研究課題

(2020.9.11更新)

 現在,私が取り組んでいる(取り組みたいと考えている)課題です.課題によっては1年間では成果を出すことが難しい研究もありますので,括弧内に担当できる学年の目安を書いています.ただし,あくまでも目安ですので相談には応じます.また,これ以外にも取り組みたい研究テーマを持ち込んでもらえれば,可能な限り対応します.

大規模断水時における生活・防火用水供給施設としての地域内水利施設の活用(卒論生・大学院生どちらでも担当可)

 高齢化や耕作放棄,都市化など農地の維持管理がなされなくなった地域では,農地や水利施設の維持管理ができず,様々な機能が失われつつあります.一方で,古くから利用されてきた水利施設(特に農業水利施設)は大きな給水能力を有しており,この既存インフラを有効に活用することが,今後の農村を考える上で重要だと考えています.本研究では,大規模災害時の生活・防火用水供給施設として,地域内の既存水利施設(特に農業水利施設)を活用することを目指し,その効果と実用に向けての課題を検討しています.

参考論文:

1) 島田実禄,谷口智之,氏家清和(2015):農業幹線用水路による大規模断水時の生活用水供給,農業農村工学会誌,83(9), pp.33-36.

2) 谷口智之,島田実禄,氏家清和(2016):大規模災害に伴う断水時における生活用水供給施設としての農業水利施設の活用,農業農村整備政策研究,No.2,pp. 19-22.

3) 和泉晴日,谷口智之,凌祥之(2019):農業水利施設が有する断水時生活用水供給能の評価法の検討,水土の知(農業農村工学会誌),87(8),19-22.

4) 和泉 晴日,谷口 智之(2020): 断水時における農業・農村関連施設の活用事例と対策, 水土の知(農業農村工学会誌),88(8),7-10.


黄金川(福岡県朝倉市)に自生するスイゼンジノリの保全に関する研究(卒論生・大学院生どちらでも担当可)

 福岡県朝倉市を流れる佐田川支流の黄金川は,環境省レッドリスト絶滅危惧 I 類スイゼンジノリが現存する唯一の自生地です.しかし,近年,湧水を水源とする黄金川流量が減少して以降,スイゼンジノリの生産量はピーク時(1993年)の3%程度(年間約 7 トン)まで減少しています.本研究では,黄金川の流量(湧水量)減少の原因を明らかにするとともに,今後のスイゼンジノリの保全対策について検討しています.

参考論文:

1) 今田舜介,谷口智之,凌祥之(2018):スイゼンジノリの保全対策としての農地排水の導入の可能性,水土の知(農業農村工学会誌),86(2),7-10.

2) 野宮岳人,今田舜介,谷口智之,金子慎一郎,大城 香,一宮睦雄(2020): 淡水性シアノバクテリアスイゼンジノリ(Aphanothece sacrum)の自生地,移植地および養殖地の変遷,不知火海・球磨川流域圏学会誌,13/14(1),17-48.


農村地域の雨水貯留機能の評価(卒論生・大学院生どちらでも担当可)

 2017年7月九州北部豪雨をはじめ,日本各地で豪雨被害が頻発しています.水田は降雨を一時的に貯留することで,豪雨時の河川流量を低減させること(洪水調節機能)が知られていますが,その定量的な分析は十分ではありません.本研究では,降雨時の水田地域における水動態を調査・分析することによって,水田地域が有している雨水貯留機能を評価・分析することを目指しています.

参考論文:

1) 谷口智之,今田舜介,村井隆人,凌祥之(2019):豪雨時の水田地域における農業用排水路の水位変化と溢水,水土の知(農業農村工学会誌),87(6),7-10.

2) 西小野 康平,谷口 智之,凌 祥之(2020):水田地域が有する雨水貯留機能による豪雨対策, 水土の知(農業農村工学会誌),88(8),3-6.


簡易なため池水収支モデルによる渇水・豪雨リスクの地域性評価(卒論生・大学院生どちらでも担当可)

 日本には16万を超えるため池が存在していますが,近年の豪雨では多くの農業用ため池が被災し甚大な被害が発生しています.このような状況のもと,2019年7月には「農業用ため池の管理及び保全に関する法律」が施行され,ため池管理者が明確化されることになりました.今後,それぞれのため池の被害予測が進んだ場合,既存ため池の改修や廃止の議論が加速することが予想されます.しかし,10万を超えるため池の管理を個別に検討するには膨大な時間を要するため,すべてのため池に速やかに対策を講じることは困難です.そこで,ため池の価値(渇水リスク)と危険性(豪雨リスク)の両面を評価し,改修や廃止の緊急性が高いため池から順次対応することが必要となります.本研究では,簡易なため池水収支モデルを用いることで,日本全国の現在と将来における渇水リスクと豪雨リスクの地域性を評価し,今後の貯水池管理のあり方について検討しています.

参考論文:

1) 谷口智之,河野幸正,岡崎恭知,凌祥之(2020): 簡易なため池水収支モデルによる渇水・豪雨リスクの地域性評価,水土の知(農業農村工学会誌),87(6),7-10.


水田ソーラーシェアリングの課題とその解決策の検討(卒論生・大学院生どちらでも担当可)

 米価の低下により水田農業における収益性の確保が困難であり,今後もこの傾向は継続することが予想されます.日本の水田農業を維持していくためには,農業所得に加えて新たな収益の創出が不可欠です. その一つとして,農業を行いながら太陽光発電による売電収益も得られる「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)」が各地で行われています.しかし,ソーラーシェアリングでは日射を遮ることによって作物の収量や品質を低下させること, また,太陽光発電設備(架台)のために農作業効率が低下することなどの理由により,日本の農地面積の多くを占める水田でのソーラーシェアリング導入事例は限られています.本研究では,現地調査や数値解析によってこれらの課題を解決し,水田ソーラーシェアリングの実現を目指しています.

参考論文:

1) 泊 昇哉,谷口 智之,凌 祥之(2020):日射量推定モデルによる水田営農型太陽光発電における最適なパネル角度・配置の検討,2020年度農業農村工学会大会講演会,2020.08.


水田地域における水管理・水配分における遠隔監視・自動化の意義(卒論生・大学院生どちらでも担当可)

 近年,農業でも自動化やICT化が進んでおり,「スマート農業」が一つのキーワードになっています.これまで土地改良区や農家を中心に人為的に管理されてきた水管理や水配分に関しても,ICT(情報通信技術)を導入することによる省力化が目指されています.しかしながら,現在の農地や水路は人為的に作業することを前提に整備されており,また,歴史的な背景に基づいて用水配分が決まっている地域も多くあります.このような地域において,それまでの管理作業をすべて機械に置き換えると,地域の水管理や水配分に対してさまざまな影響(良い効果と悪い効果)が出ることが予想されます.本研究では,水田地域における水管理や水配分の実態を明らかにすることでICTによる遠隔監視・自動化の導入意義を整理し,今後の水管理・水配分のあり方を示すことを目指しています.

参考論文:

1) 谷口智之,佐藤政良(2006):灌漑用水の安定性が末端水田地区における用水の配分と利用に与える影響,農業土木学会論文集,246,17-23.

2) 谷口智之(2013):兼業化稲作地域における用水配分と水田管理―茨城県福岡堰土地改良区を事例として―,農業農村工学会論文集,283,pp.67-73.

3) 谷口智之,竹内夏希(2014):市街化が進行した香川県ため池灌漑水田地域における水管理,農業農村工学会誌,82(11), pp.7-11.

4) 谷口智之,宇田川啓太(2014):水田灌漑地区における排水路内貯留水利用の定量的分析―茨城県五霞町パイプライン化事業の事例―,農業農村工学会論文集,294,pp.1-8.


TPPならびに生産調整(減反政策)廃止などの農業政策の転換が水需給に与える影響(大学院志望の学部生,もしくは,大学院生向き)

 2013年11月のコメの生産調整(いわゆる減反政策)廃止,2015年10月のTPPの大筋合意など,日本の農業が大きな転換期を迎えています.今後,農家は自由に水田経営面積を展開できる一方で,食用米の価格下落,飼料米や畑作物への転換,農地集約や経営規模拡大などさまざまな課題を解決していくことが求められます.このような農業体系の変化は,古くから続けられてきた農業水利用にも大きな影響を与えるはずです.圃場一筆の水需要(水田の場合は減水深),農家の水管理に伴う必要水量(管理用水),流域上下流間での水管理(用水の反復利用)などの幅広い視点での調査・検討を行い,農業体系の変化が用水需要に与える影響(総用水量や水需要の期別変化)を評価したいと考えています.

過去に実施していた研究テーマ(機会があれば再開したいと考えています.)

香川県ため池灌漑地域における用水配分の実態解明

 香川県では古くから水不足に悩まされており,多くの溜池が築造されてきました.しかし,近年では都市化により水田面積が減少している地域もあり,それらの地域では水田一筆あたりの供給可能水量は増加しています.このような状況のもと,水田地域内での水管理がどのように変化しているのかを現地観測から明らかにし,将来の農業経営体系に対応した効率的な水利用のあり方を検討しています.

参考文献:

1) 谷口智之,竹内夏希(2014):市街化が進行した香川県ため池灌漑水田地域における水管理,農業農村工学会誌,82(11), pp.7-11.


安価なデータロガーを用いた用水管理状況の把握

 用水管理状況を連続的に把握しようとする場合,連続計測が可能な水位計や流量計などの観測機器を現地に設置します.しかし,これらの機器は高価であるため,多地点で観測しようとすると膨大な費用がかかってしまいます.そこで,より安価な観測機器で用水管理実態を把握する方法を検討しています.

参考文献:

1) 塚原元太,谷口智之(2013):小型温度センターによるポンプ稼働の判定,平成25年度農業農村工学会大会講演会,2013年9月3日~5日,東京.


水田地域を含む流域における水温変化の実態解明とモデル化

 水温は生物の生息環境や農作物の生育状況に影響する重要な因子であり,将来の気候変動による水温上昇を予測することが重要です.一般に河川水温は河川の構造と気象因子から推定されますが,春から夏にかけての日本では,河川水の多くが灌漑用水として利用されているため,水田地域内での水動態とそれに伴う水温変化を考慮しなければいけません.本研究では,水田地域内での水温変化の構造を明らかにするとともに,流域全体の水温変化を予測する手法の構築を目指しています.

参考文献:

1) 新村麻実,谷口智之(2013):水田地域を多く含む流域における農業用水の温度変化,農業農村工学会誌,81(4),pp.27-30.

2) Mami Shinmmura, Tomoyuki Taniguchi, Ryosuke Kotatsu and Atsushi Ishii, 2018, Effect of farmers’ water management on water temperature changes in paddy area with independent irrigation and drainage canal settings,

Japan Agricultural Research Quarterly, 241-248.

3) 新村麻実,谷口智之,石井敦(2018):水田からの排水が河川の水温変化に及ぼす影響,水土の知(農業農村工学会誌),86(12),25-28.