RNA結合タンパク質Cpeb4は,破骨細胞分化の新しい正の制御因子である


The RNA-binding protein Cpeb4 is a novel positive regulator of osteoclast differentiation

Arasaki et al., Biochem Biophys Res Commun. 2020.

破骨細胞とは?

破骨細胞は単球・マクロファージから分化し、骨吸収を担う多核細胞で。破骨細胞の活動が強すぎると,骨粗鬆症や,関節リウマチにおける関節破壊を引き起こします。破骨細胞分化誘導因子Receptor Activator of Nuclear factor Kappa-B Ligand (RANKL)の発見以来,破骨細胞分化を制御するシグナル伝達経路や転写因子ネットワークについては解明されてきましたが,転写後制御による破骨細胞分化機構はほとんど注目されてきませんでしたそこで,私たちは,Cpeb4というRNA結合タンパク質に着目しました。


CPEBタンパク質の機能と疾患

細胞質ポリアデニル化応答配列結合(CPEB)タンパク質は,Cpeb1-4から構成されるRNA結合タンパク質ファミリーです。CPEBタンパク質は,翻訳の活性化や抑制および選択的スプライシングに関与します。重要なことには,CPEBタンパク質は,自閉症スペクトラム症,膵臓がん,赤血球分化,脂肪肝などの様々な生理学的および病理学的プロセスに関与していることが報告されています。しかしながら,破骨細胞分化におけるCPEBタンパク質の機能は全く知られていませんでした。


破骨細胞分化におけるCpeb4の役割

マウスのマクロファージの細胞株であるRAW264.7細胞をRANKL処理すると,破骨細胞に分化します。この分化誘導系を用いて,Cpebファミリーの遺伝子発現の変化を調べると,Cpeb4だけ,遺伝子発現がRANKL処理によって上昇することを見出しました。遺伝子発現が破骨細胞の分化とともに上昇してくるということは,その遺伝子は破骨細胞の分化という生命現象と何らかの関係がある可能性が期待されます。そこで,RNA干渉法を用いて,細胞のCpeb4 mRNAを分解する実験をしました。すると,なんと,破骨細胞がほとんどできなくなりました。このことは,Cpeb4が破骨細胞の分化に必須な遺伝子であることを示しています。現在は,Cpeb4がどのようなRNAに結合することで,破骨細胞分化におけるRNAネットワークを制御しているかを研究しています。


破骨細胞分化と核内構造体形成におけるCpeb4の役割

mRNAは,核で転写されて,スプライシングをうけます。その過程で,イントロンが切り取られて,エクソンだけが連結されて,細胞質に運搬されていきます。そして,リボソームというタンパク質合成工場で,mRNAの情報を元に,タンパク質が翻訳されていきます。Cpebファミリーは,その名の通り,細胞の中の細胞質に存在しています。しかし,Natureに報告された論文では,Cpeb1は,細胞の核にも存在していて,選択的スプライシングという,スプライシングのときにどのエクソンを選ぶかという遺伝子の多様性を生み出す生命現象にも関わっていることが記載されていました。そこで,Cpeb4タンパク質の細胞内の局在を調べると,RANKL処理しない細胞(つまり,マクロファージのまま)では,細胞質に存在していましたが,RANKL処理すると,細胞の核の中の小さな紐や点のような構造に局在していることがわかりました。このような核内の微小集合体を「核内構造体」と一般的に呼びます。核内構造体には,カハール体,パラスペックルなど様々な構造体があり,そこでは,mRNAのスプライシングやRNAエディティングなどの様々なRNAプロセシングが行われています。現在,Cpeb4が存在する核内構造体の正体を解き明かそうと研究しています。

RAW264.7細胞をRANKLで分化誘導した破骨細胞。

RNA干渉法によりCpeb4 mRNAが分解された細胞は,RANKL処理しても,破骨細胞に分化しません。

Cpeb4抗体による免疫蛍光染色実験。RAW264.7細胞では,Cpeb4は細胞質に存在しています。

RAW264.7細胞をRANKL処理して分化誘導した破骨細胞では,Cpeb4は,細胞質に加えて,核内構造体に存在しています。

Cpeb4の骨代謝における役割

現在,ヒトでCpeb4の遺伝子変異が骨代謝疾患と関連しているという報告はありません。先駆的な知見を得るために,私たちは,遺伝子改変マウスを用いて,生体におけるCpeb4の骨代謝制御機能を解き明かそうとしています。これにより,骨代謝の分子メカニズムや骨代謝疾患の分子病態の解明に迫ることができればと日々実験に取り組んでいます。


本研究は主として,大学院生の荒崎恭弘が行いました。

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