ep4. 終わりなき冒険譚
ep4. 終わりなき冒険譚
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【After Story】
ep4. 終わりなき冒険譚
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鳴り止まない銃声。ばたばたと倒れゆく敵。オレ様はいつものようにあいぼーに握られて、あいぼーと共に戦場を駆け回っていた。殺して、殺して、殺して、沢山の手柄をあげた。オレ様にとって最高の“ぼうけん”だ。
この戦闘の一波が終わったら、今日の仕事は終わりだろうか。オレ様は知ってるぞ。戦場から戻ったら、あいぼーは今日も仲間達と酒を呑んでワイワイと騒ぐんだ。自分はその輪に混ざれないから、ちょっぴり寂しいけど、大目に見てやる。なんていったって、オレ様は心も広いクイーン・ホーネット様だからな!!そんなことを思いながら、地面に転がる死体を避けつつあいぼーと共に帰路につこうとして__
世界にノイズがはしる。
オレ様は確かにあいぼーに握られていたはず。なのに、何故だか今は地面に放り出されている。見上げたあいぼーの胸には、あかいいろの花が咲いて、いて…………?困惑してあたりを見回せば、今まで鮮明だった景色はクレヨンで描き殴ったような陳腐なものへと変わっていた。あいぼーの手から離れたことで、あいぼーから伝わる温もりがなくなってしまって、酷く体が冷える。こわい、こわい、こわい。何が起きているのか理解したくない。オレ様とあいぼーの“ぼうけん”が、黒く塗りつぶされていく。世界がぼろぼろと剥がれ、崩れていく。いやだ、オレ様はずっとあいぼーと“ぼうけん”を続けたいのに!!
あいぼー、置いていかないで!!!!
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目に空の光が差し込んできた時、心底ほっとした。戦いに敗れたオレ様は、再び暗い闇の中に閉じ込められてしまうものだと思っていたから。でも、こうやって目覚めてしまったら目覚めてしまったで、言いようもなく不安になってしまう。また眠るときが恐ろしくなってしまう。
「な、なぁ、どうしてオレ様はまた起こされたんだ? もしかして、一度起こしてからまた壊すつもりとか…………」
そういえば、人間の姿のオレ様は死んでしまったけど、手元にある武器は壊れていない。も、もしかして今度は武器のほうに死が与えられるとか……?嫌な想像をしてしまって、急速に体の芯が冷えてくる。だけど、そんなオレ様の悪い想像は、気の抜けるようなふわふわとした天使の声にかき消された。
「ふふ、いやですね。そんな悪魔みたいなことしませんよ。わたしたちは天使ですから」
視線を上げれば、口元に手をやり、ふふっと笑うルミエルと目が合った。
「いつになく弱っているご様子ですね。怖い夢でも見てしまいましたか?……どうぞ、紅茶でも飲んでくつろいでくださいな」
ルミエルの手によって、目の前のティーカップに飴色の液体が注がれる。更にミルクとカラスザンショウ蜂蜜を加えてくるりと混ぜれば、“女王蜂のロイヤルミルクティー”の完成だ。
「人間さまたちの作った“いんたーねっと”というシステムからレシピを拝借してきたんです。ホーネットさまにぴったりだと思って」
ルミエルの説明を聞きながら、紅茶を喉へと流し込む。冷えた体にじんわりとした紅茶の温かさが広がり、少しだけ心も落ち着いた。そうだ、オレ様はクイーン・ホーネット。あの人の最高の相棒として、いつでも相応しい姿でいなければ。
「ありがとう、大丈夫だ。冷静に見れば、こんな綺麗にお茶会のセッティングまでしてくれて……。今からそんな物騒なことが始まるわけないよな」
「そうですよ〜。今からホーネットさまにしていただくことは、お茶会を楽しんでもらうことと、これからの選択をしてもらうことだけです」
「選択?」
「はい。これから先、天使となってわたしたちの仲間に加わるか、それともここで永遠の眠りにつくか。頑張ってくれたんですから、最後にそれくらいの選択肢はあってもいいでしょう?」
そうだったのか。やたら蜂蜜の使われたお菓子が多いテーブルから、気になるものを口に運びつつ、選択について考える。答えを出すのに、さほど時間はかからなかった。
「オレ様は天使になる。オレ様、ずっと人間になるのが夢だったんだ。その夢がかなって、人間の体で楽しいことも知っちまって、今から武器に戻るとかは……その……。こ、こわくなんてないぞ!でも、えっと……うん……」
こわくないぞ!!なんて思わず口からは出てしまったが、本当のところはすごく怖い。人間としての楽しみが失われることも、また“見ているだけ”しかできなくなることも。
「……オレ様、かつてのあいぼーがたおれたとき、何も出来なかったんだ。武器だったから、当たり前といえば当たり前だけど、もうあんな思いはしたくない」
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『コイツが今日から俺様の相棒か』
その言葉をもらったときから、オレ様はあいぼーの相棒になった。あいぼーと2人、沢山の冒険をした日々はとても充実していて楽しかった。オレ様のあいぼーは最高なんだぞ!強くて、オレ様のことを大切にしてくれて、部下からの信頼もあつい。周囲からも一目置かれる自慢のあいぼーだ!!
戦争が沢山の犠牲を生むことは分かっていたけど、それよりもオレ様はあいぼーとの冒険の時間のほうが大切だった。あいぼーと一緒なら、戦禍の中生きるのも悪くない。そう思っていたのに。ある時、オレ様のあいぼーが戦争の犠牲者に選ばれてしまった。
戦いがひと段落し、皆で撤収しようとしていた最中。死体だと思っていた一つの肉塊が、ゾンビのようにふらりと起き上がった。その肉塊のもつ銃の口がこちらを向いて__
(危ない!)
そう叫びたかった。発声機能のない体では叶わなかった。もしオレ様に人間の体があったら、声が届いたのに。もしオレ様に人間の体があったら、あいぼーを庇えたのに。現実は、部下を庇ったあいぼーが撃たれる様を、ただ見ていることしか出来なかった。
その日から、あいぼーと会えていない。ううん、“ぼうけん”の中でならあいぼーと会える。オレ様は暗く冷たい現実から目を背け、いつしか空想の中で生きるようになっていた。
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シドのときもそうだ。オレ様は観客席から見ていることしかできなかった。パスピエのときもそうだ。オレ様は必殺技の反動で動けなくて、また見ていることしかできなかった。
「だから、次こそは……。オレ様は、大切な人の窮地には、白い翼で必ず駆けつけられるような天使になりたい。もう、何もできないオレ様でいるのは嫌なんだ」
オレ様の言葉に、ルミエルは「素敵な願いです」なんて微笑んでくれた。上手な飛び方、ルミエルから教えて貰わないとな。イズは……、教えてくれる気がしない。
「ではでは、ホーネット様の選択、承りました。迎え入れる準備が整うまで、少しだけ眠っていてくださ__」
「あ、あの、ちょっと待ってくれ!!ルミエルに聞きたかったことがあって!!……オレ様、シドのことを考えると胸がふわっとするというか、そわそわして落ち着かなくなるんだ!!」
うお〜〜〜〜〜、一体これはどういう症状なんだ!?人間の体特有の現象なのか!?ルミエルの言葉を遮って、ずっと聞きたかったことを口にする。天使ってなんか凄いっぽいし、ルミエルなら分かるんじゃないか!そう思って、一世一代の気持ちで頼ったのに、ルミエルの返事はなんとも薄情なものだった。
「んー……、わたしにはよく分かりませんね!次のおはようまでの、ひと時の夢の中で、ゆっくり考えるといいと思います。今度の夢は、安らかなものであるはずですから。それでは、改めておやすみなさーい」
なんかちょっと棒読みじゃないか!?そんなツッコミを入れる間もなく、体が強制的に眠りへといざなわれる。間もなくして、意識の糸はぷつんと切れた。
武器のオレ様の物語はこれでおしまい。あいぼーとの冒険譚はバッドエンドで締めくくられた。そしてこれからは、天使としてのオレ様の物語がはじまる。今度こそ、オレ様の手でハッピーエンドを掴むんだ!!
そして願わくば、今度の物語はアイツと共に歩めたら……なんてな!オレ様はクイーン・ホーネット。女王様の隣には、冠の似合う王様がいて然るべき、だろ?
____fin
【執筆】
音戯。
【スチル】
音戯。
2024,07,28