Ctdnep1リン酸化酵素は、RAW264.7細胞におけるRANKL誘導破骨細胞分化の負の制御に必要である

Ctdnep1 phosphatase is required for negative regulation of RANKL-induced osteoclast differentiation in RAW264.7 cells.

Konnno et al., Biochem Biophys Res Commun. 2024.


骨の恒常性は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成のバランスによって、維持されています。しかし、過剰な破骨細胞の活動は、骨粗鬆症や関節リウマチ、がんの骨転移による骨破壊などにも関連しており、破骨細胞は骨‧関節疾患の重要な治療ターゲットとなっています。

破骨細胞の分化においては、マクロファージにRANKLシグナルが入ることによって、下流のMAPKやNFκB経路が活性化され、破骨細胞分化のマスター転写因子であるNfatc1が上昇します。これまで、BMP/TGF-βが破骨細胞分化を促進させるという報告があるものの、統一的な見解は得られておらず、未だに議論がなされています。

そこで本研究では、BMP/TGF-βを負に制御することで、腎臓や卵巣の恒常性維持や骨格発生に重要な役割を持つ脱リン酸化酵素Ctdnep1の破骨細胞分化における機能を解析しました。

Ctdnep1 mRNAノックダウンによって、破骨細胞分化が促進する

マウスマクロファージ由来RAW264.7細胞に対して、RNA干渉法によるCtdnep1 mRNAのノックダウンを行うと、RANKLによって誘導される破骨細胞の形成が促進されました。

Ctdnep1 mRNAノックダウンによって、破骨細胞によるカルシウム吸収が促進する

これに伴って、石灰化プレート上での破骨細胞分化を行うと、Ctdnep1 mRNAノックダウンによって、カルシウムが吸収された面積が増大しました。

Ctdnep1 mRNAノックダウンによって、RANKL下流で活性化されるリン酸化タンパク質レベルが上昇する

破骨細胞分化促進のメカニズムを解明するため、BMP/TGF-βシグナルについて検討しましたが、予想外にもCtdnep1はこれらシグナルには関与しませんでした。しかし、RANKLシグナル下流について解析すると、Ctdnep1 mRNAノックダウンによって、MAPK経路のp38やJNK、NFκB経路のIκBのリン酸化レベルが上昇しました。つまり、Ctdnep1 mRNA ノックダウンによって、RANKLシグナル伝達が亢進したと考えられます。

Ctdnep1 mRNAノックダウンによって、Nfatc1 タンパク質が上昇する

さらに、興味深いことにCtdnep1 mRNAをノックダウンすると、RANKLがない状態でも、Nfatc1のタンパク質レベルの上昇が見られました。この条件では、Ctdnep1 ノックダウンによって、Nfatc1 mRNAレベルは変化しないことから、Ctdnep1がNfatc1タンパク質レベルを制御することが推測されます。

以上の結果から、Ctdnep1は破骨細胞分化のブレーキ役として役割を持つことが明らかとなりました。本研究の成果は、破骨細胞の分化制御におけるリン酸化・脱リン酸化に関与する因子群の役割の理解を進めるものであり、破骨細胞の過剰活性に関連する骨疾患の新たな治療戦略の開発につながることが期待されます。

本研究は、金野琢人(2024年当時修士課程2年)と村地眸(2021年度薬学科卒業)が中心に行ったものです。

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