発現を示すことです。著者らは,樹状細胞のマーカーであるCD11cを発現する細胞でRANKLの受容体RANKの遺伝子を欠損させると,破骨細胞分化に障害が出ることを見出しました。
破骨細胞になり損ねた細胞群も同定されました。自分自身も,この系を利用して実験していますが,骨髄細胞をRANKLで処理しても,全部の細胞が破骨細胞になるわけではないので,これには一体どういう理屈が存在しているのか,疑問に思っていました。そこには,生物ならではの「ゆらぎ」や「不安定性」が存在しているのかもしれません。
最後に,分化過程で発現変動する転写因子として,新たに,Cited2を同定しました。Cited2を欠損した細胞では,増殖する前破骨細胞までは分化するが,その先の運命決定した前破骨細胞に分化することができませんでした。
今回の研究で,破骨細胞分化の遺伝子発現変化の全貌が明らかになりました。このデータは破骨細胞研究にとって極めて重要な情報であると同時に,破骨細胞を標的とした,骨格疾患の新たな治療戦略に結びつくことが期待されます。
第127回 2021/12/10
Autophagy. 2019 Jun;15(6):1069-1081.
紹介者:三瓶千怜
「骨格筋特異的なPrmt1の欠失は、PRMT6-FOXO3軸の制御を介して筋萎縮を引き起こす」
骨格筋のリモデリングにおいては、タンパク質の合成と分解のバランスが重要になります。タンパク質の合成については、IGF-1により活性化したAktがmTORを活性化することによるタンパク質の合成を促進する経路と、活性化したAktが筋萎縮誘導因子であるFoxOを抑制する経路があります。一方、活性化したFoxOやp38MAPKにより筋線維を構成するタンパクや筋分化に関与する転写因子を分解するFbxo32やTrim63が誘導されることで、タンパク質の分解が行われます。このバランスが崩れ、FoxOが過剰に活性化した場合,筋委縮が引き起こされる可能性があります。今回の論文では、タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ1遺伝子であるPRMT1が枯渇した状態においては,PRMT6レベルが上昇し,PRMT6がFoxO3のアルギニン188と249を特異的にメチル化することで,FoxO3を活性化することが明らかになりました。骨格筋特異的Prmt1欠損骨格筋においては、過剰に活性化されたFoxO3により、筋委縮が認められました。
今までのJournal Clubでは、筋損傷を起こした状態での骨格筋のリモデリング過程におけるメカニズム解明を目的とした論文を選ぶことが多くありましたが、今回は,ある遺伝子を欠損させたときに起こる現象の原因をどのように明らかにするか、という内容だったという点で、自身の研究に近いものがあると感じました。また、研究の進め方や、収縮力の測定、どの実験にどの筋を解析するのが必要なのかといった点で、勉強になりました。
第126回 2021/11/26
Bone Res. 2021 Nov 1;9(1):47.
紹介者:李 政道
「Siglec-15に対する抗体は、TRAP+単核細胞およびPDGF-BBの分泌を増加させることにより、骨形成および骨折治癒を促進する」
先行研究から明らかになっていた、Siglec-15の欠失はTRAP+単核細胞を増加させ、PDGF-BBの分泌を促進させることで骨形成の増加をもたらすという結果踏まえて、Siglec-15中和抗体が骨疾患モデルマウスにもたらす治療効果について明らかにした論文でした。デノスマブなどの既存の骨疾患治療薬とは違った機序による骨形成の改善効果をもたらすことから、骨疾患への新規治療薬として開発されることが期待されます。
第125回 2021/11/12
Sci Adv. 2021 Mar 24;7(13):eabe5708.
紹介者:荒崎 恭弘
「 LncRNA GIRGLは、CAPRIN1による相分離を促し、グルタミン枯渇下でのグルタミナーゼ1の翻訳を抑制する」
グルタミン欠乏下におけるがん細胞では、lncRNA GIRGLがCAPRIN1のホモダイマー化を促進することで、液-液相分離によるストレスグラニュール(SG)の形成を促進する。その結果、グルタミナーゼであるGLS1 mRNAがSGに取り込まれることで、翻訳抑制によるGLS1タンパク質減少がおこり、グルタミンの代謝が抑制され、がん細胞の長期間の栄養枯渇状態の生存が可能となる。GIRGLのグルタミン欠乏下における役割を明らかにしただけではなく、定常時におけるGIRGLのサイレンシングやグルタミン欠乏下におけるGIRGL発現制御までも、非常に膨大かつ丁寧なデータで示しており、興味深い内容でした。また、近年着目されているlncRNAと相分離による構造体形成について新しい知見をもたらし、自身の研究に参考になることが非常に多く、勉強になりました。
第124回 2021/11/05
J Clin Invest. 2020 Dec 1;130(12):6354-6365.
紹介者:早田 匡芳
「 腱由来のカテプシンKを発現する前駆細胞が,ヘッジホッグシグナルを活性化し、異所性骨化を促進する」
異所性骨化(Heterotopic Ossification: HO)は、筋肉や腱などの軟部組織内で骨化することを特徴とする病的な骨形成です。本研究では、カテプシンK-Cre発現細胞(Ctsk-Cre発現細胞)においてsuppressor of fused (Sufu)を欠損させると、自然に進行する靭帯、腱、関節周囲の骨化が生じることが示されました。
カテプシンKは,破骨細胞の分化マーカーとして用いられる遺伝子ですが,骨膜の骨格系幹細胞などにも発現することが報告されています。今回の論文では,なんと,腱や靭帯にも,カテプシンK陽性の細胞が存在することが報告されました。しかも,その細胞は,幹細胞としての特徴である,自己複製能と骨芽細胞,脂肪細胞,軟骨細胞への多分化能を持っていました。そして,今回,カテプシンK陽性細胞で,ヘッジホッグシグナルを抑制する機能を持つsuppressor of fused (Sufu)遺伝子を欠損させると,アキレス腱の中に異所性骨化が起きることが見いだされ,その症状は,ヘッジホグシグナル伝達を阻害できるBRD4阻害剤のJQ1で治療することができました。今回の研究で,著者らは,JQ1が異所性骨化の新しい治療薬になるのではないかと提言しています。
当初,著者らは,軟骨腫瘍におけるSufu遺伝子の役割を調べようと思って,このマウスを作ったのですが,予想外に,異所性骨化という現象を見出し,研究が予期せぬ方向へ進みました。
自分自身も,Dullard遺伝子を骨芽細胞でノックアウトしようとして,Col1a1-CreとDullard floxマウスを交配したところ,予想外に,出血性卵巣嚢胞が発症することを見つけました。そして,実際に,Col1a1-Creが卵巣の顆粒膜細胞と精巣のセルトリ細胞でも発現することを見出しました(Hayata et al., Gene Cells. 2018)。このように,予期せぬ偶然から研究が進むことはよくあることで,現在も,その予期せぬ偶然に出会うことを楽しみにしながら,コツコツと実験しています。
第123回 2021/10/29
Science. 2021 Jul 2;373(6550):eabe9383.
Diet-regulated production of PDGFcc by macrophages controls energy storage
紹介者:李 政道
「食事によるマクロファージのPDGFcc産生がエネルギー貯蔵を制御する」
脂肪組織に常在するマクロファージが、PDGFccを産生することで、食事によるエネルギー摂取と脂肪細胞への脂肪の蓄積を結びつけるという、進化的に保存された機能を明らかにした論文でした。
先行研究によって、肥満が炎症を引き起こすこと、それには単球由来マクロファージが関与していることは知られていましたが、それとは別に,高脂肪食に伴って脂質の蓄積を促進するPDGFccを産生するという、組織マクロファージの新たな異なる役割を明らかにした点が興味深かったです。
食事による刺激がどのようにして脂肪細胞常在マクロファージへと伝わるか等、不明な点もまだ多いですが、今後の研究によって明らかにされていくのが楽しみです。
第122回 2021/10/22
J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2021 Feb;12(1):192-208.
紹介者:三瓶 千怜
「TAK1阻害は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのマウスモデルにおいて筋芽細胞の分化を改善し、線維症を軽減する」
TGF-β1やIL-1β、TNF-αにより活性化されたTAK1が、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のマウスモデルにおいて,筋芽細胞の分化と線維症の進行に寄与し、逆にTAK1を阻害することで筋芽細胞の分化と線維症を改善する、という内容でした。
マウスの歩行を解析する実験や単離した筋芽細胞の実験など、特殊な機械等を要さない実験について新たに勉強することができました。加えて、特に染色方法やマーカーなど多様な染色実験が行われていたことから、自分の実験にどう生かせるかについてより現実的にイメージできる論文でした。
本研究はまだまだ研究の余地があるテーマだと感じました。一方で、5000人の男性に1人という決して低くはない発症率のDMDに対する、現実的な治療法を確立させるためには今回の論文のように総合的に病態を理解・対処できることが理想的であると感じました。
第121回 2021/10/15
Nature. 2021 Jul;595(7869):701-706.
Astrocytic interleukin-3 programs microglia and limits Alzheimer’s disease
紹介者:加藤 宏典
「アストロサイト由来IL-3がミクログリアをプログラムし、アルツハイマー病の進行を抑制する」
アストロサイトが産生するIL-3を,ミクログリアで発現するIL-3Rαが受容することにより、ミクログリアのプログラミング遺伝子(免疫応答、遊走、形態に関する)発現が上昇し,その結果,アルツハイマー病の原因とされているアミロイドβプラークに活性化したミクログリアが集積し除去するという、アルツハイマー病におけるIL-3の役割を明らかにした論文でした。
アルツハイマー病に罹患するとIL-3シグナルが増強されるにもかかわらず、そのシグナルはアルツハイマー病病態を抑制するような作用を示すことから、脳の健康状態を維持する防御機構の様なものであると考えられる点が興味深く感じました。
また、アルツハイマーモデルマウスへのIL-3投与による治療効果まで検証しており、アルツハイマー病治療薬としてIL-3の提案に説得力がある論文でした。
第120回 2021/09/17
Science. 2021 Jul 23;373(6553):eabf7844.
Skull and vertebral bone marrow are myeloid cell reservoirs for the meninges and CNS parenchyma
紹介者:荒崎 恭弘
「頭蓋骨と脊椎骨の骨髄は、髄膜と中枢神経実質のための骨髄球の貯蔵庫である」
脳脊椎の硬膜に存在する単球は、血液に由来するものではなく、隣接する頭蓋骨の骨髄から硬膜へとつながるチャンネルを通して直接供給されるという内容の論文でした。また、定常状態だけでなく、自己免疫脳症モデルや脊髄損傷モデルを用いて、炎症や病態における単球の供給源も同様に隣接する骨髄であることを特定し、更にsingle cell RNA解析から、この移動にはCCR1ケモカイン受容体を刺激するケモカインが関わることも明らかにしました。単球が血管を通らず骨髄から直接供給されていることを示すために、パラビオーシスや頭蓋骨の部分移植などでドナー由来の細胞をモニタリングする実験を数多く行い、非常に論理的な内容でした。今後、血球から供給される単球と、骨髄から直接供給される単球との機能的な違いが明らかになると面白いと感じました。
第119回 2021/09/10
Nature. 2021 Sep;597(7875):256-262.
Aged skeletal stem cells generate an inflammatory degenerative niche.
紹介者:早田 匡芳
「老化した骨格幹細胞は炎症性の退縮したニッチを生成する」
本論文の著者は,マウス及びヒトの骨格系幹細胞の同定をしてきた方々です。今回の論文では,骨折治癒モデルを用いて,骨格系幹細胞と老化の関係を調べています。老化マウス(24ヶ月齢)は,若いマウス(2ヶ月例)に比べて,骨折の治癒が良くないということが知られていました。今回の論文では,骨格系幹細胞の老化によって,骨形成能が低下すると同時に骨吸収も亢進するということがわかりました。二匹の年齢の異なったマウスの血流を交換するParabiosisという方法を用いたところ,若いマウスとくっつけても,老化マウスの骨折治癒は,若返りしなかったのですが,若いマウスの方は,骨折の治癒が遅延してしまいました。つまり,若い血液循環は,老化したマウスの骨折治癒を若返らせることはできなくて,逆に,老化マウスの血液循環は,若いマウスの骨折治癒に良くない影響を及ぼすということになります。シングルセルRNA-seq解析により,老化とともに,骨格系幹細胞の種類が変化していることがわかり,さらに,破骨細胞を誘導するCsf1(M-CSF)の発現が,老化マウスで増加していることを見出しました。その知見を生かして,骨形成能をもつBMP2とCSF1抗体を添加したゲルを骨折部位に移植すると,若いマウスと同様の骨折治癒が見られました。これらの結果から,骨格の老化には,骨格幹細胞の質的な変化およびそれによって引き起こされる造血系細胞分化の質的な変化があるということがわかりました。それらを標的にすることで,老化した骨を若返らせる治療法が将来可能になるかもしれません。
第118回 2021/08/30
Nature. 2020 Nov;587(7835):626-631.
Macrophage-derived glutamine boosts satellite cells and muscle regeneration
紹介者:三瓶 千怜
「マクロファージ由来のグルタミンは、衛星細胞と筋肉の再生を促進する」
筋肉の再生は、マクロファージの浸潤とその結果として引き起こされる衛星細胞の活性化により維持されます。今回の研究ではグルタミンの代謝に焦点を当てていますが、グルタミンはグルタミン酸からグルタミン合成酵素を媒介して変換され、グルタミン酸はグルタミン酸デヒドロゲナーゼ1 (GLUD1, 別名GDH1)などに媒介されて2-ケトグルタル酸(2-OG)に変換されます。
著者らは遺伝子改変マウス等を用いて、筋損傷時のマクロファージと衛星細胞間の未知の代謝クロストークにグルタミンが関与していることを明らかにしました。
マクロファージ特異的にGlud1遺伝子を欠損したマウスでは,グルタミン酸からグルタミンへの変換が促進された結果、マクロファージはより多量のグルタミンを放出します。次に,グルタミントランスポーターSLC1A5から衛星細胞に取り込まれたグルタミンが,シグナル伝達に関与するmechanistic target of rapamycin (mTOR)を活性化し、衛星細胞の増殖と分化を促進します。マクロファージ特異的GLUD1遺伝子欠損が,筋肉損傷時における再生を促進すること,および筋肉の老化(線維化)を妨げることが明らかになりました。興味深いことに,GLUD1阻害剤であるR162投与によっても,筋損傷時の壊死や炎症が減少しました。加齢マウスにR162を1ヶ月間投与することでも,筋肉の繊維化が抑えられました。これらのことから,GLUD1が,筋損傷や加齢した筋肉の治療において,治療標的分子となることが期待されます。
豊富な実験データが掲載されていますが、Extended Dataまで含め、筋肉再生に何が影響を与えるのかだけでなく何が影響を与えないのかについて、様々な視点からアプローチした実験が行われていて隙のない論文だなと感じました。また、筋肉に着目していることから、実験方法等参考になることが多くあり、とても勉強になりました。
第117 2021/07/26
Nat Commun. 2021 Jun 21;12(1):3596.
ERRγ enhances cardiac maturation with T-tubule formation in human iPSC-derived cardiomyocytes
紹介者:清水 智哉
「ERRγはヒトiPS細胞由来心筋細胞においてT管構造形成を伴う心臓成熟を促進する」
今回,彼らは、ヒトの心筋において胎児期、新生児期、成人期と成長するにつれて発現のアイソフォームが変化するトロポニンI(TNNI1/TNNI3)に着目し、iPS細胞に対してTNNI1EmGFP/TNNI3mCheryyダブルレポーターを導入することで,iPS細胞由来心筋細胞の成熟過程を蛍光で確認できる細胞リソースを開発しました。さらに,彼らは,このダブルレポーターiPS細胞を用いて,武田薬品工業のもつ化合物ライブラリーから、TNNI3発現を増強する、すなわち心筋細胞の成熟を促進する薬剤として,ERRγアゴニスト、SKP2阻害剤の二つを同定しました。化合物処理によってTNNI3発現が上昇した心筋細胞に対して,RNA-seq、細胞外フラックスアナライザー、パッチクランプなどの解析を行うことで,遺伝子発現、代謝機能、電気生理学的機能の成熟も示しています。重要なことに成熟することで形成されるT管構造の存在を透過型電子顕微鏡によって確認しています。
「成熟過程で発現が切り替わる遺伝子2つに同時にレポーターを導入して蛍光によって成熟を可視化する」というおおもとの戦略がとても面白かったです。
第116回 2021/07/19
Science. 2020 Jun 26;368(6498):1460-1465.
Mechanisms of OCT4-SOX2 motif readout on nucleosomes
紹介者:天野 晋作
「OCT4-SOX2モチーフがヌクレオソーム上で読み出されるメカニズム」
マウス胚性幹細胞のリプログラミング因子であるOCT4とSOX2に着目し、転写因子(TF)がヌクレオソームに存在するモチーフにどのように結合するのかを調べ、その結果TFがヌクレオソーム全体にどのように結合しているかどうかを、in vitroで塩基対の分解能で決定し、2つの位置でのクライオ電子顕微鏡による構造決定を可能にしたという内容でした。それぞれのentry-exitサイトのモチーフの位置の違いで、OCT4-SOX2はヒストンH2A、H3からDNAを曲げたり、局所的なDNAの歪みを引き起こすことが分かりました。今回の結果は、リプログラミング因子OCT4とSOX2がヌクレオソームの部位特異的にヌクレオソームを歪めてクロマチン化したモチーフにアクセスする仕組みを明らかにしており、この仕組みは自身の研究に生かせそうな部分が多く、非常に勉強になりました。
第115回 2021/07/12
Nat Cell Biol. 2020 Aug;22(8):960-972.
Biophysical properties of AKAP95 protein condensates regulate splicing and tumorigenesis.
紹介者:荒崎 恭弘
「スプライシングと腫瘍形成を制御するAKAP95タンパク質凝集体の生物物理学的特性」
がんにおいて、核タンパク質AKAP95が液相分離による凝集体形成を介して、細胞周期関連遺伝子CCNA2やTGF-βシグナルの関連遺伝子SMAD6のイントロン1に直接結合し、正常な選択的スプライシングを制御することで、Nonsense Mediated Decay (NMD)によるmRNA分解を回避する結果、コロニー形成や腫瘍形成を促進するという内容でした。本研究において、非常に興味深い点は、凝集体の液性や動態といった物理的な性質が、スプライシングの機能を抑制するという点であり、適切なスプライシング反応を起こすためには、凝集体の適切な‘硬さ’が重要だという点でした。自身の研究内容に非常に近い内容であり、それゆえ生かせる実験が数多く見られたので、非常に参考になる論文でした。
第114回 2021/07/05
J Clin Invest. 2021 Jan 4;131(1):e139617.
紹介者:早田 匡芳
「間葉系細胞のBmp3bの発現は骨格筋の完全性を維持し,加齢に伴うサルコペニアで減少する」
加齢にともなうサルコペニア(筋委縮や筋力低下)は重要な健康問題の一つです。サルコペニアの筋肉では,脂肪細胞の浸潤が見られますが,この現象は,間質に存在する間葉系前駆細胞に起因すると考えられています。筋肉の再生には,筋衛星細胞が関係していますが,間葉系前駆細胞は,筋肉には分化せず,線維化や脂肪化などの病態形成にも関わっています。
今回の研究では,その間葉系前駆細胞が,定常状態の骨格筋の維持に重要な役割を担っているということが明らかにされました。さらに,著者らは,間葉系前駆細胞に発現する骨形成因子3b(Bmp3b,別名GDF10)という液性因子が,局所的に,骨格筋の維持や神経筋接合部位の形成に重要な役割を果たすことを,遺伝子改変マウスを用いて証明しました。さらに,ヒトの筋管細胞を用いた実験でも,Bmp3bは,筋肥大効果を示しました。老齢マウスにBmp3bを持続的に投与すると,握力や筋肉量の回復が見られました。老齢マウスでは,Bmp3bの遺伝子発現が低下していることから,サルコペニアの発症要因の一つとして,Bmp3bの発現が低下するからではないかという可能性を提起しています。筋肉の健康を維持するためには,筋肉そのものではなくて,筋肉を支える間質の細胞が重要な役割をしているという‘目からウロコ’のような論文でした。
当研究室でも,筋肉の研究を開始することにしましたが,その実験手法が大変参考になる論文でした。余談ですが,著者の一人に,同じ研究室出身の後輩の常陸圭介博士の名前があり,世界は狭いなあと改めて思いました。また,論文紹介は,実に約7年ぶりだったのですが,やはり人に論文紹介をすると,かなり深く読みできるな,と思ったので,学生と一緒に,今後も自分でやるようにしたいと思った次第です。
第113回 2021/06/28
Bone Res. 2021 Feb 26;9(1):15.
Nrf2 epigenetic derepression induced by running exercise protects against osteoporosis.
紹介者:李 政道
「ランニング によるエピジェネティックなNrf2の抑制の解除は、骨粗鬆症から骨を保護する」
運動によって、過剰に亢進したDNAメチル化酵素(Dnmt1/3a/3b)の発現が抑制されることで、Nrf2プロモーターの過メチル化が防止され、Nrf2の発現が正常に戻ることにより、骨粗鬆症に対する保護効果をもたらすという内容の論文でした。運動が骨粗鬆症に良い影響を及ぼすことは知られていましたが、その詳細なメカニズムを紐解く一端になる興味深い内容でした。運動による刺激が、どのようにDnmtに作用するのかは、更なる検討が必要だと感じました。
第112回 2021/06/21
Cell. 2021 May 27;184(11):2911-2926.e18.
Vertebrate cells differentially interpret ciliary and extraciliary cAMP
紹介者:荒井 優
「脊椎動物細胞は、繊毛のcAMPと繊毛外のcAMPを区別して解釈する」
細胞一次繊毛もしくは細胞質内それぞれにおいて、特異的にcAMPの発現を上昇させる細胞系を確立し、これを利用することで、繊毛内で産生されるcAMPが繊毛内PKAを活性化し、その下流でヘッジホッグ(HH)シグナルの転写因子GLIを抑制することを示す内容でした。細胞質ではなく、繊毛で特異的にGタンパク質共役型受容体(GPCR)シグナルを活性化したときのみ、HHシグナルが抑制されたことから、繊毛に特異的に局在するGPCRが下流のHHシグナルを制御することが示唆されています。また、cAMPを高発現させた繊毛内で特異的にProtein Kinase A (PKA)を抑制したとき、これらのHHシグナル抑制が阻害されたことから、この一連のシグナル伝達が繊毛内cAMP・繊毛内PKA・GLIという経路によって制御されていると結論付けています。
細胞一次繊毛に関連する遺伝子の変異によって引き起こされる繊毛病は、その変異遺伝子によって全身に多様な病態を引き起こすことが知られていますが、その疾患メカニズムはいずれの場合も未だ不明な点が多い現状にあります。細胞一次繊毛が細胞体に与える影響が明らかになったとき、これらの疾患メカニズムが次々と解明されるのではないかと、解明が待望される研究分野であると感じました。
第111回 2021/06/14
J Clin Invest. 2021 Jun 1;131(11):147201.
Coronavirus-specific antibody production in middle-aged mice requires phospholipase A2G2D.
紹介者:村地 眸
中年マウスがワクチン接種後にウイルス特異的な免疫反応を示すにはPla2g2dが必要であることを示す論文でした。先行研究ではPla2g2d欠損によりウイルスの急性投与に対する免疫応答が促進していたため、「Pla2g2dが多い高齢者は免疫応答が弱まり、ワクチンが効きにくい」という仮説を基にこの研究が進められましたが、結果は仮説とは反したものでした。
現在順次接種されているワクチンは様々な議論を巻き起こしていますが、高齢者に対する有効性の高さを示唆する、タイムリーな論文で大変興味深かったです。
補足)Pla2g2d遺伝子は、ホスホリパーゼA2ファミリーの分泌メンバーをコードします。ホスホリパーゼA2ファミリーメンバーは、グリセロリン脂質のsn-2脂肪酸エステル結合を加水分解して、リゾリン脂質と遊離脂肪酸を生成します。Pla2g2dは,炎症や免疫応答に関係していると考えられています。
第110回 2021/06/07
Theranostics. 2021 Jan 1;11(6):2788-2805.
紹介者:三瓶 千怜
脂質代謝やエネルギー代謝経路を制御するLipin1の欠損により、ヒトの運動ニューロン機能障害を伴う成人期発症型筋無力症やゼブラフィッシュの神経筋接合部欠損が引き起こされ、また体節形成や出生後の筋形成の調節において重要な役割を果たすNotch経路が阻害される、という内容でした。なお、運動ニューロンの成長とシナプス形成の欠陥の表現型から、LIPIN1が直接的または間接的に神経筋接合部の形成と機能に役割を果たす可能性があることが示唆されました。
本研究で取り上げられたLIPIN1の2つのヘテロ接合変異は、筋無力症症候群である患者とその家族について全エクソームシーケンスやサンガーシーケンシング等を行うことで見いだされたものです。マウスにおいて、Lipin1を欠損することで末梢神経障害や骨格筋細胞損傷が引き起こされることが知られていましたが,今回,著者らは,ヒトの突然変異とゼブラフィッシュモデルでも神経筋組織の発達と機能にLipin1が役割を果たすことを示しました。
第109回 2021/05/31
Nature. 2021 Mar;591(7850):477-481.
Nuclear sensing of breaks in mitochondrial DNA enhances immune surveillance
紹介者:清水 智哉
ミトコンドリアDNAの二本鎖切断が免疫機能を促進させるといった内容でした。またこの経路にはBAX-BAKによるミトコンドリア膜における小孔形成、mtRNAの漏出、RIG-I-MAVS経路などが関連していることが示唆されました。さらにin vitroで電離放射線照射によって引き起こされるmtDSBでもインターフェロン産生関連遺伝子発現を上昇させていることから、mtDNA損傷シグナルが放射線治療における免疫応答に寄与している可能性を示しています。ミトコンドリアに関する論文を初めて読んだので、細胞成分分画の実験などはとても勉強になりました。
なお,今回出てきたRIG-Iですが,二本鎖RNAを識別して下流のシグナルを活性化させることが知られています。内在性のRNAは一本鎖RNAなので,このシグナルは動かないということらしいです。ミトコンドリアのRNAに関しては両方向から転写されることで重複した転写物によって二本鎖RNAが生成されることがあるので、この二本鎖のmtRNAが今回の経路に関連しているのではないかと思います。
第108回 2021/05/24
Nature. 2020 Dec;588(7836):124-129.
Reprogramming to recover youthful epigenetic information and restore vision
紹介者:天野 晋作
眼を中枢神経系のモデル組織として用い、マウスの網膜神経節細胞にOct4、Sox2、Klf4という3つのリプログラミング因子を異所性に発現させると、若いDNAメチル化パターンとトランスクリプトームが回復し、損傷後の軸索再生が促進され、緑内障モデルマウスおよび高齢マウスの視力低下が回復することを示した論文でした。なお、OSKによるリプログラミングが軸索再生や視力回復に有益な効果をもたらすには、DNAデメチラーゼであるTET1とTET2が必要だということがわかりました。完全にリプログラミングするのではなく、細胞を若い状態に戻すという点が非常に興味深く、iPS細胞の段階を通さないため、短期間でどの組織にも使用できる点が素晴らしいと思いました。しかしながら、がん化のリスクをはらんでいると考えられるので、長期的に見たがん化のリスクを検証すべきだと思いました。
第107回 2021/05/17
Nature. 2021 May;593(7857):119-124.
Ex utero mouse embryogenesis from pre-gastrulation to late organogenesis
紹介者:荒崎 恭弘
原腸胚形成前の段階(E5.5)から器官形成の段階(E11)へと子宮外でのマウス胚発生プロトコルを確立したという内容でした。組織学的、分子的、またはRNA-seq解析により、子宮内で発達した胚と比較しても発現パターンが一致しており、これまで困難であった発生段階のモニタリングを行える有用なツールであることが示唆されました。
古典的には,発生の研究は,観察が容易な,アフリカツメガエルなどの両生類の胚を用いて行われてきましたが、この培養法の確立により、マウスにおける発生の研究がより一層進むのではないかと非常に興味深かったです。
第106回 2021/05/10
Cell Stem Cell. 2021 Apr 1;28(4):671-684.
紹介者:荒井 優
ヒトiPS細胞から作製される腎臓オルガノイドにおいて、Distal nephronからUreteric tipへとさらに分化誘導することが可能であり、またバソプレシンとアルドステロンを加えることでより成熟したUreteric stalkが作製されるという内容の論文でした。本論文において著者らは、彼らの最初期の手法によって作製される腎臓オルガノイドにおけるGATA3陽性細胞は集合管ではなく、遠位ネフロンであったと再定義し、GATA3陽性細胞からさらに集合管系細胞へと分化が進むということを示しています。
現在、ヒトiPS細胞からの腎臓オルガノイド作製法は多数存在し、日々アップデートされているため、常に最新の論文をチェックする必要性を強く感じました。
第105回 2021/04/28
Nat Neurosci. 2021 Mar;24(3):343-354.
紹介者:清水 智哉
ヒト多能性幹細胞(ES細胞)からミクログリアおよび多能性幹細胞由来ミクログリア、アストロサイト、ニューロンの共培養モデルを開発し、アルツハイマー病の炎症反応における細胞間相互作用を同定したという内容でした。様々なパターンの共培養と遺伝子編集を応用することで、C3分泌に関連した各細胞種の働きを考察していました。in vitroで複数の細胞種を含むという点でオルガノイドと似ていますが、細胞種ごとに遺伝子操作できるのが共培養の利点だと感じ、非常に面白かったです。
第104回 2021/04/19
Nat Commun. 2020 Mar 13;11(1):1334.
紹介者:天野 晋作
Nano-MEDICという、ウイルスゲノムを含まない新たなタンパク質輸送システムを開発し、ディシェンヌ型筋ジストロフィーにおけるエキソンスキッピングを成功させたという内容の論文でした。Nano-MEDICは、生体内での発現は一過性で、ウイルスによる輸送が抱えているオフターゲット変異が少なく安全性が高いというメリットがあり、また、そのエキソンスキッピング活性は長期的に持続していました。実際にiPS細胞や分化させた骨格筋など様々な細胞種で効果が見られている点も踏まえ、興味深い技術だと感じました。しかしながら、オンターゲット変異が減少していたり、臨床に用いるにはエキソンスキッピング効率が低いことなど、まだ課題があると思いました。また、マウスにおいて治療効果がどのくらいあったのかなど続きが気になる大変興味深い論文でした。
第103回 2021/04/12
Nat Commun. 2020 Dec 2;11(1):6169.
紹介者:荒崎 恭弘
胸腺において自己のMHC分子に反応できるT細胞のみを選択するポジティヴセレクションが行われる際に、mRNAポリA鎖の脱アデニル化活性を持つCCR4-NOT複合体がアポトーシス関連遺伝子のポリA鎖を短縮することで、アポトーシスから保護しているという内容でした。興味深い点は、ポジティヴセレクション初期段階ではDab2ipを、後期段階ではBbc3を標的として抑制している点であり、CCR4-NOT複合体が分化過程でどのようにして標的を認識しているかが今後の課題となると思いました。
第102回 2021/04/06
Nature. 2020 Oct;586(7830):606-611.
Immune-evasive human islet-like organoids ameliorate diabetes
紹介者:荒井 優(英語で実施)
ヒトiPS細胞から、より効率的に、グルコース刺激性にインスリンを分泌するヒト膵島様オルガノイド(HILOs)の作製に成功したという内容の論文でした。さらに、レンチウイルスを使用することで、免疫チェックポイントタンパクであるPD-L1を過剰発現させたiPS細胞を作製し、これよりHILOsを作製することで、免疫回避能を伴うHILOsを作製しています。また、HILOsをIFN-γで複数回処理することで、エピジェネティック制御により、PD-L1発現性HILOsの作製に成功しています。作製されたPD-L1発現性HILOsは、糖尿病マウスモデルに移植すると、50日以上、血中グルコース恒常性を回復し続けた報告されています。
本研究の臨床応用が実現した場合、1~2カ月に1度、HILOsを移植するだけで、健常者と変わらない生活を送ることができると期待されます。いまだ課題が残されている段階ではありますが、糖尿病の新規治療法開発における、細胞移植療法の実現可能性を感じさせる非常に興味深い論文でした。
第101回 2021/01/18
Sci Adv. 2019 Jul 3;5(7):eaax0672.
Osteoblastic lysosome plays a central role in mineralization.
紹介者:野澤 伊織
骨芽細胞の石灰化においてリソソームが中心的な役割を果たすという内容の論文でした。本研究では、産総研により開発が進められている走査電子誘電率顕微鏡と超解像蛍光顕微鏡という非常に新しい顕微鏡をフルに活用して、骨芽細胞の基質小胞の輸送・分泌について新たな知見を提供していました。近年、分子生物学や遺伝子工学が発展し、様々な実験が可能となりましたが、生物の研究において大切なのはやはり「見る」ことであると再認識しました。
第100回 2020/01/18
Nature. 2020 Sep;585(7824):283-287.
Age-induced accumulation of methylmalonic acid promotes tumour progression.
紹介者:李 政道
老化に伴うメチルマロン酸(MMA)の血中濃度の上昇および蓄積が、TGFβシグナル伝達経路を介してSOX4の発現を上昇させ、上皮間葉転換を引き起こすことで発がん細胞の遊走、浸潤、生存、転移を促進することを明らかにした論文でした。老化とがんの関係性を、代謝産物という新たな側面から明らかにした、興味深い研究内容でした。これからの研究によって、MMAが新たながんの治療標的となることに期待ができます。
第99回 2020/12/14
Nature. 2020 Nov;587(7833):281-284.
Cas9 gene therapy for Angelman syndrome traps Ube3a-ATS long non-coding RNA.
紹介者:秋谷 拓郎
Cas9を用いた、遺伝性疾患であるエンジェルマン症候群の長期間持続可能な治療法を提案した論文でした。Cas9による挿入や欠失による終止コドン誘導ではなく、二本鎖切断部位にAAVカセットが組み込まれることによる転写抑制により、治療するという治療法でした。マウスでは、症状の改善が見られましたが、治療の時期が胎児期および出生直後である点を考慮すると、人に応用するにはまだ課題が多いと感じる内容でした。
第98回 2020/11/30
Nature. 2020 Nov 18. doi: 10.1038/s41586-020-2937-x. Online ahead of print.
MFSD12 mediates the import of cysteine into melanosomes and lysosomes.
紹介者:荒崎 恭弘
従来では困難であったメラノソーム内のメラニン代謝物を迅速にプロファイリングする手法を開発し、低分子トランスポーターであるMFSD12が、メラノソーム内にシステインを選択的に取り込むことで、黄色のフェオメラニン産生を促進することを明らかにした内容でした。興味深いことに、リソソームにおいてもMFSD12は発現しており、メラノソームにおける機能と同等のものを有していたことで、メラニンを産生しないリソソームにおけるMFSD12の意義について気になるものでした。
第97回 2020/11/30
Nature. 2020 Mar;579(7800):609-614.
Virtual discovery of melatonin receptor ligands to modulate circadian rhythms.
紹介者:野澤 伊織
メラトニン受容体の逆作動薬 (インバースアゴニスト) をin silicoバーチャルスクリーニングによって開発したという論文でした。バーチャルスクリーニングで見つけた化合物をin vitro試験およびin vivo試験によって実際に効果を発揮するか検討するという、理想的とも呼べる流れになっており、非常に楽しく読むことができました。
結晶構造を明らかにする生物物理化学や、バーチャルスクリーニングを実施するための計算機科学や情報科学、実際に仮想化合物を合成する有機化学、そして化合物の機能を調べる分子生物学、細胞生物学、薬物動態学など様々な学問分野がコラボレートして行われた研究でした。真に独創的な研究とは連関した諸学問の上に成り立つのだということを私に気付かせるような論文でした。
第96回 2020/11/17
Cell Rep. 2020 Sep 8;32(10):108052.
Local Production of Osteoprotegerin by Osteoblasts Suppresses Bone Resorption.
紹介者:李 政道
多数の臓器、器官において産生されるオステオプロテゲリン (OPG)について、骨芽細胞こそが骨吸収の抑制に関与するOPGを産生しているということを明らかにした論文でした。先行研究から考えられていた、B細胞が骨吸収の抑制に関与するOPGを産生しているという知見を覆したこと、および血液を循環しているOPGは骨代謝制御に影響を及ぼさないことを明らかにした点に面白みを感じました。今後明らかになっていくであろう、OPGの新たな側面が楽しみです。
第95回 2020/11/17
J Clin Invest. 2020 Jul 1;130(7):3603-3620.
PD-1 blockade inhibits osteoclast formation and murine bone cancer pain.
紹介者:村地 眸
がんによって促進される破骨細胞による骨溶解や痛みの受容がPD-1とPD-L1を介することを明らかにし、抗PD-1抗体が骨破壊やがん疼痛を緩和する可能性を示す論文でした。実際に病院実習でがん疼痛のコントロールの難しさや患者さんのオピオイドに対する抵抗、がん患者さんの服用薬の多さについて触れることがあったので、オプジーボが抗がん作用かつ疼痛ケアを担いうるという両面性に興味深く思いました。
第94回 2020/10/19
Sci Adv. 2020 Mar 20;6(12):eaaz0368.
Regulation of body length and bone mass by Gpr126/Adgrg6.
紹介者:秋谷 拓郎
Gpr126が体長および骨量を、骨芽細胞の増殖、分化、石灰化を介して制御することを明らかにした論文でした。
Gpr126がcAMP-CREBシグナル伝達を介して、骨芽細胞の分化および骨形成を制御し、またそのリガンドがⅣ型コラーゲンであることを明らかにしました。さらに、骨芽前駆細胞特異的Gpr126欠損マウスの体長短縮および骨量減少の表現型は、PTH投与により回復しました。PTHが、Gpr126変異に起因する身長短縮や骨量減少を治療する薬剤となる可能性が示唆されました。
軟骨細胞ではなく、骨芽細胞におけるGpr126が身長の制御に関与していることを明らかにした点が興味深いと思いました。また、PTHのさらなる応用が期待できる知見となったと思います。
第93回 2020/10/19
Nat Commun. 2019 Jul 31;10(1):3436.
紹介者:荒崎 恭弘
骨細胞のEphrinB2はRhoA-Rock経路依存的にオートファジーを抑制することで、骨細胞外へのミネラル分泌を制御し、二次石灰化を調節しているという論文でした。骨細胞特異的EphrinB2欠損マウスにおいては、骨量減少が認められないが、石灰化が亢進しており、その結果として骨がもろくなるといった内容が興味深かったです。
第92回 2020/10/05
Cell. 2020 Aug 6;182(3):609-624.e21.
RNA Sensing by Gut Piezo1 Is Essential for Systemic Serotonin Synthesis.
紹介者:野澤 伊織
腸管のPiezo1がRNAセンサーとしてはたらき、セロトニン合成を制御することを明らかにした論文です。明らかになったのは、腸内細菌由来のssRNAが腸上皮細胞のPiezo1を活性化し、カルシウムイオンの流入が起こり、セロトニン生合成関連酵素の遺伝子発現が変化し、セロトニン産生を制御するということです。ssRNAがイオンチャネルのリガンドとして機能することを明らかにする実験は、DNAが遺伝物質であることを示したハーシー・チェイスの実験を彷彿とさせました。将来、腸内Piezo1を作用標的とする骨疾患治療薬が完成するかもしれません。非常に楽しみです。
第91回 2020/10/05
Nature. 2020 May;581(7806):100-105.
Autophagy promotes immune evasion of pancreatic cancer by degrading MHC-I.
紹介者:李 政道
膵臓がんにおいて、がん抗原を提示する際に重要な働きを持つ、主要組織適合抗原複合体(MHC)のclass Iが、オートファジーによって細胞膜から減少するために、免疫回避が促進されることを明らかにした論文でした。
さらに著者らは、マウスにおいて、現在がん治療に用いられている二重免疫チェックポイント阻害(ICB)療法に、オートファジー阻害を目的としたクロロキンの投与を組み合わせると、膵臓がんの劇的な退縮が見られることを発見しました。
二重ICB療法とオートファジー阻害をどのように組み合わせていくか等、更なる研究が必要ではありますが、将来的に新たな膵臓がん療法に繋がる可能性をもたらす画期的な知見であり、今後の発展に期待が持てます。
第90回 2020/07/06
Sci Adv. 2020 May 15;6(20):eaax3868.
紹介者:秋谷 拓郎
CPEB2が乳腺の発達や管腔乳がんを制御するという内容の論文でした。
CPEB2は、乳管の管腔細胞の分化を制御することで、乳管形成を制御していることが明らかになりました。また、CPEB2は、エストロゲン受容体(ER)やプロゲステロン受容体(PR)と同様のシグナル経路に位置し、ERやPRの直接的なターゲット遺伝子ではなく、さらに下流に位置するRANKLやCCND1などの細胞増殖に寄与する遺伝子の翻訳を制御することで、乳管の発達や腫瘍形成を制御します。Cpebファミリーについての研究である点やRIP-seqや翻訳制御についての解析などを行っている点で、自分の研究内容に非常に近い論文でした。特に、RIP-seqについては、解析方法から次の実験への繋げ方などで非常に参考になりました。
第89回 2020/07/06
Nature. 2020 Jun;582(7812):426-431.
Ensuring meiotic DNA break formation in the mouse pseudoautosomal region.
紹介者:荒崎 恭弘
減数分裂時に、X、Y染色体間で組換えが起こるが、これらが共有するほんの小さな偽常染色体領域 (PAR)内で確実にDNA二本鎖切断 (DSB)を起こす仕組みを解明したという論文でした。PAR内に存在するmo-2というミニサテライト配列が、PARをループ状の微細構造形成を行い、DSBを担うタンパク質がループ状構造にリクルートされることで、PAR特異的にDSBが起こるように制御されているという内容でした。非常に難しい内容の論文でしたが、DNA構造がタンパク質の局在を制御する、非常に興味深い論文でした。
第88回 2020/06/22
Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 Apr 23;116(17):8615-8622.
紹介者:加藤 宏典
PTSDに罹患することで、骨折部位への好中球動員が増加し、骨折の治癒が遅くなるという論文でした。
PTSDのような精神疾患によって骨量が減少し,炎症性サイトカインが上昇する。また、炎症反応の促進によって骨折治癒が遅延する。以上の2点の現象が報告されており、CSCパラダイムによってPTSD様症状を引き起こしたモデルマウスを用いて実験を行うことで、2つの現象が炎症反応の増加と関連していることを示し、アドレナリンβ受容体非選択的阻害薬であるプロプラノロール投与によって,それらがレスキューされるという論文でした。軍人や戦争地の人々、虐待を受けている人などのPTSDを患いやすい状況に置かれた人の骨折治癒への治療戦略として考えられています。
第87回 2020/06/22
Nature. 2020 May;581(7806):83-88.
Pharmacologic Fibroblast Reprogramming Into Photoreceptors Restores Vision.
紹介者:野澤 伊織
化合物のみを用いたダイレクトリプログラミングによって視細胞の分化に成功したという内容の論文でした。
明らかになったことを簡単にまとめると以下のようになります。
・化合物処理により,マウスおよびヒト線維芽細胞が視細胞へと転換した
・転換した視細胞を,網膜色素変性マウスに移植したところ,視力が回復した
・ダイレクトリプログラミングの分子メカニズムは,「化合物処理 → Axin2のミトコンドリアへの移動 → ミトコンドリア由来活性酸素種の生成亢進 → NF-kBの産生促進 → Ascl1の遺伝子発現増加 → 視細胞特異的遺伝子 (CrxやOtx2) 発現増加」である
現在,加齢黄斑変性症や糖尿病性網膜症,白内障など視力喪失につながる疾患に対する根本的治療法は存在しない。そこで,今回紹介した視細胞が新たな治療法となるのではないかと思い,大変心躍る内容でした。
今後,iPS細胞の分化ではなく,線維芽細胞からのダイレクトリプログラミングが主流となるのかもしれません。
第86回 2020/06/08
Bone Res. 2019 May 13;7:14. doi: 10.1038/s41413-019-0054-y. eCollection 2019.
Controlling Hypoxia-Inducible factor-2α Is Critical for Maintaining Bone Homeostasis in Mice.
紹介者:李 政道
低酸素誘導因子(HIF)のサブユニットであるHIF-2αが、
① Twist2 mRNAに直接結合してRunx2発現をダウンレギュレーションすることで骨芽細胞分化を抑制
② Rankl、Traf6 mRNAに直接結合して発現量を上昇させることで破骨細胞の分化、成熟を促進
することで骨量を増加させることを明らかにした論文でした。骨芽細胞だけでなく、破骨細胞にもHIF-2αは影響を及ぼすことで骨量の減少を促すことを示した点に新規性があります。
第85回 2020/6/08
Nature. 2019 Aug;572(7767):125-130. doi: 10.1038/s41586-019-1430-x. Epub 2019 Jul 24.
A Mutation-Independent Approach for Muscular Dystrophy via Upregulation of a Modifier Gene.
紹介者:村地 眸
CRISPR-dcas9システムを利用し、MDC1A(メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー)で見られる変異遺伝子ではなく、類似した遺伝子の発現を上昇させることで、不可逆的とされていた筋肉や末梢神経における病変が改善された、という画期的な治療戦略を示す論文でした。
アデノウイルスを用いる遺伝子治療で、臨床に応用されるには考慮すべき重要な課題が山積みですが、これが確立されれば、多くのアンメットメディカルニーズに応えうる、非常におもしろい内容でした。
第84回 2020/5/29 Zoom JC
Cell. 2020 May 14;181(4):905-913.e7. doi: 10.1016/j.cell.2020.04.004. Epub 2020 Apr 24.
紹介者:李 政道
先行研究からSARS-CoVと同様SARS-CoV-2の受容体としてACE2が同定されたことを踏まえて、hrsACE2をデコイとして用いた際のSARS-CoV-2の感染改善と、ACE2の高い発現を示す血管および腎臓のヒトオルガノイドに対するSARS-CoV-2の直接感染を明らかにした論文でした。hrsACE2を用いた新型コロナウイルスに対する薬の開発に繋がることが期待されます。
第83回 2020/5/29 Zoom JC
Nature. 2019 Aug;572(7771):614-619. doi: 10.1038/s41586-019-1503-x. Epub 2019 Aug 21.
BCAA catabolism in brown fat controls energy homeostasis through SLC25A44.
紹介者:野澤 伊織
褐色脂肪組織で分岐鎖アミノ酸の代謝が行われているという内容の論文でした。
明らかになったことを簡単にまとめると以下のようになる。
・褐色脂肪組織にて分岐鎖アミノ酸の酸化代謝が行われ、この機構はマウスとヒトとで保存されている。
・褐色脂肪組織での分岐鎖アミノ酸代謝を阻害すると、体重増加やインスリン抵抗性上昇が見られるようになる。
・分岐鎖アミノ酸のミトコンドリアへの輸送に関与するトランスポーターは、SLC25A44であり、この遺伝子をノックダウンし、輸送を阻害すると、熱産生が行われなくなる。
現在、世界中で、肥満が臨床的問題となっている。そこで、最大のエネルギー消費器官である褐色脂肪組織に対し、注目が集まっている。褐色脂肪組織は、グルコースや脂肪酸、そして分岐鎖アミノ酸の代謝を行う組織であることが分かっているが、組織の完全な機能解明には至っていない。今後、褐色脂肪組織に対するさらなる研究が行われるだろう。一体どんな機能が眠っているのか、続報が楽しみである。
第82回 2020/5/28 Zoom JC
Nature. 2020 Mar;579(7797):118-122. doi: 10.1038/s41586-020-2037-y. Epub 2020 Feb 26.
Two conserved epigenetic regulators prevent healthy ageing.
紹介者:村地 眸
ミトコンドリアの機能を低下させることで健康的な老化を妨げている2つの調節因子を発見し、ミトコンドリア機能障害を伴うアルツハイマー病への新たな知見を提供しうる論文でした。線虫における遺伝子実験は非常に簡便であるにもかかわらず、結果として脊椎動物であるマウスに保存されており、さらに認知機能に関連しているという発見もあり、非常に興味深いと感じました。
第81回 2020/5/27 Zoom JC
Nature. 2019 Oct;574(7778):359-364. doi: 10.1038/s41586-019-1647-8. Epub 2019 Oct 16.
Regulation of lifespan by neural excitation and REST.
紹介者:加藤 宏典
線虫および哺乳類において、神経興奮の抑制が寿命の延長に寄与するという論文でした。ヒトにおいてはRESTによって寿命に影響が出るかどうかまでは分からなかったものの、オルソログであるspr3/4が線虫において寿命の延長が見られることから、ヒトにおいても老化を遅らせる手段になり得ることを示唆しています。
第80回 2020/5/27 Zoom JC
Nature. 2019 Nov;575(7784):683-687. doi: 10.1038/s41586-019-1770-6. Epub 2019 Nov 20.
Caspase-8 is the molecular switch for apoptosis, necroptosis and pyroptosis.
紹介者:清水 智哉
アポトーシスのイニシエーターであるカスパーゼ8がアポトーシス、ネクロトーシス、ピロトーシス3つのプログラム細胞死を制御するタンパク質であるという内容の論文でした。ネクロトーシスやピロトーシスなど初めて勉強したので、そこで働く多くの分子や経路を勉強できてよかったです。
第79回 2020/5/26 Zoom JC
Cell. 2019 May 30;177(6):1566-1582.e17. doi: 10.1016/j.cell.2019.04.036. Epub 2019 May 16.
Longitudinal Analysis of the Human B Cell Response to Ebola Virus Infection.
紹介者:天野 晋作
エボラウイルス感染に対するヒトB細胞の反応を長期的に観察し、単離したモノクローナル抗体を用いて、マウスでの生存率を調べており、エボラウイルスに対するワクチンを開発する上での重要な論文でした。あまり見ない試験方法やFigが多く、自分の知見を広げる上で非常に勉強になりました。
第78回 2020/5/25 Zoom JC
Cell. 2020 Apr 30;181(3):621-636.e22. doi: 10.1016/j.cell.2020.03.006. Epub 2020 Apr 6.
Distinct Processing of lncRNAs Contributes to Non-conserved Functions in Stem Cells.
紹介者:秋谷 拓郎
胚性幹細胞(ES細胞)において保存されたlong non-coding RNA (lncRNA)は、プロセシングによって種特異的な細胞内局在を示し、異なった機能を有するという内容の論文でした。比較的保存性の高いlncRNAについて、in vitroで多くの手法を用いて解析しており、結合領域の同定や相互作用因子の検討方法など、自分の研究の参考となる点が多くありました。
第77回 2020/5/25 Zoom JC
Nature. 2020 Apr;580(7801):106-112. doi: 10.1038/s41586-020-2139-6. Epub 2020 Mar 25.
Centrosome anchoring regulates progenitor properties and cortical formation.
紹介者:荒崎 恭弘
放射状グリア前駆細胞(RGPs)において中心体が脳室帯の頂端膜に固定されているという、RGPs独自の中心体構造が大脳皮質の形成に与える影響や、そのメカニズムを探求するという非常に興味深い論文でした。Cep83 KOにより、頂端膜への中心体固定が阻害されることで、頂端膜の硬さが増加し、その結果、膜の張力変化に応答して、細胞増殖を促進するHippo経路が活性化することで皮質の過形成や異形成を生じるという内容でした。
第76回 2020/05/22 Zoom JC
Cell Stem Cell. 2019 Sep 5;25(3):373-387.e9. doi: 10.1016/j.stem.2019.06.009. Epub 2019 Jul 11.
紹介者:荒井 優
ヒト多能性幹細胞から腎臓オルガノイドへの新規分化誘導プロトコルについて、
primitive streakからintermediate mesoderm(IM)への分化誘導について、外因性の要素を必要とせず、むしろ細胞自身の自発的な分化にゆだねることで、IMへの分化誘導効率が上昇する。
renal vesicleに対して、短期間(もしくは無し)のWNTシグナルは糸球体への分化が優位に進む。一方で、長期間のWNTシグナルは尿細管への分化が優位に進む。また糸球体への分化が優位に進むにつれて血管新生もそれに伴って優位に進む。
作製された腎臓オルガノイドは、in vitroで近位尿細管特異的に分子量選択的なタンパク分子吸収能を示し、また、マウスに移植することで、その成熟度が上昇し、生理的な機能を示した。
ARPKD特異的ヒトiPS細胞から作製された腎臓オルガノイドは、細胞内のcAMPを上昇させることで、ARPKDに見られる嚢胞性の表現型を再現することが可能であることが示された。
以上の結果より、腎疾患ヒト病態モデルの作製には有用な内容であることから、個人的には非常に面白いと感じました。
嚢胞性腎疾患の病態モデル作製さらには創薬スクリーニングにおいては、これらの内容が非常に参考になります。
第75回 2020/05/22 Zoom JC
Mechanical regulation of bone homeostasis through p130Cas-mediated alleviation of NF-κB activity.
Miyazaki T, Zhao Z, Ichihara Y, Yoshino D, Imamura T, Sawada K, Hayano S, Kamioka H, Mori S, Hirata H, Araki K, Kawauchi K, Shigemoto K, Tanaka S, Bonewald LF, Honda H, Shinohara M, Nagao M, Ogata T, Harada I, Sawada Y.
Sci Adv. 2019 Sep 25;5(9):eaau7802. doi: 10.1126/sciadv.aau7802. eCollection 2019 Sep.
紹介者:野澤 伊織
メカニカルストレスによる骨ホメオスタシス維持の分子メカニズムを明らかにした論文であった。
明らかになったことを簡単にまとめると以下のようになる。
メカニカルストレスによって、間質液が流動し、そのシグナルが骨細胞に伝わり、メカノセンサーCasが核内に移行する。
核内Casはp300-RelA相互作用を阻害して、RelAのアセチル化を抑制し、NF-kB活性を抑制する。
NF-kB活性が低くなることによって、活性酸素種生成が抑制され、RANKL発現が抑制され、破骨細胞の分化を抑制する。そして、骨量減少が抑制される。
近年、骨組織におけるメカニカルストレス受容にカルシウムイオンチャネルであるPiezo1も関与することが報告されている。このように、骨組織でのメカニカルストレス感知メカニズムに関する研究は非常にhotな分野である。詳細な分子メカニズムが明らかとなったあかつきには、メカニカルストレス模倣薬の実現も可能となるだろう。今後の動向が非常に楽しみである。
第73回 2020/05/21 Zoom JC
Muscle-derived interleukin 6 increases exercise capacity by signaling in osteoblasts.
Chowdhury S, Schulz L, Palmisano B, Singh P, Berger JM, Yadav VK, Mera P, Ellingsgaard H, Hidalgo J, Brüning J, Karsenty G.
J Clin Invest. 2020 Apr 27. pii: 133572. doi: 10.1172/JCI133572.
紹介者:村地 眸
筋肉由来のIL-6は骨芽細胞に働き、オステオカルシンをメディエーターとして運動機能の向上する働きを示す、という内容の論文でした。
骨粗鬆症治療にも用いられているオステオカルシンが、糖の取り込みや脂質代謝にも関与しており、運動機能にも関与しているということで、どれほど寄与しているのかや他の臓器への影響によっては、今後非常に期待の大きいターゲットであると感じました。
第72回 2020/05/20 Zoom JC
Li L, Tian E, Chen X, Chao J, Klein J, Qu Q, Sun G, Sun G, Huang Y, Warden CD, Ye P, Feng L, Li X, Cui Q, Sultan A, Douvaras P, Fossati V, Sanjana NE, Riggs AD, Shi Y.
Cell Stem Cell. 2018 Aug 2;23(2):239-251.e6. doi: 10.1016/j.stem.2018.07.009.
紹介者:清水 智哉
アレキサンダー病(AxD)患者のiPS細胞をアストロサイトに分化させ、ヒトのAxDの病態モデルを作製したものでした。さらに、iPS細胞から分化させたオリゴデンドロサイト前駆細胞と共培養することで、AxDアストロサイトによって分泌されるCHI3L1が細胞増殖やミエリン形成の抑制を媒介していることも示した内容でした。他にも、トランスクリプトーム解析から炎症関連遺伝子や神経発達関連遺伝子の変化が見られ、この先もこの病態モデルで,実際の病態が判明していきそうな印象を受けました。
第71回 2020/05/20 Zoom JC
Nat Commun. 2020 Jan 23;11(1):460. doi: 10.1038/s41467-019-14076-3.
Endothelial ZEB1 promotes angiogenesis-dependent bone formation and reverses osteoporosis.
Fu R, Lv WC, Xu Y, Gong MY, Chen XJ, Jiang N, Xu Y, Yao QQ, Di L, Lu T, Wang LM, Mo R, Wu ZQ.
紹介者:秋谷 拓郎
骨血管内皮細胞においてZEB1が特定の細胞集団に発現し、CBP/p300と相互作用してNotchシグナルを活性化することで、複数のangiocrine発現制御を介して、血管新生および骨形成を促進するという内容の論文でした。近年、研究が盛んな血管新生と骨形成のメカニズムの一端を明らかにし、骨粗鬆症の治療において血管新生依存的な骨形成促進という新たな治療戦略となる可能性を提示した、興味深い内容でした。
第70回 2020/05/19 Zoom JC
Pluripotent stem cells as a source of osteoblasts for bone tissue regeneration.
Zhu H, Kimura T, Swami S, Wu JY.
Biomaterials. 2019 Mar;196:31-45. doi: 10.1016/j.biomaterials.2018.02.009. Epub 2018 Feb 5.
紹介者:天野 晋作
ESCおよびiPSC由来の骨芽細胞の細胞同一性を確認し、再生医療の骨芽細胞の供給源としての多能性幹細胞の有用性を強調した論文でした。Col2.3GFPトランスジェニックマウスを用いて、成熟した骨芽細胞を選別していくという操作方法が非常に興味深かったです。しかしながら、実際に人で用いるときには奇形種の形成のしづらさなどを今後検証していく必要がありそうです。
第69回 2020/05/19 Zoom JC
J Clin Invest. 2016 Feb;126(2):509-26. doi: 10.1172/JCI82585. Epub 2016 Jan 5.
Osteoblast-derived VEGF regulates osteoblast differentiation and bone formation during bone repair.
Hu K, Olsen BR.
紹介者:李 政道
最適なレベルの骨芽細胞由来のVEGFが、骨損傷の各段階の修復プロセスにおいて血管新生や細胞遊走を促進することで、骨再生を改善するという内容の論文でした。新たな骨治療の可能性を提供するデータが多く、いまだ提供されていないVEGFをターゲットとした骨疾患治療薬の開発に期待ができます。しかしながら、生理学的レベルを超えるVEGFを投与した際に、骨再生が促進しなかったことが明らかになり、これの詳細な過程を明らかにする必要性を感じました。
第68回 2020/05/18 Zoom JC
Dysregulation of ectonucleotidase-mediated extracellular adenosine during postmenopausal bone loss.
Shih YV, Liu M, Kwon SK, Iida M, Gong Y, Sangaj N, Varghese S.
Sci Adv. 2019 Aug 21;5(8):eaax1387. doi: 10.1126/sciadv.aax1387. eCollection 2019 Aug.
紹介者:加藤 宏典
骨粗鬆症に関する論文で、エストロゲン受容体を介してCD39/CD73発現上昇により細胞外アデノシンのレベルが上昇し、それによって閉経後骨粗鬆症による骨量減少を改善するという内容でした。自身が知っている骨形成や骨吸収のメカニズムとは異なっていたので非常に興味深かったです。
第67回 2020/05/18 Zoom JC
Nat Cell Biol. 2020 Jan;22(1):49-59. doi: 10.1038/s41556-019-0437-8. Epub 2020 Jan 6.
紹介者:荒崎 恭弘
破骨細胞の起源に関する論文で、EMP由来の卵黄嚢マクロファージが、新生児および大人の破骨細胞分化に寄与しており、HSC系譜の破骨細胞とEMP系譜の破骨細胞が融合することで1つの破骨細胞が形成されることを明らかにしたという内容でした。また、骨損傷に応答して膵臓からEMP由来マクロファージが遊走し、骨修復における破骨細胞分化に寄与する可能性を明示し、非常に興味深い内容でした。最終的な破骨細胞が、どの系譜の細胞でどの割合で含まれているかなど、系譜の違いによる破骨細胞の特徴などがわかれば面白いと感じました。
第66回 2020/05/15 Zoom JC
GDF15 mediates the effects of metformin on body weight and energy balance.
Coll AP, Chen M, Taskar P, Rimmington D, Patel S, Tadross JA, Cimino I, Yang M, Welsh P, Virtue S, Goldspink DA, Miedzybrodzka EL, Konopka AR, Esponda RR, Huang JT, Tung YCL, Rodriguez-Cuenca S, Tomaz RA, Harding HP, Melvin A, Yeo GSH, Preiss D, Vidal-Puig A, Vallier L, Nair K, Wareham NJ, Ron D, Gribble FM, Reimann F, Sattar N, Savage DB, Allan BB, O'Rahilly S.
Nature. 2020 Feb;578(7795):444-448. doi: 10.1038/s41586-019-1911-y. Epub 2019 Dec 25.
紹介者:野澤 伊織
長らく分かっていなかったメトホルミンによる体重減少のメカニズムを解明した論文でした。ストーリーとしては、メトホルミン投与によりGDF15レベルが上昇し、GDF15がGFRALを介して体重を調節するというシンプルなものです。
面白いのは、GFRALが視床下部ではなく脳幹に局在していることです。脳幹に摂食制御作用があるのか、それとも視床下部への伝達経路があるのか今後の研究が楽しみです。
腎障害や肝障害患者では投与が難しいメトホルミンだが、インスリン抵抗性を改善でき、また体重減少作用もあることから、今後も有用な医薬品であると予想できるので、さらなる研究が待たれます。
第65回 2020/05/15 Zoom JC
Glucagon stimulates gluconeogenesis by INSP3R1-mediated hepatic lipolysis.
Perry RJ, Zhang D, Guerra MT, Brill AL, Goedeke L, Nasiri AR, Rabin-Court A, Wang Y, Peng L, Dufour S, Zhang Y, Zhang XM, Butrico GM, Toussaint K, Nozaki Y, Cline GW, Petersen KF, Nathanson MH, Ehrlich BE, Shulman GI.
Nature. 2020 Mar;579(7798):279-283. doi: 10.1038/s41586-020-2074-6. Epub 2020 Mar 4.
紹介者:村地 眸
グルカゴンは肝臓において、INSP3R1によるカルシウム輸送を媒介し、脂肪分解を行うことにより糖新生を促し、長期的な投与では糖新生の悪影響なしに脂肪肝を改善するという内容の論文でした。
代謝分野の知識が乏しく、うまく説明できませんでしたが、グルカゴンの働きについてや糖新生などの代謝について、糖尿病とのつながりなど、今後医療に携わる身としては非常に勉強になる論文でした。
第64回 2020/05/14 Zoom JC
Small-molecule inhibitor of OGG1 suppresses proinflammatory gene expression and inflammation.
Visnes T, Cázares-Körner A, Hao W, Wallner O, Masuyer G, Loseva O, Mortusewicz O, Wiita E, Sarno A, Manoilov A, Astorga-Wells J, Jemth AS, Pan L, Sanjiv K, Karsten S, Gokturk C, Grube M, Homan EJ, Hanna BMF, Paulin CBJ, Pham T, Rasti A, Berglund UW, von Nicolai C, Benitez-Buelga C, Koolmeister T, Ivanic D, Iliev P, Scobie M, Krokan HE, Baranczewski P, Artursson P, Altun M, Jensen AJ, Kalderén C, Ba X, Zubarev RA, Stenmark P, Boldogh I, Helleday T.
Science. 2018 Nov 16;362(6416):834-839. doi: 10.1126/science.aar8048.
紹介者:清水 智哉
OGG1の低分子阻害剤が炎症性遺伝子発現と炎症反応を抑制するといった内容でした。OGG1の主要な作用である塩基除去修復ではなく、その陰に隠れた炎症性遺伝子発現に着目していて、独創的なテーマだと思いました。
第63回 2020/05/14 Zoom JC
Regulation of Cell Cycle to Stimulate Adult Cardiomyocyte Proliferation and Cardiac Regeneration.
Mohamed TMA, Ang YS, Radzinsky E, Zhou P, Huang Y, Elfenbein A, Foley A, Magnitsky S, Srivastava D.
Cell. 2018 Mar 22;173(1):104-116.e12. doi: 10.1016/j.cell.2018.02.014. Epub 2018 Mar 1.
紹介者:天野 晋作
成人の心筋細胞の増殖と心臓の再生を刺激する細胞周期の調節についての論文でした。心筋に細胞周期調節因子を送達することで、心筋細胞の増殖のみならず心機能の改善をもたらすことに非常に驚きました。また今回得られた組み合わせが、膵臓ベータ細胞、ニューロンなどの再生能力が限られている臓器内の他の有糸分裂後の細胞の増殖を効率的に誘導する可能性を持っているいう点に将来性を感じました。
第62回 2020/05/13 Zoom JC
Fasting-Mimicking Diet Promotes Ngn3-Driven β-Cell Regeneration to Reverse Diabetes.
Cheng CW, Villani V, Buono R, Wei M, Kumar S, Yilmaz OH, Cohen P, Sneddon JB, Perin L, Longo VD.
Cell. 2017 Feb 23;168(5):775-788.e12. doi: 10.1016/j.cell.2017.01.040.
紹介者:李 政道
断食を模倣した食事(FMD)の食事サイクルを取り入れることによって、膵島でのβ細胞のインスリン生成を回復させ、Ⅰ型およびⅡ型糖尿病を改善したことを明らかにした論文でした。FMDを取り入れた糖尿病モデルマウスのβ細胞の機能改善が劇的であり、人でのFMDによる糖尿病への治療介入が期待されます。
第61回 2020/05/12 Zoom JC
Repopulating Microglia Promote Brain Repair in an IL-6-Dependent Manner.
Willis EF, MacDonald KPA, Nguyen QH, Garrido AL, Gillespie ER, Harley SBR, Bartlett PF, Schroder WA, Yates AG, Anthony DC, Rose-John S, Ruitenberg MJ, Vukovic J.
Cell. 2020 Mar 5;180(5):833-846.e16. doi: 10.1016/j.cell.2020.02.013.
紹介者:秋谷 拓郎
外傷性脳傷害において、ミクログリアによるIL-6トランスシグナルを介した、神経新生促進および認知機能を改善するという内容の論文でした。有害とされていた活性化したミクログリアが脳修復への寄与を薬理学的手法と遺伝的手法を用いて解析しており、データ量が膨大だと思いました。
今後研究で、IL-6シグナル経路を介した組織修復の促進を利用した治療方法の発見が期待できます。
第60回 2020/05/12 Zoom JC
LRP1 is a master regulator of tau uptake and spread.
Rauch JN, Luna G, Guzman E, Audouard M, Challis C, Sibih YE, Leshuk C, Hernandez I, Wegmann S, Hyman BT, Gradinaru V, Kampmann M, Kosik KS.
Nature. 2020 Apr;580(7803):381-385. doi: 10.1038/s41586-020-2156-5. Epub 2020 Apr 1.
紹介者:加藤 宏典
タウオパチーの主要な病因として知られるタウの取り込みや拡散にLRP1が関わっていることを示す論文でした。基本的なメカニズムはシンプルなので、治療へのアプローチも比較的しやすいのではないかと感じました。
第59回 2020/05/11 Zoom JC
Identification of a novel arthritis-associated osteoclast precursor macrophage regulated by FoxM1.
Hasegawa T, Kikuta J, Sudo T, Matsuura Y, Matsui T, Simmons S, Ebina K, Hirao M, Okuzaki D, Yoshida Y, Hirao A, Kalinichenko VV, Yamaoka K, Takeuchi T, Ishii M.
Nat Immunol. 2019 Dec;20(12):1631-1643. doi: 10.1038/s41590-019-0526-7. Epub 2019 Nov 18.
紹介者:野澤 伊織
骨リモデリングに関与する破骨細胞と、病態時に骨破壊を行う破骨細胞とが、異なるものであることを明らかにした非常に革新的な論文でした。
骨髄移植やパラビオーシスなどのマウス実験を行っており、大変難しい論文でしたが、結論はシンプルだったのでなんとか理解することができました。
今後、病態特異的な破骨細胞を標的とした薬剤の開発が期待されます。
第58回 2020/05/11 Zoom JC
Lian C, Wang X, Qiu X, Wu Z, Gao B, Liu L, Liang G, Zhou H, Yang X, Peng Y, Liang A, Xu C, Huang D, Su P.
Bone Res. 2019 Mar 6;7:8. doi: 10.1038/s41413-019-0046-y. eCollection 2019.
紹介者:村地 眸
Ⅱ型コラーゲンはインテグリンβ1に結合し、ERK1/2によるSMAD1(S206)のリン酸化を介してBMP-SMAD経路を阻害することで、変形性関節症における軟骨の肥大化を抑制するという内容の論文でした。
実験やロジックなど自分の研究にも生かせそうな論文で、非常に勉強になりました。
第57回 2020/05/08 Zoom JC
Allogeneic transplantation of iPS cell-derived cardiomyocytes regenerates primate hearts.
Shiba Y, Gomibuchi T, Seto T, Wada Y, Ichimura H, Tanaka Y, Ogasawara T, Okada K, Shiba N, Sakamoto K, Ido D, Shiina T, Ohkura M, Nakai J, Uno N, Kazuki Y, Oshimura M, Minami I, Ikeda U.
Nature. 2016 Oct 20;538(7625):388-391. doi: 10.1038/nature19815. Epub 2016 Oct 10.
紹介者:天野 晋作
iPS細胞由来の心筋細胞の同種移植は霊長類の心臓を再生するという内容の論文でした。MHCの型を同一にする事で免疫拒絶の無い移植を可能にし、iPS細胞の自家移植の問題点を解決するという点に非常に将来性を感じる興味深い論文でした。
第56回 2020/05/08 Zoom JC
Saito H, Gasser A, Bolamperti S, Maeda M, Matthies L, Jähn K, Long CL, Schlüter H, Kwiatkowski M, Saini V, Pajevic PD, Bellido T, van Wijnen AJ, Mohammad KS, Guise TA, Taipaleenmäki H, Hesse E.
Nat Commun. 2019 Mar 22;10(1):1354. doi: 10.1038/s41467-019-08778-x.
紹介者:秋谷 拓郎
PTHによる骨形成促進作用における新規制御因子として、Tgif1を同定したという内容の論文でした。PTHに応答したTgif1の機能を骨形成だけでなく骨吸収からも解析し、骨リモデリングにおける作用を明らかにしていて、論理展開が非常に参考になる論文でした。
第55回 2020/05/07 Zoom JC
Dppa2/4 Facilitate Epigenetic Remodeling during Reprogramming to Pluripotency.
Hernandez C, Wang Z, Ramazanov B, Tang Y, Mehta S, Dambrot C, Lee YW, Tessema K, Kumar I, Astudillo M, Neubert TA, Guo S, Ivanova NB.
Cell Stem Cell. 2018 Sep 6;23(3):396-411.e8. doi: 10.1016/j.stem.2018.08.001. Epub 2018 Aug 23.
紹介者:清水 智哉
体細胞をiPS 細胞へリプログラミングする際Dppa2/4が多能性へのエピジェネティックな変化を促進するという内容の論文でした。リプログラミングの効率が70%も上がったり、期間が10日近く短縮されたりと、リプログラミング中のエピゲノムがいかに重要かわかる興味深い内容でした。
第54回 2020/05/01 Zoom JC
Lipid availability determines fate of skeletal progenitor cells via SOX9.
van Gastel N, Stegen S, Eelen G, Schoors S, Carlier A, Daniëls VW, Baryawno N, Przybylski D, Depypere M, Stiers PJ, Lambrechts D, Van Looveren R, Torrekens S, Sharda A, Agostinis P, Lambrechts D, Maes F, Swinnen JV, Geris L, Van Oosterwyck H, Thienpont B, Carmeliet P, Scadden DT, Carmeliet G.
Nature. 2020 Mar;579(7797):111-117. doi: 10.1038/s41586-020-2050-1. Epub 2020 Feb 26.
紹介者:加藤 宏典
無血管状態による脂質供給の不足がSox9発現を上昇させ、軟骨形成を促進させるという内容の論文でした。骨形成ではなく軟骨形成へのシグナル伝達が優位になることの環境的な理由も推測されていて、特定の表現型がでることの意味を考えることも必要なのだなと感じました。
第53回 2020/05/01 Zoom JC
Inhibition of cyclooxygenase-2 activity in subchondral bone modifies a subtype of osteoarthritis.
Tu M, Yang M, Yu N, Zhen G, Wan M, Liu W, Ji B, Ma H, Guo Q, Tong P, Cao L, Luo X, Cao X.
Bone Res. 2019 Sep 11;7:29. doi: 10.1038/s41413-019-0071-x. eCollection 2019.
紹介者:李 政道
COX-2阻害によって、変形性関節症および関節リウマチによる軟骨変性が改善するという内容の論文でした。COX-2阻害薬は非ステロイド性抗炎症薬の側面を持ちながら、軟骨変性を弱める作用があることが明らかになった点が興味深かったです。
第52回 2020/02/07
Liu J, Dou X, Chen C, Chen C, Liu C, Xu MM, Zhao S, Shen B, Gao Y, Han D, He C.
Science. 2020 Jan 31;367(6477):580-586.
紹介者:荒崎 恭弘
Chromatin associated regulatory RNAが、Writerタンパク質Mettl3によるN6-メチルアデノシン(m6A)修飾を受けることで、NEXT複合体を介したYthdc1によって不安定化し、クロマチンの状態や転写活性を調節するという、m6Aの新たな機能を報告する内容でした。非常に多いデータ量で解釈が難しい内容でしたが、転写活性の調節機構を示した興味深い論文でした。
文責:荒崎 恭弘
第51回 2020/02/06
Gooding S, Olechnowicz SWZ, Morris EV, Armitage AE, Arezes J, Frost J, Repapi E, Edwards JR, Ashley N, Waugh C, Gray N, Martinez-Hackert E, Lim PJ, Pasricha SR, Knowles H, Mead AJ, Ramasamy K, Drakesmith H, Edwards CM
Nat Commun. 2019 Oct 4;10(1):4533.
紹介者:村地 眸
BMPシグナルを阻害することで、破骨細胞分化の抑制や骨芽細胞分化の促進、Wnt阻害剤の減少を引き起こし、多発性骨髄腫における骨量回復を示すという内容の論文でした。BMPシグナル阻害が培養細胞と真逆の作用を示していたり、自分の研究にも使えそうな面白い結果が示されていたりと、非常に興味深かったです。
文責:村地 眸
第50回 2020/02/04
CCL28-induced RARβ expression inhibits oral squamous cell carcinoma bone invasion.
Park J, Zhang X, Lee SK, Song NY, Son SH, Kim KR, Shim JH, Park KK, Chung WY.
J Clin Invest. 2019 Dec 2;129(12):5381-5399.
紹介者:加登 遼典
CCL28はCCR10を介してRARαとHDAC1の相互作用を低下させ、RARβ2を誘導することで口腔扁平上皮癌の骨浸潤を阻害するという内容の論文でした。CCL28の機能を様々な方法を利用して解析しており、またCCL28が将来医薬品として活躍する可能性が見え、非常に興味深かったです。
文責:加登 遼典
第49回 2020/01/28
Matsushita Y, Nagata M, Kozloff KM, Welch JD, Mizuhashi K, Tokavanich N, Hallett SA, Link DC, Nagasawa T, Ono W, Ono N.
Nat Commun. 2020 Jan 16;11(1):332.
紹介者:秋谷 拓郎
LepR+CXCL12+骨髄間質細胞の一部の細胞群が、骨恒常性の維持には寄与せず、骨組織の損傷時にのみ応答し、骨再生に寄与するという内容の論文でした。Single cell RNA-seqや免疫組織染色などを用いて、細胞特性から活性化経路など多岐にわたる解析を行っており、非常に読み応えのある論文で興味深かったです。
文責:秋谷 拓郎
第48回 2020/01/21
Fracture repair requires TrkA signaling by skeletal sensory nerves.
J Clin Invest. 2019 Dec 2;129(12):5137-5150.
Li Z, Meyers CA, Chang L, Lee S, Li Z, Tomlinson R, Hoke A, Clemens TL, James AW.
紹介者:荒崎 恭弘
骨折部位でNGF発現量が上昇し、感覚神経のTrkAシグナルを介して骨折治癒を促進するという内容でした。骨折部位の神経支配、血管新生、石灰化といった一連の骨折治癒過程を、蛍光写真を用いて組織学的に示しており、非常に興味深かったです。
文責:荒崎 恭弘
第47回 2020/01/17
J Clin Invest. 2019 Dec 2;129(12):5187-5203.
Nishimori S, O'Meara MJ, Castro CD, Noda H, Cetinbas M, da Silva Martins J, Ayturk U, Brooks DJ, Bruce M, Nagata M, Ono W, Janton CJ, Bouxsein ML, Foretz M, Berdeaux R, Sadreyev RI, Gardella TJ, Jüppner H, Kronenberg HM, Wein MN.
紹介者:李 政道
PTH1Rシグナルの下流において、塩誘導性キナーゼ(SIK)/クラスⅡaHDACが骨格発生において重要な役割を担うという内容の論文でした。数多くの遺伝子組み換えマウスをから得たデータを取り扱っており、実験の裏にある膨大な時間と努力がうかがえました。
文責:李 政道
第46回 2020/01/10
Activation of the ISR mediates the behavioral and neurophysiological abnormalities in Down syndrome.
Science. 2019 Nov 15;366(6467):843-849.
Zhu PJ, Khatiwada S, Cui Y, Reineke LC, Dooling SW, Kim JJ, Li W, Walter P, Costa-Mattioli M.
紹介者:野澤 伊織
ダウン症候群は効果的な治療方法が確立されていないことを知っていたため、ダウン症候群の治療標的となりうる分子を見つけた本論文を紹介しようと考えました。本研究は非常に論理的に行われており、読み進める上で論理の飛躍が見られず簡潔明瞭でした。
文責:野澤 伊織
第45回 2019/12/20
Exon-Mediated Activation of Transcription Starts.
Cell. 2019 Dec 12;179(7):1551-1565.e17.
Fiszbein A, Krick KS, Begg BE, Burge CB.
紹介者:秋谷 拓郎
本研究は、転写エンハンサーがプロモーターやエンハンサーだけでなく、いくつかのエクソンを含めることを示唆する。EMATSと呼ばれる現象は、遺伝子に新しい内部エクソンを含むことで、上流のTSSか
5らの転写を活性し、遺伝子発現を制御している。さらに、分化または刺激に対する細胞反応に関連している遺伝子発現機構に関与するスプライシング因子の手段である。本研究の結果は、選択的または潜在的プロモーター近傍のエクソンのスプライシングを強化することにより可能であることが示唆している。
文責:秋谷 拓郎
進化的に新たにエクソンを獲得すると,その周囲で,新たに転写が開始され,翻訳も上昇するという話でした。大変難しいですが,大変興味深い論文でした。マウスやラットで遺伝子を比較して,5'UTRにエクソンが新たに獲得された遺伝子をモデルに調べています。
本研究室で推進しているRNA結合タンパク質の機能解析にその知見を活かせそうです。
文責:早田 匡芳
第44回 2019/12/10
Mina MJ, Kula T, Leng Y, Li M, de Vries RD, Knip M, Siljander H, Rewers M, Choy DF, Wilson MS, Larman HB, Nelson AN, Griffin DE, de Swart RL, Elledge SJ.
Science. 2019 Nov 1;366(6465):599-606.
紹介者:加藤 宏典
麻疹ウイルスに感染することにより、今まで獲得していた既存の抗体がリセットされることが報告された。抗体を以前の状態に戻すには新たに予防接種や暴露する必要があるため、事前に麻疹ウイルスの予防接種を実施しておくことが望ましいと呼びかけている。
文責:加藤 宏典
第43回 2019/11/29
Multiple myeloma immunoglobulin lambda translocations portend poor prognosis.
Barwick BG, Neri P, Bahlis NJ, Nooka AK, Dhodapkar MV, Jaye DL, Hofmeister CC, Kaufman JL, Gupta VA, Auclair D, Keats JJ, Lonial S, Vertino PM, Boise LH
Nat Commun. 2019 Apr 23;10(1):1911.
紹介者:野澤 伊織
本論文は、多発性骨髄腫の患者における染色体転座の予後への影響を解析した論文でした。多発性骨髄腫は、薬学部にいながら、本論文を紹介するまで詳しく知りませんでした。一般的に予後良好とされる高二倍体の患者においても、IgL転座がある場合には、予後不良となってしまうことが非常に衝撃的でした。今後、IgL転座が臨床的に容易に同定できるようなシステムが必要になるだろうと感じました。
文責:野澤 伊織
「多発性骨髄腫におけるイムノグロブリンλ鎖の転座は予後不良の前兆になる」
多発性骨髄腫は,抗体を分泌する形質細胞の悪性腫瘍です。ほとんどの患者さんでは,現在の治療の恩恵を受けていますが,20%の患者さんが2年以内に再発または死亡しています。今回の論文では,免疫グロブリンラムダ(IgL)遺伝子座を含む転座が患者の10%に存在し、予後不良であることが明らかにされました。
課題だなと思ったのは,多発性骨髄腫の高二倍体型の患者さんは,予後良好とされていますが,高二倍体型と同時にIgL-Mycの転座を持っている患者さんもいて,こちらの患者さんは予後不良ということです。高二倍体型の検出方法は簡便らしいですが,IgL-Myc転座を簡易検出する方法は確立されていないので,高二倍体であると診断されても,必ずしも予後良好ではないということです。今後,IgL-Mycの転座を簡便に検出し,それに対する治療方法を開発していくことが重要ではないかと思われました。
本論文は,野澤 伊織によって紹介されました。難解な論文でしたが,多発性骨髄腫の病態,研究手法や統計解析などの説明が充実していて,わかりやすい内容になっていました。お疲れさまでした。
文責:早田 匡芳
第42回 2019/11/26
Liang C, Li J, Lu C, Xie D, Liu J, Zhong C, Wu X, Dai R, Zhang H, Guan D, Guo B, He B, Li F, He X, Zhang W, Zhang BT, Zhang G, Lu A
Nat Commun. 2019 Oct 8;10(1):4579.
紹介者:加藤 宏典
HIF1α阻害により、Leflunomide-AHR-CRPシグナル伝達が促進され、CRP異常の関節リウマチにおける骨侵食が軽減されることが示されており、レフルノミドは有意な免疫抑制を発揮するが、CRP highのRA患者の骨侵食を軽減する効果が限られるため有用ではないことが分かった。
文責:加藤 宏典
「HIF1α阻害は,レフルノミド-AHR-CRPシグナル伝達を促進し,CRP異常の関節リウマチにおける骨びらんを減弱させる」
HIF1αは,低酸素誘導因子で,本年度のノーベル生理学医学賞の受賞対象になった転写因子です。本論文では,関節リウマチの治療に用いられるレフルノミドが,免疫系の細胞の増殖抑制とは独立に,肝臓で産生される炎症マーカーのCRPと関係することを報告しています。
著者らは,レフルノミドによる関節リウマチ治療において,治療効果のある患者とない患者がいることに気が付きました。そこで,血清マーカーを調べると,レフルノミドが効かない患者では,炎症マーカーのCRPが高いということを見出しました。
レフルノミドは,免疫細胞の増殖以外にも,肝臓で作用することがわかりました。レフルノミドは,AHR-ARNTの相互作用を誘導し,肝臓のCRP産生を抑制し,関節リウマチモデルラットの骨びらんの進行を抑制することができました。
さらに,HIF1αの阻害剤アクリフラビンとレフルノミドを併用すると,CRP高値を示す関節リウマチモデルラットの骨びらんの進行を抑制することができました。
レフルノミドのきかない患者さんでは,レフルノミド投与と同時に,HIF1αの活性を抑制することで,治療効果が上がるのではないかと期待されます。
本論文は,加藤 宏典によって紹介されました。3年生も見学に来ていたので,緊張したと思いますが,わかりやすく説明してくれました。
文責:早田 匡芳
第41回 2019/11/20
RANKL inhibition improves muscle strength and insulin sensitivity and restores bone mass.
Bonnet N, Bourgoin L, Biver E, Douni E, Ferrari S.
J Clin Invest. 2019 May 23;129(8):3214-3223.
紹介者:李 政道
破骨細胞形成を阻害するオステオプロテジェリン及びRANKLに対する中和抗体であるデノスマブを投与された患者は、骨粗鬆症の改善だけでなく、筋肉量の増加をさせるということを報告した論文である。RANKL阻害剤はサルコペニアの新規治療アプローチを示す可能性があると締めくくっている。RANKLは,破骨細胞分化誘導因子で,その阻害抗体であるデノスマブは,骨粗鬆症治療薬として用いられています。ただ,RANKLとその受容体であるRANKは,骨組織以外にも脳,乳腺,筋肉などにも発現しています。たとえば,脳でRANKをノックアウトしたマウスでは,体温制御に異常が生じます。
文責:李 政道
筋肉では,RANKLシグナルを阻害するオステオプロテジェリンの投与で,筋萎縮モデルマウスで筋力が改善されることが示されていました。今回,著者らは,ヒトRANKLを過剰発現するモデルマウスを用いて,デノスマブと筋力の改善について検討しました。その結果,遅筋を多く含むヒラメ筋で,デノスマブ投与により,筋力の改善が認められました。
今回,興味深いヒトの試験結果として報告されていたのは,骨粗鬆症治療薬であるビスホスホネート製剤を投与した患者さんとデノスマブを投与した患者さんの握力や体肢除脂肪量を比較すると,デノスマブを投与した患者さんのみそれらが改善されたそうです。
デノスマブが筋力を改善する効果もあるようで,骨粗鬆症治療ができる上に,筋力の回復も期待できるのではないかと期待されます。現在,筋肉減少症(サルコペニア)の有効な治療薬はありませんので,今後の新薬の開発において,重要な知見を提供すると思われます。
本論文は,李 政道によって紹介されました。急なピンチヒッターでしたが,手際よく紹介してくれました。
文責:早田 匡芳
第40回 2019/11/15
Heterogeneity in old fibroblasts is linked to variability in reprogramming and wound healing.
Mahmoudi S, Mancini E, Xu L, Moore A, Jahanbani F, Hebestreit K, Srinivasan R, Li X, Devarajan K, Prélot L, Ang CE, Shibuya Y, Benayoun BA, Chang ALS, Wernig M, Wysocka J, Longaker MT, Snyder MP, Brunet A.
Nature. 2019 Oct;574(7779):553-558. doi: 10.1038/s41586-019-1658-5. Epub 2019 Oct 23.
紹介者:荒崎 恭弘
本論文では、加齢がマウス線維芽細胞においてリプログラミング効率や、創傷治癒におけるマウス個体間のばらつきに関連していることを示し、さらにTNFを含む炎症性サイトカインが個体間のばらつきを生み出す因子であることを特定した。個人間の治りやすさの違いに合わせた個人化戦略のターゲットとなることを示唆する内容で非常に興味深い。
文責:荒崎 恭弘
老齢の線維芽細胞における異質性は,リプログラミングと創傷治癒における変異性とリンクする
加齢に伴う慢性炎症は,加齢の中心的な特徴ですが,特定の細胞への影響はほとんどわかっていません。
今回の論文では,老齢マウスでは,個体ごとに,線維芽細胞のiPS細胞へのリプログラミングの効率にかなりばらつきがあることが判明し,それには,炎症性サイトカインであるTNFが関与していることが明らかになりました。また,これらの変動が,創傷治癒においても,関係していました。
このばらつきは、個人間の明確な確率的加齢の軌跡を反映している可能性があり、高齢者のiPS細胞の生成と創傷治癒を改善するための個別化戦略の開発に役立つ可能性があります。
本研究では,RNA sequencing, single cell RNA-sequencing, metabolme解析,epigenome解析などのomics解析がふんだんに行われています。生物学研究では,細胞レベルでも,集団を統計学的に解析するのが常法になってきました。
本論文は,荒崎 恭弘によって紹介されました。
文責:早田 匡芳
第39回 2019/11/12
Huang J, Zhao L, Fan Y, Liao L, Ma PX, Xiao G, Chen D.
Nat Commun. 2019 Jun 28;10(1):2876.
紹介者:秋谷 拓郎
本研究では、2種の相同のmicroRNAであるmiR-204及びmiR-211が変形性関節症(OA)の発病を抑制することで、関節の恒常性を維持することを報告している。
miR-204/211欠損は、関節の軟骨細胞及び滑膜細胞において、マトリックス分解プロテアーゼを誘導し、関節軟骨破壊を刺激する。さらに、Runx2依存的にNGF発現を増強し、Aktシグナル伝達とMPCの増殖を過剰に活性化することで、滑膜過形成、骨棘の増殖、肋軟骨硬化を含む複合的な非軟骨性OA症状の基礎を明らかにした。
miR-204/211は、OA発病抑制のために間葉系関節細胞の正常な恒常性の維持に不可欠である。
文責:秋谷 拓郎
変形性膝関節症(OA)は,ありふれた疾患で,痛みを伴います。
今回,著者らは,microRNAであるmiR-204とmiR-211を欠損したマウスでは,OAが自然発症することを見出しました。microRNAのおもな機能は,mRNAの3'UTRに結合して,翻訳を抑制したり,あるいは,mRNAの分解を促進する機能などが知られています。今回の標的mRNAは,Runx2という骨形成に極めて重要な転写因子をコードするmRNAです。これらのmicroRNAのダブルノックアウトマウスでは,Runx2が蓄積し,遺伝学的にRunx2の量を半分に減らすと症状が改善されたことから,microRNA欠損-Runx2蓄積の軸がOA発症に極めて重要な役割を果たしていることがわかります。重要なことに,アデノ随伴ウイルスで,miR-204を関節腔内に駐車すると,実験的に誘導されたOAの発症を回避できることも示されました。OAは,発症メカニズムに効果的な治療薬がないので,今回の知見が,新たな治療薬の開発につながるのではないかと期待されます。
本論文は,秋谷 拓郎によって紹介されました。
文責:早田 匡芳
第38回 2019/11/1
Sour Sensing from the Tongue to the Brain.
Zhang J, Jin H, Zhang W, Ding C, O'Keeffe S, Ye M, Zuker CS.
Cell. 2019 Oct 3;179(2):392-402.e15.
紹介者:村地 眸
酸っぱいと感じる能力は、生や腐っている、または発酵させたものを食べるのを防ぐための重要な知覚シグナルであり、酸っぱいと感じると、回避行動を引き起こす。
今回、酸味を感じるにはイオンチャネルのOtopetrin-1が必須であることを明らかにした。Otop-1のK.O.マウスでは酸味を感じなくなった。また、脳における味覚を伝達する神経細胞のシングルセルRNAシークエンシングを行い、苦味・うま味・酸味・塩味・甘味を伝達する神経細胞を同定した。さらに、酸味が嫌悪行動を引き起こす神経経路も明らかにされた。
文責:村地 眸
「舌から脳への酸感知」
「酸っぱい」という味覚は,生や腐っている、発酵したものを食べるのを回避するための重要な感覚です。酸っぱさを感じると,回避行動を惹起します。
今回,酸を受容する受容体として,Otop1を同定しました。Otop1遺伝子KOマウスは,酸を感じることができなくなります。
また,彼らは,脳の味覚を伝達する神経細胞のシングルセルRNAシークエンシングを行い,苦味,旨味,酸味,塩味,甘みを伝達する神経細胞を同定しました。
さらに,酸味が嫌悪行動を惹起する神経経路も明らかにされました。
本論文は,酸っぱいのが苦手という村地 眸によって紹介されました。様々な神経生物学的手法をわかりやすく説明してくれました。お疲れさまでした。
文責:早田 匡芳
第37回 2019/10/30
Locally renewing resident synovial macrophages provide a protective barrier for the joint.
Culemann S, Grüneboom A, Nicolás-Ávila JÁ, Weidner D, Lämmle KF, Rothe T, Quintana JA, Kirchner P, Krljanac B, Eberhardt M, Ferrazzi F, Kretzschmar E, Schicht M, Fischer K, Gelse K, Faas M, Pfeifle R, Ackermann JA, Pachowsky M, Renner N, Simon D, Haseloff RF, Ekici AB, Bäuerle T, Blasig IE, Vera J, Voehringer D, Kleyer A, Paulsen F, Schett G, Hidalgo A, Krönke G.
Nature. 2019 Aug;572(7771):670-675.
紹介者:加藤 宏典
滑膜マクロファージは単球由来のマクロファージとは異なる役割を持ち、滑膜上にバリアを形成することで白血球の浸潤を阻止することにより滑膜の炎症を防ぐ。このマクロファージに発現する遺伝子を調節することにより、他の炎症組織の損傷の防止や抗腫瘍免疫応答を妨げうる。
文責:加藤 宏典
関節リウマチは,原因不明の自己免疫疾患で,進行すると,関節が破壊されていきます。現在では,免疫反応を抑制する薬物が多く開発されてきています。
今回,著者らは,関節を包む滑膜という組織に,CX3CR1陽性のマクロファージが並んで常在しており,これらが,密着結合(タイトジャンクション)でお互いに結合し,バリアーを作っていることを見出しました。
炎症時には,これらのバリヤーが破られて,免疫細胞が関節内に侵入するということです。
同じマクロファージでも,様々な種類のマクロファージがいて,今後,それぞれの種類のマクロファージがどのようにして,ヒトの健康と病気に関わっているのかが着目されそうです。
文責:早田 匡芳
第36回 2019/10/29
Efficacy of an orally active small-molecule inhibitor of RANKL in bone metastasis.
Nakai Y, Okamoto K, Terashima A, Ehata S, Nishida J, Imamura T, Ono T, Takayanagi H.
Bone Res. 2019 Jan 3;7:1.
紹介者:李 政道
RANKLを標的とする経口投与可能な薬剤の開発につながる、低分子RANKL阻害剤AS2676293の有効性を報告した論文である。この低分子化合物によるRANKL阻害は、破骨細胞の骨吸収と骨への腫瘍移動の両方を阻害することにより、骨転移を治療するための有望な治療戦略を構成すると締めくくっている。
文責:李 政道
東大免疫の高柳先生の研究室の論文です。
RANKLを阻害する薬物は,抗体医薬のデノスマブがありますが,経口投与可能なRANKL阻害薬AS2676293(臨床では使われていない)が,アステラス製薬によって,開発されています。
今回の論文では,AS2676293の経口投与が,がんの骨転移および骨溶解を抑制することが報告されました。今後,この薬物が,そのような疾患の治療薬として注目されていくのではないかと考えられます。
本論文は,李 政道によって紹介されました。
文責:早田 匡芳
第35回 2019/10/25
Irisin Mediates Effects on Bone and Fat via αV Integrin Receptors.
Kim H1, Wrann CD, Jedrychowski M, Vidoni S, Kitase Y, Nagano K, Zhou C, Chou J, Parkman VA, Novick SJ, Strutzenberg TS, Pascal BD, Le PT, Brooks DJ, Roche AM, Gerber KK, Mattheis L, Chen W, Tu H, Bouxsein ML, Griffin PR, Baron R, Rosen CJ, Bonewald LF, Spiegelman BM.
Cell. 2018 Dec 13;175(7):1756-1768.e17.
紹介者:野澤 伊織
本論文は、筋から産生されるアイリシンというホルモンが、インテグリンを介し骨細胞に働きかけ、スクレロスチン産生量を増加させるという論文でした。本論文を紹介しようと考えた理由は、私が骨臓器連関に非常に興味を持っているためです。アイリシンの受容体を免疫沈降および質量分析によって明らかにするストラテジーには目を見張りました。初めに、in vitro解析を行い、その結果を基に、in vivo解析を行い、さらにその詳細なメカニズムを解明するべくin vitro解析を行っており、実に論理的にストーリーが組まれていました。私が、実験を考えるときや、論文を書くときにこのロジックを参考にしたいと考えています。
文責:野澤 伊織
Irisinは,筋肉から分泌されるホルモンで,運動とともに増加し,身体的活動にいい影響を与えるということが知られています。最近,マイオカイン(筋肉から分泌される因子)として,脚光を浴びています。
今回,Irisinの受容体がインテグリンαV/β5であることが報告されました。そのインテグリンは,骨細胞や脂肪細胞で発現していますが,Irisinは,この受容体を介して,スクレロスチンの発現量を増加させます。Irisinのノックアウトマウスでは,卵巣摘出による骨量減少に抵抗性を示しました。
今回の結果は,運動とヒトの健康におけるIrisinの機能をさらに深く理解することに繋がることが期待されます。
本論文は,骨ー臓器連関に興味を持つ野澤 伊織によって紹介されました。
文責:早田 匡芳
第34回 2019/10/04
The CXCL5/CXCR2 axis is sufficient to promote breast cancer colonization during bone metastasis.
Romero-Moreno R, Curtis KJ, Coughlin TR, Cristina Miranda-Vergara M, Dutta S, Natarajan A, Facchine BA, Jackson KM, Nystrom L, Li J, Kaliney W, Niebur GL, Littlepage LE.
Nat Commun. 2019 Sep 27;10(1):4404.
紹介者:荒崎 恭弘
マウスの健常な骨とがんに侵された骨を生体外で培養するメソッドを構築し、共培養の培地から液性因子のプロファイリングを行うことで、CXCL5が乳がん細胞の転移後のコロナイゼーションを促進し、乳がんの転移を促すことを示した。
文責:荒崎 恭弘
第33回 2019/10/01
Wnt and TGFβ coordinate growth and patterning to regulate size-dependent behaviour.
Arnold CP, Benham-Pyle BW, Lange JJ, Wood CJ, Sánchez Alvarado A.
Nature. 2019 Aug;572(7771):655-659.
紹介者:秋谷 拓郎
組織のサイズ及び機能は、相互に依存している可能性がありますが、サイズと機能を調節するメカニズムは明らかになっていません。再生扁平動物であるプラナリアを用いることで、子孫数と分裂開始の頻度が親のサイズと相関していることが示されました。前後軸パターンを決定するために、遺伝子のRNA干渉スクリーンでは、TGFβ及びWntシグナル経路の構成因子は分裂位置よりも分裂開始頻度の制御因子であることを明らかにし、サイズ依存的な行動制御におけるTGFβ及びWntの役割を同定し、パターニング、成長及び神経機能間の相互依存性を明らかにしました。
文責:秋谷 拓郎
第32回 2019/9/27
Lotinun S, Ishihara Y, Nagano K, Kiviranta R, Carpentier VT, Neff L, Parkman V, Ide N, Hu D, Dann P, Brooks D, Bouxsein ML, Wysolmerski J, Gori F, Baron R.
J Clin Invest. 2019 May 21;129:3058-3071.
紹介者:村地 眸
授乳期には母乳で子供に十分なカルシウムを供給するため、破骨細胞性の骨吸収や骨細胞とラクナの吸収といったプロセスで骨量減少を引き起こす。骨細胞はカテプシンKを含む、破骨細胞による骨吸収に要求される遺伝子が発現され、授乳期にはこれらの発現は上昇する。今回彼らは、骨細胞におけるカテプシンK欠損が授乳期に見られる骨細胞ラクナ領域の増加、ならびに破骨細胞数の増加、海綿骨量の増加、皮質骨の厚み、機械的特性の減少を妨げることを示した。また、骨細胞におけるカテプシンK欠損は骨の副甲状腺ホルモンの減少を妨げ、血清における活性化ビタミンDを増加させることを明らかにした。これらより、骨細胞におけるカテプシンKはリモデリングだけではなく授乳に関連する高いカルシウム需要に応じた骨損失に寄与していることが示されている。
文責:村地 眸
第31回 2019/9/13
Human Gain-of-Function MC4R Variants Show Signaling Bias and Protect against Obesity.
Lotta LA, Mokrosiński J, Mendes de Oliveira E, Li C, Sharp SJ, Luan J, Brouwers B, Ayinampudi V, Bowker N, Kerrison N, Kaimakis V, Hoult D, Stewart ID, Wheeler E, Day FR, Perry JRB, Langenberg C, Wareham NJ, Farooqi IS.
Cell. 2019 Apr 18;177(3):597-607.
紹介者:李 政道
cAMP産生よりもβ-アレスチンの動員を優先的に増加させるMC4Rの機能獲得をした人々は、そうでない人と比べてBMIが有意に低く、肥満、2型糖尿病、および冠動脈疾患のリスクも低下するということを報告した論文である。
文責:李 政道
脳内で,食欲の調節やエネルギー代謝の調節に重要な働きをしているGタンパク質共役型受容体(GPCR)として,メラノコルチン受容体4(MC4R)があります。
今回は,イギリスの約50万人のバイオバンクのデータから,MC4Rの61種類の遺伝子変異がみつかりました。
機能獲得型の変異は,肥満を防いでいることがわかりました。
とくに,β-アレスチンというGPCRを細胞内に取り込む分子が肥満の阻止と関連していました。通常では,リガンド刺激後に,MC4Rは,β-アレスチンを介して細胞内に取り込まれるのですが,その変異をもつMC4Rは,リガンド刺激後でも,細胞内に取り込まれず,シグナルが持続するということです。
肥満は脳の病気という考え方もありますが,まさに,今回は,それを裏付けるような研究でした。
本研究は,李 政道によって紹介されました。
文責:早田 匡芳
第30回 2019/9/10
Mechanoresponsive stem cells acquire neural crest fate in jaw regeneration.
Ransom RC, Carter AC, Salhotra A, Leavitt T, Marecic O, Murphy MP, Lopez ML, Wei Y, Marshall CD, Shen EZ, Jones RE, Sharir A, Klein OD, Chan CKF, Wan DC, Chang HY, Longaker MT.
Nature. 2018 Nov;563(7732):514-521.
紹介者:野澤 伊織
本論文は、仮骨延長術による内因性の骨形成が機械的刺激によって促進される分子メカニズムの一端を解明した論文でした。本論文を紹介しようとした契機は、夏休みにBone Biology Forumに参加したことです。本学会では、実に多くの方々が幹細胞(stem cell)について紹介しており、非常に興味を惹かれました。in vivo, in vitro, オミクス解析などを組み合わせており、大変難解でしたが、大いに勉強になりました。
文責:野澤 伊織
整形外科または口腔外科領域などでは、仮骨延長術という手術があります。人工的に骨折をさせて、少しずつ骨を引っ張ると、骨が伸びるという手術です。
骨折の際は、血腫が生じたあと、軟骨細胞が分化して、それが骨に置き換わっていき(軟骨内骨化)、余分な骨は破骨細胞によって骨吸収され、骨折部位が修復されます。
今回、著者らは、顎骨の骨延長術においては、軟骨内骨化ではなく、発生過程における神経堤細胞由来の骨芽細胞の分化が再現される膜性骨化が活性化されていることを示しました。
また、その際には、細胞が進展されている状態をFokal adhesion kinase (FAK)というリン酸化酵素が、認識しているとのことです。顎の再生における骨格系幹細胞の新たな役割を明らかにした論文です。
2018-2019は、skeletal stem cellの当たり年ですね。
インターン生も参加して、質疑応答も活発に行われました。
本論文は、野澤 伊織によって、紹介されました。
文責:早田 匡芳
第29回 2019/9/5
Sawada Y, Kikugawa T, Iio H, Sakakibara I, Yoshida S, Ikedo A, Yanagihara Y, Saeki N, Győrffy B, Kishida T, Okubo Y, Nakamura Y, Miyagi Y, Saika T, Imai Y.
Int J Cancer. 2019 Jul 5. doi: 10.1002/ijc.32554.
紹介者:加藤 宏典
GPRC5AがCREBのリン酸化を抑制し、細胞周期関連遺伝子の発現を調節することにより、前立腺癌患者の進行や生存率有意に関連し、治療標的分子の候補になり得ることを示す。
文責:加藤 宏典
第28回 2019/7/26
Bone-targeting AAV-mediated silencing of Schnurri-3 prevents bone loss in osteoporosis.
Yang YS, Xie J, Wang D, Kim JM, Tai PWL, Gravallese E, Gao G, Shim JH.
Nat Commun. 2019 Jul 4;10(1):2958. doi: 10.1038/s41467-019-10809-6.
紹介者:荒崎 恭弘
本研究では、多くの組換えアデノ随伴ウイルスベクターを用いて、骨形成を強力に抑制するSchnurri-3に対するshRNAを骨組織特異的にデリバリーするシステムを構築している。現在の骨粗鬆症の治療薬、例えばロモソズマブは新血管系イベントの発生など、重篤な副作用が発症する例が報告されており、これらとは全く新たな治療戦略としてRNA干渉を用いた治療法を試みている点が興味深かった。
文責:荒崎 恭弘
第27回 2019/7/23
TGFβ-induced degradation of TRAF3 in mesenchymal progenitor cells causes age-related osteoporosis.
Li J, Ayoub A, Xiu Y, Yin X, Sanders JO, Mesfin A, Xing L, Yao Z, Boyce BF.
Nat Commun. 2019 Jun 26;10(1):2795. doi: 10.1038/s41467-019-10677-0.
紹介者:秋谷 拓郎
TRAF3は、破骨前駆細胞におけるRANKL誘導性NF-kBシグナル伝達阻害により、骨破壊を制限することが報告されていたが、間葉系前駆細胞(MPCs)におけるTRAF3の役割は不明であった。そのためMPCsでTRAF3を欠損させたマウスを用いて解析し、骨粗鬆症発症が早くなることを見出し、TRAF3はMPCの骨芽細胞分化を正に制御することを明らかにした。また、TGFβ1が、MPCsにおいてTRAF3の分解を誘導し、GSK-3βを介したβ-cateninの分解による骨芽細胞形成を阻害することが明らかとなった。
文責:秋谷 拓郎
第26回 2019/7/19
Structure and dynamics of the active human parathyroid hormone receptor-1.
Zhao LH, Ma S, Sutkeviciute I, Shen DD, Zhou XE, de Waal PW, Li CY, Kang Y, Clark LJ, Jean-Alphonse FG, White AD, Yang D, Dai A, Cai X, Chen J, Li C, Jiang Y, Watanabe T, Gardella TJ, Melcher K, Wang MW, Vilardaga JP, Xu HE, Zhang Y.
Science. 2019 Apr 12;364(6436):148-153.
紹介者:野澤 伊織
本論文は、ヒトPTH1Rがリガンドと結合したときにどのような構造を取るのかをクライオ電子顕微鏡を用いて明らかにした論文でした。PTH1Rの膜貫通領域は静的状態なのに対し、細胞外領域が動的な挙動を示している様子が見られ、大変興味深かったです。分子生物学への応用は非常に難しいと感じますが、in silico screeningなどへの応用は十分可能であり、PTHやPTHrPの関与する病態である骨粗鬆症やがん悪液質に対する新規創薬へと繋がる可能性を示唆しており、今後の応用に夢が膨らみます。
文責:野澤 伊織
副甲状腺ホルモンPTHは,生理的には,骨吸収を促進して,血中のカルシウム濃度を上げる作用を持ちます。が,1日1回または週に一回,外から注射すると,骨を増加させる作用があります。実際に,PTH(1-34)が,テリパラチドとして骨粗鬆症治療薬として使われています。
私達も,PTHシグナルに着目し,PTH受容体とアドレナリンβ2受容体との関係性,または,オステオポンチンとの関係性を調べてきました。
今回は,その時の共同研究者であるピッツバーグ大学のDr.Jean-Pierre Vilardagaが著者に入っています。
今回,彼らは,長時間作用型のPTH(LA-PTH)をもちいて, LA-PTHとPTH受容体の複合体をクライオ電子顕微鏡で観察して,立体構造を明らかにしました。
PTHが受容体に結合すると,PTH受容体の立体構造が変化して,Gタンパク質と共役できるようになることがわかりました。
本研究によって,PTH受容体のシグナル伝達の仕組みがわかり,このことが骨粗鬆症やがん悪液質への新しい治療へと繋がる可能性があります。
本研究は,野澤 伊織によって紹介されました。なれないタンパク質の立体構造の論文でしたが,背景をよく調べて,論文の図を丁寧に説明してくれました。おつかされまでした。
文責:早田 匡芳
第25回 2019/7/12
Human blood vessel organoids as a model of diabetic vasculopathy.
Wimmer RA, Leopoldi A, Aichinger M, Wick N, Hantusch B, Novatchkova M, Taubenschmid J, Hämmerle M, Esk C, Bagley JA, Lindenhofer D, Chen G, Boehm M, Agu CA, Yang F, Fu B, Zuber J, Knoblich JA, Kerjaschki D, Penninger JM.
Nature. 2019 Jan;565(7740):505-510.
紹介者:荒井 優
第24回 2019/7/9
Insulin/IGF-1 Drives PERIOD Synthesis to Entrain Circadian Rhythms with Feeding Time.
Crosby P, Hamnett R, Putker M, Hoyle NP, Reed M, Karam CJ, Maywood ES, Stangherlin A, Chesham JE, Hayter EA, Rosenbrier-Ribeiro L, Newham P, Clevers H, Bechtold DA, O'Neill JS.
Cell. 2019 May 2;177(4):896-909.
紹介者:李 政道
インスリンとインスリン様成長因子(IGF-1)が体内の細胞時計に対する摂食時間の主要なシグナルであり、これらがPERIODタンパク質を誘導することで概日時計をリセットすること、および誤ったインスリンシグナル伝達はマウスの行動と時計遺伝子発現の概日組織を乱すことを示した論文である。
文責:李 政道
第23回 2019/7/5
A Cellular Taxonomy of the Bone Marrow Stroma in Homeostasis and Leukemia.
Baryawno N, Przybylski D, Kowalczyk MS, Kfoury Y, Severe N, Gustafsson K, Kokkaliaris KD, Mercier F, Tabaka M, Hofree M, Dionne D, Papazian A, Lee D, Ashenberg O, Subramanian A, Vaishnav ED, Rozenblatt-Rosen O, Regev A, Scadden DT.
Cell. 2019 Jun 13;177(7):1915-1932.
紹介者:村地 眸
間質は臓器の発達・恒常性・修復において重要な役割を果たすが実質的にあまり定義されていない。今回彼らは、シングルセルRNAシークエンスを行うことで17の間質サブセットを同定し、造血性の再生を調節したり白血病を発病させたりする幹細胞ニッチにおける個々の集団を定義した。また、急性骨髄性白血病を発病すると、間葉系骨形成分化は障害を受け、正常な造血に必要な調節分子を減少させたことを示す。
文責:村地 眸
第22回 2019/6/28
Liang C, Peng S, Li J, Lu J, Guan D, Jiang F, Lu C, Li F, He X, Zhu H, Au DWT, Yang D, Zhang BT, Lu A, Zhang G.
Nat Commun. 2018 Aug 24;9(1):3428.
紹介者:野澤 伊織
本論文は、virtual screeningを用いて骨粗鬆症の新規治療法を提案する論文でした。現在、トレンドであるin silico screeningと分子生物学的・骨代謝学的実験を組み合わせていることが非常に興味深かったです。有機化学、天然物化学、分子生物学と様々な分野の知識が要求される論文だったので、大変勉強になりました。
文責:野澤 伊織
第21回 2019/6/21
Long-term ex vivo haematopoietic-stem-cell expansion allows nonconditioned transplantation.
Wilkinson AC, Ishida R, Kikuchi M, Sudo K, Morita M, Crisostomo RV, Yamamoto R, Loh KM, Nakamura Y, Watanabe M, Nakauchi H, Yamazaki S.
Nature. 2019 May 29. doi: 10.1038/s41586-019-1244-x.
紹介者:荒崎 恭弘
造血幹細胞(HSCs)を生体外で長期間培養を成功した例は今までない。しかしながら、本論文では、ノリの成分であるポリビニルアルコールをアルブミンの代替物として用いることで、生体外での長期培養に成功した。この論文の素晴らしい点は、単にHSCsの長期培養に成功しただけではなく、工業的に安価なポリビニルアルコールを用いた点と、非ヒト由来のアルブミンを用いない点である。本論文は白血病治療の現実的な可能性を示すものであった。
文責:荒崎 恭弘
第20回 2019/6/18
Programming self-organizing multicellular structures with synthetic cell-cell signaling.
Toda S, Blauch LR, Tang SKY, Morsut L, Lim WA.
Science. 2018 Jul 13;361(6398):156-162. doi: 10.1126/science.aat0271.
紹介者:加藤 宏典
特定の細胞間接触がカドへリン接着を誘導するような人工的な遺伝子プログラムを設計したところ、その単純さに関わらず、多領域構造への強固な自己組織化、細胞型の分岐、対称性の破れなどの特徴を有する集合体を得ることができた。このことから、細胞シグナル伝達が複雑な構造を形成するネットワークと関連していることが分かる。
文責:加藤 宏典
第19回 2019/6/14
G-CSF partially mediates effects of sleeve gastrectomy on the bone marrow niche.
Li Z, Hardij J, Evers SS, Hutch CR, Choi SM, Shao Y, Learman BS, Lewis KT, Schill RL, Mori H, Bagchi DP, Romanelli SM, Kim KS, Bowers E, Griffin C, Seeley RJ, Singer K, Sandoval DA, Rosen CJ, MacDougald OA.
J Clin Invest. 2019 May 6;130:2404-2416. doi: 10.1172/JCI126173.
紹介者:村地 眸
極度の肥満に対する胃切除手術は骨石灰化・骨形成の障害により性別や体重、食事によらない骨梁と皮質骨における骨量減少を引き起こし、骨折リスクを上昇させる。本論文では、G-CSF欠損マウスにおける胃切除手術によって、骨量には変化は見られなかったものの、影響は軽減していることが明らかとなり、G-CSFが骨量減少の主なメカニズムとは言えないが、骨髄ニッチにおいて中間的な役割を果たしていることが示されている。
文責:村地 眸
第18回 2019/6/11
SIRT6 Is Responsible for More Efficient DNA Double-Strand Break Repair in Long-Lived Species.
Tian X, Firsanov D, Zhang Z, Cheng Y, Luo L, Tombline G, Tan R, Simon M, Henderson S, Steffan J, Goldfarb A, Tam J, Zheng K, Cornwell A, Johnson A, Yang JN, Mao Z, Manta B, Dang W, Zhang Z, Vijg J, Wolfe A, Moody K, Kennedy BK, Bohmann D, Gladyshev VN, Seluanov A, Gorbunova V.
Cell. 2019 Apr 18;177(3):622-638.e22. doi: 10.1016/j.cell.2019.03.043.
紹介者:秋谷 拓郎
様々な寿命を持つ18種のげっ歯類を用いて、ヌクレオチド除去修復(NER)ではなく、より強力なDNA二本鎖切断修復(DBS)が長寿命ともに進化したことを示した。
DSB修復を促進するSIRT6タンパク質の機能が、短命種と長寿種の間でDSB修復効率の変化の大部分を占めることを発見し、活性に完全に対応した5基のアミノ酸残基を同定したことで、DSB修復とSIRT6が長寿の進化の間で最適化されていることを示し、アンチエイジングの新たな標的をもたらした。
文責:秋谷 拓郎
第17回 2019/6/4
NOTUM inhibition increases endocortical bone formation and bone strength.
Brommage R, Liu J, Vogel P, Mseeh F, Thompson AY, Potter DG, Shadoan MK, Hansen GM, Jeter-Jones S, Cui J, Bright D, Bardenhagen JP, Doree DD, Movérare-Skrtic S, Nilsson KH, Henning P, Lerner UH, Ohlsson C, Sands AT, Tarver JE, Powell DR, Zambrowicz B, Liu Q.
Bone Res. 2019 Jan 8;7:2. doi: 10.1038/s41413-018-0038-3.
紹介者:李 政道
NOTUMという、皮質内骨環境に存在するWntをパルミチン酸を不活性化することによって皮質骨の厚さを減少させるリパーゼの活性を阻害することで、皮質骨の強度や厚みが上昇するという内容の論文である。
文責:李 政道
第16回 2019/5/28
SHP2 regulates skeletal cell fate by modifying SOX9 expression and transcriptional activity.
Zuo C, Wang L, Kamalesh RM, Bowen ME, Moore DC, Dooner MS, Reginato AM, Wu Q, Schorl C, Song Y, Warman ML, Neel BG, Ehrlich MG, Yang W.
Bone Res. 2018 Apr 6;6:12. doi: 10.1038/s41413-018-0013-z. eCollection 2018.
紹介者:加藤 宏典
SHP2を欠損させることでSOX9発現が上昇し、軟骨量が増加し全体的な骨化が不十分になるので、SHP2の制御が軟骨腫の様な軟骨関連疾患や変形性膝関節症ような変性疾患などの治療に用いることができる。
文責:加藤 宏典
第15回 2019/5/24
Garreta E, Prado P, Tarantino C, Oria R, Fanlo L, Martí E, Zalvidea D, Trepat X, Roca-Cusachs P, Gavaldà-Navarro A, Cozzuto L, Campistol JM, Izpisúa Belmonte JC, Hurtado Del Pozo C, Montserrat N.
Nat Mater. 2019 Apr;18(4):397-405. doi: 10.1038/s41563-019-0287-6. Epub 2019 Feb 18.
紹介者:荒井 優
ヒトiPS細胞から、ハイドロゲルを利用した三次元培地において作製される腎臓オルガノイドは通常の培養法で作製されるより成熟度の高く複雑な構造の構造のネフロンを形成する。
文責:荒井 優
第14回 2019/4/19
Developmental origin, functional maintenance and genetic rescue of osteoclasts.
Jacome-Galarza CE, Percin GI, Muller JT, Mass E, Lazarov T, Eitler J, Rauner M, Yadav VK, Crozet L, Bohm M, Loyher PL, Karsenty G, Waskow C, Geissmann F.
Nature. 2019 Apr;568(7753):541-545. doi: 10.1038/s41586-019-1105-7. Epub 2019 Apr 10.
紹介者:加登 遼典
胎児骨化中心をコロニー形成する破骨細胞は初期の赤血球骨髄前駆体に由来し、破骨細胞や骨量、骨髄腔の生後の維持が循環血単球と長命破骨細胞複合体の反復的融合に関わっている。
文責:加登 遼典
第13回 2019/4/12
Subchondral bone osteoclasts induce sensory innervation and osteoarthritis pain.
Zhu S, Zhu J, Zhen G, Hu Y, An S, Li Y, Zheng Q, Chen Z, Yang Y, Wan M, Skolasky RL, Cao Y, Wu T, Gao B, Yang M, Gao M, Kuliwaba J, Ni S, Wang L, Wu C, Findlay D, Eltzschig HK, Ouyang HW, Crane J, Zhou FQ, Guan Y, Dong X, Cao X.
J Clin Invest. 2019 Mar 1;129(3):1076-1093. doi: 10.1172/JCI121561.
紹介者:秋谷 拓郎
破骨細胞による異常な軟骨下骨リモデリングが感覚神経支配を誘導し、破骨細胞による分泌されるNetrin-1が、DCC受容体を介して、感覚神経支配及びOA疼痛を誘導する可能性を示した。変形性関節症の進行過程で、侵害受容ニューロンが軟骨下骨髄を神経支配するメカニズムはいまだにわかっていないが、以前の研究と本研究により、破骨細胞系列細胞は、変形性関節症性軟骨下骨における神経成長および血管成長を促進し、疾患の進行および疼痛をもたらすことを明らかにした。
文責:秋谷 拓郎
第12回 2019/3/8
Hypoxia-inducible factor 2α is a negative regulator of osteoblastogenesis and bone mass accrual.
Merceron C, Ranganathan K, Wang E, Tata Z, Makkapati S, Khan MP, Mangiavini L, Yao AQ, Castellini L, Levi B, Giaccia AJ, Schipani E.
Bone Res. 2019 Feb 21;7:7. doi: 10.1038/s41413-019-0045-z.
紹介者:荒崎 恭弘
低酸素誘導性因子2α(Hif-2α)は,低酸素で活性化される転写因子ですが,骨においては,同じファミリーのHif-1αが,骨形成の生の制御因子であることが報告されていました。今回の研究では,Prx1-Creマウスを用いて,間葉系幹細胞で,Hif-2αのドミナントネガティブフォームを発言させたマウスおよびHif−2αを欠損させたマウスを解析することにより,Hif-2αは,骨芽細胞形成の抑制因子であることを示しました。Hif-1αとHif-2αは逆の機能を持つようです。Hif-2αを阻害することは,低骨量疾患への治療標的となりうるだろうということも述べています。
文責:早田
第11回 2019/2/1
Wu Y, Xie L, Wang M, Xiong Q, Guo Y, Liang Y, Li J, Sheng R, Deng P, Wang Y, Zheng R, Jiang Y, Ye L, Chen Q, Zhou X, Lin S, Yuan Q.
Nat Commun. 2018 Nov 14;9(1):4772. doi: 10.1038/s41467-018-06898-4.
紹介者:加登 遼典
近年、RNA修飾が、様々な生物学的現象や疾患に関わっているということが相次いで報告されていますが、今回、RNAのアデニンの6位をメチル化する重要な酵素であるMettl3が、骨代謝において重要な役割を果たしていることが、マウスの実験で明らかになりました。
骨芽細胞や脂肪細胞に分化する能力を持つ間葉系細胞で特異的にMettl3遺伝子を欠損させたマウスでは、骨粗鬆症を呈することが示されました。
特に興味深かったのは、間葉系幹細胞特異的Mettl3欠損マウスの骨芽細胞では、副甲状腺ホルモン受容体PTH1RのmRNAのストップコドンの周辺のm6Aが減少しており、PTH1RのmRNAレベルは、野生型と変化内にもかかわらず、タンパク質のレベルが減少しているということです。
PTH(1-34)は、テリパラチドとして、骨粗鬆症治療薬にも用いられていますので、今後、骨粗鬆症とRNA修飾との関係性がさらに解明されていく可能性があります。
私たちの研究室では、骨代謝におけるmRNAの安定性に着目して研究を進めていますが、m6Aにも着目して研究を進めていこうと思いました。
文責:早田
第10回 2019/1/11
Osteoclast-secreted SLIT3 coordinates bone resorption and formation.
Kim BJ, Lee YS, Lee SY, Baek WY, Choi YJ, Moon SA, Lee SH, Kim JE, Chang EJ, Kim EY, Yoon J, Kim SW, Ryu SH, Lee SK, Lorenzo JA, Ahn SH, Kim H, Lee KU, Kim GS, Koh JM.
J Clin Invest. 2018 Apr 2;128(4):1429-1441. doi: 10.1172/JCI91086. Epub 2018 Mar 5.
紹介者:秋谷 拓郎
著者らは、破骨細胞から分泌される因子で、骨芽細胞の遊走を刺激するタンパク質としてSlit3を見出しました。
Slit3は、神経軸索ガイダンス分子として報告されていました。
Slit3は、破骨細胞自身へもオートクリン的に作用し、破骨細胞の分化を抑制しました。
破骨細胞特異的Slit3ノックアウトマウスは、骨量が減少していました。
閉経後の女性の血中Slit3濃度を調べると、Slit3血中濃度が高いほど、骨密度が高いという相関関係がありました。
卵巣摘出マウスにSlit3を注射すると、骨減少が抑制されました。
これらの結果から、Slit3は、骨形成を促進し、骨吸収を抑制する機能があり、骨を保護する力があることが明らかにされ、骨粗鬆治療標的分子となる可能性があることを提示しました。
骨芽細胞から分泌されて、骨を保護する分子として、神経軸索ガイダンス分子のSema3Aがあります(https://www.nature.com/articles/nature11000)。
神経細胞特異的にSema3Aを欠損させたマウスでは、骨量の減少が認められることから、神経に発現するSema3Aが骨形成に重要であるという報告もあります(https://www.nature.com/articles/nature12115)が、今回著者らは、Slit3を神経細胞特異的あるいは骨芽細胞特異的にノックアウトしても、骨量は変化しないことを報告しています。破骨細胞から分泌されるSlit3が骨代謝に重要なのでしょう。
文責:早田
第9回 2018/12/7
Xu R, Khan SK, Zhou T, Gao B, Zhou Y, Zhou X, Yang Y.
Bone Res. 2018 Nov 20;6:33. doi: 10.1038/s41413-018-0034-7. eCollection 2018.
紹介者:荒崎 恭弘
骨芽細胞の分化異常は、幅広い壊滅的な頭蓋顔面疾患の原因となります。今回の論文で、著者らは、頭蓋顔面骨の異常を示す骨格系の遺伝性疾患のマウスモデルを用いて頭蓋骨の発生過程における膜性骨化について検討しました。
GNAS遺伝子は、GPCRシグナルを伝達するGαs をコードしていますが、ヒトGNAS遺伝子の機能亢進型変異または機能欠損型変異は、それぞれ、線維性骨異形成(頭蓋顔面骨の骨過形成)、進行性骨異形成(頭蓋縫合早期癒合症)の原因となります。
著者らは、
ヘッジホッグ(Hh)リガンド依存性のシグナルは、軟骨内骨化には必須であるが、膜性骨化には必要ではないということ、
および
Gαsは、リガンド非依存的にHhシグナルを制御する
ということを発見しました。
これらの研究成果は、病理学的な骨異常と正常な骨発生において貴重な洞察を与え、遺伝性骨疾患のよりよい診断と治療につながることが期待されます。
文責:早田
第8回 2018/11/16
Resting zone of the growth plate houses a unique class of skeletal stem cells.
Mizuhashi K, Ono W, Matsushita Y, Sakagami N, Takahashi A, Saunders TL, Nagasawa T, Kronenberg HM, Ono N.
Nature. 2018 Nov;563(7730):254-258. doi: 10.1038/s41586-018-0662-5. Epub 2018 Oct 31.
紹介者:秋谷 拓郎
2018/11/16のJournal Clubは、東京医科歯科大学難治疾患研究所骨分子薬理学分野に赴いて、合同で実施しました!
なんと、この論文は、東京医科歯科大学難治疾患研究所旧分子薬理学分野出身で、現在は、ミシガン大学歯学部で助教授(主任研究員)をされている小野法明先生の研究室からの論文です。小野先生は、大学院生のときに、恒常活性型のPTHシグナルと骨の関係を明らかにし、3報の論文を発表されました。その後、PTHシグナル研究の第一人者であるボストンのマサチューセッツ総合病院のクローネンバーグ教授のもとに留学し、軟骨細胞の細胞系譜解析で素晴らしい研究成果をあげた後、ミシガン大学で研究室を立ち上げられました。
成長板という、骨の成長の原動力となる軟骨細胞からできている層があるのですが、本論文では、休止軟骨細胞層に存在し、PTHrP(PTH関連タンパク質)を発現している細胞群が、ユニークな性質を持つ骨格系幹細胞であるということが発見されました。PTHrPを発現した軟骨細胞は、肥大軟骨細胞へ分化し、さらに、骨芽細胞や骨髄間質細胞に分化します。さらにこの幹細胞的機能は、一年以上の長期間維持されることがわかりました。
論文著者による日本語の解説はこちらです。http://first.lifesciencedb.jp/archives/18873
文責:早田
第7回 2018/11/9
Discovery of a periosteal stem cell mediating intramembranous bone formation.
Debnath S, Yallowitz AR, McCormick J, Lalani S, Zhang T, Xu R, Li N, Liu Y, Yang YS, Eiseman M, Shim JH, Hameed M, Healey JH, Bostrom MP, Landau DA, Greenblatt MB.
Nature. 2018 Oct;562(7725):133-139. doi: 10.1038/s41586-018-0554-8. Epub 2018 Sep 24.
紹介者:荒崎 恭弘
Cathepsin K-Creマウスは、破骨細胞特異的に遺伝子をノックアウトするマウスとして用いられてきましたが、今回著者らは、Cathepsin K-Creを発現する細胞が、皮質骨の外骨膜に存在し、しかも、それが、骨を作る幹細胞であることを示しました。
この細胞群は、腎被膜下に移植されたときに、軟骨形成を介した軟骨内骨化ではなく、直接骨を作るという機能を持っていることが示されました。
しかし、興味深いことに、骨折時には、軟骨内骨化を誘導し、骨折の治癒に加わるということが明らかにされました。
この細胞群が、将来、骨折や大規模骨欠損などの治療に役立つ可能性があります。
近年、骨格系の幹細胞の報告が相次いでいます。来週のJournal Clubでも、Natureに掲載された骨格系幹細胞に関する論文が取り上げられます。
文責:早田
第6回 2018/11/02
Furuya M, Kikuta J, Fujimori S, Seno S, Maeda H, Shirazaki M, Uenaka M, Mizuno H, Iwamoto Y, Morimoto A, Hashimoto K, Ito T, Isogai Y, Kashii M, Kaito T, Ohba S, Chung UI, Lichtler AC, Kikuchi K, Matsuda H, Yoshikawa H, Ishii M.
Nat Commun. 2018 Jan 19;9(1):300. doi: 10.1038/s41467-017-02541-w.
紹介者:加登 遼典
本論文では、成熟骨芽細胞と成熟破骨細胞を蛍光タンパク質で標識された遺伝子組み換えマウスを用いて、二光子励起顕微鏡で生体内でのそれらの細胞の挙動を調べています。
骨芽細胞と破骨細胞が実際に接触する場面の撮影に成功し、骨芽細胞が破骨細胞に接触すると、破骨細胞は骨吸収を停止することを見出しました。
また、骨粗鬆症治療薬であるテリパラチドを投与すると、細胞と細胞の接触機会が増えることも明らかになり、これが、テリパラチドによる骨量増加の作用機序の一端になっているのではないかと考えられました。
画像や動画が多く、大変面白い論文でした。
文責:早田
第5回 2018/10/19
Liu W, Zhang L, Xuan K, Hu C, Liu S, Liao L, Li B, Jin F, Shi S, Jin Y.
Bone Res. 2018 Sep 11;6:27. doi: 10.1038/s41413-018-0029-4. eCollection 2018.
紹介者:秋谷 拓郎
Alplは、主に骨、肝、腎臓に発現するアルカリ性ホスファターゼ(脱リン酸化酵素)をコードする遺伝子です。この遺伝子欠損は、低アルカリホスファターゼ血症(指定難病172, http://www.nanbyou.or.jp/entry/4565)の病気の原因となります。また、骨芽細胞の分化マーカーとして頻繁に用いられます。
今回、このグループは、Alplが、間葉系幹細胞の老化と分化に重要な役割を果たすことを見出しました。
特に、糖尿病の治療薬としても使用されるメトホルミン(AMPKの活性化薬剤)が、Alpl遺伝子欠損によって引き起こされる間葉系幹細胞の老化を回復させることが細胞モデルやマウスモデルで示されました。また、低アルカリホスファターゼ血症の患者さんから頂いた間葉系幹細胞でも、メトホルミンがその細胞の老化を防ぐ、ということも示しました。
本研究は、Alplが、AMPKαを介して間葉系幹細胞のステムネスを維持し、骨の老化を防ぐ役割を持つことを示し、メトホルミンが低アルカリホスファターゼ血症の治療薬の候補となる可能性を提示しました。
文責:早田
第4回 2018/10/12
Identification of the Human Skeletal Stem Cell.
Chan CKF, Gulati GS, Sinha R, Tompkins JV, Lopez M, Carter AC, Ransom RC, Reinisch A, Wearda T, Murphy M, Brewer RE, Koepke LS, Marecic O, Manjunath A, Seo EY, Leavitt T, Lu WJ, Nguyen A, Conley SD, Salhotra A, Ambrosi TH, Borrelli MR, Siebel T, Chan K, Schallmoser K, Seita J, Sahoo D, Goodnough H, Bishop J, Gardner M, Majeti R, Wan DC, Goodman S, Weissman IL, Chang HY, Longaker MT.
Cell. 2018 Sep 20;175(1):43-56.e21. doi: 10.1016/j.cell.2018.07.029.
紹介者:荒崎 恭弘
骨髄には、様々な細胞に分化できる間葉系幹細胞が存在すると考えられており、様々な表面抗原マーカーを用いて、その細胞集団を同定したという報告が数多くありました。このグループは、以前にマウスで骨格系幹細胞を同定していましたが、今回ヒトでも骨格系幹細胞を同定したと報告しました。
ヒトの成長板領域から分離したPDPN+, CD146-, CD73+, CD164+の細胞集団が、自己複製能を持ち、かつ骨格系の細胞への多分化能を持つことを見出し、それらをヒト骨格系幹細胞(hSSC)と命名しました。
hSSCは、胎児、成人、BMP-2(骨形成因子2)処理したヒトの脂肪間質細胞、そして、iPS細胞から分離できる。
hSSCは、骨折などの急性傷害に応答して局所的に増加する。
マウスとヒトのhSSCの遺伝子発現を比較すると、進化的な相違が見られた。
ということです。
今回は、ヒトを対象にした実験なので、様々なヒト組織を使用しているのが印象的でした。
また、傷害時に幹細胞が増幅するというのは、大変興味深い現象です。東京医科歯科大学の関谷一郎教授も、変形性膝関節(OA)症患者の滑膜から、滑膜幹細胞を採取していますが、健常人に比べて、OA患者の滑膜からは、多くの幹細胞集団を分離できるということを示しておられます(J Orthop Res. 2012 Jun;30(6):943-9.)。人体には、損傷した組織を修復しようとして、幹細胞の活性化が起こるシステムが備わっているのではないかと考えられます。
また、骨格系遺伝子SOSTのゲノム領域を調べると、ヒトとマウスでRunx2などの転写因子結合部位の存在の相違が明らかになり、これは、大変興味深い事実だと思いました。マウスとヒトでは、体の大きさも寿命も違いますし、遺伝子発現がゲノムレベルで制御されることが、それぞれの生命に適応した骨代謝に重要なのではないかと感じました。
文責:早田
第3回 2018/09/28
Exosomal PD-L1 contributes to immunosuppression and is associated with anti-PD-1 response.
Chen G, Huang AC, Zhang W, Zhang G, Wu M, Xu W, Yu Z, Yang J, Wang B, Sun H, Xia H, Man Q, Zhong W, Antelo LF, Wu B, Xiong X, Liu X, Guan L, Li T, Liu S, Yang R, Lu Y, Dong L, McGettigan S, Somasundaram R, Radhakrishnan R, Mills G, Lu Y, Kim J, Chen YH, Dong H, Zhao Y, Karakousis GC, Mitchell TC, Schuchter LM, Herlyn M, Wherry EJ, Xu X, Guo W.
Nature. 2018 Aug;560(7718):382-386. doi: 10.1038/s41586-018-0392-8. Epub 2018 Aug 8.
紹介者:加登 遼典
抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体は、抗がん薬として用いられています。今回、著者らは、悪性黒色腫(メラノーマ)が、PD-L1を含んだエクソソームを全身性に分泌しているということを見出しました。PD-L1を含むエクソソームは、インターフェロンγによって産生誘導されるようです。PD-L1はT細胞の活性を抑制してしまいますので、全身性にCD8陽性のT細胞の増殖が抑えられてしまい、腫瘍は免疫系からの攻撃を免れているようです。逆に、血液中のPD-L1の量を測定すれば、PD-1抗体療法の効果もある程度予測できる可能性があるようです。
文責:早田
第2回 2018/09/21
Coupling of bone resorption and formation by RANKL reverse signalling.
Ikebuchi Y, Aoki S, Honma M, Hayashi M, Sugamori Y, Khan M, Kariya Y, Kato G, Tabata Y, Penninger JM, Udagawa N, Aoki K, Suzuki H.
Nature. 2018 Sep;561(7722):195-200. doi: 10.1038/s41586-018-0482-7. Epub 2018 Sep 5.
紹介者:秋谷 拓郎
RANKLは、骨細胞や骨芽細胞の細胞表面上に存在し、マクロファージに作用して、破骨細胞分化を誘導します。RANKLは、骨粗鬆症の治療薬である抗RANKL抗体デノスマブの標的分子でもあり、骨粗鬆症を始めとする骨・関節疾患において、薬理学上の重要な標的分子です。
これまで、RANKLは、破骨細胞分化を誘導するリガンドとして大きく注目されてきましたが、今回の研究では、破骨細胞から分泌される小胞に、RANKLの受容体であるRANKが封入されており、そのRANKが、骨芽細胞のRANKLに作用することにより、RANKLの細胞内領域を介して、骨芽細胞内にシグナルを伝達して、骨形成を活性化するという画期的な発見がなされました。
文責:早田
第1回 2018/09/14
Nature. 2018 Aug; 560(7719): 441–446.
Autism-like phenotype and risk gene-RNA deadenylation by CPEB4 mis-splicing
紹介者:荒崎 恭弘