大窪和子
アララギ派の歌人
アララギ派の歌人
福島 正明
数年程前まで山行に同行させて頂いた評子は大窪さんの一面―山行女子―しか見ていなかった。国内の山々そしてスイスやカナダの山々、いつもリーダーとして全体を支えて下さっていた。
今回再再読して、大窪さんの別の面を改めて識ると共に歌集の扱っている2001年から2011年、つまり、ニューヨークからフクシマまで、を辿ることになった。
娘さんの異国の男性との結婚、旅の中での異次元の体験、自分自身の健康、中小企業の経営者の妻としての気を遣う毎日。歌、一つ一つが切実で本物で限りなく重く迫ってくる。率直で曇りがない。
246頁 涙して弔辞を読みたり君が教へし瀋陽大学の中国女性は
262頁 部屋すみにそっと掛けおく操り人形老婆はつひに魔女にならねど
和子
完
(20170414)
3年に近い月日が流れました。今改めて、ささやかな本書に目をとめて頂き感謝しております。福島さんのご批評も有難いことです
大窪 和子
附中時代の私は、運動部は陸上競技斑、文化部は文学斑に参加しておりました。飛んだり跳ねたりが大好き、そして取り留めもなくものを書くことが好きな子供でした。長じてから物語を書こうと熱中したこともありましたが、結局小さな自己表現の形として、至り着いたのが短歌であったといえましょう。「文学少女のなれの果て」と自らを揶揄したりしています。
(20170423)
歌集を上梓するための準備は複雑な心境の中での行為でした。自分の作品を読み返しながら、自信を失ったり、気を取り直したりの繰り返しでした。今となっては、人生の中の10年間をともかくも切り取って、客観的に眺めることが出来たということに一つの充足を感じています。
この度のことと併せて、出版当時同窓生の何人かの方々から暖かいご批評や感想を頂きました。身に余る喜びです。ありがとうございました
大窪 和子
・コロナウイルス世に広がればぎごちなく拳(こぶし)を合はせ礼する人ら
・クルーズ船いつまで横浜に停泊か理由は言はず日々感染者報道す
・船籍イギリス運用はアメリカといふ船の責任をなぜ日本がとるのか
・大型客船とどまる大黒ふ頭とは横浜よりわが鶴見に近し
・わが生れしは悲しみの季節(とき)三月十日早や九年の三・一一
・コロナ感染に真っ赤に塗られし世界地図この三月をパンデミックと
・新型コロナの感染にさへ良し悪しを競ふ国あり人間悍(おぞ)まし
・走行中の電車の天井やや開き五分間換気すとアナウンスあり
・母の日の訪問は止め電話にて会話をといふ英ジョンソン首相
・コロナ感染危ぶみ留(とど)むる手を払ひミサへと走る人間の業
・八十歳を越えし患者は治療せずといふコロナ政策の国あるとはまことか
・さくら散る三ツ池公園一巡りして戻り来ぬマスクしたまま
(20200419)
大窪 和子
・アンナプルナといふ名の白き薔薇一つ思ひ出したるやうに咲き出づ
・『処女峰アンナプルナ』に憧れ旅ゆきしヒマラヤよ白き山並をアンナちゃんとよびて
・薔薇の香り流るる庭の椅子に居てとどめがたかり兆すさびしさ
・トップの嘘に合せし官僚の文書改竄暴かれてなほ居座るか総理
・財界は続投を目論むといふ矛盾かかる厚顔無恥なるドンに
・人間の狡さ醜さ愚かさの展示場なるか国会議事堂
・一日の悔いにひと時向き合ひていつしか眠るなべて委ねて
(20180606)
大窪 和子
・誰かれが中国の人と知らぬまま面合えば踊るステップ合せて
・かろやかに踊りかろやかに離るひと過ぎゆくものは風かもしれず
・チャチャチャ踊り心ほぐれつ久びさのダンスパティに靴弾ませて
・われよりも小柄なるきみと踊りつつ歩幅やさしくステップを踏む
・踊りつつ鏡のなかをよぎりゆくひとときわれのまぼろしめきて
(20161125)
「撃つな」
大窪 和子
・ダッカにてIS拘束の七人死すと伝へくるヤフー深夜のスマホ
・「撃つな」という声に応えて撃ちたりと故由見えぬ闇果てしなし
・この星を巻き込むかかる殺戮を見て居るものの無きか遥か
・形ばかりの訓練言い訳に若きらを内戦の南スーダンに送るといふか
・駆けつけて警護できるは精鋭ならむ付け焼刃にて間に合うものか
・DNA一つの突然変異にて戦争せぬ人間生れ来ぬものか
(20161125)