ピュアリーブルームがロビンフッドの腕に縋り付いたまま離れようとしない。
ロビンフッドは英霊たちの中じゃそんなに背が高くない。たぶん、小さい方に入るぐらい。それでも平均的な成人男性並みのタッパはあるので、小柄なピュアリーの隣に並ぶと体格差が際立って見える。痩せてはいるが、引き締まった筋肉が綺麗に着いた腕。それをきらきらと目を輝かせたピュアリーが抱きしめている。絶対に離したくありませんとでも言いたげに。
俺はまっすぐロビンを見つめた。ロビンはさっと目を逸らした。
「なあロビン」
「……何すかマスター」
「ピュアリー離してくれない?」
「それを俺に言いますかね!?」
カッとロビンが吼え、それにびくりとピュアリーが体を揺らした。不安そうに見上げてくる碧の眼差しを無視できず、しぶしぶ、といった風情でロビンは空いている方の手でピュアリーの頭を撫でた。その手つきは端から見ていてもわかるほど優しい。撫でられている本人にはダイレクトに伝わっているようで、ピュアリーはご満悦の表情でロビンの腕に頬をすり寄せた。不機嫌を装っていたロビンの眉間のシワが見る間に剥がれ落ちる、のを、ジト目で見つめる。
ロビンはコホンと一つ咳をしてこちらに向き直った。
「あー。オレの性能は宝具に特化してるわけですし?このお嬢ちゃんとの相性も、そう悪くはないと思うんすけど」
「わかってる。ロビンはジャイアントキリング型だから、ピュアリーで火力を上げるってのは悪くない手だ。宝具が使えるまでちょっと時間がかかる分威力も増していくわけだしね。300%チャージを狙うなら、ターンだって結構溜まるものだし」
ピュアリーがこくこく頷きながら話を聞いている。真剣な様子が愛らしくて笑いかけてみたら、はにかむような笑顔を返してくれた。可愛い。マシュの照れたみたいな笑顔も可愛いけど、勝らぬとも劣らぬ可愛いさだ。もう一度見たくて更に笑いかけようとしたら、何かが肌に刺さるような気配がした。ちらりとフォーカスをずらすとお前の目は矢か何かですか!?ってぐらいに鋭い視線をこちらに向けてくるロビンフッドがいる。コホンと咳を一つして、気を取り直す。
「えっと、確かにピュアリーは相性いいんだけど、うちには玉藻がいるしさ。回復込みで黒の聖杯使うとか、そこそこのダメージで手を打ってあとは連発するほうにかけるってことでプリコスなんかもありだと思うんだよ」
「オレにあの狐と組めっつってます?」
「いや二人が仲悪いのは知ってるんだけどさあ!玉藻って狐の嫁入りで威力アップに回復してくれるし宝具でチャージ貯めて回復してくれるだろ!?相性いいんだよ!」
「うわっ狐と相性いいとか撤回しろよマスター!鳥肌立ってきやがった!」
「駒鳥だけに?」
「うっせえっすわ!!」
ぺち、と間抜けな音が響いて我に返った。ピュアリーがロビンの二の腕をはたいたのだ。聞くまでもなく怒った顔をしていて、何も言われずとも言いたいことが伝わってくる。喧嘩はよくありません、だ。確かにヒートアップしすぎた。ごめんと告げて頭をさげる。ロビンもすんませんと言ってくれた。ふてくされたような顔だったけど。
落ち着いたのを敏感に察したのだろう、ピュアリーが怒りを解く。ほっとしましたと、如実にそうわかる笑顔浮かべた。つられるようにロビンの顔にも苦笑が浮かぶ。かなわねえなあ。小さく動いた口はそんな言葉をつづったようだった。
「……もうちょっと二人で組んでもらおうか。オーダーチェンジのバフ効果とかはまだ調べ切れてないし」
「……アレ、忙しなくて好きじゃないんすけどねえ」
「しょうがないだろ。バフを切らさないようにしないといけないんだから。じゃあピュアリー、また呼びにくるから」
バイバイと手を振ると、ピュアリーも、ロビンも手を振り返してくれる。まあロビンはそっぽ向いてだったけど。だから俺は、ロビンがそっとピュアリーを抱き寄せようとしたのを見なかったことにしてあげたのだった。