2.探究課題の設定
1年3学期
1年3学期
1年生の3学期最初に、探究ジャンル(探究の「柱」)ごとのクラスに分かれる。クラスのサイズとしては、最大で40名といったところじゃ。30名を超えたら、できればさらに2クラスに分けた方がいいと思うが、その辺は総探の担当教員数にもよる。わしは36名クラスで9グループとか40名クラスで10グループの面倒を見ていたが、慣れない人だと5グループくらいまでで抑えておいた方がやりやすいと思う。慣れない教員は人数少なめのクラスを担当してもらうなどの配慮はしてやるべきじゃな。
どの教員がどのクラスを担当するか、というのは、自由に決めていいと思う。自分の好きなジャンルのクラスを担当する、というのでもいいし、あえて未知の世界に踏み込んでみるのもアリじゃ。わしは結構未知の分野を担当してみたい方じゃ。余計な知識があると変に余計なアドバイスを与えてしまうし、知らないことを知るっていうのは教員になっても楽しいもんじゃ。自分の専門教科じゃないことを授業で指導できるのもワクワクするじゃろ。
クラス分けが済んだら、今度はグループ分けじゃ。新クラスになるわけなので、どんなトピックに興味があるのか、ということも含めてエンカウンター的な自己紹介をし合うことから始める。活動形態は確保できる時間やクラスの人数によって変わってくると思うが、少しでいいので全員が何に興味を持ってこのクラスに来たかを知ることが大事じゃ。
そして、「じゃ、グループを作って!」と言ってグループを決めるのじゃ。
グループのサイズについては色々な意見があると思うが、経験上ベストなサイズは「4人」じゃ。机を寄せて話し合うにも都合がよいし(これが意外と大事)、役割分担をして仕事を分配するにもちょうどいい人数なのじゃ。4人を超えると明らかにサボるやつが出てくる。5人よりは3人の方がマシじゃ。もし4で割り切れない場合は、3人グループをいくつか作って調整するのがよい。3人グループは、4人グループに比べると一人あたりの負担が大きくなるので、やる気がある子向けじゃ。
わしの場合、何度か総探のクラスを担当したが、原則「4人グループ以外は認めない」という形で進めてきた(これは英語のクラスでもやっておる)。最初は多少納得していない子もいたが、話し合いを進めるうちに打ち解け、グループとしてまとまっていったよ。うまくいかなかったと感じたことは一度もない。また、男女は混合した方がいい影響が出やすいと感じておる。ただこの辺は子どもたちの相性っていうのもあるので、臨機応変にやっていいと思うが。
グループメンバーは、原則変更はしない。一度決めたメンバーは、最後まで一緒じゃ。「合う」「合わない」でメンバー変更するのではなく、合わないなら、合わせる。「協働性」を育むのもまた総探の狙いだし、教室の中にちゃんとコミュニティを作っていくのもまた教育なのではなかろうか。
グループのトピックは、話し合ううちに固まる。グループ分けは厳密に「同じ興味」で発想を固めすぎない方がいい。やっていくうちに方向転換することもザラだし、最初はふんわりとグループになる程度で全然かまわんと思うよ。最初にガッチリ固めすぎるとあとで方針を変更するときに苦労するよ。
グループメンバーを決めたら、いよいよ「探究課題」の設定に向かう。まずは、グループのトピックを決定しよう。「医療」なら「高齢化」「生活習慣」「視力」のような、「食と農業」なら「食品ロス」「農業人口減少」「コンポスト」のような、ざっくりした方向性をまずは決めるのじゃ。トピックはSDGsから持ってくるのもアリじゃな。
まず、クラスの「柱」について思いつくキーワードをできるだけたくさん出させる。いわゆる「ブレインストーミング」というやつじゃ。グループごとにやってもいいし、最初はクラス全体でやってみるのも面白いと思う。
付箋紙を用意できるなら、KJ法を試してみるのもよいな。まず一人何枚でもいいからキーワードを1枚に一つ書いて、どんどん机に貼り付けていく。ある程度の時間で出し切ったら、貼られた付箋をグルーピングしながら移動していくのじゃ。枚数の多いグループはそのグループの最も興味あるトピックとなっていくだろうし、枚数の少ないものは「そういう発想もあるのか!」という気付きになる。本当は模造紙を使って、付箋グループ同士を線で結んだりして関係性を描いていくものじゃが、トピックを発見するというだけなら付箋グループを作っていくだけで十分方向性は見える。
イメージマップを描いてみるのもいいな。コアにクラスの「柱」を置き、そこからキーワードを並べながら枝分かれさせていくのじゃ。これならA4の紙とかでもできるぞ。
タブレット端末を使えるなら、Jamboard上でやってみるのも面白いかもしれないな。ただし、習熟度の差で活動のスピードに差が出やすいのでフォローはしっかりしなければならないがな。
活動の着地点を「トピックの確定」とし、時間で切って最後に各グループに「ウチはこれで行きます」という「宣言」をさせる。そうすることで、自分たちの決心も決まるし、クラスの中で「あのグループはこの話についてやるグループ」ということが認知される。グループ同士のチェック体制も築けるのじゃ。
ただし、今後方針転換は自由にさせてよい。今後発表の活動は何度もあり、その時に他のグループには「変わった」ことは周知されるからな。あと、トピックが他グループと「かぶる」のは、そこまで問題ではない(他クラスのグループと同じトピックになることも含め)。その先の「探究課題」や「仮説」そして「検証(結果)」が違うものになっていくのであれば何も問題はないからな。実際、「生ゴミの低減」をトピックにするグループが複数いたが、ゴミの種類が違ったり解決策が違ったりで全く違う形の探究に発展していったので、それはそれで面白かったよ。
トピックが決まったら「探究課題」を探す。ここが探究のキモであり、今後2年間付き合っていくものであるから、慎重に、そして大胆に、いい課題を設定できるように持って行くことが大事じゃ。
まず、探究課題とは何じゃろうか。探究課題に求められるものをいくつか挙げておこう。
解決すべき課題であること。その課題(問題)で困っている人がいること。困り度合いをデータ(数値)で示せること。
自分たちが1年程度で解決に取り組める課題であること。話が壮大すぎないこと。「国」「自治体」「政治」レベルの課題はダメ。
既に解決策が確立している課題でないこと。解決に向かっている課題は、この先単なる解決策のコピペにしかならない。
解決策にお金がかかりすぎない課題であること。
あくまでも今後「実際に動いて自分たちで課題を解決していく」んだということを念頭に置きながら課題を探させることじゃ。選んだトピックについて「現在何が起きているのだろう?」というリサーチクエスチョンを立て、ネットで情報を検索したり周囲にインタビューやアンケートを実施しながら課題を探っていくことになるので、何時間もかかる。時間はかかるがとても重要なプロセスなので、慌てず、しっかり取り組ませるべきじゃ。
探究学習にはあまり教師が介入すべきではなく、子どもたちの自由な発想で進めていくべきじゃ。教師は、子どもたちのやっていることの「把握」が一番の仕事。スケジュールを見ながら、進みの遅いグループには加速を促し、進みの早いグループには他にやることがないか探させる。あとは、発表の時にいいところを見つけたり、つっこみどころを見つけたりしながらコメントしてやるのもいいな。
わしの場合、毎時間の探究の進みを記録する「記録用紙」を作り、各グループの代表(記録係)に書かせておった。主に「いいね」しながら、何か困っていそうな場合はコメントをしておったよ。
基本的には生徒の自由でいいのじゃが、「探究課題の設定」については、担当教師が積極的にアドバイスしてもよいと考えておる。上記の4つの観点を念頭に、「それって本当に困ってる?」「あなたたちの力で解決できそう?」「もう誰かが解決し始めてるんじゃない?」「それやるにはお金かかるんじゃない?」と、各グループの課題に「つっこみ」を入れていくのじゃ。
探究の過程で「詰む」のも一つの経験…と考えるならば、自由にやらせるだけでもよい。しかし、週に1時間という限られた時間の中で、2年生になってから大幅な方向転換ができるのはせいぜい1回くらいではないかな?方向転換を迎える時期によっては、探究学習の中身がとても薄くなってしまうかもしれない。詰む時期によってはその後にやることがなくなって虚無の時間を過ごすことになるかもしれない。1年生の課題設定の段階ならば、何度でも方針転換は可能じゃ。今のうちに「軽く詰む」経験をさせるだけでも「失敗経験」としては十分ではないかな?
設定した探究課題について、1年生の年度末に発表会を実施しよう。
わしの場合、課題についての「ミニポスター」をA4用紙に作らせた。
前もってこのような様式を示しておき、課題設定の過程で各項目を埋めていくように授業を持って行く。完成したサンプルを一つ挙げておく。
これは手書きで書いたものをスキャンしたものじゃ(メンバーの名前は伏せた)。PowerPointやGoogleスライド1枚で作ってもいいと思う。スライド何枚も作ってプレゼンする、というよりは画像1枚、みんなが読みやすい情報量で作らせるのがポイントじゃ。
基本的にJPEG画像にして保存し、PCやタブレットで画像ビューアを起動してスクリーンに表示しながら、1グループ3分程度で発表する(グループ数に応じて増減してよい)。時間をきっちり切って発表する場合は、PowerPointでダラダラ説明するよりも画像1枚でやった方が効率的じゃよ。
個人的には、ポスター発表が好きじゃ。発表側は自分たちの話のポイントを絞って話すことができるようになるし、聴衆側も話の全体が見渡しやすい。短く発表して質疑応答に時間をかけてもいいしな。発表会では質問をするという姿勢・習慣をつけることもまた教育じゃ。
また、聞くときに各発表の評価をしながら自分が学んだことのメモを取る「評価シート」も配付してみるのもよい。
この時点ではまだ内容が多少稚拙であってもかまわない。このあとの探究の過程でどんどん洗練されていくからな。大事なのは、自分たちの探究課題を宣言することと、それに関する基礎的な情報を収集してまとめることなのじゃ。
この時点で1年生の年度末ということになるので、子どもたちの「評価」をしなければならない。「総合的な探究の時間」では点数などの数値による評価ではなく、「文章による評価」をすることになっておる。
マイライフ探究をしっかりやってたどり着いた「探究課題のポスター」を1年生の集大成として評価の材料にするのがよかろう。何について探究し、何を学んだか。グループの中でどのような役割を持ってどのように協働したのか。そういった観点で、最後のクラス担当教員が評価してやることができればいいのではないかな。
何がどの程度できていればどんな評価をするか、ルーブリックを作っておき、各観点で評価に入れていく文言を決めておくのもいいじゃろう。
あと、普段の授業の記録を残しておくと、こういうときに役立つぞ。
2-8-1.ポスター鑑賞会
2-6でやったポスター発表会のあとで、各グループで作ったポスターを教室に並べて展示し、全クラス入れ替えながら鑑賞会を実施した。子どもたちに前もって「いいねカード」を配っておき、各クラスでいいと思ったミニポスターに感想と、次年度のヒントになる「課題の解決策のアイデア」を書いて入れてもらった。
クラス代表を決めて代表発表会をしてもいいのだけれど、それより全てのグループの探究課題を見てコメントできるようにした方が、各グループで達成感も得られるし、改善点とかも見えてきて好評じゃったよ。
2-8-2.2学年混合クラス
以前勤務していた学校では、探究クラスで実施している2年生に1年生が見学しに来たり、2学期後半からは1年生が合流して探究学習を進めたことがあった。1年生に向けて探究を共有したり、分かりやすく説明することでプレゼンのスキルを向上させるのに有意義じゃった。また、1年生が2年生の探究を引き継いで探究していく姿も見られ、「自分で課題を発見する」のとはまた違った探究の深まりが見られて大変興味深かった。
全校を挙げて探究活動に力を入れている学校であれば、こういった「縦割り」の探究を実施しているところもあるのではないかな。教員側の共通理解は必須じゃが、そういう形での「伝統」を作り上げることもまたいい取り組みなのではなかろうか。
さて、1年間かけたマイライフ探究~探究課題設定はこれまで。次は、2年生の「仮説立案」からじゃ。