第2回 電子書籍コンソーシアム 2000年1月19日
第2回 電子書籍コンソーシアム 2000年1月19日
1999年11月に電子書籍の実証実験が始まった。出版界が主導し、国の予算がついた初めての試みだった。主体となったのは大手出版社を中心とした「電子書籍コンソーシアム」。この「先進的情報システム開発実証事業」は出版界をどう変え、何をもたらすのか。前回の「インターネット出版とは何か」と合わせてご一読ください。 WebGendai
出版社主導の実証実験
1998年10月に、電子書籍コンソーシアムという団体が旗揚げした。この団体は、インプレス、角川書店、講談社、小学館、文藝春秋などの大手出版社が中心となって、電子書籍の実証実験を行う目的で結成され、平成10年度の第一次補正予算「先進的情報システム開発実証事業」を運営資金として活動を開始した。
私が所属するコンピュータ業界は、「大学間ネットワーク」、「トロン」、「第五世代コンピュータ」など、大きな国家予算が使われているが、出版界は今まで国の予算とは無縁の世界だったので、一時は「100億円出る」などの噂が飛び交ったが、最終的に10億円以下の金額で日本情報処理開発協会(略称JIPDEC)と契約が交わされ、プロジェクトがスタートした。
毎年、政府は、数百億円規模でインターネット系の実証実験のテーマを募集しているが、それらは通常、一企業または企業連合が受託している。
この電子書籍プロジェクトの運営は、出版社主導ということで、上記5社が担当し、実証実験のハードウェア、ソフトウェアは、NTT、シャープ、日立製作所の3社が担当した。また、今回は、電子書籍という新しい本の創造がテーマだったので、広く参加企業を募りコンソーシアムが組織された。どんな企業でも50万円で会員になれるというオープンさから、出版社はもとより、印刷会社、取次、書店、コンビニ、コンピュータ・メーカー、ソフトウェア会社など150社以上が参加した。
電子書籍における日米比較
電子書籍コンソーシアム(略称EBJ)とほぼ同じ時期にOpen eBook Initiative(略称OEB)という団体が米国で旗揚げした。OEBも政府機関が支援主導の団体で、日本の工業技術院に相当する、NISTという組織が、マイクロソフト、アドビなどのソフトウェア大手企業や、ヌーボメディア(ロケット・イーブック)、グラスブック、ソフトブック・プレスなどのeBookパイオニアと呼ばれる電子書籍系のベンチャー企業を集めて、設立された。
EBJ 電子書籍コンソーシアム OEB Open eBook Initiative
政府との関係 先進的情報システム開発実証事業 NIST主催のeBook会議
主導 出版社 eBookパイオニア企業
目標 実証実験 標準化(データ形式、著作権保護)
データ形式 画像 テキスト(HTML系)
配信方式 衛星とキオスク (関知せず)
記憶媒体 Click! (関知せず)
読書端末 169dpiモノクロ (関知せず)
運営資金 国家予算 ボランティア組織、会費もナシ
この比較表の通り、主導する会社の違いで、目標やデータ形式が違っている。eBookパイオニアはシリコンバレーやボストンのインターネット系のベンチャー技術者集団が中心なので、「インターネット上に置く出版物のデータフォーマットはどうあるべきか」という議論が中心となっている。この標準フォーマットさえできれば、あとは各社が勝手にビジネスを行える。
それに対して、EBJは、「出版界の今後」という大きな目標があるため、書店や著者も視野に入れた仕組み作りを行った。
キオスク方式になった事情
米国のように家庭のインターネットに繋がったパソコンを操作し、電子書籍をダウンロードで購入するという仕組みは、完全な「中抜き」なので、取次や書店の出番はない。「キオスク(販売端末)」を使えば、書店も参加できるということで、キオスク方式を採用している。
データ形式を画像としたことも、出版社主導だからこその判断である。「外字問題」や「コミック対応」での判断だが、テキストなら10キロバイトにも満たない小説が、画像だと圧縮しても5メガバイトになってしまう。実に500倍の大きさである。そのため、家庭に来ている貧弱なインターネットの回線では、ダウンロードが難しい。
それもあって、衛星からキオスクにデータを配信する仕組みとなっている。
昨年11月に読書端末500台が配布され、実証実験がスタートした。キオスクを設置した書店で、「あしたのジョー」や「水木しげる作品集」などのコミックや夏目漱石、横溝正史の小説などが、数百円で購入できる。Click!という超小型フロッピ・ディスク風デバイスに電子書籍を書き込んでもらい、読書端末で読書することができる。
電子書籍コンソーシアムのこの実証実験は、今年3月で終了するが、「画像」や「バッテリー寿命」などの問題はあったものの、書店を含む出版界が、電子書籍を勉強する場として、大きな成果があったと思う。また、出版界が受け取った予算のほとんどを、コンピュータ業界に渡したことも、出版界の高貴さを示した。
これに刺激されて、外字を含んだ漢字テキストの標準化「JepaX」やコミックをPDF方式で販売する「まんがの国」なども登場した。
また、マスコミで頻繁に取り上げられ、これから数年かけて推進される日本の電子書籍の幕開けにふさわしい成果を、電子書籍コンソーシアムはあげることができた。