プロフィリン1は、マウスの生後の骨格の成長、リモデリング及び恒常性において破骨細胞の遊走を負に制御する。

Profilin 1 Negatively Regulates Osteoclast Migration in Postnatal Skeletal Growth, Remodeling, and Homeostasis in Mice.

Shirakawa, Hayata, Ezura et al., JBMR Plus 2019.

骨芽細胞や破骨細胞は、'動き回る'細胞です。私たちは、これまでに、細胞の遊走性に関与する遺伝子の骨代謝機能を調べてきました。最近では、Profilin 1というアクチン結合タンパク質が、破骨細胞において、細胞遊走性を負に制御していることを見出しました。破骨細胞特異的にPfn1遺伝子をノックアウトしたマウスの骨格は、成長不全、頭蓋顔面と長管骨の奇形を示した。大腿骨の海綿骨は、生後4週間では、変化はありませんでしたが、生後8週間では、減少が見られました。Pfn1をノックアウトした破骨細胞は、分化に影響はありませんでしたが、細胞の遊走性が亢進していました。このことから、体内で、破骨細胞が過剰に動き回ると、骨量が減少してしまうことが推測されます。本研究により、ヒト疾患における骨格形成異常を理解するための新しい洞察が提供され、破骨細胞の遊走性制御による骨疾患治療への可能性が開かれました。

実際に、本研究論文発表の後、骨パジェット病の患者で、Pfn1遺伝子の突然変異が2つのグループから報告されました (Merlotti, et al., Clin Endocrinol Metab. 2020; Scotto di Carlo et al., J Bone Miner Res. 2020)。さらに,Pfn1遺伝子変異は,骨パジェット病に関連する頭蓋骨巨細胞腫の発症にも関与していることが報告されました(Wei et al., J Bone MIner res 2021)。

骨パジェット病とは、破骨細胞が過剰に活性化してしまい、骨の疼痛、変形、骨折などを引き起こす難治性疾患です。私たちの先駆的な基礎研究が、実際にヒト疾患の病態を説明することにつながったいい例です。ただ,マウスでは,骨巨細胞腫は見られないので,種間の差もあるのでしょう。

一方、私たちは,骨格の発生過程では、Pfn1は細胞の遊走性に必要とされ、Prx1-Cre; Pfn1 KOマウスは胸骨原基の癒合不全を示すことを過去に報告しました(Miyajima, Hayata*, Noda et al., J Biol Chem 2012) 。同じ分子でも、細胞によって正反対の機能を持つことは大変興味深いことです。

本実験は、主に、白川純平博士(当時東京医科歯科大学大学院生)と梶川周平氏(当時東京医科歯科大学技術補佐員)によって遂行されました。本研究により、白川純平博士は、日本骨代謝学会の2016年のANZBMS (オーストラリア・ニュージーランド骨代謝学会) Travel Awardを受賞し、梶川修平氏は、2018年のANZBMS Travel Awardを受賞しました。

破骨細胞特異的Pfn1ノックアウト(Pfn1-cKO)マウスの大腿骨のマイクロCT画像

Pfn1-cKOマウスでは、大腿骨近位部が短縮しており(左上の黄色線)、大腿骨遠位の形態もフラスコ型に変化している(下の黄色線)。

Shirakawa, Hayata, Ezura et al., JBMR Plus. 2019より引用。

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RAW264.7細胞由来の破骨細胞のライブイメージング

Pfn1 siRNAでPfn1を減少させた破骨細胞(右)では、コントロールに比べて(左)、細胞遊走性が亢進している。RAW264.7細胞をRANKLで72時間で処理し、破骨細胞を分化させ、タイムラプス顕微鏡で撮影した。細胞の軌跡は、Image Jソフトウェアで追跡した。以下、同様の方法。

Shirakawa, Hayata, Ezura et al., JBMR Plus. 2019より引用。

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ウーンド・ヒーリングアッセイにおける破骨細胞のライブイメージング

細胞が生着している領域に、スクラッチ(ひっかき傷)を作り、そのできた空間に破骨細胞が進出している様子をタイムラプス顕微鏡で撮影した。Pfn1 siRNAでPfn1を減少させた破骨細胞(右)では、コントロールに比べて(左)、細胞遊走性が亢進している。

Shirakawa, Hayata, Ezura et al., JBMR Plus. 2019より引用。

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破骨細胞特異的にPfn1遺伝子をノックアウトした骨髄細胞をRANKL処理で分化させた破骨細胞のライブイメージング

Pfn1をノックアウトした破骨細胞(右)では、野生型の破骨細胞に比べて(左)、細胞の遊走性が亢進している。

Shirakawa, Hayata, Ezura et al., JBMR Plus. 2019より引用。

骨系細胞の遊走性に関する研究

本研究により、川崎真希理博士は、日本骨代謝学会の2015のANZBMS (オーストラリア・ニュージーランド骨代謝学会) Travel Awardを受賞した。