縮れ毛じゃない、ブロンドかブルネットがほしかった。
Star light, Star bright
「お星さまにねがいごとをする日、でしゅの?」
「日本ではね。ジャポニズムが好きな方の話だから間違いはないでしょうよ」
パメラの立ち働くその奥、窓の前に紙を結びつけた枝が立てかけてある。
いつものように遊びにきたフリルは、このささやかだが奇妙な飾りにすぐ気付いた。
好奇心はフリルの最も大事にするところである。すぐにパメラにわけをたずねたところ、
教えてくれたのが東洋の不思議な伝説だったのだ。
「とってもロマンティックだわ。離れ離れの恋人たちが、一年に一度だけ会える日なんて」
フリルがうっとりとため息をつく。瞳に浮かぶ甘い色はとりどりの夢のあかしだろう。
もっとも、そこまで夢に憧れることがないパメラはもっと厳しく考えていた。
「一年に一度きりだと相手のことなんか忘れそうだけどね」
「パメラったらわかっていないわね。
ふたりのあいだに愛があるなら時間も距離も関係なくてよ」
どん、と胸をはるフリル。自信満々なようすはかわいらしいのに変におかしみをさそう。
「愛があるなら会えないと辛いでしょ。それなら忘れたほうがマシかもしれないわ」
「愛があるからたえられるのよ。そうに決まっていましゅわ!
ねえ、パメラとクリスはどんなねがいごとをしたのかしら」
フリルの声の響きが変わった。うきうきと弾んで、期待にあふれている。
パメラ自身のねがいごとならすぐに答えてあげてもよかったのだが、やめた。
この小さな伯爵令嬢が何を願うのか知りたくなったのだ。
「先にあんたのねがいごとを教えてくれなきゃ言わないわよ」
ぷう、と頬をふくらませてみせるフリル。
「パメラのけちんぼ。でも、そうね……
わたしならお星さまに、薔薇色の恋のリボンがほしいっておねがいするわ」
「相変わらずちゃっかりしてるわねぇ。まあ、いいわ。あとでクリスに頼んでおいてあげる」
「やったあ!忘れちゃいやよ?
それで、ふたりのねがいは何なのかしら」
フリルの目がきらきら輝いている。パメラは苦笑しながらあっさりねがいを口にした。
「あたしのねがいは平凡よ。
このまま薔薇色が繁盛しますように、とか。健康に過ごせますように、とか」
パメラはそこで一息おいた。すぐに答えなかった理由がもうひとつある。
「クリスのは、あんたなら言わなくてもわかるでしょ?」
「……そうね。ひとつしか、ありませんわ」
フリルは何度かまたたきして言った。その目からきらめきが失せたのは、
ふたりの願いを知って満足したからだけではないことをパメラは知っている。
この薔薇色の唯一の縫い子兼店主であるクリスは、青年貴族のシャーロックに、恋をしている。
シャーロックだって、クリスのことを憎からず思っている。
そしてこの小さなフリル嬢も、いとこであるシャーロックのことが好きなのだ。
……さて、話を変えますか。少し重くなった空気を追いやるように、パメラは手をたたいた。
「聞いた話が話だから共感しちゃったんじゃないかしら。
さ、紅茶が入ったわよ。くるみのケーキもあるの。冷めないうちに食べちゃいましょ」
「あら、クリスがいないけど、かまいませんの?」
「かまわないわよ。クリスの分はちゃんと取ってあるもの」
「ならいただきましゅわ」
おいしい紅茶とおいしいケーキが口を滑らせ、会話が弾む。もちろん楽しいし、素敵な時間だ。
でもさっき、星の恋人たちの話を聞いた時ほどに胸は高鳴らない。
……フリルは考える。
すこし前まで、縮れ毛じゃないブロンドかブルネットがほしかった。
本当にねがいが叶うなら、今なら、黒い髪と緑の目がほしいと頼むかもしれない。
大好きなひとの心を捉えて離さない、あの黒い髪と緑の目を。