GC/MSメタボロミクスでは,基本的にはメトキシアミンによるオキシム化,およびMSTFAによるトリメチルシリル化(TMS化)を行います.
ですので,「ありのまま」を測定するのではなく,「誘導体化後」の化合物を測定するわけですので,時としてデータの解釈に注意が必要となります.
たとえば,メトキシアミンはケトンのC=Oに対して反応をするわけですが,この誘導体化後の形,C=N-O-CH3に関しては,E体として,およびZ体として,両方の反応物が同時にできてしまいます.そして,この2つは保持時間が異なるため,ケトン基を持つ化合物に関してはピークが2つ存在するものがあります.
では,この2つのピークのうち,どちらがE体で,どちらがZ体なのでしょうか?
また,どちらのほうがピークが大きくなるのでしょうか?(反応生成物としてできやすいのか?)
また,たとえばアミノ基-NH2を持っている化合物に関して,この反応性プロトンに対してTMS基が付くことになりますが,-NH2の反応効率は化合物の立体配座や誘導体化条件に深く関わり,
-NH2・・・何も反応しない
-NH(TMS)・・・1つだけ反応する
-N(TMS)2・・・両方のHがTMSに置き換わる
というように,時には1つの化合物から上記3つのパターンのピークが,すべて検出されることになります.
それでは,ある化合物に着目した時,TMSは何個入るのか?また,どれが一番ピーク強度が高く出るのか?保持時間はどのように変わるのか?
この上,これら反応物の生成比は,時間,温度によっても変化することが知られており,時にアミノ酸の定量には注意が必要となります.
以上のような,保持時間,マススペクトルの化合物ライブラリーに加えて,
「化合物の誘導体化後の立体構造」
ならびに
「E体Z体の区別」
「どの誘導体化産物がメジャーに観測されるか」
「TMSの数や時間変化等」
の情報を,
大阪大学工学研究科D1の松尾晃子さん
ジーエルサイエンスの宮川浩美さん
がまとめてくれました.どうもありがとうございます!
少し,専門家向けではありますが,誘導体化後のSMILES(立体構造を定義するためのフォーマットの1つ)や,「分子イオン(親イオン,プリカーサーイオン)」の情報も含まれています.
分子イオンは,EI法でフラグメンテーションを起こさせてしまうと,強度的にはすごく低くなってしまい,見えないことも多いです.ですが,「意外と」見えます.
誘導体化後の形を整理していただいたことで,「どのm/zが分子イオンか?」や,実際の所,メチル基が1つ抜けた[M-15]+として検出されることが多いですが,そのような情報も含めて,整理していただいています.これらは,同位体標識実験におけるトレーサーイオンとしても使うことができるので,便利かと思います.
それでは,よろしくお願い致します.
TMSをまとめたエクセルファイルはこちらから:https://goo.gl/7njJy9