第4回 インターネット官報の試み 2000年2月16日
第4回 インターネット官報の試み 2000年2月16日
非常に重要な情報が掲載されているにもかかわらず、国民とはほとんど無縁の広報紙が「官報」であった。ところがインターネットを介することによって、アクセスを容易にする試みが始められた。検索もできるようになるという。戦後すべての官報をデジタル化する決定もなされている。官による情報の独占時代が終わり、いよいよ民主主義の根幹である情報の民主化がスタートしたのである。 WebGendai
国民への公告紙
突然「官報」といわれても、「そんなものを見た覚えはないなぁ」という読者がほとんどだと思う。
官報は、明治16年に創刊された日本政府が発行する日刊紙で、法律、政令、条約などの公布、各省庁の報告や資料の公表などを行っている。月曜日から金曜日まで毎日出されており、32頁から多いときには200頁を超えることもある。値段は、送料、税は別で1部130円、1ヵ月1520円で、各地の官報販売所で買うことができるし、主な図書館にも置いてある。
「国の広報紙」、「国民への公告紙」として地価の公示、破産宣告、叙勲、上場企業の決算報告、政府調達と落札業者、省庁の人事など、多岐にわたる情報が掲載されている。
この、政府公式見解の紙つぶてのような情報誌も、インターネットで公開されつつある。
インターネットで試験的な配信
インターネット版「官報」というホームページが、官報を発行している「大蔵省印刷局」のページからリンクされている。インターネットでよくある話だが、ここも「試験的な配信」と断っており、試験がいつまで続くのか、いつ終わるのか明記されていない。
上記をクリックして、ページをみていただければ一目瞭然だが、過去1週間分の官報を画面で見ることができる。
官報は、PDFというフォーマットになっており、無料の閲覧ソフト、アクロバット・リーダーをブラウザーに組み込んで、見ることになる。PDFは、印刷したときに一般の印刷物のように美しくレイアウトされるのが特長なのだが、試験的な配信のため印刷やファイルの保存、コピー機能などはサポートされていない。
遠い世界のものであった官報が、いとも簡単に見ることが出来るようになった。官報本来の目的である「政府の情報誌」という役割が、インターネット出版によって、国民の身近なものになりつつある。
戦後すべての官報がデジタル化
2月1日の官報の号外「政府調達」に「官報データ入力作業」という件名で、28社の落札業者が公開された。凸版印刷、共同印刷などの印刷会社のほか、三和総合研究所のようなシンクタンク、リコー、東芝アドバンストシステム、富士通ラーニングメディア、総合オフィスシステムなどの文書デジタル化のプロ集団が落札した。調達数量の合計は88万枚、落札価格は24億円である。
これは何のプロジェクトかというと、戦後すべての官報のデジタル化である。現状のインターネット官報は、デジタルといっても制限の多いもので、過去の情報の検索やリンク付けによる引用などが行えない。
前回ご紹介した、国会会議録検索システムでは、発言が検索できても、個々の発言へのリンクが行えない。検索システムも貧弱なので再構築してもらいたいが、その際、発言IDを入れて、ダイレクトにその発言が表示されるURLを公開して欲しいものである。
「インターネット」and「官報」で検索したら、11件見つかった。
「これは官報に掲載するとともにインターネットでも見られるようにしております。」との官僚の答弁に、国会議員が「済みません、不勉強で官報を見ておりませんでした。」などの会話もある。
XMLでタグ付け
官報のデジタル化がいつ終了し、いつインターネットで公開されるのか、定かではないが、「官報は、XMLでタグを付けているぞ!」という噂が、XML関連のメーリングリストを飛び交っている。
XMLというのは、SGMLの失敗とHTMLの成功の上で考案された、文書やデータの構造を記述する言語で、ホームページの記述言語であるHTMLに、データの意味付けや独自タグの定義などの自由度を加えたものである。
もし、官報がXMLのまま公開されれば、「通産省が昭和42年に出した、物価関連の省令」とか、「平成11年に神奈川県で破産宣告を受けた人」などの検索が可能となる。残念ながら、XMLをそのまま表示できるブラウザーはインターネット・エクスプローラ5.0だけなので、意味検索が行えないHTMLでの公開となるかも知れない。
それでも、ロボット型サーチエンジンgooで、「下川 和男」と検索キーワードを入れると、強力なテキスト検索機能で「平成12年2月13日午後1時 破産」などという文書が探し出されてしまう恐れがある。
「プライバシーの侵害だ!」と当人は憤慨するかもしれないが、公告するからこそ破産なので、仕方がない。インターネットによる公告で、情報が一般化されただけなのである。
電子政府とインターネット民主主義
電子政府の出鼻をくじいたクラッカー騒ぎは今でも続いており、多くの政府系サイトが扉を閉じたままである。気象庁は、職員がいない土日だけ閉めるという良心的な対応だが、多くは、「臭いものにはフタ」式の閉じ方で、クローズ・ドアがそのままクローズ・マインドとなっている。
戦後すべての官報や国会議事録がインターネットで公開され、検索やリンクが可能になれば、情報の一般化と共有を前提としたインターネット民主主義が芽生えると思うのだが……。