すべてのことを全力でやり切る

木村 勇太 

薬学研究科薬科学専攻修士課程1年

2022年研究室配属

主体的かつハイレベルな環境を求めて

分子薬理学研究室を選んだ理由は主に二つあります。一つ目は、運動器官の研究を行ってみたかったからです。自分は小さいころからスポーツを行っており、骨や筋肉などの運動器官に興味を持っていました。分子薬理学研究室に説明を聞きに行った際、筋肉の研究を前年度から始めたということで、自分もこのテーマに携わりたいと考えました。

二つ目は、主体的に研究を行いたかったからです。研究室見学に行った際、早田先生や先輩方から自分でテーマについて勉強しつつ研究を進めていると聞きました。また、修士課程で論文を投稿した先輩がいるというお話を聞き、自分もハイレベルな研究をしたいと思いました。

誰も気づかなかったことに気づいた

この研究室では、卒業研究を3年生の後期試験が終わったあとにスタートすることができ、最初の2,3ヶ月間は、研修があります。研究分野に関する講義、論文の読み方、知識、英語、実験技術、データ解析、資料の作り方、研究者としての心構えなど、様々な研修があります。動物実験と遺伝子組換え実験の資格が承認されたので、動物実験についても研修を受けていました。そのマウスは、ある遺伝子を大人になってから、欠損させた遺伝子改変マウスで、骨と筋肉に関して少しずつ調べられていたところでした。先生が、マウスの掴み方や保持の仕方も教えてくれるのですが、マウスを捕まえるときは、マウスの尻尾を掴んで飼育ケージからマウスを取り上げます。そのとき、普通のマウスは、ぴーんと足を開きます。これは一種の脊髄反射のようです。しかしながら、僕が遺伝子改変マウスを掴んだときには、なんか足の開き方が変だなと思いました。そこで、先生に、「なんか、このマウス、あんまり足を開かないですね」と言ったのです。そうすると、先生は、「え、そうなの。どれどれ。うーん。確かにそうだね。全然気がつかなかったよ。木村君、よく気がついたね。これって、なにかの病気と関係あるかもね。ちょっと調べてみたら?」

  ということで、ちょっと調べてみたら、このマウスの反射は、後肢伸展反射というものらしく、運動神経障害を示す遺伝子改変マウスはこの反射に異常が出ることが多いということがわかってきました。とくに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルマウスにも特徴的であるようでした。ALSは運動神経が障害される神経変性疾患であり、指定難病2に登録されています。症状としては、手足に力が入りにくい、話しにくい、食べにくい、ということから始まり、最終的に呼吸に必要な筋肉が弱まり、呼吸不全を起こしてしまいます。今のところ、エダラボンとリルゾールという薬がありますが、病期の進行を遅らせるのにとどまっており、新たな治療薬が求められています。そこで、この遺伝子がALSの病態と何らかの関わりがあって、それを解き明かすことで、新たな治療薬の開発につながるかもしれないと思い、これが今の研究テーマになりましたこの研究室では、中枢神経の研究をするのが初めてだったので、全てが手探り状態でしたが、主体的に進めることができて、充実した研究生活を送ることができています。具体的な実験としては、脊髄や脳、筋肉を取り出して薄切りにし、染色を行ったり、これらの臓器からRNAやタンパク質を取り出して、野生型のマウスとの発現の差を調べたりしています。最終的に、この遺伝子がどのように運動神経の恒常性を維持しているのかを明らかにして、神経筋変性疾患の薬理学的な治療法を確立することが目標です。

自分主体で研究できる理想の場所

学生それぞれが自分の研究テーマを持ち、自分主体で研究を進めていけることがこの研究室の魅力だと思います。分子薬理学研究室では、テーマに関連する先行研究を自分で調査し、方法などを調べて実験を進めます。もちろん、すでに研究室で確立した研究手法や実験もありますが、常に新しい技術や実験を自分の研究に取り入れようとして、新しいことを見つけようとしています。その際、早田先生や助教の小原先生にアドバイスをいただける機会もあります。そのため、初めて行う実験では、上手くいかないこともありますが、試行錯誤して進めています。失敗を重ねても、実験が成功したときの感動は何事にも代えがたいですね。研究室では、皆が自分の研究テーマに対して黙々と真剣に取り組んでいます。今年度から人数も増え、研究室内での会話も増えたかなと思います。

さらなる成長へ

今のテーマを始めて一年が経過し、ある程度データなども増えてきました。今後、このデータを分かりやすく発表する能力を伸ばしていきたいですね。分子薬理学研究室では月に一度程、自分の研究の進捗を全員の前で発表する場があります。先輩方の発表を聞くとスライドが分かりやすい、高度な内容にも関わらず理解しやすいなと感じます。私も先輩方の発表に近づけるように、プレゼンテーションの仕方を吸収していきたいですね。

また、英会話の能力も伸ばしたいですね。六月から中国人の留学生が研究室に来ています。彼も英語のネイティブではないにも関わらず、問題なく日常会話ができます。今まであまり英会話の重要性を考えていませんでしたが、英語ができるだけで将来の選択肢も広がるのではないかと感じています。彼と積極的にコミュニケーションをとることで少しでも英会話ができるようになりたいですね。

Private

陸上競技部に所属しており、研究室にいる時間以外で練習を行っています。長距離種目に取り組んでおり、5000mや3000m障害という競技をメインで行っています。競技と研究の両立は大変ですが、毎朝走ってから研究室に行くなど工夫をしています。特に意識しているのはメリハリであり、どちらかがうまくいっていない時でももう一方に持ち込まず、集中できるようにしています。大学院生で陸上競技に取り組んでいる人は少ないので、より上のレベルで勝負できることを目指して頑張っています。

左写真:第99回箱根駅伝予選会出走時の写真

内容は、2023年7月取材当時のものです。