20210501 「変化」に慣れた組織

 私は面白そうなテーマがあれば,「まずは始めてみる」というスタンスで研究に取り組んでいます.その結果,今は豪雨対策,断水対策,希少生物,営農型太陽光発電,農業データ整備など,さまざまな研究テーマを進めています.このスタンスは研究に限ったことではなく,研究室内のゼミや情報共有についても同様です.良さそうなアプリや機器があれば,まずは試してみて,「良ければ続ける,駄目なら止める」を繰り返しています.これまでに導入してまったく続かなかったものもたくさんありますが,それはそれで良いと思っています.常に何か新しいことに取り組んで,試行錯誤を繰り返すこと自体が大切だと考えているからです.

 組織は「変化」に慣れていることが大切です.このことは,さまざまな組織で見られた新型コロナウイルスの対応でも強く感じました.今回,新型コロナウイルスの対応に速やかに対応した組織と対応しなかった(できなかった)組織の差が明確に表われました. もちろん職種にもよりますが,被害を最小限に抑えられた組織に共通していたことは,問題に対して立ち止まるのではなく,とにかく「変化」しようと動いた点だと思います.常に新しいことにチャレンジして,組織として「変化」に慣れておけば,日常的に想定外への対応を繰り返しているので瞬間的に判断し,行動に移すことに抵抗がありません.こういう組織では,「問題」は事前に想定して対応するものではなく,やりながら試行錯誤で解決するものという思考になります.このような思考が根付いていると,大きな変化が求められるときにも速やかに意思決定ができます.そして,仮にその決定が間違っていても,考えを変えて方針転換することに躊躇がないので,被害も最小限で済みます.

 一方,対応が遅れた組織の多くは,組織体系が硬直化していて「変化」への耐性が弱かったように思います.これまで,日本ではさまざまな事態(被害)を想定して,その想定に対しての対応(マニュアル)を準備するという手法が取られてきました.しかし,新型コロナウイルスや近年の災害の激甚化など,近年は想定を超える事態が続いています.これは災害だけでなく,最近の科学技術の進展についても同様です.これまで想像もできなかった技術が社会に実装され,考えられないようなスピードで普及し,社会を変えていきます.このような想定外の災害,想像を超える技術進展が起きている社会では,あらかじめ事態を想定して対策を立てる組織よりも,変化にすぐに対応できる組織の方が有利なはずです。つまり,さまざまな事態を想定して対応をマニュアル化する組織ではなく,想定外が起きることを前提に,問題が起きたときに速やかに情報を共有し,意思決定する手段を構築している組織を目指すほうがこれからの時代にあっています。そして,「変化」に慣れれば,不必要になったルールや慣習を減らすことも容易になるので,組織のルールもシンプルでわかりやすくなるはずです.このような意識から,うまくいくかどうか関係なく,常に何かを変えられないかという意識を研究室のメンバーが持ち続けている研究室を目指しています.

 ただし,想定外の事態に対して迅速かつ臨機応変に対応するためには,なぜ現状の規則やルールがそのような形になっているのかを理解しておくこと(基礎)が重要です。これがないと,そのときに起きていることが想定内なのか想定外なのか,それさえも判断ができません。一般的に,新しい技術や今起きている問題を解決する話題はウケがよく,古くから続いている技術や学問はウケが悪いことが多いです.しかし,新しいことをしたい人こそ,古くから続いている学問や知識をしっかり理解して欲しいと思います.

 当研究室に配属された学生には,配属直後の3年後期にガッツリ勉強してもらい,「灌漑」と「利水」の基礎を身につけてもらっています.その後,この知識をどのように新しいことに活かすかは学生次第です.たまに外部の人が研究室で進めている研究テーマを見て,「灌漑」「利水」と関係していないバラバラの課題が走っていると誤解することがあります.しかし,研究室のメンバー間では,それぞれのテーマ「水(灌漑,利水)」というキーワードで繋がっている将来の農村イメージを共有することを心がけています.

 このような研究室に興味のある方,また,「灌漑」と「利水」の基礎を勉強したいという方がいらっしゃれば,研究室の学生でなくても(九大農学部の1,2年生,他学部だけでなく,社会人,小中高生,農家,本当に誰でも)ゼミに参加していただいて結構です.特に最近はオンラインでゼミを実施しているので,距離や時間の問題もありません.遠隔地の方も是非.私自身もそのような関わりを通して,研究室内だけでは得られない知識や価値観に触れることで新しい何かを発見したいと思っています.