● メタボロミクスに化合物の同定は必要か。例えば、フィンガープリントのように、化合物の同定は行わないものの、網羅的な解析自体は行っている場合は、メタボロミクスと呼んでよいのかどうか知りたいです。
答:ケースバイケース。松田先生曰く「俺メタボロミクス」なのが現状ではないでしょうか。そもそもターゲットメタボロミクスって言ってるし。(三浦)
● 現在のところデータ解析には、サーモフィッシャー社のCompound Discoverer 2.0とmzCloudを用いています(最近ver.2.1にしましたが、まだ使用していません)。測定モードはメーカーからの推奨に従い、DDAであるData dependent MSMS (ddMS2)でオートMS/MSによる測定を行っています。使用した感想としましては、検出する化合物数に対してライブラリーから同定される割合が低い(1-2割程度)ことです。これはmzCLoudのライブラリー数が不十分であることとに加え、MS/MSスペクトルは必ずしもピークトップで測定はされていないため、特に未同定化合物では良いプロダクトイオンスペクトルが得られていないことも要因の一つと考えています。この同じ測定結果を用いてMSdial等の他の解析プログラムを用いた場合、同定率が向上するなどの結果は期待して良いのでしょうか。
答:パブリックデータベースを活用する以上,同定精度にソフトウェアの違いは影響しないと考えられる.ただし,使いやすさや処理速度,検索できるデータベースに縛りはあるかもしれない.また,ピークピッキングの精度等は変わることが予想されるため,結果として同定精度に差が出るかもしれません.津川さん(@理研)が一番詳しいので聞いてみて下さい.
・オービトラップを使用する以上,MS/MSの取りこぼしは当然起こります.MS/MSの取りこぼしを少なくする方法の一つはクロマト分離を改善することです.また,ddMS/MS測定においては,溶媒由来等のバックグラウンドをたたき続けることが良く起こります.ブランクのバックグランド分子イオンピークをexclusionリストに追加すると,MS/MSの取得数は改善できます.(和泉)
● データ解析において、抽出されたピークのMS情報(MSおよびMS2)をHMDBなどのデータベースで検索しても一致しないものが多くあります。同定またはアノテーションするために何か良い方法があれば教えて下さい。
答:Compound Discoverer 2.0の質問と類似の回答とさせて下さい.(和泉)
● ノンターゲット解析で化合物を特定する際に気をつけていることやコツなど何かありますでしょうか。
答:Identifyしたいとすると、クラシカルな方法だとNMRで構造決定するしかない。候補の絞り込みには同位体ピークの親massに対する強度比とパターンに注目する事でCの数、Sやその他元素の存在を推定できる。(Nは天然存在比、Cとの質量の差分が小さいのでなかなか難しい) ただCEMSのように精製のやりにくい化合物に関してイオンモビリティのような新しい技術が福音になるか!?(佐々木)
● メタボローム解析での代謝物の同定作業に関してですが、自動同定(私はMS-DIAL(理研)を使用しています)と手動同定の利点と欠点に関して今一度ご意見お聞かせいただきたいです。
答:現状マイナーピークの同定はやはり手動で行わなくてはいけない.手動同定の利点は,マイナーピークの誤同定がすくなること,欠点は解析者ごと,その時ごとで結果が変わってくる可能性があること,時間がかかり大変なこと.機械学習を使えば将来的には自動同定に任せることができるかもしれない.(馬場)
● データ解析でマスターハンズに代謝物をアノテーションした際に1つのピークに多くの糖リン酸類(G6P,F6P,Gal1Pなど)の名前が付きます(6種くらい)。現状は同定することなく名前を複数つけたままにしていますが、改善できたりするのでしょうか。
答:標準物質を購入できるのであれば、添加してみるとよい。(平山)
● メタボローム分析の結果解析の際,成分のフラグメントの類似性は何%以上あれば採択可能でしょうか。
答:未だはっきりとした基準は分かりません・・・。脂質の場合、少なくとも構造決定に不可欠な部分が全て出ている前提に、分離時間の妥当性を含めるなどして総合的に採択判断をしています。(池田)
● メタボロミクス測定で得られた未知化合物のシグナルを同定するためのアプローチは?成功例があれば情報を共有いただければ幸いです。
答:RTの信頼性をそもそも議論すべきである。成功例はなかなか無い…
理研の津川さんの下記論文が参考になると思います。
Anal. Chem., 2017, 89 (12), pp 6766–6773(中山)
● MSデータのピーク解析を行った後の統計解析についてオススメのサイトや書籍等はありますでしょうか。
答:SIMCA-Pの取説は結構詳しくて良いと思います。他に何かご存じの方がいたら回答お願いします。日本語の書籍などあれば。(三浦)