さて、探究学習を一通りやって、ポスターセッションという発表会まで実施したわけじゃが、「次の一手」をどうするかは学校次第じゃ。主に、次の二つのどちらかになるのではないかな。
発表準備段階で見つかった、あるいは発表の質疑応答で得られた新たな知見や課題について、継続して仮説立案~検証を繰り返す
発表段階で省略した詳しいデータなどの内容を補い、レポートにまとめる。
1で継続実施していく場合は、課題をもう一度軽く分析して探究課題として設定し、その解決策を仮説として立案しながら年度末まで、もしくは3年生までやっていくのがよいじゃろう。もちろん、他の課題に興味が出たのでそっちにシフトする、ということも許容してな。
グループを継続するか、一度解体してやっていくかは学校次第じゃと思う。学校によっては「ちゃんとレポートを仕上げたいので、もっと個人で本格的にやりたい」という子も出てくるじゃろうから、そういう子をある程度目の届く範囲で「放っておいて」もいいと思う。手法はもう習得済みじゃしな。
今回は、2のレポート作成について述べていこうと思う。探究をもう一回しする場合は、今回の「レポートその1」を飛ばして次の「レポートその2」を参考にされるとよかろう。
ここから「探究学習の総まとめ」としてのレポートを作成していくが、ただ適当に文章化するのではなく、進路先に提出してちゃんと読んでもらえるように、ある程度「学術的な(アカデミックな)」構成で書いた方が、あとあと利用価値が出てくると思う。
まずは、発表の振り返りをしよう。
ポスターセッションの回で軽く追記しておいたが、ポスターセッションを業者や大学の先生など外部講師に見てもらい、コメントしてもらうのがいいと思う。探究の手法や内容についてのコメントをもらい、それが大学での研究とどうリンクしているか、大学ではどんな規模で研究をしているのか、といったことを講演してもらうといいのではないかな。
以前の例では、まちづくりの探究を例にとって講評してもらい、大学では市内にトラムを敷設する計画を立てて市や県に提案している、といったことを紹介してもらった。そして、論文やレポートにまとめていくプロセスを話してもらったが、レポートづくりのいいスタートになったと思うぞ。
そして、その次の時間に発表の質疑応答や「いいねカード」の読み合わせ、自分たちの発表の反省、他のグループの発表から学んだことなどを話しながら振り返る。
そして、発表で使った材料やポスターでは省略したデータなど、詳しく成文化していくための準備をしていくのじゃな。発表の振り返りやレポートの準備については、冬休みをはさんで年明けになる可能性もあるから、その場合は「冬休み中にこれまで使った全部の材料を探しておく」ことと「追加でやってみたい実験をやっておく」または「関連する本を1冊読んでおく」ことを課題として課しておくのもいいかもしれんな。
レポートの内容については個々のグループに内容を任せるわけじゃが、やはりある程度構成を示してやって、「型」にはめて作っていくのがいいと思う。なんだかんだ言ってここまで2年弱かかっているわけじゃから、自由に作らせて手直しして…というのは実質的に難しいと思う。まずは、これからこういう形でレポートを作っていくよ、ということを生徒に宣言しておこう。
<レポートの型>
謝辞
アブストラクト(探究要綱、探究の要旨)
本論(第1章:きっかけ・課題、第2章:仮説、第3章:検証、第4章:結論・今後の展望)
参考文献
2年生の終わりまでに、「探究の要旨」、かっこよく言うと「アブストラクト(探究要綱)」を完成させることを目標にしよう。「要旨」と始めてもいいがなんかアブストラクトと言った方がかっこよかろう。学術論文では、最初に要旨を述べることで「何の話か」概要を伝えた上で細かい本論に入っていくのが普通じゃ。数枚のレポートには付けなくても問題ないが、まぁこういう「型」を知っておくのも教育じゃからな。
アブストラクトでは、本論で述べていく各章の内容を1パラグラフくらいずつ書いていくのがよかろうと思う。探究のきっかけ、探究課題、仮説、検証、今後の展望といったことについて、「第○章では、……ということについて述べていく」といった形でまとめていき、最後に合体させて完成じゃ。今までやってきた内容であれば、おそらくA4で1枚くらいのアブストラクトになるかと思う。
分量的には「ポスターセッションの発表原稿」くらいの感じでまとめていくとよいと思う。だから、ポスターセッションをやって、振り返りをして…という時期にアブストラクトを書いていくのが適しているのじゃ。聴衆に話しかける感じで作り上げた発表原稿を、今度はレポートという「書き言葉」に落とし込んでいくわけじゃな。
全て、WordやGoogleドキュメントといった「ワープロソフト」で書いていく。手書きで書きたいという子もいるかもしれないが、レポートも論文ももう30年以上前からワープロ以外考えられない。常識として使い慣れてもらおう。
さて、アブストラクトの執筆は、「年明け」つまり3学期の授業を通じてやっていくことになろうかと思う。学年末考査や卒業式、高校入試などもある中なので、おそらく5コマ程度しか取れないのではないかな?5コマ、「じゃ、書いておきなさい」と放置しておくのも一つの手ではあるが、ここでは1コマごとの授業のすすめかたの例を紹介する。
わしのオススメは、「1コマごとに1章分の振り返りと、1パラグラフ完成」という形じゃ。グループごとに、年明けの授業で、「課題設定ではどんなことをやったか」を振り返り、「第1章では課題設定として……ということについて述べる」というパラグラフを作るわけじゃ。
今まで蓄積した資料を見て、さらにポスターセッションで作ったポスターや発表原稿、1年生最後に作った課題設定のミニポスターを見ながら、
・アブストラクトには何を残し、何を削るか
・ポスターには載せなかったが本論に載せるデータや事実は何か(何を見れば載っているか)
・参照する文献は何か
・調べきれなかった、足りないデータや事実は何か
を確認してメモをしつつ、一つの段落をグループみんなで仕上げていくのじゃ。そうすれば、年度末には一つの成果物としてアブストラクトが完成し、しかも春休みにやるべきこと、そして3年生で書いていく本論の準備ができるわけじゃ。一コマ一コマを有意義に進めていくことができる。
最後、アブストラクトをまとめて完成する段階の「文例」を挙げておこう。わしの場合は最後にこれを提示したが、着地点として最初に示しておいてもいいかもしれないな。(2ページめに文例を載せているので参考にされたい)
この時期になると、「2学年の評価」をしなくてはなるまい。当然、総探の評価は「文章による評価」じゃ。全ての生徒について、1人1人異なる評価を下していかなければならない。
成果物としての「ポスターセッションのポスター」「ポスターセッションの発表」を基にして、各担当者が「発表内容」と「探究や発表での役割」「得られた学び」を言語化していくのがよいと思う。
わしは全グループの全メンバーをしっかり観察していたので大丈夫だったが、学校の体制として、全ての教員が同じ熱量で探究学習に当たっているとは限らない(そうでない方が多いと思う)。
オススメなのは、時間ごとの「探究記録」を各グループに付けさせることと、生徒による「自己評価」をさせることじゃ。うまくもっていけば、とても参考になる文章を生徒自身が書いてくれるぞ。
あとは、学校からの指示に従って、文章化していけばOKじゃ。なに、担任が生徒所見を全員分書くのに比べたら大した作業量ではない。
年度末の時間、余った場合には、1年間の振り返りなんかさせてもいいと思うが、そもそもアブストラクトの制作が十分なる振り返りになっているので、次年度につなげるために「春休みの計画」を立てよう。
現状不足しているデータや事実を春休みで補うのじゃ。春休みはそんなに長くないので、
・本を1冊読む。読む本を事前に決め、読んだら参考にする部分を書き留めるように指示する。
・実験やフィールドワーク、インタビュー活動をしてデータを取る。
といったことを継続的にやってもらうのがよいのではないかな。
また、これも「なくてもいい」ものではあるが、論文の形式としてアブストラクトの前に「謝辞」を付けるととてもいいものになると思う。謝辞の文面を年度末の時間で書くのも一つの活動としていいと思うぞ。
さて、次回からはいよいよ3年生じゃ。ラストスパート、立派なレポートの完成を目指していこうではないか。