1.マイライフ
探究
ジャンルごとのクラスづくり
1年2学期まで
ジャンルごとのクラスづくり
1年2学期まで
「探究学習」の第1段階は「課題の発見」じゃ。課題を見いだし、同じ問題意識を共有する者とグループを組んで、役割分担をしながら探究を深めていくことになる。
この「課題の発見」の段階で、「興味関心」をベースに調べを始めるというのが定石なのじゃが、最初からいきなり「同じ興味を持つ人を見つけてグループを組んでみましょう~」とやってそれを続けていこうとすると大抵の場合失敗する。途中で取り組む課題をガラッと変えたり、グループのメンバーを入れ替えたりしなければならなくなることが多いのじゃ。
これはなぜじゃろうか?
答えは簡単じゃ。子どもたちは、自分が今触れているエンタメ以外には「興味がない」からじゃ。当たり前のことじゃが、子どもたちは、知らないことには興味を持つことができない。つまり、全然世の中を知らない状態で「興味のあること」と言われても、そもそも興味のあることがないのじゃな。それで適当に「ゲーム」「メイク」「アニメ」とかいうのを「文化」と結びつけて探究のネタにしようとしても、特に深まることもなく頓挫するわけじゃ。大体にしてゲームやメイクのことすら大したことを知らないわけじゃしな。
ごくごく一部、「将来の夢」をもう持っていて、職業に結びつけて考えようとする子がいる。そんな子は現状の認識ができていて、問題意識を持って探究に臨んでいることもある。そうなれば探究学習も深い学びとなるであろう。
しかし、グループ学習を基本とする探究学習において、「一部の子だけ」がいい探究をするだけで「あの子はすごい」「探究が成功した」と言ってしまうのは大間違いじゃよな。また、そういう形でグループとしての機能が損なわれたからといって「グループでやるからいけない、個人探究にした方がいい」と言ってしまうのもまた間違いじゃ。学習指導要領の狙いから外れるわけじゃからな。
これは声を大にして言いたい。探究学習に入る前の初期段階として、この世界に興味を持ち、探究課題を見つけられる程度に物知りになっておくということが非常に大事じゃ。できれば、子どもたちだけではなく指導者もそうあってほしいと願っておる。
そして、探究学習は「自己の在り方生き方を考える」ことも視野に入れているわけだから、探究学習につながる話題を提供しながら「進路意識」も育んでいけるように持っていくのが理想じゃ。企画担当者の腕の見せ所と言ってもいいかもしれないな。
実際にやってみると分かるが、探究学習をきっかけにして進路を決めていく子どもは多い。高校の週1時間という少ない時間で行われる探究学習の中で、探究課題を見つけて自分のできることを探していくうちに「大学でもっと深く研究して世界を変えていきたい」という意識を持つ子が結構いるのじゃ。「医療分野」「食・農業分野」で探究学習を運営したことがあるが、もともと目指していたものから探究学習の分野に進路変更した子もかなりいた。そのくらい、探究学習は「在り方生き方」に関わる大切な授業なのじゃよ。
まずは、1年生最初の半年は、自分が何に興味があるのかを知る、そして自分が何者なのかを知る期間として使い、そのあとで探究の予備知識としてニュースなどのファクトにたくさん触れておく、「物知り」になる期間とするのがいいと考えておる。わしはこの期間のことを「マイライフ探究」と呼んでおったよ。
わしが企画運営して、比較的うまくいったと感じた進め方をここに紹介しよう。
まず、入学して間もない頃は、子どもたちは自分が何者なのかを全く知らない状態で入ってくると思った方がいい。まずは、初期段階として、外部の適性検査や診断テストなどを用いて、客観的に自分は何に向いているのか、ということを見つめるのがいいと思う。
もちろん、そういった適性検査を鵜呑みにするのが目的ではない。診断結果に「なるほど」となる子もいるし、「全然違う、私はこっちに行きたい」となる子も必ずいる。それは全然かまわない。むしろ、「適性検査は占いのようなもの」というスタンスで全くかまわない。教員の中にすら適性検査を大真面目に捉えて「この子は~に向いているのね」となる人もいるが、それは間違いにもほどがある。
大事なのは、示された進路の可能性について、それに関する職業や学問に関する「調べ」をしっかりやっていくことじゃ。多くの場合、自己診断テストには「職業」や「学問」に関する資料、そしてそれを授業で活かしていく指南書が付いてくる。職業であればどんな仕事内容の職業なのか、世の中のどんなことに役立っているのか、どんなルートでその職に就くことができるのかを調べる。学問であればどんなことを研究する学問なのか、世の中のどんなことに役立っているのか、何学部に行ったらいいのかを調べる。自分の目指す進路と現実世界をしっかり結びつけるのじゃ。
そういった検査のいいところは、「○○に向いている」というのを複数用意してくれることじゃ。自分の目指すところが決まっている子の場合、その分野に加えて「テストで提案された可能性」も「自分の可能性の一つ」として加えるといい。一つのことに凝り固まらない、広い視野で「自分」と「世界」をイメージし、それに関する知識も得ていくことが大事じゃ。
通常は文理やコースの説明会とか、外部講師の進路講話とか、教育実習生の講話とか、そういった全体に対する説明会が入ってくるから、そういうのもリンクさせながら話ができればいいのではないかな。
まずは1学期中に自分に向いている、または将来就きたい「職業」について、「情報収集」し、「整理・分析」、そして「まとめ・表現」する。似たようなジャンルの職業別にグループを作って、まずはグループ内のメンバー同士、そしてクラスのメンバーに向けて「職業」を紹介するという活動をしてみてはいかがかな。職業についてのネタがたくさん掲載された冊子とか使ってみるのも手じゃよ(わしはリクルート社の「未来事典」を使わせてもらった)。
ほとんどの学校では、2年生からの「文理分け」「コース分け」がある。高校入試を除けば、人生初の「進路選択」と言っていい。まずは総探の時間にしっかり自分の人生を探究し、行きたい方向をイメージするのじゃ。それを探究学習の探究課題につなげていくのが理想じゃな。
ただし、「自分の進路だけ」を探究するのが目的ではない。自分の進路に思いをはせつつ、他の子たちの進路の話も聞きながら、職業と世界のつながり、そして色々な職業に関する知識を得て「広い視野」を持つことが第一の目的じゃ。
ここで、「就職」メインの学校と「進学」メインの学校に分けて話をしようかの。
<就職メインの学校向け>
就職メインの学校の場合は、2学期に「職業人講話」を実施することをお勧めする。実際にいろいろな仕事をしている人に講師になってもらい、「職業」について深掘りしてもらうのじゃ。呼べるだけ呼んで、興味のある仕事の人に聴衆を振り分けるとよい。できるなら2時間~3時間取って、2講演、または3講演、聴衆を入れ替えて実施できればさらによいな。
職業そのものの仕事内容について紹介してもらうのも面白いのじゃが、講演内容として「地域とのつながり」「地域の中での課題」を語ってもらうようにお願いするとよい。探究課題を発見するのがとてもスムーズになるぞ。
2学期の初めにやれると一番いいが、「職業」と「地域課題」を結びつけていくイメージでニュースなどを検索しながら「職業」についてのプレゼン2回目を入れてみるのもよかろう。そのために身の回りの職業人へのインタビューを夏休み中の課題にしておくのもオススメじゃ。
講師は地域の一般の職業人であるから、新年度から打診を始め、夏休み中に確定するくらいのスパンを持って計画していきたいものじゃな。子どもたちの親御さんや学校に出入りしている業者さんにお願いするのがやりやすいと思うぞ。コーディネートしてくれる業者にお願いするのも悪くないが、その場合は勧誘などの商売っ気もセットで付いてくるので一長一短じゃよ。
<進学メインの学校向け>
まず、夏休み中に「オープンキャンパス」への参加を課題として課すといい。第1志望は現地で、第2志望以降は動画視聴も可能ということで3校(3学部)以上参加、大学の雰囲気や研究内容を休み明けに共有できるように指示しておくのじゃ。
1学期に「職業」について調べたが、2学期はそれにつながる形で「学問」に焦点を当てる。さきほどの「就職向け」と同様に、こちらも大学の「模擬講義」を2学期に実施できるとよいと思う。その場合、「地域課題」「グローバルな課題」について言及してもらうようにお願いすると、その先の探究課題の発見につながりやすいはずじゃ。
大学の場合は教育機関であるから高大連携には積極的じゃ。国公立私立問わず声をかければ来て話をしてくれるぞ。ただし日程によって空いている先生が違ったり、来られない日があったりもするので、やはり早いうちに声はかけておくべきじゃな。
<共通>
調べたり、話を聞いたりして、学んだことをスライドなどにまとめて発表する機会を持つとよいと思う。どんな職業(学問)がどんなところとつながっていて、現状どんな課題に直面しているのか、次の学びにつながる形でグループ内で共有するような形にすればそんなに時間はかからないしやりやすいのではないじゃろうか。
講話に加えて、わしの場合、学問分野を101個集めた冊子(リクルート社「学問探究101」)を使って、「ランダムに、または興味のあるものを3つ」「全然興味のないものを1つ」選んで読ませた。グループを作って、一人一つ、他のメンバーとかぶらないように、3分ずつ興味を持ってもらえるように紹介するという活動を行った。この段階になると「興味のあるもの以外」を選んで読み込んだり知識を仕入れたりすることに抵抗がなくなっていたので、子どもたちも純粋に「学ぶ姿勢」で活動できるようになっとったよ。
さて、ここまで調べたり話を聞いたりしてさまざまな職業や学問に触れることができた。入学当初に比べたら、多少は「自分の興味」にも気づき始めているのではなかろうか。知識も増え、問題意識も芽生え始めているのではないかと思う。
ここで、「探究課題の発見」に向けての最終準備じゃ。
理想は学年全ての子どもたちを自由に組み合わせてグループを組み、それぞれのグループに興味あることを何でも探究させる、ということなのじゃが、「教員数」から言ってそれをやると面倒を見切れるものではない。
そこで、大まかな「ジャンル」にクラスを分け、各クラスで似たような興味を持つ者同士をグループ化するのがお勧めじゃ。子どもたちもジャンル分けすることで自分の興味関心を具体的にイメージしやすくなるからの。わしが以前企画したときは次のような「5本柱」を設定した。2校で色々やってきた経験から考えに考えた5ジャンルじゃ。割と探究を進めやすいクラスになったと思うので、参考に。
①医療
②教育
③社会・まちづくり
④環境・エネルギー
⑤食・農業
ジャンル別クラスに分かれる最大のメリットは、そのクラスの中で「興味関心を共有できる」ということじゃ。授業の中で共通のニュースを提供することもできるし、グループメンバーの変更が必要になったときも同一クラス内から探しやすい。そして、担当人数こそ変わらないが、トピックを絞れる分だけ教員の負担も少なく、探究を深めていきやすいのじゃ。
まぁこのジャンル分けするっていうやり方は探究学習としては賛否両論あるんじゃがな。
ジャンル分けするという前提で話をすることにする。「職業・学問」のまとめをした後に、それぞれの「柱」についての興味関心を確かめる活動をする。1時間に2ジャンルずつ、前半後半に分けてやるとやりやすいと思う。教材として各ジャンルの「ネタ」をたくさん網羅した冊子とか持たせるといい。わしは宣伝会議社の「SDGsライフキャリアBOOK」というのを使っていたよ(シリーズで新しいのが毎年出ておる)。
まず、一つのジャンルに関するキーワードをいくつか提示し、さらにそれに関するキーワードを思いつく限り挙げさせる。それに関するニュースや記事を冊子やネットから3つずつ探し、その中の最も興味あるもの一つを5行でまとめる。それを5セットやるわけじゃ。1セット20分程度なので、スピーディにやらんと追いつかないぞ。ダラダラせずに探してまとめる練習でもある。
そして、5ジャンル全て終わった時点で、自分が最も興味を持ったジャンルを一つだけ選び、今後の探究学習のテーマとするのじゃ。ジャンルごとにクラス編成をすることを事前に告知する。原則としてクラスメンバーの入れ替えはないということもな。
わしのときは、冬休み前の最後の授業でジャンル選択の案内まで進めたので、「冬休み中にジャンル選択せよ」と指示することができた(Google Classroomとフォームを使ったので、冬休み中にみんな入力することができたし、未入力者への催促とかもできた)。
進路に関わるジャンルを選んでもよいし、そうでないものを選んでもよい。文系の子が医療とか環境エネルギーを選んでもいいし、理系の子がまちづくりを選んだっていい。ここまで来たら、「色々なジャンルで幅広い知識を得ること」に抵抗もないし、「自分が興味あること」を年度当初よりずいぶん的確に把握できているはずじゃ。
ちなみに、わしは「食と農業」のクラスを担当したが、30名強のメンバーが集まり、「栄養」とか「農学」を最初から志す子ももちろんいたが、そうじゃない子sw「食」「栄養」「農学」に進路を変更した子が何人もいた。探究学習は、ちゃんとやれば人生観を変えるくらい面白いことの証明と言えるのではないかな。
さて、次回からはいよいよ「探究課題」を探っていく段に入っていく。乞うご期待。