20210128 筑波大学での大量の支援物資の配給に思うこと

 母校の筑波大学が珍しく良いことで大きく報道されました.「筑波大学、合計20トンの食料を学生に支援」

 このような取り組みを実施された大学と,この活動に賛同された個人・企業・団体に心から敬意を表します.筑波大学のフットワークの軽さと,筑波大生と筑波大学に関わる方々との密接な関係性が最もよい形で発揮された事例だと思います.素直に「やっぱ,つくばはいいなぁ」と思いました.

 一方で,当日は大行列(密)であったことや,当日取りに行けなかった学生に物資が届かなかったことを批判する意見も一部で見られました.しかし,20トンの多種多様な物資を1万人以上の学生に均等に配分できる訳がありません.報道によるとキャベツや白菜がそれぞれ500玉ほど(合計約1,000玉)届いたそうです.仮にこれを1万人にある程度均等に配分しようとすると,1玉を10等分して(白菜とキャベツを1万個に切り分けて),学生にどちらかを選ばせることになります.膨大な手間と時間がかかるので,作業をする方も,待たされる学生もおそらく幸せではありません...

 もちろん,平等に配布しろと発言している人が,こんな極端なことを主張している訳はありません.おそらく一人あたりの個数を制限して,時間を割り振って,順番に取りに来るようにすれば良かったのに,ということを主張されているのだと思います(上記の記事でも,大学職員の方が次回は「時間ごとに区切る」「事前予約制」などの対応を検討すると書かれています).しかし,私はそんなに時間が掛かる方法をとらなくても,今回の方法で支援を必要とする学生に広く物資を配分できたのではないかと思っています.

 まず,物資を取りに来た学生が,持ち帰った物資をすべて自分一人で独占していると思っている点に誤りがあると思います.これは学生の行動原理をまったく理解していません.今の学生はLINEなどで常時繋がっているので,当日用事で取りにいけない人は,友人にお願いして自分の分も取ってきてもらうようにお願いしたはずです.しかし,一人あたりの数量が制限されると,友人の権利を奪うことになるので,このようなお願いはしづらくなります.今回のように大量に物資がある場合には,個数制限を設けず,学生間で分配してもらった方が速やかですし,会場に集まる人数を抑えられたと思います.一方で,物資の量が少ない場合には,あるグループが物資を大量に持ち帰ると不公平感が生まれるので,個数を制限する必要があります.筑波大学の事例でも,物資が減ってきた段階でルールを変更して個数制限を始めたようですが,これも正しい対応だったと思います.

 また,どれだけ頑張っても,すべての学生を完全に平等に扱うことはできません.時間を区切ったり,事前予約制にしても,物資を受け取る順番を決めなくてはいけません.平等性を確保するなら,くじ引きか何かで順番を決めることになるでしょうか.そうすると,最初の人は好きな物を選べて,最後の人は残り物を手にすることになります.自炊する人としない人,お菓子やレトルトを食べる人と食べない人など,欲しいものは人によってさまざまですが,おそらく後半に残るのは多くの人があまり積極的には食べない物,もしくは,単価が安い物になります.くじ引きで平等に決めたのだから,運が悪かった人は残り物になることは仕方がないと考えることもできます.しかし,ここで問題となるのは,平等に順番を決めて,個数制限を設けて物資を持っていくルールにすると,本当はそれほど支援が必要ない人も,「権利」として個数制限の限界まで物品を持っていくという心理になるということです.筑波大学の事例では,数千人が並んで,数時間待ちの状態になったようです.この状況そのものについては何か対策を講じる必要があると思いますが,その一方で,当日並んだ学生はそこまでしても支援を必要とする学生だったということになります.結果的に行列に並ぶという制限があったことで,特に支援を必要とする学生に物資が届いたという側面もあったのではないかと思います.つまり,生活困窮の状況に大きな個人差があるなかで,多大な時間と手間を掛けて物資だけを平等に配分することに意味があるのかという視点が必要だと思います.個人的には,手間と時間を掛けても掛けなくても不平等が生じるのであれば,手間と時間を掛けずに,速やかに学生に物資を届けるほうがよいと思うので,今回の筑波大学の対応は正しかったと思います.

 このような資源の配分は農業の水配分にも通じます.農業では大量の水資源を多数の農家へ配分しますが,水路の上流から順に水を取るので下流ほど弱い立場となります.このような用水条件の強弱関係があるなかで,大量の農家への配分のすべてを管理しようとすると膨大な手間と時間が掛かります.そこで,十分に用水を確保できている場合には,管理者(土地改良区)が各地域への配分のみを行い,地域内の配分はそれぞれの地域に属する農家のなかで管理・調整する体制が取られています.ただし,渇水(水不足)時には用水配分の不均衡が大きくなるので,すべての農家に用水が届くように管理者が末端までの配水を調整します.平常時は物資が大量にあるときの対応,渇水時は物資の量が減ってきたときの対応に似ていると思いませんか.