今回は探究課題とするのは若干難しい話かもしれん。
最近、ゲーム業界、特にRPG大手のスクウェアエニックスですごくもてはやされているのが「ピクセルリマスター」(略してピクリマ)という手法じゃ。
ピクセルリマスターというのは何かというと、古いゲーム、特に2Dのゲームを、「昔の面影を残したまま」リメイクするという手法じゃ。現代は技術が進んでいるのでAIを入れてキャラとのやりとりをしたり3Dでグラフィックをリメイクしたりすることもできるはずじゃが、あえてファミコンやスーパーファミコンといった古いスペックのまま「2D」で作り直すことで、発売当時やっていたプレーヤーにとって「懐かしいゲームをもう一度」というコンセプトで出しているのじゃ。本格的なアレンジのBGMだけではなく、「発売当時の」BGMに設定することもできたりする。
発売当初はまだ説明書も付属していて、ゲームの中では操作などが「不親切」なことも多かったが、そういう点も説明を付けたりして改善して分かりやすく、しかも経験値を通常より多くしてレベルを上げやすくしたり、敵を出現しないようにしたりと、当時のプレーヤーからすると「過剰な親切」機能を実装して、「現代の子どもたちにも当時の感動を」という発想でもある。
「古いゲーム」=「古くさいゲーム」ではないということじゃな。30年前のゲームは、今やると幼稚…などということはなく、むしろ難易度に歯ごたえもある、重厚なものが多い。当時はプレイしなかった大人も、ピクリマ版から新規ではまっている人が多いのじゃ。しかも難易度を低く設定することもできるから、(ストーリーが理解できるかどうかはともかく)小中学生でもプレイできる。
ちなみにわしが小学生高学年の時に初代ドラゴンクエストが発売された。いち早く手に入れた友達がクリアした後でわしも借りてやったものじゃ。その後ドラクエもファイナルファンタジーも中学生時代に3くらいまではクリアしていた気がする。難易度なんか下げなくたっていいぞ。楽しいだけのゲームなんてすぐに忘れる。苦労してこそのゲームの思い出じゃし、苦労すればゲームからだって学ぶことはたくさんある。むしろゲームで苦労を覚えるくらいでもいいと思うぞ。
さて、一般庶民にとって「ピクリマ」はもうRPGの常道になった。ピクリマ以外にも、操作性はそのままにグラフィックやBGMを強化したリメイクは山ほどある。この2024年11月には、「ドラゴンクエストⅢ」のリメイク版が発売予定で、話題になっておる(ドラクエⅢは数え切れないほどのリメイク版がこれまでも出ておる)。それ以外にも、任天堂では「バーチャルコンソール」「Switchオンライン」といったサービスで、ファミコンやスーパーファミコンといったかつてのハードウエア用のゲームが、リメイクではなく「そのまま原版を」遊ぶことができる(バーチャルコンソールの配信は終わったがな)。安く遊べるので大好評じゃよ。
わしは最新のハードには疎いが、現在よく聞こえてくる新作ゲームタイトルも、ほとんどが「シリーズ最新作」。「ドラクエ」「FF」「ゼルダ」「マリオ」「ポケモン」といったファミコン時代から脈々と続く「かつてやったことのあるタイトル」「聞いたことのあるタイトル」の最新版ばかりじゃ。わしがここ数年で初めて聞いたタイトルは「スプラトゥーン」と「スイカゲーム」くらいじゃないかな。
何が言いたいか分かるかな。ゲームの世界は、もはや新しいものを生み出し、売れていくのが極めて困難な世界なのじゃ。「ゲームクリエイターになりたい」という声はよく聞く。しかし、ゲームを新規に「クリエイト」して、それを世界に認識されていくことは、よほどの衝撃作でない限りは難しい。そのくらい、ゲームの世界は既に「飽和」しておるのじゃ。
最新のハードで、最新のスペックで、大画面でも鑑賞に耐える素晴らしいグラフィックと素晴らしいサウンド…というのは、ゲームにはもはや求められていないのではないかな。少なくとも、わしは今でもスーパーファミコンで全く不足は感じないし、壮大なる美しいゲームをしようという気持ちがみじんも浮かんでこない。個人的感想じゃがな。そもそもハードウエア自体値段が高すぎて買えないというのもあるがの。
映像の世界でも、YouTubeが動画の大半を占める現状じゃ。「YouTube用として」キレイな映像と音声を追究することは悪くないが、それは4Kとか8Kとかで最高画質を追究するのとは違う。
「新しさ」=「最高スペック」ということではないのじゃな。もちろん、技術の進歩ということでは最高性能の追究ということには意義がある。しかし、新規にゲームをクリエイトしようと思ったら、むしろ30年前くらいの品質でいいから、スマホやゲーム機で、「無料」とか「サブスク」とかで入手できる範囲で「新しさ」を感じさせるようなものを提案できなければならないのじゃ。それだけ、私たちが「お金をかける」ということに抵抗を感じるようになっているということでもある。
ピクリマやサブスクでかつてプレイしなかったゲームを今プレイすることが「新しい体験」となっている。これは、懐古主義ではない。これまでのゲームタイトル資産は莫大じゃ。わざわざ新しいものを体験せずとも、過去の未プレイタイトルを漁るだけで「新しいゲーム体験」はいくらでもできるのじゃ。
「これまでの資産を活かして新しさを提案していく」というセンスが今後は求められていくはずじゃ。ゲームクリエイターは、もちろん「完全に新規のタイトル」を創り出していく努力をすることも必要じゃが、「新規」だけにこだわりすぎない柔軟な考え方も大切じゃ。探究学習だって、完全に新しいアイデアを出すことは難しい。先行研究から面白そうな視点を借りてきて新たな何かに発展させることが必要じゃ。
身の回りで、ゲーム以外に「かつての資産」を生かして新たな価値を生み出していくことのできるものは何かあるかな?また、かつての資産から脱却し、「完全に新しいもの」を作り出していくには何が必要かの?少し抽象的な問いではあるが、探究学習としてこれらの視点に具体的で身近な視点を何か乗せて考えてみるのもいいのではないかな。