● Biological replicateとTechnical replicateをそれぞれ何検体測定していますか?十分な反復実験を行うにはかなり測定時間がかかります。時間や手間の制約で測定数を減らす必要がある場合、何を基準にどの反復実験を妥協しますか?
答:本グループでは,technical replicateを取る人はいなかった.あるアメリカの分析化学者は,biological replicateを6以上取っていない実験デザインに対して,Analytical Chemistry誌に投稿してきた場合,内容を見ないでReject letterを書くと言っていたのを聞いたことがある.Technical replicateに関しては,質量分析メーカーには,その装置の堅牢性を示すために,必要とされることが多いのかもしれない.(津川)
● 継続して定量したい成分を複数決めてMRMでの定量メソッドを組んだ際に、RTが分析間でずれないようにするにはどうすべきか。→測定後に手作業でピークエリアを確認・ひき直すのを極力なくしたい。
答:クロマト系の改善をまず行う.今回は,HILIC系のカラムを使ってということであったが,この点において,カラム化学の革新を期待したい.しかしながら,ソフトウェア面においても,ユーザーインターフェイスの充実や,ピークピッキングの手法改善も,求められるところである.(津川)
● 現在,メタボローム分析の際に内部標準物質として「2-イソプロピルリンゴ酸」を使用していますが,これ以外にも推奨される内部標準はありますか?
答:大阪大学:Ribitol
UC Davis:保持指標計算に用いる脂肪酸メチルエステル(FAMEs)を全サンプルに入れており,そのイオン強度の総和を内部標準ピークとして用いている.
RIKEN:有機酸・アミノ酸・糖・脂肪酸など,メジャー代謝クラスに1つずつ,安定同位体化合物を入れ,内部標準として用いている.(津川)
● ノンターゲットでの測定時のLC分析条件は既報などから、以下の条件で測定を試みています。サンプルはCell lysateとその培養培地を測定しています。また、MSはQExactive Plusを用いています。 逆相LC:カラム Inertsustain C18AQ (2x100mm)、移動相 0.1%ギ酸/アセトニトリル、及び5mM酢酸アンモニウム/アセトニトリル、いずれもポジティブモードとネガティブモードで測定 HILIC LC:カラム Inertsustain NH2 (2x150mm)、移動相 0.1%ギ酸/アセトニトリル、及び5mM酢酸アンモニウム/アセトニトリル、いずれもポジティブモードとネガティブモードで測定 この場合、1サンプル8回の測定を行うことになりますが、特にネガティブモードでは検出される化合物数は少なくなっています。これらの分離モードのうち、絞り込むとすればどの測定を優先するべきでしょうか。(測定回数を減らしたい) また、これらの測定のいずれでもうまく検出されてこない代謝産物も多く存在していると考えています(例えば、生体アミン類など)。このような化合物への対応としましてはどのようなことが考えられるでしょうか。(カバー率を向上させたい)
答:代謝物の真のプロファイルが不明の為、絞り込むのはなかなか難しい。方法の1つとして代謝物解析を行う上で目的に沿うようなコアの代謝系にフォーカスして抽出効率・条件の検討を行う。また分析技術としてLCだとマルチモードカラムのような面白いカラムも登場しているので測定回数等、実験の煩雑さが減らせるかも?(佐々木)
● メタボロミクスにおいて、一次代謝物ではなく、二次代謝物を分析することの意義はございますでしょうか? →一次代謝物については弊社でも分析していますし、よく見かけるのですが、二次代謝物(テルペノイドやアルカロイド?)の網羅的分析については、あまり見かけないので。
答:二次代謝物の網羅的分析は一次代謝産物と同等には可能。また特定のUV吸光を持つものや構造を推定出来そうなMS/MSパターンが得られるものが多い為、未知化合物の解析スクリーニングも出来るかも。一方で二次代謝産物は生物種間で化合物分布に特異性がある為、汎用性という意味ではどうしても一次代謝物には劣ってしまうかも。(佐々木)
● イソプレノイドの測定で何か良いアイデアがあれば。(ゲラニル2リン酸等をESIで分析してもピークが検出されないので・・・)
答:質問者以外に検討した方がおられなかったので、広く募集!(佐々木)
リン酸など部分構造が切れている可能性がある(m/z値をチェック).そのためGPPとGGPPなどで検出イオンの質量が重なる.LCなどできちんと分離することが必須でしょう.(及川)
● 分析機器によっては感度が悪く、ピークが立ちにくい代謝物があるが、その代謝物のデータをどのように扱うか?
答:ターゲットが決まっているならば最適な機器に変更しちゃうのが手だが、機器変更が難しくinternal standardでも補正が難しい場合、GCMSで検討が進められているようにQCサンプルの分析を定期的に行い、ずれ方そのものを測定し補正する方法がある。(佐々木)
● 分析系の論文におけるLOD(limit of detection; 検出限界)やLOQ(limit of quantitation; 定量限界)は、S/Nを使用して算出すべきか、RSD(相対標準偏差)を用いて算出すべきか。また、論文ごとに算出方法の違うこれらの値は比較されるべきか
答:RSDでは悪く見えやすく、S/Nが良いかRSDが良いかは人によって意見が分かれる。また分析機器に検出限界や安定性等バラつきがあるので、報告例間の単純な比較は難しいのではないか。自らが論文作成を行う際は十分なデータの元に再現性を担保出来るようにする。(佐々木)
● 尿検体以外のメタボローム測定に関して他のオーム解析のように内部標準(一定量の代謝物を使った)での補正は可能になるのか?
答:尿サンプルにおいてはクレアチニンを用いて補正されることが多いが,実際は標準化がうまくいかず別のもので標準化することも良くある.Case by caseで対応する必要があり,ピーク面積(強度)の総和で割ったり,サンプル量(重量)で補正するなど,いくつかを試して見るのが良い.(馬場)
● 内標準物質を一定量いれていても回収率にばらつきがある場合、どのような事に気をつければいいでしょうか。
答:安定同位体を使用して,試料調製法や分析方法について再度チェックした方が良い(馬場)
● オキサロ酢酸がメタボローム分析の対象になっている論文を見たことが無いが、他の有機酸は測れてなぜオキサロ酢酸は測れないのか。
答:オキサロ酢酸は抽出過程で脱炭酸して分解し、ピルビン酸になるといわれています。
● 酢酸の分析に関して→質問事項(MS/MSを通さずに、DADで検出すれば測定可?)
答:これまで各分析装置メーカーから出されている有機酸分析のメソッドを参考にすれば分析可能.濃度にもよるが,検出器には電気伝導度検出器やUV検出器を用いることができ,MSを使う必要はない。(馬場)
● メタボロミクスがクロマトグラフィーに求める条件は何か。 保持・分離・ピーク形状などのうち何を重視すべきか。保持を重視する。クロマトグラムに点数を付ける。分離、ピーク形状、保持、
答:全て大事ですが、私の経験のみで強いて言うならば、ターゲットメタボロミクスの場合は定量性を重視するため(1)保持、(2)ピーク形状、(3)分離を重視します。一方、ノンターゲットメタボロミクスの場合は再現性を重視するため、(1)分離、(2)ピーク形状、(3)保持、の順番で重視しています。保持を優先しない理由は、多種のモードによる測定を行うためです。その他、クロマトグラムに点数をつけて最適化する方法もあるそうです。(三枝)
● 代謝物を複数個一斉に分析するときに、全部の成分に対して安定同位体を用意するのが困難な場合、内部標準はどのように選んだらよいのか?
答:一般に、クロマトグラムの各保持時間に幅広く検出される化合物を内部標準に用いることが多いです。また、MSによる測定であっても、安定同位標識化合物が高額な場合、構造類似化合物にて定量法を構築することはできます。但し、その場合は、検量線の定量範囲を十分に検討する必要があるので注意してください。最近は、アミノ酸(20種)や、TCA回路化合物等の代謝経路に注目した研究に応用することを目的とする場合は、安定同位標識化合物を混合試薬として販売しているメーカーもあります(特定メーカーの記載は控える必要があるので、情報が必要な人は三枝に聞いて下さい)。(三枝)
● 同じサンプルを連続分析しても、イオン強度が大きく異なる事が多々あるのですが、これを防ぐ方法というのはあるのでしょうか?
答:LCの場合でこの現象が起こった場合、分析カラムの条件が最適化されていない可能性が高いです。また、ODSカラムを用いた短時間分析の場合、リン脂質等の疎水性の強い成分が一分析毎に溶出しておらず、連続した別の測定で溶出されることがあるため、標的分子のイオン化に影響を与えることがあります。その場合は、前処理を工夫するか、カラムスイッチング法によるオンライン精製を加えると良いと思います。最近は多種の分析カラムが各メーカーからリリースされておりますので、色々と試行錯誤してみることをお勧めします。(三枝)
● ノンターゲットメタボロミクスでの定量は可能でしょうか?
答:世間で求められる8割はノンターゲットメタボロミクス
同位体を用いて定量する方法が推奨される。「ノンターゲット」メタボロミクスという点ではやはり定量は難しい。ノンターゲットはスクリーニング。そのあと、ターゲットメタボロミクス化するのが無難。(中山)
● 標品がないような代謝物を定量可能にするにはどのような手順を踏めばよいのか。
答:定量分析は質量分析が最も苦手としているところ。
MSは化合物毎にイオン化効率が違うので、標品がない代謝物は現状では定量は不可能です。
測定したい化合物を測っているラボに問い合わせしまくって、標品を貰えるかトライしてみる。
将来、構造情報等を元にイオン化効率が推定できるようになって定量ができるようになるといいですよね。(中山)
● 現状でbetterなノンターゲットメタボローム解析の分析法と装置は?(単一もしくは組み合わせ)
答:GC/EI/Q-MSがコストパフォーマンスではいいと思う。EIスペクトルのライブラリも充実している。GCで測れない物質はLCが一つの選択肢だが、その場合、MSはQ-TOF、Q-FTあたりが化合物推定をする上で最低限必要だと思われる。
ただ、そもそも本当にノンターゲット分析が必要か一度考えて見たほうがいいです。大規模なターゲット分析でも十分な場合もある。
ノンターゲット→ワイドターゲット。対象に合わせてノンターゲットのシステムを変えている研究施設もある。
脂質はいいけど、親水性は一本で図るのは難しい。また、抽出方法を考えて適切にノンターゲットをするのがいいと思う。そういう意味ではラフでもいいからあたりが付いている方が望ましいケースもある。(中山)
● サンプルや研究目的ごとに適する分離や検出装置の例や、その装置の特徴について知りたいです。
答:(クロマト分離部)
GCMS;揮発性成分の分析,誘導体化すれば比較的広範囲の化合物を対象にできる,アノテーションが容易
LCMS;GCMSで分析が難しい化合物も可能,脂質分析
CEMS;アミノ酸,糖リン酸など一次代謝(誘導体化不要)
(質量分離部)
QMS;安い,小さい,比較的低真空で良い,目的によっては十分な性能
TOFMS;高分解能,分析スピード,メタボロミクスでは分析例が多い
ITMS;小さい,MSn分析,TOFなどとの組み合わせが有効
オービトラップMS;高分解能,高感度,FTより安くて使いやすい
FTMS;超高分解能,超高感度
tripleQ, qTOF, ITTOF, qFTなど;MSn分析,脂質や二次代謝物など構造が複雑な化合物分析に有効(及川)
● 動物細胞についてフマル酸を分析すると、ピークが検出できるときとできないときがあります。なぜでしょうか。細胞数が多くても測れないときがあります。
答:(他の有機酸は検出できている)
検出限界ギリギリの濃度を見ようとしているのならば,サンプル間差や分析誤差などによって検出できていないのかも
濃度は十分検出できるはずなのに見えていないのは,ミスアノテーションなどの可能性あり(及川)
● RepresentativeなISによるマトリクス効果の補正
答:そもそもRepresentativeなISがありません。測定対象、分析プラットフォーム毎に検証されているのが現状だと思います。(三浦)
● アニオンの解析では、検出されるピークの形状(ギザギザした形)から、複数名前が付けられることがあります。大抵の代謝物に複数名前が付くのですが、代謝物によって差があるような気がします。ピークがよりギザギザしやすい代謝物には共通した特徴がありますか。
答:解析パラメータ(スムージングなど)で解決?(三浦)