今、最も注目を浴びている市町村といえば、広島県の安芸高田市じゃ。安芸高田市出身の「石丸伸二」市長が就任し、市長による財政健全化が全国から注目されている。市長が自らXやYouTubeに出没し、当初は「つぶやき市長」的な扱いをされていたが、市の公式YouTubeチャンネルで市議会や記者会見の映像を配信すると、ポンコツ議員とバチバチにぶつかる様子や中国新聞をバッサリ斬る様子がたちまち多くの切り抜き配信者に切り抜かれ、「恥を知れ、恥を!」の言葉とともに全国に名が知れ渡った。
その結果、市の公式YouTubeチャンネルの登録者数が自治体の中で全国第1位になり、市長が雑談ライブをすれば俗に言う赤スパ(1万円以上の投げ銭)が飛び交い、ふるさと納税も2023年下半期で4億円近い額を記録した。つまり、ネットを通じて、何億もの市の臨時収入を市長が稼いでいるわけじゃ。この臨時収入で学校の机と椅子を全て新品に交換したというのじゃからすごい。
石丸市長の人気は、単なる見た目とか発言のうわべのかっこよさだけが要因ではない。ちゃんとデータ・ファクトをもとにして誰にでも分かりやすく「政治」というものを説明している点が実に魅力的じゃ。石丸市長の動画から「政治とは何ぞや」を理解した人も大勢いるのではなかろうか。そして、「財政の危機」は「他人事ではない」ということもまた理解できたのではないだろうか。
市の公式チャンネルに上がっている、石丸市長自らが開いた財政説明会の動画を紹介しよう。1時間ほどの動画だが、何回かに分けてでもいいので全編見ることをおすすめする。
これを見てどんな感想を持ったじゃろうか。「他の市の話なので全然関係ない」と思った人も中にはいるかもしれないが、特に地方都市、地方の町村に住んでいる人なら、完全に自分のところの話じゃと思って聴けた人の方が多いのではないかな?これを見て何の危機感も感じなかったとすれば、逆に鋼のようなメンタルを持っていることを誇ってもいいかもしれない。
この説明会は、石丸市長ならではのものと言える。外部から色々調査して何かケチを付けるのではなく、市の「内部」を知る人間が、その資料から得られたデータを分析して自ら「弱み」を公表しているわけだから説得力がある。「だからこそみんなでなんとかしていかないといけない」ということが、住民だけではなく、日本中の誰にでも理解できたのではないかな。「安芸高田市やばいなー、かわいそうに」ではない。「ウチもそうなのではないか」という危機感として理解したのではなかろうか。
地方の衰退は、おそらく同じような原因で起きている。人口も増えて景気がよかった時代に「いいものだから」という理由でどんどん施設を作り、それを税金を出して管理するようになった。毎年予算に費用が計上されながらも、「例年通り」で特に見直しもせずに税金を投入し続ける。もはや当初の目的すら忘れても税金だけは出し続け、利用者がほとんどいなくなっても、ほんの数人が「なくなると困る」「なくなると寂しい」と言えば「住民がこう言ってます」と議員が代弁して存続させ続ける。かくして人口が減り続けても無駄な税金だけは毎年しっかりかけ続けるというわけじゃ。
施設だけではない。お金があった時代に作った制度も慣習も全く変えることなく続けるのが普通じゃ。当時は合法だった、または明るみに出なかったことで、現在は違法という場合だって、知らずに、または見て見ぬふりをして続けている場合があるかもしれんぞ。
人間、「いい時代」にしていたことは何でも輝いて見えてしまうものなのじゃ。そして、その時代が今でも続いていると自分に言い聞かせながら、「なんとかして変えずにいこう」と思ってしまうものなのじゃな。過去のことばかり言う人は大抵そうじゃ。
そんな発想で動いている人たちは、新しい流れや考えを到底受け入れられるわけがない。ペーパーレスだと言っているのになんでもかんでも紙で出したがる人とか、スマホ全盛の中停波するまでガラケー使っている人とか。時代が終わってもなお「かつての栄光」にすがっていたいものなのかもしれんな。新しい方の流れに乗っている者から見れば滑稽でしかない。沈みゆく船に海の中まで乗っていくようなものじゃからな。
探究学習で「まちづくり」の話をしようとすると、「市が○○すべきだ」「国が△△すべきだ」という、自分たちではどうにもできない規模の話をしがちじゃ。いいアイデアだから、「じゃ、市役所に提案しに行ってみようか」なんていう流れになることもありうる。
しかし、上の動画を見てもらえれば分かるが、ほとんどの自治体の財政に、高校生のポッと出のアイデアを受け入れるほどの余裕はない。よく現状の分析もせずに考えた新規の事業や施設を作るなどということは、よほどのことがない限りほぼ100%ありえないのじゃ。新聞などのメディアのネタにはなるかもしれんがの。
わしは、「自治体や国にお金を出してもらうのは、ドラえもんに何かお願いするのと同じ」と常々言っておる。自分たちで責任を持ってやれることを考えずに他力本願で行こうとするのはつまらん考えじゃ。第一、そういうアイデアは持続可能でないしな。
逆に、「これは要らないから壊してほしい」「この制度は要らないからなくしてほしい」という提案は悪くないかもしれんな。もう誰も使わないし残しておいても危ないから撤去してください、500人の署名も集めました、という形の探究はありかもしれん。
「危険な所有者不明の家を高校生の手でぶっ壊して撤去できるか」なんていうのを法律やら安全性やらも含めて本気で追究してみるのも面白いかもしれんな。
安芸高田市と石丸市長の動画を見て、「政治」とは何なのか学んだという人はたくさんいると思う。「政治」はほぼ「財政」じゃ。税金の使い道を考えながら配分し、実際に使っていくのが市長を中心とする「執行部」の仕事。市民の代表としてその使い道が果たしていいのかどうかを審査・判断し、議会で市民の代弁者として執行部に提言をするのが「議員」の仕事。この「二元代表制」を理解できた人が多いのではないかな。
そのうち、「市長」と「議員」は市民の代表として「投票」で選ばれる。これが意味するのはどんなことじゃろうか。「市長」「議員」は、私たちが(自治体に)払った税金の使い方を検討して使ったり、使い方を審議したりする人たちなのだから、
「投票」とは、「私のお金を使ってほしい人を選ぶこと」
なのじゃな。「この人になら私のお金を使わせたい」「この人にならお金をあげます」(本当にあげたら問題だけど)という相手を選ぶことなのじゃ。投票に行かない、ということは、「私のお金は、誰でも好きに使ってください」という意思表示じゃ。投票にも行っていないのに「自治体が何もしてくれない」みたいなことを言うのは、はっきり言って筋違いもいいところじゃ。
投票率は依然として低い。特に若い人たちの投票率が低い。つまり、若い人たちが自分のお金を放り投げているということじゃ。それが分かっていてそうしているのか、知らずにお金をだまし取られているのか、どちらにせよこれでは「古き良き時代をいつまでも変えたがらない」人が大きな顔をし続けることになるのは明白じゃ。
若い人が選挙に行くようになるにはどうすればいいかの?これって、すごく面白い、有意義な探究学習になると思うぞ。成功したら、そこから自分のまちがいい方向に変わっていくきっかけになるし、日本が変わっていくきっかけにもなるかもしれない。個人的には、「選挙に行こう」というクラスを作って徹底的に探究学習をしてみたいくらいじゃ。
石丸伸二さんという人は、安芸高田市長をこの6月で(この記事を書いている週末で)市長を辞職し、東京都知事選に立候補することを表明している。新たなステージとして、「東京を解体し力を地方に分散させる」ということにチャレンジすることで「日本を変える」そうだ。
わしは石丸伸二さんが大好きじゃ。何かを変えようと闘う人は、それだけで尊い。わしもそうありたいと常々思っておる。
石丸さんの今後にも注目じゃ。