Cnot3は、mRNA安定性制御を介して、骨粗鬆症の骨量に影響を及ぼす

Stability of mRNA influences osteoporotic bone mass via CNOT3

Watanabe, Hayata, Noda et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2014.

mRNAは、その種類によって、速やかに分解されたり、長く存在し続けるものがあります。たとえば、ハウスキーピング遺伝子など細胞の生存に必須なタンパク質のmRNAの半減期は長く、ある限定された時間でのみ必要なタンパク質、例えば、細胞周期や、外部の刺激に応答するタンパク質のmRNAの半減期は短い傾向にあります。一般に、真核生物のmRNAの3'末端のほとんどには、poly(A)と呼ばれるAがつながった尾部構造が存在しますが、poly(A)は、mRNAの安定性を向上させ、また、タンパク質への翻訳を促す機能があります。一方、そのpoly(A)を脱アデニル化する酵素の複合体も存在し、CCR4-NOTと呼ばれる複合体が存在します。CCR4-NOT複合体は、poly(A)の脱アデニル化以外にも、mRNAの翻訳や安定性に関して、様々な機能を持っています。その複合体の構成因子の一員であるCNOT3は、CCR4-NOT複合体の足場として作用します。CCR4-NOT複合体には、CNOT6 or CNOT6LとCNOT7or CNOT8の2つの脱アデニル化酵素(deadenylase)が含まれています。これらの構成因子は細胞において普遍的な機能を持つことが考えられますが、遺伝子欠損マウスを解析することにより、それぞれの構成因子が特に重要な役割を果たす臓器が存在するという、各因子の臓器特異性が見えてきました。

私たちは、CCR4-NOT複合体及び関連遺伝子の骨代謝における機能解明を目的として、沖縄科学技術大学院大学の山本雅教授と共同研究で、それらの遺伝子のノックアウトマウスの解析を行いました。Cnot3を欠損する遺伝子マウスは、胎生致死ですが、Cnot3ヘテロ欠損マウスは、エネルギー代謝異常を示すことが山本教授のグループから報告されました(Morita et al., EMBO J. 2011)。一方、別のグループからは、Cnot3ヘテロ欠損マウスは、心臓の収縮異常を示し、心不全への感受性が高いことも報告されました(Neely et al., Cell. 2010) 。

私たちは、Cnot3ヘテロ欠損マウスの骨代謝制御機能の解明を試みました。その結果、Cnot3ヘテロ欠損マウスの骨は、野生型に比べて、減少していました。試験管内破骨細胞分化誘導系を用いて、破骨細胞分化を検討したところ、Cnot3ヘテロ欠損によって、破骨細胞分化が亢進していた。一方、骨形成には変化がありませんでした。Cnot3ヘテロ欠損によって、どのような遺伝子の発現に変化があるかを検討したところ、破骨細胞分化誘導因子RANKLの受容体であるRANK mRNAの半減期が増加していることを見出しました。RANK mRNAの3'非翻訳領域(UTR)の、ヒトとマウスで相同性が高い領域を解析したところ、Cnot3がその領域に作用し、翻訳を抑制していました。実際、RNA-免疫沈降(RIP) アッセイにより、Cnot3がRANK mRNAと相互作用することも見出しました。このことから、Cnot3ヘテロ欠損マウスは、RANK mRNAの半減期が延長し、その結果、破骨細胞分化が亢進して、骨粗鬆症を発症することが推測されます。

これらの結果により、CCR4-NOT複合体の構成因子のCnot3が、mRNA安定性を介して骨代謝を制御することが明らかとなりました。今後は、CNOT3とヒトの骨粗鬆症との関連性の解明が待たれます。実験は、主に渡辺千穂博士(当時東京医科歯科大学大学院生)によって行われました。

現在,Cpeb4とCnot3がどのように協調的に破骨細胞分化を制御しているかを調べているところです。

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