今回は,MetFragやMIDASに引き続き,Fragment Identificatorというフラグメント・アノテーション(解釈)のためのソフトウェアを紹介します.
Heinonen, M. et al. FiD: a software for ab initio structural identification of product ions from tandem mass spectrometric data. Rapid Commun. Mass Spectrom. 22, 3043-3052, 2008
このツールは未知スペクトルの同定というより,「既知化合物のMS/MSフラグメントの部分構造解釈」のために作られたものです.ですので,MetFragで見られるような,Unknown化合物を同定するための機能は持っていません.
ですが,「ソフトウェア」つまりグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)がちゃんと付いているので,初心者でもわかりやすく,簡単に使えるといったメリットがあります.ソフトウェアは以下から,ダウンロード可能です.PCにインストールして使うこともできますし,ダウンロードしてZip形式を解凍して得られるEXEファイルをダブルクリックするだけで使うことも可能です.
http://www.cs.helsinki.fi/group/sysfys/software/fragid/
とりあえず,管理人はZipリンクからダウンロードして解凍して,中にあるExeファイルからFiDを使用しています.
(ただ,あとから書きますが,管理人も解決できない致命的なことがあり,皆様の需要にお答えできる部分が少ないかもです…)
今回のデモンストレーションでは,MassBankに登録されているGlutamic acidのMS/MSスペクトルのアノテーションを,このソフトウェアでやってみましょう.
http://www.massbank.jp/jsp/FwdRecord.jsp?id=PR100162
まず,MS/MSスペクトルファイルを用意します.m/zとインテンシティの情報をエクセルで整理して,タブ区切りテキストとして(もしくは単純に,エクセルからメモ帳にコピー&ペーストで貼り付けて),
って感じで,Glutamate-MSMS.txtとして保存して下さい.
次に,Fragment Identificatorを開きましょう.そして,真ん中ちょい上くらいにあるSearchボックスに,Glutamic acidと入力し,Findボタンを押せば,すでにFragment Identificatorに登録されているL-Glutamateが候補としてリストボックス出てきますので,目的のL-Glutamateの行をクリックしてみましょう.そしたら,構造が左下部に表示されるはずです.
次に右上のLoad from Fileから,先ほど準備したMS/MSのテキストファイルを読み込んでください.そして,右下にある3つのボタンのうち,Calculate fragmentsというボタンを押して下さい.そしたらFragmenterの結果が出力され,各リストをクリックしてみると,どの部分構造を反映したフラグメントなのかをひと目でわかるようになっています.
いくつか見てみるとわかると思うのですが,1つのm/zに対して複数の部分構造が出力されます.そこで,右下のCalculate solutionを押すと,最も候補スコアが高く,また,「フラグメントツリーとして矛盾が無いように」最適候補を出力してくれます.
この最適化されたフラグメンテーションツリーを見ることもできます.Calculate solutionを押して最適フラグメントを出力すると,左の構造が表示されている上のDraw treeというボタンが押せるようになっています.このDraw treeというボタンを押し,View treeというボタンを押せば,以下のようにツリーを見ることができます.
さて,実際どのようにフラグメントを起こさせて,そのランク付けを行っているかですが,基本的にはMetFragで行われている方法と同じかと思います.結合エネルギーの情報をもとに,つまり「結合エネルギーが小さいものは切れやすく,大きい結合は開裂しにくい」という過程を置いているということです.実は,MetFragやMIDASは,開裂時における水素のRearrangementを考慮していないのですが(そこで,いくつか苦しい点が残る),このFiDはこのrearrangementをちゃんと考えています.
このソフトウェアの弱点は,開発がすでにストップしているということです.あとに記載することを確認するために開発者に連絡したのですが,メールもすでに届かず,ソフトウェアの開発も2008年でストップしているため,これ以上の発展は望めないと思います.
管理人がどうしても確認したかったのは,「自身で定義した構造ファイルを読み込んで,解析することができるか?」ということでした.少なくとも,管理人の現PC,Windows 8.1 OSでは,自身で定義した化合物を読み込むことはできるのですが,正常に解析されません.一応,機能としては存在しているので,もしかしたら環境の違うPCだとできるのかもしれません.どなたか,できた方がいましたらメールをいただけると幸いです.
ですので,現時点でフラグメント解析が実行可能なのは,2008年の際にKEGGに登録されていた化合物のうち作成者たちが集めたおよそ1400個の代謝物に対してのみ行うことが可能です.
次回紹介するCFM-IDは,これまで紹介したMetFragやMIDAS,そしてFragment identificatorの問題点をほとんど補っていて,さらに「機械学習」のアプローチにより「構造のみから強度値の含めて,スペクトル情報を出力する」というプログラムです.
現時点で管理人が知っている公共のソフトウェアでは,画期的なものかと思いますので,次回はこれを紹介したいと思います.それでは,今日はこの辺で.