● 冷凍保存 (-80℃ or -30℃) しているサンプルや標準物質の劣化の知見や、管理・保存をする上での注意点や問題点、保存可能期間等についてのおしえてください。
答:酸化しやすい化合物は用事調製が必要.溶解したストック溶液は,原則,-30℃以下(できるだけ-80℃)で保存.各代謝物の溶解後の化合物の安定性などの情報をまとめたデータベースの構築が望まれる.(和泉)
● 遺伝的に均一でも個体差によるバラつきが生じる為、上手にサンプリングを行うにはどのような事を心掛けるべきか
答:事前にマーカーとなるような遺伝子発現を確認する?操作自体は出来る限り素早く効率的に行い、非生物的な変動を抑える努力をする。他にもアイデア募集!(佐々木)
個体差が生じないようにサンプルを育てることが重要.個体差が大きくなるサンプル(変異体など)はN数(反復実験数)を増やすことで対応する.(及川)
● 固形サンプルを用いる際,ボールミル後にMix solventを混ぜて...といったような前処理が主流であるが,同時にスタンダードカーブを作製する際は抽出効率等の補正も併せてどの段階で標準溶液を混ぜればいいのか伺いたい
答:内部標準なら抽出の段階で入れるのが良いと考えられるが、MALDIやイメージングmassの場合は外部標準にせざるを得ない面もある。内生で普遍的な化合物を見出し内部標準とするアイデアもあるが、実際にMALDIやっている方からご意見募集!(佐々木)
● 農産物中の代謝物の分析に興味があります(品種や産地間の比較など)。ただ、日照、土壌などの環境や、栽培条件などにより、一次代謝物、二次代謝物ともに変動する要素が大きく、どこまで意味のあるデータになるものか、気になります。
答:環境要因によって代謝物は大きく変動するので,環境要因をどこまで標準化できるかが大切.フィールドのサンプルの解析は実際にはかなり難しい.(馬場)
環境条件を一定にできる屋内の温室などで実験を行うことによりばらつきは減るが,実際の圃場の環境条件を完全に再現することは難しい.実際の圃場で実験を行う場合は,気象条件,圃場の場所,土壌の状況(無機イオンや微生物の種類も含む)など多彩な影響を考慮する必要がある.反復実験数を増やしたり,年次によって変わらない現象を確かめたりする必要がある(及川).
● Q: 培養細胞の培養液をMSを汚さずに打つにはどうすればよいか
答:MSを汚さずに分析するのは特に親水性化合物を分析する場合には難しい.培養液には塩が高濃度に入っているので,MSを検出器とする場合その影響を受けにくいGC/MSやIC/MSが好適.(馬場)
● Q: 動物の組織切片のメタボロ解析においてばらつきを考慮するメタボロミクスの方法
答:切片の位置情報が異なると代謝物の組成も異なることから,それぞれの部位ごとに分けて分析をする必要がある.用いる分析系によってサンプル必要量が異なるので,サンプル量にあわせて部位を統合し均一化することが重要.(馬場)
● 生体サンプルをサンプリングしてから分析するまでに時間が開く場合、どのような保管方法が適切でしょうか? (生体サンプルを凍結した状態or抽出して乾固した状態で冷凍or分析溶媒に溶解した状態で冷凍、など)
答:サンプル種にもよると思うが、マウス組織等の実験者がコントロールできるサンプルの場合はなるべく早く(数分以内に)液体窒素で凍結する。もしくは、先に前処理をして水分を抜いた状態で保存するのも良い方法だと思います。最終的には、保存条件が悪くなるに従いどのような代謝物が変化するのかを実験的に確かめるのがベストだと思います。(平山)
● 実験を成功させるために、サンプルの前処理や誘導体化の段階で注意すべき点は何ですか。
答:リズミカルにやる。あまり多検体を無理して一斉に処理しない。(平山)
● サンプル調製の注意事項 (再現性を下げる要因、内部標準物質など)
答:内部標準を入れる場合ですが、適した内部標準はサンプルによって違うので注意したほうが良い。また、目的によって選ぶように心がける。(平山)
● 代謝の停止方法に関して,私のサンプルはショウジョウバエですので,微生物のみならず昆虫のサンプリング方法があるなら伺いたい
答:昆虫の場合も、なるべく早く液体窒素に入れて代謝を止めたほうが良い。ただ、ショウジョウバエ一匹は厳しいかも。。。(平山)
l ヒト生体試料でサンプルの安定性を確保したい場合、サンプルをどう取り扱うのが推奨されるのでしょうか。(抗凝固剤、不活化剤、凍結保存方法、窒素置換など)
答:どんな生体試料でも基本的には、処理中になるべく温度が上昇しないようにすることが肝要です。また、生体試料の凍結融解の繰り返しも避けてください。(平山)
● ターゲットメタボロミクスとノンターゲットメタボロミクスで、サンプルの調整方法はどのように異なるのでしょうか?
答:ターゲットメタボロミクスでは、標的分子を選択的に抽出することを目的とした前処理を行います(例:固相抽出、液液抽出、アフィニティー精製等)が、ノンターゲットメタボロミクスでは、出来るだけ網羅的に分子を検出することを目的とした前処理を行うため、有機溶媒による抽出のみで行われることが多いです。また、サンプル調整後の最終量に対して数十%程度水を含んでいることが推奨されています。我々は、50μLの血漿に対し、150μLの0.1%ギ酸を含むメタノールを添加して抽出したサンプルをノンターゲットメタボロミクスに用いております。また、ターゲットメタボロミクスでは回収率の計算が必要ですが、ノンターゲットメタボロミクスでは、全ての分子の回収率を計算することは難しいため、再現性を重視して測定系を構築することが多いと思います。(三枝)
● テーマごとに前処理を最適化する必要はあるか
答:あると思います。
また、最適化するときにどのステップを変えると一番きいてくるかを教えてほしいことがあります。それをシェアできるようなプラットフォームやコミュニティー(SNS?ヤフー知恵袋?みたいな)があると便利。
前処理があまりない分析方法もある。PESIは100成分を3分くらいでぶんせきする。
どのステップが重要かは下記のような論文があります。
Analytical Biochemistry, Volume 331, Issue 2, 15 August 2004, Pages 283-295(中山)
● 試料から成分を抽出しメタボローム分析を行う際に、試料数が多いため1日で抽出の作業が終わらない可能性がある。サンプリング条件の均一性を担保するために、試料抽出は1日でまとめて行うのが望ましいと考えられるが、1日で終わらない場合はどのような対策で均一性を確保すればよいか。
答:よほど特殊なサンプル・抽出方法でないならば、サンプル、抽出液を冷凍保存(-80℃がベター)して、複数日に分けて抽出操作を行なうのがいいと思います。そのためにも、代謝物の日間変動が大きく、凍結することにより成分が変わってしまうサンプルは初日にまとめて、もしくはサンプリングしてすぐ凍結できる状態まで処理するのがいいと思います。
またサンプル前処理は、均一性を確保するために、できるだけ、順番をランダム化して抽出操作を行うのが好ましいと思います。
また、処理に時間がかかるようなサンプル抽出の場合は、サンプルの原料を放置するリスクと抽出中に放置されるリスク(サンプル数が多くて、最初のサンプルはすぐに遠心分離できるが、最後のサンプルの遠心分離は一時間後など)のどちらが変動に寄与するかも考えながら(ときには確認しながら)、サンプル前処理全体の日程を組むのが大事です。(中山)
● 農産物(特に果実)を分析する際の糖の影響について(前処理や分析時の工夫について)
答:サンプルに糖が多く含まれている場合に起こることとして,凍結乾燥が困難な(水あめのような状態になる)ことが挙げられる.うまく粉砕できても,乾燥機から外に出すと,空気中の水分によってすぐにベタベタした状態になる.そのため凍結乾燥機から出した後も,ドライチャンバーに保管するなどの注意が必要である.個人的には,凍結乾燥サンプルを少し多めに秤量し,乳鉢上で液体窒素を入れて粉砕し,一定倍量の抽出溶媒を加え摩砕する方法が一番良いと考えている.凍結乾燥しない場合は,生サンプルを凍結粉砕後,シャーベット上のサンプルを素早く秤量・抽出する.また,糖類は水酸基を多く持つため,GCMSにおける誘導体化には注意が必要である.果実には非常に高濃度の糖類が含まれているため,キャリーオーバーにも注意しなければならない(予備実験を行い,適当な濃度のサンプルに希釈する).
糖類の分析は実は難しい.どうしても難しければ他の化合物を優先するなどの妥協も必要かもしれない.あと,イオン源からは良い香りがするが,つまりは汚れやすいので洗浄もこまめに行おう.(及川)