齋藤 紀雄
毎晩ベッドに潜り込んでから文庫本を読んでいます。
終戦の年に焼け出されたことをふと思い出し、内田百閒の「東京焼盡」という日記集を引っ張り出しました。
百閒の小説は三島由紀夫が「作家論」で取り上げるほどでしたが、晩年になってからのこの随筆には冴えが感じられません。酒、麦酒が手に入ったの、駄目だったのと身の周りの下らぬことばかりで全然面白くない。
不満が募ったので、時代は異なりますが、永井荷風の「断腸亭日乗」を読み始めたところです。こちらは世間の情景描写にも優れていて、興味をそそります。関東大震災の時、仮小屋が散在した日比谷公園を散歩する一節などは、短くても当時の惨状が目に浮かぶようです。生前に刊行されたものですが、よくもこの様な個所まで活字にさせたものよ、と思わせる部分が所々に見受けられます。
例えば大正7年12月22日の文章ですが、ご興味をお感じの向きは、岩波文庫にありますので、本屋での立ち読みをお薦めします。
FORUM-1 に収録
(20170318)