㈱実用技術研究室
超短パルスレーザー応用、レーザー微細加工、技術コンサルティング
超短パルスレーザー応用、レーザー微細加工、技術コンサルティング
開講準備「1. 可視光,光の色 (Mar. 11, 2025)」,「2. 数値的検討 (Mar. 25, 2025)」.
「1. 光線光学,屈折率 (Apr. 8, 2025)」,「2. 光,電磁波 (Apr. 22, 2025)」,「3. 光の場 (May 6, 2025)」,「4. 電磁波の作用の周波数依存 (May 20, 2025)」,「5. 照射光子間平均距離,照射光子面密度 (Jun. 3, 2025)」,「6. アブレーション加工機と真空紫外 (Jun. 17, 2025)」
「7. 光線・幾何光学 (Jul. 8, 2025)」,「8. 波動を特徴づける諸変数 (1) (Jul. 22, 2025)」,「9. 波動を特徴づける諸変数 (2) (Aug. 5, 2025)」
(Mar. 11, 2025)
「実用技術塾・改」開塾準備1 「可視光、光の色」
街にあふれる電飾は,様々な「色」の光を放つ.多くの人にとって,「光」「光線」を特徴づけるものの一つは「色」であろう.例えば,照明光が赤いリンゴを照らしたならば,リンゴ表面では赤を除いた「光」が多く吸収され,赤を主成分とした「光」が反射され,これが眼に届く.リンゴから眼に至る光路において,光線は赤いのか? 多くの人は,赤い光線が走っていると思うだろう.もう少し掘り下げてみる.光を感じるのは何か? 人間では眼の網膜,もう少し詳しくは桿体(明暗),錐体(色)が光を感じる.人工的な機器,例えば光パワーメーターによって,光の存在(明暗)をとらえることができる.一方で,人工物は光の色を直接に判断できない.光の波長を計測できる人工物はある.その場合でも波長と色との対応は,人為的に与えられる.話が冗長になってきたので,結論に移る.自由空間を走る「光」「光線」は,波長を有するが,「色」は持たない.「色」は「光」が網膜に届いた際に錐体が付加する情報である.「色」が,「光」を特徴づける性質でないことが理解できた .
日常生活における「光」を考える.多くの人にとって,「光」とは「可視光」である.眼に見える光,視野・視界を明るくしてくれるものを,日常生活で「光」と呼ぶ.紫外光,赤外光は眼に見えないから,日常生活では「光」としない.眼に見える=桿体が感知できる「光」が「可視光」である.「光」を特徴づける性質による分類ではなく,網膜の機能による分類である.光の現象や,光に関する技術を論じるにあたり,日常生活における「常識」,「光」=「可視光」は,邪魔なだけで,益はない.
人類の発生において,液体の水の存在が重要であったという.気相や固相の水を避けるには,熱源・光源である太陽から適当な距離にある必要がある.その距離では降り注ぐ光子の密度は高くなく,「光」が物質に強く作用することはない.「光」は空気と同様に,あって当たり前の,有難い存在である.日常生活において,時として空気の流れである風は人間にとって脅威となることがあるが,ほとんどの場合において「光」は人間に穏やかに寄り添う.太陽光を虫眼鏡で集め,黒色紙を焼く.低学年の小学生が授業で経験するほどであるからまあ安全であるが,集光を眼に入れた場合は失明の危険があることも教わる.地上で経験する穏やかな「光」についてのこの学習は,レーザーの熱応用で割と役に立つ.
超短パルスレーザーについての初学者は,適切なイメージを得るのに苦労する.超短パルスレーザーが他のレーザーと大きく異なる点は,光子の時間密度が桁違いに高いことにある.超短パルスレーザーの集光点の光子の時空間密度は,日常で教わる危険な「光」=太陽光の凸レンズ集光点の実に~100万倍である.これほどの差があると,日常生活での「光」についての「常識」は, 超短パルスレーザーによるアブレーションの理解に全く役に立たない.
新しく技術を習得する場合や技術的課題に直面した場合など,これまでに覚えた技術知識や習得した技術に加えて,日常生活を通して得た「常識」をもとにして理解や解析を試みる.日常生活における「光」に関する理解は,確かにレーザーの熱応用では役に立つが,超短パルスレーザー応用では全く役に立たない.超短パルスレーザー応用に興味のある方は,これを強く意識されたい.
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(Mar. 25, 2025)
「実用技術塾・改」開塾準備2 「数値的検討」
代表的なレーザー熱加工に金属板材への「貫通穴あけ」がある.所望の場所にレーザービームを集光照射する.多くの場合,持続時間がミリ~マイクロ秒程度のレーザーパルスの1ショットと,照射ビームと同軸に配置されたガスジェットを用いる.レーザー照射により所望の場所の金属材料を溶融させ,その金属融液をガスジェットで吹き飛ばすことで,所望の貫通穴を得る.非常に明快である.
中学~高校で,物質の三態や融解熱,気化熱を学ぶ.所望の場所が溶融した後もレーザーを照射し続ければ,やがて金属融液は金属蒸気に変化して飛散してゆく.わざわざガスジェットを用いなくとも,貫通穴形成は可能であり,系が単純になるので加工の再現性・安定性は増すと思われる.
厚さ1.0 mmtの鉄(Fe)板に,直径0.2 mmφの貫通穴を形成する場合を考える.除去すべきFeは,4.42E-6 molに相当する.Feは融解熱13.8 kJ/mol,気化熱340 kJ/molである.穴の体積に相当する固体Feを溶融させるのに0.061 J/pulse,Fe融液を気化させるのに1.5 J/pulseのエネルギーが必要になる.(温度上昇に要する比熱分のエネルギーは無視した.) 1ショットで固体を気化させて貫通穴を形成するのに必要なパルスエネルギー 1.56 J/pulseを出力できるレーザー光源は入手可能であるが,高価である.熱拡散やその他エネルギーロスを考慮すると,実際に必要なパルスエネルギーはさらに大きくなると予想される.一方で,沸点に至らなくとも,融点を大きく超えれば融液の粘性は下がってガスジェットにより容易に吹き飛ばせる.さらに穴周囲のドロスやドロップレットの付着の低減,穴形状のキレの向上の効果も加わり,同軸のガスジェットの併用が主流になったと思われる.
溶融熱,気化熱またガスジェットなど,この領域の技術者であれば誰でも耳にするが,ただ知っているだけの知識に過ぎない場合が多い.それらを,生きた技術知識とするのに,ここで紹介したような数値的検討が役に立つ.
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(Apr. 8, 2025)
「実用技術塾・改」1 「光線光学,屈折率」
レーザー光源からワークに至るレーザー光路の検討では,「光線光学」が用いられる.『(1) 「屈折率」が一様な媒質中で直進する』 『(2) 鏡面で反射し,入射角と反射角は等しい』 『(3) 屈折率界面でスネルの法則に従って屈折する』 『(4) 光路長最短の法則』 等からなる光線光学は,日常生活での経験を基に直感的に理解しやすい.(4) は馴染がないと多くの方は思われるだろうが,夏の灼熱の道路で現れる逃げ水や,魚津市でよくみられる蜃気楼等がそれである.「光線光学」を基に諸検討を行う際に重要となるのは「屈折率」である.
レーザー熱加工では,レーザーのエネルギーが照射点で熱に変換され,加工点温度が上昇する.どれ程のエネルギーが吸収されるかは,光透過性材料は光吸収係数から,非透過性材料は (1-エネルギー反射率) から推測できる.消衰係数と呼ばれる「複素屈折率」の虚数項と光吸収係数が直接関係すること,またエネルギー反射率が「屈折率」から算出されることは,この分野の技術者には自明である.ここでも「屈折率」は重要である.加工に先立って加工材のレーザー波長での「屈折率」を得ておくことは,レーザー加工屋の基本である.
一方で,材料表面での光の吸収・反射特性は,材料の表面状態に敏感である.多くの場合,加工対象の表面は汚れており,また表面に酸化層が形成されている.このような材料表面での光の吸収・反射は,清浄表面で期待されるものと異なる.加工材の表面状態を事前に把握しておくことは加工全般における基本であるが,非接触加工であるレーザー加工では特に重要である.
中学~高校で学ぶ「光線光学」,複素数へと拡張された「複素屈折率」は,割と広い分野で有効であり,役に立つ.レーザー熱加工では,これらを基に照射(加工)点で発生する熱量を推測する.以降は熱の問題であり,材料の熱特性,熱拡散等を用いて課題を検討する.
広い分野で有効なこれらの考え方は,超短パルスレーザー加工ではほとんど役に立たない.次回以降,光とは何かに立ち返って,光と物質の相互作用を考える.
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(Apr. 22, 2025)
「実用技術塾・改」 2 「光,電磁波」
光とは何かを考える前に,日常における「光についての誤解」を解いておく.レーザーを取り上げたTVニュースなどで,ビーム状のレーザーが鮮やかに映っていることが多い.処によっては観測用のレーザービームが空に向けて出射されているのを眼にすることがある.円筒(ビーム)状の赤や緑のレーザーを見て,「光そのものが色を持ち」,「(可視)光があるならば必ずその存在を目視できる」と殆どの人が思い込んでいる.「色は網膜の錐体が付与する情報」であることを,既に「開講準備1」で示した.大気圏内でレーザービームの形をくっきりと眼にすることができるのは,大気中の塵・埃が光を散乱するからである.散乱光のうち眼に入ってくるものによって,ビームを直接眼にしていると勘違いする.例え顔の真横をビームが通っていたとしても,「眼に入ってくる成分がないならばその存在を眼では認識できない」.このことはクリーンルーム関連の技術者には自明である.
光は電磁波である.多くの場合,例えばある時刻における電磁波を,伝播方向をz,電場(界)の振動方向をx,磁場(界)の振動方向をyにとった図で示す.これは直線偏光である.(楕)円偏光であったとしても,伝播方向,電場及び磁場の振動方向の三つは各位置で互いに直交している.ある地点における電磁場の時間変化は,先の図の(-z)を時間 t と取ることで得られる.殆どの人は,直線偏光や楕円偏光の電磁波の図を示されてもピンとこない.何故か.生活において電磁波はスマホ・テレビ・ラジオ等のデータの送受信,電子レンジの加温等に利用されているが,多くの人は実際にどのように働いているかを十分には理解していない.一方で,生まれてから現在に至るまで,光は人々の生活に寄り添い,人々は光を良く分かった積りでいる.その光が,ラジオ波やマイクロ波と同じ仲間であるとはとても思えない.・ ・ ・日常生活ではそのままでも構わないが,少なくとも超短パルスレーザー加工技術を考える場合は,正しく理解する必要がある.
超短パルスレーザー加工の典型条件(波長約530 nm,パルス幅180 fs)では,ワーク表面での平均光子間距離は約 1.6 nmである.集光照射している超短パルスの持続時間の間,ワーク表面の縦横間隔が1.6 nmの網目格子の全てに常に光子が存在しているとみなせる.地上の太陽光(平均光子間距離約 50 μm)で同様の網目格子の全てに光子を入射させるには,約 163 μsを要する.このように穏やかに光子が降り注ぐ環境であったから生命,人類が地球上に誕生できた.一方で,一つの光子がワーク表面に何らかの変化を引き起こしたとしても,このように光子がまばらにしか飛来しなければ,同一点に次の光子が来るまでの間に変化は元に戻ってしまう.超短パルスレーザー加工では,一つの光子が引き起こした変化が継続している間に,隣接する或いは次に飛来する光子によって更なる変化が生じることが予想される.日常生活での経験では,太陽光は暖かさを恵んでくれるものであり,その理解で特段の支障はなかった.超短パルスレーザーの集光照射点では,光そのものによって直接に物質の集合状態に変化が生じる.これを理解するベースとして,光と物質の相互作用,広義の光電効果が重要である.
次回,光電場,光磁場が,何に,どのように作用するかを考える.
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(May 6, 2025)
「実用技術塾・改」 3 「光の場」
電磁波としての光を考える入り口として,先ず静電場について復習する.高校の物理で静電場を習う.最も単純な系として,二枚の無限の広さの導体平板を平行に距離 r [m] 隔てて設置し,平板間に φ [V] の電位差を与える.平板間には E = φ / r [V/m] の一様な静電場が形成される.この静電場中に q [C] の電荷を(持つ質量 m [kg] の粒子を)置くと,電荷の符号に応じた向きに F = q E [N] の力を受ける.平板間が真空であるならば,運動方程式 F = α m に従い,平板に到達するまでの間等加速度運動をする.荷電粒子の運動は電流とみなされ,磁場が生成される.この磁場の形成はアンペールの法則に加え、ビオ・サバールの法則により記述される.一度学んだことであるから,静電場の復習は難しくない.であるのに,これが光電場に繋がっていくというのが「何となく腑に落ちない」という人が多い.何故か? 静電場の存在は「潜在的」である.そこに電荷や電気双極子を持ち込んで初めてそれに働く力として,或いはそれになされる仕事によってその存在を知ることができる.一方日常での光の存在は,「顕在的」である.探さずとも,あればそこが明るく見える.「潜在的」なものと「顕在的」なものは,別物と思える.
高校では,静電場よりも先に地球と地球上の質量を有する物体との間に働く重力場を習う.地面や机の上の物体,木にぶら下がった果実などは静止しており,重力の影響は隠れている.これらの物体も,支えの無い自由空間に置かれると重力が働き,等加速度運動が地面に達するまで続く.地上から h [m] の高さにあることで質量 m [kg] の物体が持つ位置エネルギー m g h (g: 重力加速度)が,地面に到達する時には運動エネルギー (1/2) m v^2 に姿を変える.物体が支えのある状態にあるとき重力場の存在は「潜在的」であり,支えを失った物体が自由空間にある時その働き・影響は「顕在化」する.「潜在的」であることを「ポテンシャル」の語で表す.
前回解いた「光についての誤解」を思い出してほしい.レーザービームが直接に眼に入らずとも,大気圏内でレーザービームが明瞭に見ることができるのは,大気中の塵・埃による散乱光が眼に届くからである.何もなければその空間を光は文字通り「素通り」する.「素通り」状態にある光を我々は知ることができない.光とモノとの間で力が作用したりエネルギーの移動があるとき,そのモノを通して我々は光の存在を知ることができる.光は場である.光の場は「潜在的」・「ポテンシャル」であり,モノと出会わなければ「素通り」し,モノと出会うと力を及ぼしたりエネルギーのやり取りをする.
光が塵・埃により散乱される場合の多くは,エネルギーの変化は無視できる.我々の興味は,光のエネルギーの加工への応用である.特別な場合を除いて,以降光の散乱は議論しない.
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(May 20, 2025)
「実用技術塾・改」 4 「電磁波の作用の周波数依存」
静電場,静磁場は時間に依存せず一定である.電磁波の電場,磁場は周波数に応じて変化する.低周波数では時間変化はゆっくりであり,高周波数ではせわしなく変化し続ける.静電場中での「荷電粒子」や「電気双極子」の挙動 (力学的運動) から,低周波数の交流電場下の「荷電粒子」や「電気双極子」の力学的運動が推測される.一方で,高周波領域では高周波変化に追従した力学的運動は困難であろうと思われる.
通信や放送に,ラジオ波と呼ばれる電磁波が利用される.ダイポールアンテナは,ラジオ波の交流電場がアンテナ上の「荷電粒子」に作用して生じる電荷分布 (電圧) 変化を信号として用いる.ループコイルアンテナは,ラジオ波の交流磁場により生じる誘導電流の変化を信号として用いる.
もう少し周波数が高いマイクロ波 (300 MHz~300 GHz) は,スマホや衛星放送,電子レンジ等で利用される.アンテナの方式は変わるが,交流電場や交流磁場の「荷電粒子」への作用により信号を得るのは同じである.電子レンジでは,「永久(電気)双極子」である水分子が,電場の符号変化に応じてその向きを変化させる際に生じるエネルギー損失 (発熱) を利用する.いずれの場合も,「荷電粒子」としての「電子」或いは「電気双極子」が実際に動く.ここで現れてくるエネルギーは量子化されておらず,連続の値を取る.それゆえに,ここまでの領域の電磁波は ”波” としての性質を強く示す.
近赤外から浅い紫外領域 (100 THz~1000 THz) の電磁波 (光) の場合を考える.この領域では,原子や分子を構成する「軌道電子」や,分子を構成する官能基 (側鎖,置換基) に現れる正電荷分布中心と負電荷分布中心の空間的ずれ (電気双極子) に作用する.作用の結果「軌道電子」は軌道遷移するが,光子のエネルギーと軌道遷移に必要なエネルギーは等しくまた離散的な値を持つ.また官能基等に分子振動が励起される場合も,励起される振動モードのエネルギーと光子のエネルギーは等しくまた離散的な値を持つ.この周波数領域では,「荷電粒子」や「電気双極子」が属する原子や分子はほとんど動かず,作用の結果,「電子」や「電気双極子」のエネルギー状態が変化する.従って,低周波領域における「荷電粒子」や「電気双極子」のマクロ的な運動は認められない.さらに電磁波を量子に捉える方が理解しやすくなる.
より高い周波数領域に移る.浅い紫外と深紫外の間で区分する.周波数で約1000 THZ,光子エネルギーで約4.4 eVが境目となる.この領域でも,電磁波の作用する対象は荷電粒子である「軌道電子」であり,電磁波は量子的な性質を強く示す.低周波数の電磁波の作用と明らかに異なる特徴が現れる.(1) 低周波数領域では作用対象は母材 (原子,分子,固体,…) に留まるが,深紫外を含む高周波数領域では,作用の結果,母材の束縛を断ち切って真空準位に達するものが出てくる.(2) 近赤外から浅い紫外領域では,軌道遷移や,振動モード等の励起に要するエネルギーと,光子エネルギーは等しくなければならなかった.軌道電子が真空準位に至るためには仕事関数或いは光イオン化エネルギーを超えるエネルギーの光子であればよく,過剰のエネルギーは自由空間に飛び出した電子の運動エネルギーとなる.これらの作用・現象は,光電子放出や光イオン化,また分光分析の分野ではUPS (Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy) やXPS (X-ray Photoelectron Spectroscopy) として理解され,また利用されている.
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(Jun. 3, 2025)
「実用技術塾・改」 5 「照射光子間平均距離,照射光子面密度」
金属結合やイオン結合,共有結合等,物質や固体の成り立ちに重要な役割を果たしている「価電子」は,深紫外を含む高周波数 (高エネルギー) 電磁波によって,物質や固体から引き抜かれて真空準位に達することを理解した.然しながらこれまで,光電子放出や光イオン化の結果として,照射部の体積が大量に除去されたという報告を耳にしたことはない.我々が実験室や職場で目にしているレーザーアブレーションと,光電子放出や光イオン化とを結びつけるには,照射光子間平均距離や照射光子面密度を考える必要がある.
照射スポットにおけるパルス体積をパルスに含まれる光子数で割り,その三乗根を取ることで,照射光子間平均距離が得られる.ナノ秒パルスレーザーによる微細加工の典型条件 (波長532 nm,パルス幅10 ns,パルスフルエンス5 J/cm2) の照射光子間平均距離は28.2 nmである.フェムト秒パルスレーザーによるアブレーション加工の典型条件 (波長530 nm,パルス幅180 fs,パルスフルエンス0.5 J/cm2) の場合は1.59 nmである.典型加工条件からパルスフルエンスを下げてゆき<0.01 J/cm2では金属材料においてもアブレーションが殆ど期待できない.この場合の照射光子間平均距離は>5.87 nmである.ナノ秒パルスレーザーでは,特殊な材料で多光子過程による波長変換が利用されているが,通常の材料では多光子過程は殆ど観測されない.一方でピコ秒,フェムト秒レーザーでは,集光照射でアブレーションが観測されている.可視光の周波数領域での多光子吸収の出現確率は,照射光子間平均距離が数十nm程度では極めて低く,数nm程度よりも短くなると急激に増大し,ほぼ1になると推測される.また,この多光子吸収の出現確率の閾値は,多光子吸収の次数の増大に連れて僅かずつ大きくなるが,全体としては照射光子間平均距離が約5 nmよりも短くなると次々と立ち上がっていくように思われる.
固体の銅から銅原子を一つ取り出すのに必要なエネルギーは,昇華熱に等しい.アブレーションの場合は光電子放出が基になっており,固体表面から銅イオンと電子の対が取り出されるので,対あたりに必要なエネルギーは昇華熱と第一イオン化ポテンシャルの和,約17.4E-19 J / (Cu+ & e)である.波長530 nmの光子エネルギーは3.75E-19 Jであり,固体銅表面から銅イオンと電子の対を一つ取り出すのに,5つ分の光子エネルギーが必要になる.パルスエネルギーを光子エネルギーで割り,さらに照射点のスポット面積で割ると,1パルス照射時の照射スポット内の照射光子面密度が得られる.アボガドロ数をモル体積で割ると,物質の原子密度が得られる.被照射材が銅 (Cu) であるとき,8.47E22 /cm3である.照射光子5つで固体銅表面の銅イオンと電子の対一つが脱離するとしたとき,(照射光子面密度 / 5) を物質の原子密度で割ることで,1パルス照射時の除去深さが算出できる.フェムト秒パルスレーザーによるアブレーション加工の典型条件 (既出) では,照射光子面密度は1.33E18 / cm2である.多光子吸収が安定に成立する閾値近傍のパルスフルエンス~0.01 J/cm2では照射光子面密2.67E16 /cm2.それぞれの 1/5 を銅原子密度で割り,1パルス照射による除去深さは,典型加工条件で31.4 nm,多光子吸収の閾値パルスフルエンス近傍で0.630 nm.実用上,この50倍の差は大きい.例えば典型加工条件で1時間で済む加工が,加工閾値近傍では約2日を要する.アブレーションによる体積除去は,照射光子面密度が1E18 /cm2程度を超えないと実用的にならない.
実験を通して得られた経験知を駆使すると,上述の絵が描ける.照射光子間平均距離と多光子吸収の出現確率等の詳細については,研究機関等の取り組みに期待する.
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(Jun. 17, 2025)
「実用技術塾・改」 6 「アブレーション加工機と真空紫外」
光電子放出や光イオン化によって材料表面から価電子を大量に脱離させることが,アブレーションに繋がることを理解した.可視~近赤外の超短パルスレーザーを用いる場合,光子エネルギーが足りないので,多光子吸収が必須となる.より波長の短い光源を用いれば,多光子吸収に依存せずにアブレーションが実現できるように思える.一般に深紫外は200~300 nm (約1.0~1.5 PHz),真空紫外は100~200 nm (約1.5~3.0 PHz) とされる.光子エネルギーは,深紫外 (約6.63~9.95E-19 J),真空紫外 (約9.94~19.9E-19 J) である.一方,光電子放出の仕事関数はおおよそ5.6~9.6E-19 J,絶縁材料の光イオン化エネルギーはおおよそ6.4~13.6E-19 Jの範囲にある.深紫外光源を用いれば金属材料の殆どでアブレーションのきっかけとなる光電子放出を,真空紫外光源を用いれば絶縁材料を含むほぼ全ての材料で,多光子吸収に依存せずに価電子を真空準位に遷移させることができる.
「実用アブレーション加工」は,除去したい体積内の (固体形成や分子形成の役割を担っている) 価電子を,極短時間にほぼ根こそぎに真空準位に遷移させることが前提となる.例えば波長約530 nm,持続時間が10 ps~180 fsの超短パルスレーザーの場合,加工部での照射光子面密度として ≧ 1E18 /cm2 が必要である.この光子密度を持つ平行ビームは光学素子等に損傷を生じさせる.ビーム断面における密度は光学素子の損傷閾値以下とし,集光照射部でのみ必要な密度を得るのが実際的である.実用加工機を前提とすると,ビームの集光照射に限定される.一般に,ガラス製凸レンズが集光に用いられる.深紫外の200 nmあたりまでは石英ガラス製レンズを安定に利用できるが,真空紫外になると,特殊な材料や一般的ではない構造の集光素子が必要となる.真空紫外の名前は,大気中の酸素や窒素などによって強く吸収されるため,安定に利用するには真空を必要とすることによる.従って真空紫外光源を用いようとすると,真空チャンバが必須となる.現時点では真空紫外光源を用いたアブレーション加工機は,汎用性に劣る.
石英ガラス製凸レンズが利用でき,かつ真空を必要としない波長であることは,実用の観点で重要である.境目の波長をおおよそ200 nmとする.発振波長1 µmの第五高調波が,この境目にあたる.第五高調波の工業利用は,「必要な高調波出力レベルを安定に想定コスト内で得られるか」の観点で問題がある.現状では,第二及び第三高調波出力が工業的に安定に利用可能と考えられる.レーザー波長が短いと,多光子吸収に依存しないアブレーションが期待でき,また依存するとしても多光子過程の次数が低くて済み,アブレーション加工の閾値パルスフルーエンスが低くなる.工業的アブレーション加工に適した光源は,発振波長1 µmの第四高調波出力と予想される.同一加工を,第二,第三,第四高調波出力で実施した結果の比較が,発振器メーカーや加工機メーカーから公開されることを期待する.
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(Jul. 8, 2025)
「実用技術塾・改」 7 「光線・幾何光学」
レーザー微細加工の技術的裾野は広い.従事する研究者や技術者は,研究・開発内容の向上のために基礎技術の学習・習得に余念のないことと思う.まず手始めに,復習のために学生時代の光学のテキストを手に取ることが多いであろう.光学は,内容によって大きく「光線・幾何光学」と「波動光学」の二つに分けられる.さて,それぞれ,レーザー微細加工の諸検討にどれ程役に立つであろうか.
幾何光学は, 『(1) 「屈折率」が一様な媒質中で直進する』 『(2) 鏡面で反射し,入射角と反射角は等しい』 『(3) 屈折率界面でスネルの法則に従って屈折する』 『(4) 光路長最短の法則』等からなり,最初に「一本の光線がどのように伝播するか」について習う.次いで,無収差のレンズにおける焦点,結像を学ぶ.レーザー微細加工ではなく,マクロ加工であるならば,ほぼビームを一本の光線とみなした検討で殆ど支障は生じない.中学・高校の理科・物理が理解できていれば十分である.然しながら,微細加工では殆ど役に立たない.微細加工で重要となるのは,焦点や結像の「質」である.理想的な焦「点」は得られない.利用しようとしている焦点がどの程度の広がりを持ってしまうか,或いは結像にどの程度のボケや歪が出るかの理解が重要である.これらの問題は,幾何光学の中でも収差の問題として扱われる.然しながら,その学習は少々敷居が高い.中学生でも理解できるスネルの法則の範囲でこれらを十分に検討しておくことは,「光学的センス」に磨きをかけるのに役立つ.
焦点の形成も,結像も,レンズの問題である.レンズは曲面を有しているので,一本の光線だけではその機能を求められない.レンズ曲面で屈折する数多くの光線の総和として,焦点や結像の質を評価できる.レンズ入射面及び出射面の表式,レンズ屈折率,光線の始座標,レンズ入射面上の光線座標から,レンズ入射面での入射角・屈折角,レンズ出射面上の光線座標が得られ,次いでレンズ出射面での入射角・屈折角,レンズ出射面以降の光線の伝搬の様子が得られる.手計算であるならば,一本の光線について計算を行うだけで,以降の気力が続かない.然しながら,国内の殆どの研究者・技術者の手元には,Excelや同等の機能の表計算ソフトがある.シートを作る手間は,一本の光線についての手計算に要する手間程度である.数十本の光線についての計算及びそのグラフ化は,Excelがやってくれる.平凸レンズのどちらを入射面とするのが微細な焦点を得るのに適しているかのExcel計算による比較,ザイデルの五収差のExcel計算による再現等を行うことで,レンズをどのように使いこなしたらよいかが,具体的に理解できる.
初級の幾何光学の知識は,有していて当然であり,持たぬままにこの仕事に就くことは無謀である.その復習はするに越したことはないが,したからと云って技術レベルの劇的な向上につながる訳でもない.役に立つことが期待できるのは,収差論あたりであるが,無味乾燥でテキストで独学するのは一寸辛い.面倒なところはExcelに任せ,数値計算的に理解・体得されることをお勧めする.
「レーザービームはコリメートされており,近軸近似が成立する条件でレンズに入射させるので,ザイデルの五収差の影響を受けない」と理解されている方にとっては,ザイデルの五収差のExcel計算は無意味と思われるだろう.実は,レンズが無収差であったとしても,ビーム特性に起因する収差が微細加工に影響を及ぼす.この収差の影響の理解に,ザイデルの五収差のExcel計算による再現の経験は役に立つ.
Excelは,実に多様・多種の関数が備わっている.このExcelの利用の経験を契機に,これまであまり利用の機会のなかった技術者の方々が,活用の度合いを深め,より大きな技術的成果に繋げてくれるならば,それは望外の喜びである.
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(Jul. 22, 2025)
「実用技術塾・改」 8 「波動を特徴づける諸変数 (1)」
波動光学のテキストは,Maxwell’s equationsから波動方程式を導くことから,或いは波動方程式から始まるものが多い.光学のexpertを目指すならば,この手順を一度踏んでおくことを勧める.一方で,レーザー微細加工を専門とし,波動光学的知見を道具として活用したいならば,波動方程式はそこそこに,波動を特徴づける諸変数を深く理解するのが良い.
波動を正弦,余弦或いは指数関数で表すことが多い.「波動方程式を解くとこれらの関数で表される波動が出てくる」と思っているならば,それは誤りである.「波動方程式にある関数を代入してそれが式として成立するならば,その関数は波動を表す」が正しい.波動方程式を満足する関数であればどれを用いても良く,自分の扱いやすい関数を選択する.テキスト毎に,波動の表式が少しずつ異なり,独学・自習しようとする際の妨げとなる.「波動を表す式の理解」からではなく「波動を特徴づける諸変数の理解」から始めると,表式の違いはさほど気にならなくなる.
波動を特徴づける変数の代表の一つは「波長 λ0」(文字化けの対策として以降 lambda を用いる)である.光の「波長 lambda0」は,真空中或いは大気中で時刻を固定して伝播距離に対する光波の振幅変動を観察したときの,振幅の一周期変化に要する伝播距離である.屈折率が1 ではない媒質中での波長は,真空中での値よりも短くなる.媒質の屈折率が n であるとき,その媒質中での波長は lambda = lambda0 / n である.次に思い浮かぶ波動を特徴づける変数は「周波数,振動数 ν」(ν と v の識別が難しい場合を考慮して,以降 ν の代わりに freq を用いる)であろう.場所を固定して波動を観察したときの,単位時間(1秒)あたりの周期変化の数である.振動数は波長と異なり,媒質の屈折率に依存しない.波長と振動数では,振動数を重要視すべきである.波長は場所によって変化するのに加えて,波長の長短とその波長の光子の持つエネルギーは比例しない.(ドップラー効果を考慮しなければならない状況を除き)振動数は一定であり,またその大小は光子の持つエネルギーに比例する.
波長と振動数の積は,その媒質中での光の伝播速度になる.真空中或いは大気中では光速度と呼ばれ c = freq × lambda0 ,一定の値である.屈折率 n の媒質中の光の伝播速度は v = freq × lambda0 / n.真空中の光速度を,屈折率 n の媒質中の光の伝播速度で割って次式を得る,n = c / v.屈折率とは,真空中の光速度が,屈折率 n の媒質中の光の伝播速度の何倍であるかを示す.
波動を表す関数として余弦関数を選ぶ.角度(位相)の単位として rad を用いる.余弦関数は直角三角形の頂角を引数として斜辺に対する底辺の比の値を返し,引数が2π変化する毎に返される関数の値は周期変化する.伝播距離 x と光電場の(規格化された)振幅の関係を余弦関数を用いて表す.一周期に要する伝播距離は lambda0 / n.波長の整数倍進む毎に整数値となるようにこれを変形する x / (lambda0 / n).これに2πを掛けたものを余弦関数の引数とすることで,目的の波動の式を得る,cos(2π・ x / (lambda0 / n)).引数の表記が煩雑であるので,次のように纏める,2π・ x / (lambda0 / n) = k・x,k = 2π / (lambda0 / n).k を波数と呼ぶ.
赤外分光分析などでは,k = 1 / lambda0 を用いる.光学のテキストでは, k = 1 / lambda0 と k = 2π / lambda0 がどちらも波数と呼ばれて用いられている.更に,真空中の波数 k = 2π / lambda0 と屈折率の積 n・k で屈折率 n の媒質中の波数を表したり,一般化した表式 k = 2π / (lambda0 / n) を用いたりとテキスト毎にばらばらである.近い将来統一されることは,期待薄である.ここでの解説をしっかりと理解し,テキストの表記に係らず内容が理解できるようにするのが良い.
現在ではベクトル化された波数,波数ベクトルが用いられる.単位伝播距離あたりの位相変化量をスカラーとして,また伝播方向をベクトルとして持つ.
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(Aug. 5, 2025)
「実用技術塾・改」 9 「波動を特徴づける諸変数 (2)」
次に,時間経過と光電場の(規格化された)振幅の関係を余弦関数を用いて示す.伝播距離 x = 0 で波動が生成されているとする.周期 T = 1 / freq は,一周期に要する時間である.周期の整数倍時間が経過する毎に整数値となるように,経過時間 t を変形する t / T = t・freq.これに 2π を掛けたものを余弦関数の引数とすることで,目的の波動の式を得る,cos(2π・t・freq) = cos(ω・t) . ω = 2π・freq を角周波数・角振動数と呼ぶ.(これに従って, k = 2π / lambda0 を角波数と呼べば初学者の困惑を防ぐことができると思うが,いまだにそのような表記を見たことがない.)
時間を固定した伝播距離と波動振幅,場所を固定した経過時間と波動振幅の関係が得られた.次に,これらを合わせて一つの波動の表式とする. cos(-k・x+ω・t+φ0). 新しく出てきた変数 φ0 を初期位相と呼ぶ.時刻 t = 0,伝播距離 x = 0 における振動の位相である.余弦関数に最大振幅 Aを掛け,任意の波動の表式が出来上がる. A・cos(-k・x+ω・t+φ0).
引数 -k・x+ω・t+φ0 で,伝播による位相変化 k・x と,時間経過による位相変化 ω・t で,符号が逆になっている.これは波動をイメージする際に重要となる.結果であるとして吟味せずに覚えるのではなく,自分で考え・理解しておくことを勧める.ここでもMicrosoft Excelを用いてみる.(1) 真空中の原点で,時刻 t = 0 から T までの間,初期位相 –π/2 で,波数 k,角周波数ωの波動を生成する (横軸時間-縦軸振幅のグラフを作成). (2) 時刻 t = (1/4)T, t = (1/2)T, t = (3/4)T, t =T における空間を伝播する光電場を,横軸伝播距離-縦軸振幅のグラフで表す.
グラフ作成にあたっては,先に次をスケッチしておくと,考えやすくなる.
(a) 原点において,時刻 0 で生成された波の位相 -π/2,時刻 (1/4)T では 位相 0,時刻 (1/2)T では 位相 π/2,時刻 (3/4)T では 位相 π,時刻 T では 位相 (3/2)π. (b) 時刻 (1/4)T では,時刻 0 で原点で生成された波の位相 -π/2 の部分は 距離 (1/4)lambda0 にある. (c) 時刻 (1/2)T では,時刻 0 に原点で生成された波の位相 -π/2 の部分は 距離 (1/2)lambda0 に,時刻 (1/4)T に原点で生成された波の位相 0 の部分は 距離 (1/4)lambda0 にある. (d) 時刻 (3/4)T では,時刻 0 に原点で生成された波の位相 -π/2 の部分は 距離 (3/4)lambda0 に,時刻 (1/4)T に原点で生成された波の位相 0 の部分は 距離 (1/2)lambda0 に,時刻 (1/2)T に原点で生成された波の位相 π/2 の部分は 距離 (1/4)lambda0 にある. (e) 時刻 T では,時刻 0 に原点で生成された波の位相 -π/2 の部分は 距離 lambda0 に,時刻 (1/4)T に原点で生成された波の位相 0 の部分は 距離 (3/4)lambda0 に,時刻 (1/2)T に原点で生成された波の位相 π/2 の部分は 距離 (1/2)lambda0 に,時刻 (3/4)T に原点で生成された波の位相 π の部分は 距離 (1/4)lambda0 にある.
これらを基にグラフを作成し比較することで,時間に対する位相変化と,伝播距離に対する位相変化が反対であることが明瞭となる.
グラフに描いた時間と伝播距離の関係が,我々が立てた波動の式で適切に表現されるかを,引数(位相)で確認する.
時刻 T,伝播距離 lambda0 にある波の位相は -k・x+ω・t+φ0 = -2π+2π-π/2 = -π/2,伝播距離 (3/4)lambda0 にある波の位相は -(3/2)π+2π-π/2 = 0,伝播距離 (1/2)lambda0 にある波の位相は -π+2π-π/2 = 1/2π,伝播距離 (1/4)lambda0 にある波の位相は -π/2+2π-π/2 = π. 時刻 (3/4)T,伝播距離 (3/4)lambda0 にある波の位相は -(3/2)π+(3/2)π-π/2 = -π/2,伝播距離 (1/2)lambda0 にある波の位相は -π+(3/2)π-π/2 = 0,伝播距離 (1/4)lambda0 にある波の位相は -π/2+(3/2)π-π/2 = π/2. ・ ・ ・ ・ ・ ・
ここでは,時間変化に伴い正の位相変化生じる波動の発生源があり,その発生源から波動が伝播していく場合を考えた.別の状況では,ある時刻に伝播距離の増加に対して正の位相変化を持つ波動の,時間及び距離の変化に対する表式を必要とする場合がある.この場合,余弦関数の引数は k・x-ω・t+φ0 になる.
余弦関数ではなく正弦関数を用いる場合もある.cos(θ) = sin(θ+π/2) であり,基本的には同じと考えて良い.オイラーの公式 exp(i x) = cos(x)+i sin(x) を見れば明らかなように,指数関数も波動方程式を満足する関数である.三角関数を用いる場合に比べて計算が容易であり,大半のテキストで採用されている.然しながら注意を要する約束事があるので,初学者は三角関数を用いることを勧める.
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