Dullard遺伝子欠損は、出血性卵巣嚢胞を引き起こす

Dullard deficiency causes hemorrhage in the adult ovarian follicles

Hayata et al., Genes Cells. 2018.

Col1a1-CreマウスとR26GRRレポーターマウスの精巣と卵巣の共焦点レーザー顕微鏡解析

Col1a1(2.3kb)-Creは、骨芽細胞で特異的に遺伝子を欠損させるのに使われてきましたが、Col1a1-Creは、精巣と卵巣でも発現し、遺伝子欠損を引き起こすことを発見しました(赤色)。卵巣の顆粒膜細胞は、骨代謝に重要なホルモンであるエストロゲンを分泌するので、Col1a1-Creマウスの使用の際には、卵巣に異常が出ないかどうかを調べる必要があります。

Dullard遺伝子が卵巣で欠損すると、出血性卵巣嚢胞が発症し、不妊になる

骨代謝研究においては、卵巣摘出することによって、閉経後骨粗鬆症モデルマウスを作出します。私たちも、骨芽細胞特異的にDullardを欠損させたDullardCol1KO マウスに対して、卵巣摘出手術を施しました。そのときに、卵巣に血豆のようなものができていることに気がつきました。その発見が本研究の発端となりました。

ヒトの卵巣には、出生時に約100万から200万個の初代卵母細胞が含まれており、閉経まで約28日ごとに排卵によって卵子を産生し続けます。

哺乳動物の卵巣では、卵胞は、少なくとも部分的には、骨形成タンパク質(BMP)ファミリーメンバーによる卵母細胞と周囲の顆粒膜細胞との間の相互作用を通して維持されています。しかし、in vivo での卵巣恒常性における BMP シグナル伝達の負の調節の重要性は十分には理解されていません。

Dullard(別名 Ctdnep1)遺伝子は、BMP 受容体を不活性化または分解することによってBMP シグナル伝達を抑制するホスファターゼをコードします。本研究では、Dullard がマウスの成体卵巣の維持に重要な役割を果たすという in vivo での最初の証拠を提供します。私たちは、予想外に、「骨芽細胞特異的」Col1a1-Cre が、骨組織に加えて、卵巣で Dullard flox 遺伝子座の欠失を誘導することを見出しました。

細胞系譜解析により、Col1a1(2.3kb)プロモーターによって駆動されるCre リコンビナーゼを発現する細胞およびそれらの子孫が、卵巣の顆粒膜細胞および精巣のセルトリ細胞に見出されたことが明らかになりました。Dullard mRNA は卵巣の顆粒膜細胞に局在していました。

Dullard 変異マウスは、出血性卵巣嚢胞を示し、赤血球が卵胞内に蓄積し、不妊症を呈しました。 Cyp11a1、Hsd3b1 および Star を含むステロイドホルモンの産生に関与する遺伝子発現は減少しましたが、Smad6 および Smad7 などの BMP 誘導性抑制性 Smad の発現は、Dullard 変異マウスの卵巣において上昇しました。 

Rosa26-CreER マウスを用いて、タモキシフェン投与により、全身性にDullard を欠失させたマウスも、タモキシフェン投与 2 週間で出血性卵巣嚢胞を発症しました。そして、これは BMP 受容体リン酸化酵素阻害剤である LDN-193189 の投与によって発症を抑えることが出来ました。つまり、Dullard 欠失による出血性卵巣嚢胞は、BMP シグナルの増加によって引き起こされた可能性があります。

以上の結果から、Dullard が少なくとも部分的には BMP シグナル伝達を抑制することによって,卵巣の恒常性維持に不可欠であるということがわかりました。

Dullard遺伝子欠損によって引き起こされる出血性卵巣嚢胞は、BMP受容体阻害薬LDN-193189投与によって治療できる

ROSA26-CRE-ERT2システムを用いて、成体マウスにタモキシフェンを投与して、Dullard遺伝子欠損を引き起こした後に、LDN-193189を投与し、組織標本を作製した。

本研究は,熊本大学発生医学研究所,同産婦人科,東京医科歯科大学難治疾患研究所との共同によって行われました。