日時 1999/5/24
場所 ニューヨーク Time & Life ビル 8F Auditorium
報告者 イースト株式会社 コミュニケーション事業部 渋谷 誠
Open eBook Initiativeの参加メンバーは大きく分けて西海岸の技術系の会社と東海岸の出版社に2分されるのだが、第3回ミーティングは東海岸でと言うことになり、大手出版社も多いNew Yorkで行われた。ホストがTime-Warner社ということで、会場は6番街の有名なTime & Life ビル。隣接したベランダに出ると6番街が見渡せる8FのAuditoriumという会議場で行われた。
参加者は64名、前回シカゴでは58名だったそうなので若干増加。
基本的に1社1名という制限があり。
今回、日本からの参加は日立の桑本氏と私のみ。
今回も司会進行はNIST(National Institute of Standards and Technology)の Victor McCrary。彼は4月には来日してかなり精力的に活動していたそうなので、日本でも会った人は多いのでは。
全員が一人ずつ簡単に自己紹介したあと、初めての参加者のためにOpen eBook Initiativeのこれまでの活動内容がVictorから説明された。
いよいよ最終案に近づきつつある仕様案を一般に公開するまでの手順の説明。一方的に「こうしますよ」という説明があっただけで、特に意見を求められることもなく、意義が出ることもなかった。
実は、この手順をどうするかはAuthoring Group という中心メンバーのMailing List でこの会議の直前までもめていた問題。どうなるのか一番気になっていたのだが、会議の前日に中心メンバーはホテルで会合を行っており、そこで決着を見たものと思われる。
その手順というのは、
今日の会議をもって仕様を Draft Recommendation として公開する。
3週間の一般フィードバック期間をおく。
集まったフィードバックをAuthoring Group がその後2週間かけて検討、修正。
できた最終案を投票にかける。
投票の方法は
投票期間は2週間(予定では7/12 6:00が締切となる)
過去3回の会議のどれかに参加した会社に1社1票の投票権
最終案を無修正で "proposed standard" としてよいかどうかの投票
2/3 以上の賛成で可決とする。
「修正が必要」との意見が 2/3 以上なら、修正案を作成後に再度投票。
最新の 0.95 仕様案の説明が、Authoring Group の中心メンバーであるブラウン大の Allen Renear から行われた。内容は仕様書に書かれていることの説明なので割愛するが、Version 1.0 は "Transitional Standard" であると説明し、Version 2.0 でやるべき事がまだまだ残されていると言うことが強調された。これは、前回までの説明ではあまり強調されてはいなかったように思う。積み残しがあまりに多くなってしまったということか。
この仕様自身はこの会議で Draft Recommendation となり、
http://www.openebook.org/ で公開されている。一般からのフィードバックも受け付け中である。
15分の休憩を挟んで、Version 2.0 へ向けての意見吸収が行われた。各社からVersion2.0への質問や意見が出され、それについて若干の意見交換が行われた。この会議で唯一議論らしきものが行われたセッションだった。
Version 2.0 についての既定の方針として挙げられていたのは
完全なXML準拠とする
文書構造(structure)の定義と表現方法(representation)の指示を分離する
活発に話し合われたトピックとしては
数式や化学式をどうやってサポートするか?
独自タグによる拡張を認めるかどうか。
各社が独自の拡張をしていった場合、出版社は何を基準に選択するのか?
主要各社から、この仕様に対する取り組み状況が説明された。
eBookリーダーを開発している各社(Librius, NuvoMedia,SoftBook Press)からは、例外なく次期バージョンでのこの仕様のサポートが表明された。ツールベンダーも既に開発に着手しており、OverDriveからはこの仕様を中心に据えたトータルな電子出版システム(開発中)の説明があった。
DAISY Consortium (http://www.daisy.org/index.htm)
Digital Talking Book の仕様を作成しようとしている団体で、Open eBookの仕様に関しても、特に視覚障害者に対する配慮に関して多くの意見を提示している。
EBX (The Electronic Book Exchange System)
Glassbook社が中心になって進められている、暗号化や認証を含めた電子書籍のディストリビューションに関する仕様である。具体的には書籍サイトで使用するHTTPの拡張プロトコルなどを定めており、電子書籍のフォーマットとしては、AdobeのPDFとこのOpen eBookの2種類を想定している。
Organizatioal Group というのは、今のところ単なる有志の集まりでしかないこの団体を、きちんとした規格団体とすべく検討をするためのワーキンググループである。前回のシカゴ会議で発足したのであるが、実質ほとんど活動は行われていなかったようで、「何の進展もなかった」と言えば終わってしまうようなお粗末な報告内容であった。
ただ、メンバーには組織化が全く進んでいないことに対する危機感も感じられなかった。きっと、早く仕様を公開して実装製品を出してしまう事の方が、組織化よりもずっと重要だと考えているのだろう。
司会の Victor McCrary とともに4月に日本を訪問したCollins氏による日本の市場調査報告。
電子書籍コンソーシアム(http://www.ebj.gr.jp/)のブックオンデマンド実証実験プロジェクトのことが報告の中心になっており、日本での電子出版は「マンガ」が中心で進行しているという印象が強かったようだ。
液晶デバイスや、小型の大容量磁気ディスクなど、最新のハードウェアの紹介もあった。
最後に、最新仕様書をレビューしてフィードバックして欲しいということが各社に対して再度強く依頼され、閉会となった。
次回の会議は特にアナウンスされなかったが、代わりに9月に開かれるNIST主催のコンベンション "E-BOOK'99" (www.nist.gov/ebook99) が紹介された。このコンベンションは昨年 Open eBook Initiative が発足した記念すべきイベントである。7月には予定通りVersion1.0仕様を公開し、このコンベンションではその実装製品を見せたいというのがきっと各社の思惑なのであろう。