第1回 インターネット出版とは何か 2000年1月5日
第1回 インターネット出版とは何か 2000年1月5日
2000年1月1日も大過なく過ぎ、NY株価のネット関連株の高騰を待つまでもなく、世を挙げてネットビジネスに 向けてさらに加速していくことは間違いない。誌面が画面に変わり、新聞や雑誌がインターネットに取り込まれ ていくのは、そう遠くない将来の出来事だ。では、インターネットと出版はどう競合し、あるいはどう融合していく のか、このジャンルのスペシャリストである下川和男氏に、連載で基礎から解説してもらうことにした。 WebGendai
ホームページから電子メール新聞まで
ホームページを閲覧する仕組みやブラウザーを考えた連中が、ネットスケープという会社を設立したのが1994年。それに対抗して、マイクロソフト社がインターネット・エクスプローラ(IE)というブラウザーの配布を始めたのが1996年。その後のたった4、5年の間に、ホームページは世界中に溢れてしまった。
ホームページや、電子メール、オンラインショップなど、インターネットの様々な仕組みを使って出版を行うことを「インターネット出版」と呼んでいる。このWeb現代のような「ウェッブジン」(Webとマガジンの合成語)や、本の内容をインターネットからダウンロードしてパソコンで読む「電子書籍」、日々のニュースを電子メールで届ける「電子メール新聞」など、インターネット出版には様々な形態がある。
また、インターネット出版ではないが、注文された本を1冊ずつ印刷、製本する「オンデマンド印刷」や、アマゾンで有名な「インターネット書店」、イラストや写真を1点ずつダウンロード販売する仕組みなどについても、この連載の中でご紹介したいと思う。
そして、インターネット出版の核心は、個人が作るホームページそのものなので、ホームページとは何か、HTML、XMLとは、そして、インターネットとは、についても折にふれて解説する。
「電子出版」という言葉も10年以上前から使われているが、これは、CD-ROM出版や、コンピュータを使った本や雑誌の制作方法であるデスクトップ・パブリッシング(DTP)など、広い意味で出版のデジタル化を表している。
誌面から画面へ
電子書籍は、紙の本の代わりにパソコンを使った新しい読書の手段である。私は、パソコン業界と電子出版業界の狭間で暮らしているが、パソコン業界では「オン・ペーパーからオン・スクリーンへ」という言葉が昨年から使われ始めている。「紙面から画面へ」、「紙から液晶へ」ということで、電子書籍を推進する合い言葉になっている。
電子書籍を読むことに特化した「読書端末」と呼ばれるパソコンも登場し、これから数年かけて、紙の本をインターネット上のデジタルコンテンツに移行するプロジェクトが各所で行われる予定である。
電子書籍は、紙面が画面に代わるだけではなく、本のデジタルデータがインターネットのデータベース・サーバ上に置かれるので、品切れや絶版という紙の書籍特有の問題も解決できる。また、現在の電子書籍は、紙の本をデジタル化しているので、制作コストが結構かかっているが、著者のワープロ原稿をそのまま電子書籍にし始めれば、紙代や流通コストが削減され、値下げも可能になる。
品切れがなく、制作コストも安く、簡単に出版できるので、学術論文の出版や「あなたの原稿を本にします」という自費出版にも適している。
インターネットに取り込まれる新聞
今、私たちは、このWeb現代のホームページや電子メールをパソコンの画面で読んでいる。しかし、新聞や雑誌、書籍のほとんどを紙で読んでいる。近い将来、英和、和英、国語、地名、人名などの辞書は、サーチエンジンと同列の辞書検索サイトになる。日本最強のサーチエンジンgooでは、三省堂の英和、和英、そして大辞林を無料で引くことができる。ワイン、花、音楽などの事典や小事典もインターネットでの辞書引きサービスやCD-ROMもしくはハードディスクで使う辞書になる。
文庫本や新書、一般書などは、電子書籍となって、いつでも、どこからでも、ダウンロードしてパソコンで読むことができる。
教科書やハウツウ本は、ウェッブ・ベース・トレーニング(WBT)またはイー・ラーニング(eLearning)と呼ばれる形態に代わっていくと思う。これは、インターネットのホームページをあたかも教科書のように読む方法で、途中に問題集や、動く画面などが現れて、あるテーマを理解させるものである。
新聞や雑誌は、10年以内にウェッブジンや電子メール新聞、ウェッブ新聞が主流になる。10年後の家庭には、液晶画面が机や食卓の上、そして壁に架けてあり、そこで新聞やマンガ、テレビなどを見ることになる。特に新聞のテレビ欄は、もうすぐ登場するインターネットとパソコンとテレビを融合したデジタル・テレビの中核機能としてインターネットに取り込まれつつある。
情報の個人所有は終焉する
最近、インターネット接続業者の「ラスト・ワン・マイル」という言葉を頻繁に耳にする。家庭にインターネットが入る際、最後の1マイルをどのようにつなぐかの議論である。家の軒先近くまでインターネットの線は来ているのである。これが、家庭に入り、テレビと同じ感覚で使えるようになれば、ユーザ数は飛躍的に増加し、テレビや電話と同じかそれ以上にインターネットが普及すると見られている。
そのような将来への期待から、日本でもアメリカでもインターネット関連株は上がり続けているのである。
電話代を気にしないで、常にインターネットにつながっている環境が実現できれば、新聞、雑誌、書籍だけでなく、音楽や映画までも、見たいとき聞きたいとき読みたいときに、マウスをクリックするだけで、それを得ることが出来るようになる。
10年後、家庭から、本も新聞もCDもビデオテープも消えてしまうことになる。「ホントかよ!」と言われそうだが、パソコンやインターネット技術は、確実に、情報共有化の方向に動いている。
次回は、マスコミにもよく登場している、電子書籍コンソーシアムの「電子書籍」をご紹介する。