第11回 インターネット出版の現在 2000年6月21日
第11回 インターネット出版の現在 2000年6月21日
インターネットについて多くの日本の企業が勘違いをしている。また、日本のインターネットの管理元であるJPNICも、前回ご紹介した米国のNetwork Solution社などとは比較にならないほど幼稚な体制でインターネットを管理している。今回は具体例をあげて日本のインターネット状況についてレポートする。 WebGendai
紙のしがらみを持たない@IT
アットマーク・アイティという社名と、ホームページを知ったのは、5月中旬に旧知の編集者からもらった一通のメールであった。ここにフォーラムを持ちましたということでURLが書いてあった。早速、行ってみると、Windows 2000、LinuxそしてXMLと最新のIT技術者向けの情報が満載されていた。
トップ画面のデザイン、各フォーラムの構成、的確なテーマ、そして何より記事の正確さで、すぐに気に入ってしまい、社内のメーリングリストで「ここはお奨め」などと紹介した。
それ以来、週に一度は見に行っているが、20数年前の「アスキー」の創刊、そして5年前の「インターネット・マガジン」の創刊当時と同じような、新刊が待ち遠しいワクワクした気持ちや、ここから何かが始まるという息吹が感じられる。
「アスキー」や「インターネット・マガジン」と「@IT」の違いは、紙ではなくWebということである。IT系の出版社は、アスキーもインプレスもIDGも日経BP社もソフトバンク パブリッシングも翔泳社も、みんなWeb出版には挑戦しているが、紙のしがらみを一切持たない@ITだからこそ作れた「良質」のホームページだと思う。
月刊アスキー→Oh!PC→インターネット・マガジン→週刊アスキーと続く、IT雑誌の覇権争いも、次はWebマガジンが勝利すると思われる。すべてのコンテンツが無料で読める@ITの収支が合うのは1、2年先であろうが、それを可能とするベンチャー・キャピタルの仕組みが日本でも整いつつある。
@ITはコンピュータやインターネット技術についてのインターネット上の雑誌だが、米国では老舗のコンピュータ雑誌が次々に姿を消している。IT系の情報誌や書籍は、数年で紙からWebに移行するであろう。
定着しつつあるNetLearning
@ITが、技術系の雑誌や書籍をHTMLで実現しているのに対して、ネット・ラーニングは、一歩進んで、インターネットの双方向性を活用した出版を行っている。すべてのコースは有料なのでホームページに行っても、静けさが漂っているが、その裏では、企業研修に組み込まれたJavaやHTMLのコースを黙々と受講する多数の生徒が存在している。
出版社として伝えたいものが「感動」なのか「情報」なのか「知識」なのかによって、そのインターネットでのアプローチは異なる。「知識」を伝える手段としてWBT(ウェッブ・ベース・トレーニング)、eLearnig(イー・ラーニング)、ネット・ラーニングなどの呼称がついている教育コースが、日米で定着しつつある。
単に、ブラウザー画面で読書するだけではなく、シミュレーション画面、音声ガイド、練習問題やエクササイズ、チュータへの質問など、インターネットの機能をフルに使って、理解を深めることが可能となっている。
従来の教科書、実用書から新書までをカバーするこの潮流は、米国でも爆発的な広がりとなっており、巨大な市場が創出されつつある。
Microsoft ReaderとAdobe PDF Merchant
昨年8月に発表されたマイクロソフトの読書ソフト「Reader」には期待が高まったが、今年春のパソコン版の出荷予定が半年ほど遅れてしまった。4月にPalm対抗のPocket PCが米国で発売され、まず、このWindows CE搭載の携帯端末にReaderが入った。
Reader用のスタートレックなどの電子書籍がもらえる派手なキャンペーンが米国で展開されたが、一般のWindowsパソコン用のReaderは秋頃出荷されるとのこと。日本語版Readerは、ルビや縦書き、外字などの問題を解決した後、来年出荷になりそうだ。
対するAdobe社は、PDF Merchantというサーバソフトを発表した。これは、著作権を管理しつつ電子書籍を販売する仕組みである。
3月に「キャリー」、「グリーン・マイル」でお馴染みの超売れっ子作家、スティーブン・キングの「ライディング・ザ・ブリット」という66ページ、2.5ドルの電子書籍が発売され、瞬く間に50万冊が売れたが、これも主にPDF形式であった。
PDF Merchantや年内に登場する、Acrobat Reader後継の新Readerソフトの技術は、Lotus Notesを設計したLen KawellのGlassBook社と提携しており、しっかりした128ビットの暗号化が行われている。
1998年11月に発表されたRocket eBookやSoftbook Pressなどの読書端末は、伸び悩みで、両社がまとまって、GemStar社に買収された。ビデオのGコード予約で世界中から莫大な利益を上げている超優良企業の傘下で、どのような新製品が登場するか、期待が高まっている。
Microsoft、Adobe、GemStarと電子書籍の役者が揃ったが、これらが敵対するのではなく、「繋がる広がる」インターネットの世界では、お互いが対等の立場でうまく作用するコラボレーション(collaboration)で、市場が立ち上がるであろう。
たまたま紙だった
1455年、グーテンベルクの印刷術の発明から545年が経過し、今、出版社は「インターネットを使った出版」という未知の領域に足を踏み入れつつある。紙からインターネットという500年に一度の大きな変革のなかで、「出版とは何か」という本質的な問題を考えると、知識や情報や感動を伝える手段が「たまたま紙だった」ということに思い当たる。
この5年間で、インターネットは、電話やテレビやパソコン、そして印刷・出版までも包含するメディアに成長した。500年に一度の転機を既存の出版社がどのように乗り切るのか、また、@ITやNetLearningのように出版人がベンチャー企業を興す例も増えている。「たまたま紙だった」はそのキーワードである。
第2回でご紹介した「電子書籍コンソーシアム」も、その中核メンバーが「eBook Initiative Japan」というベンチャーを旗揚げした。
最後に、テーマとしては取り上げなかったが、日本のインターネット出版史上に残る快挙に賛辞を述べて終わりとさせていただきます。
頑張れ「Web現代」