農林水産省の統計を見ると、基幹的農業従事者(個人経営体)の数は順調に(?)減り続けている。昭和の頃とはもちろん比べるべくもないが、ここ数年の間だけでも、平成27年の175.7万人から令和5年の116.4万人まで減った。この流れで行けば、あと3年で100万人を切る計算になる。
ここ3年は6万人~8万人ペースで減っているが、そのうち65歳以上が4~6万人。6割は高齢で引退したり亡くなったりして減っているということじゃな。
わしもそうじゃったが、「家業を継ぐ」という形で就職する若者はもうほとんどいない。大抵は「好きな仕事に就きなさい」と言われて育っておる。そして、自分の触れた中で面白そうな職を選んでいくわけだが、そもそも農業に触れたことのない若者は最初から選択肢には入らないし、農業のきつさを知っている若者はなおさら選ばないじゃろうな。「人の役に立ちたい」とか言って、汚れない仕事を選ぶのが普通じゃ。
私たちは農産物を食べることなく生き続けることはできない。一方で、このままいけば近い将来「農業」という職業そのものはなくなる。両者共倒れで持続可能ではない。さて、どうしたものかの。
「スマート農業」ということばがある。実は農林水産省がこのことばを使って農業を推進しているのじゃが、要はドローンやIoT(Internet of things, コンピュータ以外のモノをネット経由で動かすこと)を使って種まきやら農薬散布やら水温管理やらをする、「汚れない農業」のことじゃ。
人手不足を補うのにコンピュータの力を借りよう、ということだけではなく、温度や湿度などをきめ細かく管理することにより農産物の品質を向上させることができる。青森県のブランド米「青天の霹靂」の栽培にも、良食味米の栽培技術として大規模なIoTによる水温・追肥管理やロボットトラクタによる耕作が行われている。
有料記事ではあるが、朝日新聞に「長靴農業から革靴農業へ」という記事がある。長靴を履いて田んぼに入る農業は過去のものとなりつつあるのじゃ。
農業が敬遠される一つの原因に、農業は「自然」を相手にするアウトドアな産業である、ということがあるのではないかな。確かに草の匂いがムンとする中、虫やカエルがわんさかいる田んぼで田植えや稲刈りをしているイメージがあるじゃろう。鉄腕DASHの農業コンテンツを見て育った層には、自分がやる仕事としては響かないかもしれんな。
これは断言するが、農業は植物相手の「工業」じゃ。農業が自然などというのは大きな誤解じゃ。自然に生えている植物を食べて生きるのは「採集」であって農業ではないからな。
一度でも育てたことがある人なら分かると思うが、植物は、最低限度として、その辺にある土ではなく「買ってきた土」で、「水をあげる」ことで育てる。品種によってはちゃんと「肥料」も与えないとうまく育たないこともあるじゃろう。
人の手で食べ物として植物を育てる、ということは、自然界ではあり得ない栄養豊かな土で、雨だけでは到底まかなえない量の水をあげて、しかも足りない分の栄養も補ってあげることを意味する。また、植物を食い荒らす虫も駆除し、病気も防いでやらなければならない。人間のわがままで、人間が食べるべき植物に過大な「おもてなし」をして作っているわけだ。そうしないと人間みんなが食べられる量の植物を無事に育てきることは到底できないのじゃ。
スマート農業のように機械に頼った農業は「邪道」と捉える人もいるのではないかな。でも、そもそも「農業」は「工業」なのだと捉えてみよう。身の回りの工業製品のほとんどを機械が作っていることを考えたら、農産物のほとんどを機械が作る時代が来てもおかしくはない…そう思えるのではないかな?
種を植えて、発芽させ、それを育てる、という基本の仕組みを理解した上で、それを機械やコンピュータを使ってどのように効率よくしていけるかが今後の農業には求められる。つまり「体力より技術」が求められる時代になりつつあるのじゃ。
ゲームを作りたい、プログラミングをしてみたい、情報インフラに関わる仕事をしたい、そう考える若者は非常に多い。特にゲームばっかりやってゲーム大好き、ゲームのことしか考えられない、だからゲームの仕事をしたいという若者はわしの感覚では10%以上いると思っておる。
しかし、ゲーム業界でうまくやっていくのは難しいのではないかな。特にゲームクリエイターなんて、いまだにドラクエファイナルファンタジーが幅をきかせていて挙げ句の果てにピクセルリマスターとかいう名作のリバイバルまでされた日にゃ、新人がその分野に滑り込むことも難しいのではあるまいか。
でも、そんな人の才能が、「農業」という分野で活かされる時代が来ようとしている。「農業従事者」=「農業のシステムエンジニア」となる可能性も今後あるわけだ。ゆくゆくは、外に一歩も出ずに農場の管理ができる日もやってくるに違いない。農地なら腐るほどある。需要があるのに生産者が減っている、ということは、この分野は成長産業であり、大きなビジネスチャンスだということじゃ。このチャンスを逃す手はあるまい。
さて、「ゲームを作りたい」「プログラミングをしてみたい」と考えている若者やこどもたちに、「スマート農業」への興味を持ってもらうにはどうしたらいいかのう。身近なところから、「農業」に目を向けることはできるじゃろうか。「植物を育てる」ということでもいい。何か、農村を復活させる、私たちにもできることはないじゃろうか。
東京メトロ(地下鉄)が運営する農場で育てた野菜「とうきょうサラダ」はご存知かの?とうきょうサラダの農場は、実は地下にある。このページに詳しいことが書いてあるが、地下の無菌室で、LED照明で、土も使わず、完全水耕栽培で葉物野菜を作っている。閉鎖型の完全な「工場」で、普段は人間が入ることもなく自動で野菜が「生産」されているのじゃ。
虫や微生物を排除した環境で、土を使わないので、土を洗い流す必要もなく、品質も安定している。菌が付かないため長持ちするなど、いいことずくめの野菜が生産されている。特に食中毒を出すわけにいかないホテルでは重宝されているそうじゃ。
ここまで無菌とはいかなくても、全国に余っている休耕地を使って農産物の「工場」を建てたらいいのではないかと思っておる。頑丈な温室のイメージじゃ。土壌は活かしつつも、自然光に加えて人工光も活用しながら、自動、あるいはリモートで環境を管理して作物を育てることができるのではないじゃろうか。建物で虫などの侵入を抑えられれば、減農薬や無農薬にもできる。
個人でそんなことをすることは難しいので、味の素とかニチレイとかの食品会社が土地を買い取り、食品工場の一部として稼働させたら、生産効率も高くなるのではないかな、と思うんじゃよ。野菜として出荷するのではなく、冷凍食品の食材を生産するためだけの工場という位置づけでもいい。それなら食材の輸送費もかからない。大量に使うものは海外の大農園から仕入れ、農産物工場で賄える量のものを自社生産できれば、コストも抑えられて安全性も高められる。消費者としても助かる。
そういった農工場で、プログラミング志望のシステムエンジニアを農場オペレーター(農夫)として雇えばいい。新しい形の農業生産を、大企業主導で行うことができる仕組みを(法律なども含めて)整えていくことができれば、農業国日本が復権する可能性も十分にあるのではないかな。
ま、素人のたわごとじゃ。笑って読んでくれたらいい。