いよいよ、探究学習の成果の発表じゃ。今回は、探究学習の発表会では定番の1つである「ポスターセッション」について、ポスターセッションとは何か、そしてその運営の仕方を、過去の事例から超具体的に話してみようと思う(話が長くなるので、適宜目次を使って行き来するとよい)。スタッフとの共通理解や外部との折衝、生徒への連絡など、担当者1人でやろうとするとすごく大変じゃが、大抵は「周りが分からないから担当者任せ」という事態になるので(担当者も本当は分からないことだらけなのじゃがな)、少しでも負担が軽くなればと思い、使った配布物も掲載しながら話を進めようと思う。
探究学習のポスターセッションには、周辺の中学校や高校、あとは業者や大学の先生など、声をかけて見学に来てもらうといい。特に、業者や大学の先生には、ポスターセッションが終わった後に講演を依頼しておき、発表が終わった後の振り返りをしっかりする、という前提を作っておくのがオススメじゃ。
ちなみに、前回の生徒へのポスター様式の告知のあたりで、原案となる要項を作って学年スタッフに示し、了承を得たところで総探検討委員会、職員会議と会議にも出して理解を得た。総探をちゃんとした形でやったことのない学校じゃと、ここで職員を納得させるのに少し手間取るかもしれない。下に実際の会議資料を示しておく。拡大して読めるので参考までに。
ポスターセッションについて、実際に授業で配布したプリントがある。我ながらポスターセッションについていい説明になっていると自画自賛している。プリントそのものも載せておくが(別ウインドウで拡大もできるぞ)、読みづらいかもしれないので、下に文章も抜粋して転載しておく。10月中旬、ポスター様式の次の回、2週後に配ったことも付け加えておく。(ポスターによる発表はミニポスター発表で慣れているので、先に作るべきポスターの形を示し、発表会の形式そのものは次の週に回したのじゃ)
<ここからプリント内容抜粋>
11月24日(木)、これまでの総合的な探究の時間の成果を「ポスターセッション」という発表会で披露してもらいます。
ポスターセッションは研究成果を1枚の模造紙サイズの「ポスター」にして壁やパネルに貼り出し、ポスターの前で発表を行う形式の発表会です。ポスターの前に聴衆を集め、説明したり質疑応答をしたりします。
同時にたくさんの発表をすることができる
発表者と聴衆の距離が近い:少人数で聞くことで、「分かった?」と確認したり、発表の途中で質問したりもできます。
1枚のポスターにまとめるメリット:発表の要点を絞り込むことで、長々ダラダラと話すのではなく、簡潔に分かりやすい発表にすることができます。これが「要約力」にもつながります。
キレイでカラフルでカワイイポスターづくりが楽しい
貼ってあるポスターを眺めて楽しむことができる
同時にたくさんの発表をするということは、会場が騒がしくなるということです。マイクなどは使いませんから、小さな声ではかき消されてしまいます。
ポスターを見やすく作らないと何が書いてあるか聴衆から見えません。
発表内容や発表者によって人気・不人気の差が出ます。
全ての発表を聞くことはできません。
ポスターセッションのデメリット・注意点を紹介しましたが、ここをデメリットにしないための発表テクニックを伝授します(パンフレットにも載せます)。ポスター制作や発表原稿・練習の参考にしてください。
・周りが騒がしいことへの対策
まずは、聴衆を手前に呼び寄せましょう。「もう少し聞こえるところまで前に来てもらっていいですかー」というところから始め、「聞こえますか?」と確認してから始めると、聴衆とも少し打ち解けられていいですね。大きな声を出さなくても相手に伝われば、会場全体の騒がしさも少し緩和されます。
・ポスターを見やすく作るコツ
ポスターにギチギチに字を詰めないようにしましょう。発表するときにちゃんと説明もするのですから、ポスターに載せる文言は簡潔に、そして見やすくカラフルに。ただし何を言ってるのかが分かる程度の情報は残す、というのがコツです。
上級者になると、「?」なポイントを作って、発表時に「それは何ですか」という質問を引き出しながら発表を進めるというテクニックもあります。めくる扉を付けるとか、聴衆を楽しませるギミックを付けるのもいいと思います。
・聴衆としての心得
とかく日本人は人気のある場所に列を作る習性があるようですが、人気のある発表ほど聞こえませんし見えません。ですから、ポスターセッションという発表を楽しむなら、不人気のグループの発表こそ積極的に見に行くべきです。1対1で聴ける発表なんて、その場で立ち話をするノリで質問したり議論したりしながら聴ける、最高の環境なんです。どの発表も今まで苦労して作り上げてきたわけですから、必ず面白い話があるはず。不人気グループこそ発表を楽しむチャンスです。
質問は気軽にどんどんしてください。発表者側は全力で答えるべきですが、分からない・知らないなら素直にそれを認めればいいのです。「分からない」が次の調査への入り口となるわけですから、聴衆は遠慮することなく、質問責めにして新たな視点を与えましょう。
・発表の進め方
発表7分質疑3分で計10分以内。発表開始から7分で「質問ターイム!」という声がけをします。ただ、10分で収まっていれば、7分で区切る必要はありません。つまり、発表の途中で「いいですか?」「質問はありますか?」「これってどうですか?」と聴衆に呼びかけながら質問を募ってもいいんです。発表はコミュニケーションと心得ましょう。
どうじゃろうか?我ながらよくまとまっていると思うので、これ以上の説明はしないでおこうと思う。ポスターセッションの風景は、こんな感じ。
意外と閑散としていると感じた人もおるのではないかな?しかし、ポスターセッションは、各ポスターの間隔をギチギチにしてしまうと、声が干渉しあって聞こえなくなってしまうのじゃ。このくらいの間隔を開け、スペースに余裕を持って発表するのが理想じゃ。
ポスターセッションでは、全クラス・全グループのポスターを壁やパネルに貼り出すことになる。今話題に出している学校の例では、全部で42グループのポスターを貼ることになった。1学年で200人を超える学校なら、50グループ以上になるはずじゃ。
42グループのポスターを、発表に向けて貼らなければならないのじゃが、その時のマップをこのように作った。PDFで作ってあるので是非別窓で見てみてほしい。(各グループのリーダー名は伏せてある)
一応表示用にリストを別に貼っておいたが、体育館の壁を7分割し(8分割のうちの7箇所を使い)、それぞれのブースに3グループずつ、左から順番に貼ることにした。発表するときも、各ブースの左から1グループずつ発表していけば、ある程度の距離を保ちながら発表でき、声の妨げにもならないようにした。各クラスの担当教員に掲示の監督はお願いした。
ちょっとパズル的な要素も入れて会場のマップを作った。でもこれで十分伝わるじゃろ?「ポスターを貼る時や発表を聞きに行くときに場所が分かりづらい、迷子になったらどうする!」なんていうなかなか強めな意見もあったが、実際迷った子はいなかったし、迷ってそうな子は見て分かるからすぐに案内すればいいだけの話じゃ。この程度のアタマは使ってもらってもバチは当たるまい。
ちなみに外部からの見学者も受け付けたが、このマップは見学者にも配付した。特に苦情は出なかったよ。
ポスターセッションというものがどんな発表会かは前述の通りで、概要は教員にも会議資料で共有したが、まだまだ詳しいことを周知しきれたとは言えない。
このときはパンフの下に示したような詳細設定で実施した。ここは学校によって実施形態が変わると思うので、教員・生徒とも事前に情報共有をして共通理解を図った方がいい。パンフレットを事前に配付したので、それを見ながら説明するといいと思う。(このパンフレットの裏に体育館の発表場所一覧を印刷し、折ってA5サイズにして配付した。あとで印刷用のファイルも上げておく。)
グループ数は42。全てのグループのポスターを第一体育館・第二体育館の二つの体育館に貼り出して発表を行う。
午後の50分3コマを使って実施する。発表者は全員2年生だが、3コマ目に1年生を見学者として入れる。その他、他校(中学・高校)からの見学者や報道も随時入れ、対応は学年外でお願いした。
発表は1回あたり質疑応答まで含めて10分。全てのグループを第1グループ・第2グループ・第3グループに分けて発表時間を指定し、発表に当たっていない生徒は全員発表を聞きに行く形とする。
発表時間10分、パンフレットに示された時刻で必ずバッサリ切り、次の発表に移る。司会が全て指示を出すので、指示に従う。(2会場なので司会は2人、必ず時間通りにするように事前に打ち合わせをする)
1コマに全員が1回ずつ発表するので、その日に3回発表することになる。
2年生は自分の発表以外の6グループ、1年生は最後の1コマの3グループの発表を視聴するので、リストから事前に自分の視聴したいグループを選んでおく。
発表を聞いて学んだことを書き込む「見学シート」1枚と、発表者に発表のよかったところを書いて渡す「いいねカード」を2年生は6枚、1年生は3枚渡す。「いいねカード」は必ず使い切るように指示する。(この辺はGoogleフォームなどでオンライン入力とするのも手じゃ。当時は体育館にWi-Fiがなかったので手書きとしただけじゃ。)
参考までに以下に使ったものを貼っておくので適宜別ウインドウで開いてみてもよい。
印刷用パンフ
見学シート
いいねカード
(4つに切って使用)
例として、2会場同時にやる場合の司会シナリオを示しておく。別ウインドウで読んでみてほしい。
ポスターセッションにおける司会の重要な役割は二つ。「時間管理(タイムキープ)」と「聴衆の分散」じゃ。
時間管理は、徹底してやるべきじゃ。発表が終わっていようがいなかろうが、時間が来たら必ず動かす。そうすることで、複数会場の行き来がスムーズにできるし、時間通りに発表会を終了することができる。時間が過ぎてからの発表は「早く終われ」ムードになってかわいそうじゃからな。全ての発表者にちゃんと公平かつ平等に時間を与えるべきじゃ。
このときは、開始1分前、開始時間、終了3分前、終了時間に声がけをするような段取りとした。
あと、ポスターセッションという形式では、グループによって人気の偏りが出るため、「聴衆がいない」というグループが出てくることがある。一応事前にどのグループを視聴するか決めておくように、とは伝えるが、それはあくまで「移動をスムーズにする」のが目的。始まってからは、臨機応変に「聴衆のいない(少ない)グループに人を流す」ことを司会者がした方がいい。
聴衆が多すぎるグループがあると、後ろの方が見えない・聞こえないという事態に陥るし、そうなると授業を「サボる」生徒も出てきてしまうものじゃ。そんなことにならないように、聴衆をデフラグして最適化するのが司会者の大事な役割の一つなのじゃ。ステージの高いところから俯瞰して動かすのもよし、なんならステージから下りて閑散としているグループのところに行き、「こっちに誰か聞きに来てあげて!」と声を上げるのもいいじゃろう。
聴衆の少ないグループこそ、「濃い」コミュニケーションを取りながらアットホームな発表ができるのもポスターセッションのいいところ。その辺の共通理解を司会者同士で共有し、よりよい学び、そして願わくはいい思い出になるような発表会を実現してほしい。
司会者以外のスタッフの動きを、前日までに知らせる。朝のホームルーム活動で連絡すること、準備でポスター掲示を手伝ってもらうこと、発表中の動き、そして後片付けの指示。こちらはそれほど大変ではないので、ほどほどに分かりやすく伝達すればよい。
当日の教室掲示物(半分に切って全クラスに配付)
集合時間と場所、ポスター掲示のしかた、持参物について当日朝に教室に掲示してもらい、全クラスに連絡してもらう。あとは、指示通りに生徒が動きさえすれば、特に苦労することもなく、後片付けまで終わらせてくれるはずじゃよ。
ポスターセッションは、できるだけたくさんの発表を視聴する、ということと、できるだけいい発表をする、という両方の点において、できれば今の例のように3コマ、午後いっぱいの時間帯で実施するのが望ましいと考えておる。
今の例では、全員が3回発表する。1回につき10分、ということでやると、話を整理しきれていないグループは「発表が最後までできなかった」ということになる。また、探究の内容の浅いグループは、「3分で発表が終わって気まずかった…」ということにもなる。
しかし、3回発表することで、1回目にそういった失敗をしても、2回目・3回目にだんだん発表内容がブラッシュアップされ、時間を使い切ったいい発表になっていくものじゃ。1回目に「やべぇ」って思うこと、何をしたらよくなるかを考えること、そしてそれを実践していくこと…そう、発表を複数回実施することが、短期的な「探究学習」になっておるのじゃよ。そういう意味では、最初に軽くつまづいておくことはポスターセッションにおいては「大切なこと」だと言ってもいいくらいじゃ。
事前にしっかり準備と練習をしてきたグループは、既に何度もPDCAサイクルを重ねてきたであろうから、よりよい発表を目指して工夫をしているはずじゃ。ずーっと上の写真、隅っこにバランスボールが写っているのが見えるかな?こういった小道具を使うグループもいるし、グループによっては動画を作成してきてiPadに保存し、再生して見せているところもあった。わしは何も口出しも手出しもしておらんよ。
要するに、やりたいこと、やるべきことが見えれば、子どもたちはちゃんと、というより大人が考える以上に動くものなのじゃよ。
ポスターセッションという発表会では、子どもたちが学んで成長した姿を見られる。同時に、大人たちが子どもたちの成長を「信じること」を学ぶ場でもある、と言っていいのかもしれんな。
最後に、このページの長さを見れば分かるとおり、ポスターセッションを企画して実施するのは正直思っているより大変じゃ。周りのスタッフはそのことを理解し、せめて一言担当者に「おつかれさま」「ありがとう」と一言かけてやってはくれんかの。