NPHP1遺伝子欠損をもつ二人の若年性ネフロン癆(ろう)患者由来の人人工多能性幹細胞の作製

Generation of two human induced pluripotent stem cell lines derived from two juvenile nephronophthisis patients with NPHP1 deletion.

Arai et al., Stem Cell Res. 2020

iPS細胞高次特性解析開発チーム | 理化学研究所との共同研究

若年性ネフロン癆とは?

若年性ネフロン癆とは,先天的な遺伝子の異常によって,腎髄質に嚢胞が出来てしまう病気で,小児慢性特定疾病に認定されています。ネフロン癆の患者さんは,末期腎不全になってしまうことが避けられませんが,現時点では,根本的な治療法はありません。

本研究では,若年性ネフロン癆の患者さんからiPS細胞を樹立し,iPS細胞としての特性解析を行いました。患者さんからiPS細胞を樹立して,試験管内で病気の症状を再現することで,詳しい病態の解明や治療薬の探索などを行うことが可能になります。iPS細胞を樹立するためには,京都大学の山中伸弥教授らが同定した4つの因子を細胞に導入して,体細胞を初期化し,胚性幹細胞と同じような性質の細胞を作り出します。しかしながら,出来上がってくるiPS細胞の性質は,それぞれ個性的なので,きちんと研究に使える品質であることを確認する必要があります。これを特性解析といいます。

本研究では,患者由来のiPS細胞が,未分化状態であること,初期化の際に用いた外来遺伝子が消失していること,分化させたときに,外胚葉,中胚葉,内胚葉への多分化能を保持していること,NPHP1遺伝子領域が欠失していること,それ以外の染色体構造が正常であることなどを確認しました。

この研究は,図にある通り,多くの研究者の協力を得て,理化学研究所の林洋平チームリーダーの指導のもと,大学院生の荒井優が理化学研究所で行いました。現在,彼は,理研ジュニアリサーチアソシエイトとして,このiPS細胞を用いて,腎臓オルガノイド研究に日々熱く取り組んでいます。

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