交感神経系の受容体であるアドレナリンβ2受容体は,副甲状腺ホルモン製剤による骨量増加作用に必要とされる。

Anabolic action of parathyroid hormone regulated by the β2-adrenergic receptor.

Hanyu R, Hayata T, Noda M et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2012.

骨芽細胞には、交感神経系の受容体であるアドレナリンβ2受容体 (Adrb2)が発現しています。β1とβ2の非選択的アゴニストであるイソプロテレノールを投与すると、骨量は減少し(Takeda et al., Cell 2002)、Adrb2遺伝子ノックアウトマウスでは、加齢とともに骨量が増加してくるということが知られていました(Elefteriou et al., Nature. 2005)。

一方、現在、骨形成を促進する骨粗鬆症治療薬として用いられているテリパラチド(ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の1-34番のペプチド)は、骨芽細胞に発現するPTH受容体であるPTH1Rを介して、その作用を発揮します。このAdrb2とPTH1Rは、どちらも、Gタンパク質共役型受容体をコードし、Gαsと共役し、リガンド刺激で、細胞内cAMPを上昇させます。したがって、この2つの受容体に、何らかの相互作用があるのではないかと考えられました。そこで、私たちは、Adrb2 KOマウスに間欠的にテリパラチドを投与し、骨量解析を行いました。その結果、Adrb2 KOマウスでは、テリパラチドによる骨量増加がキャンセルされました。この結果は、交感神経アドレナリンβ2受容体は、副甲状腺ホルモンによる骨量増加作用に必要とされるということを示唆しています。実験は、主に、羽生亮博士(当時順天堂大学大学院生)によって行われました。

しかしながら、私たちは、培養細胞を用いた実験で、PTHシグナルによって、Adrb2 mRNAの発現が急速に減少すること、および、 siRNAによるAdrb2ノックダウンで、PTHシグナルが促進されることを見出しています(Moriya, Hayata, Noda et al., J Cell BIochem. 2015)。つまり、この2つのシグナル間でネガティブ・フィードバック機構が存在するのではないかと考えています。さらに、私たちの共同研究者は、PTHシグナルとアドレナリンβ2受容体のシグナルが同時に入ると、PTHシグナルが増強されることを明らかにしています(Jean-Alphonse et al., Nat Chem Biol. 2017) 。作用機序的にはこうです。PTHシグナルは、細胞表面上で活性化するだけでなく、PTH-PTH受容体の複合体が細胞内に取り込まれ、エンドソームでも継続されますが、そこに、Adrb2が刺激されると、Adrb2-Gi-Gβγの複合体から、Gβγが解離し、エンドソームに存在するPTH-PTH受容体複合体に加わることによって、PTHの刺激が持続するというモデルが提案されています。そのときには、アデニル酸シクラーゼ2(AC2)が活躍するようです。培養細胞において、PTHとイソプロテレノールを同時に処理すると、PTH単独に比べて、石灰化が促進されます。

しかしながら、これらの結果は、マウスにおける結果とは相容れない結果です。そもそも、内在性の副甲状腺ホルモンは、骨吸収を促進するのに、外来性の間欠的投与では、骨形成を促進するという、いまだに、よくわからないホルモンです。今後は、Adrb2がない状態で、PTHシグナルがどうなるのかを成体レベルで検証する必要があるでしょう。

PNAS. 2012に関する日本語解説は、こちらのプレスリリースをご覧ください