糖尿病は年々増加傾向にあります。
厚生労働省によると「糖尿病が強く疑われる者」は、この20年間は増加の一途です。
「糖尿病の可能性を否定できない者」(いわゆる「予備軍」)も同様に増加していましたが
10年ほど前から減少傾向にあるようです。
2016年度国民健康・栄養調査の結果では、「糖尿病が強く疑われる者」は約1000万人
「糖尿病の可能性を否定できない者」は減ったとはいえ約1000万人で、
両者の合計は約2000万人にものぼります。
年齢が上がるほど、その割合は大きくなります。
40歳以上の3~4人に1人は糖尿病か、その予備軍とも言われています。
さらに最近は若い年齢層、なんと小児などにも増えていることが問題になっています。
糖尿病のことを多くの人に知っていただくことで
病気が原因で不幸なことにならないようにしていきたいと考えています。
以下、用語から始めて、糖尿病についてお話したいと思います。
<血糖値とは>
血液中のブドウ糖の濃度のことです。正常値はおよそ100(mg/dl)です。
ブドウ糖は脳をはじめ、筋肉や内臓を働かせるための大切なエネルギー源です。
食事に影響を受けますが、通常は140を超えることはありません。
200以上になると糖尿病が強く疑われます。
<ヘモグロビンA1c(HbA1c)とは>
過去1カ月の血糖値の平均を表す数字です。
単位は%(パーセント)です。
血液中のヘモグロビンという色素にブドウ糖が結合したもので
血糖値が高いほど、その割合が多くなります。
100個ヘモグロビンがあった場合に、そのうちの何個にブドウ糖が結合しているのかを表します。
6%という結果ならば、100個のうち6個ということです。
正常値は6.2%以下で、6.5%以上になると糖尿病が強く疑われます。
<インスリンとは>
膵臓から分泌されるホルモンで、ブドウ糖を血液中から肝臓や筋肉などに取り込ませる働きをします。
様々なホルモン達とうまくバランスをとり、血糖値などを調節しています。
血糖値を下げる作用をする、唯一の貴重なホルモンです。
このインスリンの分泌量が不十分になったり、肝臓や筋肉などでの効果が弱くなることで
血糖値が高くなり、糖尿病が発症すると考えられています。
インスリンの効果が弱くなることを 「インスリン抵抗性」 と呼びます。
<糖尿病の型>
大きく分けて1型と2型があります。
・1型糖尿病は、何らかの原因でインスリンを分泌する細胞が破壊され
血液中のインスリン量が不十分になることで発症します。
治療にはインスリンの注射が必要不可欠です。
生活習慣に関係なく発症します。
・2型糖尿病は、過食や運動不足などの生活習慣により引き起こされます。
肥満、特に内臓脂肪によるインスリン抵抗性の増加や
膵臓の疲弊によるインスリン分泌の低下などにより血糖値が高くなります。
1型よりも遺伝的要因が強く、親や親戚に2型の人がいると発症の確率が高くなります。
必ずしも太っている人が発症するわけでもありません。
発症しやすい遺伝的体質と、生活習慣の双方が原因です。
糖尿病全体の90%以上をこの2型が占めています。
<糖尿病の症状>
典型的には
①口が渇く、のどが渇く ②たくさん水を飲みたくなる ③尿の回数が多くなる とされています。
他には 体重が減る 疲れやすい だるい 風邪や膀胱炎などの感染症にかかりやすい
などの症状があるといわれます。
しかし実際はほとんどの人が無症状でして、これが実に大問題です。
症状がないために発見が遅れたり、健康診断で指摘されても放置してしまう人が多いのです。
長年にわたり高血糖を放置すると合併症が出現します。
<糖尿病の合併症>
①網膜症 ②腎症 ③神経症 の3つが「3大合併症」と言われています。
さらに糖尿病の人は心筋梗塞や脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの病気を起こしやすいため
④動脈硬化 を加えて「4大合併症」と表現することもあります。
①から④の全てに共通するのは「高血糖により血管が障害されること」です。
以下、それぞれについて少し解説します。
①糖尿病網膜症
瞳から眼球に入った光が当たる場所に、網膜という膜があります。
カメラでいうと瞳がレンズで、網膜がフィルムです。
網膜には非常に細い血管がたくさんあります。
高血糖が続くと、その血管が障害されて詰まったり、破れたりしてしまいます。
障害された血管の機能を補おうと、すぐそばに新しい血管が作られます。
しかしこの新しい血管は非常にもろく破れやすいもので、破れてはまた作られを繰り返します。
そうすることで、どんどん網膜症が進行してしまいます。
糖尿病網膜症は失明する危険性が高い病気です。
働き盛りの約300万人に発症しており、毎年約3000人が失明しています。
日本人における失明の原因疾患の第2位です。
ちなみに1位は緑内障です。
糖尿病と診断された場合は、定期的な眼科受診をお勧めします。
②糖尿病腎症
腎臓は血液中の老廃物をろ過して、尿として排出する機能を持つ臓器です。
細い血管が非常に豊富な臓器ですので、高血糖で障害されやすいといえます。
徐々に進行し、最終的には腎不全の状態となり透析療法が必要になります。
透析は週に3回程度、毎回数時間の治療を要するので、身体的負担が大きいものです。
糖尿病腎症は、日本人における透析導入の原因疾患の第1位です。
年間約2万人が糖尿病腎症が原因で新規に透析を始めています。
尿中アルブミン・クレアチニン比という検査で早期の腎症を発見できます。
早い段階から血糖値と血圧を管理すれば腎症を進行させないで済むので
糖尿病のせいで透析になる心配はなくなります。
③糖尿病神経症
「糖尿病のせいで足を切った」と聞いたことがあるかも知れません。
それは壊疽(えそ)という病気のためで、皮膚や皮下の組織が死滅してしまった状態です。
そもそもの原因は糖尿病神経症と血流障害です。
神経症の発症においては、高血糖による「神経を養う血管の障害」も原因となりますが
神経細胞そのものに高血糖の副産物である「ゴミ」が蓄積することが大きな原因です。
初期は足先や足の裏のしびれ、知覚低下で自覚されます。
「足先がピリピリする」「畳の目が分からない」「足の裏に薄皮が1枚はってある感じ」
などと表現されます。
症状の範囲は足先から上に向かって徐々に拡大します。
そのうちに手の指先からも上に向かって進行します。
最初は感覚が鈍い、ピリピリする程度だったものが徐々に強くなり
ビリビリ、ジンジン、チクチクなど、痛みを伴うようになります。
痛くて眠れないと訴える人もいます。
しばらくして足の痛みがなくなり、治ったのかと思いきや
実は何も感じなくなってしまうようになります。
それこそ釘を踏んでも、傷がついても分からないくらいに。
その傷が化膿することが、壊疽の原因の一つになります。
逆に言えば、釘を踏んで痛いと感じる人はまだ壊疽にはならない、とも言えますね。
また感覚神経だけでなく、自律神経も障害されます。
便秘や下痢を繰り返したり、立ちくらみ、発汗異常、不整脈、排尿障害、勃起障害 などがあります。
運動神経が障害され、麻痺の症状(手や足が動かしにくいなど)が出る人もいます。
やはり早期からの血糖コントロールが大切です。
④動脈硬化
人が年をとるのと同様に、血管も年をとります。
動脈硬化は血管の老化と言えるかも知れません。
しかし糖尿病や高血圧症、脂質異常症、肥満症の人や喫煙者は
年齢よりも早く動脈硬化を起こします。
特に糖尿病の人は上記の疾患の複数を併発することが多いため
動脈硬化を非常に起こしやすいことが分かっています。
比較的若いうちから狭心症や心筋梗塞、脳梗塞を発症する危険性が高いと言われています。
食後の急激な高血糖が悪影響を及ぼしているとの報告が多くあります。
・その他の疾患
さらに最近では、これらの合併症の他にも様々な病気との関連が確認されています。
①認知症 ②ガン ③骨折 ④うつ病 ⑤歯周病 などがその代表で
血糖値が高い人ほど危険性が高いと言われています。
嫌な話ですが、糖尿病の人は寿命が10年短いと言われていたことがあります。
ただしこれは「しっかりと治療をしていない人」を含んだ統計です。
きちんと治療をしていれば、糖尿病でない人と比べても遜色ない健康な生活が送れます。
<糖尿病の治療>
糖尿病の治療の目標は、なるべく合併症が出ないようにして
「糖尿病でない人と比べても遜色ない、健康な生活を送ること」です。
血糖値を適切な値にコントロールすることで、合併症の発症・進行を抑えられます。
具体的には当面の目標は、食前血糖130以下、食後180以下、HbA1c 7%未満とされています。
より厳格なコントロールが必要な場合はそれぞれ110以下、140以下、6%未満です。
治療は ①食事療法 ②運動療法 ③薬物療法 の3つが3本柱と言われますが
何よりも大切なのは食事です。
食事がおろそかになっていると、どんなに良い薬を使用しても効果が期待できません。
そして、日々の運動が治療効果を向上させます。
アスリートのような激しい運動は必要ありません。
1日20分程度のウォーキングや水泳など、軽めの有酸素運動が効果的です。
毎日はできなくても週3回程度、継続して行うことが肝心です。
食事に気をつけ、運動を心がけてもコントロール不十分な場合に、医師がお薬の処方を検討します。
もちろん非常に血糖値が高い場合は、初めからお薬を開始するケースもありますが。
繰り返しになりますが、合併症を出さないように、出ても進まないようにすることが治療の目的です。
元気で長生きする、健康年齢を延ばす、と言い換えても良いかもしれません。
残念ながら、現在の医学では糖尿病を完治させることはできません。
しかし血糖値や血圧、脂質、体重などを適切に管理することで、余計な病気の合併を防いで
元気でいることができます。
そのためには定期的な通院、検査、治療が不可欠です。
通院治療を中断する人は、合併症の発症率が高いという報告があります。
その中断期間が長いほど、合併症が重症になるとも言われます。
治療が嫌になって通院を中断してしまい、久し振りに来院したら壊疽や腎不全になっていたという
患者さんを何人か知っています。
残念でなりません。
通院を継続している人は合併症の発症が少なく、進行が緩やかな気がしています。
たとえコントロールが不十分な人でも、そのような印象があります。
このことはあくまでも経験的なことで、データはありませんが。
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「栄養相談」という形で上手な食べ方、バランスの良い食事などについてアドバイスをしてくれます。
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奥野 茂
診療科 総合診療内科
・・・・内科全般・糖尿病・生活習慣病
学位 医学博士(群馬大学大学院)
専門 認定内科医/総合内科専門医
プライマリ・ケア認定医/指導医
日本糖尿病協会 糖尿病認定医
資格 難病指定医