㈱実用技術研究室
超短パルスレーザー応用、レーザー微細加工、技術コンサルティング
超短パルスレーザー応用、レーザー微細加工、技術コンサルティング
「Nifty-ココログ」上で以前連載していたものです。今でも参照される方が多いので、こちらにも採録します。
「新実用技術塾」が書き言葉であるのに対して、「(旧)実用技術塾」は話し言葉で書かれています。多分読みやすく感じるので、検索でhitした中でこちらを選ぶ方が多いということだろうと思います。一方で話し言葉は、考えなしに日常で使っていますので、記述する私が気をつけていないと、気分で表現してしまうことが多く、表現の正確さに欠けます。
特に初学者にとって、親しみやすい・読みやすいと云うのは大切なことです。一方で、この技術領域を自分の専門としていくならば、表現の曖昧さの少ない解説文を読まれる方が良いでしょう。
これらを理解された上で、「新実用技術塾」と「(旧) 実用技術塾」を使い分けて下さい。
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0.開講にあたって (Jul. 11, 2015)、1.1 仕事 (Jul. 21, 2015)、1.2 エネルギー (Aug. 1, 2015)、1.3 パワー (Aug. 11, 2015)、1.4 平均出力、尖頭出力 (Aug. 21, 2015)、1.5 課題解答例(1.1) (Sep. 1, 2015)、1.6 課題解答例(1.2,1.3) (Sep. 11, 2015)、1.7 課題解答例(1.4) (Sep. 21, 2015)、1.8 小休止(1) (Oct. 1, 2015)、1.9 電磁波としての光 (Oct. 11, 2015)、1.10 直線偏光,円偏光 (Oct. 21, 2015)、1.11 光路長 (Nov. 1, 2015)、1.12 波長板 (Nov. 11, 2015)、1.13 直線偏光の偏光面の回転 (Nov. 21, 2015)、1.14 直線偏光→円偏光 (Dec. 1, 2015)、1.15 光減衰器 (Dec. 11, 2015)、1.16 光反射率の屈折率依存 (Dec. 21, 2015)、1.17 s偏光,p偏光 (Jan. 1, 2016)、1.18 光反射率の入射角度依存(透明材料) (Jan. 11, 2016)、1.19 光反射率の入射角度依存(金属、半導体材料) (Jan. 21, 2016)、1.20 ガウシアン・ビーム (Feb. 1, 2016)、1.21 ビーム拡がり角 (Feb. 11, 2016)、1.22 ガウシアン・ビーム(続) (Feb. 21, 2016)、1.23 ポインチング・スタビリティ (Mar. 1, 2016)、1.24 収差 (Mar. 11, 2016)、1.25 F-θレンズ (Mar. 21, 2016)、1.26 ガルバノ・スキャナ (Apr. 1, 2016)、1.27 レーザー出力のトリガー制御 (Apr. 11, 2016)、1.28 レーザー出力のゲート制御 (Apr. 21, 2016)、1.29 デジタル・ガルバノ・スキャナのディレイ (May 1, 2016)、1.30 マーク・ディレイ (May 11, 2016)、1.31 マーク・ディレイの影響 (May 21, 2016)、1.32 レーザ・オン・ディレイ (Jun. 1, 2016)、1.33 レーザ・オフ・ディレイ (Jun. 11, 2016)、1.34 マーク・ディレイの制限 (Jun. 21, 2016)、1.35 レーザ・オン・ディレイの調整 (Jul. 1, 2016)、1.36 レーザ・オフ・ディレイの調整 (Jul. 11, 2016)、1.37 マーク・ディレイの調整 (Jul. 21, 2016)、1.38 ポリゴン・ディレイの調整 (Aug. 1, 2016)、1.39 ジャンプ・ディレイの調整 (Aug. 11, 2016)、1.40 モードロック (1) (Aug. 21, 2016)、1.41 モードロック (2) (Sep. 1, 2016)、1.42 モードロック (3) (Sep. 11, 2016)、1.43 熱伝導・熱拡散 (Sep. 21, 2016)、1.44 材料の熱的特性 (Oct. 1, 2016)、実用技術塾 ⇒ 新実用技術塾 (Oct. 11, 2016)
「超短パルスレーザー」や「レーザー微細加工」に関する単行本を探しても、なかなか手ごろなものが見つかりません。仕方のないことです。この手の特殊な技術本は、良く売れて千冊程度です。仮に売値が5千円、印税を売価の一割として、著者は一冊本を出しても50万円程度しか手にできません。出版社としても、もっと利益の見込める内容を優先したいところです。
「超短パルスレーザー」や「レーザー微細加工」に関する公開セミナーは、なかなか開催されません。これも仕方のないことです。現在市販されているメジャーな、ピコ秒(ps)、フェムト秒(fs)パルスレーザーは、全て海外製品です。国内には、これらの超短パルスレーザーの市販を始めたメーカーはありますが、量産品レベルにまで仕上げた経験がまだないのです。また、レーザー微細加工技術は、現場従事者にとっては全てがノウ・ハウです。好き好んで大切なノウ・ハウを公開する者は居ません。
新しくこの分野の仕事に従事することになった技術者は、大変な「メ」に遭います。参考になる「本」も、概略を教えてくれる「講座」もないのです。残された道は「独学」「自習」しかありません。知らなければならない知識・情報は多岐にわたっており、学ぶ者は茨の道を歩むことになります。
この分野の迷える「独学者」「自習者」のために、「実用技術塾」を開講します。
独学・自習のために必要な基礎技術事項を、解説していこうと思います。なるべく平易な説明を心がけ、可能であれば数値例を示したいと思っています。
開講にあたって、幾つか、皆さんにお願いしたいことがあります。
(1) 日本語能力の維持・向上に、常に努めてください。
(私にはよく理解できませんが)日本語は、論理的議論に用いるのに向いていないと云われます。そのような言語を用いて、我々は、技術を習得し、現場の問題を技術的に検討し、他者に技術内容を伝達しなければなりません。 理解するということは、抽象化するここと云えます。検討とは、幾つかの抽象化概念に対して演算を試みることです。妥当な演算結果が得られたら、それを具体的なイメージとして「言語」を用いて他者に伝えなければなりません。
多分、優れた技術者は、皆、優れた言語能力をお持ちの筈です。皆さんも、マイスターを目指して、頑張って下さい。
(2) 分からない言葉は当然に、分かっている言葉ももう一度、その「定義」を調べてください。
言葉は時代とともに変化します。同じ言葉が、たった数十年経るだけで、逆の意味で使われることすらあります。昭和30年代生まれの私にとって、「コダワリ」は捨て去るべきものでした。「そんな些細なことにコダワラずに、全体を大事にしろ」「些細なことにコダワッテ済みません」「詰まらないことにコダワリ過ぎ」。良い意味で使うことはありませんでした。遅くとも年号が平成になってから、コダワリは称賛されるものに変わりました。「コダワリの逸品」「肌触りにコダワリました」。昭和40年頃の人にとって、意味不明の表現になります。コダワリと逸品は並び立つ単語ではありませんでした。コダワリの結果全体のバランスの崩れた商品を何故推奨するのでしょうか。
それでも、日常生活は良いのです。言語を共有する集団の中で合意が形成されているのであれば、会話は成立し、意思の伝達の上で不都合はありません。
不都合は、長い歴史を持つ学術等の分野で生じます。知識は言語を用いて記録・伝承されます。同じ単語に、過去と現在で異なる意味が与えられていた場合、誤解が生じます。従って、現代科学・技術の分野では、議論・検討の前提として、一つ一つの事項を明確に「定義」します。理化学の分野の基準の一つとして「理化学辞典」があります。
分かっているつもりの技術用語や、日常と同じ意味と思っている技術用語を、調べてみてください。指し示す内容が限定されていることに驚かれたならば、皆さんのこれまでの技術的失敗の幾つかの原因は、そこにあったのかもしれません。
一方、曖昧な理解が「定義」確認によって明確になったならば、その新しくなった理解で、既存の問題を再検討してみてください。問題点の整理・把握が容易になり、方針を立てやすくなっている筈です。
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「仕事」: エネルギーを投入することによって生じた変化、単位[J]。
日常で良く使う言葉であり、これが技術用語であることを忘れてしまっている方が多いようです。
一般例を示すことはやめて、レーザー微細加工で考えてみましょう。レーザー微細加工で行うことの殆どは、ワーク表面に微細な形状を形作ることです。最も簡単な形状は、穴や溝。ちょっと難しくなって、窪みや止め穴。さらに難しくなってくると、半球形状を浮彫にしたりします。「彫る」「削る」などの表現を用いますが、要するに材料の除去加工です。
穴あけや溝彫りを「仕事」と考えると、単位[J]との関係をどのように考えて良いのかを悩みますが、材料を除去することが「仕事」と考えると、急に視界が晴れてきます。
「固体材料の一部分を、エネルギーを投入して、そこから居なくさせる」。固体ではありませんが、お湯を沸かし続けると、お湯の量がどんどんと減ってきます。エネルギー投入により、物質が気化して飛散していくことの、身近な例です。レーザーによる材料除去は、「固体状態の材料を気化させて散逸させること」と、0次近似させることができます。
課題:
室温(25[℃])状態にあるm[g]の固体の鉄(Fe)を、全て気化させる「仕事」に必要なエネルギー[J]を概算せよ。比熱の温度依存は無視する。
概算した値を用いて、厚さ1[mm]の(純)鉄の板に、直径0.1[mm]の柱状部分を気化させて、ストレート穴をあける「仕事」に必要なエネルギーを概算せよ。投入したエネルギーの散逸、加工中の穴サイズの融け広がりなどは無いものとする。
投入されるエネルギー(次回解説予定)と、その結果としての「仕事」は、直接に対応するパラメータです。
用語定義の理解の大切さの一例と感じてくれればと思っています。
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「エネルギー」: 仕事をなし得る諸量の総称(広辞苑)、単位[J]。
エネルギーと云う言葉は、日常生活で普通に使います。そうであるだけに、技術的な場面で用いるときには、注意が必要です。私の個人的な感想ですが、一人前の技術者でも、「エネルギー」と「パワー」を区別せずに、技術的議論を行っている方が少なからず居られます。定義から明らかなように、仕事とエネルギーは一対一の関係です。仕事を明確に理解できれば、自ずからエネルギーもはっきりと理解できます。
レーザー微細加工での主な「仕事」である材料除去のために、材料表面の加工したい場所に、レーザー光を集光照射します。別の表現をすると、光のエネルギーを投入します。
さて、光は電磁波の一種であるとして、電磁波の持つエネルギーを具体性を持ってイメージできますか? 物理学科の学部学生でもちょっと難しいかもしれません。面倒は避け、イメージしやすい解釈を採りましょう。
光は、波動性と粒子性の両方を持っているとされます。以降、光の粒子性を示す言葉、「光子」で考えていきます。一つの光子の持つエネルギーE(λ)は、光の波長λ、光の振動数ν、光速度c、プランク定数hを使って、次のように与えられます。
E(λ)=h・ν=h・c/λ
光の波長が異なると、光子は異なるエネルギーを持ちます。波長532[nm]の光子の持つエネルギーを、計算してみましょう。
E(532)=(6.63E-34)・(5.64E14)=(6.63E-34)・(3.0E8)/(532E-9)=3.74E-19[J]
課題:
パルス・エネルギー 1[mJ/pulse]の、波長532[nm]の一つの光パルスの中に、光子は幾つあるか計算せよ。
また、波長532[nm]、出力1[mW]の連続波を1[s]照射した場合、ワークに照射される光子数は幾つであるか計算せよ。
E-19[J]と云うのは中途半端な桁ですし、また書くのも読むのも面倒ですので、[eV]と云う単位を代りに用いることが多いです。 電位差Vを電子eが移動すると、電子はe・Vのエネルギーの増減を経験します。電子の持つ電荷量は、
電気素量 e=1.602E-19[C]
ですから、
1[eV]=1.602E-19[J]
になります。この[J]と[eV]の換算式は、覚えておくと便利です。
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「パワー」: 単位時間当たりのエネルギーの量、或は、単位時間当たりの仕事の量、単位[W]=[J/s]=[V・A]。
「パワー」はちょっと厄介な単語です。技術分野に限っても、この単語は幾つもの分身を持っています。
・仕事率
・出力(エネルギーを発生/変換する機会の場合)
・電力、動力
使われる状況で「単語」が変わります。
(1) 単位時間あたりに「為すことができる/為された」仕事の量
(2) 単位時間あたりに「出力される/入力される」エネルギーの量
の基本定義に戻れば、いづれも無理なく理解できます。
課題:
穴あけ加工において、穴一つあたり0.1[J]のエネルギーが必要になる。一秒当たり100個の穴あけを実現させたい。用いるレーザー発振器として、少なくとも幾らの平均出力のものを選択する必要があるか。
投入エネルギーが全て加工に用いられると仮定した場合、1[cm3]の銅の除去加工に約55 [kJ/cm3]が必要になる。厚さ1[µm]の銅箔を、線幅20[µm]で、毎秒10[m]剥離除去したい。用いるレーザー発振器として、少なくとも幾らの平均出力のものを選択する必要があるか。
レーザー発振器の仕様値の一つにある「平均出力」は、「一秒間に出力されるパルスエネルギーの総和」=「一秒あたりに為すことができる仕事の量」、を表しています。
「出力」 = 「パワー」 = 「仕事率」を明確に理解できれば、必要スループット実現のために、どのクラスのレーザー発振器を準備しなければならないかを、的確に判断できるようになります。
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パルスレーザーの出力パルス波形は、nsよりもパルス幅が長い場合は「フォトダイオード」を、また超短パルスの場合には自己相関による「オート・コリレータ」を用いて、測定することができます。
出力パルス波形が矩形の場合は、0/1で光強度が変化する時間幅をパルス幅(英語の場合には、pulse duration;持続時間 と呼ぶ場合も多い)とします。短~超短パルスレーザーの場合には、光強度が、正規分布のように、時間とともに変化するので、パルス幅を定義する必要があります。半値幅(FWHN; Full Width At Half Maximum)を用いるのが一般的です。
パワー(出力)P[W] の定義は、エネルギー E[J]、時間 T[s]として、
P = E / T
で与えられます。パルスレーザーの場合は、E、Tに何を用いるかによって、2種類のパワー(出力)が出てきます。
(1) パワー・メータにより直接に計測される P1;平均出力
計測時間 T1内に検出器に入った光エネルギーの総和 E1を、計測時間 T1[s]で割ったものです。平均出力と呼ばれます。時間平均(時間で平均された)出力の意味です。時間あたりに期待して良い仕事の量=仕事率は、こちらです。
(2) 光の持続時間内のみに注目したパワー P2;尖頭出力
一つのパルスが持つエネルギー E2を、パルス幅 T2で割ったものです。尖頭出力と呼ばれます。E2は、パワー・メータによる実測値 P1を、光源であるレーザー発振器の繰返し周波数 Frep[Hz]で割って求めます。T2は、フォトダイオードやオート・コリレータを用いて実測します。
集光スポット面積をS[cm2]、光速度をcとするとき、尖頭出力 P2を c・Sで割った値は、被加工物(ワーク)に集光ビームが照射されている最中の「光子密度」に相当し、どの様なメカニズムで加工が行われているかの目安となります。
課題:
投入エネルギーが全て加工に用いられると仮定した場合、1[cm3]の銅の除去加工に約55[kJ/cm3]が必要になる。パルスエネルギー 20[µJ/pulse]、繰返し周波数 500[kHz]のレーザー発振器からの出力で期待できる1[s]あたりの銅の除去量は、何[cm3]か。
集光照射する焦点近傍でのビームを、集光スポットと同じ底面積の円柱で近似する。集光スポット半径10[µm]、パルス幅10[ps]のパルスが近似される円柱の体積は何[cm3]か。
波長 532[nm]、パルスエネルギー15[µJ/pulse]である時、この光パルスには光子が幾つ存在するか。
焦点近傍での平均光子密度は幾らか。
集光点近傍での平均光子間距離は幾らか。
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第一問
室温(25[℃])状態にあるm[g]の固体の鉄(Fe)を、全て気化させる「仕事」に必要なエネルギー[J]を概算せよ。比熱の温度依存は無視する。
理化学辞典に依れば、鉄の諸物性値は次である(原子量55.85,密度7.87[g/cm³],沸点2750[℃],融解熱15.1[kJ/mol],蒸発熱354[kJ/mol],熱容量25.1[J/K・mol])。
熱的に全て気化させるとは、沸点にまで加熱し、更に気化熱分のエネルギーを更に投入することである。
室温から沸点までの温度上昇に必要なエネルギーは、温度差(沸点-室温)×熱容量である。固相から気相までには、融解と蒸発の相変化があり、それぞれ融解熱と蒸発熱が必要になる。従って、室温にある1モルの鉄を全て気化させるには、
(2750-25)×25.1+15100+354000=437.5[kJ/mol]
のエネルギーが必要である。
鉄のモル質量は55.85[g/mol]であるので、m[g]はm/55.85[mol]である。
従って、m[g]の鉄を全て気化させるに必要なエネルギーは、
m×7.83[kJ]
である。
第二問
概算した値を用いて、厚さ1[mm]の(純)鉄の板に、直径0.1[mm]の柱状部分を気化させて、ストレート穴をあける「仕事」に必要なエネルギーを概算せよ。投入したエネルギーの散逸、加工中の穴サイズの融け広がりなどは無いものとする。
直径0.1[mm]、高さ1[mm]の円柱の体積は、
{π×(0.01/2)^2}×0.1=7.85E-6[cm3]
この体積の鉄の質量は、
(7.85E-6)×7.87=6.18E-5[g]
従って、この円柱の形状の穴をあけるのに必要なエネルギーは、
(6.18E-5)×7830=0.484[J]
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1.2 の課題の解答例
第一問
パルス・エネルギー 1[mJ/pulse]の、波長532[nm]の一つの光パルスの中に、光子は幾つあるか計算せよ。
波長532[nm]の光子一つが持つエネルギーは、3.74E-19[J]
パルス・エネルギー 1[mJ/pulse]を、光子一つが持つエネルギーで割ると、
0.001 / (3.74E-19)=2.67E15[個]
第二問
また、波長 532[nm]、出力 1[mW]の連続波を1[s]照射した場合、ワークに照射される光子数は幾つであるか計算せよ。
出力 0.001[W]=0.001[J/s]を、1[s]間照射した場合の、総照射エネルギー量は、
0.001[W]×1[s]=0.001[J]
ワークに照射される光子数は、
0.001 / (3.74E-19)=2.67E15[個]
1.3 の課題の解答例
第一問
穴あけ加工において、穴一つあたり0.1[J]のエネルギーが必要になる。一秒当たり100個の穴あけを実現させたい。用いるレーザー発振器として、少なくとも幾らの平均出力のものを選択する必要があるか。
0.1[J/個]×100[個/s]=10[J/s]=10[W]
第二問
投入エネルギーが全て加工に用いられると仮定した場合、1[cm3]の銅の除去加工に約55 [kJ/cm3]が必要になる。厚さ1[µm]の銅箔を、線幅20[µm]で、毎秒10[m]剥離除去したい。用いるレーザー発振器として、少なくとも幾らの平均出力のものを選択する必要があるか。
1[s]当りに剥離したい銅箔の体積は、
0.0001[cm]×0.0020[cm]×1000[cm]=2.0E-4[cm3]
1[s]当りに投入しなければならないエネルギー量は、
{(2.0E-4[cm3])×(55000[J/cm3])}/1[s]=11[J/s]=11「W]
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1.4 の課題の解答例
第一問
投入エネルギーが全て加工に用いられると仮定した場合、1[cm3]の銅の除去加工に約55[kJ/cm3]が必要になる。パルスエネルギー 20[µJ/pulse]、繰返し周波数 500[kHz]のレーザー発振器からの出力で期待できる1[s]あたりの銅の除去量は、何[cm3]か。
繰返し周波数 500[kHz]とは、1秒間に500,000パルス出力される。
500[kHz]=500[pulse/s]
パルスエネルギーが 20[µJ/pulse]である時、1[s]間に出力されるエネルギーは、
20[µJ/pulse]×500[pulse/s]=10[J]
このエネルギーで除去できる銅の体積は、
10/55000=1.82E-4[cm3]
第二問
(1) 集光照射する焦点近傍でのビームを、集光スポットと同じ底面積の円柱で近似する。集光スポット半径10[µm]、パルス幅10[ps]のパルスが近似される円柱の体積は何[cm3]か。
集光スポット面積は、p(0.0010)^2[cm2]=3.14E-6[cm2]
パルスの長さは、(3.0E10)×(10E-12)=0.3[cm]
近似される円柱の体積は、(3.14E-6)×0.3=9.42E-7[cm3]
(2) 波長 532[nm]、パルスエネルギー15[µJ/pulse]である時、この光パルスには光子が幾つ存在するか。
15[µJ/pulse]/(3.74E-19)=4.01E13[個]
(3) 焦点近傍での平均光子密度は幾らか。
(4.01E13)/(9.42E-7)=4.26E19[個/cm3]
(4) 集光点近傍での平均光子間距離は幾らか。
光子1個の平均占有体積は、
1/(4.26E19)=2.35E-20[cm3]
平均光子間距離は、
(2.35E-20)^(1/3)=2.86E-7[cm]=2.86[nm]
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仕事、エネルギー、パワーから始めるのかと、怪訝に思われた方が多かったのではないかと思います。色々な所で技術セミナーをする際、ここから話を始める場合が多いのですが、「そんな初歩的な事柄ではなく、難しい話をしてくれ」と要求される方は、実際多いのです。
中学から大学まで学んできたことを思い返してみてください。技術を考える上で「エネルギー」は最も基本となる事柄です。エネルギー保存則は最も重要な法則ですし、システムを組む場合やプロセスの効率を考える場合では、エネルギーを収支の観点で考えることが必要になります。また、スループットを考える上で最も基本となるのが「パワー・仕事率」です。
さて、このように重要な事柄なのですが、皆さんのこれらの事柄の理解は適切だったでしょうか。程度の差こそあれ、知らず知らずのうちに、自分勝手な解釈・使い方をされていたのではないかと思います。
日本人技術者は有能です。私が詳細技術を説明しなくても、試行錯誤的に、最適に近い加工条件を導き出される場合が多くあります。然しながら、基本に則っていないと、総合的判断が極めて難しくなります。どのように実用技術化するのか、どのような製造ラインを組めば良いのかまで、試行錯誤的に行われている場合が多いようです。
技術の実用化の検討の重要項目の一つは「エネルギー効率」です。製造ラインの検討において「パワー・仕事率」を無視することはできません。
エネルギーやパワーを正しく理解することで、加工の検討から製造ラインへの導入までの見通しが良くなり、技術開発が効率的に行えるようになるでしょう。
若い技術者は、学校で最新の知識・技術を学んできています。時代を経るごとに技術の進歩は勢いを増しており、新しい技術の実用化に若い技術者の活躍を大いに期待します。ところが経験が浅いせいなのか、当該技術分野を俯瞰的に理解し、考えることは、若い技術者の苦手とするところのようです。
中堅時代に良い経験を重ねた壮年技術者は、見通しを大切にします。「たたき大工的」と揶揄される、試行錯誤的な検討を嫌います。一方で、年齢的な体力の衰えには逆らえず、現場での根を詰めた実作業は続かなくなります。
従って、皆さんが良く理解されているように、当該技術を俯瞰的に検討できる壮年技術者と、最新の知識・技術を有する若手技術者からなるグループを構成することが、技術開発において理想と云えます。
然しながら、超短パルスレーザー加工のような最新技術領域では、自社内に適切な壮年技術者を得ることが難しい場合があります。十分な俯瞰的判断が出来ぬままに技術開発に着手することは、時間や資金などの資源の浪費に繋がりかねません。そのような場合には、是非、弊社の技術コンサルティングを壮年技術者の代役としてご利用ください。
さて、次回から、偏光に関する事柄の解説を予定しています。超短パルスレーザーに限ったことではありませんが、微細加工の品質に対して偏光は重要な影響を及ぼしますし、加工光学系の構築においても必要不可欠の技術と云えます。
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光の持つ「偏光」の特性を考えるには、光を電磁波として捉える必要があります。
電磁波とは、振動する電場と磁場が組み合わさったもので、TVやラジオの信号を伝搬させたりするものもその仲間ですし、光や、X線と呼ばれるものも同じ仲間です。
中学校、高等学校で学んだ「電磁誘導」は、「時間的に変動する磁場は、その時間変化に比例した電場の空間変化を生成し、磁場の振動方向と電場の進行方向は直交する」と云うものでした。大学で学んだ「アンペール・マクスウェルの法則」は、「時間的に変動する電場は、その時間変化に比例した磁場の空間変化を生成し、電場の振動方向と磁場の振動方向は直交する」と云うものです。
光の偏光方向とは、光を電磁波として見た場合の「電場」の振動方向です。
参考として、真空中を伝搬する光の電場を記述する式を、図中に書き入れておきます。
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偏光の状態は、一般的には、光の伝搬方向をz、それと直交する方向をx、yとするときに、互いに直交するx、y方向の、光電場の振幅Ex0、Ey0と、位相φx、φyで特徴づけられます。
φx = φy の場合を、直線偏光と云います。Ex、Eyの合成ベクトルとしてのEは常にz軸と直交し、伝搬距離に依存せず、Eは一定の向きを保持します。
Ex0 = Ey0 、|φx - φy| = π / 2 の場合を、円偏光と云います。合成ベクトルEの先端(終点)は伝搬していくに従いxy平面内でその向きを変え、円を描きます。
それら以外の場合を、楕円偏光と云います。合成ベクトルとしてのEの先端は、xy平面内で楕円を描きます。
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真空中や大気中ではなく、屈折率nの媒体中を光が伝搬する場合は、光路長と云う概念を導入すると便利です。
真空(大気)中を伝搬する場合と、屈折率nの媒体中を光が伝搬する場合の、光電場を記述する式を並べて示します。時間で振動する項は違いがありません。どちらでも同じように、周期T、振動数νで電場が振動します。伝搬距離zで振動する項は若干違いがあります。真空中では伝搬距離λ毎に一つの振動が生じますが、屈折率nの媒体中では伝搬距離(λ/ n)毎に一つの振動が生じます。一秒間の振動数νはどちらでも同じですから、真空中での光の速度は、
c0 = ν・λ
であるのに対して、屈折率nの媒体中での光の速度は
c = ν(λ/ n) = c0 / n
となります。従って、
n = c0 / c
屈折率とは、その媒体の中での光の伝搬速度が、真空中の何分の一になるのかを示す値であることが分かります。
屈折率nの媒体中での光電場の振動の様子を、真空中のそれと対比して示します。厚さdの媒体中での光電場の振動は、真空中を距離n・dを伝搬する場合と同じと見做せます。厚さdの媒体を光が通過するのに要する時間は、真空中を距離n・d伝搬する場合と同じです。このn・dを光路長と呼びます。厚さd、屈折率nの媒体中を光が伝搬する場合、媒体の厚みをn・dとすることで、真空中を伝搬するものと見做して計算処理することが可能になります。
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光路長の考え方を用いると、波長板の機能について、イメージを持って理解できるようになります。波長板は、直線偏光の方向を回転させたり、直線偏光を円偏光に変換することなどに利用されます
波長板に用いられる材料は、複屈折材料です。複屈折材料中に光を伝搬させたときに、複屈折が生じない方向があります。これを光学軸と云い、1本の光学軸を持つ複屈折材料を一軸性結晶、2本持つ材料を二軸性結晶と呼びます。波長板に良く用いられる結晶石英は一軸性結晶です。波長板は、一般的に平行平板の形状をしています。
さて、複屈折を利用したいのですから、波長板では平行平板の面内に光学軸を置きます。平行平板に垂直に光を入射させたとき、偏光(光電場の振動)方向が光学軸と直交している場合を常光線と呼び、その時光が感じる屈折率をnoとします。また、偏光方向が光学軸と平行な場合を異常光線と呼び、光が感じる屈折率をneとします。
常光線と異常光線を、位相を揃えて、波長板に垂直入射させます。波長板を通過したところで、両方の光線の位相を比較したときに、π(180°)の差が生じていたならば、その波長板は1/2波長(λ/2)板です。また、生じた位相差がπ/2(90°)であるならば、1/4波長(λ/4)板です。
平行平板に垂直に光を入射させた場合、屈折は生じず、光は真直ぐに通過します。そのようになるように波長板を設置します。また、加工用の光学系に波長板を用いる場合には、必ずAR(反射防止)コートを施します。
課題:
結晶石英(水晶)の波長546.1[nm]における屈折率は、理科年表によれば、no=1.5462、ne=1.5553である。1/2波長板、1/4波長板として働く厚みを計算せよ。
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1/2波長板は、直線偏光の偏光面を回転させるのに良く用いられます。波長板に入射させる直線偏光の方向を基準として、この方向に対して波長板の常光線あるいは異常光線の偏光方向を角度θを成して設置すると、波長板から出てくる光線の偏光の振動方向は、波長板の常光線あるいは異常光線の方向を対称軸として線対称の方向になります。一般的には「波長板に対して角度θで入射させると、角度2θで出射される」と表現されます。
実際に、光路中に波長板を設置する手順は、次のようにします。
・光路中に偏光子(グランレーザープリズム、偏光ビームスプリッター、など)を挿入します。
・偏光子を回転させ、透過光が最小となる回転位置に固定します(消光位)。
・偏光子よりも光源側の光路中に、波長板を挿入します。
・波長板を回転させ、偏光子の後方の透過光が最小となる回転位置の角度を読みます。この時、直線偏光の振動方向と、波長板の常光線あるいは異常光線の偏光方向とは一致しています。
・読み取った角度を基準として、波長板を所望の角度回転させます。
・偏光子を取り外します。
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1/4波長板は、直線偏光を円偏光にするのに良く用いられます。
円偏光の定義は、「直交する成分の、振幅が等しく、位相差がπ/2、である偏光」です。1/4波長板は「直交する偏光に、位相差π/2を与える」機能を持ちます。ですから、1/4波長板の常光線あるいは異常光線の偏光方向に、直線偏光を45°の角度で入射させることで、常光線および異常光線の偏光方向に等しい振幅を与えてやれば、1/4波長板を通過した光線は円偏光になります。
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レーザー発振器からの出力を安定して利用するには、発振器を定格で使います。発振器に出力調整が組み込まれていない場合、発振器外部に光減衰器を設置して、出力調整します。
微細加工用のピコ秒(ps)、フェムト秒(fs)の超短パルスレーザー発振器の出力は、殆どの場合「直線偏光」です。1/2波長板と偏光子があれば、光減衰器を作ることができます。
偏光子は、グランレーザー・プリズムや偏光ビーム・スプリッターなどを用います。入手に際して、エネルギー・ビームに対する耐性があることを確認してください。また、使用する波長用の反射防止(AR)コートが施されていることも、合わせて確認してください。
例えば、レーザー発振器から出力される直線偏光のビームが全透過するように、偏光子を設置します。偏光子よりも発振器側に、1/2波長板を挿入・設置し、これを回転させると、偏光子に入射するビームの偏光方向が変わります。これによって、偏光子を透過するビームのエネルギーを調整・制御することができます。
偏光子を透過できなかったビームの成分は、光路外に蹴り出されます。加工用のレーザー発振器の場合、偏光子で蹴り出されたビームでも、無視できない強さを持っており、危険です。必ず、蹴り出したビームを「終端」させるようにして下さい。
課題:
偏光子を全透過する偏光方向を基準として、これと30°、45°、60°の角度を成して直線偏光を入射させたとき、偏光子を透過する光のエネルギーは幾らになるか、計算せよ。但し、全透過の場合を1とする。
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太陽光が窓ガラスを透過する時のように、屈折率が不連続な場所では「光反射」が起こります。日常生活では、反射した光を眩しいと思う程度ですが、レーザー加工の場合には、予期せぬトラブルの元になることがあります。
図は、屈折率nの透明材料表面に光が垂直に入射した場合の、反射率の変化です。ガラスの屈折率は1.5程度です。反射率は0.04 = 4 % です。ガラスレンズに光が入射する時に4 %、レンズから出射する時に4 %、totalで 1 - (0.96)^2 = 0.0784 ≒ 8 % の反射損失が生じます。
(1) レンズを1枚通過する度に、1割弱の光エネルギーが失われてしまいます。光源のエネルギーを有効に利用するためには、レンズなどの光を透過させる素子の表面には反射防止(AR)コートを施します。ARコートにより、1面当りの反射損失を1 % 以下に抑制することができます。
加工用のレーザー光源の出力は大きく、反射光でも加工に十分なエネルギーを持つことが少なくありません。平面からの反射光は、主に、目に入らないように注意します。曲面からの反射光には特別な注意が必要です。
(2) レンズ表裏面からの反射光は焦点を持つ場合があり、微弱な反射光でも、焦点では無視できないエネルギー密度に達することがあります。レンズの光が入射する側の焦点位置近傍に、物体を設置しないように注意します。平行平板やレンズなどの透明な光学素子も例外ではありません。
透明光学材料の一つであるサファイアは、可視光領域で1.76程度の屈折率を持ちます。一面当りの反射損失は7.6 % になります。
(3) psやfsなどの超短パルスレーザーを用いた透明材料の加工において、高屈折率材料の場合は、表面での反射損失分を補うために、通常の透明材料の加工の場合よりも、パルスエネルギーを高く調整する必要があります。
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ワーク表面に斜めに集光ビームが入射する場合は、s偏光、p偏光を考慮する必要があります。
光の反射・屈折を表すのに、多くの場合、図のように矢印を用います。この「入射光、反射光(、屈折光)が存在する平面」を基準に考えます。ワーク表面ではないことに注意してください。
入射する光ビームが直線偏光であり、その偏光方向(光電場の振動方向)が基準とした平面に対して「垂直」であるとき、この反射・屈折は「s偏光」状態であるとします。
もう一つの状態は、反射・屈折において、入射ビームの偏光方向が基準とした平面内にあるときで、これを「p偏光」とします。
垂直、平行を表す英単語は、それぞれperpendicular、parallelで、どちらも頭文字は「p」になってしまいます。s、pは、垂直、平行を表すドイツ語の頭文字です。
ワーク表面に垂直にビームが入射する場合、入射光、反射光、屈折光は全て同一直線上に位置するようになるため、これら三つを同時に含む平面が無数に存在してしまいます。従って、ワークへ垂直に光ビームが入射する場合は、s偏光・p偏光を区別することはできません。
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偏光方向が入射光と反射光の両方を含む平面に対して垂直な場合(s偏光)と、平面に平行な場合(p偏光)とで、材料表面に対して傾きを持って入射する光の反射率の挙動が異なります。
材料が入射する光の波長に対して材料が透明である場合、p偏光の光は入射角度が大きくなるに従って反射率が低くなり、ある角度で反射率が零となり、更なる入射角度の増加で反射率は急激に増加します。p偏光の反射率が零となる入射角度を、ブリュースター角と呼び、レーザー発振器の出力窓に良く用いられます。s偏光は、入射角度が大きくなるに従い、単調に反射率が増加します。
透明材料も、超短パルス光源を用いると、多光子プロセスにより、加工が可能になります。しかし、加工表面にビームが斜めに入射する場合には注意が必要です。
どちらの偏光も、ブリュースター角を越える大きな入射角度で急激に反射率が増加しますので、材料内部に入る光エネルギーは急激に減少します。また、斜め入射になるので入射表面での照射スポット面積は増大し、エネルギー密度は低下します。これらの理由により、深掘りの場合、壁の角度がブリュースター角を越えるようになると、加工が急に進まなくなります。
また、s偏光とp偏光で、入射角に対する反射率の変化が違いますので、方向によって、加工後の壁の角度が若干異なります。
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透明材料の屈折率は実数ですが、光を吸収する材料の場合は屈折率が実数部と虚数部を持ちます。これによって、光を吸収する材料の表面での光反射の入射角度依存は、透明材料の場合と大きく異なります。
p偏光が、入射角度の増大に伴い反射率が低下するのは、透明材料と同じですが、反射率の最低値は零ではありません。また、s偏光とp偏光の反射率の値は、入射角度の増大に従い、差が大きくなっていきます。
このような材料の深掘りの場合、直線偏光ビームを用いると、方向によって壁の角度が大きく異なってしまいます。また、アスペクト比の大きな穴あけの場合、裏面での穴形状は、所望の形状から大きくずれてしまいます。
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市販されているパルス幅がピコ秒(ps)、フェムト秒(fs)のレーザー発振器の殆どは、出力されるビームの断面内のエネルギー分布が、回転対称の正規分布(ガウス分布)をしています。一般的に、ガウシアンビームと呼ばれます。ガウシアンビームを凸レンズ集光した場合の、焦点面でのエネルギー分布は、同じように回転対称のガウス分布になります。
波長λ、集光レンズの焦点距離f、レンズ位置でのビーム直径D1/e2 であるとき、焦点面での集光スポットの直径は、
(dg1/e2) = (4/π) λf / (D1/e2)
また焦点深度は、
(zfg) = ± (4/π) λf^2 / (D1/e2)^2
で与えられます。
焦点深度の定義は、
・ビーム直径が、ビーム・ウエストの√2倍を超えない範囲
・エネルギー密度がビーム・ウエストの50%を下回らない範囲
になります。
後程解説しますが、ビーム因子M2を含めた集光スポット直径、焦点深度を与える式は、
(dg1/e2) = (4/π) λf M2 / (D1/e2)
また焦点深度は、
(zfg) = ±(4/π) λf^2 M2 / (D1/e2)^2
になります。
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レンズに記されている焦点距離は、平行光束化されたビームがレンズに入射した場合の値です。ガルバノ・スキャナなどのビーム走査デバイスへは、平行光束化されたビームを入射させることが前提として求められています。平行光束をコリメート光、コリメート・ビーム、平行光束化することをコリメートする、と云います。
後程解説しますが、通常、光ビームは有限の断面積(最もくびれたところ=ウエスト、の断面積)を持ち、程度の差こそあれ、必ず拡がる性質を持っています。断面積の小さなビームは伝搬する距離に対する拡がりが早く、断面積の大きなビームはゆっくりと拡がっていきます。従って、完全な意味でのコリメート光は存在しません。
実際にコリメートするとして行われる作業では、ある拡がり(収束)の状態にあるビームに、それと丁度反対の量の収束(拡がり)の作用を及ぼす光学素子を挿入します。
コリメートするためには、現在このビームがどの程度の拡がり角を持っているかを知ることが重要になります。図を見て頂ければわかるように、考え方自体はさほど難しくありません。伝搬するビーム上の二点でビーム直径を測り、算出します。ビーム直径の計測は、ビーム・プロファイラを用いても良いですし、虹彩絞りを物差し代わりに用いることもできます。
ビーム拡がり角の値として、全角が用いられる場合も、半角が用いられる場合も、どちらもあります。レーザー発振器メーカーなどのカタログ、仕様書、モノの本でまちまちです。気を付けてください。
光学では多くの場合、
sinθ ≒ tanθ ≒ θ ([rad]単位)
が成立する範囲で議論されています。これを「近軸光学」「ガウス光学」と呼びます。大きな収束や発散が生じている場合は、近軸光学で計算すると誤差が大きくなります。注意ください。
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断面内の光強度分布が回転対称のガウシアン(正規分布)であるような光源からの光の伝搬を、フレネル回折に基づいて評価すると、図中(上部、右)に示した発散半角の拡がりを持つことが導かれます。
ガウシアンビームの任意の伝搬位置での断面光強度分布において、光強度が中心の1/e2になる半径をビーム半径とするとき、集光点の前後でガウシアンビームの半径は双曲線を描いて変化するものとします。双曲線を表す一般式と、発散半角を表す式から、ガウシアンビームの半径が伝搬距離によってどのように変化するかを表す式が、導かれます(図、最上部)。
前々回、ガウシアンビームの集光スポットの直径を表す式を示しましたが、この式は、図下左にあるように、ガウシアンビームの発散角(拡がり角)を表す式から、直接に導かれます。
図の最上部にあるガウシアンビームの半径の伝搬距離変化を表す式を良く見ると、ビーム半径がビーム・ウエストの√2倍になる距離は、割と簡単に計算できることが見てとれます。その計算が図下右です。前々回、ガウシアンビームの焦点深度としてお示しした式です。
焦点深度の定義が、
・ビーム直径が、ビーム・ウエストの√2倍を超えない範囲
・エネルギー密度がビーム・ウエストの50%を下回らない範囲
であることは、「たまたま計算しやすかったから」だけの意味しか持ちません。
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ポインチング・スタビリティとは、発振器出力窓からビームが出射される際、その出射方向がどの程度揺らぐかを示すものです。
図で見てみましょう。発振器窓から距離 "L" 離れた位置に、検出器を置きます。十分に長い観測時間を設定し、その間、一定時間間隔で検出器上のビーム中心の位置を計測していきます。計測されたビーム中心位置の分布が、半径 "r" の円内にあるならば、当該発振器からの出力ビームの出射方向は、"r/L [rad]" の角度の範囲で揺らいでいることになります。
最近は、ポインチング・スタビリティの単位に[rad・℃]を用いることが多いようです。レーザー発振器を設置する環境温度の変動が大きいと、ビームの出射方向の揺らぎも大きくなります。
微細加工を実施するにあたり、このポインチング・スタビリティの値は重要です。この値は、加工に用いる「集光レンズ」にビームが入射する角度の変動に等しいものです。集光レンズの軸に沿ってビームを入射させるのが基本ですが、焦点距離 "f" の集光レンズの軸に対して角度 "θ [rad]" を成してビームが入射すると、焦点面上で集光スポットは距離 "f θ" 変化します。加工面(焦点面)で必要なビーム位置精度を、1 [µm] としてみましょう。集光レンズの焦点距離が 100 [mm] である時、θpoint ≦ 10 [µrad] でなければならないと計算されます。
出力の小さい発振器の場合、概ねどの市販品もθpoint ≦ 10 [µrad] を満足しています。高出力の発振器では、θpoint は大きな値になる傾向があります。ご注意ください。
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レンズに起因する収差は、「結像」の場合について詳細に調べられています。「結像」とは、カメラで景色をフィルムやCCD上に「像」として結ばせることを指します。レーザー加工の集光と、カメラによる結像のレンズの使い方は、似ているようで、違います。
カメラによる結像の場合、明るい像を得るために、なるべくレンズの広い面積を利用して、光を取り入れようとします。ザイデルは、レンズの中心を通る光と、周辺を通る光で違いが出るとか、レンズに斜めに光が入った場合に、像に歪みが出るとかなど、5つの場合について、収差を詳細に調べました。
レーザー加工の場合は、多くの場合レンズに入射させるビームの直径が5~10mm程度であるため、レンズの中心部しか使いません。また、基本的に、ビームはレンズに垂直に入射させます。
結論を先に述べますと、ビーム直径よりも焦点距離が十分長いレンズの軸近傍の狭い領域しか使っていない場合、レーザー加工で用いる集光点に、ザイデルが論じた「収差」は殆ど影響しません。色収差も、レーザー光源は「単色」と見做せるため、殆ど影響しません。
凸レンズの軸近傍の球面形状は、収差の無い理想レンズ曲面と、かなり良く一致します。従って、この領域しか使わないならば、収差の影響を心配する必要がないのです。一方で、光路をコンパクトに設置したくて、焦点距離の短いレンズに、太い直径のビームを入射させるような場合には、収差の影響が現れてくるようになります。注意してください。
実は、レーザー加工の場合には、光源に起因する「収差」が、多くの場合現れます。一般的なレンズの集光機能は、軸を中心とした回転対称性を持っています。光源から出たビームの拡がりが、同様の回転対称特性を持って呉れていれば、深刻な問題は生じません。加工用で大きな出力のレーザー光源の場合、鉛直方向のビーム拡がり角と、水平方向のビーム拡がり角に明らかな差があるものが多く見られます。この場合、ビーム断面の鉛直方向と垂直方向で、集光に伴う直径変化に違いが生じます。一方は早くに焦点を迎えてその後拡がりに転じるのに、他方はまだ焦点に向かう収束の状態にあります。その結果、例えば縦長楕円のビーム断面形状から、ほぼ円形状を経て、横長楕円形状へと変化する、ザイデルが論じた「非点収差」と同様の影響が集光部に現れます。このような集光部を加工に用いると、
・実効的な焦点深度が浅くなる
・アスペクト比の大きな加工(深掘り、貫通加工)の場合、表面と裏面(底面)で形状が異なる
などの影響が出ます。ご注意ください。
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レーザー加工において、一般的には、ワーク上への集光ビームの照射点が加工点になります。光学系や集光ビームを固定した加工装置では、加工点を変えるために、機械ステージに載せたワークを移動させます。機械ステージは、相当の重量を有していますから、停止状態から動かし始める(加速)動作と、運転状態から停止する(減速)動作では、俊敏さを期待することが出来ません。
レーザー微細加工で、加工エリアが然程広くなく、且つ、高速加工を実現したい場合は、ガルバノ・スキャナが用いられます。中学校や高校の理科で使った「電圧計」を思い出してください。印加電圧によって回転角度が比例変化するガルバノ・モータに、針をつけたものが「電圧計」、針の代りにミラーをつけたものがガルバノ・スキャナです。ガルバノ・モータへの印加電圧を制御することで、ビームの伝搬方向を変えることができます。ただ、このままですと、ガルバノ・モータへの印加電圧(ミラーの回転角度)とワーク上の集光スポットの位置との間に、比例関係は成立しません。
F-θレンズを用いると、ワーク上の集光スポットの位置と、ガルバノ・ミラー(ガルバノ・モータに取り付けたミラー)の回転角の間に比例関係が成立し、制御が容易になります。ガルバノ・スキャナのみを用いる場合もありますが、多くの場合、ガルバノ・スキャナとF-θレンズを組みにして利用します。
F-θレンズは、2種類に大別されます。テレセントリック型と、非テレセントリック型です。テレセントリック型の場合、レンズを通過したのち、集光ビームはワークに垂直に入射します。一方、非テレセントリック型は、原点を除いて集光ビームはワーク斜めに入射し、その斜入射の度合いは原点からの変位量で変化します。深掘り加工すると、非テレセントリック型のレンズを用いた場合、原点からの距離で、壁の角度が変わってしまいます。深掘りで、加工領域内で均質な壁の状態を必要とする場合は、テレセントリック型のレンズを用います。
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ガルバノ・スキャナは、工業製品にシリアル・ナンバーなどを「レーザー・マーキング」するための、代表的な光ビーム走査デバイスです。最近は、顕微鏡下で確認するような微細なマーキングも実施されているようですが、基本的にはマーキングの最重要事項は「視認性」です。目にはっきり見える大きさのマーキングを考えるとき、そのビーム走査デバイスに要求される描画分解能は、sub-mmもあれば十分です。
レーザー微細加工にマーキング用のガルバノ・スキャナが流用されますが、目的とする「加工寸法精度」に十分な描画分解能をガルバノ・スキャナが持っているかの確認が重要になります。
現在、二種類の代表的な「ガルバノ・スキャナ・ヘッド」と「制御ボード」間の通信プロトコルがあります。どちらもガルバノ・スキャナのメーカー「SCANLAB」が定めたもので、XY2-100、SL2-100と呼ばれます。XY2-100は、走査角度範囲を16bitに分割するデジタル・ガルバノ・スキャナ用の通信プロトコルです。SL2-100は、20bit用です。
ガルバノ・スキャナの走査角度範囲は±0.374 [rad] ≒ 21.4 [°]です。この範囲を16bitで分割すると、最小の角度stepは11.92 [µrad] ≒0.000683 [°]になります。20bit分割では最小の角度stepは、0.713 [µrad] ≒0.0000409 [°]になります。
ガルバノ・スキャナに組み合わせるF-θレンズの焦点距離が決まると、加工面(描画面)での分解能は、最小角度step × 焦点距離、で算出することができます。一般的なF-θレンズの焦点距離として100 [mm]を考えると、16bitのデジタル・ガルバノ・スキャナでは加工面分解能は約1 [µm]、20bitでは約0.07 [µm]になります。加工寸法精度が1[µm]の微細加工を実施するには、16bitのガルバノスキャナでは精度確保が難しくなることが分かります。20bitであれば、十分な加工面分解能を期待できます。焦点距離の短いF-θレンズを用いることで、加工面での分解能を高めることができますが、走査可能な面積が狭くなってしまうことに注意が必要です。
表中の走査可能な領域の寸法は、ガルバノ・スキャナの走査角度範囲から算出したものです。これとは別個に、F-θレンズが保証する走査可能な領域の寸法があります。用いるF-θレンズによっては走査加工な領域が狭まることがあります。
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ガルバノ・スキャナの制御ボードは、二つの役割を担っています。一つは、ワーク上の集光スポットの走査の制御、もう一つは、レーザー発振器からのパルス出力制御です。この二つが同期されることにより、所望のレーザー・マーキングが可能になります。
一般的なナノ秒Qスイッチ・パルスレーザーの場合、Qスイッチを一回動作させる(Qスイッチを焚く)と、ナノ秒パルスが一つ出力されます。レーザー発振器を単独で用いる場合は、レーザー発振器が内蔵している「時計(ファンクション・ジェネレータ)」で、所望の繰返し周波数のTTL矩形波信号を生成し、Qスイッチに与えるトリガ信号とします。外部に機械的なシャッターを置くことで、大雑把な出力制御が可能です。
ガルバノ・スキャナと組み合わせて用いる場合は、レーザー発振器のQスイッチへのトリガ信号を外部から与えます。そのための「外部トリガ入力ポート」は、BNCコネクタで、殆どのナノ秒Qスイッチ・パルスレーザーに用意されています。ガルバノ・スキャナの制御ボードが用意している、制御トリガ信号出力を、この「外部トリガ入力ポート」に入れてやることで、レーザー発振器の出力制御を、ガルバノ・スキャナの管理下に置きます。
ピコ秒、フェムト秒の発振器からのレーザー出力の、外部トリガによる制御は、良く技術を理解された方以外には、お勧めしません。
ピコ秒、フェムト秒パルス・レーザーでは、生成されるレーザー・パルスのタイミングは、シード(種)光源であるモードロック・レーザーで決まってしまっています。数十MHzに及ぶ高繰返しの種光源から、実際に出力する数百kHz~数MHzの繰返しのパルス列を、パルス・ピッカーと呼ばれるデバイスを使って、間引いて生成します。この間引きのタイミングを、ガルバノ・スキャナの制御ボードが用意するトリガ信号出力で制御する手法が示されている場合があります。然しながら、周波数を変える場合には、レーザー発振器を一旦停止する必要があったり、レーザー発振器が運転状態にある場合は、外部からの制御トリガの入力を途切れさせてはならないなど、レーザー発振器によって異なりますが、様々な制約があります。技術の理解に自信がない方は、この手法の利用を避けた方が賢明です。
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レーザー発振器の出力のトリガー制御とは、レーザー・パルスの生成のキッカケ(Trigger)を直接制御する手法でした。レーザー発振器出力制御には、もう一つ別の方法があります。「ゲート」とは文字通り「門」です。ナノ秒パルスレーザーと、ピコ秒、フェムト秒パルスレーザーでは、「ゲート」が作用する場所が異なります。
ナノ秒パルスレーザーにおける「ゲート」は、一般的には、トリガー信号の入力部分とQスイッチの間に設けられています。「ゲート」が開いているときはQスイッチにトリガー信号を渡し、閉じているときはQスイッチへのトリガー信号を遮断します。トリガー信号は、内部クロックによるものでも、外部から入力されるものでもどちらでも構いません。「ゲート」が開いているときのみ、Qスイッチが焚かれてレーザー発振器からレーザーパルスが出力されます。
ピコ秒、フェムト秒パルスレーザーにおける「ゲート」は、一般的には、発振器の出力窓の直前に置かれます。電気光学(EO)素子や音響光学(AO)素子が用いられ、高速光シャッターの働きをします。発振器内部では、所定の繰返し周波数で連続的に光パルス列が生成されており、外部からの制御信号に従って「ゲート」が開閉され、「ゲート」が開いている間のみ、レーザー発振器から外部へレーザーパルスが出力されます。
一般的には、「ゲート信号」は、TTL矩形波信号として与えられます。ガルバノ・スキャナと組み合わせて用いる場合は、ガルバノ・スキャナの制御ボードが用意している「ゲート信号出力」を、発振器の「ゲート信号入力ポート」に入れます。
ピコ秒、フェムト秒パルスレーザーにおける出力の「ゲート制御」は、直感的に理解でき、使い方を誤ったとしても、レーザー発振器本体にダメージを生じさせることは稀です。特別な理由の無い限り、ピコ秒、フェムト秒パルスレーザーにおいては、出力の「ゲート制御」の利用をお勧めします。
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デジタル・ガルバノ・スキャナを用いて描画を行うには、色々なディレイ・パラメータを調節・設定する必要があります。レーザー発振器、ガルバノ・モータ、ガルバノ制御ボード、この3つが同期動作することが、所望のマーキングの実現に繋がります。
同期を阻害する要因は、
・制御ボードから出されるレーザー制御信号(Trigger and/or Gate)のタイミングと、実際にレーザー・パルスが出射/停止されるタイミングのズレ
・制御ボードから出されるガルバノ・モータへの指示(動作開始/停止、位置)と、実際のガルバノ・モータの動作とのズレ
にあります。
レーザー・パルスの照射のタイミングの調整のために、レーザー・オン・ディレイ、レーザーオフ・ディレイが用意されています。また、実際のガルバノ・モータの動作を、制御ボードからの信号に近付けるために、マーク・ディレイ、ポリゴン・ディレイ、ジャンプ・ディレイが用意されています。これらのディレイは、実際に描画を行い、調節を繰り返します。
次回から数回にわたって、これらのディレイ・パラメータについて説明します。
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集光スポットをワーク面上の所望の場所に位置させるために、ガルバノ・モータに取付けられたミラーを回転させます。「ガルバノ・モータの回転角制御 = ワーク上の集光スポットの位置管理」と理解してください。
ワーク上の原点(ガルバノ・モータの基準角度)を始点、座標 x=10 [mm]を終点とする直線を描画するとします。時刻 t=0 にミラーを動かし始め、描画の線速度が 1 [m/s] であるならば、時刻 t [s] では x=t [m] の位置にあるように指令座標が送られます。ここで考えてみてください。ガルバノ・モータに取付けられたミラーは重さを持っています。また、時刻 t=0 までは静止しています。時刻 t=0 に 1 [m/s]の線速度で描画を始めるように制御信号を送られたとしても直ぐに指定速度で動くことはできず、指定速度に向けて加速運動を始めます。やがて指定速度に達すると、等速運動に変わります。その結果、描画を行っている時間内ではいつも、制御ボードから送られている指令座標よりも、実際の座標は遅れています。指令座標が終点に達しても、まだ実際の座標は描画の途中です。次に、実際の座標が終点に近付くと、終点で丁度止まるように、減速運動を始めます。終点を越えて描画しないように、制御ボードが自動的に減速させます。その結果、指令座標が終点に達してからある時間遅れて実際の座標が終点に達します。この時間遅れをマーク・ディレイ(Mark Delay)と呼びます。
一般的に、幾つもの描画命令を実行することで、所望のマーキングを行います。連続して実行される描画命令の間に、マーク・ディレイとして待ち時間を挿入することで、描画される直線の終点近傍の描画の欠落を防止します。
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マーク・ディレイを与えなかったり、不十分である時、描画にどのような影響が出るか 考えてみましょう。
制御ボードからガルバノ・モータに送られる指令座標とは、具体的には、電圧信号です。電圧信号に対応する角度にガルバノ・モータが回転し、結果としてワーク上の集光スポットが移動します。
ワーク上の原点を起点として、座標 x=10 [mm]を終点とする直線を描画した後、今度は逆に、座標 x=10 [mm]を起点として、原点を終点とする直線を描画するとします。先ず、原点に静止していたガルバノ・モータに、図のように時刻t=0からt=5 [ms]の間、ワーク上の集光スポットが2 [m/s]の等速走査するような制御信号を送ります。実際にはガルバノ・モータは静止状態から等速走査に至る間、加速度運動をします。従って、実際のガルバノ・モータの回転角度は時々刻々と指定される回転角度よりも遅れています。次に、座標 x=10 [mm]を起点、原点を終点とし、-2 [m/s]の等速走査するような制御信号を送ります。
マークディレイを与えない場合、復路の描画を開始した時点では、ガルバノ・モータは 2 [m/s]の速度で運動しています。復路の描画信号が与えられたことによって、減速・停止・反対方向への加速度運動、-2 [m/s]の等速運動と変化します。結果として、描画の軌跡は往路の終点に達せず、また、復路の始点は所望の位置よりも手前になってしまいます。日常使っている言葉を用いるならば、「描画の軌跡にショート・カットが生じる」と云えます。
復路の描画の為の信号が送られない限り、ガルバノ・モータは指定された終点に向かって回転し、減速し、終点で停止します。この場合「描画の軌跡にショート・カットは生じません」。
所望の描画を実現するには、制御ボードから送信される一つの描画命令による「実際のワーク上の描画」が完了してから、制御ボードから次の描画命令を送信することが鍵と云えます。
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図にあるように、原点に静止している集光スポット(ミラー、ガルバノ・モータ)を、時刻 t=0 に線速度 2 [m/s]で動かし始めるとします。また、制御ボードからトリガ信号 and/or ゲート信号を受取ると、瞬時にレーザー発振器から光パルス列が出射されるものとします。
何度も説明したように、ガルバノ・モータの回転軸、ミラーは重量を持ち、従って、静止状態から指定線速度に至るまで、加速度運動をします。図の場合であれば、線速度 0 から 2 [m/s]に向けて、時間の経過に従って線速度は次第に早くなります。
図の縦軸で考えてみましょう。座標 0 近傍では線速度はゆっくりで、座標が 100、200、…[µm]と進むと線速度は指定値に近付きます。原点(始点)に近い程線速度はゆっくりなので、一定の繰返し周波数で光パルスが照射されるならば、照射された光パルスの密度は、原点(始点)に近い程高くなります。描画結果で見ると、一定の線速度で描画された部分と比べ、原点(始点)近傍は過剰照射で、線幅は太く、場合によっては熱影響が出ています。過剰照射や熱影響を低減するには、描画命令と同時に光パルス列を出射させるのではなく、ある程度集光スポットが動き始めるのを待つのが効果があります。この待ち時間をレーザー・オン・ディレイ(Laser On Delay)と呼びます。一方で描画命令の後、光パルス列の出射までの待ち時間があまりに長いと、原点(始点)近くに描画の欠損が生じます。レーザー・オン・ディレイは、実際に描画したものを観察しながら、過剰照射・熱影響の抑制と、描画欠損の程度のバランスから決定します。
実際には、制御ボードからトリガ信号やゲート信号を発振器が受けた時刻と、実際に発振器から光パルス列が出射される時間には僅かなずれがあります。然しながら、ガルバノ・ミラーの加速時間に比べると無視できる値なので、多くのデジタル・ガルバノ・スキャナにおいて、この時間のずれは、レーザー・オン・ディレイに丸め込まれています。
また、レーザー・オン・ディレイに負の値を与えることに積極的意味を見いだせないので、多くのデジタル・ガルバノ・スキャナにおいて、正の値しか与えられないように制限が加えられています。
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レーザー・オン・ディレイは、走査開始と同時にレーザー・パルスを照射するのではなく、走査点が実際に動き始めるまで照射を遅らせるためのものでした。レーザー・オフ・ディレイは、線分の走査終了時に生じる問題を調整するものです。
制御ボードからガルバノ・モータに、時々刻々と電圧信号(座標)が送られます。線分走査の終点座標の送信と同時にレーザー・パルス照射を停止すると、その時刻の実際の走査点は(これまでに説明してきたように)指令座標よりも遅れているので、描画に欠損が生じます。描画欠損を避けるには、終点座標の電圧信号の送信と同時にレーザー・パルスの照射を停止するのではなく、実際の走査点が終点座標に達するまで照射を継続する必要があります。これが、レーザー・オフ・ディレイです。
レーザー・オフ・ディレイが十分長ければ、描画欠損は生じませんが、終点でレーザー・パルスの過剰照射となり、描画線が太くなったり、熱影響が生じたりします。レーザー・オフ・ディレイが不十分であれば、描画欠損が生じます。レーザー・オン・ディレイと同様に、レーザー・オフ・ディレイも、実際に描画したものを観察しながら、過剰照射・熱影響の抑制と、描画欠損の程度のバランスから決定します。
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レーザー・オン・ディレイ、レーザー・オフ・ディレイは、レーザー・パルスの照射のタイミングを調節するパラメータで、線分描画において、始点と終点の過剰照射の影響の抑制と、描画欠損の程度のバランスを取るように決められます。マーク・ディレイは、連続した線分の描画の軌跡にショートカットが生じることによる、描画欠損を避けるためのものでした。これら三つのディレイの間には、ある関係が成立することが実際上求められます。
「ガルバノ制御ボードからガルバノ・モータへの線分描画のための位置座標データの送信開始時刻」を基準として、レーザー・オン・ディレイが与えられます。レーザー・オフ・ディレイとマーク・ディレイの基準時刻は、「ガルバノ制御ボードからガルバノ・モータへの線分の終点座標データの送信時刻」です。連続して線分描画を行う場合、次の線分描画の開始時刻は、「マーク・ディレイの終了時刻」です。
マーク・ディレイとレーザー・オン・ディレイを足し合せた時間よりも、レーザー・オフ・ディレイが長いと、困ったことが起きます。レーザー・オフ・ディレイが効いている間に、レーザー・オン・ディレイが始まり、更に終了します。レーザー・オン・ディレイの終了とは、レーザー・パルス照射が始まることです。この後で、レーザー・オフ・ディレイが終了を迎えると、レーザー・パルス照射が停止されます。
このような不具合を避けるために、
マーク・ディレイ + レーザー・オン・ディレイ > レーザー・オフ・ディレイ
の関係を守る必要があります。
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図に描かれている五角形は、「ポリゴン」を代表しています。ポリゴンとは多角形であり、ガルバノ・スキャナは、連続した線分の集まりと認識し、連続した線分の接続点において「レーザー・オン・ディレイ」と「レーザー・オフ・ディレイ」を挿入しません。また、独立した線分の終点で挿入される「マーク・ディレイ」の代りに、連続した線分の接続点では「ポリゴン・ディレイ」が挿入されます。
「ポリゴン」のコマンドを用いて多角形描画を指定したときのみ、ガルバノ・スキャナは当該図形をポリゴンと見做します。「ライン」のコマンドを複数回使って同じ多角形を描画できますが、この場合、ガルバノ・スキャナは線分としか認識せず、線分の始点に「レーザー・オン・ディレイ」を、線分の終点に「マーク・ディレイ」「レーザー・オフ・ディレイ」を、先の描画の終点と、次の描画の始点の間に、「ジャンプ・ディレイ」が挿入されます。ご注意ください。
さて、図のような五角形と一つの直線から成るマーキングでは、「レーザー・オン・ディレイ」は、「ポリゴン」の始点と、線分の始点に挿入されます。
「レーザー・オン・ディレイ」を、実際に描画しながら調整します。その際、「マーク・ディレイ」「ポリゴン・ディレイ」「ジャンプ・ディレイ」には十分長い値を入れておきます。これらのディレイは、短い場合に「描画欠損」「ショートカット」「描画始点での振動」が現れますが、長い場合は無駄な待ち時間となる以外の描画上の問題は生じません。
何回か「レーザー・オン・ディレイ」の値を変化させながら、描画欠損と過剰照射ダメージのバランスを見て、最適値を決めます。
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レーザー・オン・ディレイの調整が良好に終わっているものとします。
レーザー・オフ・ディレイの調整は、レーザー・オン・ディレイの調整と、基本的には同じです。「マーク・ディレイ」「ポリゴン・ディレイ」「ジャンプ・ディレイ」には十分長い値を入れておきます。
何回か「レーザー・オフ・ディレイ」の値を変化させながら、描画欠損と過剰照射ダメージのバランスを見て、最適値を決めます。
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先にレーザー・オン・ディレイ、レーザー・オフ・ディレイを最適化しておきます。
マーク・ディレイでは、その値が適正値よりも短い場合は、描画欠損が生じます。適正値よりも長くても、レーザー・オフ・ディレイによって過剰照射が抑制されているので、熱影響などは現れません。何もせずに待っている時間となるだけです。
描画図形が少ない数の線分から成っているのであれば、実際上の問題は生じません。一方で、描画図形が大量の線分から成っているのであれば、この無駄に待っている時間が「塵と積って」描画に時間を要するようになります。面倒がらずに、このパラメータを最適化しておくことをお勧めします。
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先にレーザー・オン・ディレイ、レーザー・オフ・ディレイを最適化しておきます。
ポリゴンの描画の場合には、レーザー・オン・ディレイとレーザー・オフ・ディレイは、ポリゴンの描き始めと、描き終りにしか働きません。ポリゴンの角の描画においては、レーザーは照射され続けています。マーク・ディレイでは、適正値よりも長い場合には時間が無駄になるだけで、ダメージなどの問題は生じませんでしたが、ポリゴン・ディレイでは過剰照射によるダメージが生じます。
ポリゴン・ディレイが適正値よりも短い場合とは、角に到達する前に次の線分の描画指令が出されることであり、それにより描画軌跡の「ショート・カット」が生じます。適正値よりも長い場合とは、角に到達したのに、次の線分の描画指令が出されないことであり、角に留まったままでレーザー・パルスが過剰に照射されます。
何回かポリゴン・ディレイの値を変化させながら、「ショート・カット」と過剰照射ダメージのバランスを見て、最適値を決めます。
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先にレーザー・オン・ディレイ、レーザー・オフ・ディレイを最適化しておきます。
デジタル・ガルバノスキャナの基本動作の一つに、ジャンプがあります。簡単に云えば、前の描画の終点から次の描画の始点まで、描画を伴わずに(レーザー・パルスを照射せずに)高速で移動します。描画を伴わない動作ですから、可能な限り短時間で完了させたいものです。ガルバノ・ミラーを高速で動作させ、所望の位置で停止させます。すると、ガルバノ・ミラーは停止指示位置を中心として減衰振動します。減衰振動の最中に、レーザー・パルスの照射を開始すると、描画開始部分の軌跡に減衰振動が現れてしまいます。ジャンプ・ディレイとは、ガルバノ・ミラーの振動が描画に支障がない程度にまで減衰するのに要する、ジャンプの後に次の描画を開始するまでの待ち時間です。
ジャンプ・ディレイが最適値よりも短い場合、ガルバノ・ミラーの振動の減衰が十分でなく、次の描画開始部に、その影響が現れます。一方で、最適値よりも長い場合は、描画にこれと云った影響は現れませんが、マーク・ディレイと同様に無駄に待つ時間となり、トータルとしての描画時間が増えてしまいます。面倒がらずに、最適化されることをお勧めします。
既に理解されている方がいらっしゃると思いますが、ジャンプ速度にどの程度の値を与えるかで、ジャンプ・ディレイの最適値は変化します。ジャンプ動作とジャンプ・ディレイの和が最短となるのはどのような場合か検討することが、ガルバノ・スキャナを用いた加工のスループット向上の第一歩となります。
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超短パルスレーザーのパルス幅をどのようにして狭くしているかを理解するには、モードロックを知る必要があります。
パルス化の方法は幾つかあります。
最も一般的な方法は、連続波から切り出す方法です。例えば、円板にスリットを切っておき(チョッパー)、この円板を光路中に置いて回します。スリットが光路と一致している間光は円板を通過し、それ以外の時は円板で遮られます。
次の方法は、励起或は誘導放出を、間欠的に行う方法です。励起を間欠的に行うか、誘導放出を間欠的に行うかの違いは、Qスイッチ動作の無し/有りの違いと解釈して良いでしょう。パルスの発振周期は、励起周期に一致します。パルス幅は、反転分布・誘導放出の状態変化で決まります。Qスイッチ動作が無い場合、反転分布形成と誘導放出が並行して起こります。Qスイッチ動作をさせる場合は、先に高い反転分布を形成させておき、次いで誘導放出を起させます。
更に短いパルス幅を得る方法が、モードロックです。これを理解するために、光の伝搬を特徴付けるパラメータを復習しましょう。
波数 ki = 2π / λi、
角周波数 ωi= 2πc / λi
レーザー媒質の自然放出による発光波長は、広がりを持っています。共振器が決まれば、その中で存在可能な定在波(とその波長)が決まります。これを縦モードと呼びます。縦単一モードのレーザーでは、幾つかの工夫によって、一つの縦モードしか出力されません。縦単一モードでないレーザー発振器から出力される光は、幾つもの縦モードが重ね合わされています。
普段は目立った役割を果たしていないパラメータに、位相θiがあります。誘導放出において、種光の波長、波数ベクトル(伝搬方向)、位相は、誘導放出光において保存されます。縦単一でないレーザーの場合、ほんの僅かずつ波長の異なる縦モードの存在が許され、そのそれぞれで種光が異なります。従って、基本的には縦モード毎に位相は異なります。モードロックの手法とは、異なる縦モード間で位相を揃えるものです。 (続く)
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図中に幾つもの波(光電場)が描かれています。これはNd3+の自然放出光が波長の拡がりを持っていること、与えられた光共振器の中でその波長拡がりの中の飛び飛びの波長が定在波として存在できることを示しています。
一般的なパルスレーザーの出力ビームを左側に、モードロックレーザーを右側に描いています。どちらもNd3+の放出光の中の、僅かずつ波長の異なる縦モードの重ね合わせから成り立っています。
左側の一般的なパルスレーザーでは、各縦モードはランダムな位相を持っています。従って、例えば時間 0 [fs]のところを縦に重ね合わせてやると、足し引きした結果は然程の大きさではない電場振幅にしかなりません。然しながら一方でこれがQ-swパルスであるならば、然程の大きさではない電場振幅が十~数十 [ns]の時間に渡って存在します。
右側のモードロックレーザーでは、ある時刻で、全ての許容される縦モードの位相を揃えます。図ではその時刻を、時間 0 [fs]にしてあります。図に示した時間範囲では、各縦モードの位相のずれは僅かでしかありません。従って、この時間範囲では重ね合わせた電場振幅は非常に大きくなります。一方で、時間範囲を広くとってやると、波長差が大きい程、縦モード間の位相差が大きくなってきて、足し合せの結果としての合成電場振幅は急激に小さくなっていきます。(続く)
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光の持つエネルギーは、その光の電場振幅の二乗に比例します。
先に図示した、光共振器の中で定在を許された波長の光電場の振幅を足し合せたものを上段に示します。左側が一般的なレーザー(位相制御がされていない)のものであり、右側がモードロックレーザーのものです。下段に電場振幅を二乗したものを示します。これが光エネルギーに相当します。
計算に用いた定在波の数が少ないので、一般のレーザーの出力は時間変動があるようになっていますが、実際は足し合せるべき定在波の数が極めて多く、従って、任意の位相の光電場の振幅の足し合せ(平均)の時間変化は緩やかになります。
モードロックレーザーの出力光強度を示す図は、エネルギーが位相が合わせられた時間近傍にのみ集中していることを示しています。これが超短パルスです。位相を揃えた時間から離れるに従い、打ち消し合いが強くなり、光強度は実質的に零になります。
自然放出による発光波長幅がより広いレーザー媒質を選ぶと、結果としてより短いパルス幅が得られます。
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「超短パルスレーザー加工は非熱加工であるので、熱について考慮する必要はない」と思っておられる方が多いのですが、実はそうではありません。(1) レーザー加工とは、エネルギーを用いた加工です。 (2) エネルギーの最終形態は「熱」です。 (3) 加工のために投入したエネルギーは、加工に完全消費されることはなく、一部は加工部に残り「熱」になります。
レーザーパルスを照射するごとに、加工部に発生する熱が、次のレーザーパルス照射までの間にどのように移動するのか、その蓄積の結果として、加工部近傍の温度がどのように変化するのかを理解すると、熱影響をどのようにして抑制したらよいかを検討することができるようになります。
材料中の熱の移動は、導体中の電流と同じように考えることができます。熱の移動(熱流)は、材料の熱伝導率、熱の移動する経路の断面積、移動の始点と終点の温度差に比例します。また、移動の始点と終点の距離に反比例します。
レーザー加工ではこれに加えて、熱流は「材料厚みに比例する」を覚えておくのが良いでしょう。厚い材料の加工では殆ど気にすることはありませんが、薄い材料では熱影響が出やすくなります。材料厚みが薄くなることで、許される熱流が少なくなり、加工部に熱が蓄積されやすくなることが主因です。
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レーザー加工において熱ダメージが出やすいものは、融点が低い材料と思いがちです。確かに多くのレーザー加工従事者にとってアルミは嫌な材料で、そんなアルミの融点は他の金属材料に比べてかなり低い値です。ところが、超短パルスレーザー加工(における最適加工条件の考え方を理解された)従事者にとっては、アルミは然程難しい材料ではありません。
ナノ秒よりも長いパルスを用いて熱加工を行う場合、加工部のみにエネルギーを集中させて溶融させたいのですが、アルミは熱伝導率が高く、エネルギーを投入するそばからそれを熱として周囲に拡散させてしまいます。従ってなかなか溶融に至らず、加えて溶融に至るとその溶融範囲は思ったよりも広くなってしまっています。
超短パルスレーザーを用いてアブレーション加工を行う場合は、熱は邪魔者です。投入したエネルギーは、全てを加工で消費することが出来ず、一部が加工部に残り熱になります。しかし、アルミは高い熱伝導率を持っているので、その熱を周囲に拡散させてしまい、パルス照射を繰り返しても熱の蓄積による加工部の温度上昇は緩やかです。
材料の熱的特性から、加工において何が生じるかについて、割と多くのことを予想することができます。
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実用技術塾をお読み下さって、有難うございます。
去年(2015年)の7月に開講してから、15カ月が過ぎました。良く考えもせずに始めたものですから、続けていくうちに、直したい処や構成を変えたい処が増えてきて、それらに目を瞑って解説を先に進めることがストレスになってきました。
誠に勝手ですが「実用技術塾」を閉じ、新たに「新実用技術塾」を開講させてください。
これまでは毎月1日、11日、21日に書込みを行ってきましたが、これからは毎日曜日に書込みを行う予定です。
尚、New Seminar on Practical Technology(英語版の新実用技術塾)は、英語版のFacebook pageで既に開講しています。ご興味があれば、ご覧ください。
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