ep3. 至上のアイを貴女に❤︎
ep3. 至上のアイを貴女に❤︎
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【After Story】
ep3. 至上のアイを貴女に❤︎
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『これからもずっと見守って応援してほしい』
ご主人さまが小説家のあの人からもらった愛の言葉。素敵よねぇ。小説家の殿方だもの、きっとご主人と物語の中みたいなラブストーリーを描くんだわ♡ わたし、それをこれから特等席で見られるんだって、とっても嬉しかった。ご主人さまは恋をしてから、お化粧に一層の時間をかけて、素敵に花嫁さんになるためにお料理なんかも頑張っちゃって……。見た目も中身も可愛い人でしょう?
でもね、ある日ご主人さまは彼に裏切られたの。将来を誓い合った仲なのに、ご主人さまをおいて国外に引っ越すなんて信じられない。酷い裏切りだわ。だから、ご主人さまとわたしは彼を粛正したの。ねぇ、いったいどこからシナリオを踏み外してしまっていたの。彼の“裏切り”から、だよね?そうだよね?…………もしかして、はじめから?
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「素敵なお茶会へのお招きありがとう!ルミちゃんとお話できて嬉しいわ〜♡」
「そう言っていただけるとわたしも嬉しいです。まったりしていってくださいね」
ルミちゃんがにこにこと微笑む。ガーデンテーブルの上には、品のいいティーセットに、あま〜いお菓子。周りを見れば、どこまでも広がるお花畑。まるで物語の中の世界にいるみたい♡
「あ、このクッキー、ハートのかたち♡ ルミちゃんがわたしのために用意してくれたの〜?こっちの紅茶は〜……パルフェタムールね〜」
「はい……!実は紅茶とかお菓子とか、あとはティーカップとか。お茶会をご一緒する相手に合わせて整えているんです。シドさまのときも、鬼丸さまのときもそうで……パスピエさまの場合は……」
ルミちゃんが嬉しそうにテーブルの上のものを説明してくれる。ダークブラウンのチョコレートや、ピスタチオのマカロン……ほかにも、いっぱい。わたしの容姿のイメージや、好きそうなものを想像して揃えてくれたみたい。
たくさん、わたしのこと想ってくれたのね〜♡ わたし、わたし自身の好みがどうであれ、ルミちゃんが“わたしのために”って頑張って用意してくれたことが嬉しいな〜♡ でも、
「__と、こんな感じでご用意してみたんです。ただ、皆さまが好きそうなものとか、食べてみてほしいものとかって考えていると、どうしても量が多くなってしまって……」
ほら、また。
「あ、でもシドさまも鬼丸さまも沢山食べてくださったんですよ……!シドさまは甘いものがお好きだったのと、鬼丸さまはたぶん……いえ、各々の事情をそう軽々しく話すものではないですね」
大切な思い出を思い返すように話すルミちゃんを見ていると、だんだんと心のうちに冷ややかなものが広がってくる。おもしろくない。わたしの様子が変わったことに気付いたのか、ルミちゃんも言葉を止める。
「……どうしてわたしが目の前にいるのに、“皆さま”とか、“シドさま”とか、“鬼丸さま”とか……他の武器の話をするの〜?」
席を立ち、身を乗り出して、両手でルミちゃんの頬をむぎゅ……と包む。これでわたしのことしか見えないよね〜?わたしのためにこんなにも素敵なお茶会を用意してくれて。それってわたしのことを想ってくれているからでしょう?♡ わたしのことを想ってくれているのに、他の名前を出すなんて、それって“裏切り”じゃない?
「…………裏切り者には粛正を」
良かった、わたしの本体である拳銃傘は変わらずに側にある。片手で手繰り寄せて、銃口を目の前の天使へと向ける。毒に蝕まれて、自分の行いを悔いながら死んで〜?
「ちょ、ちょっと待ってください……!」
あとは弾丸を発射するだけというところで、天使はその白い翼で私の手を払いのけて、するりと逃げてしまった。わたわたとしながら、タンマ、というように手でTの字をつくっている。
「パスピエさまの気分を害してしまったことは申し訳ありません。でも、わたしは、ルミエルは、皆さまを等しく愛していて……。そ、そういう生き物だと思っていただけると〜……っ!」
わたしがいつかもルミちゃんから聞いたフレーズ。銃口を向けられて怯えるでもなく、その後も「動物が好きな人は、猫ちゃんもわんちゃんもみんな好きでしょうっ?それと同じといいますか〜……」慌てて弁明をはじめる天使を見ていると、なんだか気が抜けてきてしまった。拳銃傘をおろし、再びすとんと席に座る。そんなわたしを見て、ルミちゃんもいそいそともといた位置に戻ってきた。
「わーん、ルミちゃんを見ていると心が苦しいよぉ……。1番お友達になれそうって思ってたのに、みんなを等しく愛しているだなんて……そんなそんなそんな……。それに、」
その先はの言葉は、口に出すのにひっかかりを覚えた。でも、その感覚を無視して無理矢理に言葉を続ける。
「それって、本当に愛なのかなぁ……」
言ってから解った。その言葉にひっかかりを覚えたのは、その言葉はわたしにも刺さるものだったから。きっと、ルミちゃんの愛も、そしてご主人さまから学んだわたしの愛も、ホンモノじゃないの。
「変なこと言ってごめんね〜。お茶会を続ける空気でもないし、このあたりでお開きにしよう? 紅茶もお菓子も、とっても美味しかったわ〜」
「パスピエさまがそう言うのなら。……では、さいごにパスピエさまの“選択”を聞かせていただけますか?」
天使になってルミちゃんたちの仲間に加わるか、永遠の眠りにつくか。選択の内容を聞いて、答えが出るまでに時間はかからなかった。
「それなら、わたしはこのまま眠るね。
だって、わたしって物騒だもの。これからの世の中には必要ないわ〜」
わたしの言葉を聞いて、ルミちゃんが少しだけ眉を下げる。自虐的に聞こえてしまったかしら。でも、そんなにマイナスな意味じゃないのよ〜。
「人類の長い歴史の中で、わたしみたいな武器で暗殺・毒殺された人間は少なくないでしょ〜?……いつか、そうする必要がないくらい互いを信じ合えるようになったら素敵よねぇ♡」
だから、わたしはここで眠って、そのまま歴史からも忘れ去られてしまえたら、それが一番。それにね、わたしは此処でみんなを見ていて、愛ってどういうことか少しわかった気がするの。愛は、きっとご主人さまやそれを写したわたしのような一方的なものじゃなくて……どんな形であれ、手を取り合って、2人で育むものだわ〜♡ それがわかっただけで充分。
おやすみなさい。穏やかな気持ちでルミちゃんと挨拶を交わして、重くなる瞼に抗うことなく眠りにつく。今日はなんだかとても素敵な夢がみれそうな予感がした。
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気付けば、西洋の街並みの中に立っていた。ミルクチョコレートやビターチョコレートみたいな色のレンガが敷き詰められた大通り。両脇には、アンティーク雑貨や洋服店、パン屋など、様々な店舗が並んでいる。
「ここが死後の世界なのかしら。あまり実感がわかないわ〜。……あら?」
ふと、アクセサリーショップの前でショーウィンドウに虚な視線を向ける女性が目にとまる。見間違える筈がない。あれはわたしのたった1人のご主人さまだわ。考えるより先に足が彼女のほうへ向いて、気付けば声をかけていた。
「何を見ているの?探しものかしら〜」
「なによ突然……。見ていたのはダイヤの指輪。探しものは……、そうね、あの指輪を私の指にはめてくれる白馬の王子様かしら」
思わず話しかけたわたしに、ご主人さまはショーウィンドウに向けた視線はそのまま、ぼそっと言葉を返してくれた。はぁ、と小さなため息。かと思えば、ご主人さまの顔がいきなりぐるんとこちらを向く。
「ねぇ、あなた聞いてくれる!?!?小説家の彼ったら酷いの!!!!その後の彼も!!!!そのまた後の彼も!!!!みんなみんな、確かに愛し合っていたのに、さいごには裏切るんだから!!!!!!!!」
ヒステリックな声があたりに響く。その後も止まらない、ご主人さまの想いの吐露を最後まで聞ききって、わたしはご主人さまに提案をした。
「そんな過去の男なんて忘れてしまうに限ると思うの。ねぇ、良ければ気晴らしにわたしとショッピングでもしないかしら〜。きっと楽しいわ〜♡」
半ば強引にご主人さまの手を握ると、ご主人さまは「初対面の貴方と?」なんて怪訝そうにわたしを見た。けれど、手を振り払われはしなかった。
「不思議ね、あなたに手を握られるの、なんだかとってもしっくりくるわ。……あっ、これが運命かしら!!えぇ、いく!!いくわ!!」
「ふふふ、よかった♡ とびきり楽しいデートをお約束するわ〜♡」
乙女が2人、手を取り合って、21gの軽い足取りで通りの奥へと消えていく。みんなに教えてもらった愛、今度はわたしがご主人さまに教えてあげるね❤︎
____fin
【執筆】
音戯。
【スチル】
音戯。
2024,07,21