マイクロソフト帝国、崩壊の兆し!? 1999年11月24日
マイクロソフト帝国、崩壊の兆し!? 1999年11月24日
COMDEXはコンピュータ市場の趨勢を決定付ける最大のショーである。それはとりもなおさず、世界経済を左右する大きな要因でもある。しかし、今年は大きな変化があった。COMDEXで唯一人、キーノート・スピーチ(基調講演)を20年にわたって続けてきたビル・ゲーツ氏に勢いが感じられず、代わってソニーに注目が集まったことである。さらに、“マイクロソフト帝国”を脅かすキラー・ソフトまで発表されたというのである。COMDEXを11回も見つづけてきた下川和男氏が、緊急報告をしてくれた。 WebGendai
超ド級のコンピュータ展示会
今年も、11月15日の月曜日から19日の金曜日まで、米国ネバダ州の砂漠とギャンブルの街ラスベガスでCOMDEXが開催された。
COMDEXは今年で20年を迎える世界最大のコンピュータ展示会で、最近はパーソナルコンピュータおよびインターネット関連のハードウェアとソフトウェアが一同に展示されている。COMDEXはComputer Dealers Expoの略で、プロのディーラー向けの展示会である。毎年、20万人以上のコンピュータ関係者が世界から集い、日本からも毎年数千人が参加している。ラスベガスにコンピュータ企業は皆無なので、参加者は皆、MGMグランド、フラミンゴ・ヒルトン、ベネチアンなど3000室以上の巨大ホテルに泊まり、商談やパーティーを繰り返している。
今年は、インターネットの隆盛の中で、.COMDEX(ドットコム・デックス)というテーマを掲げていた。.COMは世界最大のインターネット・サーバー・コンピュータ企業サン・マイクロシステムズ社がテレビ・コマーシャルでしきりに宣伝している通り、米国のインターネット・アドレスの最後に付く言葉である。インターネット系の新興企業は、オンライン書店Amazon.comのように社名にドットコムをつけることが多く、ドットコムはインターネット・ビジネスを表す言葉として定着しつつある。
私は、1988年および1990年からは毎年参加しているので、今年で11回目の参加となる。会場で、20年間の年表をもらったが、20年間トップを走りつづけている経営者はマイクロソフトのビル・ゲーツ氏ただひとりになってしまった。
出展社数は約2000社、日本のほとんどのコンピュータメーカーと周辺機器メーカーそしてデジタル・カメラ・ブームの波に乗って、カメラ・メーカーも多数出ている。最大のブースを持っているのがマイクロソフト、そしてサン、ノベルなども参加しているが、IBM、アップル、DELLなど米国のハードウェア・メーカーはここ数年出展していない。
展示会場は大きく二ヶ所に分かれており、主会場がLVCC(Las Vegas Convention Center)と隣接するラスベガス・ヒルトンホテル、サブ会場がSECC(Sand's Expo and Convention Center)と隣接する新築のベネチアンホテルである。展示会場の総面積は、幕張メッセの倍程度である。
キーノートスピーチ初登場のソニーに拍手喝采
COMDEXでは、毎年キーノート・スピーチを誰が行うかが話題となる。'89年から'93年にかけては、IBM、マイクロソフト、インテル、ボーランド、アップルの経営者が壇上に立った。'94年以降は、複数のキーノートを行うようになり、ビル・ゲーツ氏は毎年、前日にあたる日曜の夜、キーノートを行っている。昨年は、電子書籍について10分以上の時間を割いて話してくれたが、今年は、パーソナル・ウェッブというやや抽象的な話が中心だった。これは、インターネットを見る人個人のためにカスタマイズされたホームページや、個人の情報を簡単にホームページに登録したりや配信するための仕組みの総称である。
今年、COMDEX20年の歴史の中で初めて、日本企業のトップが壇上に上がった。ソニーの出井伸之社長である。出井氏は最初のうちは緊張と慣れない英語スピーチで、あのこわい顔が更にこわばっていたが、後半、スター・ウォーズのジョージ・ルーカス監督がゲストとして現れ、6000人の聴衆が拍手喝采する頃には、笑顔も出てきた。話題のDVD対応ゲーム機プレイステーション2も紹介したが、コンシューマ製品やゲームの展示会ではないので、COMDEXらしいデバイスの話と、まさに最前線の音楽のインターネット配信がスピーチの中心であった。
機内で読むために『ポピュラー音楽の世紀』(岩波新書)を持っていたのだが、その207ページに中村とうようさんが以下のように書いている。
『ライブ・コンサートという音楽伝達の原点だったはずの形が将来どうなってゆくのかも、定かではない。それどころか、レコードとかCDといったものさえ、もうすぐ消滅しようとしている。ディランも所属するソニー・ミュージックエンタテインメントは、音楽をインターネットなどの通信ネットワークで配信するシステムの準備を進めていると、'99年初頭の新聞が報道し、その後もそのシステムは着々と実施の方向に進んでいる。事態の進展は急ピッチだ。』
このためのデバイスがメモリー・スティックである。半導体を使った記憶媒体としては、コンパクト・フラッシュ、スマート・メディア、メモリー・スティックが世界制覇に向けて激しい陣取り合戦を繰り返している。これらの新しいデバイスは、カセット・テープ、ミニ・ディスクなどの音楽だけではなく、小説や写真、コンピュータ・プログラムなども蓄積できる魔法のスティックである。3.5インチ・フロッピーディスクそしてCDで業界を主導したソニーとしては、新しい記録メディアでも、その位置を保とうとしている。
メモリー・スティック・ウォークマンもクリスマスに発売される。パソコンを使ってメモリー・スティックに録音し、このウォークマンで80分の音楽再生が行える。
そして、この音楽配信にとっていちばん重要な基礎技術である、著作権管理の仕組みでもソニーは最先端を走っている。みなさんご存知の通り、コンピュータのデータは簡単にコピーでき、デジタルなので劣化しない。コンピュータのソフトウェア業界は、コピーしないというユーザーとの紳士協定の上でビジネスを行っていたが、今後デジタル配信を行う音楽業界、出版界では、紳士協定は通用しない。しっかりしたコピー防止の仕組みが無ければ、アーティストや作家が、作品を提供してくれないのである。デジタルデータを購入した個人しか、その音楽や小説を楽しめない仕組みの開発が世界中で行われているが、ここでもソニーが先頭を切ってMagic Gateという技術を実用化した。
富士通、日立、東芝、松下などの日本の巨大企業は、世界のコンピュータ産業の中、部品メーカーまたは米国のアイデアを製品化する工場と位置づけられてきた。ソニーは今回のCOMDEXで、マイクロソフト、インテルと同じように独創性に富み、夢を形にする企業というイメージを確固たるものにした。
次回は、マイクロソフト帝国に蔭を落とすキラーソフト「Star Office」についてご報告します。
主会場のLVCCとベガス・ヒルトン
サブ会場のSECC(サンズ・エキスポ・コンベンションセンター )
キーノート会場のベネチアン・ホテル
メモリー・スティック・ウォークマン(左)と 来年発売予定のミュージック・クリップ
メモリー・スティックの様々な応用例